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第10章-Ⅰ 【Campo proelii ex mortuis】
第10章19 【praeteritum】
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雪景色の中に、一際目立つ炎の塊があった。山火事、そう例えた方がいいものかもしれない。
炎の中には集落があった。皆、突然起きた出来事なのか、慌てふためき、それでも火を止めようと水系の魔法を使用している。でも、炎の勢いが止まることはない。
危険だとは分かっていたけど、助けを求める人々の姿を見て、じっとしていられるほど私は冷たくなかった。
ネイ「......この炎......」
肌で感じられる距離に来て、この炎の正体に気づいた。これは、ただの炎じゃない。マナによって生み出された、立派な魔法だ。それも、そんじょそこらの魔導士が作り出したものではない。
「......けて......た......け......」
私の存在に気づいた黒焦げに近い女が、必死に手を伸ばして助けを乞いている。でも、もうこれは助からない。もし、私の力が普段通りにあれば、こんな状態からでも助けられたかもしれない。でも、今の私には無理だ。
ネイ「ごめんなさい。今の私じゃ、あなた達を救うことは無理です......」
そう言葉を発した時、女に意識はもうなかった。
ネイ「......そうだ。ジークを探さないと」
ここに来た本来の目的は、変えられた歴史を正すため、そして、ジークが向かった先を追いかけてであったはずだ。
炎の中を走り続け、私は僅かながらに感じる龍の気配を追いかける。
「お父ちゃん!お母ちゃん!誰か!誰かぁぁぁ!」
途中、子供の泣き声がした。
足を止め、声の主を探して辺りを見渡す。声の主は、すぐそこにあった。
「っ......っ......」
艶のある黒髪に、泣きながらも睨みつけるような目。どことなく、ヴェルドに似ている気がする。
ネイ「......」
私は、何を聞くでもなく、子供の手を引いて駆け出した。
「だ、誰なんだよ、あんた」
泣いたせいで、すっかり掠れてしまった声で子供はそう尋ねてくる。
ネイ「......あなた、名前は?」
「......ヴェルド。ヴェルド・グレイディスだ」
ただの気のせいじゃなかったらしい。
この子は、本当に過去のヴェルドみたいだ。そして、新たに得られた情報から今の状況を考えてみると、ここはヴェルドの故郷で、龍人に攻め込まれて集落が壊滅した日で合っているだろう。
まさか、自分の過去を戻そうとして、こんな日に来るなんて......それにしても、幼きヴェルドは今ほどの風格を持っていない。どこからどう見ても、ただのひ弱な子供だ。
ヴェルド「なあ、あんた何者なんだ......亜人のくせに、人間の俺を助けるのか」
ネイ「......昔の偉い人達の名言にこんな言葉があってね。人を助けるのに理由はいるのかって」
ヴェルド「......」
ネイ「まあ、私としては人を助けるのに理由を持っててもいいと思うけどね。大切な人だから、大切な仲間だから、知ってる人だから。もちろん、殺したい相手だって、聞きたいことがあるから生かすこともある。理由なんて無いって言っても、やっぱりどこかしらに理由はあるのよ」
まあ、私としては、ヴェルドはこの先で出会う大切な仲間だから、生かそうとしてるだけなんだけどね。色々と嫌な事がたくさんあるけど、それでも大切な仲間だからってことに変わりはない。
ヴェルド「......ありがとう。姉ちゃん」
ありがとうか......。まさか、幼いとは言えヴェルドに言われることになろうとは。
その後、私は集落の中で生き残っている人達を見つけられるだけ見つけようと、幼いヴェルドを抱えて走り回り、2人の少年少女を発見した。
名前は、それぞれ少年の方がレイガ。少女の方がノア。どちらも、大会の時に一度名前を聞いた人物だ。まさか、全員が同じ集落の出身だったとは......でも、未来の3人、いや、レイガとヴェルドの間には何かしらの関係があるようには見えなかった。多分、幼いが故に、ここから先の未来でこれ以上の関わりを持つことがなかったためと思われる。
一際火傷の酷かったノアを抱え、龍王の気配が強くなる場所へと向かう。色々と遠回りしたけど、ここには私の歴史を変えてしまう何かがあるはずなんだ。
激しい金属音と、たくさんの生き物の気配を感じ取り、私は思わず足を止めた。
ネイ「ここで待ってて」
子供達を木々の影に隠し、私は恐る恐る戦いの音がする方へと足を踏み込む。
ネイ「......!ラヴェリア!?」
何かと戦っていたのは、ジークではなく龍人体のラヴェリアだった。
ラヴェリア「......ネイ様......」
ジークだと思っていたのに、なんで消えたはずのラヴェリアが......
ラヴェリア「っ......!」
ラヴェリアに、黒装束の何者かが襲いかかる。それも、何人もの数が。
ラヴェリア「ネイ様......っ、こちらに近づいてはなりません!」
ネイ「でも......!ラヴェリア!」
ラヴェリア「この時間は、ネイ様とは直接関係はないのかもしれません。しかし、この時代において、本来生きているはずの3人の命が失われれば、ネイ様と繋がるはずだった人物達との繋がりが絶たれてしまいます。それは、ネイ様を形成していた一部を無くすこと。ほんの小さな欠片でも、それがなければネイ様にはなり得ない......っ」
黒装束達を追い払い、ラヴェリアは私に焦点を合わせてそう叫ぶ。
ラヴェリア「ネイ様。どうか、生きて、強く、生きてください!」
ラヴェリアが、こちらに向けて2本の黒い剣を投げ渡してくる。
これは、ラヴェリアが私に憑依した時に、私の剣が変形してできるものだ。
ラヴェリア「記憶解放・幻想の記憶!」
ラヴェリアの、信じていた者達に裏切られ、自身のことを蔑ろにされた記憶が、黒装束達を襲いかかる。その攻撃に当たっていない私でも、ラヴェリアの悲しみ、そして、感謝の気持ちを汲み取ることが出来た。
ラヴェリア「ネイ様のために、あの3人をよろしく頼みますよ。......ネイ様、どうか、お幸せに......」
......
......
......
炎が全てを燃やし尽くしている中を潜り抜け、麓の小さな町にまでやって来た。
あの黒装束達は、恐らく謎の組織の一員で、そして、龍人である。もしかしたら、奴らがいなければあの集落が襲われることはなかったのかもしれない。それなら、もう少し早い時間に降り立って、あの集落が壊滅する未来を阻止したかった。
そうすれば、ヴェルド達は別の未来を歩むかもしれない。でも、必ず3人はそれぞれのギルドに所属する。特に、ヴェルドなんかは龍人に対しての恨みもなく、私とも普通に接することが出来たかもしれない。まあ、そんなことを考えても、過ぎ去ってしまった時間を変えるなんてことは出来ない。
3人を、町の親切な資産家の人に諸々の事情を話してから預け、私は再び見えた龍王の気配がする時間へと飛び立つ。ラヴェリアの2本の黒い剣を携えて。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
次に降り立った場所は、私が普段から暮らしているシグルアの街だった。それも、黒装束の団体によって、街が攻め込まれている状況。
邪龍教だ。彼らが、邪龍の力を求めて、世界の各地で大量虐殺を行ったいた時期だ。まだ日が出ているところを見ると、ヴァルからの私への説得は終わっていない。それどころか、まだあの森にすら足を踏み入れていないだろう。それでも、日が傾きだしている。時間は、刻一刻と近づいているというわけだ。
次なる龍王の気配がするのは、例の森だ。私は、羽を大きく羽ばたかせ、あの森へ向けて飛んでいく。
ネイ「次は、ヴァルと私が再開するのを防ごうという算段ですかね」
私が表に出なければ、あの街は壊滅的な被害を受けて戦いが終わる。つくづくバカだな、と過去の自分に言ってみるが、あの時の私をせせら笑ったところで無意味だ。私にだって色々とあった。だから、こんなところで私が前へ進むのを妨害させてはいけない。
ネイ「......シズ!?」
森の中に足を踏み入れると、すぐそこにこれまた消えたはずのシズが戦っていた。
シズ「......!?我が主!?」
ネイ「なんであなたがこんなところに......」
シズ「......主、向こうに見える、主の契約者が目に見えるでしょうか」
遠くの方で、ヴァルが森の複雑な道を突き進んでいた。だが、背後からはたくさんの人影がヴァルの背中目掛けて追いかけていた。
シズ「邪龍教なら致し方なし。ですが、あれの周りから襲い掛かろうとしているのは、皆主の道を踏み外させようとする者」
黒くてよく見えなかったけど、ヴァルの後ろ以外にも木々の隙間や、木の枝などからヴァルを狙う者達がいた。
あんな数が相手じゃ、流石のヴァルでも、私が引っ張り出す前に殺されちゃう。しかも、ヴァルは後ろから来ている者達以外に気付いている様子がない。
シズ「この剣は我が主に全てを捧げるためのもの。そのお役目を果たせるというのならば、この銘、ここで折れようとも構わぬ!」
シズが目にも止まらぬ速さでヴァルを襲い掛かろうとしていた集団を切り伏せる。
ネイ「シズ......」
シズは、龍王としてはまだまだ未熟。それに、出会った頃と変わらぬ、騎士らしくない剣の振り方は、それがちゃんとシズなんだと私に実感させた。
シズは、ヴァルを守るためにひたすらに剣を振り続けている。背後から不意打ちを喰らおうが、横腹を剣でぶっ刺されようが、持ち前の根性と、龍血による生命力の吸収で、なんとか立ち続けている。
ネイ「ダメだよ!それ以上やったら、シズが......!」
シズを助けに行きたいのに、なぜだか体が重くて動かない。行かなきゃいけないのに、まるで嵐の中の向かい風に立ち向かってるように、足が進まないでいる。
シズ「我が主!」
動けない私に向かって、シズが1本の剣を投げ飛ばしてくる。
これも、ラヴェリアの時と同じように、シズが私に憑依したときに剣が変形してできる、騎士らしい形の光沢のある金色の剣だった。
シズ「我が主の為に、ここで我諸共尽き果てるがよい!記憶開放・戦禍の記憶!」
シズの、己の過去を恥じり、そんな過去から己を強く、騎士らしくあろうとする覚悟が見える。例え、どんな嵐の中だろうが、捧げた剣の為には、己の信念を貫こうとする姿が、とても勇ましく見えた。
シズ「主、幸せになってください」
ネイ「シズーーーーーー!」
......
......
......
シズの姿が辺りにいたあの組織の組員ごと消え、私の足は、空飛ぶ羽根つきの靴を履いたみたいに軽くなって動き出していた。
両手で抱きかかえるようにしてシズとラヴェリアの剣を持ち、遠目からヴァルが異空間に引っ張られるのを確認してからこの時代を去っていった。
ネイ「......シズのお蔭で、ヴァルが死なずに私のところにまで来てくれた。ありがとう......シズ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
次はどこの時間に来たのか。そう思い、ゆっくりと目を開けると、グランアークと白陽の国境沿いにある大きな平原だった。
そうか。私が、デルシア達との過去を取り戻しても、ここで死んじゃうことになってたんだな。
平原の終わりあたりのところに、葡萄染色の足首にまで届きそうなほど長い髪の毛をした少女がいる。疑いようもなく、それは私だ。その私を殺そうと、黒装束が大きなナイフを振り上げて、突然あの私の後ろに現れる。あの私は、それに気づく様子がない。だが、過去の私にナイフは当たらない。当たる前に、長身の男が素早い身のこなしでナイフを取り上げ、そのまま過去の私の目に映らないような場所に移動する。
私も、彼らの背中を追いかけ、同じように過去の私に気づかれないように移動した。
......
......
......
ネイ「......アマツ!」
ようやく追いついた。剣を5本も携えているから、移動するのだけで結構な体力を使う。
こちらに背を向ける長身の男に対し、私は彼の名を叫んだ。
「......主」
少しだけこちらに振り返り、アマツはなぜか悲しそうな顔をする。
アマツ「主、コレガ最後ノ別レニナルカモシレヌ」
ネイ「......」
覚悟はしている。他の龍王と同じで、みんな私に力を預けて、私の時間を正すためにその命を燃やし尽くすことくらい。アマツも、きっとそうなんだ。
アマツを挟んだ向こう側には、過去の私を殺めようとした者も含め、数多くの黒装束がアマツの貼った氷の壁を打ち砕こうと必死にナイフを振り落としている。氷の壁が壊れるのも時間の問題。話が出来るのも今だけ。
アマツ「主、我ハソナタノ道ヲ正シク導ク事ガ出来タダロウカ」
ネイ「......多分、出来てる。アマツは頑張ってくれた。あなたが足りないと思ってても、私は十分すぎるくらいにあなたの導きを受けた」
アマツ「ソウカ......ナラバ、モウ何モ悔イハ無イ。主、受ケ取レ」
アマツも他の龍王同様、私に憑依した時に変形して出来るレイピアを差し出してきた。
もう何も言うことはあるまい。黙ってそれを受け取り、アマツの覚悟を貰う。
氷の壁にヒビが入りだし、そのヒビを元に壁が一気に崩れ落ちる。
アマツ「コレガ、我ガ人生最後ノ道。記憶解放・導きの記憶」
アマツが、私と出会う前に契約してきた数々の勇者の人生が見える。これは、アマツが導きの龍王としてその使命を全うした証。ただ、その記憶の中に、1つだけ別の記憶が見える。
......私と出会い、アマツの心に芽生えた自我だった。
そうか。アマツは、自分の意思で動いたことがなかったのか。でも、それが私や、他の龍王達との出会いによって、自らの道を決められるようになった。でも、ようやく見つけた道に、すぐに終着点が待ってるのはあまりにも可哀想だ。でも、これで良かったんだよね。アマツ。
アマツ「主......幸セナル道ヘ突キ進メ」
アマツも、他の龍王同様、私の道を祝福してくれた。
......
......
......
炎の中には集落があった。皆、突然起きた出来事なのか、慌てふためき、それでも火を止めようと水系の魔法を使用している。でも、炎の勢いが止まることはない。
危険だとは分かっていたけど、助けを求める人々の姿を見て、じっとしていられるほど私は冷たくなかった。
ネイ「......この炎......」
肌で感じられる距離に来て、この炎の正体に気づいた。これは、ただの炎じゃない。マナによって生み出された、立派な魔法だ。それも、そんじょそこらの魔導士が作り出したものではない。
「......けて......た......け......」
私の存在に気づいた黒焦げに近い女が、必死に手を伸ばして助けを乞いている。でも、もうこれは助からない。もし、私の力が普段通りにあれば、こんな状態からでも助けられたかもしれない。でも、今の私には無理だ。
ネイ「ごめんなさい。今の私じゃ、あなた達を救うことは無理です......」
そう言葉を発した時、女に意識はもうなかった。
ネイ「......そうだ。ジークを探さないと」
ここに来た本来の目的は、変えられた歴史を正すため、そして、ジークが向かった先を追いかけてであったはずだ。
炎の中を走り続け、私は僅かながらに感じる龍の気配を追いかける。
「お父ちゃん!お母ちゃん!誰か!誰かぁぁぁ!」
途中、子供の泣き声がした。
足を止め、声の主を探して辺りを見渡す。声の主は、すぐそこにあった。
「っ......っ......」
艶のある黒髪に、泣きながらも睨みつけるような目。どことなく、ヴェルドに似ている気がする。
ネイ「......」
私は、何を聞くでもなく、子供の手を引いて駆け出した。
「だ、誰なんだよ、あんた」
泣いたせいで、すっかり掠れてしまった声で子供はそう尋ねてくる。
ネイ「......あなた、名前は?」
「......ヴェルド。ヴェルド・グレイディスだ」
ただの気のせいじゃなかったらしい。
この子は、本当に過去のヴェルドみたいだ。そして、新たに得られた情報から今の状況を考えてみると、ここはヴェルドの故郷で、龍人に攻め込まれて集落が壊滅した日で合っているだろう。
まさか、自分の過去を戻そうとして、こんな日に来るなんて......それにしても、幼きヴェルドは今ほどの風格を持っていない。どこからどう見ても、ただのひ弱な子供だ。
ヴェルド「なあ、あんた何者なんだ......亜人のくせに、人間の俺を助けるのか」
ネイ「......昔の偉い人達の名言にこんな言葉があってね。人を助けるのに理由はいるのかって」
ヴェルド「......」
ネイ「まあ、私としては人を助けるのに理由を持っててもいいと思うけどね。大切な人だから、大切な仲間だから、知ってる人だから。もちろん、殺したい相手だって、聞きたいことがあるから生かすこともある。理由なんて無いって言っても、やっぱりどこかしらに理由はあるのよ」
まあ、私としては、ヴェルドはこの先で出会う大切な仲間だから、生かそうとしてるだけなんだけどね。色々と嫌な事がたくさんあるけど、それでも大切な仲間だからってことに変わりはない。
ヴェルド「......ありがとう。姉ちゃん」
ありがとうか......。まさか、幼いとは言えヴェルドに言われることになろうとは。
その後、私は集落の中で生き残っている人達を見つけられるだけ見つけようと、幼いヴェルドを抱えて走り回り、2人の少年少女を発見した。
名前は、それぞれ少年の方がレイガ。少女の方がノア。どちらも、大会の時に一度名前を聞いた人物だ。まさか、全員が同じ集落の出身だったとは......でも、未来の3人、いや、レイガとヴェルドの間には何かしらの関係があるようには見えなかった。多分、幼いが故に、ここから先の未来でこれ以上の関わりを持つことがなかったためと思われる。
一際火傷の酷かったノアを抱え、龍王の気配が強くなる場所へと向かう。色々と遠回りしたけど、ここには私の歴史を変えてしまう何かがあるはずなんだ。
激しい金属音と、たくさんの生き物の気配を感じ取り、私は思わず足を止めた。
ネイ「ここで待ってて」
子供達を木々の影に隠し、私は恐る恐る戦いの音がする方へと足を踏み込む。
ネイ「......!ラヴェリア!?」
何かと戦っていたのは、ジークではなく龍人体のラヴェリアだった。
ラヴェリア「......ネイ様......」
ジークだと思っていたのに、なんで消えたはずのラヴェリアが......
ラヴェリア「っ......!」
ラヴェリアに、黒装束の何者かが襲いかかる。それも、何人もの数が。
ラヴェリア「ネイ様......っ、こちらに近づいてはなりません!」
ネイ「でも......!ラヴェリア!」
ラヴェリア「この時間は、ネイ様とは直接関係はないのかもしれません。しかし、この時代において、本来生きているはずの3人の命が失われれば、ネイ様と繋がるはずだった人物達との繋がりが絶たれてしまいます。それは、ネイ様を形成していた一部を無くすこと。ほんの小さな欠片でも、それがなければネイ様にはなり得ない......っ」
黒装束達を追い払い、ラヴェリアは私に焦点を合わせてそう叫ぶ。
ラヴェリア「ネイ様。どうか、生きて、強く、生きてください!」
ラヴェリアが、こちらに向けて2本の黒い剣を投げ渡してくる。
これは、ラヴェリアが私に憑依した時に、私の剣が変形してできるものだ。
ラヴェリア「記憶解放・幻想の記憶!」
ラヴェリアの、信じていた者達に裏切られ、自身のことを蔑ろにされた記憶が、黒装束達を襲いかかる。その攻撃に当たっていない私でも、ラヴェリアの悲しみ、そして、感謝の気持ちを汲み取ることが出来た。
ラヴェリア「ネイ様のために、あの3人をよろしく頼みますよ。......ネイ様、どうか、お幸せに......」
......
......
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炎が全てを燃やし尽くしている中を潜り抜け、麓の小さな町にまでやって来た。
あの黒装束達は、恐らく謎の組織の一員で、そして、龍人である。もしかしたら、奴らがいなければあの集落が襲われることはなかったのかもしれない。それなら、もう少し早い時間に降り立って、あの集落が壊滅する未来を阻止したかった。
そうすれば、ヴェルド達は別の未来を歩むかもしれない。でも、必ず3人はそれぞれのギルドに所属する。特に、ヴェルドなんかは龍人に対しての恨みもなく、私とも普通に接することが出来たかもしれない。まあ、そんなことを考えても、過ぎ去ってしまった時間を変えるなんてことは出来ない。
3人を、町の親切な資産家の人に諸々の事情を話してから預け、私は再び見えた龍王の気配がする時間へと飛び立つ。ラヴェリアの2本の黒い剣を携えて。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
次に降り立った場所は、私が普段から暮らしているシグルアの街だった。それも、黒装束の団体によって、街が攻め込まれている状況。
邪龍教だ。彼らが、邪龍の力を求めて、世界の各地で大量虐殺を行ったいた時期だ。まだ日が出ているところを見ると、ヴァルからの私への説得は終わっていない。それどころか、まだあの森にすら足を踏み入れていないだろう。それでも、日が傾きだしている。時間は、刻一刻と近づいているというわけだ。
次なる龍王の気配がするのは、例の森だ。私は、羽を大きく羽ばたかせ、あの森へ向けて飛んでいく。
ネイ「次は、ヴァルと私が再開するのを防ごうという算段ですかね」
私が表に出なければ、あの街は壊滅的な被害を受けて戦いが終わる。つくづくバカだな、と過去の自分に言ってみるが、あの時の私をせせら笑ったところで無意味だ。私にだって色々とあった。だから、こんなところで私が前へ進むのを妨害させてはいけない。
ネイ「......シズ!?」
森の中に足を踏み入れると、すぐそこにこれまた消えたはずのシズが戦っていた。
シズ「......!?我が主!?」
ネイ「なんであなたがこんなところに......」
シズ「......主、向こうに見える、主の契約者が目に見えるでしょうか」
遠くの方で、ヴァルが森の複雑な道を突き進んでいた。だが、背後からはたくさんの人影がヴァルの背中目掛けて追いかけていた。
シズ「邪龍教なら致し方なし。ですが、あれの周りから襲い掛かろうとしているのは、皆主の道を踏み外させようとする者」
黒くてよく見えなかったけど、ヴァルの後ろ以外にも木々の隙間や、木の枝などからヴァルを狙う者達がいた。
あんな数が相手じゃ、流石のヴァルでも、私が引っ張り出す前に殺されちゃう。しかも、ヴァルは後ろから来ている者達以外に気付いている様子がない。
シズ「この剣は我が主に全てを捧げるためのもの。そのお役目を果たせるというのならば、この銘、ここで折れようとも構わぬ!」
シズが目にも止まらぬ速さでヴァルを襲い掛かろうとしていた集団を切り伏せる。
ネイ「シズ......」
シズは、龍王としてはまだまだ未熟。それに、出会った頃と変わらぬ、騎士らしくない剣の振り方は、それがちゃんとシズなんだと私に実感させた。
シズは、ヴァルを守るためにひたすらに剣を振り続けている。背後から不意打ちを喰らおうが、横腹を剣でぶっ刺されようが、持ち前の根性と、龍血による生命力の吸収で、なんとか立ち続けている。
ネイ「ダメだよ!それ以上やったら、シズが......!」
シズを助けに行きたいのに、なぜだか体が重くて動かない。行かなきゃいけないのに、まるで嵐の中の向かい風に立ち向かってるように、足が進まないでいる。
シズ「我が主!」
動けない私に向かって、シズが1本の剣を投げ飛ばしてくる。
これも、ラヴェリアの時と同じように、シズが私に憑依したときに剣が変形してできる、騎士らしい形の光沢のある金色の剣だった。
シズ「我が主の為に、ここで我諸共尽き果てるがよい!記憶開放・戦禍の記憶!」
シズの、己の過去を恥じり、そんな過去から己を強く、騎士らしくあろうとする覚悟が見える。例え、どんな嵐の中だろうが、捧げた剣の為には、己の信念を貫こうとする姿が、とても勇ましく見えた。
シズ「主、幸せになってください」
ネイ「シズーーーーーー!」
......
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シズの姿が辺りにいたあの組織の組員ごと消え、私の足は、空飛ぶ羽根つきの靴を履いたみたいに軽くなって動き出していた。
両手で抱きかかえるようにしてシズとラヴェリアの剣を持ち、遠目からヴァルが異空間に引っ張られるのを確認してからこの時代を去っていった。
ネイ「......シズのお蔭で、ヴァルが死なずに私のところにまで来てくれた。ありがとう......シズ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
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......
......
......
ネイ「......アマツ!」
ようやく追いついた。剣を5本も携えているから、移動するのだけで結構な体力を使う。
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「......主」
少しだけこちらに振り返り、アマツはなぜか悲しそうな顔をする。
アマツ「主、コレガ最後ノ別レニナルカモシレヌ」
ネイ「......」
覚悟はしている。他の龍王と同じで、みんな私に力を預けて、私の時間を正すためにその命を燃やし尽くすことくらい。アマツも、きっとそうなんだ。
アマツを挟んだ向こう側には、過去の私を殺めようとした者も含め、数多くの黒装束がアマツの貼った氷の壁を打ち砕こうと必死にナイフを振り落としている。氷の壁が壊れるのも時間の問題。話が出来るのも今だけ。
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ネイ「......多分、出来てる。アマツは頑張ってくれた。あなたが足りないと思ってても、私は十分すぎるくらいにあなたの導きを受けた」
アマツ「ソウカ......ナラバ、モウ何モ悔イハ無イ。主、受ケ取レ」
アマツも他の龍王同様、私に憑依した時に変形して出来るレイピアを差し出してきた。
もう何も言うことはあるまい。黙ってそれを受け取り、アマツの覚悟を貰う。
氷の壁にヒビが入りだし、そのヒビを元に壁が一気に崩れ落ちる。
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......私と出会い、アマツの心に芽生えた自我だった。
そうか。アマツは、自分の意思で動いたことがなかったのか。でも、それが私や、他の龍王達との出会いによって、自らの道を決められるようになった。でも、ようやく見つけた道に、すぐに終着点が待ってるのはあまりにも可哀想だ。でも、これで良かったんだよね。アマツ。
アマツ「主......幸セナル道ヘ突キ進メ」
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そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
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