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第10章-Ⅰ 【Campo proelii ex mortuis】
第10章22 【VI De coloribus lucis】
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紅蓮、蒼海、新緑、黄金、深淵、白の6色が私の周りを包み込む。もう1色あれば、綺麗な虹色になるのにな、と思いながらも、龍王達の力をこの身に流し込む。
ネイ「......みんな、行こう」
無銘の剣を両手で持ち、迫り来る敵を横から斬り裂く。そのまま、勢いで剣を投げ飛ばす。投げ飛ばされた剣は、飛ばされた方向に並んでいた敵を全て貫き、地面に落ちる前に私の手に戻ってくる。
ネイ「シズ!」
黄金に輝く光が、シズが使っていた聖剣へと姿を変える。
ネイ「我が騎士道の前に、常に試練は有り!我の剣の前に跪き、その身を我がものとせよ!」
シズの剣で目の前の敵を斬り伏せる。そうすると、シズの力によって敵は地に膝を付け、私に従うかのような素振りを見せる。
ネイ「全員、奴らを押さえろ!可能な限り、全員倒せ!」
まだ、仲間になった奴らはみんなゾンビのようだけど、それでも戦う相手を少なくすることは、私への負担を減らすことに繋がる。
ネイ「ラヴェリア、力を貸して!」
深淵の如く、深い闇の色をした光が、2つの剣へと変わる。
双剣を手に構え、敵軍の中に飛び込み、辺りから次々とやって来る敵を斬り倒していく。攻撃に当たった奴らは、ただやられるわけではなく、安堵したかのような表情で眠りにつき、消え去っていく。
これは、ラヴェリアが使う、幻想の力。夢を見させる力だ。使い方によっては、安楽死なんてものをさせることが出来る。本来、そういう使い道をするのが正しいのだけど、私はあまり殺しにこの力を使いたくはない。でも、今は仕方ない。そう、仕方ないんだ。
ネイ「アマツ!ラナ!」
蒼海の深き青色、豊かな新緑の緑色、それぞれの光が、レイピアと刀に姿を変える。
ネイ「導羅・導きの風!」
嵐のように激しく、そして、敵陣の中を、自身が信じた道をなぞるような軌道で2本の剣に風をまとわりつかせて飛ばす。
ネイ「ジーク!」
最後に1つ残った紅蓮のように真っ赤な光を、両手で持ってもずっしりと重く感じる大剣へと変化させる。
ネイ「ジーク。力、貰うよ」
大剣を正面にずっしりと構え、ゆっくりと深呼吸をする。私の周りには、さっきの2本の剣によって敵は一切いなくなっている。大きな一撃を打つには、十分すぎるくらいの時間がある。この時間で、敵を全て倒しきる技を打つ!
体と剣に、風ではなく、紅蓮のように真っ赤に燃え盛り、そして、流れ星のようにキラキラとした輝きを放つ光をまとわりつかせる。
ネイ「......輝きの......流星剣!」
力を腕に一点集中させ、円を描くようにして大剣を振り回す。すると、体を包み込んでいた紅蓮の光が放たれ、流れ星のような速さで全てを爆発させていく。
最初の頃はダサいし、大した威力を持っていないと思っていた。でも、こんなにもポテンシャルを秘めた技だったなんて、見当もつかなかった。隠し事が上手な兄だ。ネーミングセンスは皆無に等しいけど。
ネイ「......」
反動で、しばらく動けなかったが、徐々に硬直が解け、ゆっくりと顔を上げる。
平原には、それまでの平らな地形を思い出させないほどの細かなクレーターが広がり、凸凹とした地形に横たわる悪夢の兵がいる。だが、辛うじて残っていた奴らも、すぐに体が消滅し、やがては人1人として残らず全てが無くなる。
ネイ「ふぅっ......」
投げ飛ばしていた剣を全て手元に戻し、私は無銘の剣を鞘に収める。すると、私の周りを漂っている剣達も鞘に収められたかのような動きを見せて消える。
髪色も、元の白髪に戻って、力が完全に抜けたことを悟る。
勝った......みんなの力で、勝つことが出来た......
ネイ「みん......な......」
ありがとう。そう言おうとして、私の意識は失われた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「こうして、この世界でお前と対峙すんのは何回目になんだろうな」
「さあな。そんな事に毛ほどの興味もない。だが、貴様が振るう拳には興味があるな」
ヴァル「変なもんに興味を持ったもんだな、母さん」
拳に炎を灯し、あの時のように全神経を集中させる。
母さんが、なんでこんなのになったのかは分からない。何かしらの事情があるのかもしれない。でも、俺の大切な人を奪うって言うのなら、もう躊躇うことはない。そう、約束したんだ。
母さんは、俺が拳に力を込めたのを見て、黒い霧の中から大きな鎌を取り出す。あれの攻撃を喰らったことは1度もないが、あれによって死んだ奴がいることを俺は知っている。
ヴァル「ヒカリ......絶対に助けてやるからな」
もう死んでしまった人を蘇らせることは無理なことを知っている。でも、時間を元に戻せれば、あいつが死んだっていう事実もなくなってくれるはずだ。それは、ネイが保証してくれてる。だから、俺は第1の壁として母さんを倒す。
拳の炎を、全身を包み込ませるほどに燃え上がらせ、俺は瞬きの時間で母さんの目の前にまで詰め寄る。
ヴァル「オラァっ!」
「甘い」
俺の攻撃に合わせて、母さんも大きな鎌を振り上げて、先端の尖った部分で俺の拳を食い止める。
俺の拳は、どんな金属よりも固く、そして燃え盛っている。こんな鎌ごときで俺の拳は止まらない。
ヴァル「っ......オラァっ!」
力比べでは俺の勝ち。母さんの鎌を弾いた。そして、次に怯んだ母さんの顔に向けて左の拳を突き出す。
ヴァル「極龍王の鉄砕!」
黄金に輝く炎が、母さんの顔を包み込んでぶち飛ばした。
ヴァル「痛って......!」
咆哮に比べて、拳での技にはかなりの痛みが伴う。炎の魔導士だというのに、拳には大きな火傷跡が出来ている。
夢の世界といえど、体は本物。そら、自由には行かねぇよな。それでも、母さんを倒すには、このくらいの痛みは我慢しなければならない。多少の火傷くらいなら、どうせ、ネイあたりが治してくれるだろうしさ。
ヴァル「極龍王の、蹴撃!」
黒い霧を燃やし尽くすように足から炎を広げ、俺は高く高くに飛ぶ。そして、落下の勢いと、拳から出す炎による加速で母さんの元にまで近づき、勢いを力に変えて足蹴りでダメージを与える。
母さんの体は、遠くの方に吹っ飛び、攻撃の際に燃え移った炎が、母さんの移動に合わせて黒い霧を燃やしていく。
「な......ぜだ。なぜ......これほどまでの力が......」
深く絶望していた時は、どんな攻撃でもダメージを与えることが出来なかった。でも、今は違う。全ての技が、母さんを倒すための神器になっている。
俺が、どんな状態になっても信じてくれる人がいる。俺の勝利を願ってくれる人がいる。だから、俺は夢の世界の力を精一杯に使って、闘志を滾らせるように炎を灯し続けている。
「まるで、天照らす太陽の如き炎。貴様......いや、そんなわけがない。そんなわけがあっていいはずがない」
ヴァル「ごちゃごちゃと何言ってんだ。まだやり合おうってんなら、俺はこの世界ごと母さんを燃やし尽くすぞ」
「まだ、我に対して慈悲を持とうとはな」
ヴァル「当たり前だ。どんな状態であれ、母さんは母さんなんだ。母さんを倒さなくてもいい方法が、1%くらいはあるはずだ」
「......その慈悲が、貴様を苦しめることになる。我は、貴様があのような存在に成りうると知った今、最早仲間にしようなどとは思わぬ」
ヴァル「あぁ?」
「死神は生者を刈り取るために、死者の魂を扱う」
ヴァル「......!なんだ、これは」
燃やしていたはずの黒い霧が大量に集まってきた。その霧は、母さんの鎌に吸い込まれていき、どんどん大きく成長していく。
「死神の鎌。死者の魂を集め、集めた数だけ強くなる。この世界には、死者がたくさん集っておる。この意味、貴様に分かるか?」
まさか、その中にはヴェルド達も含まれるというのか......
時間を戻せば全てが元通り。それは分かっているはずなのに、いざ意識してしまうと、中々拳に力が入りにくくなる。まだまだ甘い。本気で炎を吹き出せば、この霧全てを燃やし尽くすことなど造作もないのに。
まるで、俺の意識までも刈り尽くさんばかりのあの鎌は、周りの空気全てを吸い込んでいく。黒い霧も全て消え去り、ぼんやりとしていた景色がハッキリと見えるようになる。
もう、悪夢に苦しむ人々の声は聞こえない。全て、刈り尽くされたからだ。
「その魂、深き闇に堕ちていくがよい」
俺の体の100倍は超えるだろうか?と思うくらいの大きな鎌が俺の首を刈り取ろうとしている。あんなにデカくなったんなら、刃の部分は鋭さを無くしてるんじゃないか?と思ったが、そこは都合良く刃が鋭いままであった。
当たれば死ぬ。そのくらい、誰だって分かる。でも、こんなにデカいのなら、小回りは効かないはずだ。
俺は足に炎を灯して高く飛ぶ。そして、鎌の上に立ち、持ち手の部分を走って母さんの元にまで近づく。
「なっ......」
ヴァル「詰めが甘かったな!滅龍奥義・獄炎龍波!」
超近距離で口から放つ滅龍奥義。当たれば広範囲を爆発させつつ燃やし尽くす。まずは母さんを包み込んでいた黒い霧を全て燃やし尽くした。
「っ......なんなんだ......この力は......有り得ない。こんな力、あってはならない......」
一旦爆発の被害から逃れるため、少し距離をとる。もう当たってんじゃないか?と思われるかもしれないが、事実顔あたりには若干のヒリヒリ具合を感じる。多分、少し黒くなってる。
「なぜだ......なぜ、貴様にこれほどの力が......」
ヴァル「俺は勝利を信じてひたすらに炎を燃やし続ける。その炎は、どんなものであれ消火させることなんてできない。なぜならーー」
俺の心の柱が、ずっしりと構えられるようになった。前までの、ふわっとした軽い気持ちで戦ってるわけじゃない。本気で、誰かを守りたい。誰かを助けたい。誰かの為になりたい。そして、俺自身の為に戦い抜きたい。
初心忘るべからず。ゼグラニルを必死で探していた時の気持ちを思い出し、それを、誰かの為にという気持ちに変える。それだけで、俺は生きる意味を手に入れた。戦う意味を知った。好きになるってことも分かった。
ヴァル「俺の炎は、ただひたすらに勝利を信じ、誰かの為に捧げるものだからだ!どれだけ炎を消そうとしても、俺の心を燃やすものならいくらでもある!本気で消したいと思うのなら、この世界ごと消すつもりで来い!」
心から流れる力が、俺の拳、足、口周りなど、ありとあらゆる体の器官を燃やしていく。ただ、それは体を痛めつけるためのものではない。冷えきっていた体を温め、体に活力をみなぎらせるためのものだ。
ヴァル「勝利を信じ、俺は戦い続ける!天を照らす太陽の如き炎よ!今、その輝きをこの世界に灯せ!神話奥義・天照らす神話の炎!」
ちょっと前に、ネイがツクヨミと呼ばれていたことに興味を持って、東洋の和神というものを読んだ。普段、本なんて読まない俺が、なぜだか興味を持って読破出来た代物。あいつが、なんでツクヨミと呼ばれたのかはよく分かったが、それ以上に興味を惹かれる存在があった。
天照大神だ。丁度、俺が扱う魔法が炎だったこともあったが、太陽の神様っていうのに少しばかり興味を抱いた。もちろん、神話に出てくるような凄い力を使えるなんて思ったことはないし、ネイに話したこともない。あいつなら、どうにかして使えるように特訓してくれそうだけどな。でも、俺はそんな力は要らないと思っていた。
平和な日が、ずっと続くと思っていたからだ。でも、現実は違った。平和なんて、夢に過ぎない。でも、みんなその夢を求めて戦い続ける。たった一つの勝利を信じて。だから、俺は勝利を掴むために、あの時読んだ神話の再現を図った。丁度、この世界は夢の世界。あの奥義も使える気がしていた。事実使えたが。
ヴァル「どうだ。これが、俺の、いや、俺達が勝利を信じた末に掴み取った力だ」
「......なるほど。どうやら、我の野望はここで消え去るようだ」
死神はぐったりと目を瞑ってしまった。あれだけの魔法を喰らっておきながら、消えすらしないとは、流石は神様だ。そう簡単には人間様にやられてくれないってことかよ。
だけど、俺は勝った。自分を信じ、仲間を信じて勝利を掴み取った。もう、誰も文句を言うことはあるまい。俺は、やるべきことをやりきったんだ。
「ヴァル......よくやってくれましたね」
ヴァル「っ......!母さん!」
さっきまで、死神の姿だった母さんの姿が、妖精のような羽を生やして綺麗な女性の姿になっていた。
ネイ「......みんな、行こう」
無銘の剣を両手で持ち、迫り来る敵を横から斬り裂く。そのまま、勢いで剣を投げ飛ばす。投げ飛ばされた剣は、飛ばされた方向に並んでいた敵を全て貫き、地面に落ちる前に私の手に戻ってくる。
ネイ「シズ!」
黄金に輝く光が、シズが使っていた聖剣へと姿を変える。
ネイ「我が騎士道の前に、常に試練は有り!我の剣の前に跪き、その身を我がものとせよ!」
シズの剣で目の前の敵を斬り伏せる。そうすると、シズの力によって敵は地に膝を付け、私に従うかのような素振りを見せる。
ネイ「全員、奴らを押さえろ!可能な限り、全員倒せ!」
まだ、仲間になった奴らはみんなゾンビのようだけど、それでも戦う相手を少なくすることは、私への負担を減らすことに繋がる。
ネイ「ラヴェリア、力を貸して!」
深淵の如く、深い闇の色をした光が、2つの剣へと変わる。
双剣を手に構え、敵軍の中に飛び込み、辺りから次々とやって来る敵を斬り倒していく。攻撃に当たった奴らは、ただやられるわけではなく、安堵したかのような表情で眠りにつき、消え去っていく。
これは、ラヴェリアが使う、幻想の力。夢を見させる力だ。使い方によっては、安楽死なんてものをさせることが出来る。本来、そういう使い道をするのが正しいのだけど、私はあまり殺しにこの力を使いたくはない。でも、今は仕方ない。そう、仕方ないんだ。
ネイ「アマツ!ラナ!」
蒼海の深き青色、豊かな新緑の緑色、それぞれの光が、レイピアと刀に姿を変える。
ネイ「導羅・導きの風!」
嵐のように激しく、そして、敵陣の中を、自身が信じた道をなぞるような軌道で2本の剣に風をまとわりつかせて飛ばす。
ネイ「ジーク!」
最後に1つ残った紅蓮のように真っ赤な光を、両手で持ってもずっしりと重く感じる大剣へと変化させる。
ネイ「ジーク。力、貰うよ」
大剣を正面にずっしりと構え、ゆっくりと深呼吸をする。私の周りには、さっきの2本の剣によって敵は一切いなくなっている。大きな一撃を打つには、十分すぎるくらいの時間がある。この時間で、敵を全て倒しきる技を打つ!
体と剣に、風ではなく、紅蓮のように真っ赤に燃え盛り、そして、流れ星のようにキラキラとした輝きを放つ光をまとわりつかせる。
ネイ「......輝きの......流星剣!」
力を腕に一点集中させ、円を描くようにして大剣を振り回す。すると、体を包み込んでいた紅蓮の光が放たれ、流れ星のような速さで全てを爆発させていく。
最初の頃はダサいし、大した威力を持っていないと思っていた。でも、こんなにもポテンシャルを秘めた技だったなんて、見当もつかなかった。隠し事が上手な兄だ。ネーミングセンスは皆無に等しいけど。
ネイ「......」
反動で、しばらく動けなかったが、徐々に硬直が解け、ゆっくりと顔を上げる。
平原には、それまでの平らな地形を思い出させないほどの細かなクレーターが広がり、凸凹とした地形に横たわる悪夢の兵がいる。だが、辛うじて残っていた奴らも、すぐに体が消滅し、やがては人1人として残らず全てが無くなる。
ネイ「ふぅっ......」
投げ飛ばしていた剣を全て手元に戻し、私は無銘の剣を鞘に収める。すると、私の周りを漂っている剣達も鞘に収められたかのような動きを見せて消える。
髪色も、元の白髪に戻って、力が完全に抜けたことを悟る。
勝った......みんなの力で、勝つことが出来た......
ネイ「みん......な......」
ありがとう。そう言おうとして、私の意識は失われた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「こうして、この世界でお前と対峙すんのは何回目になんだろうな」
「さあな。そんな事に毛ほどの興味もない。だが、貴様が振るう拳には興味があるな」
ヴァル「変なもんに興味を持ったもんだな、母さん」
拳に炎を灯し、あの時のように全神経を集中させる。
母さんが、なんでこんなのになったのかは分からない。何かしらの事情があるのかもしれない。でも、俺の大切な人を奪うって言うのなら、もう躊躇うことはない。そう、約束したんだ。
母さんは、俺が拳に力を込めたのを見て、黒い霧の中から大きな鎌を取り出す。あれの攻撃を喰らったことは1度もないが、あれによって死んだ奴がいることを俺は知っている。
ヴァル「ヒカリ......絶対に助けてやるからな」
もう死んでしまった人を蘇らせることは無理なことを知っている。でも、時間を元に戻せれば、あいつが死んだっていう事実もなくなってくれるはずだ。それは、ネイが保証してくれてる。だから、俺は第1の壁として母さんを倒す。
拳の炎を、全身を包み込ませるほどに燃え上がらせ、俺は瞬きの時間で母さんの目の前にまで詰め寄る。
ヴァル「オラァっ!」
「甘い」
俺の攻撃に合わせて、母さんも大きな鎌を振り上げて、先端の尖った部分で俺の拳を食い止める。
俺の拳は、どんな金属よりも固く、そして燃え盛っている。こんな鎌ごときで俺の拳は止まらない。
ヴァル「っ......オラァっ!」
力比べでは俺の勝ち。母さんの鎌を弾いた。そして、次に怯んだ母さんの顔に向けて左の拳を突き出す。
ヴァル「極龍王の鉄砕!」
黄金に輝く炎が、母さんの顔を包み込んでぶち飛ばした。
ヴァル「痛って......!」
咆哮に比べて、拳での技にはかなりの痛みが伴う。炎の魔導士だというのに、拳には大きな火傷跡が出来ている。
夢の世界といえど、体は本物。そら、自由には行かねぇよな。それでも、母さんを倒すには、このくらいの痛みは我慢しなければならない。多少の火傷くらいなら、どうせ、ネイあたりが治してくれるだろうしさ。
ヴァル「極龍王の、蹴撃!」
黒い霧を燃やし尽くすように足から炎を広げ、俺は高く高くに飛ぶ。そして、落下の勢いと、拳から出す炎による加速で母さんの元にまで近づき、勢いを力に変えて足蹴りでダメージを与える。
母さんの体は、遠くの方に吹っ飛び、攻撃の際に燃え移った炎が、母さんの移動に合わせて黒い霧を燃やしていく。
「な......ぜだ。なぜ......これほどまでの力が......」
深く絶望していた時は、どんな攻撃でもダメージを与えることが出来なかった。でも、今は違う。全ての技が、母さんを倒すための神器になっている。
俺が、どんな状態になっても信じてくれる人がいる。俺の勝利を願ってくれる人がいる。だから、俺は夢の世界の力を精一杯に使って、闘志を滾らせるように炎を灯し続けている。
「まるで、天照らす太陽の如き炎。貴様......いや、そんなわけがない。そんなわけがあっていいはずがない」
ヴァル「ごちゃごちゃと何言ってんだ。まだやり合おうってんなら、俺はこの世界ごと母さんを燃やし尽くすぞ」
「まだ、我に対して慈悲を持とうとはな」
ヴァル「当たり前だ。どんな状態であれ、母さんは母さんなんだ。母さんを倒さなくてもいい方法が、1%くらいはあるはずだ」
「......その慈悲が、貴様を苦しめることになる。我は、貴様があのような存在に成りうると知った今、最早仲間にしようなどとは思わぬ」
ヴァル「あぁ?」
「死神は生者を刈り取るために、死者の魂を扱う」
ヴァル「......!なんだ、これは」
燃やしていたはずの黒い霧が大量に集まってきた。その霧は、母さんの鎌に吸い込まれていき、どんどん大きく成長していく。
「死神の鎌。死者の魂を集め、集めた数だけ強くなる。この世界には、死者がたくさん集っておる。この意味、貴様に分かるか?」
まさか、その中にはヴェルド達も含まれるというのか......
時間を戻せば全てが元通り。それは分かっているはずなのに、いざ意識してしまうと、中々拳に力が入りにくくなる。まだまだ甘い。本気で炎を吹き出せば、この霧全てを燃やし尽くすことなど造作もないのに。
まるで、俺の意識までも刈り尽くさんばかりのあの鎌は、周りの空気全てを吸い込んでいく。黒い霧も全て消え去り、ぼんやりとしていた景色がハッキリと見えるようになる。
もう、悪夢に苦しむ人々の声は聞こえない。全て、刈り尽くされたからだ。
「その魂、深き闇に堕ちていくがよい」
俺の体の100倍は超えるだろうか?と思うくらいの大きな鎌が俺の首を刈り取ろうとしている。あんなにデカくなったんなら、刃の部分は鋭さを無くしてるんじゃないか?と思ったが、そこは都合良く刃が鋭いままであった。
当たれば死ぬ。そのくらい、誰だって分かる。でも、こんなにデカいのなら、小回りは効かないはずだ。
俺は足に炎を灯して高く飛ぶ。そして、鎌の上に立ち、持ち手の部分を走って母さんの元にまで近づく。
「なっ......」
ヴァル「詰めが甘かったな!滅龍奥義・獄炎龍波!」
超近距離で口から放つ滅龍奥義。当たれば広範囲を爆発させつつ燃やし尽くす。まずは母さんを包み込んでいた黒い霧を全て燃やし尽くした。
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一旦爆発の被害から逃れるため、少し距離をとる。もう当たってんじゃないか?と思われるかもしれないが、事実顔あたりには若干のヒリヒリ具合を感じる。多分、少し黒くなってる。
「なぜだ......なぜ、貴様にこれほどの力が......」
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俺の心の柱が、ずっしりと構えられるようになった。前までの、ふわっとした軽い気持ちで戦ってるわけじゃない。本気で、誰かを守りたい。誰かを助けたい。誰かの為になりたい。そして、俺自身の為に戦い抜きたい。
初心忘るべからず。ゼグラニルを必死で探していた時の気持ちを思い出し、それを、誰かの為にという気持ちに変える。それだけで、俺は生きる意味を手に入れた。戦う意味を知った。好きになるってことも分かった。
ヴァル「俺の炎は、ただひたすらに勝利を信じ、誰かの為に捧げるものだからだ!どれだけ炎を消そうとしても、俺の心を燃やすものならいくらでもある!本気で消したいと思うのなら、この世界ごと消すつもりで来い!」
心から流れる力が、俺の拳、足、口周りなど、ありとあらゆる体の器官を燃やしていく。ただ、それは体を痛めつけるためのものではない。冷えきっていた体を温め、体に活力をみなぎらせるためのものだ。
ヴァル「勝利を信じ、俺は戦い続ける!天を照らす太陽の如き炎よ!今、その輝きをこの世界に灯せ!神話奥義・天照らす神話の炎!」
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天照大神だ。丁度、俺が扱う魔法が炎だったこともあったが、太陽の神様っていうのに少しばかり興味を抱いた。もちろん、神話に出てくるような凄い力を使えるなんて思ったことはないし、ネイに話したこともない。あいつなら、どうにかして使えるように特訓してくれそうだけどな。でも、俺はそんな力は要らないと思っていた。
平和な日が、ずっと続くと思っていたからだ。でも、現実は違った。平和なんて、夢に過ぎない。でも、みんなその夢を求めて戦い続ける。たった一つの勝利を信じて。だから、俺は勝利を掴むために、あの時読んだ神話の再現を図った。丁度、この世界は夢の世界。あの奥義も使える気がしていた。事実使えたが。
ヴァル「どうだ。これが、俺の、いや、俺達が勝利を信じた末に掴み取った力だ」
「......なるほど。どうやら、我の野望はここで消え去るようだ」
死神はぐったりと目を瞑ってしまった。あれだけの魔法を喰らっておきながら、消えすらしないとは、流石は神様だ。そう簡単には人間様にやられてくれないってことかよ。
だけど、俺は勝った。自分を信じ、仲間を信じて勝利を掴み取った。もう、誰も文句を言うことはあるまい。俺は、やるべきことをやりきったんだ。
「ヴァル......よくやってくれましたね」
ヴァル「っ......!母さん!」
さっきまで、死神の姿だった母さんの姿が、妖精のような羽を生やして綺麗な女性の姿になっていた。
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