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第9章 【深海の龍王】

第9章3 【海の底】

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ネイ「ふぁ~ぁ~......なんで、私がこんなことを......」

ヒカリ「肝心な時に寝てるのが悪いんでしょ。全く、あんたが目を覚ましてたら、きっとこんな事にはならなかったわ」

ネイ「そう言われましても......」

ヒカリ「つべこべ言わずにセリカの足跡を追いなさい」

ネイ「は~い」

 何よそのやる気のない返事は。

 こちとら、敵の正体も掴めないままにセリカを連れ去られて、若干不機嫌になってるって言うのに。

 シアラが作り出した水の球体と、それを補強するためのネイの無尽蔵の魔法。この2つを組み合わせて、私達はセリカの後を追っている。と言っても、追えているのはネイだけ。なんでも、人によって違うマナの足跡を辿ればすぐに追いつくんだとさ。後で自由研究の項目に入れとかなきゃ。

グリード「ったく、本当になんだったんだァ、あのバケモンは」

ヴェルド「あんだけデケェと、身が引き締まってて美味そうだな」

エフィ「え!?カニさんを食べちゃうんですか!?」

 アンタら、手も足も出なかったくせに、よくそんなお気楽でいられるわよね。まあいいけど。

ヒカリ「ネイ、セリカの気配は?」

ネイ「うーん......まだまだ微妙ですね......ん?なんか、別の反応が近づいてきます」

 別の反応?まさか、あのカニが追い返そうとやって来たんじゃ......いや、それだとセリカもやって来ることになるし、今ネイは「まだまだ微妙」と言ったから、その線はないか......

 もしかしたら、カニの仲間達って線もあるし、一応銃にメモリを入れて構えておきましょうか。

ネイ「反応、横を通り過ぎて......ってヴァル!?」

 みんなでネイが見ていた方向を見ると、そこにはぷかぷかと漂っているヴァルの姿があった。

ヴェルド「何やってんだあのバカ」

ヒカリ「......」

 恐らく、途中で安全装置が働いたのね。万が一の時のために、マナの貯蓄が無くなりかけたら、使用者の意識を奪って海面に上昇させるようにしてたけど、こんなところで役に立つとは......

 我ながら、なんてものを作ったのだろうとしみじみ思う。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴァル「あ゛ー!死ぬかと思った!マジでなんなんだ?このへんてこりんな機械は」

ヒカリ「あんたが人の話を聞かずに使うからこんな事になるんでしょうが」

グリード「流石に、今回ばかりはお前を擁護できねぇなァ」

ヴェルド「お前、確実にバカだろ」

シアラ「バカですね」

エフィ「あはは......」

 ったく、どいつもこいつもバカバカ言いやがって、いや、俺が人の話聞かずに無様を晒したのが悪いんだよ!?そんくらい分かってるわ!

 仕方ねぇだろ。仲間を奪われたんなら、1秒でも早く助けに行こうと思うのが筋だろ。つまり、俺の行動は何も間違っちゃいねぇんだよ!

ヒカリ「で、ネイそっちはどう?」

 あ、ネイいたんだ。ネイの声ーーヒカリと同じだけどーーがしねぇから、てっきり置いてこられたのかと思ってた。

ネイ「......」

 一瞬だけ俺と目が合って、次の瞬間にはぷいと顔を背けられた。

ヴァル「あれ?俺なんか嫌われるようなことでもした?」

ネイ「なんでもありません......」

 えぇ......顔を背けたままにそう言われてもな、俺は納得できねぇ......マジでなんかした?恥晒しが原因か!?

ヒカリ「いいから、ネイはセリカの後を追って」

ネイ「......正面、なんか不思議な空間があります」

ヒカリ「不思議な?どんなの?」

ネイ「......巨大な空気の層?いや、街?」

 街?深海に?んなわけねぇだろ。

 一応、正面の方を見てみるが、真っ暗な空間が続くだけで、特にこれといって何も無い。だって深海だもんな。何もねぇよな。

ネイ「......ぶつかる......」

ヒカリ「は!?」

ネイ「セリカの気配、その空間からする。そして、もうそろそろぶつかる......」

ヒカリ「ぶつかるって、ちょっと!」

 突然のことに全員が慌てだしたが、もう時既に遅し。確かに何かにぶつかったような感じがして、俺達は全員空から地上に真っ逆さまとなった。おい、深海だぞ?

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 うー......どうすればいいんだろ?下手に動いたら殺されかねないしなぁ。変に危険の芽を育むのはよくないし、でもずっとこうして寝ているのもあれだしなぁ......

 あの、龍人の2人組みーー片方男で片方女であることまで見抜いたーーはずーっとよく分からない話をし続けているし、もうどうしたらいいんだろ......助けてヒカリん、ネイりん。

 藁どころか神に縋っちゃってるけど別にいいよね?私達の仲間に神様いるんだし、頼っちゃっても問題ないはずだよね?

「そろそろ意識ははっきりしてきたかい?プリンセス」

 急に私の顔を覗き込むように屈んできてそう言ってくる。

 だからその呼び方やめてって、笑いそうになっちゃうじゃん。

 さてどうする?このまま意識が朦朧とした状態を演じ続ける?でも、そうしたところでこの人達離しそうにないもんなぁ。

「......」

「どうやら、意識ははっきりとしてるみたいだね。ならよかったよ」

 なんで分かったのよぉー!!!まだ様子見しようと薄ら目を閉じてたのにぃー!

「プリンセス、僕は君を傷つけるつもりはない。だから、その下手な演技をやめて、普通に話そう」

 演技が見抜かれてたぁーーーー!

「......あんた達、何者?どうして私を捕まえたの」

 もうこうなったら強気な態度で聞いてやるわよ!もう、私の作戦って尽く潰れていく気がする......

「......!そうか、そうだよね。うん。僕の名前はライト。見ての通り、マリン族の龍人さ」

 マリン......?永龍じゃなくて?

 呼び方の問題かな......?まあ、どうでもいいと思うけど。

「こっちは、僕の妹であり、僕の秘書を務めるレイアだ」

「どうも。王子は自分勝手に話を進める癖がございますが、どうか暖かい目でよろしくお願いします」

「はい?」

「さてさて、君が目を覚ましたのなら、もう本題に入ってしまおう。プリンセス、僕と結婚しよう」

 ......

 ......

 ......

 ちょっと待って。今のって笑うべきところ?

「君は僕のプリンセスとして相応しき乙女だ!地上に観測用の島を建てたが、一向に人が近づいてこない。しかし、そこに突如として現れた美しき羽!美しき髪!そして、美を形にしたかのような美しき体の持ち主が現れた!」

 それ、見た目だけで人を判断してるよね?ってか、その話からして、絶対ネイりんの事だよね!?私、羽生えてないし、髪も地味な茶髪だし、体だって、最近太りだしたかな?ってダイエット始めたくらいだし!自分で言ってて、なんか悲しくなるよ!

「ん?あれ、見間違いかな?あの時は綺麗な羽が見えて気がするのだが......」

「恐らく、あれは人間界で言うところの水着でございます。恐らく、飾りを外した姿ということでしょう」

「なるほど。まあ、美しいことに変わりはない」

 おいこらちょっと待てや。私、どう考えても人間違いで連れてこられたよね?人間違いってことを証明したら帰してくれるかな?いや、なんかそんな話が通じなさそうだし、ネイりんを売ることになっちゃう......

 ダークソウルとの戦いの時、みんなは身を呈して私を守ってくれたのに、ここで自分可愛さに仲間を売ることなんてできない。というか、やったら何かしらの天罰で死にそうな気がする......

「よし!問題はない!さあ!今すぐに式を挙げよう!僕達の未来は深海のように輝いてるぞ!」

 いや、深海って思いっきり真っ暗なんですけど!ってか、この空間の周囲も真っ暗な海なんだけど!?

 あーもう、めちゃくちゃだよ。なんでこんな事になるかなぁ。ただのバカンス気分で行ったつもりだったのに、やっぱ私ってくじ運悪い?

 どうにかして逃げ出したところで、周りが海っていうのが、強制的に逃げる手段を潰してる気がする。オマケに、精霊の鍵も握ってたカグヤの分しかないし、不安しか残らない......。

「さあ!僕達の輝かしい未来のために、この空間を理想郷へと変えようではないか!」

「え!ちょっ......あわわわわわわぁぁぁぁ!」

 突然あたりが光始め、私はその光に包み込まれた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴァル「あぁ!?あぁ!あぁぁぁぁぁ!?」

ネイ「テレキネシス」

 撃墜直前でネイの魔法でどうにか死なずに済んだ。おい、なんで深海なのに重力働いてんだよ、おかしいだろ。

ヒカリ「全員無事みたいね」

ヴェルド「なんとかな......」

シアラ「流石のシアラも、今回ばかりはヴェルド様の後を追う形になるかと思いました」

 えーっと、ネイ、ヒカリ、ヴェルド、シアラ、エフィ、グリード。よし、全員いるな。いや、セリカいなかったわ。

グリード「なんだァ?この空間」

 見上げた空には、俺達の世界じゃ到底見ることなんてないデカい建物と、とても木造には見えない変な形の建物がたくさん広がっていた。

 足元は凸凹としてねぇし、塗装されたにしては平らすぎる灰色の地面がある。恐らくは道であるここの端っこと中央には白い線が書かれてるし、なんなんだ?この空間。

エフィ「不思議な場所ですね......あんなに大きな建物なのに、よくその形を保っていられますね」

グリード「全くだァ。あんなデカくて細長ぇもん建てようとすりゃァ、すぐ崩れるに決まってんのになァ」

 俺達が知る限りのデカい建物なんて、王都とか、クロム達が住んでる城くらいのもんだ。でも、あれは横に長くて上に行くほどトンガリ帽子のように小さくなっている。だが、ここらに立ち並ぶ建造物は、全て細長く、形を途中で変えることのないままに建ち並んでいる。

ヒカリ「ねぇ、ネイ。ここってもしかして......」

ネイ「トーキョーですかね」

ヴァル「トーキョー?なんだそりゃ?」

 聞いた事のねぇ地名だ。それがこの場所なのか?

ヒカリ「私も、詳しいことは知らないんだけど、数ある世界の中で、唯一他の世界との繋がりが一切ない世界があるっていうのは、世界の書庫ワールドアーカイブで知ることが出来てるのよ」

 唯一繋がりのない世界か......多分だが、ヒカリの転移術では行くことができないって意味だろう。

ヒカリ「世界の名前は決まってないんだけどね、その世界には私達の世界と同じように各地に名前が付いている。ここは、多分トーキョーと呼ばれる場所だと思う」

ヴァル「へー......分っかんねぇ」

ヴェルド「同じく」

ヒカリ「書物でしか見たことがないから、本当にこんな世界があるのか疑問に思ってたけど、まさか本当にこの目で見ちゃうとはねぇ。これは研究の余地ありかな」

グリード「どうでもいいがァ、この世界にセリカがいるのかァ?」

 そうだったそうだった。危ね、すっかり目的を忘れちまうところだった。

ネイ「反応は確かにあります。位置まで特定できますけど、今の状態で行きますか?」

 問いかけるようにこちらの方向を向いてくるが、答えなんて1つに決まってるだろ。

ヴァル「もちろん行く!1秒だって、正体の分からねぇ奴らにセリカを預けたくねぇ!」

ヴェルド「おうよ!俺も賛成だ!」

シアラ「ならシアラも!」

ヒカリ「私は反対ね」

「「「 は? 」」」

ヒカリ「場所が分かってるって言っても、今行ったところで勝てる見込みはないわ」

ヴァル「何でだよ。全員揃ってんだし、敵だってそんなーー」

ヒカリ「敵の全部隊を見たって言うの?」

ヴァル「っ......」

ヒカリ「あんなカニ1匹に苦戦したのよ。敵があれだけだと考えるのは得策じゃないし、まずは敵戦力を探るところから始めるべきだと思うわ。それに」

ヴァル「それに?」

ヒカリ「主力であるネイがあんな様子だからね。今行っても、途中でお荷物抱えることになるわよ」

 ネイが目を擦って必死に眠気に抗っているのが伺える。そりゃそうだよな。15時間は必要な睡眠時間を、無理矢理叩き起されてここまで魔法を使い続けたんだもんな。

ヒカリ「とりあえず、籠城場所でも探しましょうかね。ネイ、あともう少しだけ頑張りなさい」

ネイ「ふぁぁい」
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