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第10章-Ⅰ 【Campo proelii ex mortuis】
第10章27 【arbitrium】
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時の流れとは実に早いことで、ネイりんの治療法を求めてから優に1ヶ月が過ぎてしまった。
タイムリミットまでは11ヶ月。しかし、1ヶ月経っても何かしらの成果を上げることができなかった今、その11ヶ月の猶予はかなり短く感じる。
ネイりんはずっと虚ろな少女のまま。一応、最近は食べ物を口にするようになったけど、それも極僅か。そのせいか、日に日に、ただでさえ細かった体が、更に痩せ細ってきている。
邪龍の力で死ぬことはない。そうは言っても、王都での戦いのことから、体に何らかの障害を負うことは普通に有り得る可能性としてある。今回の場合、ネイりんが意識を取り戻しても、最悪、体の衰弱から一生寝たきりなんてことも考えられる。それだけは何としてでも阻止せねば......と思っても、具体的な解決手段を私達は知らない。
セリカ「どうしたらいいんだろう......」
色々と考えを巡らせはするが、とりあえずネイりんの口に細かく砕いた果物類の汁を入れ込む。ミラさんやレラと交代でやってるけど、なんだか延命治療をしているような気がして心がずっしりと重くなる。
こうしてる間も、ヴァル達は必死になってあっちこっちを走り回っている。答えがどこにあるのかも分からずに、ただ必死でもがいている。
ネイさえ起きてくれれば......そんな思いがみんなの中にある。でも、私は知っている。
ネイりんが起きたところで、もうネイりんは戦えない。戦うことが出来ない。
あのカウンセラーから言われただけの事だけど、ネイりんの顔を見ればあの意味もよく分かる。休ませておくべきなんじゃない。もう、ネイりんは舞台から降りて良いのだ。もう、十分に頑張った。だから、後は幸せになってくれればそれでいいのだ。自分勝手な意見ってわけじゃない。なんの疑いようもなく、それが正しいのだと知っている。
......でも、ネイりんがいないと奴らに勝つことは出来ない。心を強く持てば勝てるなんて言われたけど、あれをチラリとでも見た私には分かる。
気持ちだけで上回ることが出来る相手ではない。むしろ、気持ちの面ではもうどうにもならない。だって、あれには心が存在していなかったのだから......
結局のところ、相反する気持ちが私の中で葛藤を繰り広げている。どっちにするのが正しいのか。いや、正しさなんてどこにもないのだろう。とりあえず、なんか都合よく進めばそれでいいやくらいにしか思っていない。自分達ではどうにもならないと知っている。
ミラ「セリカ、マスターが全員集合だって。ネイを連れて来て」
セリカ「うん」
私は、離乳食と言っても過言ではない食べ物の入ったお椀を適当に机に置き、ネイが座る車椅子を押して部屋を出るのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァハト「......全員揃ったな」
「「「 ...... 」」」
......言おう。
別に、まだ何も言ってねぇのに、なんで俺が招集かけただけでこんな重々しい空気になるんだよ!
はぁ?俺なんか言った?まだ何も言ってないよね?誰か心読める奴でも紛れ込んでる?俺の知る限り、このギルドで心が読める奴はアルテミスとヒカリだけだぞ?しかも、2人共ここにはいない。ヒカリに関しては俺のせいだが、アルテミスは何してるんだ?
まあいいや。みんなを集めたのは俺なんだし、さっさと話を切り出そう。
ヴァル「じっちゃん。先にこれを」
俺は2枚の封筒を真正面に座るヴァハトの前に差し出す。
ヴァハト「......」
ヴァル「1ヶ月間ありがとうな。ネイのために見つかりもしない治療法を求めて散々走り回ってくれてーー」
グリード「おいおい、まさかァここで終わりだって言うんじゃねぇだろうなァ」
ヴァル「......」
突然の打ち切り。そりゃ、必死になってくれた奴らからしたらふざけんなって話になる。でも、こうするしかない。
ヴァハト「......ギルドを辞める......か。それでいいのか」
ヴァル「覚悟は決まってる。いつまでもこんなところにいたんじゃ、ネイは治らないし、お前らにだって迷惑をかけ続けることになる」
フウロ「迷惑だとは考えていないぞ、ヴァル」
ヴァル「分かってる。ここのみんなが優しいってことくらい。だからこそ、お前らの力をこれ以上頼りたくない」
「「「 ...... 」」」
今回の敵の強さを人一倍に理解している俺だからこそ、奴らとこいつらを絡ませてはダメなんだと分かっている。
あまり、こいつらを信用してないわけじゃない。それどころか、かなり奥深いところまで信用している。だから、こいつらがあいつらに対してはどれだけ戦えるかも分かっている。
俺とネイがここにいたんじゃ、11ヶ月後にあいつらが標的にしてくるのはここになる。ならば、早めにここから離れて、もっと強い奴らがいるところに行かなければならない。
だからこそ、俺はマスターであるヴァハトに向け、俺とネイ2人分の辞表を叩きつけた。勝手にギルドを辞めさせられることに関して、ネイが目を覚ましていたら文句を言うだろうが、どうせこの一件が終わったらすぐにギルドに戻ることになるし、多分、何も問題はないはずだ。
ヴァハト「別に、ギルドをわざわざ辞めんでも、お前が何年ここを離れることになろうが問題は何もないはずじゃ。それとも、ギルドに所属しておれば生じる問題でもあるのか?」
ヴァル「......理由を話すことは出来ない。俺にも俺なりの考えがある。みんなして俺の事をバカだのアホだの言ってくるが、こいつと1年以上過ごしてて、多少は賢くなったんだ。危険な真似は......多分しねぇから無事を祈っててくれよ」
ヴァハト「......分かった。この辞表を受け取ろう」
ヴァル「ありがとう」
これでいい。これでいいんだ。今ギルドから身を引こうとも、何も一生このままというわけじゃない。また、戻って来れる。全てが解決したら......
セリカ「ねぇ、ヴァル。本当にギルドを出て行っちゃうの?」
一通り落ち着いたところで、セリカが話しかけてきた。
ヴァル「ずっとじゃねぇ。勝つためにだ。必ず戻ってくる」
フウロ「......いくら私達でも、お前の考えを聞くことは出来ないんだな」
ヴァル「ああ。疑いたくはねぇが、この中に裏切り者がいるかもしれないっていう可能性もあるからな。不安の芽を摘むことが出来ねぇのなら、最初から水を撒かねぇことだ」
ヴェルド「裏切り者ねぇ......」
ヴァル「今のところお前の可能性が1番高い」
ヴェルド「はぁ!?」
ヴァル「ジョークだよ。真正面から受け止めんな」
ヴェルド「......」
まさか、俺がこんな状態で冗談を言うとは思わなかったのだろう。狐につままれたように唖然とした顔をしてやがる。思わず、その阿呆らしい顔に笑っちまった。
グリード「あァ、クソっ。当てはあんのかよォ」
そういや、今日のこいつは珍しく酒が回ってねぇな。まあ、どうせこの後飲んだくれになるのだろうが。
ヴァル「ちょっと頼れそうなところがあってな。そこに身を寄せる。手紙とかは出せるかどうか分からねぇけど、まあ、向こう11ヶ月は生きてるつもりだから心配しないでくれ」
ミラ「そうは言われても心配しちゃうわよ。意識不明の女の子連れて住み慣れない街に行くのでしょう?今からでも遅くないから、考え直さない?」
ヴァル「人の覚悟踏みにじるようなこと言わないでくれよ......」
ミラ「......そうね。ヴァルのやりたいようにやったらいいと思うわ」
......
......
......
その後も、時間の許す限り皆と最後の別れになるかもしれない会話をした。出来るだけ明るく、だけどもいつもとは違うという雰囲気を感じ取らせて。唯一別れ話が出来なかったアルテミスがいるが、あいつはどこで何をやってんだろうな。
確かに、夢の世界の一件以来、ヒカリはこのギルドに帰っていないし、帰ることが出来ないでいるが、アルテミスはそれよりも前からどこかへと姿を消している。多分、ヒカリのことは絡んでいないはずなんだが......本当に何やってんだろうな?
唯一の気がかりが残るが、それはそれとして置いて、俺はギルドのみんなと会話をし終え、最後の挨拶とばかりにギルドの戸に手をかけて後ろを振り返る。
ヴァル「んじゃ、また1年後、全てが元に戻ったら会おう」
ヴァハト「......達者でなぁァァァァァァ!!!ゲホッ!ゲホッ!」
ヴェルド「くたばるなよ!」
グリード「嬢ちゃんしっかり取り戻してこいやァ!」
フウロ「こっちはこっちで色々と調べておくぞ!」
ミラ「元気でねー!」
ったく、別に最後の別れじゃねぇんだし、いつもみたいに「無茶すんな」の一言で済ませておけよ。まあでも、悪い気はしねぇな。みんなが背を押してくれてる。そんな気がした。
セリカ「ヴァル!......必ず、帰って来てね!」
セリカだけが俺のところにまで近づいてきて、そう言った。
ヴァル「大丈夫。必ず帰って来る」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、全然しんみりとはしなかったお別れ会だったが、予想以上に時間を食ってしまった。
多分、あの人の心は広いだろうが、1時間くらいは遅れそうだからなぁ。ダッシュで行けば普通に約束の時間には間に合うだろうが、今は生憎、車椅子に座ったネイを連れている。乱暴な真似は出来ない。
まあいいか。この街に戻って来れるのも、早くても1年くらい後になるのだから、最後にこの街の景色を目に焼き付けておこう。ネイ、お前も目に焼き付けておけ。なんて言っても、お前はどこか暗い場所しか見えてないんだよな。
......絶対に許さねぇ。ヒカリとかいう奴には、特に地獄の業火で悶え苦しみながら死んでもらう。そのためなら、悪魔だろうが魔王だろうが誰の手だって借りてやる。苦しむのは俺1人だけで十分。俺1人が苦しみに耐えれば、後は幸せな未来が待っている。いや、幸せな未来を作れるとでも言っておこうか。待つだけじゃ一向にやって来ねぇ時もあるからな。自分から動くことが大事だ。
それにしても、いくら冬と言えどこの街は寂れてんな。まあ、冬になりゃ家に籠ってねぇとやってけねぇくらいに寒くなるのがこの街だからな。1年の蓄えを使って冬の厳しい寒さを越す。なんか、冬眠してる動物みてぇだな。俺としては、もっともっと働きてぇのに仕事が無くて、結局ギルドで喧嘩してるだけになるのはちょっと勿体ないように感じる。
......それにしても、冬か。思えば、去年の冬も何かの覚悟を決めて戦ってたな。そうだ。ネイの心を開くために、俺は闘志を滾らせてたんだ。今も、あの時と同じようなことをしようとしてるな。時間でも巻き戻ってんじゃねぇのか?と疑いはするが、去年の今頃は、こいつは絶賛森の中で引き籠もり中だ。外に出てるだけ、あの時とは状況が違う。
......
......
......
さっさと待ち人の元に向かうかーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そんなこんなで、シグルアの街を出て、イーリアスを若干経由して5ヶ国ーーグランアーク、イーリアス、ラグナロク、セツノ連邦、ザガルーーの集中国境となる大移動地区に到達した。最近知った場所なんだが、ここにはありとあらゆる交通手段が揃い、そのせいか、各国から集まった商人達が市場を開いている。歩いても3時間程度しかかからない場所なのに、よく今までここの存在を知らずにいられたな、とちょっと思う。
まあ、今回の目的は市場ではなく、交通手段の方なんだがな。
アイリス「お待ちしておりました。ヴァル様」
待ち人というのは、綺麗な空色髪をした鬼族のメイド、アイリス。1時間くらい遅れたと言うのに、何の不満も顔に出さずにいる。逆に怖いわ。
ヴァル「悪い。1時間くらい遅れて......」
アイリス「いえ、仕方のないことです。1年は離れることになるであろう仲間達と、心ゆくまで別れの挨拶を交わしたいでしょうから。それに、この街には珍しいものがたくさんございますし、デルシア様へのお土産を探してるだけで時間を潰すことは可能です」
ヴァル「そうか」
気を使ってくれてるな。俺だけだったら、多分ここまで言わなかっただろうけど、車椅子に座るネイが視界に映ったんだろうな。そら、いつも以上に気を使わねぇといけねぇよな。すまん。
アイリス「では行きましょうか?」
ヴァル「ああ」
アイリスの助けを借りて、車椅子をガッチリと固定させ、ネイを素朴ながらもしっかりと作り込まれたベッドの上に寝かせた。
アイリス「それでは出発します。長旅になられるかと思いますので、万が一乗り物酔いなどを起こした時には一言お願いします」
ヴァル「ああ」
最近は治ってきた方だが、流石にこれから15日くらいの大移動となると、普通に酔いそうだな。でも、何となくアイリスの前で酔う姿を見せたくない。何故かは知らん。
ヴァル「......ネイ。絶対に、俺がお前を取り戻してやる」
拳に少しの炎を灯して、俺は軽く握った。
タイムリミットまでは11ヶ月。しかし、1ヶ月経っても何かしらの成果を上げることができなかった今、その11ヶ月の猶予はかなり短く感じる。
ネイりんはずっと虚ろな少女のまま。一応、最近は食べ物を口にするようになったけど、それも極僅か。そのせいか、日に日に、ただでさえ細かった体が、更に痩せ細ってきている。
邪龍の力で死ぬことはない。そうは言っても、王都での戦いのことから、体に何らかの障害を負うことは普通に有り得る可能性としてある。今回の場合、ネイりんが意識を取り戻しても、最悪、体の衰弱から一生寝たきりなんてことも考えられる。それだけは何としてでも阻止せねば......と思っても、具体的な解決手段を私達は知らない。
セリカ「どうしたらいいんだろう......」
色々と考えを巡らせはするが、とりあえずネイりんの口に細かく砕いた果物類の汁を入れ込む。ミラさんやレラと交代でやってるけど、なんだか延命治療をしているような気がして心がずっしりと重くなる。
こうしてる間も、ヴァル達は必死になってあっちこっちを走り回っている。答えがどこにあるのかも分からずに、ただ必死でもがいている。
ネイさえ起きてくれれば......そんな思いがみんなの中にある。でも、私は知っている。
ネイりんが起きたところで、もうネイりんは戦えない。戦うことが出来ない。
あのカウンセラーから言われただけの事だけど、ネイりんの顔を見ればあの意味もよく分かる。休ませておくべきなんじゃない。もう、ネイりんは舞台から降りて良いのだ。もう、十分に頑張った。だから、後は幸せになってくれればそれでいいのだ。自分勝手な意見ってわけじゃない。なんの疑いようもなく、それが正しいのだと知っている。
......でも、ネイりんがいないと奴らに勝つことは出来ない。心を強く持てば勝てるなんて言われたけど、あれをチラリとでも見た私には分かる。
気持ちだけで上回ることが出来る相手ではない。むしろ、気持ちの面ではもうどうにもならない。だって、あれには心が存在していなかったのだから......
結局のところ、相反する気持ちが私の中で葛藤を繰り広げている。どっちにするのが正しいのか。いや、正しさなんてどこにもないのだろう。とりあえず、なんか都合よく進めばそれでいいやくらいにしか思っていない。自分達ではどうにもならないと知っている。
ミラ「セリカ、マスターが全員集合だって。ネイを連れて来て」
セリカ「うん」
私は、離乳食と言っても過言ではない食べ物の入ったお椀を適当に机に置き、ネイが座る車椅子を押して部屋を出るのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァハト「......全員揃ったな」
「「「 ...... 」」」
......言おう。
別に、まだ何も言ってねぇのに、なんで俺が招集かけただけでこんな重々しい空気になるんだよ!
はぁ?俺なんか言った?まだ何も言ってないよね?誰か心読める奴でも紛れ込んでる?俺の知る限り、このギルドで心が読める奴はアルテミスとヒカリだけだぞ?しかも、2人共ここにはいない。ヒカリに関しては俺のせいだが、アルテミスは何してるんだ?
まあいいや。みんなを集めたのは俺なんだし、さっさと話を切り出そう。
ヴァル「じっちゃん。先にこれを」
俺は2枚の封筒を真正面に座るヴァハトの前に差し出す。
ヴァハト「......」
ヴァル「1ヶ月間ありがとうな。ネイのために見つかりもしない治療法を求めて散々走り回ってくれてーー」
グリード「おいおい、まさかァここで終わりだって言うんじゃねぇだろうなァ」
ヴァル「......」
突然の打ち切り。そりゃ、必死になってくれた奴らからしたらふざけんなって話になる。でも、こうするしかない。
ヴァハト「......ギルドを辞める......か。それでいいのか」
ヴァル「覚悟は決まってる。いつまでもこんなところにいたんじゃ、ネイは治らないし、お前らにだって迷惑をかけ続けることになる」
フウロ「迷惑だとは考えていないぞ、ヴァル」
ヴァル「分かってる。ここのみんなが優しいってことくらい。だからこそ、お前らの力をこれ以上頼りたくない」
「「「 ...... 」」」
今回の敵の強さを人一倍に理解している俺だからこそ、奴らとこいつらを絡ませてはダメなんだと分かっている。
あまり、こいつらを信用してないわけじゃない。それどころか、かなり奥深いところまで信用している。だから、こいつらがあいつらに対してはどれだけ戦えるかも分かっている。
俺とネイがここにいたんじゃ、11ヶ月後にあいつらが標的にしてくるのはここになる。ならば、早めにここから離れて、もっと強い奴らがいるところに行かなければならない。
だからこそ、俺はマスターであるヴァハトに向け、俺とネイ2人分の辞表を叩きつけた。勝手にギルドを辞めさせられることに関して、ネイが目を覚ましていたら文句を言うだろうが、どうせこの一件が終わったらすぐにギルドに戻ることになるし、多分、何も問題はないはずだ。
ヴァハト「別に、ギルドをわざわざ辞めんでも、お前が何年ここを離れることになろうが問題は何もないはずじゃ。それとも、ギルドに所属しておれば生じる問題でもあるのか?」
ヴァル「......理由を話すことは出来ない。俺にも俺なりの考えがある。みんなして俺の事をバカだのアホだの言ってくるが、こいつと1年以上過ごしてて、多少は賢くなったんだ。危険な真似は......多分しねぇから無事を祈っててくれよ」
ヴァハト「......分かった。この辞表を受け取ろう」
ヴァル「ありがとう」
これでいい。これでいいんだ。今ギルドから身を引こうとも、何も一生このままというわけじゃない。また、戻って来れる。全てが解決したら......
セリカ「ねぇ、ヴァル。本当にギルドを出て行っちゃうの?」
一通り落ち着いたところで、セリカが話しかけてきた。
ヴァル「ずっとじゃねぇ。勝つためにだ。必ず戻ってくる」
フウロ「......いくら私達でも、お前の考えを聞くことは出来ないんだな」
ヴァル「ああ。疑いたくはねぇが、この中に裏切り者がいるかもしれないっていう可能性もあるからな。不安の芽を摘むことが出来ねぇのなら、最初から水を撒かねぇことだ」
ヴェルド「裏切り者ねぇ......」
ヴァル「今のところお前の可能性が1番高い」
ヴェルド「はぁ!?」
ヴァル「ジョークだよ。真正面から受け止めんな」
ヴェルド「......」
まさか、俺がこんな状態で冗談を言うとは思わなかったのだろう。狐につままれたように唖然とした顔をしてやがる。思わず、その阿呆らしい顔に笑っちまった。
グリード「あァ、クソっ。当てはあんのかよォ」
そういや、今日のこいつは珍しく酒が回ってねぇな。まあ、どうせこの後飲んだくれになるのだろうが。
ヴァル「ちょっと頼れそうなところがあってな。そこに身を寄せる。手紙とかは出せるかどうか分からねぇけど、まあ、向こう11ヶ月は生きてるつもりだから心配しないでくれ」
ミラ「そうは言われても心配しちゃうわよ。意識不明の女の子連れて住み慣れない街に行くのでしょう?今からでも遅くないから、考え直さない?」
ヴァル「人の覚悟踏みにじるようなこと言わないでくれよ......」
ミラ「......そうね。ヴァルのやりたいようにやったらいいと思うわ」
......
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その後も、時間の許す限り皆と最後の別れになるかもしれない会話をした。出来るだけ明るく、だけどもいつもとは違うという雰囲気を感じ取らせて。唯一別れ話が出来なかったアルテミスがいるが、あいつはどこで何をやってんだろうな。
確かに、夢の世界の一件以来、ヒカリはこのギルドに帰っていないし、帰ることが出来ないでいるが、アルテミスはそれよりも前からどこかへと姿を消している。多分、ヒカリのことは絡んでいないはずなんだが......本当に何やってんだろうな?
唯一の気がかりが残るが、それはそれとして置いて、俺はギルドのみんなと会話をし終え、最後の挨拶とばかりにギルドの戸に手をかけて後ろを振り返る。
ヴァル「んじゃ、また1年後、全てが元に戻ったら会おう」
ヴァハト「......達者でなぁァァァァァァ!!!ゲホッ!ゲホッ!」
ヴェルド「くたばるなよ!」
グリード「嬢ちゃんしっかり取り戻してこいやァ!」
フウロ「こっちはこっちで色々と調べておくぞ!」
ミラ「元気でねー!」
ったく、別に最後の別れじゃねぇんだし、いつもみたいに「無茶すんな」の一言で済ませておけよ。まあでも、悪い気はしねぇな。みんなが背を押してくれてる。そんな気がした。
セリカ「ヴァル!......必ず、帰って来てね!」
セリカだけが俺のところにまで近づいてきて、そう言った。
ヴァル「大丈夫。必ず帰って来る」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、全然しんみりとはしなかったお別れ会だったが、予想以上に時間を食ってしまった。
多分、あの人の心は広いだろうが、1時間くらいは遅れそうだからなぁ。ダッシュで行けば普通に約束の時間には間に合うだろうが、今は生憎、車椅子に座ったネイを連れている。乱暴な真似は出来ない。
まあいいか。この街に戻って来れるのも、早くても1年くらい後になるのだから、最後にこの街の景色を目に焼き付けておこう。ネイ、お前も目に焼き付けておけ。なんて言っても、お前はどこか暗い場所しか見えてないんだよな。
......絶対に許さねぇ。ヒカリとかいう奴には、特に地獄の業火で悶え苦しみながら死んでもらう。そのためなら、悪魔だろうが魔王だろうが誰の手だって借りてやる。苦しむのは俺1人だけで十分。俺1人が苦しみに耐えれば、後は幸せな未来が待っている。いや、幸せな未来を作れるとでも言っておこうか。待つだけじゃ一向にやって来ねぇ時もあるからな。自分から動くことが大事だ。
それにしても、いくら冬と言えどこの街は寂れてんな。まあ、冬になりゃ家に籠ってねぇとやってけねぇくらいに寒くなるのがこの街だからな。1年の蓄えを使って冬の厳しい寒さを越す。なんか、冬眠してる動物みてぇだな。俺としては、もっともっと働きてぇのに仕事が無くて、結局ギルドで喧嘩してるだけになるのはちょっと勿体ないように感じる。
......それにしても、冬か。思えば、去年の冬も何かの覚悟を決めて戦ってたな。そうだ。ネイの心を開くために、俺は闘志を滾らせてたんだ。今も、あの時と同じようなことをしようとしてるな。時間でも巻き戻ってんじゃねぇのか?と疑いはするが、去年の今頃は、こいつは絶賛森の中で引き籠もり中だ。外に出てるだけ、あの時とは状況が違う。
......
......
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さっさと待ち人の元に向かうかーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そんなこんなで、シグルアの街を出て、イーリアスを若干経由して5ヶ国ーーグランアーク、イーリアス、ラグナロク、セツノ連邦、ザガルーーの集中国境となる大移動地区に到達した。最近知った場所なんだが、ここにはありとあらゆる交通手段が揃い、そのせいか、各国から集まった商人達が市場を開いている。歩いても3時間程度しかかからない場所なのに、よく今までここの存在を知らずにいられたな、とちょっと思う。
まあ、今回の目的は市場ではなく、交通手段の方なんだがな。
アイリス「お待ちしておりました。ヴァル様」
待ち人というのは、綺麗な空色髪をした鬼族のメイド、アイリス。1時間くらい遅れたと言うのに、何の不満も顔に出さずにいる。逆に怖いわ。
ヴァル「悪い。1時間くらい遅れて......」
アイリス「いえ、仕方のないことです。1年は離れることになるであろう仲間達と、心ゆくまで別れの挨拶を交わしたいでしょうから。それに、この街には珍しいものがたくさんございますし、デルシア様へのお土産を探してるだけで時間を潰すことは可能です」
ヴァル「そうか」
気を使ってくれてるな。俺だけだったら、多分ここまで言わなかっただろうけど、車椅子に座るネイが視界に映ったんだろうな。そら、いつも以上に気を使わねぇといけねぇよな。すまん。
アイリス「では行きましょうか?」
ヴァル「ああ」
アイリスの助けを借りて、車椅子をガッチリと固定させ、ネイを素朴ながらもしっかりと作り込まれたベッドの上に寝かせた。
アイリス「それでは出発します。長旅になられるかと思いますので、万が一乗り物酔いなどを起こした時には一言お願いします」
ヴァル「ああ」
最近は治ってきた方だが、流石にこれから15日くらいの大移動となると、普通に酔いそうだな。でも、何となくアイリスの前で酔う姿を見せたくない。何故かは知らん。
ヴァル「......ネイ。絶対に、俺がお前を取り戻してやる」
拳に少しの炎を灯して、俺は軽く握った。
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2024年12月追記
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