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第10章-Ⅱ 【記憶の旅人】
第10章34 【執念の記憶】
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私が生きた証......
私は、どこか、別の世界で生まれ、この世界で育った。
周りには、いつもいつも黒を基調とした服を着ていた人達がいて、その人達が本当の家族ではないことを私は知っていた。本当の家族は、隣国の白陽にいる。でも、私はその人達に自由に会うことを許されなかった。なぜなら、その国と、私が住んでいた国は、戦争という名の大きな喧嘩をしていたのだから......
時は流れ、私が12歳の頃。突如として私は白陽の本当の家族の元へと返された。その時は理由を知らなかったけど、後々になって、私が返されたのには大きな理由があることを知った。
白陽の家族は、みんな優しかった。私が敵国で育ったと言うのに、敵としてではなく、本当の家族として見てくれた。不安だった私の心も、この行為によって、凄く晴れ晴れとした気持ちになっていた。でも、黒の家族とは何の言葉も交わさずにお別れすることになってしまった。その事が、酷く心残りとなっていた。
それから幾重もの時が過ぎた。
黒月で過ごしていた時と違って、私は自由な外出を許されていた。でも、12歳になるまでずっと城暮らしだったから、兄さん達から見れば年に似合わぬおてんば娘だったらしい。確かに、少々子供っぽかったかもしれないけど、それでもおてんばとはちょっと違うと思う。
8年の間、黒と白の戦いに、私が巻き込まれることはなかった。兄さん達は忙しく動いていたけど、私は悠々自適に過ごしていた。その間に、たまたま街で目から光を失っていた女の子と友達になった。名前はミューエ。今でも私の大親友であり、私の相棒。出会いは、とても素敵なものと言えるものではなかった。だって、母親を失い、1人寂しく路上で歌を歌ってお金を稼いでいたのを見て、何も知らない私が、今にして考えてみれば、相手をしれっと傷つけるような言葉ばかりを投げかけて対話を試みようとしていたのだから。でも、その時からミューエはしっかりとしていた。何も知らない私に対して、色んなことを教えてくれた。私には、ミューエが神様かなんかだと思えた。今にして思えば、15にもなっているのだから、そらしっかりしてるのが当たり前だった。私が当たり前じゃなかった。ミューエは、そんな私をよく理解してくれた。本当なら、私がミューエを元気づけなきゃいけない立場だったかもしれないのに、なぜか逆になっていた。
それから3年。
3年の間に、私は剣士となり、従者として兄さん達は愚か、城の誰も知らないミューエを推薦した。ミューエには事前に話をしていた。だから驚かれるでもなく、堂々と白陽の城に足を踏み込んでいた。こんな大事を話したと言うのに、ミューエの表情は、眉一つ動かさずに「そう」と言って了承してくれたのには鳥肌が立ったなぁ......。そして、最初の任務として、私とミューエの2人で白陽と黒月の国境に位置する村に視察に出かけた。無駄に時間を費やして、村で1週間も過ごしてしまった。そのせいか、私が黒月に拐われたのではないかと焦った兄さんが国境近くに赴き、更には黒月の兄さんが白陽との開戦準備を進めるために国境近くへと赴いていたのが重なり、突然の戦争が始まってしまった。
2つの国に通じる私は、その戦争をどうにか止めようと思った。でも、一度火のついた火薬はもうどうにもならない。戦場となる、現創真王国の領土となる平原に足を踏み入れた時、もう戦いは始まっていた。両国がぶつかり合う場所に私はいて、それぞれの家族が私の名を叫んだ。これが悪夢であればいいのにと思っていた。でも、それは現実だった。大切に育ててくれた黒の家族と、敵に育てられたと知りながらも、暖かく私を出迎えてくれた白の家族。どちらかを選ばなきゃならなかった。
昔から、こういう選択問題には弱かった。たったの二択で、どちらかを適当に選べばいいのに、無駄な時間を費やして悩む。だから、この時は酷く迷った。でも、あることに気づき、私はその選択肢を2つとも放棄した。
両方が私にとって大切な人達。だから、喧嘩なんてしてほしくない。私はこの戦争を止める。そう思った時、私はどちらも選ばないなどと口走ってしまった。今でも思う。もっと他に言葉があったんじゃないかって。でも、感情で口走ってしまったのだから仕方ない。私は、どちらも選べなかった。どちらも選ばず、中立の立場で、双方の仲立ちをしようと考えた。でも、そんなうまくいくわけがない。白陽と黒月は、私を取り合って再び戦いを始めてしまった。しかも、今度は私にまで飛び火してきた。
......
......
......
考えれば考えるほどに、あの時の自分はバカだったなぁと思う。両方に仲良くしてほしい。その気持ちが強すぎて、私は口先だけが勝手に動いてしまった。
......でも、あの時、ああして叫んだおかげで今がある。そう考えると、あの選択も悪くなかったと思える。みんなで協力して、1つの大きな敵に立ち向かう。なんと素晴らしいことなのだろうか。そうやって皆が手を取り合えば、必ず平和な世界が訪れる。リエンドを倒した時の私は、そう強く思っていた。でも......
でも、奴はなんと強いのだろうか。正義も悪もどこにもない。あるのはただの絶望のみ。奴は、皆で協力すればどうにかなるような奴じゃなかった。龍の力が抜け、体は完全に動かず、私はただただ悔し泣きするくらいのことしか出来ない。
デルシア「まだ......っ、死ぬっ......わけには......」
涙が溢れるばかりで、体に力を入れられない。痛みを感じる痛覚すら死んでいるかのように私に何も伝えてくれない。
孤独......誰も助けには来れない。私がどうにかしなきゃならなかった。でも、どうにもならなかった。死ぬしかないんだ......
......せめて、最期くらい、兄さん達の顔をよく見て、瞼に焼き付けておきたかった......。
「何走馬灯を見てるんだ!デルシア!」
デルシア「......!?」
白い影が倒れる私の前に現れ、奴が振り落とそうとした刀を弾き飛ばす。
デルシア「兄......さん?」
力を振り絞るようにして顔を上げ、助けてくれた人物が誰なのかを確認した。
死んだはずのシンゲン兄さんがそこに立っていた......。
シンゲン「遅くなってすまない、デルシア」
デルシア「なん......で、兄さんが......」
シンゲン「話せば長くなる。また後でだ!」
それだけ言うと、兄さんは奴に向けて真っ直ぐに突っ込んで行った。
「で、デルシア様!だただ大丈夫ですか!?」
デルシア「カンナ......さん?」
カンナ「は、はい!シンゲン様の従者であるカンナです!」
カンナがいつもの、焦りつつも大きな声を上げて、私に目を合わせる。そして、そのまま動けなくなった私の体を治癒していく。
......ようやく腰から上をまともに動かせるようになった私は、座る形で起き上がり、何が起きているのかを確認する。
シンゲン兄さんが奴を執拗に攻撃し、後ろからカイリとクウガが魔法で援護している。
デルシア「なん......で」
カンナ「は、話せば長くなるので、簡潔にまとめて話すと、サツキ様を逃がすことに成功した私達は、もうそのまま死んでしまうかのような勢いで後退を迫られました。逃げ場のない私達には、もう死しかありません。ですが、そんな時、フードを被った女の人?が現れて、恐らくは転移術でその場にいた皆様を逃がしたのです。事が事だけに、転移先は選べなかったとかなんとかで、こちらに到着するまでにかなりの時間を使ってしまいましたけど、こうしてデルシア様の援軍として駆けつけることが出来ました」
な、なるほど......フードを被った女の人か......。まるで見当もつかないな相手だけど、こうして兄さん達の命を救ってくれたことには感謝しよう。
ミューエ「デルシア!」
デルシア「ミューエさん......」
ミューエ「もう、ホントバカ!」
なぜか、ミューエが泣きながら私に抱きついてきた。
ミューエ「あの力は使わないって約束したじゃない!あなたの体にとんでもない負荷をかけるからって!」
いつもの淡々とした口調とは違って、今のミューエの言葉には感情が篭っている。
デルシア「......ごめんなさい」
ミューエ「デルシア、ここには未来から来たあの人達はいないのよ?もし、龍になった反動で体のどこかが使えなくなったら困るじゃない!」
デルシア「あ......」
そういえば、そこまで考えてなかった。体、今はまだ動くけど、しばらくしてどこかが動かなくなる可能性が高い。治そうにも、治してくれるネイさんは未来の方だし、仮に今のネイさんがそれを出来るのだとしても、記憶を消されてるからダメ。
......助かったのは助かったけど、どうやらもう剣を振るうのは無理なようだ。
カンナ「で、デルシア様、後はシンゲン様達に任せておいてください!必ず、デルシア様の仇を取ります!」
デルシア「まだ死んでませんけど......」
カンナ「はっ、し、失礼しました!」
慌ただしい人だ。
デルシア「ミューエさん、肩を......」
ミューエ「ええ。後は、あの人達に任せましょう」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
フウロ「大変なことになったな......」
騒がしいギルドの中で、フウロがぽつりとそう呟いた。
今日はいつも以上に騒がしい。それは、ギルドの皆がいつも以上にうるさくなっているからというわけではない。外で構えているザガルの兵達が、金属音を一頻りに鳴り響かせているからだ。
グリード「大変になったどころの騒ぎじゃねぇだろォ。俺が黒月で殺しの技術身に付けてた時も、ここまでひでぇ事は起きなかったぞォ?」
ヴェルド「お前の過去なんか知らねぇよ。......んで、どうすんだ?この状況。今のところ、このギルドに働いてる魔法陣のおかげでどうにか持ち堪えてはいるが、それも時間の問題だ」
ヴァハト「もって10分。早ければ3分といったところじゃな」
「「「 ...... 」」」
3分で何が出来るのだろうか?
あれだけの数を相手に、私達だけで戦うのは厳しい。邪龍教みたいに不死の能力を持ってるとか、そんな事は一切ないんだけど、全員立派に鍛え上げられているのか、かなりすばしっこく、また、攻撃するタイミングも的確である。フウロが途中で助けに来てくれなかったら、多分、私はもう死んでる。
そのフウロは、私を助ける時に敵の攻撃が当たり、右肩をバッサリとやられてしまった。肩が外れるほどじゃないけれど、しばらくの間はまともに動かすことが叶わないらしい。今も、分厚く巻かれた包帯からは赤黒い染みが滲み出ている。
ミラ「みんな、騎士団からの情報よ!」
地下室の方から、ミラさんが地図を持って上がってきた。
ミラ「慣れない通信魔法で、上手く聞き取れなかったけど、大まかな情報は拾えたわ。みんな、ここを見て」
ミラさんが机に地図を広げると、白陽の辺りを指さした。
創真との国境付近に位置する場所。確か、広大な平原が広がってるとかそんな感じの場所だったはず。
ミラ「ここでザガル軍と創真・黒月の連合国が戦ってるらしいわ」
ライオス「丁度真反対のところでか......あの2国を相手にして、更にこの街にまで兵を飛ばせるとなると、相当な人手があるらしいな、ザガルは」
グリード「それだけじゃねェ。なぁんで白陽の領地なのに黒月と創真が戦ってるんだと思う?」
エレノア「......!もしかして、白陽はもう敗れた?」
グリード「そういう事だァ。合ってるよなァ?」
ミラ「ええ。速達だけれど、白陽が墜ちたのは確実らしいわ」
武人の多い国でも、こうもあっさりか......。
創真......。確か、ヴァルが今現在身を寄せている場所だけれど、大丈夫だろうか?なんか、城で過ごしているとか手紙には書いてあったけど、まさか戦いに巻き込まれてる、とかはないよね?
セリカ「ねぇ、もしかしての話なんだけど......」
フウロ「ヴァルがこの戦いに巻き込まれているかもしれない。そう言いたいか?」
セリカ「う、うん......」
フウロ「......多分だが、あいつの事だ。自ら率先して巻き込まれに行ってるはずだ。それも、あの組織が絡んでいるとなればな」
あの組織......?
ヴェルド「おい、フウロ。そりゃ、どういうことーー」
ヴェルドが聞くよりも先に、フウロが机の上に小さなチップを何枚か出した。
セリカ「これって......」
どこからどう見ても、天命の泉に向かう際に使った、転移用のチップ。製作者は、死んだはずのヒカリ。
フウロ「実は、セリカを助ける前にとある人物と出会ってな。フードを被っていたし、背中越しだったから誰かは知らんが、これを託された」
グリード「誰かって、こんなもん作れんのあいつ以外にいねぇだろォ」
フウロ「そうだな。確実にあれはヒカリだった。振り向いた時にはもう居なかったがな。で、これは改良を重ねて1枚で1000kmまでなら飛べるようになったらしい」
ライオス「5枚もあれば、丁度この平原にまで行けるな」
フウロ「直線距離だから、3枚で大丈夫だ」
グリード「で、こんなもんを渡して、あいつは俺達に何をさせようってんだよォ......まあ、何となく分かるがァ」
セリカ「ヴァル達を助けに行けって事だよね。でも、ここにある枚数じゃ......」
エレノア「帰りを無視しても、最高で5人......」
簡単に作れるものじゃないって言ってたし、これくらいが限界だったのだろう。
セリカ「......私、ヴァル達を助けに行きたい!」
ヴェルド「俺もだ!あいつの元気な面を拝まねぇと、死んでも死にきれねぇからな!」
シアラ「ヴェルド様が行くのであればシアラも!」
エレノア「私も、ヴァルさん、ネイさんの為に戦いに行きたいです!」
グリード「ちっ......俺も、ちょっくら黒月の野郎共に面見せるついでに行くとするかァ」
フウロ「なるほど。あっさりと定員まで出たな。私も行きたいところだが、傷が傷だからな」
ライオス「俺はこの街を守る。これ以上、奴らの好きにはさせん」
ヴァハト「それぞれに意思があるようじゃな。では、セリカ、ヴェルド、シアラ、エレノア、グリード。彼奴を助ける為、戦場に身を投げ打って行けるな?」
「「「 はい! 」」」
フウロ「起動方法は、チップを握り締めて行きたい場所をイメージすればいい。地図を目に見ながらやればやりやすいそうだ」
フウロに言われた通り、私達は、地図を持って目的地の場所をイメージする。まず最初の目的地は、グランアーク中頃、王都より少し手前の街だ。
セリカ「じゃあ、行ってきます!」
フウロ「こっちは任せていろ。お前達は、あいつらの無事を確認してくれればそれでいい」
私は、どこか、別の世界で生まれ、この世界で育った。
周りには、いつもいつも黒を基調とした服を着ていた人達がいて、その人達が本当の家族ではないことを私は知っていた。本当の家族は、隣国の白陽にいる。でも、私はその人達に自由に会うことを許されなかった。なぜなら、その国と、私が住んでいた国は、戦争という名の大きな喧嘩をしていたのだから......
時は流れ、私が12歳の頃。突如として私は白陽の本当の家族の元へと返された。その時は理由を知らなかったけど、後々になって、私が返されたのには大きな理由があることを知った。
白陽の家族は、みんな優しかった。私が敵国で育ったと言うのに、敵としてではなく、本当の家族として見てくれた。不安だった私の心も、この行為によって、凄く晴れ晴れとした気持ちになっていた。でも、黒の家族とは何の言葉も交わさずにお別れすることになってしまった。その事が、酷く心残りとなっていた。
それから幾重もの時が過ぎた。
黒月で過ごしていた時と違って、私は自由な外出を許されていた。でも、12歳になるまでずっと城暮らしだったから、兄さん達から見れば年に似合わぬおてんば娘だったらしい。確かに、少々子供っぽかったかもしれないけど、それでもおてんばとはちょっと違うと思う。
8年の間、黒と白の戦いに、私が巻き込まれることはなかった。兄さん達は忙しく動いていたけど、私は悠々自適に過ごしていた。その間に、たまたま街で目から光を失っていた女の子と友達になった。名前はミューエ。今でも私の大親友であり、私の相棒。出会いは、とても素敵なものと言えるものではなかった。だって、母親を失い、1人寂しく路上で歌を歌ってお金を稼いでいたのを見て、何も知らない私が、今にして考えてみれば、相手をしれっと傷つけるような言葉ばかりを投げかけて対話を試みようとしていたのだから。でも、その時からミューエはしっかりとしていた。何も知らない私に対して、色んなことを教えてくれた。私には、ミューエが神様かなんかだと思えた。今にして思えば、15にもなっているのだから、そらしっかりしてるのが当たり前だった。私が当たり前じゃなかった。ミューエは、そんな私をよく理解してくれた。本当なら、私がミューエを元気づけなきゃいけない立場だったかもしれないのに、なぜか逆になっていた。
それから3年。
3年の間に、私は剣士となり、従者として兄さん達は愚か、城の誰も知らないミューエを推薦した。ミューエには事前に話をしていた。だから驚かれるでもなく、堂々と白陽の城に足を踏み込んでいた。こんな大事を話したと言うのに、ミューエの表情は、眉一つ動かさずに「そう」と言って了承してくれたのには鳥肌が立ったなぁ......。そして、最初の任務として、私とミューエの2人で白陽と黒月の国境に位置する村に視察に出かけた。無駄に時間を費やして、村で1週間も過ごしてしまった。そのせいか、私が黒月に拐われたのではないかと焦った兄さんが国境近くに赴き、更には黒月の兄さんが白陽との開戦準備を進めるために国境近くへと赴いていたのが重なり、突然の戦争が始まってしまった。
2つの国に通じる私は、その戦争をどうにか止めようと思った。でも、一度火のついた火薬はもうどうにもならない。戦場となる、現創真王国の領土となる平原に足を踏み入れた時、もう戦いは始まっていた。両国がぶつかり合う場所に私はいて、それぞれの家族が私の名を叫んだ。これが悪夢であればいいのにと思っていた。でも、それは現実だった。大切に育ててくれた黒の家族と、敵に育てられたと知りながらも、暖かく私を出迎えてくれた白の家族。どちらかを選ばなきゃならなかった。
昔から、こういう選択問題には弱かった。たったの二択で、どちらかを適当に選べばいいのに、無駄な時間を費やして悩む。だから、この時は酷く迷った。でも、あることに気づき、私はその選択肢を2つとも放棄した。
両方が私にとって大切な人達。だから、喧嘩なんてしてほしくない。私はこの戦争を止める。そう思った時、私はどちらも選ばないなどと口走ってしまった。今でも思う。もっと他に言葉があったんじゃないかって。でも、感情で口走ってしまったのだから仕方ない。私は、どちらも選べなかった。どちらも選ばず、中立の立場で、双方の仲立ちをしようと考えた。でも、そんなうまくいくわけがない。白陽と黒月は、私を取り合って再び戦いを始めてしまった。しかも、今度は私にまで飛び火してきた。
......
......
......
考えれば考えるほどに、あの時の自分はバカだったなぁと思う。両方に仲良くしてほしい。その気持ちが強すぎて、私は口先だけが勝手に動いてしまった。
......でも、あの時、ああして叫んだおかげで今がある。そう考えると、あの選択も悪くなかったと思える。みんなで協力して、1つの大きな敵に立ち向かう。なんと素晴らしいことなのだろうか。そうやって皆が手を取り合えば、必ず平和な世界が訪れる。リエンドを倒した時の私は、そう強く思っていた。でも......
でも、奴はなんと強いのだろうか。正義も悪もどこにもない。あるのはただの絶望のみ。奴は、皆で協力すればどうにかなるような奴じゃなかった。龍の力が抜け、体は完全に動かず、私はただただ悔し泣きするくらいのことしか出来ない。
デルシア「まだ......っ、死ぬっ......わけには......」
涙が溢れるばかりで、体に力を入れられない。痛みを感じる痛覚すら死んでいるかのように私に何も伝えてくれない。
孤独......誰も助けには来れない。私がどうにかしなきゃならなかった。でも、どうにもならなかった。死ぬしかないんだ......
......せめて、最期くらい、兄さん達の顔をよく見て、瞼に焼き付けておきたかった......。
「何走馬灯を見てるんだ!デルシア!」
デルシア「......!?」
白い影が倒れる私の前に現れ、奴が振り落とそうとした刀を弾き飛ばす。
デルシア「兄......さん?」
力を振り絞るようにして顔を上げ、助けてくれた人物が誰なのかを確認した。
死んだはずのシンゲン兄さんがそこに立っていた......。
シンゲン「遅くなってすまない、デルシア」
デルシア「なん......で、兄さんが......」
シンゲン「話せば長くなる。また後でだ!」
それだけ言うと、兄さんは奴に向けて真っ直ぐに突っ込んで行った。
「で、デルシア様!だただ大丈夫ですか!?」
デルシア「カンナ......さん?」
カンナ「は、はい!シンゲン様の従者であるカンナです!」
カンナがいつもの、焦りつつも大きな声を上げて、私に目を合わせる。そして、そのまま動けなくなった私の体を治癒していく。
......ようやく腰から上をまともに動かせるようになった私は、座る形で起き上がり、何が起きているのかを確認する。
シンゲン兄さんが奴を執拗に攻撃し、後ろからカイリとクウガが魔法で援護している。
デルシア「なん......で」
カンナ「は、話せば長くなるので、簡潔にまとめて話すと、サツキ様を逃がすことに成功した私達は、もうそのまま死んでしまうかのような勢いで後退を迫られました。逃げ場のない私達には、もう死しかありません。ですが、そんな時、フードを被った女の人?が現れて、恐らくは転移術でその場にいた皆様を逃がしたのです。事が事だけに、転移先は選べなかったとかなんとかで、こちらに到着するまでにかなりの時間を使ってしまいましたけど、こうしてデルシア様の援軍として駆けつけることが出来ました」
な、なるほど......フードを被った女の人か......。まるで見当もつかないな相手だけど、こうして兄さん達の命を救ってくれたことには感謝しよう。
ミューエ「デルシア!」
デルシア「ミューエさん......」
ミューエ「もう、ホントバカ!」
なぜか、ミューエが泣きながら私に抱きついてきた。
ミューエ「あの力は使わないって約束したじゃない!あなたの体にとんでもない負荷をかけるからって!」
いつもの淡々とした口調とは違って、今のミューエの言葉には感情が篭っている。
デルシア「......ごめんなさい」
ミューエ「デルシア、ここには未来から来たあの人達はいないのよ?もし、龍になった反動で体のどこかが使えなくなったら困るじゃない!」
デルシア「あ......」
そういえば、そこまで考えてなかった。体、今はまだ動くけど、しばらくしてどこかが動かなくなる可能性が高い。治そうにも、治してくれるネイさんは未来の方だし、仮に今のネイさんがそれを出来るのだとしても、記憶を消されてるからダメ。
......助かったのは助かったけど、どうやらもう剣を振るうのは無理なようだ。
カンナ「で、デルシア様、後はシンゲン様達に任せておいてください!必ず、デルシア様の仇を取ります!」
デルシア「まだ死んでませんけど......」
カンナ「はっ、し、失礼しました!」
慌ただしい人だ。
デルシア「ミューエさん、肩を......」
ミューエ「ええ。後は、あの人達に任せましょう」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
フウロ「大変なことになったな......」
騒がしいギルドの中で、フウロがぽつりとそう呟いた。
今日はいつも以上に騒がしい。それは、ギルドの皆がいつも以上にうるさくなっているからというわけではない。外で構えているザガルの兵達が、金属音を一頻りに鳴り響かせているからだ。
グリード「大変になったどころの騒ぎじゃねぇだろォ。俺が黒月で殺しの技術身に付けてた時も、ここまでひでぇ事は起きなかったぞォ?」
ヴェルド「お前の過去なんか知らねぇよ。......んで、どうすんだ?この状況。今のところ、このギルドに働いてる魔法陣のおかげでどうにか持ち堪えてはいるが、それも時間の問題だ」
ヴァハト「もって10分。早ければ3分といったところじゃな」
「「「 ...... 」」」
3分で何が出来るのだろうか?
あれだけの数を相手に、私達だけで戦うのは厳しい。邪龍教みたいに不死の能力を持ってるとか、そんな事は一切ないんだけど、全員立派に鍛え上げられているのか、かなりすばしっこく、また、攻撃するタイミングも的確である。フウロが途中で助けに来てくれなかったら、多分、私はもう死んでる。
そのフウロは、私を助ける時に敵の攻撃が当たり、右肩をバッサリとやられてしまった。肩が外れるほどじゃないけれど、しばらくの間はまともに動かすことが叶わないらしい。今も、分厚く巻かれた包帯からは赤黒い染みが滲み出ている。
ミラ「みんな、騎士団からの情報よ!」
地下室の方から、ミラさんが地図を持って上がってきた。
ミラ「慣れない通信魔法で、上手く聞き取れなかったけど、大まかな情報は拾えたわ。みんな、ここを見て」
ミラさんが机に地図を広げると、白陽の辺りを指さした。
創真との国境付近に位置する場所。確か、広大な平原が広がってるとかそんな感じの場所だったはず。
ミラ「ここでザガル軍と創真・黒月の連合国が戦ってるらしいわ」
ライオス「丁度真反対のところでか......あの2国を相手にして、更にこの街にまで兵を飛ばせるとなると、相当な人手があるらしいな、ザガルは」
グリード「それだけじゃねェ。なぁんで白陽の領地なのに黒月と創真が戦ってるんだと思う?」
エレノア「......!もしかして、白陽はもう敗れた?」
グリード「そういう事だァ。合ってるよなァ?」
ミラ「ええ。速達だけれど、白陽が墜ちたのは確実らしいわ」
武人の多い国でも、こうもあっさりか......。
創真......。確か、ヴァルが今現在身を寄せている場所だけれど、大丈夫だろうか?なんか、城で過ごしているとか手紙には書いてあったけど、まさか戦いに巻き込まれてる、とかはないよね?
セリカ「ねぇ、もしかしての話なんだけど......」
フウロ「ヴァルがこの戦いに巻き込まれているかもしれない。そう言いたいか?」
セリカ「う、うん......」
フウロ「......多分だが、あいつの事だ。自ら率先して巻き込まれに行ってるはずだ。それも、あの組織が絡んでいるとなればな」
あの組織......?
ヴェルド「おい、フウロ。そりゃ、どういうことーー」
ヴェルドが聞くよりも先に、フウロが机の上に小さなチップを何枚か出した。
セリカ「これって......」
どこからどう見ても、天命の泉に向かう際に使った、転移用のチップ。製作者は、死んだはずのヒカリ。
フウロ「実は、セリカを助ける前にとある人物と出会ってな。フードを被っていたし、背中越しだったから誰かは知らんが、これを託された」
グリード「誰かって、こんなもん作れんのあいつ以外にいねぇだろォ」
フウロ「そうだな。確実にあれはヒカリだった。振り向いた時にはもう居なかったがな。で、これは改良を重ねて1枚で1000kmまでなら飛べるようになったらしい」
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フウロ「直線距離だから、3枚で大丈夫だ」
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簡単に作れるものじゃないって言ってたし、これくらいが限界だったのだろう。
セリカ「......私、ヴァル達を助けに行きたい!」
ヴェルド「俺もだ!あいつの元気な面を拝まねぇと、死んでも死にきれねぇからな!」
シアラ「ヴェルド様が行くのであればシアラも!」
エレノア「私も、ヴァルさん、ネイさんの為に戦いに行きたいです!」
グリード「ちっ......俺も、ちょっくら黒月の野郎共に面見せるついでに行くとするかァ」
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ヴァハト「それぞれに意思があるようじゃな。では、セリカ、ヴェルド、シアラ、エレノア、グリード。彼奴を助ける為、戦場に身を投げ打って行けるな?」
「「「 はい! 」」」
フウロ「起動方法は、チップを握り締めて行きたい場所をイメージすればいい。地図を目に見ながらやればやりやすいそうだ」
フウロに言われた通り、私達は、地図を持って目的地の場所をイメージする。まず最初の目的地は、グランアーク中頃、王都より少し手前の街だ。
セリカ「じゃあ、行ってきます!」
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これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
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断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
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王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
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