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第10章-Ⅱ 【記憶の旅人】
第10章37 【家族ノ記憶】
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イデアル「はぁ~......なんか暇ねぇ......」
やるべき事はたくさんあるはずなんだけど、ありすぎて逆に手をつけられない。これ、夏休みの宿題パターンね。
シリウス「イデアル。君に客人が訪ねに来ている」
イデアル「客人?」
シリウス「ああ。緑色の髪をした子なのだが、君の妹について話があるらしい」
イデアル「ネイのことで?」
誰だろう?緑色の髪でネイの知り合い......思いつく限りだと、あの子のもう1つの人格であるヒカリがそんな感じの色だったけど、今は明るすぎるほどにピンク色......。誰だろ?思い当たる節がない。
シリウス「で、どうする?通すか?」
イデアル「うーん......会ってみないと分かりませんし、とりあえず通してください」
シリウス「そうか。分かった」
......
......
......
数分後。
シリウス「すまない。ちょっと遅れてしまった」
イデアル「構いませんよ。で、お客人というのは......」
シリウス「この方だ」
イデアル「......?」
現れたのは、確かに緑色の髪をした女の子と、もう1人、ブロンドの髪をした、明らかに年上っていうのが分かる女性だった。
イデアル「あなた達は?」
「突然の来訪だったことを詫びる。私の名前はミル。ミル・イグドラシルだ。で、隣にいるのが私の愛弟子、アルテミスだ」
「どうも」
ブロンド髪の女性は丁寧に自己紹介をし、緑髪の方はお辞儀をする。
イデアル「......?で、ネイについて話があると伺ったのですが」
ミル「ああ、その事についてなんだが......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「オォッ、ラァッ!」
グリード「くたばれェ!」
極龍王と地龍。2つの龍の力を合わせても、奴は両手を使って防いでくる。そんなひょろひょろな腕のどこにそんな力があるんだろうな。
ヴェルド「背中は貰ったァ!」
ヒカリ「無駄です」
ヴェルド「グァッ!」
ヴェルドが仕掛けた氷も、背中に開かれた魔法陣によって反射される。あまりに近距離だったため、ヴェルドは防御できずにもろに攻撃を喰らう。刺さった氷によって流れ出した血が、折角のイケメン面を台無しにしている。
シアラ「きゃぁっ!ヴェルド様のお顔が!」
グリード「気にしてんじゃねぇよォ!あいつの顔面はこんくれェが丁度いい!」
ヴェルド「おい、そりゃどういう意味だてめぇ!」
セリカ「もう!こんな時くらい喧嘩はよそうよ!」
エレノア「そうですよ!」
ヴァル「ただの痴話喧嘩だろ。気にすんな」
ヴェルド「お前、いっぺん地獄の端っこ見せてやろうか?」
ヴァル「地獄なら1回見てきたよ!オラァっ!」
ヒカリ「無駄です。痴話喧嘩に見せかけて、どさくさに紛れて攻撃をしようとしたのでしょうが、全てお見通しです」
どさくさに紛れて奴の左頬を殴ろうとしたが、右手で止められ、腕の隙間から見える奴の顔には不気味な笑みが浮かべられていた。
ヴァル「......っ!まずい!全員逃げろ!」
ヒカリ「流石、1度喰らいかけただけの事はありますね。もうこの技には気づいていますか」
ヴァル「ああそうだよ!だが、次はもうさせねぇ!相殺してやるよ!極龍王の咆哮!」
ヒカリ「全て消えなさい。極醒の波動」
奴が作り出した光の弾が爆発しねぇよう、咆哮で打ち消そうとするが、向こうの威力の方が高い。かなり高い。数秒ともたねぇな、これは。
ヴァル(もってくれよ......俺の体!)
正面から喰らう事になる。そう察し、俺は咆哮と同時に、出来る限りの防御魔法を発動させる。こんなんで無傷で済ませられるとは思ってないが、死ぬよりかはマシな結果になってくれるだろう。
ヴァル「......っ!」
遂に咆哮での相殺に限界が来て、俺の体は後ろの方へと吹き飛ばされた。
ヴァル「......腹、穴とか空いてねぇよな」
声は出る。腕も動かせる。節々に痛みは感じるが、思った以上に攻撃を抑えられたようだ。
セリカ「ヴァル!」
ヴァル「多分、大丈夫だ!心配すんな!」
みんなが早くに駆けつけてきた。もしかして、そんな飛ばされてない?でも、後方にはもう俺達の拠点がある。つまり、知らず知らずのうちに距離を詰められていたのか。
ヒカリ「おや?思った以上に耐えられましたね。ちょっと予想外です。ですが、これでもう、あなた達に逃げ場はなくなりましたね」
ヴァル「あぁ......?」
ヒカリ「周りが見えてませんか?あなたの仲間達が、どれだけ後ろの方に運び込まれたか。あなたの仲間達が、どれだけ前線を押し上げられていたか。なぜ、私が本気を出さずにいたのか」
ヴァル「......?......!」
気づかなかった。いや、気づけなかった。
赤装束の兵達が、いつの間にか俺達の拠点を囲んでいた。
ヴァル「いつの間に......」
ヒカリ「ザガルの兵はとても有能です。あなた達のように、特別優れた能力を持っているわけではない。しかし、戦闘面においての効率は、どこの兵だろうが適わない。例え、黒月の暗殺隊であれど、彼らの技術を凌駕することは出来ない。ザガルを見込んで正解でしたよ」
ヴァル「っ......!」
互角に戦っているつもりであって、あくまで俺達が勝てる見込みなんてとうの昔に潰れていたのかよ......
ヒカリ「もう降参してはどうですか?こうなってしまえば、あなた達はもう逃げられない。私の目的は彼女だけです。彼女さえ、私の前に出してくだされば、ここから兵達を全撤退させましょう」
ヴァル「っ......そんな事、出来るわけねぇだろ!」
ヒカリ「そうでしょうか?ここで大人しく彼女を出す方が、あなたにとっても、仲間にとっても最善だと思いますよ」
ヴァル「何が最善だ!確かに仲間達は助かるかもしれねぇが、俺が納得できない!」
ヒカリ「果たして、本当にその通りでしょうか?」
ヴァル「何?」
セリカ「ぐふっ......」
後ろの方で、セリカの鈍い声がした。
ヴァル「セリカ!?」
見ると、セリカが赤装束の兵によって、腹を突き刺されていた。
ヒカリ「そうですねぇ......あなたが渋る時間が、1分過ぎる事にお仲間の誰かが傷つくことになるでしょう。それが嫌なのであれば、大人しくネイさんを私の前に出すことです」
......クソっ。こいつ、俺が嫌がることを網羅してやがる。
仲間が傷つくのはダメ。でも、ネイを渡すのはもっとダメ。いや、ここで俺が渋ったところで、あいつは俺の仲間達を散々痛めつけた後で無理矢理ネイを拐っていくのだろう。でも、俺はあいつを守ると決めた。そのためなら何だってやるって。なのに、仲間との天秤に掛けられた時、俺は選べないでいる。どっちも大事。どっちも取りたい。なんとも強欲だが、そう考えるのが普通の人間だろう。
ヒカリ「さあ?どっちにしますか?次は、そこの天幕で休んでいる、創真の女王にしますよ?」
考えろ......どうにかしてネイも仲間も守る方法があるはずだ。
ヒカリ「......どうやら、あなたが決断できないが故に、あなたの仲間達が決断したようですね」
ヴァル「......?」
何言ってんだ?と思って後ろを見た。
ヴァル「......!何やってんだ!アルフレア!」
アルフレアが、ネイが座る車椅子を引いて、こちらにやって来た。隣にはデルシアもいる。2人とも、かなりの重傷で動けなくなっていたはずだ。なのに、なんでよりにもよってあの2人が......。
アルフレア「許せ、ヴァル。これが最善だ」
ヴァル「バカ!最善なわけあるか!お前らが勝手に決めていい事じゃねぇんだよ!」
デルシア「ヴァルさん!」
ヴァル「っ......!なんだよ、デルシア」
デルシア「許してくれとは言いません。ですが、これが最善であることを理解してください!」
ヴァル「なんでだよ!アルフレアならまだ分からんでもないが、なんでよりにもよってお前がそんなことを言うんだ!」
もしかしたら敵のスパイなんじゃないかと本気で疑う。あんなに心優しいデルシアが、「最善だ」と言ってネイを敵に渡すなんてことは絶対にしない。有り得ないんだ。たったの1年。でも、その付き合いで俺はここらの国のことをよく知った。だから、知ったような口してものを言う。
何でなんだ。何が最善なんだ。最悪の展開になるに決まってんだろうが。
アルフレア「何をするつもりだ」
俺はネイが座る車椅子に手をかける。そして、アルフレアの手を払う。
ヴァル「いくらお前が相手でも、ネイを渡そうとする奴を俺は仲間だとは思えない」
アルフレア「ちっ......話の分からん奴だ」
ヴァル「分からねぇのはどっちだよ」
ヒカリ「ごちゃごちゃとうるさいですねぇ。渡すのですか?渡さないのですか?」
ヴァル「渡さねぇよ!」
ヒカリ「そうですか。では、こうするしかありませんね」
デルシア「っ......はっ!......あっ......!」
いつの間にか、デルシアの左胸部分が貫かれていた。
アルフレア「デルシア!」
ヒカリ「言ったでしょう?次に狙うのは彼女だと。さて、次は黒の兄にしましょうか?」
アルフレア「っ......貴様ァァァァ!」
激情に駆られたアルフレアがヒカリに向けて剣を突き出す。だが、体に着いた傷のせいか動きが鈍い。あのままじゃ、また同じことになる......。
ヒカリ「そうですか。死に急ぎますか」
アルフレア「グァッ............」
ヒカリ「次は剣で防ぐことが出来ませんでしたね」
アルフレア「あっ......っ......」
アルフレアの胴体が真っ二つに斬り裂かれた。
ヒカリ「さぁて、次は誰ですかね?死に急ぎたい人から選ばせてあげますよ。特に、黒月の方々なんてどうですかね?」
ベルディア「お兄......様......デル......シア」
ベルディアがボソッと声を漏らした。それを聞き逃さなかったヒカリが、ベルディアに焦点を当て、ニヤリと笑った。
ヴァル「ベルディア!」
ベルディア「......!あ......」
ヒカリ「次はあなたにしましょう。大好きなお兄様と義妹の後を追いかけなさい」
ゆっくりと刀がベルディアの首筋に当てられた。僅かな血が滲み出て、そのままどんどんと血を溢れさせようと刀がゆっくりと入り込んでいく。
「勝手に諦めてんじゃねェェェェェ!」
突如、大きな爆発と隕石でも降り注いだかのような防音が辺りに響き、ベルディアを殺そうとしていたヒカリを吹き飛ばした。
「家族の1人や2人殺されたところで勝手に死を求めてんじゃねぇよ。殺されたんなら、せめて仇くらい取ろうと粘れや」
ヴァル「......もしかして、ユミか?」
「ああ?ああ!お前ヴァルか!久しく合わねぇうちに背ェ......伸びたか?」
ヴァル「なんで疑問形なんだよ......」
ユミ「悪ぃ悪ぃ。ヴァルってこんなんだったっけ?って思ってな」
俺達を助けてくれたのは鬼らしく、強そうな1本の角を生やしたユミだった。
ユミ「......ヴァル、悪ぃ。先に謝っとく」
ヴァル「何をだ」
ユミが強烈な冷気を放つ刀を肩に置き、俺の前へと歩み出る。
ユミ「......悪ぃ。あいつを助けられなかった。ヒカリと何時間もかけたけど、あいつは自分を取り戻すことを拒んだ。もう、あいつは人間らしく生きられねぇよ」
ヴァル「......!それって、どういう......意味......だ」
ネイが、自分を取り戻すことを拒んだ?つまり、あのまま意識を失ったままなのか?
ユミ「ごめんな。謝ってどうにかなることじゃねぇけど、そういう事なんだ。......俺は、あいつに代わって奴を殺しに行く。もう、俺にしか出来ねぇ」
ヴァル「おい......」
ユミ「......ヴァル。みんなを守れよ。もう死人が出たからって、守りきれなかったとか言うんじゃねぇぞ。今あるものをちゃんと守れ。それがお前だ」
ヴァル「......ユミ」
ヒカリ「はぁ......急に吹き飛ばされたかと思えば、まさかまさかの誤算登場ですか。厄介なものです」
あいつが戻ってきた。頬に若干のかすり傷があったが、それはすぐに再生した。
ユミ「......ネイをあんな状態にしやがって......。てめぇだけは許さねぇ」
ヒカリ「別に、許してくれとは言いませんけどね。......あなたは彼女のもう1つの人格。殺さない手はないでしょう」
ユミ「はっ!やる気じゃねぇか!今の俺が、この世界で何番目に偉い存在か知ってーー」
ヒカリ「Destruction goddess。この世界で4番目に偉い存在ですかね。全く、これだから本棚は奪ったままにしときたかったのですよ。こうして、高位の権限を扱う者が現れる可能性があるから」
ユミ「はぁ......面白くねぇなぁ。まあいいや。殺す!」
ヒカリ「かかって来なさい!私の手で殺してあげますから」
2人の刀がぶつかり合い、辺りに冷気と目を瞑っていなきゃ耐えられないほどの光が発生した。
やるべき事はたくさんあるはずなんだけど、ありすぎて逆に手をつけられない。これ、夏休みの宿題パターンね。
シリウス「イデアル。君に客人が訪ねに来ている」
イデアル「客人?」
シリウス「ああ。緑色の髪をした子なのだが、君の妹について話があるらしい」
イデアル「ネイのことで?」
誰だろう?緑色の髪でネイの知り合い......思いつく限りだと、あの子のもう1つの人格であるヒカリがそんな感じの色だったけど、今は明るすぎるほどにピンク色......。誰だろ?思い当たる節がない。
シリウス「で、どうする?通すか?」
イデアル「うーん......会ってみないと分かりませんし、とりあえず通してください」
シリウス「そうか。分かった」
......
......
......
数分後。
シリウス「すまない。ちょっと遅れてしまった」
イデアル「構いませんよ。で、お客人というのは......」
シリウス「この方だ」
イデアル「......?」
現れたのは、確かに緑色の髪をした女の子と、もう1人、ブロンドの髪をした、明らかに年上っていうのが分かる女性だった。
イデアル「あなた達は?」
「突然の来訪だったことを詫びる。私の名前はミル。ミル・イグドラシルだ。で、隣にいるのが私の愛弟子、アルテミスだ」
「どうも」
ブロンド髪の女性は丁寧に自己紹介をし、緑髪の方はお辞儀をする。
イデアル「......?で、ネイについて話があると伺ったのですが」
ミル「ああ、その事についてなんだが......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「オォッ、ラァッ!」
グリード「くたばれェ!」
極龍王と地龍。2つの龍の力を合わせても、奴は両手を使って防いでくる。そんなひょろひょろな腕のどこにそんな力があるんだろうな。
ヴェルド「背中は貰ったァ!」
ヒカリ「無駄です」
ヴェルド「グァッ!」
ヴェルドが仕掛けた氷も、背中に開かれた魔法陣によって反射される。あまりに近距離だったため、ヴェルドは防御できずにもろに攻撃を喰らう。刺さった氷によって流れ出した血が、折角のイケメン面を台無しにしている。
シアラ「きゃぁっ!ヴェルド様のお顔が!」
グリード「気にしてんじゃねぇよォ!あいつの顔面はこんくれェが丁度いい!」
ヴェルド「おい、そりゃどういう意味だてめぇ!」
セリカ「もう!こんな時くらい喧嘩はよそうよ!」
エレノア「そうですよ!」
ヴァル「ただの痴話喧嘩だろ。気にすんな」
ヴェルド「お前、いっぺん地獄の端っこ見せてやろうか?」
ヴァル「地獄なら1回見てきたよ!オラァっ!」
ヒカリ「無駄です。痴話喧嘩に見せかけて、どさくさに紛れて攻撃をしようとしたのでしょうが、全てお見通しです」
どさくさに紛れて奴の左頬を殴ろうとしたが、右手で止められ、腕の隙間から見える奴の顔には不気味な笑みが浮かべられていた。
ヴァル「......っ!まずい!全員逃げろ!」
ヒカリ「流石、1度喰らいかけただけの事はありますね。もうこの技には気づいていますか」
ヴァル「ああそうだよ!だが、次はもうさせねぇ!相殺してやるよ!極龍王の咆哮!」
ヒカリ「全て消えなさい。極醒の波動」
奴が作り出した光の弾が爆発しねぇよう、咆哮で打ち消そうとするが、向こうの威力の方が高い。かなり高い。数秒ともたねぇな、これは。
ヴァル(もってくれよ......俺の体!)
正面から喰らう事になる。そう察し、俺は咆哮と同時に、出来る限りの防御魔法を発動させる。こんなんで無傷で済ませられるとは思ってないが、死ぬよりかはマシな結果になってくれるだろう。
ヴァル「......っ!」
遂に咆哮での相殺に限界が来て、俺の体は後ろの方へと吹き飛ばされた。
ヴァル「......腹、穴とか空いてねぇよな」
声は出る。腕も動かせる。節々に痛みは感じるが、思った以上に攻撃を抑えられたようだ。
セリカ「ヴァル!」
ヴァル「多分、大丈夫だ!心配すんな!」
みんなが早くに駆けつけてきた。もしかして、そんな飛ばされてない?でも、後方にはもう俺達の拠点がある。つまり、知らず知らずのうちに距離を詰められていたのか。
ヒカリ「おや?思った以上に耐えられましたね。ちょっと予想外です。ですが、これでもう、あなた達に逃げ場はなくなりましたね」
ヴァル「あぁ......?」
ヒカリ「周りが見えてませんか?あなたの仲間達が、どれだけ後ろの方に運び込まれたか。あなたの仲間達が、どれだけ前線を押し上げられていたか。なぜ、私が本気を出さずにいたのか」
ヴァル「......?......!」
気づかなかった。いや、気づけなかった。
赤装束の兵達が、いつの間にか俺達の拠点を囲んでいた。
ヴァル「いつの間に......」
ヒカリ「ザガルの兵はとても有能です。あなた達のように、特別優れた能力を持っているわけではない。しかし、戦闘面においての効率は、どこの兵だろうが適わない。例え、黒月の暗殺隊であれど、彼らの技術を凌駕することは出来ない。ザガルを見込んで正解でしたよ」
ヴァル「っ......!」
互角に戦っているつもりであって、あくまで俺達が勝てる見込みなんてとうの昔に潰れていたのかよ......
ヒカリ「もう降参してはどうですか?こうなってしまえば、あなた達はもう逃げられない。私の目的は彼女だけです。彼女さえ、私の前に出してくだされば、ここから兵達を全撤退させましょう」
ヴァル「っ......そんな事、出来るわけねぇだろ!」
ヒカリ「そうでしょうか?ここで大人しく彼女を出す方が、あなたにとっても、仲間にとっても最善だと思いますよ」
ヴァル「何が最善だ!確かに仲間達は助かるかもしれねぇが、俺が納得できない!」
ヒカリ「果たして、本当にその通りでしょうか?」
ヴァル「何?」
セリカ「ぐふっ......」
後ろの方で、セリカの鈍い声がした。
ヴァル「セリカ!?」
見ると、セリカが赤装束の兵によって、腹を突き刺されていた。
ヒカリ「そうですねぇ......あなたが渋る時間が、1分過ぎる事にお仲間の誰かが傷つくことになるでしょう。それが嫌なのであれば、大人しくネイさんを私の前に出すことです」
......クソっ。こいつ、俺が嫌がることを網羅してやがる。
仲間が傷つくのはダメ。でも、ネイを渡すのはもっとダメ。いや、ここで俺が渋ったところで、あいつは俺の仲間達を散々痛めつけた後で無理矢理ネイを拐っていくのだろう。でも、俺はあいつを守ると決めた。そのためなら何だってやるって。なのに、仲間との天秤に掛けられた時、俺は選べないでいる。どっちも大事。どっちも取りたい。なんとも強欲だが、そう考えるのが普通の人間だろう。
ヒカリ「さあ?どっちにしますか?次は、そこの天幕で休んでいる、創真の女王にしますよ?」
考えろ......どうにかしてネイも仲間も守る方法があるはずだ。
ヒカリ「......どうやら、あなたが決断できないが故に、あなたの仲間達が決断したようですね」
ヴァル「......?」
何言ってんだ?と思って後ろを見た。
ヴァル「......!何やってんだ!アルフレア!」
アルフレアが、ネイが座る車椅子を引いて、こちらにやって来た。隣にはデルシアもいる。2人とも、かなりの重傷で動けなくなっていたはずだ。なのに、なんでよりにもよってあの2人が......。
アルフレア「許せ、ヴァル。これが最善だ」
ヴァル「バカ!最善なわけあるか!お前らが勝手に決めていい事じゃねぇんだよ!」
デルシア「ヴァルさん!」
ヴァル「っ......!なんだよ、デルシア」
デルシア「許してくれとは言いません。ですが、これが最善であることを理解してください!」
ヴァル「なんでだよ!アルフレアならまだ分からんでもないが、なんでよりにもよってお前がそんなことを言うんだ!」
もしかしたら敵のスパイなんじゃないかと本気で疑う。あんなに心優しいデルシアが、「最善だ」と言ってネイを敵に渡すなんてことは絶対にしない。有り得ないんだ。たったの1年。でも、その付き合いで俺はここらの国のことをよく知った。だから、知ったような口してものを言う。
何でなんだ。何が最善なんだ。最悪の展開になるに決まってんだろうが。
アルフレア「何をするつもりだ」
俺はネイが座る車椅子に手をかける。そして、アルフレアの手を払う。
ヴァル「いくらお前が相手でも、ネイを渡そうとする奴を俺は仲間だとは思えない」
アルフレア「ちっ......話の分からん奴だ」
ヴァル「分からねぇのはどっちだよ」
ヒカリ「ごちゃごちゃとうるさいですねぇ。渡すのですか?渡さないのですか?」
ヴァル「渡さねぇよ!」
ヒカリ「そうですか。では、こうするしかありませんね」
デルシア「っ......はっ!......あっ......!」
いつの間にか、デルシアの左胸部分が貫かれていた。
アルフレア「デルシア!」
ヒカリ「言ったでしょう?次に狙うのは彼女だと。さて、次は黒の兄にしましょうか?」
アルフレア「っ......貴様ァァァァ!」
激情に駆られたアルフレアがヒカリに向けて剣を突き出す。だが、体に着いた傷のせいか動きが鈍い。あのままじゃ、また同じことになる......。
ヒカリ「そうですか。死に急ぎますか」
アルフレア「グァッ............」
ヒカリ「次は剣で防ぐことが出来ませんでしたね」
アルフレア「あっ......っ......」
アルフレアの胴体が真っ二つに斬り裂かれた。
ヒカリ「さぁて、次は誰ですかね?死に急ぎたい人から選ばせてあげますよ。特に、黒月の方々なんてどうですかね?」
ベルディア「お兄......様......デル......シア」
ベルディアがボソッと声を漏らした。それを聞き逃さなかったヒカリが、ベルディアに焦点を当て、ニヤリと笑った。
ヴァル「ベルディア!」
ベルディア「......!あ......」
ヒカリ「次はあなたにしましょう。大好きなお兄様と義妹の後を追いかけなさい」
ゆっくりと刀がベルディアの首筋に当てられた。僅かな血が滲み出て、そのままどんどんと血を溢れさせようと刀がゆっくりと入り込んでいく。
「勝手に諦めてんじゃねェェェェェ!」
突如、大きな爆発と隕石でも降り注いだかのような防音が辺りに響き、ベルディアを殺そうとしていたヒカリを吹き飛ばした。
「家族の1人や2人殺されたところで勝手に死を求めてんじゃねぇよ。殺されたんなら、せめて仇くらい取ろうと粘れや」
ヴァル「......もしかして、ユミか?」
「ああ?ああ!お前ヴァルか!久しく合わねぇうちに背ェ......伸びたか?」
ヴァル「なんで疑問形なんだよ......」
ユミ「悪ぃ悪ぃ。ヴァルってこんなんだったっけ?って思ってな」
俺達を助けてくれたのは鬼らしく、強そうな1本の角を生やしたユミだった。
ユミ「......ヴァル、悪ぃ。先に謝っとく」
ヴァル「何をだ」
ユミが強烈な冷気を放つ刀を肩に置き、俺の前へと歩み出る。
ユミ「......悪ぃ。あいつを助けられなかった。ヒカリと何時間もかけたけど、あいつは自分を取り戻すことを拒んだ。もう、あいつは人間らしく生きられねぇよ」
ヴァル「......!それって、どういう......意味......だ」
ネイが、自分を取り戻すことを拒んだ?つまり、あのまま意識を失ったままなのか?
ユミ「ごめんな。謝ってどうにかなることじゃねぇけど、そういう事なんだ。......俺は、あいつに代わって奴を殺しに行く。もう、俺にしか出来ねぇ」
ヴァル「おい......」
ユミ「......ヴァル。みんなを守れよ。もう死人が出たからって、守りきれなかったとか言うんじゃねぇぞ。今あるものをちゃんと守れ。それがお前だ」
ヴァル「......ユミ」
ヒカリ「はぁ......急に吹き飛ばされたかと思えば、まさかまさかの誤算登場ですか。厄介なものです」
あいつが戻ってきた。頬に若干のかすり傷があったが、それはすぐに再生した。
ユミ「......ネイをあんな状態にしやがって......。てめぇだけは許さねぇ」
ヒカリ「別に、許してくれとは言いませんけどね。......あなたは彼女のもう1つの人格。殺さない手はないでしょう」
ユミ「はっ!やる気じゃねぇか!今の俺が、この世界で何番目に偉い存在か知ってーー」
ヒカリ「Destruction goddess。この世界で4番目に偉い存在ですかね。全く、これだから本棚は奪ったままにしときたかったのですよ。こうして、高位の権限を扱う者が現れる可能性があるから」
ユミ「はぁ......面白くねぇなぁ。まあいいや。殺す!」
ヒカリ「かかって来なさい!私の手で殺してあげますから」
2人の刀がぶつかり合い、辺りに冷気と目を瞑っていなきゃ耐えられないほどの光が発生した。
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