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最終章 【創界の物語】
最終章3 【ギルドに向けて】
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翌日ーー
真夏の朝は風が吹いていても少し暑い。起きたばかりだというのに、もう結構な量の汗をかいている。多分、それは暑さのせいだけではなく、昨日の出来事が私の脳をおかしくさせてるせいなんだ。
今日は朝からギルドに向けての移動。昨晩から今朝にかけては、あの白い影がどこかに出没したなんて話を聞かないし、一応は安心してもいいと思うんだけど、念には念を入れて、私達は歩きでシグルアの街を目指すことにした。
理由は、恐らく奴らが私達を狙っていることであり、人助けのためのギルドが、逆に人様に迷惑をかけてはダメだと、今朝朝食を取りながらヴァルと確認したからだ。
……歩きでシグルアまで。ヴァルの魔法を使えばそれなりに時間短縮もできるんだろうけど、いざという時にマナ切れでヴァルが戦えなくなると困る。何日、何週間かかるかは分からないけど、地道に行くしかなさそうだ。
ヴァル「セリカ。行くぞー」
「うん」
王都付近の街にしては、そこまで発展を遂げていないこの街を去り、私達は広大な草原へと駆り出す。こんなに視界広ければ、多分白い影が来ても大丈夫だよね?
ヴァル「……白い影か」
「何か思い当たる節でも?」
ヴァル「いやぁな、その手の敵って、俺達何度も戦ってきたわけじゃん?」
「うん、そうだね」
似たようなので言えば、邪龍教、ザガル兵、組織の組員。どれもこれも、下っ端と思しき人物は1色の色だけで組まれた服装をしていた。なので、それらを見れば、「あ、○○だ」くらいにはパッと見で分かる。今回も、きっと奴らはどこかの誰かが作り出した傍迷惑な組織であることに違いはないんだろうけど、白か……
白と言えば、脳に浮かび上がるのはネイりんの一時的な銀髪と若干嫌な記憶とセットになってくる雪原。白って、割と嘘偽りない、透明化されたものってイメージがあるし、正義の方にある色ってイメージなんだけど、これ間違ってないかな?
ヴァル「……」
「で、結局何が言いたいの?」
ヴァル「白い影……なんて呼び方をしたが、あいつらって本当に白か?俺の目にはーー」
ヴァルが言葉を言い切るよりも先に、私達の周りに大きな爆発が起きたーー
ヴァル「っ……クソっ、囲まれてやがる……!」
瞬時に2人で背中を合わせ、爆発が起きた辺りの状態を確認する。
今度は、あえて私達を狙わなかったのか……。わざとなのか、それともただ単に失敗したのか。どちらにせよ、こちらに好意を持ってる相手ではないってことは確実ね。
「影が10個……」
ヴァル「やっぱりだ」
「何が?」
ヴァル「こいつら、白ってよりは無色って言った方がいいぜ」
白でも無色でも大して変わらないでしょうが……
ヴァルの勘の良さは、たまに凄いところに行き着くことはあるけど、今回は多分どうでもいい勘だと思う。私はヴァルに支援の魔法をかけて、ここを突っ切る構えを取る。ヴァルの方も、自らの発言にはそこまで注意せず、すぐさま炎を拳にまとわりつかせて戦う準備に入っていた。
ヴァル「行くぜ、セリカ。火傷すんなよ!」
「だから、それはヴァルが手加げーー」
ヴァル「極龍王の狂軍!」
最早何も言うことはない。私は防御魔法をギリギリのところで発動させ、流れ弾ならぬ、流れ火がこちらに来るのを防ぐ。
白い影改め無色の影は、抵抗する素振りを見せず、昨日と同様、ヴァルの攻撃をその身で受けていた。もちろん、昨日から変化があって攻撃が効くようになったわけではない。奴らは無傷でその場に立っていた。
私達を狙っているとは勘で考えたけど、多分それは外れてないと思う。なら、なぜ奴らは私達に攻撃してくるのだろうか?いや、そもそも奴らは何なのだろうか?私達は、仕事柄、人から喜ばれることはあっても、こうやって恨みを買ってしまうようなことは……多分してないはずだ。
ヴァル「言っとくけどセリカ、俺今回は無関係だぞ」
「知ってるし、信じてるから!」
勘のいいヴァルは、私が考えていたことをすぐさま察して釘を刺してきた。
いくら1年間一人旅をしてきたヴァルといえど、流石にこんな訳の分からない連中相手に喧嘩を売ったとは思ってないし、思いたくはない。というか、何でこんな無駄な心配しなくちゃならないのよ……。
ヴァル「やっぱ、こうしてやり合ってても埒は明かねぇな!セリカ、やっぱ逃げるぞ!」
「それが一番ね」
ヴァルが炎を周囲に向けて吐き、この草原に視界の悪い煙の空間を作る。そんなのをして意味があるのかどうかは分からないけど、目眩しくらいにはなってくれるんじゃないかな?
ヴァルが昨日と同じように私を抱え、私はヴァルに強化魔法を送りつつ、この包囲から脱出する。
奴らはそんな私達を一切妨害しては来ない。何が目的なのかよく分からない奴らだ。本当、気味が悪い。
ヴァル「一応聞いとくが、次の街までは?」
「馬車使えば1時間で着けた」
ヴァル「ってことは、30分だな!しっかり掴まってろよ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
30分後ーー
ヴァルの宣言通り、私達は僅か30分で次の街にまで着いた。ヴァルの力なら、そこら辺の馬車を使うよりもずっと早い。いっその事、運び屋にでもなれば?と私は思う。今の仕事よりずっと平和だし、ヴァルの鍛え上げられた力なら、盗賊が現れてもへっちゃらそう……いや、誤って荷物を壊しそうだからダメか。
なんて呑気なことを考えつつ、私は地図に目を走らせて次の街を確認する。
「まさか、街一つ一つに足を踏み入れていくことになるとは……」
ヴァル「俺だって克服された三半規管で楽に帰れると思ってたよ」
「はぁ……次の街はここ。丁度南西の方に真っ直ぐ進めば辿り着けるようになってるけど、さっきまでの道同様、平原が続くよ」
私はヴァルに地図上の目的地を指差しながらそう伝える。日はまだまだ東の方にあるし、昼間のうちに出来るだけ移動距離を稼いでおきたい。それに、この街は農村のせいか、宿という宿は1つもなかった。
辺り一面麦畑が広がり、これはこれで風情があるな、と感じる。こんな、不安に覆われた状態でなければ、きっとこの街の魅力を発見できたことに喜びを感じていただろう。
ヴァル「無色の影……」
「色なんてどうでもいいでしょ」
ヴァル「でも、やっぱ気になんだよ。無色ってとこに」
「はぁ?」
考えすぎだと私は思う。色1つにそこまでの謎が秘められているわけない。そんなのを気にするくらいなら、奴らの他の特徴を探すべきだ。……探せてない私が言うのもあれだけど。
ヴァル「まあいいか。さっさと行こうぜ。あの影共がまた襲ってくる前にな」
「うん、そうだね」
まあ、何だかんだでヴァルと一緒にいられるこの状況を好ましく思おう。許せネイ……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「あーあ、空はこんなにも晴れてるってのに、なーんで心はこんなに落ち着かねぇのかねー」
「何だかんだで無色の影が怖いから」
ヴァル「正解」
まだ3回目だけど、もう流石に慣れた。
無色の影が、再び私達の周りを包囲している。ヴァルが全速力で次の街に向かい、そこでこれといった時間を潰すようなことはせずに出発したというのに、奴らはもう既に私達に追い付いていたのである。いや、追い付くと言うよりも、先回りしているといった具合かな?
どう言葉にすればいいのか分かんないんだけど、とにかく奴らが私達の行く先々に現れて、なぜか私達の妨害をしていることに変わりはない。
なんで私達を狙うのか。それさえ分かれば、多分どうにか解決出来るかもしれないのに……
ヴァル「一々戦ってても埒が明かねぇのは分かってる!セリカ、逃げるぞ!」
「うん!」
こいつらとの戦い方はほぼ固定化された。
気づけば私達を包囲しているが、奴らは必死になって、私達が逃げるのを防ぎはしない。攻撃だって、私達が戦おうとすれば反撃してくるくらいで、それ以外の時はそこまで激しく攻撃をしてこない。というのが、私の分析だ。
ヴァル「逃げても逃げてもすぐ追いついて来やがる……どうなってんだ?」
ヴァルの体力も、流石に限界が近づいてる。昨日散々暴れ回り、今日も今日とでかなり暴れている。私が支援魔法をかけてはいるが、多分それも気休め程度にしかなってない。
ヴァルの膨大なマナと、燃費の悪い魔法。そして、逃げるために全力で炎を吹き出し続ければ、回復よりも先に貯蔵が尽きてしまう。それを表すかのように、ヴァルの額には若干の汗が垂れている。
次の街までは、ヴァルの速さでも2時間くらいはかかる。こんなに視界が広い草原だというのに、街が全然開拓されていないのだ。いや、そこら辺に関して文句を言うのは筋違い何だけど、昔の人達もっと頑張っといてよ、と言いたくなる。まあ、奴らが街に入ってこないのはただの偶然かもしれないし、街の有無は気にしちゃダメかな?
「ヴァル、無理なら無理って先に言ってね」
ヴァル「バカヤロウ。こんなんでヘタレになるわけねぇだろ」
強がってる……
このままじゃ、力尽きたヴァルを背負って逃げなきゃならなくなる。攻撃が通じない相手に、私1人でどう戦えと言うの?一応、こちらが攻撃しなければ奴らも攻撃してくることはほとんど無いが、それでもジリジリと詰め寄って来るので捕まるんじゃないかと不安でいっぱいになる。
精霊達に任せようにも、生憎私は今のヴァルよりもっと燃費が悪い。10分持てばいい方だ。
「うわっ」
途端、急に落ちそうになってすぐさま元の体勢に戻った。
「ヴァル。流石にそろそろ休憩した方が……」
ヴァル「バカいえ……地上に降りたら……奴らが……来ちまう……だ……ろ……」
「う、うわぁぁぁぁホウライ!」
急にヴァルが目を閉じて足の炎を消してしまった。
地面スレスレのところでホウライを呼び出し、すぐに重力魔法で何とか落下の衝撃を免れた。
「危ない危ない……ホウライ、ありがとう」
ホウライ「またいつでも」
ホウライは精霊界に帰った。
「だから無理しちゃダメって……」
私はずっしりと重たいヴァルを背負い、どうにかして次の街、もしくは野営でも出来そうな場所を探そうと歩き出す。
バランスが取りにくくて、何度も転びそうになったけど、ようやくバランスを取ることが出来て、しっかりとした足取りで歩き出そうとしたのも束の間、私が顔を上げた先に誰かがいた。
「うわぁぁぁ!?」
折角いい感じに立てたというのに、バランスを崩して私もヴァルも草原の上に転んでしまった。
「おやおや、驚かせてしまったようですね、申し訳ない」
私は顔にかかった土を払いつつ、私が見た男の顔を確認する。
パッと見の印象は、20代後半の紳士的な顔立ちをした穏やかそうな人物。額にバッテンの傷痕があり、体付きも少々筋肉質なところから、騎士か何かなのかな?と私は推測する。
「私の名前はジーダ。光楼宗嫉妬の席に座る者です」
「光楼宗……?」
聞いた事のない名前。でも、私はヴァルを後ろに隠して警戒を顕にしていた。
この男は危険。本能がそう訴えかけている。
ジーダ「組織の名前を知らなくとも、こう言えばあなたは理解出来るはずですよ」
男は圧をかけるような口調と顔で、私の鼻先に近づいてくる。
ジーダ「憤怒の席ヒカリ・ラグナロク。この名を言えば、あなた方はご理解なさるでしょう」
ヒカリ・ラグーー
「っ……!」
私は条件反射で飛び退いた。
ヒカリという名前に、どれだけ振り回されてきたかは分からない。でも、この男が言った『ヒカリ・ラグナロク』という名前は、ヴァルやネイりんにあまりにも残酷なことをした者の名前だ。
そんな奴の仲間?だとしたら、ろくでもない奴に決まってる……。
「何のつもり……?言っとくけど、ここにネイりんはいない」
ジーダ「ええ、知ってますとも。ここに忌々しい彼女はいない。しかし、その彼女を誘き寄せるためのものならあるではありませんか」
「まさか……!」
私はヴァルを背負い直し、再び駆け出した。1年前とは違う。私の体は、危険だと感じた瞬間にちゃんと動けるようになっている。でもーー
私達の周囲には、無色の影が立ち並んでいた。この至近距離になったから分かるけど、この影達は輪郭が見えるかどうかくらいに背景の色に馴染んでいた。ヴァルが言いたかったのは、追いかけていないように見せかけて、実は姿を隠してずっと私達を追いかけていたということなのではないだろうか?多分、時々姿を現したのは、こうしてこの男の元にまで誘導するように調整していたのだろう。
ジーダ「お勤めご苦労様です。あなた達のお陰で、目的のものを手に入れることが出来ました。あなた達は、あなた達を必要とされている方の所へ赴きなさい」
「っ……」
どうする。どうしたらいいの?
影は消えたけど、多分私達が逃げ出そうとすれば、すぐにまた現れるに違いない。下手な真似をすることが出来ない。
ジーダ「大人しくしていただければ、こちらからは何の危害も加えるつもりはございません。ええ、大人しくしていただければ、の話ですが」
「私が戦うって言ったらどうするの?」
ジーダ「……そうなった時はーー」
男は一旦顔を下げ、そしてゆっくりと不気味な笑みを浮かべながら顔を上げた。
ジーダ「あなた方には、死んでいただきます」
ーー男から溢れ出た黒のオーラが、私たちを包み込んだ。
真夏の朝は風が吹いていても少し暑い。起きたばかりだというのに、もう結構な量の汗をかいている。多分、それは暑さのせいだけではなく、昨日の出来事が私の脳をおかしくさせてるせいなんだ。
今日は朝からギルドに向けての移動。昨晩から今朝にかけては、あの白い影がどこかに出没したなんて話を聞かないし、一応は安心してもいいと思うんだけど、念には念を入れて、私達は歩きでシグルアの街を目指すことにした。
理由は、恐らく奴らが私達を狙っていることであり、人助けのためのギルドが、逆に人様に迷惑をかけてはダメだと、今朝朝食を取りながらヴァルと確認したからだ。
……歩きでシグルアまで。ヴァルの魔法を使えばそれなりに時間短縮もできるんだろうけど、いざという時にマナ切れでヴァルが戦えなくなると困る。何日、何週間かかるかは分からないけど、地道に行くしかなさそうだ。
ヴァル「セリカ。行くぞー」
「うん」
王都付近の街にしては、そこまで発展を遂げていないこの街を去り、私達は広大な草原へと駆り出す。こんなに視界広ければ、多分白い影が来ても大丈夫だよね?
ヴァル「……白い影か」
「何か思い当たる節でも?」
ヴァル「いやぁな、その手の敵って、俺達何度も戦ってきたわけじゃん?」
「うん、そうだね」
似たようなので言えば、邪龍教、ザガル兵、組織の組員。どれもこれも、下っ端と思しき人物は1色の色だけで組まれた服装をしていた。なので、それらを見れば、「あ、○○だ」くらいにはパッと見で分かる。今回も、きっと奴らはどこかの誰かが作り出した傍迷惑な組織であることに違いはないんだろうけど、白か……
白と言えば、脳に浮かび上がるのはネイりんの一時的な銀髪と若干嫌な記憶とセットになってくる雪原。白って、割と嘘偽りない、透明化されたものってイメージがあるし、正義の方にある色ってイメージなんだけど、これ間違ってないかな?
ヴァル「……」
「で、結局何が言いたいの?」
ヴァル「白い影……なんて呼び方をしたが、あいつらって本当に白か?俺の目にはーー」
ヴァルが言葉を言い切るよりも先に、私達の周りに大きな爆発が起きたーー
ヴァル「っ……クソっ、囲まれてやがる……!」
瞬時に2人で背中を合わせ、爆発が起きた辺りの状態を確認する。
今度は、あえて私達を狙わなかったのか……。わざとなのか、それともただ単に失敗したのか。どちらにせよ、こちらに好意を持ってる相手ではないってことは確実ね。
「影が10個……」
ヴァル「やっぱりだ」
「何が?」
ヴァル「こいつら、白ってよりは無色って言った方がいいぜ」
白でも無色でも大して変わらないでしょうが……
ヴァルの勘の良さは、たまに凄いところに行き着くことはあるけど、今回は多分どうでもいい勘だと思う。私はヴァルに支援の魔法をかけて、ここを突っ切る構えを取る。ヴァルの方も、自らの発言にはそこまで注意せず、すぐさま炎を拳にまとわりつかせて戦う準備に入っていた。
ヴァル「行くぜ、セリカ。火傷すんなよ!」
「だから、それはヴァルが手加げーー」
ヴァル「極龍王の狂軍!」
最早何も言うことはない。私は防御魔法をギリギリのところで発動させ、流れ弾ならぬ、流れ火がこちらに来るのを防ぐ。
白い影改め無色の影は、抵抗する素振りを見せず、昨日と同様、ヴァルの攻撃をその身で受けていた。もちろん、昨日から変化があって攻撃が効くようになったわけではない。奴らは無傷でその場に立っていた。
私達を狙っているとは勘で考えたけど、多分それは外れてないと思う。なら、なぜ奴らは私達に攻撃してくるのだろうか?いや、そもそも奴らは何なのだろうか?私達は、仕事柄、人から喜ばれることはあっても、こうやって恨みを買ってしまうようなことは……多分してないはずだ。
ヴァル「言っとくけどセリカ、俺今回は無関係だぞ」
「知ってるし、信じてるから!」
勘のいいヴァルは、私が考えていたことをすぐさま察して釘を刺してきた。
いくら1年間一人旅をしてきたヴァルといえど、流石にこんな訳の分からない連中相手に喧嘩を売ったとは思ってないし、思いたくはない。というか、何でこんな無駄な心配しなくちゃならないのよ……。
ヴァル「やっぱ、こうしてやり合ってても埒は明かねぇな!セリカ、やっぱ逃げるぞ!」
「それが一番ね」
ヴァルが炎を周囲に向けて吐き、この草原に視界の悪い煙の空間を作る。そんなのをして意味があるのかどうかは分からないけど、目眩しくらいにはなってくれるんじゃないかな?
ヴァルが昨日と同じように私を抱え、私はヴァルに強化魔法を送りつつ、この包囲から脱出する。
奴らはそんな私達を一切妨害しては来ない。何が目的なのかよく分からない奴らだ。本当、気味が悪い。
ヴァル「一応聞いとくが、次の街までは?」
「馬車使えば1時間で着けた」
ヴァル「ってことは、30分だな!しっかり掴まってろよ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
30分後ーー
ヴァルの宣言通り、私達は僅か30分で次の街にまで着いた。ヴァルの力なら、そこら辺の馬車を使うよりもずっと早い。いっその事、運び屋にでもなれば?と私は思う。今の仕事よりずっと平和だし、ヴァルの鍛え上げられた力なら、盗賊が現れてもへっちゃらそう……いや、誤って荷物を壊しそうだからダメか。
なんて呑気なことを考えつつ、私は地図に目を走らせて次の街を確認する。
「まさか、街一つ一つに足を踏み入れていくことになるとは……」
ヴァル「俺だって克服された三半規管で楽に帰れると思ってたよ」
「はぁ……次の街はここ。丁度南西の方に真っ直ぐ進めば辿り着けるようになってるけど、さっきまでの道同様、平原が続くよ」
私はヴァルに地図上の目的地を指差しながらそう伝える。日はまだまだ東の方にあるし、昼間のうちに出来るだけ移動距離を稼いでおきたい。それに、この街は農村のせいか、宿という宿は1つもなかった。
辺り一面麦畑が広がり、これはこれで風情があるな、と感じる。こんな、不安に覆われた状態でなければ、きっとこの街の魅力を発見できたことに喜びを感じていただろう。
ヴァル「無色の影……」
「色なんてどうでもいいでしょ」
ヴァル「でも、やっぱ気になんだよ。無色ってとこに」
「はぁ?」
考えすぎだと私は思う。色1つにそこまでの謎が秘められているわけない。そんなのを気にするくらいなら、奴らの他の特徴を探すべきだ。……探せてない私が言うのもあれだけど。
ヴァル「まあいいか。さっさと行こうぜ。あの影共がまた襲ってくる前にな」
「うん、そうだね」
まあ、何だかんだでヴァルと一緒にいられるこの状況を好ましく思おう。許せネイ……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「あーあ、空はこんなにも晴れてるってのに、なーんで心はこんなに落ち着かねぇのかねー」
「何だかんだで無色の影が怖いから」
ヴァル「正解」
まだ3回目だけど、もう流石に慣れた。
無色の影が、再び私達の周りを包囲している。ヴァルが全速力で次の街に向かい、そこでこれといった時間を潰すようなことはせずに出発したというのに、奴らはもう既に私達に追い付いていたのである。いや、追い付くと言うよりも、先回りしているといった具合かな?
どう言葉にすればいいのか分かんないんだけど、とにかく奴らが私達の行く先々に現れて、なぜか私達の妨害をしていることに変わりはない。
なんで私達を狙うのか。それさえ分かれば、多分どうにか解決出来るかもしれないのに……
ヴァル「一々戦ってても埒が明かねぇのは分かってる!セリカ、逃げるぞ!」
「うん!」
こいつらとの戦い方はほぼ固定化された。
気づけば私達を包囲しているが、奴らは必死になって、私達が逃げるのを防ぎはしない。攻撃だって、私達が戦おうとすれば反撃してくるくらいで、それ以外の時はそこまで激しく攻撃をしてこない。というのが、私の分析だ。
ヴァル「逃げても逃げてもすぐ追いついて来やがる……どうなってんだ?」
ヴァルの体力も、流石に限界が近づいてる。昨日散々暴れ回り、今日も今日とでかなり暴れている。私が支援魔法をかけてはいるが、多分それも気休め程度にしかなってない。
ヴァルの膨大なマナと、燃費の悪い魔法。そして、逃げるために全力で炎を吹き出し続ければ、回復よりも先に貯蔵が尽きてしまう。それを表すかのように、ヴァルの額には若干の汗が垂れている。
次の街までは、ヴァルの速さでも2時間くらいはかかる。こんなに視界が広い草原だというのに、街が全然開拓されていないのだ。いや、そこら辺に関して文句を言うのは筋違い何だけど、昔の人達もっと頑張っといてよ、と言いたくなる。まあ、奴らが街に入ってこないのはただの偶然かもしれないし、街の有無は気にしちゃダメかな?
「ヴァル、無理なら無理って先に言ってね」
ヴァル「バカヤロウ。こんなんでヘタレになるわけねぇだろ」
強がってる……
このままじゃ、力尽きたヴァルを背負って逃げなきゃならなくなる。攻撃が通じない相手に、私1人でどう戦えと言うの?一応、こちらが攻撃しなければ奴らも攻撃してくることはほとんど無いが、それでもジリジリと詰め寄って来るので捕まるんじゃないかと不安でいっぱいになる。
精霊達に任せようにも、生憎私は今のヴァルよりもっと燃費が悪い。10分持てばいい方だ。
「うわっ」
途端、急に落ちそうになってすぐさま元の体勢に戻った。
「ヴァル。流石にそろそろ休憩した方が……」
ヴァル「バカいえ……地上に降りたら……奴らが……来ちまう……だ……ろ……」
「う、うわぁぁぁぁホウライ!」
急にヴァルが目を閉じて足の炎を消してしまった。
地面スレスレのところでホウライを呼び出し、すぐに重力魔法で何とか落下の衝撃を免れた。
「危ない危ない……ホウライ、ありがとう」
ホウライ「またいつでも」
ホウライは精霊界に帰った。
「だから無理しちゃダメって……」
私はずっしりと重たいヴァルを背負い、どうにかして次の街、もしくは野営でも出来そうな場所を探そうと歩き出す。
バランスが取りにくくて、何度も転びそうになったけど、ようやくバランスを取ることが出来て、しっかりとした足取りで歩き出そうとしたのも束の間、私が顔を上げた先に誰かがいた。
「うわぁぁぁ!?」
折角いい感じに立てたというのに、バランスを崩して私もヴァルも草原の上に転んでしまった。
「おやおや、驚かせてしまったようですね、申し訳ない」
私は顔にかかった土を払いつつ、私が見た男の顔を確認する。
パッと見の印象は、20代後半の紳士的な顔立ちをした穏やかそうな人物。額にバッテンの傷痕があり、体付きも少々筋肉質なところから、騎士か何かなのかな?と私は推測する。
「私の名前はジーダ。光楼宗嫉妬の席に座る者です」
「光楼宗……?」
聞いた事のない名前。でも、私はヴァルを後ろに隠して警戒を顕にしていた。
この男は危険。本能がそう訴えかけている。
ジーダ「組織の名前を知らなくとも、こう言えばあなたは理解出来るはずですよ」
男は圧をかけるような口調と顔で、私の鼻先に近づいてくる。
ジーダ「憤怒の席ヒカリ・ラグナロク。この名を言えば、あなた方はご理解なさるでしょう」
ヒカリ・ラグーー
「っ……!」
私は条件反射で飛び退いた。
ヒカリという名前に、どれだけ振り回されてきたかは分からない。でも、この男が言った『ヒカリ・ラグナロク』という名前は、ヴァルやネイりんにあまりにも残酷なことをした者の名前だ。
そんな奴の仲間?だとしたら、ろくでもない奴に決まってる……。
「何のつもり……?言っとくけど、ここにネイりんはいない」
ジーダ「ええ、知ってますとも。ここに忌々しい彼女はいない。しかし、その彼女を誘き寄せるためのものならあるではありませんか」
「まさか……!」
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ジーダ「お勤めご苦労様です。あなた達のお陰で、目的のものを手に入れることが出来ました。あなた達は、あなた達を必要とされている方の所へ赴きなさい」
「っ……」
どうする。どうしたらいいの?
影は消えたけど、多分私達が逃げ出そうとすれば、すぐにまた現れるに違いない。下手な真似をすることが出来ない。
ジーダ「大人しくしていただければ、こちらからは何の危害も加えるつもりはございません。ええ、大人しくしていただければ、の話ですが」
「私が戦うって言ったらどうするの?」
ジーダ「……そうなった時はーー」
男は一旦顔を下げ、そしてゆっくりと不気味な笑みを浮かべながら顔を上げた。
ジーダ「あなた方には、死んでいただきます」
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そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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