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第10章-Ⅰ 【Campo proelii ex mortuis】
第10章18 【somnum exterreri】
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白陽とグランアークの国境にある広々とした平原。ついこの間ここを通って創真に渡ったかと思えば、1ヶ月もしないうちに戻ってくることになろうとはな。そんなこと、考えもしなかったが、逆に言えば、あの状況からたったの1週間とそこそこで戻ってこれたんだなと、少しだけ誇らしい気分になる。
今日の風は、まるでこれから起きることを察してるかの如く荒れている。そんな中、黒い靄が俺の隣を過ぎ去っていった。
デルシア「全軍、構え!」
平原の少し先で、黒い霧が発生しているのが目に映った。
いよいよ始まる......。俺達の、覚悟を極める戦いが......。
唾を飲み込み、拳に力を込め、全身を奮い立たせる炎を灯す。ゆっくりと深呼吸をし、己を落ち着かせ、万全の状態にする。
ヴァル「来るなら来やがれってんだ、母さん。もう、答えは用意したぜ」
平原の方では、白陽軍と黒月軍が早くも霧の中に突撃している。マジでやんのか......と呆れはしたが、トップに立つ2人の神器により、黒い霧が次々と燃やされていき、敵軍の姿を露にする。
ヴァル「......!?」
遠くから見ているだけだから、まだ確信を持って言えるわけじゃない。しかし、あれは......。
ヴァル「嘘......だろ?」
敵軍の中に、ヴェルドやフウロといった、見覚えのある面が並んでいた。
なんでだ......あいつらは、死の国によって死んだ......はず?いや、違う。死の国によって、複縦させられた?確か、ヴァルキリーは言っていた。「ここで朽ち果てた者は、死者として我に仕える」と。あれは、こういう意味だったのか......。
デルシア「ヴァルさん!避けて!」
敵側にいた仲間達の姿に動揺していたが、デルシアの叫びによって意識が戻された。だが、気づいた時にはもう遅い。俺の体に、黒い霧が纏わりついていた。
ヴァル「っ......クソっ」
身動きが取れない。縄で縛られたかのように、体の自由が利かないでいる。何がどうなってやがんだ。
「ヴァル。こちらへ来い」
また、あの声が聞こえて、俺の視界は闇に染まっていった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「また、お前か......」
「久しいな。答えは決まったか」
前は、絶望の象徴として見えていた暗い空間に、俺はまた、母さんと対峙する形で立っていた。
だが、今回は少し違う。俺の中には、立派な覚悟が出来上がっている。それだけで、この暗い空間でも、自然と前を向いて立っていられる。
「......その顔、どうやら聞くまでもないようだな」
ヴァル「ああ。俺は、相手が例え母さんだろうがぶっ潰す。俺の、大切な人を助けるために......」
「なるほど......ならば、ここで貴様を刈り取るしかないようだな」
奴は、大きな鎌を取り上げて俺へと明確な殺意を見せる。
あの鎌、まるで死神みたいだな。まあ、神様だって言うんだし、それくらいのイメージを持たせても当然か。
ヴァル「......行くぜ」
右足を少しだけ後ろに下げ、蹴り飛ばすための力を込める。そして、右腕に炎、左腕に氷の魔法を灯し、焦点を死神へと向ける。
ここで、決着をつけるんだ。
「......」
死神が鎌を振り上げた。俺は、右足で思いっきり地面を蹴り、死神の顔へと炎の右腕を振り上げる。
「っ......何......!?」
攻撃が効かないと思っていたのか、奴は避ける動作をするでもなく俺の拳を正面から喰らう。
「......なぜだ。なぜ、貴様の魔法が我に......」
ヴァル「さあな。俺だって、お前に真っ直ぐに攻撃が通用するとは思ってなかった。だが、それは数時間前までの話だ。今のお前を見て、俺は戦えると確信した。それだけだ」
まあ、言うなれば、気持ちの変化といったところか。
最初に、攻撃が一切通じねぇところを見て、俺は勝てないと思ってしまっていた。でも、ネイと話をして、新しい仲間達を迎えて、俺の心にはかつての勝利を信じる心が息を吹き返していた。
勝てないなんて思っちゃいけない。どんな奴が相手だろうが、俺は勝つんだ。その気持ちを強くして、俺は拳に込める力を強くする。
ヴァル「母さん。俺は決めたんだ。もう、迷わないって。俺は、大切な人達を守るために拳を振るうんだ。戦う理由は、それだけで十分だってことに気づいた」
「......ヴァル......クレア」
ヴァル「......極龍王の咆哮!」
口の痛みなんて知ったこっちゃあるか。そんなん気にしてたら、いつまで経っても強くはなれねぇ。
俺の頭にあるイメージは、炎雷龍王ジークフリードの姿。あいつが龍王の姿で戦っているところを、俺は王都での戦いの時に目に焼き付けていた。
惜しくも相手をしていた龍を倒すことは出来なかったが、それでもジークが強いってのだけは分かった。あいつが使っていた技の数々を、俺は真似出来ないかとやってみた事もある。
上手いこと再現出来たことなんてなかったが、なぜかこの極龍王の咆哮だけは扱うことが出来た。
理由なんて知らん。だが、使えるもんはなんだって使う。
「......なんだ......この炎は」
ヴァル「ちっ......覚悟決めても、口がヒリヒリすんのは変わらねぇか。使い勝手悪ぃな」
「なぜ、貴様如きの炎が......我に......」
ヴァル「自分の心に聞いてみろ。俺は、そうやって自分を見つけた。いや、正しくは、ヒントを得てから見つけたってところか」
「自分を......見つける......」
ヴァル「母さんが、何でこんなことをしてるのかを俺は知らない。だが、戦う敵だっていうのなら、俺は容赦なく拳を振るう。その意味を考えろ」
もう一度、俺は死神の顔面に向けて炎と氷の拳を交互に振るう。奴は、なんの抵抗もせず、ただただ俺の攻撃を喰らっている。
「......どうやら、この世界ではちと都合が悪いようじゃな」
暗い空間が消え去ろうとしている。まだ決着はついていない。だが、奴は"逃げる"ことを選択した。
ヴァル「現実で戦おうとしても、俺が勝つぞ」
消えゆく空間で、俺はそう言った。
「どうだろうな。現実では、ちと話しが変わるかもしれんぞ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ヴァル様、ヴァル様......」
何やら、耳元に女の声がする。
ヴァル「......どうなったんだ」
「......良かった。目が覚めたのですね」
寝そべっていた俺の隣にいたのは、メイドのアイリスだった。
アイリス「簡潔にまとめます。ヴァル様は、突然包まれた黒い霧により、一時的に戦線を離脱。しかし、たった今、私の隣に現れ、そのまま死んだかのように寝ていたというわけです」
なるほど。意識だけを連れて行かれたわけじゃなかったのか。
アイリス「ここは、戦線から少し離れた創真軍の拠点でございます」
段々と明るい景色に目が慣れてきて、周りの様子がハッキリと見えるようになってきた。
見えるようになった今、戦場の悲惨さを目の当たりにしてしまった。
シンゲン達が率いていた前線の部隊は壊滅しているのか?と疑うレベルで白と黒の部隊がほぼほぼ消え去っていた。
ヴァル「......どうなってんだ......?」
アイリス「辛うじて敵軍の侵攻を防いでいる状態です。シンゲン様、アルフレア様の部隊は、八割が壊滅。既に、デルシア様の部隊である鬼族の方々が出陣するほどにまでなっております」
向こうにいた時間はそんなに長くなかったはずだ。だが、今の状況を見ると、軽く数時間は経ってるように見える。
向こうが、夢の世界だったから時間の流れが違うのか。
アイリス「ヴァル様。辛い話ですが、もう1つ残念なお知らせがございます」
......アイリスの顔を見れば、大体内容が分かった。
ヴァル「......デルシアの神器が意味をなさないってところか」
アイリス「......ええ。そうでございます」
デルシアの武器が意味をなさないか......予想出来ていた事態ではあるが、それをどうにかする対抗策を何も考えていなかった。いや、何も無かったといったところか。
で、デルシアの武器が何も出来ないとなれば、こんなにも酷い有様になるのは当然。それに、敵は普段から戦ってるような名前も分からぬモブじゃない。あれは、俺の仲間達や、街に住んでいた人々。中には誰だよお前って奴もいるけど、あいつらは全員、黒い霧や遊魔病によって死んでいった奴らなんだ。
死してなお、忠誠を誓うわけでもない奴のために生者と戦う。母さんは、なんてことを考えてるんだ。これが、現実では話が違うってことの意味か。
ヴァル「アイリス。俺も、前線に行ってくる」
アイリス「しかし、あの中には......」
ヴァル「分かってる。それでも、仲間達を助けるためには、時には仲間に拳を振るわなきゃならねぇんだ。で、それが今ってわけだ。正直に言えば、戦いたくはないと思ってる。でも、やらなきゃ何も進まねえからな」
アイリス「......ならば、私がお供致します」
ヴァル「いいのか?」
アイリス「私の使命は、デルシア様の御身を守ること。しかし、デルシア様が前線に出ようとした瞬間にヴァル様が現れ、私はデルシア様の指示でここに残っておりました。ですが、ヴァル様が出ると決めた今、私がここに留まる理由はございません。このお命、ご自由にお使いください」
おいおい、それは真の主に向かって言う言葉だろうが。だが、そうまで言ってくれるのなら、悪い気はしないな。
ヴァル「行くぞ。大切な人達を守るために」
アイリス「はい」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
開け、時の扉。
小さいながらも辺り一面に置かれた本棚に、ビッシリと本が詰まったこの空間に、私は立っている。
この空間に来て、何かができるわけじゃない。でも、ヒカリちゃんが残した唯一の方法で、私は時間を遡るための扉を開いた。
ネイ「......ヴァルが頑張っている。なら、私も頑張らなきゃ」
覚悟を決め、扉をくぐる。もし、この先で失敗しようものなら、きっと私はこの世界からいなかったことにされる。でも、それでもやってみるだけの価値はある。いや、価値なんかどうでもいい。
私は、ただ、またみんなと一緒に過ごせる日常が来てほしいだけ。もう少し我慢すれば、もしかしたらもっと安全な方法があるのかもしれない。でも、それではあまりにも遅すぎる気がする。
きっと、ヴァルは今頃戦場で、自身の母親と対峙している頃だろう。信じてあげたいけど、ヴァルが必ず勝てるとは思っていない。世の中、常に100%のことなんてないのだ。だから、私は保険をかける。確率なんて、掛け算じゃなく足し算にすれば、簡単に100%を越えられる。私がするのは足し算。確実に、勝てる方法を見出す。
ネイ「......見守っててくださいね。傲慢の魔女、ユナ」
自身の首元にあるネックレスを一目見て、私は1人ではないことを確認する。ミイとユミとユナの想いがこのネックレスに詰まっている。別に、ここに誰かが住んでいるわけじゃないけれど、なぜだかこれを握っていると1人ではない気がしていた。
そうして、私は龍王の気配がする時間へと到着した。
ネイ「......ここは」
辺りに見えるのは、一面の雪景色。それも、雑木林の中。少し先の方で、炎が燃え上がっているのが見える。
宛を求めて、私は炎が立ち上る場所へと向かった。
今日の風は、まるでこれから起きることを察してるかの如く荒れている。そんな中、黒い靄が俺の隣を過ぎ去っていった。
デルシア「全軍、構え!」
平原の少し先で、黒い霧が発生しているのが目に映った。
いよいよ始まる......。俺達の、覚悟を極める戦いが......。
唾を飲み込み、拳に力を込め、全身を奮い立たせる炎を灯す。ゆっくりと深呼吸をし、己を落ち着かせ、万全の状態にする。
ヴァル「来るなら来やがれってんだ、母さん。もう、答えは用意したぜ」
平原の方では、白陽軍と黒月軍が早くも霧の中に突撃している。マジでやんのか......と呆れはしたが、トップに立つ2人の神器により、黒い霧が次々と燃やされていき、敵軍の姿を露にする。
ヴァル「......!?」
遠くから見ているだけだから、まだ確信を持って言えるわけじゃない。しかし、あれは......。
ヴァル「嘘......だろ?」
敵軍の中に、ヴェルドやフウロといった、見覚えのある面が並んでいた。
なんでだ......あいつらは、死の国によって死んだ......はず?いや、違う。死の国によって、複縦させられた?確か、ヴァルキリーは言っていた。「ここで朽ち果てた者は、死者として我に仕える」と。あれは、こういう意味だったのか......。
デルシア「ヴァルさん!避けて!」
敵側にいた仲間達の姿に動揺していたが、デルシアの叫びによって意識が戻された。だが、気づいた時にはもう遅い。俺の体に、黒い霧が纏わりついていた。
ヴァル「っ......クソっ」
身動きが取れない。縄で縛られたかのように、体の自由が利かないでいる。何がどうなってやがんだ。
「ヴァル。こちらへ来い」
また、あの声が聞こえて、俺の視界は闇に染まっていった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「また、お前か......」
「久しいな。答えは決まったか」
前は、絶望の象徴として見えていた暗い空間に、俺はまた、母さんと対峙する形で立っていた。
だが、今回は少し違う。俺の中には、立派な覚悟が出来上がっている。それだけで、この暗い空間でも、自然と前を向いて立っていられる。
「......その顔、どうやら聞くまでもないようだな」
ヴァル「ああ。俺は、相手が例え母さんだろうがぶっ潰す。俺の、大切な人を助けるために......」
「なるほど......ならば、ここで貴様を刈り取るしかないようだな」
奴は、大きな鎌を取り上げて俺へと明確な殺意を見せる。
あの鎌、まるで死神みたいだな。まあ、神様だって言うんだし、それくらいのイメージを持たせても当然か。
ヴァル「......行くぜ」
右足を少しだけ後ろに下げ、蹴り飛ばすための力を込める。そして、右腕に炎、左腕に氷の魔法を灯し、焦点を死神へと向ける。
ここで、決着をつけるんだ。
「......」
死神が鎌を振り上げた。俺は、右足で思いっきり地面を蹴り、死神の顔へと炎の右腕を振り上げる。
「っ......何......!?」
攻撃が効かないと思っていたのか、奴は避ける動作をするでもなく俺の拳を正面から喰らう。
「......なぜだ。なぜ、貴様の魔法が我に......」
ヴァル「さあな。俺だって、お前に真っ直ぐに攻撃が通用するとは思ってなかった。だが、それは数時間前までの話だ。今のお前を見て、俺は戦えると確信した。それだけだ」
まあ、言うなれば、気持ちの変化といったところか。
最初に、攻撃が一切通じねぇところを見て、俺は勝てないと思ってしまっていた。でも、ネイと話をして、新しい仲間達を迎えて、俺の心にはかつての勝利を信じる心が息を吹き返していた。
勝てないなんて思っちゃいけない。どんな奴が相手だろうが、俺は勝つんだ。その気持ちを強くして、俺は拳に込める力を強くする。
ヴァル「母さん。俺は決めたんだ。もう、迷わないって。俺は、大切な人達を守るために拳を振るうんだ。戦う理由は、それだけで十分だってことに気づいた」
「......ヴァル......クレア」
ヴァル「......極龍王の咆哮!」
口の痛みなんて知ったこっちゃあるか。そんなん気にしてたら、いつまで経っても強くはなれねぇ。
俺の頭にあるイメージは、炎雷龍王ジークフリードの姿。あいつが龍王の姿で戦っているところを、俺は王都での戦いの時に目に焼き付けていた。
惜しくも相手をしていた龍を倒すことは出来なかったが、それでもジークが強いってのだけは分かった。あいつが使っていた技の数々を、俺は真似出来ないかとやってみた事もある。
上手いこと再現出来たことなんてなかったが、なぜかこの極龍王の咆哮だけは扱うことが出来た。
理由なんて知らん。だが、使えるもんはなんだって使う。
「......なんだ......この炎は」
ヴァル「ちっ......覚悟決めても、口がヒリヒリすんのは変わらねぇか。使い勝手悪ぃな」
「なぜ、貴様如きの炎が......我に......」
ヴァル「自分の心に聞いてみろ。俺は、そうやって自分を見つけた。いや、正しくは、ヒントを得てから見つけたってところか」
「自分を......見つける......」
ヴァル「母さんが、何でこんなことをしてるのかを俺は知らない。だが、戦う敵だっていうのなら、俺は容赦なく拳を振るう。その意味を考えろ」
もう一度、俺は死神の顔面に向けて炎と氷の拳を交互に振るう。奴は、なんの抵抗もせず、ただただ俺の攻撃を喰らっている。
「......どうやら、この世界ではちと都合が悪いようじゃな」
暗い空間が消え去ろうとしている。まだ決着はついていない。だが、奴は"逃げる"ことを選択した。
ヴァル「現実で戦おうとしても、俺が勝つぞ」
消えゆく空間で、俺はそう言った。
「どうだろうな。現実では、ちと話しが変わるかもしれんぞ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ヴァル様、ヴァル様......」
何やら、耳元に女の声がする。
ヴァル「......どうなったんだ」
「......良かった。目が覚めたのですね」
寝そべっていた俺の隣にいたのは、メイドのアイリスだった。
アイリス「簡潔にまとめます。ヴァル様は、突然包まれた黒い霧により、一時的に戦線を離脱。しかし、たった今、私の隣に現れ、そのまま死んだかのように寝ていたというわけです」
なるほど。意識だけを連れて行かれたわけじゃなかったのか。
アイリス「ここは、戦線から少し離れた創真軍の拠点でございます」
段々と明るい景色に目が慣れてきて、周りの様子がハッキリと見えるようになってきた。
見えるようになった今、戦場の悲惨さを目の当たりにしてしまった。
シンゲン達が率いていた前線の部隊は壊滅しているのか?と疑うレベルで白と黒の部隊がほぼほぼ消え去っていた。
ヴァル「......どうなってんだ......?」
アイリス「辛うじて敵軍の侵攻を防いでいる状態です。シンゲン様、アルフレア様の部隊は、八割が壊滅。既に、デルシア様の部隊である鬼族の方々が出陣するほどにまでなっております」
向こうにいた時間はそんなに長くなかったはずだ。だが、今の状況を見ると、軽く数時間は経ってるように見える。
向こうが、夢の世界だったから時間の流れが違うのか。
アイリス「ヴァル様。辛い話ですが、もう1つ残念なお知らせがございます」
......アイリスの顔を見れば、大体内容が分かった。
ヴァル「......デルシアの神器が意味をなさないってところか」
アイリス「......ええ。そうでございます」
デルシアの武器が意味をなさないか......予想出来ていた事態ではあるが、それをどうにかする対抗策を何も考えていなかった。いや、何も無かったといったところか。
で、デルシアの武器が何も出来ないとなれば、こんなにも酷い有様になるのは当然。それに、敵は普段から戦ってるような名前も分からぬモブじゃない。あれは、俺の仲間達や、街に住んでいた人々。中には誰だよお前って奴もいるけど、あいつらは全員、黒い霧や遊魔病によって死んでいった奴らなんだ。
死してなお、忠誠を誓うわけでもない奴のために生者と戦う。母さんは、なんてことを考えてるんだ。これが、現実では話が違うってことの意味か。
ヴァル「アイリス。俺も、前線に行ってくる」
アイリス「しかし、あの中には......」
ヴァル「分かってる。それでも、仲間達を助けるためには、時には仲間に拳を振るわなきゃならねぇんだ。で、それが今ってわけだ。正直に言えば、戦いたくはないと思ってる。でも、やらなきゃ何も進まねえからな」
アイリス「......ならば、私がお供致します」
ヴァル「いいのか?」
アイリス「私の使命は、デルシア様の御身を守ること。しかし、デルシア様が前線に出ようとした瞬間にヴァル様が現れ、私はデルシア様の指示でここに残っておりました。ですが、ヴァル様が出ると決めた今、私がここに留まる理由はございません。このお命、ご自由にお使いください」
おいおい、それは真の主に向かって言う言葉だろうが。だが、そうまで言ってくれるのなら、悪い気はしないな。
ヴァル「行くぞ。大切な人達を守るために」
アイリス「はい」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
開け、時の扉。
小さいながらも辺り一面に置かれた本棚に、ビッシリと本が詰まったこの空間に、私は立っている。
この空間に来て、何かができるわけじゃない。でも、ヒカリちゃんが残した唯一の方法で、私は時間を遡るための扉を開いた。
ネイ「......ヴァルが頑張っている。なら、私も頑張らなきゃ」
覚悟を決め、扉をくぐる。もし、この先で失敗しようものなら、きっと私はこの世界からいなかったことにされる。でも、それでもやってみるだけの価値はある。いや、価値なんかどうでもいい。
私は、ただ、またみんなと一緒に過ごせる日常が来てほしいだけ。もう少し我慢すれば、もしかしたらもっと安全な方法があるのかもしれない。でも、それではあまりにも遅すぎる気がする。
きっと、ヴァルは今頃戦場で、自身の母親と対峙している頃だろう。信じてあげたいけど、ヴァルが必ず勝てるとは思っていない。世の中、常に100%のことなんてないのだ。だから、私は保険をかける。確率なんて、掛け算じゃなく足し算にすれば、簡単に100%を越えられる。私がするのは足し算。確実に、勝てる方法を見出す。
ネイ「......見守っててくださいね。傲慢の魔女、ユナ」
自身の首元にあるネックレスを一目見て、私は1人ではないことを確認する。ミイとユミとユナの想いがこのネックレスに詰まっている。別に、ここに誰かが住んでいるわけじゃないけれど、なぜだかこれを握っていると1人ではない気がしていた。
そうして、私は龍王の気配がする時間へと到着した。
ネイ「......ここは」
辺りに見えるのは、一面の雪景色。それも、雑木林の中。少し先の方で、炎が燃え上がっているのが見える。
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