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第10章-Ⅰ 【Campo proelii ex mortuis】
第10章4 【tribulatio】
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世界はある日、ある時を起点にして180度様変わりした。
そのうち歴史を変えられる。そんな事、予測はできていたことだ。でも、なんでそんな事が予測できたのかは分からない。そもそも、なんで歴史を変えようとする者が現れるのかさえ分からない。
ネイ「世界は常に意地悪で、私に試練を与えてくる......怠惰に生きてる罰でも回ってきたのかな......」
「ハハ、随分と面白いことを言うねぇ」
ネイ「っ......!」
誰だ......!
「すまない。つい聞こえてきた話が、随分と変わった内容だったから」
振り返りみれば、こんな寒空の中、木陰にポツンと設置されたベンチに座っている男の人がこちらを見て笑っていた。
ネイ「......こんな亜人に声をかけるとは、中々の物好きと見られますね」
「いや、そんなことはないよ。亜人だとか人間だとか、僕にとってはチリにもならない問題だ」
ネイ「......」
何かを企んでいる。そんな目付きであることが分かる。いくら力が使えなくなってても、長年積上げてきた経験から、ある程度の目利きはできるようだ。
「警戒......してるようだね。まあ、それもそうか。突然、こんなオッサンに声をかけられたら、警戒しない方がおかしい。だけど、安心してくれ」
ネイ「何を安心しろと......?」
「あぁ......なるほど」
ネイ「とりあえず、名前を名乗るだけでもした方がいいんじゃないですか。その上で、怪しければ私はあなたを斬りますけど」
「野蛮だねぇ......」
どうせ誰も見ていない。剣を突きつけたところで、何も問題はない。
「......僕の名前はアルト。前は医者をやっていたが、今はしがないカウンセラーだ」
ネイ「カウン......セラー......?」
アルト「あまり聞かない職業だね。まあ、ざっくり言うとお悩み相談役、みたいなところかな?」
......私は、そっと剣を鞘に戻して男の話に耳を傾ける。こいつは、剣を向けてやるほどのものでもないと判断したからだ。
アルト「......まあ、僕が怪しいことに変わりはないが、僕は君に悩みありと見たんだ。僕でよければ、話に乗る。これでも、職業通りにお悩みを解決することにかけてはプロフェッショナルだからね」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
アルト「なるほど。歴史が変わったか......これまた難しい話だね」
ネイ「こんな根拠の欠片もない話を聞いてて楽しいですか?」
アルト「確かに根拠のない話だ。でも、僕は信じるよ」
......随分と変わった人だな。今の話を聞いて、「信じる」なんて言葉はまず出てこない。普通、「有り得ない」とか、「面白い作り話だ」くらいの感想を飛ばしてくると踏んでいたんだけど。
アルト「カウンセラーの仕事は、患者の悩みを解決することだ。だから、聞いた話を有り得ないとかの言葉で否定してはならない。まず、全面的に信じる。そして、患者と真摯に向き合う。まあ、適当にお話してるだけのようなもんだけどね。でも、それで救われる人だっている。君はそのタイプになれるかな?」
ネイ「......で、今の話を聞いての正直な感想は?」
アルト「おっと......あぁそうか。君は偽りの言葉はいらないってタイプか」
ネイ「いえ。さっさと結論出せバカヤロータイプです」
アルト「......参ったな。これは初めてのタイプだ」
魔女を簡単に口説けると思わないでくださいよ。これでも、言葉巧みに相手を操るのは得意な方ですから。この人の腕前が如何なものか、しっかりと見極めてやろうじゃないですか。
アルト「うーん、正直に言うと、歴史が改編されて、皆が自分のことを忘れてしまった、という状態はイレギュラー中のイレギュラーだ。ただ、そんな相手に言えること、と言ったら......」
ネイ「......」
アルト「あー......ハハッ......」
ネイ「......ダメみたいですね」
アルト「待っ、待ってくれ!まだ、答えを考えている途中だから!」
立ち去ろうとした私を引き止めるように手を伸ばしてくるが、そんな手は振りほどいてさっさと立ち去る。
カウンセラーとは名ばかりだ。どうせ、解ける問題なんて簡単なところだけ。私のような捻りに捻りすぎた問題は解くことが出来ないんだ。
......無駄な時間を食っちゃったな。そろそろヴァルも探し出してる頃だろう。戻ろ。
アルト「ま、待ってくれ!」
ネイ「まだ何か用ですか。もうめんどくさいんですけど」
アルト「き、君の悩みを解決出来るかもしれない場所がある!」
歴史改編によって存在を消された人を解決する場所なんてあると思いませんけどね。
アルト「創真王国だ!あそこに、僕の師がいる。きっと、あの人ならば君の悩みを解決してくれることだろう!」
創真王国か......興味ないね。
「貴様ら!そこで何をしている!」
帰ろうかと思って階段を上ろうとしたら先に騎士が立っていた。こんな寒空の中ご苦労様です。
「......っ!亜人!」
ネイ「......!」
いきなり小刀を投げつけられた。
そういや、亜人が全体的に嫌われている時間軸だったな。さっさとおさらばすべき......
「亜人めがぁー!」
ネイ「......っ!」
体が思うように動かない。ただの騎士の攻撃なのに、左腕にかすり傷を付けさせてしまった。
それに、鞘から抜いた剣も心做しか重く感じてしまう。歴史の改編で、体が弱まったとでもいうのか。いや、今まで魔法で補っていた部分が、魔法の使用不可によって補えなくなっただけだ。
アルト「ちょ、ちょっと騎士さんやめてください!彼女は僕に危害を加えようとはしていません!」
「何を言う!亜人は即刺殺!我が国はそういう法になっているのだ!」
まあ、なんとも面白おかしな法律に変わったなぁ。あのゼイラ王女とアトラス王がそんなことを考えるわけないし、国のトップも変わっている可能性があると見た。
ただちょっとのかすり傷なのに、血が吹きでている左腕が物凄く痛い。今まで、これ以上の怪我を負ったことはあったけど、こんな痛みを感じることは無かったのに......
今までの圧倒的な治癒力も消えている。どこから変えれば私をここまで弱体化できるのか。この作戦考えた人、絶対天才だ。圧倒的なまでに私を潰すことだけを考えているように見える。
「セヤァァッ!」
動けない私に対し、真っ直ぐに鉄の刃が落とされる。避けることは出来るけど、このまま行けば左腕が肩からもがれる。
アルト「サムニウム・ホール!」
騎士の攻撃に、思わず目を瞑ったけど、攻撃が私に当たることはなかった。その代わり、しゃがんでいる私の少し斜め後ろに剣が落ちていくのが見えたけど。
アルト「ふぅ......危ないところだった」
ネイ「......寝てる?」
さっきまでの勢いはどこかへと消え失せ、騎士はムカつくほどに幸せそうな顔で寝ていた。
アルト「睡眠魔法の1種さ。と言っても、使えるのは僕くらいのもんだけどね。良い夢を見させる魔法って言ったところかな?」
ネイ「......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ネイ「っ痛っ!」
アルト「すまない。あまり、こういった治療には慣れてなくてね」
ネイ「夢を見させる魔法が使えるなら、治癒術の習得くらい簡単でしょう」
アルト「それが、僕はなぜかこれ以外の魔法が使えないんだ。昔から色々と試そうとしたが、誰でも覚えれば使えるっていう初期魔法すら使えない。これがなぜなのか、元神様の君には分かるかな」
ネイ「さぁ?まあ、強いて言うなら、気持ちの持ち方って言ったところでしょうか」
アルト「なるほど、気持ちねぇ......っと、これでもう大丈夫だ」
随分と古典的な治療だけど、白い包帯に巻かれた左腕の傷口からは、もう血が出ていない。こんなご時世で消毒液を使われることになるとは......まあ、痛みももう引いてるし、血もそんなに出てないからそれでいいか。
アルト「君、剣を持つ手が震えていたし、マナも一切感じないが、それも歴史改編の影響だって言うのかい?」
ネイ「えぇ。多分そうですよ。こんなことさえなければ、あの程度の人間、私の敵ではないというのに......」
アルト「ハハッ......この世界では、君は今まで通りの感覚で生きれば、たくさん苦労することになるだろう」
ネイ「そんなの、言われなくたって分かっていますう!」
アルト「ハハハ。僕に君の悩みを解決することは難しい。だけど、こうして僕と話して、何か変われたかな?」
ネイ「......っ」
確かに、この人と話していて、少し楽になれた気はする......。何も知らないくせに、何も分からないくせに、それでも私を分かろうとしてくれた。こんな人、ヴァル以来の出現だ。
アルト「じゃあ、僕はこの辺でおさらばとするよ。丁度、君のお友達さんらしき人達も来たみたいだしね」
アルトの見上げた方を向けば、そこにはヴァル達が私の姿を求めて探し回っている様子が窺えた。
アルト「じゃあね。僕はしばらくこの街にいるから、見かけたら声でもかけてくれ」
ネイ「......また、今度」
アルトはそのまま平凡な笑みを浮かべて立ち去り、代わりにこちらに気づいたヴァル達がやって来た。
ヴァル「誰だ?あの男」
ネイ「うーんっと、不思議な人です」
ヴァル「そうか......そうか?」
ネイ「ちょっと心が落ち着きました。さあ、こんな状況になった原因を突き止めてやろうじゃないですか」
ヴァル「......おう、そうだな!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セリカ「カウン......セラー?」
ネイ「ええ。そんな男の人と話をしてました」
ヴァル「人間不信なお前が、見知らぬ異性と会話か......」
ネイ「何が言いたいんですか?」
ヴァル「いや、お前も成長したなぁって」
ヴェルド「今そういうこと話すのは、いつでも出来るんだから後にしようぜ。今は、その亜人をどうするかだろ。知っての通り、お前らの認識と違って、俺達は亜人を毛嫌いしている。突然よく分からん亜人が俺達の前に現れて、さも仲間かのように振る舞われたら不快に思う奴もいるだろう。現に俺は不快に思ってる」
おいコラ、親友だから協力するとかいった話はどこいった。やっぱ、お前のイケメン面ぶっ壊した方がいいか?俺の拳が炎を出し始める前に決めやがれ。
って、今そんなことしてる場合じゃねぇんだよ。余計なことに思考を取らせんな。
フウロ「まあ、ヴェルドが言うことはあながち間違いではないな。お前達の認識と私達の認識はズレている。今、私達の記憶が書き換えられる前までの世界と、この世界とでは何もかもが違う。まず、お前達の言う国王、アトラスだが、そんな国王は10年ほど前に死んでいる。ゼイラ王女も、不幸な事故に遭われて、命を落としている」
ヴァル「まさか、あんな龍との戦いがあってもピンピンしてた2人がな......」
フウロ「それ以外にも、まず遊魔病という、恐ろしい病が流行っているし、邪龍教は生き残っているし、ヒカリは遺体が見つかっている」
ヴァル「......!」
ネイ「......!」
フウロ「もっと前の時間から変わっているが、多分、根本的に変わってしまったのはそこが原因だろう。ネイは、ヒカリが生き残り、記憶を消されて生まれた人格なのだろう?ならば、死んでしまった人間からは別人格など生まれやしないし、その体もヒカリのものだったはずだから、この場にあることも有り得ない」
ヒカリが死んでいるとは思わなかった。いや、確かに死んだと思っていた時期はあったが、それでも遺体が見つからなかったせいで、その死を認めることが出来なかった。
事実、ヒカリはネイという形で生き残り、消された記憶も戻ったから、正式に俺達の仲間として平凡な日常を送ることになった。
ヴァル「そういや、ヒカリは死んでいるって事になってるが、もしかしたら、俺達と同じように、改編前の記憶を保持したままどこかを彷徨いてる可能性ってないのか?」
ネイ「あれでも、一応は私と同じくらいの権限はありますし、どこかその辺にいる可能性はありますね。ですが、遺体があるって事を考えると、もしかしたら......」
ヴァル「改編に呑まれてしまった......かもしれないってことか」
「「「 ...... 」」」
まあ、これでネイが弱体化した理由と存在が忘れられた経緯までが分かったな。分かったところで何にもならんが。
ヴァル「とりあえずは、俺達とお前達とでのズレは認識できたってことでいいのか?」
フウロ「多分、今すぐに必要なズレは確認できただろう。ただ、ヒカリが生きてるとはな......お前達の話を聞く限り、明らかに変えられる前の世界の方が良いんだよな」
ヴェルド「だろうな。時間を変えちまった奴らは、確実にこの世界を良くするためでなく、悪くするために時間を変えたって事になるからな」
セリカ「なんだか難しい話しよねー。時間がどうのこうのって、おとぎ話じゃないんだからさー」
おとぎ話でも、そうそう時間改編ものなんてねぇだろ。精々、12時になったら魔法が解けてガラスの靴置いて帰るくらいだ。
ネイ「......おとぎ話......もしかしたら!」
室内だと言うのに、ネイが大きな羽を広げて勢いよく飛びだし、ギルドの地下の方向へと向かっていく。
グリード「カァッ!ブルゥア!?」
酔っ払いかけていたグリードの酒を盛大にギルドの床に零して行ったあいつは、きっと今後語り継がれる伝説を作ることになるだろう。なんでかって?だって、程よく酔いだした奴の酒を奪うとか、それ1番酒飲みに怒られる奴だからな。まあ、怒る奴はそこそこのアル中になってるから気をつけた方がいい。酒の勢いでお巡りさんのお世話になる前にな。
そのうち歴史を変えられる。そんな事、予測はできていたことだ。でも、なんでそんな事が予測できたのかは分からない。そもそも、なんで歴史を変えようとする者が現れるのかさえ分からない。
ネイ「世界は常に意地悪で、私に試練を与えてくる......怠惰に生きてる罰でも回ってきたのかな......」
「ハハ、随分と面白いことを言うねぇ」
ネイ「っ......!」
誰だ......!
「すまない。つい聞こえてきた話が、随分と変わった内容だったから」
振り返りみれば、こんな寒空の中、木陰にポツンと設置されたベンチに座っている男の人がこちらを見て笑っていた。
ネイ「......こんな亜人に声をかけるとは、中々の物好きと見られますね」
「いや、そんなことはないよ。亜人だとか人間だとか、僕にとってはチリにもならない問題だ」
ネイ「......」
何かを企んでいる。そんな目付きであることが分かる。いくら力が使えなくなってても、長年積上げてきた経験から、ある程度の目利きはできるようだ。
「警戒......してるようだね。まあ、それもそうか。突然、こんなオッサンに声をかけられたら、警戒しない方がおかしい。だけど、安心してくれ」
ネイ「何を安心しろと......?」
「あぁ......なるほど」
ネイ「とりあえず、名前を名乗るだけでもした方がいいんじゃないですか。その上で、怪しければ私はあなたを斬りますけど」
「野蛮だねぇ......」
どうせ誰も見ていない。剣を突きつけたところで、何も問題はない。
「......僕の名前はアルト。前は医者をやっていたが、今はしがないカウンセラーだ」
ネイ「カウン......セラー......?」
アルト「あまり聞かない職業だね。まあ、ざっくり言うとお悩み相談役、みたいなところかな?」
......私は、そっと剣を鞘に戻して男の話に耳を傾ける。こいつは、剣を向けてやるほどのものでもないと判断したからだ。
アルト「......まあ、僕が怪しいことに変わりはないが、僕は君に悩みありと見たんだ。僕でよければ、話に乗る。これでも、職業通りにお悩みを解決することにかけてはプロフェッショナルだからね」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
アルト「なるほど。歴史が変わったか......これまた難しい話だね」
ネイ「こんな根拠の欠片もない話を聞いてて楽しいですか?」
アルト「確かに根拠のない話だ。でも、僕は信じるよ」
......随分と変わった人だな。今の話を聞いて、「信じる」なんて言葉はまず出てこない。普通、「有り得ない」とか、「面白い作り話だ」くらいの感想を飛ばしてくると踏んでいたんだけど。
アルト「カウンセラーの仕事は、患者の悩みを解決することだ。だから、聞いた話を有り得ないとかの言葉で否定してはならない。まず、全面的に信じる。そして、患者と真摯に向き合う。まあ、適当にお話してるだけのようなもんだけどね。でも、それで救われる人だっている。君はそのタイプになれるかな?」
ネイ「......で、今の話を聞いての正直な感想は?」
アルト「おっと......あぁそうか。君は偽りの言葉はいらないってタイプか」
ネイ「いえ。さっさと結論出せバカヤロータイプです」
アルト「......参ったな。これは初めてのタイプだ」
魔女を簡単に口説けると思わないでくださいよ。これでも、言葉巧みに相手を操るのは得意な方ですから。この人の腕前が如何なものか、しっかりと見極めてやろうじゃないですか。
アルト「うーん、正直に言うと、歴史が改編されて、皆が自分のことを忘れてしまった、という状態はイレギュラー中のイレギュラーだ。ただ、そんな相手に言えること、と言ったら......」
ネイ「......」
アルト「あー......ハハッ......」
ネイ「......ダメみたいですね」
アルト「待っ、待ってくれ!まだ、答えを考えている途中だから!」
立ち去ろうとした私を引き止めるように手を伸ばしてくるが、そんな手は振りほどいてさっさと立ち去る。
カウンセラーとは名ばかりだ。どうせ、解ける問題なんて簡単なところだけ。私のような捻りに捻りすぎた問題は解くことが出来ないんだ。
......無駄な時間を食っちゃったな。そろそろヴァルも探し出してる頃だろう。戻ろ。
アルト「ま、待ってくれ!」
ネイ「まだ何か用ですか。もうめんどくさいんですけど」
アルト「き、君の悩みを解決出来るかもしれない場所がある!」
歴史改編によって存在を消された人を解決する場所なんてあると思いませんけどね。
アルト「創真王国だ!あそこに、僕の師がいる。きっと、あの人ならば君の悩みを解決してくれることだろう!」
創真王国か......興味ないね。
「貴様ら!そこで何をしている!」
帰ろうかと思って階段を上ろうとしたら先に騎士が立っていた。こんな寒空の中ご苦労様です。
「......っ!亜人!」
ネイ「......!」
いきなり小刀を投げつけられた。
そういや、亜人が全体的に嫌われている時間軸だったな。さっさとおさらばすべき......
「亜人めがぁー!」
ネイ「......っ!」
体が思うように動かない。ただの騎士の攻撃なのに、左腕にかすり傷を付けさせてしまった。
それに、鞘から抜いた剣も心做しか重く感じてしまう。歴史の改編で、体が弱まったとでもいうのか。いや、今まで魔法で補っていた部分が、魔法の使用不可によって補えなくなっただけだ。
アルト「ちょ、ちょっと騎士さんやめてください!彼女は僕に危害を加えようとはしていません!」
「何を言う!亜人は即刺殺!我が国はそういう法になっているのだ!」
まあ、なんとも面白おかしな法律に変わったなぁ。あのゼイラ王女とアトラス王がそんなことを考えるわけないし、国のトップも変わっている可能性があると見た。
ただちょっとのかすり傷なのに、血が吹きでている左腕が物凄く痛い。今まで、これ以上の怪我を負ったことはあったけど、こんな痛みを感じることは無かったのに......
今までの圧倒的な治癒力も消えている。どこから変えれば私をここまで弱体化できるのか。この作戦考えた人、絶対天才だ。圧倒的なまでに私を潰すことだけを考えているように見える。
「セヤァァッ!」
動けない私に対し、真っ直ぐに鉄の刃が落とされる。避けることは出来るけど、このまま行けば左腕が肩からもがれる。
アルト「サムニウム・ホール!」
騎士の攻撃に、思わず目を瞑ったけど、攻撃が私に当たることはなかった。その代わり、しゃがんでいる私の少し斜め後ろに剣が落ちていくのが見えたけど。
アルト「ふぅ......危ないところだった」
ネイ「......寝てる?」
さっきまでの勢いはどこかへと消え失せ、騎士はムカつくほどに幸せそうな顔で寝ていた。
アルト「睡眠魔法の1種さ。と言っても、使えるのは僕くらいのもんだけどね。良い夢を見させる魔法って言ったところかな?」
ネイ「......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ネイ「っ痛っ!」
アルト「すまない。あまり、こういった治療には慣れてなくてね」
ネイ「夢を見させる魔法が使えるなら、治癒術の習得くらい簡単でしょう」
アルト「それが、僕はなぜかこれ以外の魔法が使えないんだ。昔から色々と試そうとしたが、誰でも覚えれば使えるっていう初期魔法すら使えない。これがなぜなのか、元神様の君には分かるかな」
ネイ「さぁ?まあ、強いて言うなら、気持ちの持ち方って言ったところでしょうか」
アルト「なるほど、気持ちねぇ......っと、これでもう大丈夫だ」
随分と古典的な治療だけど、白い包帯に巻かれた左腕の傷口からは、もう血が出ていない。こんなご時世で消毒液を使われることになるとは......まあ、痛みももう引いてるし、血もそんなに出てないからそれでいいか。
アルト「君、剣を持つ手が震えていたし、マナも一切感じないが、それも歴史改編の影響だって言うのかい?」
ネイ「えぇ。多分そうですよ。こんなことさえなければ、あの程度の人間、私の敵ではないというのに......」
アルト「ハハッ......この世界では、君は今まで通りの感覚で生きれば、たくさん苦労することになるだろう」
ネイ「そんなの、言われなくたって分かっていますう!」
アルト「ハハハ。僕に君の悩みを解決することは難しい。だけど、こうして僕と話して、何か変われたかな?」
ネイ「......っ」
確かに、この人と話していて、少し楽になれた気はする......。何も知らないくせに、何も分からないくせに、それでも私を分かろうとしてくれた。こんな人、ヴァル以来の出現だ。
アルト「じゃあ、僕はこの辺でおさらばとするよ。丁度、君のお友達さんらしき人達も来たみたいだしね」
アルトの見上げた方を向けば、そこにはヴァル達が私の姿を求めて探し回っている様子が窺えた。
アルト「じゃあね。僕はしばらくこの街にいるから、見かけたら声でもかけてくれ」
ネイ「......また、今度」
アルトはそのまま平凡な笑みを浮かべて立ち去り、代わりにこちらに気づいたヴァル達がやって来た。
ヴァル「誰だ?あの男」
ネイ「うーんっと、不思議な人です」
ヴァル「そうか......そうか?」
ネイ「ちょっと心が落ち着きました。さあ、こんな状況になった原因を突き止めてやろうじゃないですか」
ヴァル「......おう、そうだな!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セリカ「カウン......セラー?」
ネイ「ええ。そんな男の人と話をしてました」
ヴァル「人間不信なお前が、見知らぬ異性と会話か......」
ネイ「何が言いたいんですか?」
ヴァル「いや、お前も成長したなぁって」
ヴェルド「今そういうこと話すのは、いつでも出来るんだから後にしようぜ。今は、その亜人をどうするかだろ。知っての通り、お前らの認識と違って、俺達は亜人を毛嫌いしている。突然よく分からん亜人が俺達の前に現れて、さも仲間かのように振る舞われたら不快に思う奴もいるだろう。現に俺は不快に思ってる」
おいコラ、親友だから協力するとかいった話はどこいった。やっぱ、お前のイケメン面ぶっ壊した方がいいか?俺の拳が炎を出し始める前に決めやがれ。
って、今そんなことしてる場合じゃねぇんだよ。余計なことに思考を取らせんな。
フウロ「まあ、ヴェルドが言うことはあながち間違いではないな。お前達の認識と私達の認識はズレている。今、私達の記憶が書き換えられる前までの世界と、この世界とでは何もかもが違う。まず、お前達の言う国王、アトラスだが、そんな国王は10年ほど前に死んでいる。ゼイラ王女も、不幸な事故に遭われて、命を落としている」
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フウロ「それ以外にも、まず遊魔病という、恐ろしい病が流行っているし、邪龍教は生き残っているし、ヒカリは遺体が見つかっている」
ヴァル「......!」
ネイ「......!」
フウロ「もっと前の時間から変わっているが、多分、根本的に変わってしまったのはそこが原因だろう。ネイは、ヒカリが生き残り、記憶を消されて生まれた人格なのだろう?ならば、死んでしまった人間からは別人格など生まれやしないし、その体もヒカリのものだったはずだから、この場にあることも有り得ない」
ヒカリが死んでいるとは思わなかった。いや、確かに死んだと思っていた時期はあったが、それでも遺体が見つからなかったせいで、その死を認めることが出来なかった。
事実、ヒカリはネイという形で生き残り、消された記憶も戻ったから、正式に俺達の仲間として平凡な日常を送ることになった。
ヴァル「そういや、ヒカリは死んでいるって事になってるが、もしかしたら、俺達と同じように、改編前の記憶を保持したままどこかを彷徨いてる可能性ってないのか?」
ネイ「あれでも、一応は私と同じくらいの権限はありますし、どこかその辺にいる可能性はありますね。ですが、遺体があるって事を考えると、もしかしたら......」
ヴァル「改編に呑まれてしまった......かもしれないってことか」
「「「 ...... 」」」
まあ、これでネイが弱体化した理由と存在が忘れられた経緯までが分かったな。分かったところで何にもならんが。
ヴァル「とりあえずは、俺達とお前達とでのズレは認識できたってことでいいのか?」
フウロ「多分、今すぐに必要なズレは確認できただろう。ただ、ヒカリが生きてるとはな......お前達の話を聞く限り、明らかに変えられる前の世界の方が良いんだよな」
ヴェルド「だろうな。時間を変えちまった奴らは、確実にこの世界を良くするためでなく、悪くするために時間を変えたって事になるからな」
セリカ「なんだか難しい話しよねー。時間がどうのこうのって、おとぎ話じゃないんだからさー」
おとぎ話でも、そうそう時間改編ものなんてねぇだろ。精々、12時になったら魔法が解けてガラスの靴置いて帰るくらいだ。
ネイ「......おとぎ話......もしかしたら!」
室内だと言うのに、ネイが大きな羽を広げて勢いよく飛びだし、ギルドの地下の方向へと向かっていく。
グリード「カァッ!ブルゥア!?」
酔っ払いかけていたグリードの酒を盛大にギルドの床に零して行ったあいつは、きっと今後語り継がれる伝説を作ることになるだろう。なんでかって?だって、程よく酔いだした奴の酒を奪うとか、それ1番酒飲みに怒られる奴だからな。まあ、怒る奴はそこそこのアル中になってるから気をつけた方がいい。酒の勢いでお巡りさんのお世話になる前にな。
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そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
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