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第10章-Ⅱ 【記憶の旅人】
第10章31 【戦いの記憶】
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白陽がザガルの手によって墜ち、次なる獲物が創真か黒月になるであろうと知った俺達は、早急に軍隊を合流させ、白陽から進軍してくるであろう方向に向けて軍隊を並べていた。
俺みたいな能無しが軍議の大事なところにいるってのは不思議なもんだが、まあこの1年間で信頼関係を築けているし、たまぁぁぁぁぁぁに、いいことに気づくからってことで同席している。
アルフレア「今のところ、ザガルの部隊が白陽の王城から動いたという報告はない。だが、奴らの出現の仕方を考えるに......」
ベルディア「いつこの平原に現れてもおかしくはないわね。なんなら、隙をついて私達のお城も攻め込まれちゃうかも」
アルフレア「ああ......」
気味が悪いってもんじゃない。いくらあの、時間を好き勝手に出来るヒカリが率いている部隊とは言え、そんな一瞬でシンゲン達がやられるとは思えない。何かしらのカラクリが存在する。そう考えるのが妥当だろう。
......こうして地図とにらめっこしたところで、敵がどこに現れるかーとか、ここに現れるからこう奇襲しようかーとか、そんな事を考えられない。意味が無いからな。多分、本気になれば1秒後にでもこの軍議をしている場所に現れんだろうな。それをやって来ないのは、まだ本気は出すような相手ではないと舐められているのだろう。クソ腹立つ......。
カイナ「にゃっほー!偵察終わらせてきたよー!」
空飛ぶ飛龍から、勢いよくカイナが飛び降りてきた。
デルシア「お疲れ様です。カイナさん」
アルフレア「早速で悪いが報告を頼む」
カイナ「おーす。なんかねー、奴らもういなかった」
アルフレア「......いなかったとは?」
カイナ「街には赤装束の奴ら1人もいなくなってるし、城の中も恐る恐る覗いて見たんだけどもぬけの殻ってやつだったよー」
アルフレア「また一瞬で......」
つい数時間前にゼータとシータが偵察に行った時には、まだ敵はうじゃうじゃといたと言う。その時の報告では、幸か不幸か、街の人にはなにかしらの危害を加える様子はなかったが、王族関係者であるゼータ達を目にすると一斉に襲いかかったという。
それが、ちょっと経てばまた姿を消したか......しかも、カイナの話からして、道中に姿を隠しているとかそんなこともなさそうだな。
......
......
......
ヴァル「......っ!オラァっ!」
右斜め後ろに感じた僅かな殺意。俺は相手が誰かも確認せずに炎の拳を振るう。
人に当たった感触はあった。見れば、赤装束のザガル兵がナイフを持ったまま倒れていた。被っていた赤いフードを外すと、どこの誰かも分からない男だった。
アルフレア「ザガルの敵兵だと!?全員構えろ!敵はすぐそこにいる!」
一瞬の出来事だったが、脳の整理が一瞬で追いついたアルフレアがそう指示を飛ばす。すると、ハッと我に返ったかのようにして黒装束の黒月兵、鬼らしい雪山装束の創真兵が武具を取って構えを成す。
ヴァル「ちょっと殺意を感じたと思えばこれかよ......どうやら、もうこの平原に現れているらしいな」
アルフレア「ああ。それにしても、よく気づけたな」
ヴァル「俺に向けられた殺意だったからな。若干背筋が凍った」
アルフレア「そうか」
たまたまだったけどな。少し黙り込んで、意識をちょっとだけ解放してなければ気づけなかった。早々に戦線離脱するかもしれなかったな。
アルフレア「敵の気配は感じないようだな......」
ヴァル「......おい、あそこに見える赤色の塊、なんだと思う?」
平原の遥向こう、丁度平原の終わり際で、もう少し進めば白陽の領内に入れるかと思われる場所に、赤色の塊が見えた。
気の所為だといいなー?気の所為であってほしいなー?
......
......
......
アルフレア「1つ、2つ、3つ、4つ......」
デルシア「まさか、一瞬で現れたというあれは......」
ベルディア「......なんのトリックもない。ただの大規模転移術ね」
赤色の塊が、1つ、2つ......とたくさんの塊を作って、コマ割りのように点々とゆっくりこちらに近づいてきている。多分、さっきの兵は俺達にあえて気づかせるためのものだったのだろう。でなければ、あんなに几帳面に並んでやってきている奴らからはぐれて来てしまうなんてことは有り得ない。
アルフレア「全員、改めて構え!奴らにこれ以上好きにさせるな!進軍開始!」
黒月の暗殺隊、奇兵隊が、これはこれで残像を残すような速さで赤い塊に突っ込んでいく。一体、どうすればただの人間がここまでの動きを身につけられるのか。不思議でならんが、まあそんな奴らなのだろう。
俺も、拳と足に炎を灯し、敵との交戦準備に入る。
デルシア「鬼族の皆さん!今再び力をお借りします!全軍突撃!」
「「「 オォォォォォォォ!!! 」」」
黒月の兵と違って、こちらには如何にもなやる気を感じる。声だけで圧倒されそうな勢いだ。
ヴァル「......」
肝心の俺はと言うと、なぜか足を前に踏み出すことが出来ないでいる。怖いからではない。後ろで虚ろな目をしているネイが心配で心配で堪らないからだ。
俺が守ってやると約束したんだ。だから、俺が離れるわけにはいかないんだ。でも、俺も今は創真の兵の1人。ここでグズっている訳には......
デルシア「ヴァルさん。ネイさんのこと、よろしくお願いします」
デルシアが俺の肩に手を置いて、そう言い放った後にミューエ、イグシロナと共に出撃した。
ガンマ「デルシア様は、ヴァル様にはヴァル様の成すべきことがあると伝えたかったのかと思われます」
補足するようにガンマが俺の横に立ってそう言ってきた。
ガンマ「デルシア様からのご指示です。ヴァル様とネイ様を守りきるように、と。奴らは自分達でどうにかするから、と」
ヴァル「......デルシア」
なんと出来ている王様なのだろうか。本当なら、俺が前に立って、俺がアイツらの相手をしなきゃならねぇのに、デルシアは......いや、デルシア達は誰も文句を口に出さずにして戦いに出ている。
こんなに信用された覚えはどこにもないんだがな。あるとしたら、それはネイの方だ。
ガンマ「さあ、ヴァル様。我々は拠点を築きましょう。この戦いは、必ず長期戦になります」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ユミ「じゃあな。世話になった」
「もう行っちゃうの?鬼のお姉ちゃん」
俺よりも頭3つ分低い女の子が、泣きそうな顔でそう尋ねてくる。
「まだもう少しここにいたっていいのに......」
その女の子の母親が、これはこれで旅立つ我が子を心配するような表情でこちらを見てきている。
ユミ「悪ぃな。本音で言えばもう少しここにいたい。でも、俺にはやらなきゃならねぇ事があるんだ」
腰に携えた刀に手を当て、これ以上引き止められまいと、清々しく、覚悟が決まっている顔をする。
心配させちゃならねぇ。だから、心配そうな顔をするのではなく、笑顔でこの親子の顔を見る。
「そう。どうしても行ってしまうのですね」
ユミ「ああ。もうここには俺がいなくても大丈夫だろ。村の人達と仲良くするんだぞ」
「......分かりました。なら、ちょっとだけ待っててくれませんか?」
ユミ「......?ああ、別に構わねぇが」
何を思い出したのか、駆け足で母親の方が家の中へと戻っていく。そうして、数分としないうちに小さな小包を抱えて戻ってきた。
「旅のお供に、と私達親子で作ったんですよ」
ユミ「いつの間に......」
渡された小包の中身は、小さく、まばらな形のクッキーだった。なんとなく予想出来てた中身だった。
「お姉ちゃん、またここに来てね!」
流れそうな涙を必死に堪え、女の子が作り笑いではない、本当の笑顔で俺にそう言ってくる。
ユミ「......ああ、また必ず来る。次は、俺の仲間も連れて来るよ」
「大所帯になりそうですね。ユミさん、なんだかお友達が多そうですから」
ユミ「ハハハッ」
つっても、全部ネイとの繋がりで出来た奴らなんだがな。でも、ここにいる親子は、紛れもなく俺との繋がりによって出来た間柄だ。大切にしねぇとな。
ユミ「んじゃ、行くわ。クッキー、大切にするよ」
軽く手を振り、俺はこの場を後にする。少し離れたところで振り返ると、親子が元気よく手を振っていた。
......ちょっと時間を食いすぎたかな。まだまだ集めた奴らの情報は少ない。集めたくても、全然現れない奴らだからな。現れないなら現れないで、この世界に住む人達にはありがたい話なのだろうが、俺からすればそれは少々困る。
今回、たまたま魔獣に襲われていた女の子を助けたことをきっかけに、この村の騒動に巻き込まれてしまったが、まあ、3日もしないうちにおさらば出来た事だし、ちょっとした繋がりも持てたしで良しとしよう。
ユミ「はむ......ムシャムシャ......うん、美味いなこれ」
小包に入っていたクッキーを1つ、口の中へと投げ込む。形は歪だけど、味はしっかりとしている。今すぐにでも全部食べてしまいたいくらいだが、それはなんだか勿体ない気がする。
大切に食べていくか......。
「随分と目的から外れたことに対してゆっくりとしていたものね」
ユミ「......誰だ?」
不意に聞こえた女の声。俺は小包を懐に入れ、空いた手には、代わりに永遠の刀を手にする。
敵意を感じるような声ではなかったが、俺が知らない声......いや、聞き覚えはあるんだが、なんだか口調が違う気がする。
ユミ「隠れてないで姿を見せろ。事と次第によっては斬るがな」
「話に聞いていた通り、見た目に反して随分と男っぽい人なのね。あなた」
カメレオンが擬態を解いたかのようにして、木にもたれ掛かるようにしていたフードを被った女が現れた。
姿を消す類の魔法か......そんなんで何をしようとしてたんだ。
「......そうね。いきなり現れても不審がられるだけか」
ユミ「そうだな。俺の顔見知りなら敵意は向けねぇが、俺はお前を知らない。知らないはずだ」
声色だけなら似ている人はいくらでもいる。だから、顔を見るまではこの刀から手を離すわけにはならない。それに、ここはまだ村の近く。変な騒ぎを起こさないよう、慎重に物事を進める必要がある。
ユミ「名乗れ。それからそのフードを外して顔を見せろ」
そう睨みを効かせて言うと、女はあっさりとフードを外した。
ピンクの髪に、どことなくあいつに似た顔立ち。だけど、ただの猿人種か。
「私の名前はーー」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
デルシア「てやぁっ!」
アルフレア「セヤッ!」
赤装束と、黒装束+鬼族による乱戦が始まった。
戦況は今のところ私達が有利。暗殺隊が敵の首を目にも止まらぬ速さで刈っていき、奇兵隊が戦場を私達が有利になるよう罠を張り巡らせ、鬼族が迫り来る敵を真正面から受け止める。
ここまでを見ただけなら、「なぜシンゲン兄さん達が......」となる。でも、私達には分かっている。
これはただの前座。敵の親玉がいなければ、幹部とか部隊長とか、それなりに偉い人達が出払っているわけでもない。こんなところで苦戦してるようじゃ、この先の戦いに勝ち目はない。
デルシア「てやぁっ!」
1人、また1人と赤装束の敵を斬り殺していく。殺らねばこちらが殺られる戦場。でも、殺しは気持ちのいいものではない。むしろ、自分が斬り殺した相手から赤い血が流れ出るのを見てしまうと、とてつもない吐き気がしてくる。
あの時とは違う。あの時の敵は死者であり、もう意思のない人々だった。でも、今私が相手にしているのは紛れもない人間。人を殺すことに慣れていない私にとって、その事実は心に重くのしかかる。
アルフレア「デルシア、あまり無理はするな。戦いは俺の方が慣れている」
私の背中にはアルフレア兄さんがいる。今も、魔法と剣技を駆使して敵を倒している。その表情には、一切の迷いがない。
流石だな、と私は思う。場数を踏んでいるというのもあるのだろうが、自分が守るもののためには、時に冷徹になれる兄さんが羨ましく思える。私にも、これくらいに強い心があれば......
「ほう。創真と黒月の国王ですか。相手にとって不足はありませんね」
突如として私と兄さんの間に立つようにして長髪の男が現れた。
デルシア「......っ!」
男の顔を見た瞬間、私は何かに縛られたかのように体が動かなくなった。
......圧倒的な恐怖。いや、恐怖なんてもんじゃない。この男を見ただけで、私は「勝てない」と絶望してしまった。理由なんて分からない。でも、なぜかそう思えて、そう思うと同時に体が動かなくなってしまった。
「あなたはこのプレッシャーに勝てませんでしたか。ならば死ぬしかないですね」
男が光の刀を作り出し、構えた。ゆっくりと、私の脳天めがけて月のように光り輝く刃が振り落とされる。
逃げなきゃ......そう思っても体が動かない。怖い......ひたすらに怖い......これが、ヴァルさん達の言っていた敵。想像以上だ。
アルフレア「させるかー!」
横から、兄さんの剣が刀の腹に当たって、私に当たる前に弾かれた。
アルフレア「デルシア!心を強く持て!お前はそんなやわな奴ではない!」
デルシア「っ......!」
唇に八重歯を当て、僅かな痛みを感じ取る。
大丈夫。まだ生きている。まだ、動ける......。
「なるほど。流石は黒月の王。父親譲りの凄まじい精神力ですね」
アルフレア「貴様、何者だ。いや、名を問う必要はないか、ヒカリ・ラグナロク!」
「知っててくれて嬉しいですね。まあ、知っているということは、私がどんな者であるかもご存知でしょう」
デルシア「......今回の戦いを引き起こし、シンゲン兄さん達に手を掛け、更には世界そのものを支配しようとする者。そして、私の恩人から全てを奪った!」
剣を構え、体勢を立て直す。一時はあまりの圧に圧倒されかけたが、アルフレア兄さんの言葉によって、己の心を奮い上がらせることが出来た。
「強いですねー。ですが、その意気込みもいつまで続くか......。いえ、続くなら一生続くでしょう。ですが、その意気込みごと、私はあなた達を殺します。覚悟は出来ていますか?」
アルフレア「覚悟だと?ふざけるな。お前の方こそ、俺達兄妹に殺される覚悟は出来ているだろうな!」
私と兄さんは、同じ向きに剣を構えて、ゆっくりと挟み撃ちをするような形に移動する。この男はそれを見てもなんとも思っていないらしい。『余裕』という二文字が顔に現れている。
アルフレア「我が友の仇、ここで取らせてもらおう!」
俺みたいな能無しが軍議の大事なところにいるってのは不思議なもんだが、まあこの1年間で信頼関係を築けているし、たまぁぁぁぁぁぁに、いいことに気づくからってことで同席している。
アルフレア「今のところ、ザガルの部隊が白陽の王城から動いたという報告はない。だが、奴らの出現の仕方を考えるに......」
ベルディア「いつこの平原に現れてもおかしくはないわね。なんなら、隙をついて私達のお城も攻め込まれちゃうかも」
アルフレア「ああ......」
気味が悪いってもんじゃない。いくらあの、時間を好き勝手に出来るヒカリが率いている部隊とは言え、そんな一瞬でシンゲン達がやられるとは思えない。何かしらのカラクリが存在する。そう考えるのが妥当だろう。
......こうして地図とにらめっこしたところで、敵がどこに現れるかーとか、ここに現れるからこう奇襲しようかーとか、そんな事を考えられない。意味が無いからな。多分、本気になれば1秒後にでもこの軍議をしている場所に現れんだろうな。それをやって来ないのは、まだ本気は出すような相手ではないと舐められているのだろう。クソ腹立つ......。
カイナ「にゃっほー!偵察終わらせてきたよー!」
空飛ぶ飛龍から、勢いよくカイナが飛び降りてきた。
デルシア「お疲れ様です。カイナさん」
アルフレア「早速で悪いが報告を頼む」
カイナ「おーす。なんかねー、奴らもういなかった」
アルフレア「......いなかったとは?」
カイナ「街には赤装束の奴ら1人もいなくなってるし、城の中も恐る恐る覗いて見たんだけどもぬけの殻ってやつだったよー」
アルフレア「また一瞬で......」
つい数時間前にゼータとシータが偵察に行った時には、まだ敵はうじゃうじゃといたと言う。その時の報告では、幸か不幸か、街の人にはなにかしらの危害を加える様子はなかったが、王族関係者であるゼータ達を目にすると一斉に襲いかかったという。
それが、ちょっと経てばまた姿を消したか......しかも、カイナの話からして、道中に姿を隠しているとかそんなこともなさそうだな。
......
......
......
ヴァル「......っ!オラァっ!」
右斜め後ろに感じた僅かな殺意。俺は相手が誰かも確認せずに炎の拳を振るう。
人に当たった感触はあった。見れば、赤装束のザガル兵がナイフを持ったまま倒れていた。被っていた赤いフードを外すと、どこの誰かも分からない男だった。
アルフレア「ザガルの敵兵だと!?全員構えろ!敵はすぐそこにいる!」
一瞬の出来事だったが、脳の整理が一瞬で追いついたアルフレアがそう指示を飛ばす。すると、ハッと我に返ったかのようにして黒装束の黒月兵、鬼らしい雪山装束の創真兵が武具を取って構えを成す。
ヴァル「ちょっと殺意を感じたと思えばこれかよ......どうやら、もうこの平原に現れているらしいな」
アルフレア「ああ。それにしても、よく気づけたな」
ヴァル「俺に向けられた殺意だったからな。若干背筋が凍った」
アルフレア「そうか」
たまたまだったけどな。少し黙り込んで、意識をちょっとだけ解放してなければ気づけなかった。早々に戦線離脱するかもしれなかったな。
アルフレア「敵の気配は感じないようだな......」
ヴァル「......おい、あそこに見える赤色の塊、なんだと思う?」
平原の遥向こう、丁度平原の終わり際で、もう少し進めば白陽の領内に入れるかと思われる場所に、赤色の塊が見えた。
気の所為だといいなー?気の所為であってほしいなー?
......
......
......
アルフレア「1つ、2つ、3つ、4つ......」
デルシア「まさか、一瞬で現れたというあれは......」
ベルディア「......なんのトリックもない。ただの大規模転移術ね」
赤色の塊が、1つ、2つ......とたくさんの塊を作って、コマ割りのように点々とゆっくりこちらに近づいてきている。多分、さっきの兵は俺達にあえて気づかせるためのものだったのだろう。でなければ、あんなに几帳面に並んでやってきている奴らからはぐれて来てしまうなんてことは有り得ない。
アルフレア「全員、改めて構え!奴らにこれ以上好きにさせるな!進軍開始!」
黒月の暗殺隊、奇兵隊が、これはこれで残像を残すような速さで赤い塊に突っ込んでいく。一体、どうすればただの人間がここまでの動きを身につけられるのか。不思議でならんが、まあそんな奴らなのだろう。
俺も、拳と足に炎を灯し、敵との交戦準備に入る。
デルシア「鬼族の皆さん!今再び力をお借りします!全軍突撃!」
「「「 オォォォォォォォ!!! 」」」
黒月の兵と違って、こちらには如何にもなやる気を感じる。声だけで圧倒されそうな勢いだ。
ヴァル「......」
肝心の俺はと言うと、なぜか足を前に踏み出すことが出来ないでいる。怖いからではない。後ろで虚ろな目をしているネイが心配で心配で堪らないからだ。
俺が守ってやると約束したんだ。だから、俺が離れるわけにはいかないんだ。でも、俺も今は創真の兵の1人。ここでグズっている訳には......
デルシア「ヴァルさん。ネイさんのこと、よろしくお願いします」
デルシアが俺の肩に手を置いて、そう言い放った後にミューエ、イグシロナと共に出撃した。
ガンマ「デルシア様は、ヴァル様にはヴァル様の成すべきことがあると伝えたかったのかと思われます」
補足するようにガンマが俺の横に立ってそう言ってきた。
ガンマ「デルシア様からのご指示です。ヴァル様とネイ様を守りきるように、と。奴らは自分達でどうにかするから、と」
ヴァル「......デルシア」
なんと出来ている王様なのだろうか。本当なら、俺が前に立って、俺がアイツらの相手をしなきゃならねぇのに、デルシアは......いや、デルシア達は誰も文句を口に出さずにして戦いに出ている。
こんなに信用された覚えはどこにもないんだがな。あるとしたら、それはネイの方だ。
ガンマ「さあ、ヴァル様。我々は拠点を築きましょう。この戦いは、必ず長期戦になります」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ユミ「じゃあな。世話になった」
「もう行っちゃうの?鬼のお姉ちゃん」
俺よりも頭3つ分低い女の子が、泣きそうな顔でそう尋ねてくる。
「まだもう少しここにいたっていいのに......」
その女の子の母親が、これはこれで旅立つ我が子を心配するような表情でこちらを見てきている。
ユミ「悪ぃな。本音で言えばもう少しここにいたい。でも、俺にはやらなきゃならねぇ事があるんだ」
腰に携えた刀に手を当て、これ以上引き止められまいと、清々しく、覚悟が決まっている顔をする。
心配させちゃならねぇ。だから、心配そうな顔をするのではなく、笑顔でこの親子の顔を見る。
「そう。どうしても行ってしまうのですね」
ユミ「ああ。もうここには俺がいなくても大丈夫だろ。村の人達と仲良くするんだぞ」
「......分かりました。なら、ちょっとだけ待っててくれませんか?」
ユミ「......?ああ、別に構わねぇが」
何を思い出したのか、駆け足で母親の方が家の中へと戻っていく。そうして、数分としないうちに小さな小包を抱えて戻ってきた。
「旅のお供に、と私達親子で作ったんですよ」
ユミ「いつの間に......」
渡された小包の中身は、小さく、まばらな形のクッキーだった。なんとなく予想出来てた中身だった。
「お姉ちゃん、またここに来てね!」
流れそうな涙を必死に堪え、女の子が作り笑いではない、本当の笑顔で俺にそう言ってくる。
ユミ「......ああ、また必ず来る。次は、俺の仲間も連れて来るよ」
「大所帯になりそうですね。ユミさん、なんだかお友達が多そうですから」
ユミ「ハハハッ」
つっても、全部ネイとの繋がりで出来た奴らなんだがな。でも、ここにいる親子は、紛れもなく俺との繋がりによって出来た間柄だ。大切にしねぇとな。
ユミ「んじゃ、行くわ。クッキー、大切にするよ」
軽く手を振り、俺はこの場を後にする。少し離れたところで振り返ると、親子が元気よく手を振っていた。
......ちょっと時間を食いすぎたかな。まだまだ集めた奴らの情報は少ない。集めたくても、全然現れない奴らだからな。現れないなら現れないで、この世界に住む人達にはありがたい話なのだろうが、俺からすればそれは少々困る。
今回、たまたま魔獣に襲われていた女の子を助けたことをきっかけに、この村の騒動に巻き込まれてしまったが、まあ、3日もしないうちにおさらば出来た事だし、ちょっとした繋がりも持てたしで良しとしよう。
ユミ「はむ......ムシャムシャ......うん、美味いなこれ」
小包に入っていたクッキーを1つ、口の中へと投げ込む。形は歪だけど、味はしっかりとしている。今すぐにでも全部食べてしまいたいくらいだが、それはなんだか勿体ない気がする。
大切に食べていくか......。
「随分と目的から外れたことに対してゆっくりとしていたものね」
ユミ「......誰だ?」
不意に聞こえた女の声。俺は小包を懐に入れ、空いた手には、代わりに永遠の刀を手にする。
敵意を感じるような声ではなかったが、俺が知らない声......いや、聞き覚えはあるんだが、なんだか口調が違う気がする。
ユミ「隠れてないで姿を見せろ。事と次第によっては斬るがな」
「話に聞いていた通り、見た目に反して随分と男っぽい人なのね。あなた」
カメレオンが擬態を解いたかのようにして、木にもたれ掛かるようにしていたフードを被った女が現れた。
姿を消す類の魔法か......そんなんで何をしようとしてたんだ。
「......そうね。いきなり現れても不審がられるだけか」
ユミ「そうだな。俺の顔見知りなら敵意は向けねぇが、俺はお前を知らない。知らないはずだ」
声色だけなら似ている人はいくらでもいる。だから、顔を見るまではこの刀から手を離すわけにはならない。それに、ここはまだ村の近く。変な騒ぎを起こさないよう、慎重に物事を進める必要がある。
ユミ「名乗れ。それからそのフードを外して顔を見せろ」
そう睨みを効かせて言うと、女はあっさりとフードを外した。
ピンクの髪に、どことなくあいつに似た顔立ち。だけど、ただの猿人種か。
「私の名前はーー」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
デルシア「てやぁっ!」
アルフレア「セヤッ!」
赤装束と、黒装束+鬼族による乱戦が始まった。
戦況は今のところ私達が有利。暗殺隊が敵の首を目にも止まらぬ速さで刈っていき、奇兵隊が戦場を私達が有利になるよう罠を張り巡らせ、鬼族が迫り来る敵を真正面から受け止める。
ここまでを見ただけなら、「なぜシンゲン兄さん達が......」となる。でも、私達には分かっている。
これはただの前座。敵の親玉がいなければ、幹部とか部隊長とか、それなりに偉い人達が出払っているわけでもない。こんなところで苦戦してるようじゃ、この先の戦いに勝ち目はない。
デルシア「てやぁっ!」
1人、また1人と赤装束の敵を斬り殺していく。殺らねばこちらが殺られる戦場。でも、殺しは気持ちのいいものではない。むしろ、自分が斬り殺した相手から赤い血が流れ出るのを見てしまうと、とてつもない吐き気がしてくる。
あの時とは違う。あの時の敵は死者であり、もう意思のない人々だった。でも、今私が相手にしているのは紛れもない人間。人を殺すことに慣れていない私にとって、その事実は心に重くのしかかる。
アルフレア「デルシア、あまり無理はするな。戦いは俺の方が慣れている」
私の背中にはアルフレア兄さんがいる。今も、魔法と剣技を駆使して敵を倒している。その表情には、一切の迷いがない。
流石だな、と私は思う。場数を踏んでいるというのもあるのだろうが、自分が守るもののためには、時に冷徹になれる兄さんが羨ましく思える。私にも、これくらいに強い心があれば......
「ほう。創真と黒月の国王ですか。相手にとって不足はありませんね」
突如として私と兄さんの間に立つようにして長髪の男が現れた。
デルシア「......っ!」
男の顔を見た瞬間、私は何かに縛られたかのように体が動かなくなった。
......圧倒的な恐怖。いや、恐怖なんてもんじゃない。この男を見ただけで、私は「勝てない」と絶望してしまった。理由なんて分からない。でも、なぜかそう思えて、そう思うと同時に体が動かなくなってしまった。
「あなたはこのプレッシャーに勝てませんでしたか。ならば死ぬしかないですね」
男が光の刀を作り出し、構えた。ゆっくりと、私の脳天めがけて月のように光り輝く刃が振り落とされる。
逃げなきゃ......そう思っても体が動かない。怖い......ひたすらに怖い......これが、ヴァルさん達の言っていた敵。想像以上だ。
アルフレア「させるかー!」
横から、兄さんの剣が刀の腹に当たって、私に当たる前に弾かれた。
アルフレア「デルシア!心を強く持て!お前はそんなやわな奴ではない!」
デルシア「っ......!」
唇に八重歯を当て、僅かな痛みを感じ取る。
大丈夫。まだ生きている。まだ、動ける......。
「なるほど。流石は黒月の王。父親譲りの凄まじい精神力ですね」
アルフレア「貴様、何者だ。いや、名を問う必要はないか、ヒカリ・ラグナロク!」
「知っててくれて嬉しいですね。まあ、知っているということは、私がどんな者であるかもご存知でしょう」
デルシア「......今回の戦いを引き起こし、シンゲン兄さん達に手を掛け、更には世界そのものを支配しようとする者。そして、私の恩人から全てを奪った!」
剣を構え、体勢を立て直す。一時はあまりの圧に圧倒されかけたが、アルフレア兄さんの言葉によって、己の心を奮い上がらせることが出来た。
「強いですねー。ですが、その意気込みもいつまで続くか......。いえ、続くなら一生続くでしょう。ですが、その意気込みごと、私はあなた達を殺します。覚悟は出来ていますか?」
アルフレア「覚悟だと?ふざけるな。お前の方こそ、俺達兄妹に殺される覚悟は出来ているだろうな!」
私と兄さんは、同じ向きに剣を構えて、ゆっくりと挟み撃ちをするような形に移動する。この男はそれを見てもなんとも思っていないらしい。『余裕』という二文字が顔に現れている。
アルフレア「我が友の仇、ここで取らせてもらおう!」
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