グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第10章-Ⅱ 【記憶の旅人】

第10章42 【終点の記憶】

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ネイ「グランスキル・エデン」

 月の光を浴びたマナが、ここら一帯を包み込んでシュンっと蒸発する。時間を止められていた赤装束のザガル兵達の姿が消え、敵の大将である先生だけが残っていた。

 いきなりマナを吸われるもんだから、思わず仰け反って倒れてしまった。やるならやるで、事前に知らせてよ......。まあいいか。これで、残った敵は先生1人。しかも、かなり追い詰められている。これなら、あの方法で先生を殺すことが出来る。

 その為には、何としてでもネイに圧勝してもらわなければならない。全く......いつもいつもお寝坊さんなんだから......。

アルテミス「ラク、どうするの?あれ、使うの?」

ヒカリ「使おうと思う。でも、今はまだタイミングが悪い。いくらあの子が時間を好き勝手に出来るとはいえ、痛みの感覚はしっかりと残るっぽいからね。痛いのは嫌なのよ」

ミル「見守るしかないということか......」

ウルガ「不甲斐ないものです。結局、娘1人に全てを任せることになろうとは......」

ヒカリ「本当よ。親父なら親父らしく、娘の盾になって死ぬくらいのことはしてみなさいよ」

ヴァルガ「お前、本当に父親を労る心がないな......」

ヒカリ「ふんっ!」

 ......正直に言えば、私はこの状況が悔しい。折角女神の力を使っているのだから、あの子が復活しなくても倒しきれるくらいの力は見せたかった。活躍したかった。だけど、いつもいつも美味しいところだけを持っていくのがあの子。そういや、この間ショートケーキのイチゴの部分だけ持っていかれたわね......。本当に美味しい人生を送っていることよ。なぁにが、ネイ・"ゼグラニル"よ。私から生まれた人格の癖に、何一丁前に私より先に結婚宣言してるのよ。

 あぁぁ、悔しい悔しい悔しい!......嘆いても仕方ないことは分かってる。所詮私は、どこまで行っても悪魔の子なのだから。幸せになることは許されない。この身は、常に血生臭いところにあるのがお似合いなのよ。

 ......それでも、私は幸せになりたい。あの子みたいに、みんなに愛され、特別な人から大きな愛を受け取って、私も誰かを愛して、やがては幸せになりたい。そんな都合のいい人......いないか。

クロム「ヒカリ!」

ヒカリ「クロムさん?」

 やーっと、ペガサスに乗って自警団のみんなが駆けつけて来た。

クロム「状況はどうなってる!?」

ヒカリ「ご覧の通り、あの子が復活して押せ押せムードよ」

クロム「そうか......どうやら、俺達の出番はもう無いっぽいな」

ヒカリ「......残念だけど、最後に一仕事やって来るわよ」

クロム「......?何がだ?」

 どうやら、気づいてないみたいね。まあ、それもそうか。今の状況でこの事実に築ける人間は、私かユミか、あの子くらいだろう。

ヒカリ「あいつ、ネイの再生力を利用して、敢えて死ぬまでの時間を長引かせていたの」

クロム「......?それがどうかしたか?」

ヒカリ「殺したいと願った相手を、致命傷を負わせる程度で済まし、なんでずっと私達に攻撃をし続けていたのだと思う?その気になれば、ここにいる人間みんな殺せたのに」

クロム「......いや、分からんな」

ヒカリ「じゃあ、聞き方を変えるわね。先生は、どうやってこの世界を破壊するつもりだったの?」

クロム「そんなもの、なんか凄い魔法を使って壊すんじゃないのか?」

 ハッ。これだから素人は。

アルテミス「もしかして、アポカリプスでも呼び出そうとしてたの!?」

 意外に頭の回る子もいたものだわ。流石は先生の授業を右から左へをしてただけある。

ヒカリ「そ、正解。先生は破壊者ワールドスレイヤーじゃない。だから、この世界を壊すためにはネイ以外の破壊者ワールドスレイヤーが必要になる。そこで選ばれたのが、龍の殺戮を目指し、各世界を破壊し尽くしてきたアポカリプスを呼び出すのよ。夢の世界での1件があった時、いや、正しくは歴史が元に戻った時ね。最悪の事態を考えてアポカリプスを封じ込めていた世界を見に行ったの。そしたら、ネイが封じ込めに使ったはずのラナスフィアが壊れていた。で、あいつは僅かにあった世界の割れ目を攻撃し続けていた。もうここまで言ったんだから、これから何が起こるかくらいは分かるわよね?」

クロム「......アポカリプスが、この場にやって来る?」

ミル「そのアポカリプスが何なのかは大体分かったが、同じ破壊者ワールドスレイヤーであるネイや、女神がなんとかかんとか言ってるお前なら倒せるんじゃないのかい?」

ヒカリ「......」

 それが出来たら何も危惧することはないわよ。

 ......みんな、あの子が永遠に戦えると思っているっぽいけど、そんな都合のいい話はどこにも存在しない。いくら魔法で強化してると言えど、あの子の体は貧弱!貧弱ゥ~!な弱っちい体。今みたいな戦い方が出来てるのは、きっと無意識にオーバードライブを発動させてるからでしょうね。で、その効果は先生を倒した瞬間に解除される。そうなれば、体に溜まった負担が全て爆発し、あの子の体を苦しめ続ける。時を戻す力によって、体がボロボロになることはないでしょうけど、それでも精神には相当なダメージが行くはず。そうなれば、しばらくの間戦うことが叶わなくなるし、力を満足に使えない間にアポカリプスに殺されてしまう。

 考えを色々巡らせてはいるけれど、今のところこれと言った解決策はない。あるとすれば、あの子がオーバードライブを解除する前にアポカリプスと対峙させるか、ここにいるみんなで大レイドバトルVSアポカリプス。難易度:意味不明級でもやるか......前者はアポカリプスの出現タイミングが肝心。仮に早めに現れたとしても、あの子が戦い続ければ、その後にやってくる精神ダメージは相当なものになる。で、後者の場合、勝てない可能性の方が高い。

 ......それでもやるしかないのか。一応、私達の周りに咲き乱れる月下美人の花は、私達の傷を永続的に回復させ続けてくれている。それに加え、さっきのネイの魔法によって、ここら一帯はマナが濃密とした空間になっている。上手いこと体に取り入れれば、さっきまで以上に戦えるはず。

ヒカリ「......何はともあれ、まずは先生を殺さないことには話が進まない」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ネイ「神器・クラウソラス!神器・カラドボルグ!」

「っ!っ!」

ネイ「神器・エクセリア!サリア!」

 こいつ、意外としぶとい。

 ここまでの力を出してるのに、まだ死なないなんて、こんなのただの不死身じゃないでしょ......。

「ちっ......私相手にまだ軽気ですか。全く、随分と舐められたものです」

 奴の刃か私の腹を横に斬った。激痛が走るが、時間を巻き戻して斬られたという事実を打ち消す。一方的に攻撃をし続けていたのに、ほんの僅かな隙を突かれてしまうとは、そろそろオーバードライブの限界も近いっぽい。

「あなたが手を抜くというのであれば、私も貪欲に勝利を掴み取りましょう」

ネイ「させぬ。お主には完膚無きまでの敗北を突き付ける。神器・アロンダイト!」

 杯から、1つ、また1つと召喚し、奴の体に痛みを刻み込んでいく。だけど、あいつには痛みという感覚が無いらしく、平気な顔して突っ込んでくる。腕を千切ろうが関係なく残った方で攻撃し、私の体にも痛みを刻んでくる。

 月下美人の花弁は、私が対応しきれない部分を補ってくれているけど、あいつはそれを上回った予測で攻撃してくる。まだまだ私が有利ではあるけれど、このままじゃ体の限界が来てしまうのが先。もっともっと痛めつけてやりたいけど、痛むことを知らないこいつに、これ以上攻撃しても無駄か。

ネイ「神器・強欲の隊列!」

 大量の神器を呼び出し、奴を中心にして円を描くように配置する。横だけではなく、上と下の方にもびっしりと。円と言うより、球体の方が近い。

「っ......そろそろ本気というわけですか」

ネイ「痛みを感じぬお主に、これ以上の苦痛は必要ないじゃろう」

「そうですね......。ですが、やろうと思えばまだまだできるこの状況で本気を出す。つまり、あなたの限界が近いということですね」

ネイ「っ!かかれ!」

「......」

 奴は己を守ることもせずに、全ての神器を喰らった。血や肉片が辺りに飛び散ることはない。多分、神器の中の一つが、人を喰らう性質でも持っているのだろう。

ネイ「......」

「......どうやら、あなたは私を舐めすぎていたようです」

ネイ「......!?」

 奴の姿は、血の一滴も残さないほどに消えていた。でも、なぜかあの場所から奴の声が聞こえてくる。

ネイ「......どこから?」

 強欲の杯を閉じ、夜月の剣を回収する。

「私が私のままである限り、あなたに勝つことは叶わない。ですから、やりたくはなかった方法ですが、こうするしかありません」

ネイ「......!まさか......」

 満月に分厚い雲がかかり、全ての光を消した。そして、一際大きく、黒く重なった雲に、次元の歪みが現れる。そして、その雲と同じように、黒く、禍々しいオーラを纏った龍が現れる。

「まさか、あなたのような人と共に生きる事になるとは......これまた、数奇な運命があるものです」

ネイ「アポカリ......プス......」

 そんな......あれは、私が私の体を犠牲にして封じ込めていたはずのもの。まさか、あいつがいつまでも余裕そうな顔をしていたのは、あれが来ることを知っていたからなのか?だとしたら、奴の計画性は私の範疇を超えている。使いたくないけど、私も右目の力を使う他ない。

「さあ、あなたが唯一勝てない相手、アポカリプス戦でも始めましょうか?」

ネイ「......」

 奴の心を読もうとした。でも、何も見えない、何も聞こえない、見えるのは灰色の世界のみ。奴に、精神世界が存在していない。なのに、奴は人格を持ち、全てを破壊し尽くそうと行動している。

 分からない。ここに来て、見えていたはずのものが見えなくなった。奴の目的はなんだ?ただ死ぬことだけが目的なのか?でも、そうなのだとしたら、私が殺せず、奴自身も殺せないアポカリプスに、自らの人格を書き加えることなどしないはず。いや、だから、「やりたくなかった方法」と言ったのか。だとしても、死ぬ事が真の目的なのに、なぜ、死ぬ事が出来なくなる覚悟を持ってしてまで私を殺しにかかるのか。

「分からない、と言った顔ですね」

ネイ「......私の欲を持ってしても、お主の心を見ることが叶わない。なぜ、お主はそうまでして私を殺そうとする?死ぬ事が目的のお主が、死ぬ事が出来なくなる事を承知の上で私を殺しにくるなどーー」

「矛盾している。そう言いたげですね」

ネイ「......」

「その答えが知りたいのであれば、その右目で無理矢理私の心を覗き込んでみる事です。出来るかどうかは知りませんが」

ネイ「ならば、無理矢理お主の心を見てやろう」

 私は翼を広げて飛び立ち、月下美人の花弁を地上を覆うようにして広げる。

 これから始まる戦いは、下手すれば世界そのものが壊れてしまうかもしれない戦い。だから、私は月下美人の花弁を使って、ラナスフィアの再現をする。あれもまた、今では神器の1つ。この世に存在はしてなくても、花弁で再現することくらいは簡単だ。

「そんな事をすれば、地上から誰も援軍に来られなくなりますよ」

ネイ「そんなもの分かっておる。彼奴らに手出しはさせん。お主は、私がこの手で殺す」

「なるほど。一騎打ち、というわけですね」

ネイ「もっとも、時間制限はお互いにあるようじゃがな」

「ふふ......」

 奴が微かな笑い声を上げた。私はそれを合図に、花弁を奴の周囲に散らせる。花弁は、僅かな月光を吸収し、小規模なラナスフィアを生成する。

「無駄です。どうやってアポカリプスがこちらの世界に来られたのか考えてみてください」

 ......そういう事か。あれを壊したのは、奴か。

ネイ「......もう少しだけ持っておくれ、私の体!五龍王継承グランコネクト・ファイブ・ドラゴンズ!」
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