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第10章-Ⅰ 【Campo proelii ex mortuis】
第10章20 【Frater】
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ラヴェリア、シズ、アマツの剣を両手で抱え、私は最後になるであろう時間旅行をする。
最後になると思ったのは、他でもなく、残る龍王がジークただ1人だからだ。
そうして、辿り着いたのは大雨が降り注ぎ、猛烈なる風が吹き荒れる嵐の日だった。
降り立った先で、私は見たくもない過去を見てしまった。
龍人である私が、既に息絶えた母の手を握り、ひたすらに涙を流している光景。そして、その私の中でこれまた泣いている赤ん坊の私。
......私が、唯一失敗した時間だった。負け無しの私が、唯一敗北した瞬間。痛いほどに脳に焼き付いている。
《バンッ!》
頭痛で頭を押えていると、途端に激しい銃声が鳴り響いた。
何事かと思い、後ろを振り返ると、そこには龍人体のジークが剣を構えて飛んでいた。
ジーク「ようやくここまで来たかと思えば、余所見で死にかけるとは情けないぜ。お嬢」
ネイ「......ジーク」
銃声の正体について詮索するよりも先に、私はジークの背中に抱きついていた。
ジーク「その4本の剣、もうあいつらから祝いの言葉は貰ったんだな」
ネイ「......」
黙って頷く。
ジーク「そうかい。家族との別れは辛かったか」
ネイ「......うん」
ジーク「残念なことに、俺様もお嬢とは別れなきゃならねぇ事になってる。その覚悟は、もう決まってるか?」
ネイ「......」
アマツの時は、まだジークがいると心のどこかで思っていたから簡単に別れることが出来た。でも、いざ最後の1人だということに気づくと、途端に別れが怖くなる。
ジーク「なぁに、お嬢にはもう家族と呼べる奴が出来たじゃねぇか。それに、例えそうじゃなくとも、あのギルドは家族みたいなもんだろうが」
ネイ「......うん。分かってる」
ジーク「......んじゃ、ちゃっちゃと俺様の最後の仕事をしましょうかねー!」
ジークが私の手を振りほどき、嵐によって安定しなくなった地面へと降り立つ。その地には、黒装束達とあの忌々しい女が数々の武器を手に持ち立っていた。私も、跡を追いかけて地面へとゆっくり落下する。
ジーク「お嬢にとって、この時間は人生の最大のターニングポイントだ。この時間を壊されちまったら、お嬢は間違いなくこの世界から消える。他にも、色んな時間でお嬢があいつらと出会わない未来が作られる可能性があった。それを防ぐために、俺様達龍王は、それぞれ過去に飛び、お嬢の時間を守ろうとしたんだ」
地面に降り立った私に、ジークはそう言ってきた。
ジーク「お嬢。俺は、お嬢と一緒にいられて、幸せだったぜ。お互いに折り合いがつかねぇ事が多々あったが、それでもお嬢の契約龍であって幸せだったぜ」
ネイ「......ねぇ、ジーク。いい加減、自分の正体を話してみたらどうですか」
ジーク「......俺の正体?んなもん、大昔の龍王でーー」
ネイ「違うでしょ。ジークがなんでこんなに私のことを思ってくれてるのか。別に、家族同然の存在だからと言ってしまえばそれまでかもしれません。でも、ジークにはそれだけの理由で動いてるようには見えません」
ジーク「いや、俺様はそれだけの理由でーー」
ネイ「ヒカリちゃんと過去の記憶、ネイとして存在した時間、ヒカリちゃんの記憶が蘇り、私が眠っていた時間、それら全てを共有した時、自然とジークのことについてある推測が立ったんです」
ジーク「......」
ネイ「ジーク。いや、お兄ちゃんと呼んだ方がいいですかね」
ジーク「......」
ネイ「1年くらい前、ヒカリちゃんを庇って死んだ私達の兄、シヴァ・エーテル。彼は、ヒカリちゃんが作り出したドラゴンのメモリを使っていた。例え、人工的に生み出したメモリであろうと、元になる記憶が存在するはず。それが、たまたまジークフリードの記憶だった。そして、そのジークのメモリを何回も使用していたシヴァは、知らず知らずのうちにメモリに自身の人格をコピーしていき、そのメモリの力を残したまま記憶を上書きした。そして、ヒカリちゃんが死に、エンマによって私が生まれた。その時からジークが私に取り憑いていたのは、ヒカリちゃんが死ぬ瞬間まで握っていたドラゴンのメモリが原因なんじゃないですか?」
ジーク「......大体当たってるな。流石は、天才軍師だ」
ネイ「でも、私に取り憑いたばかりの頃は、ジークとシヴァの記憶がごちゃ混ぜになって、記憶が曖昧になっていた。だから、自分でも自分がなぜここにいるのか、なぜ、他の龍王達と同じようにそれっぽい場所にいないのかを気にしていた」
ジーク「そうだ。俺は、自分について全然分からなかった。ただ、漠然と名前はジークフリードで、かつて龍王だった事くらいを覚えていた。だが、お嬢と長い間旅をし続けるうちに、記憶が段々と正常になりだして、確か、ヒカリが蘇ったあたりで全部を思い出した」
多分、そのタイミングは私がワールドメモリーズのメモリを起動したタイミングだと思う。あの時、一時的に龍王達もとんでもない速さで世界の記憶を見続けることが出来た。脳にはとんでもない負荷がかかるけど。その時に、ジークはシヴァの記憶を見て、自身のことを思い出したのだろう。
ジーク「俺は、親らしく生きようと思ってたが、結局はただの兄貴だったんだよな。でも、それでも良かったと思ってる」
ネイ「......兄ちゃん。私は、兄ちゃんのことを全然知らない。本来なら、ヒカリちゃんと話をするのが正しいと思う。でも、ここにヒカリちゃんはいない」
ジーク「ああそうだな。本当なら、お嬢よりもヒカリと話をした方がいいかもしれない。でも、もう俺には時間がない。ルギリアテン、ゼロニレアと同じように、俺は本来の体を持ってるわけでもないし、本来の記憶で動いてるわけじゃない。メモリに蓄積された、データ上での俺だからな。だから、その記憶が消えるのも時間の問題だった。ここまで来れたのは、ただ運が良かっただけかもな」
ネイ「ジーク。私にとってのあなたは、例え、正体が兄ちゃんだったとしても、変わらずジークフリードっていう最強のドラゴンだよ」
ジーク「ハッ、それは嬉しいことを言ってくれるぜ。あいつなら、絶対にそんなことは言わねぇのになぁ。こっちの妹は可愛げがあっていい」
ネイ「ヒカリちゃんも、素直になれないだけで可愛いですよ」
ジーク「......そりゃそうだな。妹が可愛いのは、世界共通の認識だ」
立派なシスコンじゃない。なんで、ヒカリちゃんはシヴァに対して素直にならなかったのだろうか。変に格好つけて、大好きである気持ちを隠して、それで、常に一緒にいた。
私なら、こんな格好いいお兄ちゃんをほっとかないのに。
ジークは、ゆっくりとこちらに向かってくる黒装束の集団に向けて、目を鋭く光らせている。私達が話している間、奴らは気を使ってくれてるかのようにゆっくりだった。でも、奴らの姿がハッキリと見えるようになった距離で、奴らは思い出したかのように武器を構えて走り出す。
ジーク「どうやら、ゆっくり話をしてられるのもここまでみたいだ。お嬢、さっさと現代に戻りな。この時間は、俺が、兄貴である俺が守ってやる」
ジークは大きな剣を私に突き出しそう言ってくる。
ここでその剣を受け取れば、私とジークの時間もここまで。他の龍王と同じだ。でも、それでいいのだろうか。こんなところで終わりなんて、それでいいのだろうか。
ネイ「......違う。まだ、終わらせるわけにはいかない」
私はジークが突き出してきた剣を払い除け、ジークの隣に立つ。
ジーク「......お嬢」
ネイ「今の私は戦うほどの力を持っていない。でも、ここにはみんなが託してくれた大いなる力があるんです。私に、ジークの最後の勇姿を見させてください。そして、あわよくばそのまま生き残ってください」
ジーク「......お嬢、言っとくが俺は」
ネイ「分かってます。奴らを止めたところで、ジークはまもなく消える。それは、同じ存在のシヴァも同様。だから、生き残ることなんてできない。それでも、せめて、最後の瞬間まで隣にいてほしい」
ジーク「......分かったよ。最後の瞬間まで、一緒に戦おうや」
ジークが剣を鞘に収め、こちらに拳を突き出してくる。
ネイ「......行こう。お兄ちゃん」
ジークと拳を突き合わせ、ジークの人格が私の中に流れ込んでくる。
こうやって、戦えない私を支えてくれたのは、いつも大柄で横暴な龍王だったが、実は血が繋がってないながらも兄だったことを感慨深く思う。
私の意識は小さな世界の書庫の中にある。ここから、ジークが見ている景色を私の目にも映す。私の体はジークの支配下にある。ジークが右腕を振り回し、とても女の子とは思えないような豪快な戦い方をする。
ジーク「これが最後の祭りだァ!テメェら死にてぇ奴からかかってこいやゴルァ!」
一応、私の体に憑依しているわけだから声は私のそれそのもの。自分で言うのもなんだけど、私の声は結構クールな方だと思っていた。しかし、こうしてジークの叫び声を聞くと、ただ声変わりの来ていない少年のような声だったことに改めて気づく。まあ、それは喋り方のせいでもあるのだけど。
「な、なんなんだい!この娘!本当にここに飛んできたあの小娘だっていうのかい!?」
忌々しい女の姿が目に映った。
ジーク「どうする、お嬢?」
ネイ(とりあえず、バラバラにでもしといてください。どうせ、この先の未来で彼女は私の手によって死ぬのですから)
ジーク「それもそうだな」
女にはたっぷりと死の恐怖を味わってもらいたい。だから、ここでは完璧に殺すことをしない。どうせ、先の未来で死ぬことは確定しているのだから。
「っ......あぁ、こんな事をしても無意味だというのに......」
女の体を真っ二つに斬り、更には粉々になるまで大剣で殴る。
ジーク「確かに意味はねぇかもしれねぇ。でも、これでお前は死への恐怖を味わった。今は完璧に殺してやらねえが、いつか先の未来でお前は死ぬ。もう一度、この体の持ち主の手によってな」
口まで打ち砕いたから、もう声は聞こえない。でも、彼女はきっとこう言うだろう。
「そんなわけないじゃない」と......。自身の腕を信じきり、自身の能力を過信しすぎている。それが、敗北に繋がるとも知らずに。
ジーク「オラオラオラァっ!」
ジークの剣は止まる勢いを知らない。女を倒してもなお襲いかかってくる黒装束に対して、ブンブンと豪快に剣を振り回す。近距離の攻撃は当たらないが、投げつけられるナイフは当たる。でも、そのナイフですらジークが振り回す剣によって弾き返される。
ジーク「テメェらまとめてなぶり殺しにしてやる!記憶解放・輝きの記憶!」
シヴァが、ジークとして生きた日々の数々がこの書庫に映し出される。シヴァがヒカリと共にこの世界に来た日。ジークと記憶を失った私の出会い。ジークと衝突を繰り返し、それでも生き抜いた日々。
嫌な記憶なんて1つもない。どれもが、宝物のようにキラキラとしていた日々。
もう、二度とジークといられないのか......そう思うと、胸の奥から込み上げてくるものがある。
ジーク「そうやって悲しむんじゃねえよ。出会いがあれば別れもある。どっかの偉い人がそう言ってただろうが」
ネイ(......)
ジーク「とりあえず、体返すぜ」
ジークが体から消えていき、私の意思で私の体が動かせるようになる。
ジークは龍王の姿で隣に立ち、勝利を祝うかの如く雄叫びを上げている。
ジーク「これで終わりだ。お嬢」
ネイ「......」
ジーク「......やっぱ、龍王の姿は合わねぇな」
すぐに私より20センチほど高い龍人の姿に戻り、ジークは剣を突き出してくる。
ジーク「受け取れ、お嬢」
ネイ「......」
もう断る理由も言い訳もない。言われた通りに私はジークの剣を受け取る。
ジーク「大事にしろよ。いくら今の俺が本物のジークフリードとはちょっと違うって言っても、それは俺がジークフリードとして生き抜いた証なんだからな」
ネイ「......うん、大事にする......」
ジーク「ハッ......もう時間みてぇだ」
ジークの体が薄くなっている。ギリテアと一緒だけど、消えるのはジークの魂だけじゃない。
体も、龍石も何もかもが消え、ジーク、お兄ちゃんがいた証がなくなる。でも、唯一剣だけが私のところに残る。
ジーク「あんまり、女々しいことを言うつもりはなかったんだが......」
ネイ「何......?」
ジーク「......その、幸せになれよ。ネイ」
私は何かを言おうとした。でも、その前にジークは消え去った。
ネイ「......お兄ちゃんのバカ」
聞こえたかどうかは知らないけど、多分どこかの空で鼻で笑ってる。
......行こう。みんなの思いは受け継いだから。
最後になると思ったのは、他でもなく、残る龍王がジークただ1人だからだ。
そうして、辿り着いたのは大雨が降り注ぎ、猛烈なる風が吹き荒れる嵐の日だった。
降り立った先で、私は見たくもない過去を見てしまった。
龍人である私が、既に息絶えた母の手を握り、ひたすらに涙を流している光景。そして、その私の中でこれまた泣いている赤ん坊の私。
......私が、唯一失敗した時間だった。負け無しの私が、唯一敗北した瞬間。痛いほどに脳に焼き付いている。
《バンッ!》
頭痛で頭を押えていると、途端に激しい銃声が鳴り響いた。
何事かと思い、後ろを振り返ると、そこには龍人体のジークが剣を構えて飛んでいた。
ジーク「ようやくここまで来たかと思えば、余所見で死にかけるとは情けないぜ。お嬢」
ネイ「......ジーク」
銃声の正体について詮索するよりも先に、私はジークの背中に抱きついていた。
ジーク「その4本の剣、もうあいつらから祝いの言葉は貰ったんだな」
ネイ「......」
黙って頷く。
ジーク「そうかい。家族との別れは辛かったか」
ネイ「......うん」
ジーク「残念なことに、俺様もお嬢とは別れなきゃならねぇ事になってる。その覚悟は、もう決まってるか?」
ネイ「......」
アマツの時は、まだジークがいると心のどこかで思っていたから簡単に別れることが出来た。でも、いざ最後の1人だということに気づくと、途端に別れが怖くなる。
ジーク「なぁに、お嬢にはもう家族と呼べる奴が出来たじゃねぇか。それに、例えそうじゃなくとも、あのギルドは家族みたいなもんだろうが」
ネイ「......うん。分かってる」
ジーク「......んじゃ、ちゃっちゃと俺様の最後の仕事をしましょうかねー!」
ジークが私の手を振りほどき、嵐によって安定しなくなった地面へと降り立つ。その地には、黒装束達とあの忌々しい女が数々の武器を手に持ち立っていた。私も、跡を追いかけて地面へとゆっくり落下する。
ジーク「お嬢にとって、この時間は人生の最大のターニングポイントだ。この時間を壊されちまったら、お嬢は間違いなくこの世界から消える。他にも、色んな時間でお嬢があいつらと出会わない未来が作られる可能性があった。それを防ぐために、俺様達龍王は、それぞれ過去に飛び、お嬢の時間を守ろうとしたんだ」
地面に降り立った私に、ジークはそう言ってきた。
ジーク「お嬢。俺は、お嬢と一緒にいられて、幸せだったぜ。お互いに折り合いがつかねぇ事が多々あったが、それでもお嬢の契約龍であって幸せだったぜ」
ネイ「......ねぇ、ジーク。いい加減、自分の正体を話してみたらどうですか」
ジーク「......俺の正体?んなもん、大昔の龍王でーー」
ネイ「違うでしょ。ジークがなんでこんなに私のことを思ってくれてるのか。別に、家族同然の存在だからと言ってしまえばそれまでかもしれません。でも、ジークにはそれだけの理由で動いてるようには見えません」
ジーク「いや、俺様はそれだけの理由でーー」
ネイ「ヒカリちゃんと過去の記憶、ネイとして存在した時間、ヒカリちゃんの記憶が蘇り、私が眠っていた時間、それら全てを共有した時、自然とジークのことについてある推測が立ったんです」
ジーク「......」
ネイ「ジーク。いや、お兄ちゃんと呼んだ方がいいですかね」
ジーク「......」
ネイ「1年くらい前、ヒカリちゃんを庇って死んだ私達の兄、シヴァ・エーテル。彼は、ヒカリちゃんが作り出したドラゴンのメモリを使っていた。例え、人工的に生み出したメモリであろうと、元になる記憶が存在するはず。それが、たまたまジークフリードの記憶だった。そして、そのジークのメモリを何回も使用していたシヴァは、知らず知らずのうちにメモリに自身の人格をコピーしていき、そのメモリの力を残したまま記憶を上書きした。そして、ヒカリちゃんが死に、エンマによって私が生まれた。その時からジークが私に取り憑いていたのは、ヒカリちゃんが死ぬ瞬間まで握っていたドラゴンのメモリが原因なんじゃないですか?」
ジーク「......大体当たってるな。流石は、天才軍師だ」
ネイ「でも、私に取り憑いたばかりの頃は、ジークとシヴァの記憶がごちゃ混ぜになって、記憶が曖昧になっていた。だから、自分でも自分がなぜここにいるのか、なぜ、他の龍王達と同じようにそれっぽい場所にいないのかを気にしていた」
ジーク「そうだ。俺は、自分について全然分からなかった。ただ、漠然と名前はジークフリードで、かつて龍王だった事くらいを覚えていた。だが、お嬢と長い間旅をし続けるうちに、記憶が段々と正常になりだして、確か、ヒカリが蘇ったあたりで全部を思い出した」
多分、そのタイミングは私がワールドメモリーズのメモリを起動したタイミングだと思う。あの時、一時的に龍王達もとんでもない速さで世界の記憶を見続けることが出来た。脳にはとんでもない負荷がかかるけど。その時に、ジークはシヴァの記憶を見て、自身のことを思い出したのだろう。
ジーク「俺は、親らしく生きようと思ってたが、結局はただの兄貴だったんだよな。でも、それでも良かったと思ってる」
ネイ「......兄ちゃん。私は、兄ちゃんのことを全然知らない。本来なら、ヒカリちゃんと話をするのが正しいと思う。でも、ここにヒカリちゃんはいない」
ジーク「ああそうだな。本当なら、お嬢よりもヒカリと話をした方がいいかもしれない。でも、もう俺には時間がない。ルギリアテン、ゼロニレアと同じように、俺は本来の体を持ってるわけでもないし、本来の記憶で動いてるわけじゃない。メモリに蓄積された、データ上での俺だからな。だから、その記憶が消えるのも時間の問題だった。ここまで来れたのは、ただ運が良かっただけかもな」
ネイ「ジーク。私にとってのあなたは、例え、正体が兄ちゃんだったとしても、変わらずジークフリードっていう最強のドラゴンだよ」
ジーク「ハッ、それは嬉しいことを言ってくれるぜ。あいつなら、絶対にそんなことは言わねぇのになぁ。こっちの妹は可愛げがあっていい」
ネイ「ヒカリちゃんも、素直になれないだけで可愛いですよ」
ジーク「......そりゃそうだな。妹が可愛いのは、世界共通の認識だ」
立派なシスコンじゃない。なんで、ヒカリちゃんはシヴァに対して素直にならなかったのだろうか。変に格好つけて、大好きである気持ちを隠して、それで、常に一緒にいた。
私なら、こんな格好いいお兄ちゃんをほっとかないのに。
ジークは、ゆっくりとこちらに向かってくる黒装束の集団に向けて、目を鋭く光らせている。私達が話している間、奴らは気を使ってくれてるかのようにゆっくりだった。でも、奴らの姿がハッキリと見えるようになった距離で、奴らは思い出したかのように武器を構えて走り出す。
ジーク「どうやら、ゆっくり話をしてられるのもここまでみたいだ。お嬢、さっさと現代に戻りな。この時間は、俺が、兄貴である俺が守ってやる」
ジークは大きな剣を私に突き出しそう言ってくる。
ここでその剣を受け取れば、私とジークの時間もここまで。他の龍王と同じだ。でも、それでいいのだろうか。こんなところで終わりなんて、それでいいのだろうか。
ネイ「......違う。まだ、終わらせるわけにはいかない」
私はジークが突き出してきた剣を払い除け、ジークの隣に立つ。
ジーク「......お嬢」
ネイ「今の私は戦うほどの力を持っていない。でも、ここにはみんなが託してくれた大いなる力があるんです。私に、ジークの最後の勇姿を見させてください。そして、あわよくばそのまま生き残ってください」
ジーク「......お嬢、言っとくが俺は」
ネイ「分かってます。奴らを止めたところで、ジークはまもなく消える。それは、同じ存在のシヴァも同様。だから、生き残ることなんてできない。それでも、せめて、最後の瞬間まで隣にいてほしい」
ジーク「......分かったよ。最後の瞬間まで、一緒に戦おうや」
ジークが剣を鞘に収め、こちらに拳を突き出してくる。
ネイ「......行こう。お兄ちゃん」
ジークと拳を突き合わせ、ジークの人格が私の中に流れ込んでくる。
こうやって、戦えない私を支えてくれたのは、いつも大柄で横暴な龍王だったが、実は血が繋がってないながらも兄だったことを感慨深く思う。
私の意識は小さな世界の書庫の中にある。ここから、ジークが見ている景色を私の目にも映す。私の体はジークの支配下にある。ジークが右腕を振り回し、とても女の子とは思えないような豪快な戦い方をする。
ジーク「これが最後の祭りだァ!テメェら死にてぇ奴からかかってこいやゴルァ!」
一応、私の体に憑依しているわけだから声は私のそれそのもの。自分で言うのもなんだけど、私の声は結構クールな方だと思っていた。しかし、こうしてジークの叫び声を聞くと、ただ声変わりの来ていない少年のような声だったことに改めて気づく。まあ、それは喋り方のせいでもあるのだけど。
「な、なんなんだい!この娘!本当にここに飛んできたあの小娘だっていうのかい!?」
忌々しい女の姿が目に映った。
ジーク「どうする、お嬢?」
ネイ(とりあえず、バラバラにでもしといてください。どうせ、この先の未来で彼女は私の手によって死ぬのですから)
ジーク「それもそうだな」
女にはたっぷりと死の恐怖を味わってもらいたい。だから、ここでは完璧に殺すことをしない。どうせ、先の未来で死ぬことは確定しているのだから。
「っ......あぁ、こんな事をしても無意味だというのに......」
女の体を真っ二つに斬り、更には粉々になるまで大剣で殴る。
ジーク「確かに意味はねぇかもしれねぇ。でも、これでお前は死への恐怖を味わった。今は完璧に殺してやらねえが、いつか先の未来でお前は死ぬ。もう一度、この体の持ち主の手によってな」
口まで打ち砕いたから、もう声は聞こえない。でも、彼女はきっとこう言うだろう。
「そんなわけないじゃない」と......。自身の腕を信じきり、自身の能力を過信しすぎている。それが、敗北に繋がるとも知らずに。
ジーク「オラオラオラァっ!」
ジークの剣は止まる勢いを知らない。女を倒してもなお襲いかかってくる黒装束に対して、ブンブンと豪快に剣を振り回す。近距離の攻撃は当たらないが、投げつけられるナイフは当たる。でも、そのナイフですらジークが振り回す剣によって弾き返される。
ジーク「テメェらまとめてなぶり殺しにしてやる!記憶解放・輝きの記憶!」
シヴァが、ジークとして生きた日々の数々がこの書庫に映し出される。シヴァがヒカリと共にこの世界に来た日。ジークと記憶を失った私の出会い。ジークと衝突を繰り返し、それでも生き抜いた日々。
嫌な記憶なんて1つもない。どれもが、宝物のようにキラキラとしていた日々。
もう、二度とジークといられないのか......そう思うと、胸の奥から込み上げてくるものがある。
ジーク「そうやって悲しむんじゃねえよ。出会いがあれば別れもある。どっかの偉い人がそう言ってただろうが」
ネイ(......)
ジーク「とりあえず、体返すぜ」
ジークが体から消えていき、私の意思で私の体が動かせるようになる。
ジークは龍王の姿で隣に立ち、勝利を祝うかの如く雄叫びを上げている。
ジーク「これで終わりだ。お嬢」
ネイ「......」
ジーク「......やっぱ、龍王の姿は合わねぇな」
すぐに私より20センチほど高い龍人の姿に戻り、ジークは剣を突き出してくる。
ジーク「受け取れ、お嬢」
ネイ「......」
もう断る理由も言い訳もない。言われた通りに私はジークの剣を受け取る。
ジーク「大事にしろよ。いくら今の俺が本物のジークフリードとはちょっと違うって言っても、それは俺がジークフリードとして生き抜いた証なんだからな」
ネイ「......うん、大事にする......」
ジーク「ハッ......もう時間みてぇだ」
ジークの体が薄くなっている。ギリテアと一緒だけど、消えるのはジークの魂だけじゃない。
体も、龍石も何もかもが消え、ジーク、お兄ちゃんがいた証がなくなる。でも、唯一剣だけが私のところに残る。
ジーク「あんまり、女々しいことを言うつもりはなかったんだが......」
ネイ「何......?」
ジーク「......その、幸せになれよ。ネイ」
私は何かを言おうとした。でも、その前にジークは消え去った。
ネイ「......お兄ちゃんのバカ」
聞こえたかどうかは知らないけど、多分どこかの空で鼻で笑ってる。
......行こう。みんなの思いは受け継いだから。
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