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最終章 【創界の物語】
最終章9 【氷の刃】
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「いやぁ、本当に助かったわい。このお礼はなんと言ったらいいのやら」
「いえいえ、結構ですぅ~。お陰様で幸せな時間を過ごせたので~」
「? まあいいか。それじぁあの、達者でな~」
結局、どんな依頼だったかをほとんど覚えていないのですが、依頼主であるお爺さんと別れ、私は1人……いえ、2人で帰路につく。
え?隣にいる黒髪で男らしくて、まるで私が見えてないかのように孤高を過ごす男の人は誰かって?そりゃぁ、もちろんーー
「ヴェぇルドっ様っ!」
ヴェルド様の鍛え上げられた腕にしがみつき、シアラは至福のときを過ごします。
あぁ……ほんの一時と言えど、シアラは幸せです。本当に本当に幸せです。
ヴェルド「で、お前なんでここにいるの?」
「ガビーン!」
ヴェルド「ガビーンじゃねぇよ古臭い反応しやがって!お前、途中から気にしないようにしてたけど、何でここにいるの!?いや、冗談抜きでマジで何でいるの!?」
「何でって、そりゃぁ、シアラとヴェルド様はヴァル様とネイ様以上に繋がれた存在だからです!」
ヴェルド「……?……?」
なぜかヴェルド様は2度確認するようにシアラを見てきました。
……私、なんかおかしなこと言いました?
「シアラ、何かおかしなこと言いました?」
とりあえず、ヴェルド様の気分を害してないかどうかを確認。
ヴェルド「おかしなことも何も、お前ずっとおかしなことしかしてないよ。うん、ギャグで済んでくれると助かるんだけど」
「安心してください!現実です!」
ヴェルド「あー、うん。もう何も聞かねぇわ」
「理解していただけましたか!」
ヴェルド「うん。お前がおかしな奴だってことを十分に再確認した」
うーん?イマイチシアラと噛み合ってない気がします。まあ、ヴェルド様と一緒にいられるのなら何も問題ありませんね!
ヴェルド「ついてくんのはもう勝手だが、報酬渡さねぇからな?」
「はい!シアラはヴェルド様と一緒にいられる時間が報酬です!」
ヴェルド「……………………」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
一旦落ち着けヴェルド。
こいつとは何話しても言葉のキャッチボールが出来ねぇことくらい昔から分かってんだろ。……いや、そんな昔からだっけ?まあいいや。
俺はみんなが長期の仕事やら修行やらに出ている間、ひたすら自堕落に近い生活を送っていた。しかし、流石にそんな生活を続けてると、ヴァルとの差がどんどん広がっちまうんじゃねぇかという謎の恐怖が俺を襲いかかってきた。
と、いうわけで1ヶ月くらいかかる仕事に俺は出た。行き先はよく分からん雪山。近くの村で1晩を明かし、雪山に生息するという謎の巨人を倒しに出掛けた。
巨人?そんなんいるわけねぇだろと鼻で笑っていた俺だったが、マジで巨人はいた。しかも、俺が弱くなったのか敵が強かったのかは知らねぇが、結構苦戦した。危うく死ぬかと思った。そんな時に現れたのがシアラだった……。
……いや、俺がヒロインでシアラがヒーローならまだ分かる。でも、立場が逆だろ!
情けねぇ……情けねぇ……
「……まあいいか。命あるだけマシだし」
シアラ「何か言いました?ヴェルド様」
「いや、何でも」
ついてくんのはもうどうでもいいと1年くらい前に流していたはずだ。気にしなければどうってことはない。つか、シアラもシアラで、何で俺に付いてくんだ?俺なんかやったか?
……もういいや。考えたところで脳みそ爆発するだけだし、帰ることに集中しよ。つっても、後は馬車が来るのを待つだけなんだがな。
「そうだシアラ」
シアラ「はい!何でしょうヴェルド様!」
ちょっと名前を呼んだだけなのに、凄い食い気味に食いついてきた。
「あーあれだ。一応お前に助けてもらったわけだし、帰りがけになんか寄りたいところあったら付き合ってやるが……なんかあるか?」
シアラ「…………」
あれ?いつものシアラと違って、急にポカンとした乙女らしい顔になったぞ?
おいおい、その顔やめてくれ。普通に可愛いと思っちまうだろうが。
シアラ「あ、すみません。まさか、ヴェルド様がそんな事を仰るとは思わなくて……」
「お前、俺をなんだと思ってる?」
シアラ「王子様です!で、そうですね~。あ、ここからだとイーリアスの王城が近いですね。メイさんに挨拶して行きたいので、そこでお願いします」
随分と軽いお願いだな。まあいいか。
つか、ここってあの聖王の城の近くだったんだな。何も見ずに依頼だけをこなしに来たから知らんかったわ。
……
……
……そうして、静かな時を過ごしていた。
こういう静かな時が、1番危険であることを俺は知らなかった。いや、知ることなんてなかった。
「おやおやおや、おやおやおや?おやおやおや!」
馬車を待つ俺達のところに、突然黒いローブに身を包んだ怪しげな男が現れた。
黒いローブ……黒ってもんには嫌な記憶しかねぇんだよな。とりあえず、警戒しとくか。いや、警戒しとこう。なんかこいつヤバい気がする。
「シアラ、後ろに下がってろ」
シアラ「ヴェルド様?」
「こいつ、危険な匂いがするぞ」
俺の真剣な表情と声が伝わってくれたのか、シアラはいつものお調子者を封じて素直に俺の後ろに下がった。
「おや?おやおやおや?随分と警戒なされるのですね。氷と炎の造形魔導士」
「……テメェ、何もんだ」
声に鋭い圧をかけ、男を睨みつけながらそう言う。
心臓が音を立てて鳴り響いている。さっきから、俺の勘が「こいつはヤベぇぞ」と騒ぎ立てている。
なぜ?何が原因なんだ?何で、俺はこいつに対して恐怖を抱いている?
「お初にお目にかかります。私、光楼宗傲慢の席に座る者。名をーー」
光楼宗?どっかで聞いた覚えが……
「ジン・グレイディス。人呼んで、氷の悪魔です」
「っ……!?アイススピア!」
ジン・グレイディス……。悪い冗談であって欲しいという願いを込め、俺は1発この気色悪い男にぶち込む。
「冗談じゃねぇ……冗談じゃ済まねぇよ」
シアラ「ヴェルド様……?」
有り得ねぇ……有り得ねぇんだ……。
だって……ジン・グレイディスという名はーー
「親父……」
それしか、俺に思い当たるものは無かった……
「嘘だ!有り得ない!親父は……16年前に……死んだ……はず……」
シアラ「え……」
ジン「ええ、死にましたとも。最も、それは"目眩し"という遺体ですがね」
何が、何がどうなってやがる……!
なせ、親父は生きている?なぜ、親父は敵のような素振りを見せて俺の前に立っている?
「っ……親父……なんだよな」
ジン「ええ、ええ!ええ!そうとも!私はあなたの父親。そして今は、"敵"という形が相応しいでしょうか?」
敵だと、今、親父がハッキリとそう言った。
「1つ……聞いてもいいか。俺の拳が、全てを凍てつくす前に……」
ジン「ええ、1つと言わず好きなだけ」
随分と余裕な態度をとるものだ。相手の態度からして、俺の事はとっくに全てを知ってそうだし、それを踏まえても余裕だということなのだろうか。腹が立つ……。
まあいい。本当に実力がハッキリすんのは、この後だ。
「1つ、何でお前が生き残ってる」
ジン「そうですね。隠しても仕方ないことでしょう」
「……」
ゆっくり心を落ち着かせ。俺は男が放つ言葉一つ一つに意識を集中させる。
ジン「そう、今から16年程前。私達が住んでいた氷人族の里に、突如として戦いの火の手が上がった。それも、一方的に。その辺は、あなたの記憶に残っているのでは?」
「……ああ。気づいた時には里の隅から隅まで燃え上がっていた。言葉通りにな」
ジン「でしょうね。さて、ここでちょっとしたクイズです。なぜ、氷魔法に強い適性がある氷人族の里が、一瞬にして壊滅させられたのでしょうか?」
「あぁ?」
俺は自分の記憶を疑い出す。
親父はこんな人間だったか?16年も前のことだから、記憶がややどころかかなり曖昧になっていて仕方ない部分もあるが、でも親父はこんな人間ではなかったと思う。もっと、厳しくて、真面目で、何より強い人間だった気がする。つか、そんくらいの理想図の方がいい。
ジン「答えが分からないようですね。ならば、教えて差し上げましょう。ーーそれは、私があの時から既に光楼宗の一員だったから」
「っ!?お前、まさか……」
ジン「ええそうです。順を追って説明致しましょう。氷人族が住まう里。そこは、ある目的のためには邪魔な存在だったのです」
「目的だと?」
ジン「目的。それは、邪龍様を蘇らせるために必要だった多くの血。どこを襲うべきか、私達は真剣に議論を重ねました。そこで、最終的に選ばれた場所のうちの1つが、氷人族の里だったわけです。なぜ、そこを選んだのか。それはーー」
……もう我慢ならねぇ。こいつの話を聞いているだけで腹の中の虫がうずうずして仕方ねぇ!
今すぐにでも殺してやりてぇ。例え、それが実の父親だったとしても、ここまで聞いた内容を考えりゃ、俺自ら手を下してやっても仕方ねぇ奴だ。オマケに、この後、もっと酷いことを言ってきそうな気がする。いや、奴は絶対に言ってくる。内容まで分かる。
「それは……」
ジン「それは、私が氷人族の里をよく知っていたこと。そして、氷魔法しか使わぬ氷人族は、情報さえあれば相手にすることが容易かったことです」
「テメェ!」
氷の刃を二刀作り、親父の心臓目掛けて一直線に両腕を振る。
「テメェは俺達を裏切った!」
ジン「ええ、ええ、ええ!そうですとも!私はあなた達を裏切った。里の仲間達を裏切り、愛する家族すら裏切った!しかし、私にはそうまでしてでも手に入れたかったものがある!」
どうせくだらないことを言うに決まっている!だから、俺は防がれる度に壊れる氷の造形物を次々に作り、確実に奴の命を狙う。
俺は、あの日から復讐に駆られて生きてきた。里が襲われた日に、唯一頭からこびり付いて離れなかった龍人の女。それが、そいつが、俺達の里を壊滅させたんだと、俺はずっとそう思い続けてきた。そう思ってたからこそ、龍人の姿をチラとでも見ると、噴火直前の火山のように、感情が抑えきれないでいた!
でも!それは違った……。あの日、頭にこびり付いた龍人の姿は、俺を命を張って助けてくれた子だったんだ。それを、夢の国とかいう俺達の記憶には残ってねぇ騒動が起きた後で思い出した。
……思い出しちまったんだ。俺が、出会ったあの日に殴りかかっちまった女の子は……俺の恩人だったってことに……。
「クソっ!」
流石に埒が明かないと思い、俺は一旦この男と距離をとる。男は、あれだけ攻撃を受けたにも関わらす、何の反撃にも出てこない。それどころか、不気味なまでに笑っている。
ジン「おっと、これは失敬。まさか、あなたがこれほどまでに復讐に駆られているとは思ってもみなかったものでね。さて、ヴェルド。1つ、私から質問をしましょう」
「あぁ?」
ジン「あなた、あなたの恩人に手を出したことはありませんか?それも、現邪龍のあの御方に」
「手を出したも何も、俺はずっと勘違いで龍人を嫌い続けてきた!そのせいで、被害に遭った子はいるかもしれねぇ。だが、その勘違いも今日で終いだ。お前が俺の復讐だってんなら、今この場で殺してやる!」
ジン「ほう……そうですか。そうですか。あなたは、私と憤怒が固執した邪龍様に、手を出したというのですか」
邪龍邪龍って、こいつ邪龍教か?あれの後ろにはこいつらの仲間がいたって聞くくらいだし、普通に有り得るな。にしても、またしても嫌な記憶を掘り返される……
全部、全部俺が悪いんだ。俺1人のせいで、あの時のギルドはあんなに酷くなっていた。ーーでも、もう二度とあんなのにはさせねぇんだ。俺がさせねぇんだ。
ジン「邪龍に手を出したその行い、後悔しなさい」
奴の雰囲気が変わった。だが、俺は臆することはしない。
氷の刃を両手に構え、足元をツルツルと滑る氷の床へ変える。
「後悔すんのはテメェのほうだ!」
ジン「威勢がいいのは昔から、ということてすか」
「ああ゛っ!」
ジン「ふんっ!」
氷の刃が激しい音を立てて砕け落ちた。だが、そんなのは分かりきっていたこと。敵の攻撃を諸に喰らう前に、俺は得意の体術を活かして空を一回転し、新たに氷の刃を作り出す。
的に反撃させる隙を与えず、俺はこの身をも砕けさせる勢いで氷の刃を振るい続ける。全ては、俺の人生を狂わせたこの男を殺すために……
「いえいえ、結構ですぅ~。お陰様で幸せな時間を過ごせたので~」
「? まあいいか。それじぁあの、達者でな~」
結局、どんな依頼だったかをほとんど覚えていないのですが、依頼主であるお爺さんと別れ、私は1人……いえ、2人で帰路につく。
え?隣にいる黒髪で男らしくて、まるで私が見えてないかのように孤高を過ごす男の人は誰かって?そりゃぁ、もちろんーー
「ヴェぇルドっ様っ!」
ヴェルド様の鍛え上げられた腕にしがみつき、シアラは至福のときを過ごします。
あぁ……ほんの一時と言えど、シアラは幸せです。本当に本当に幸せです。
ヴェルド「で、お前なんでここにいるの?」
「ガビーン!」
ヴェルド「ガビーンじゃねぇよ古臭い反応しやがって!お前、途中から気にしないようにしてたけど、何でここにいるの!?いや、冗談抜きでマジで何でいるの!?」
「何でって、そりゃぁ、シアラとヴェルド様はヴァル様とネイ様以上に繋がれた存在だからです!」
ヴェルド「……?……?」
なぜかヴェルド様は2度確認するようにシアラを見てきました。
……私、なんかおかしなこと言いました?
「シアラ、何かおかしなこと言いました?」
とりあえず、ヴェルド様の気分を害してないかどうかを確認。
ヴェルド「おかしなことも何も、お前ずっとおかしなことしかしてないよ。うん、ギャグで済んでくれると助かるんだけど」
「安心してください!現実です!」
ヴェルド「あー、うん。もう何も聞かねぇわ」
「理解していただけましたか!」
ヴェルド「うん。お前がおかしな奴だってことを十分に再確認した」
うーん?イマイチシアラと噛み合ってない気がします。まあ、ヴェルド様と一緒にいられるのなら何も問題ありませんね!
ヴェルド「ついてくんのはもう勝手だが、報酬渡さねぇからな?」
「はい!シアラはヴェルド様と一緒にいられる時間が報酬です!」
ヴェルド「……………………」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
一旦落ち着けヴェルド。
こいつとは何話しても言葉のキャッチボールが出来ねぇことくらい昔から分かってんだろ。……いや、そんな昔からだっけ?まあいいや。
俺はみんなが長期の仕事やら修行やらに出ている間、ひたすら自堕落に近い生活を送っていた。しかし、流石にそんな生活を続けてると、ヴァルとの差がどんどん広がっちまうんじゃねぇかという謎の恐怖が俺を襲いかかってきた。
と、いうわけで1ヶ月くらいかかる仕事に俺は出た。行き先はよく分からん雪山。近くの村で1晩を明かし、雪山に生息するという謎の巨人を倒しに出掛けた。
巨人?そんなんいるわけねぇだろと鼻で笑っていた俺だったが、マジで巨人はいた。しかも、俺が弱くなったのか敵が強かったのかは知らねぇが、結構苦戦した。危うく死ぬかと思った。そんな時に現れたのがシアラだった……。
……いや、俺がヒロインでシアラがヒーローならまだ分かる。でも、立場が逆だろ!
情けねぇ……情けねぇ……
「……まあいいか。命あるだけマシだし」
シアラ「何か言いました?ヴェルド様」
「いや、何でも」
ついてくんのはもうどうでもいいと1年くらい前に流していたはずだ。気にしなければどうってことはない。つか、シアラもシアラで、何で俺に付いてくんだ?俺なんかやったか?
……もういいや。考えたところで脳みそ爆発するだけだし、帰ることに集中しよ。つっても、後は馬車が来るのを待つだけなんだがな。
「そうだシアラ」
シアラ「はい!何でしょうヴェルド様!」
ちょっと名前を呼んだだけなのに、凄い食い気味に食いついてきた。
「あーあれだ。一応お前に助けてもらったわけだし、帰りがけになんか寄りたいところあったら付き合ってやるが……なんかあるか?」
シアラ「…………」
あれ?いつものシアラと違って、急にポカンとした乙女らしい顔になったぞ?
おいおい、その顔やめてくれ。普通に可愛いと思っちまうだろうが。
シアラ「あ、すみません。まさか、ヴェルド様がそんな事を仰るとは思わなくて……」
「お前、俺をなんだと思ってる?」
シアラ「王子様です!で、そうですね~。あ、ここからだとイーリアスの王城が近いですね。メイさんに挨拶して行きたいので、そこでお願いします」
随分と軽いお願いだな。まあいいか。
つか、ここってあの聖王の城の近くだったんだな。何も見ずに依頼だけをこなしに来たから知らんかったわ。
……
……
……そうして、静かな時を過ごしていた。
こういう静かな時が、1番危険であることを俺は知らなかった。いや、知ることなんてなかった。
「おやおやおや、おやおやおや?おやおやおや!」
馬車を待つ俺達のところに、突然黒いローブに身を包んだ怪しげな男が現れた。
黒いローブ……黒ってもんには嫌な記憶しかねぇんだよな。とりあえず、警戒しとくか。いや、警戒しとこう。なんかこいつヤバい気がする。
「シアラ、後ろに下がってろ」
シアラ「ヴェルド様?」
「こいつ、危険な匂いがするぞ」
俺の真剣な表情と声が伝わってくれたのか、シアラはいつものお調子者を封じて素直に俺の後ろに下がった。
「おや?おやおやおや?随分と警戒なされるのですね。氷と炎の造形魔導士」
「……テメェ、何もんだ」
声に鋭い圧をかけ、男を睨みつけながらそう言う。
心臓が音を立てて鳴り響いている。さっきから、俺の勘が「こいつはヤベぇぞ」と騒ぎ立てている。
なぜ?何が原因なんだ?何で、俺はこいつに対して恐怖を抱いている?
「お初にお目にかかります。私、光楼宗傲慢の席に座る者。名をーー」
光楼宗?どっかで聞いた覚えが……
「ジン・グレイディス。人呼んで、氷の悪魔です」
「っ……!?アイススピア!」
ジン・グレイディス……。悪い冗談であって欲しいという願いを込め、俺は1発この気色悪い男にぶち込む。
「冗談じゃねぇ……冗談じゃ済まねぇよ」
シアラ「ヴェルド様……?」
有り得ねぇ……有り得ねぇんだ……。
だって……ジン・グレイディスという名はーー
「親父……」
それしか、俺に思い当たるものは無かった……
「嘘だ!有り得ない!親父は……16年前に……死んだ……はず……」
シアラ「え……」
ジン「ええ、死にましたとも。最も、それは"目眩し"という遺体ですがね」
何が、何がどうなってやがる……!
なせ、親父は生きている?なぜ、親父は敵のような素振りを見せて俺の前に立っている?
「っ……親父……なんだよな」
ジン「ええ、ええ!ええ!そうとも!私はあなたの父親。そして今は、"敵"という形が相応しいでしょうか?」
敵だと、今、親父がハッキリとそう言った。
「1つ……聞いてもいいか。俺の拳が、全てを凍てつくす前に……」
ジン「ええ、1つと言わず好きなだけ」
随分と余裕な態度をとるものだ。相手の態度からして、俺の事はとっくに全てを知ってそうだし、それを踏まえても余裕だということなのだろうか。腹が立つ……。
まあいい。本当に実力がハッキリすんのは、この後だ。
「1つ、何でお前が生き残ってる」
ジン「そうですね。隠しても仕方ないことでしょう」
「……」
ゆっくり心を落ち着かせ。俺は男が放つ言葉一つ一つに意識を集中させる。
ジン「そう、今から16年程前。私達が住んでいた氷人族の里に、突如として戦いの火の手が上がった。それも、一方的に。その辺は、あなたの記憶に残っているのでは?」
「……ああ。気づいた時には里の隅から隅まで燃え上がっていた。言葉通りにな」
ジン「でしょうね。さて、ここでちょっとしたクイズです。なぜ、氷魔法に強い適性がある氷人族の里が、一瞬にして壊滅させられたのでしょうか?」
「あぁ?」
俺は自分の記憶を疑い出す。
親父はこんな人間だったか?16年も前のことだから、記憶がややどころかかなり曖昧になっていて仕方ない部分もあるが、でも親父はこんな人間ではなかったと思う。もっと、厳しくて、真面目で、何より強い人間だった気がする。つか、そんくらいの理想図の方がいい。
ジン「答えが分からないようですね。ならば、教えて差し上げましょう。ーーそれは、私があの時から既に光楼宗の一員だったから」
「っ!?お前、まさか……」
ジン「ええそうです。順を追って説明致しましょう。氷人族が住まう里。そこは、ある目的のためには邪魔な存在だったのです」
「目的だと?」
ジン「目的。それは、邪龍様を蘇らせるために必要だった多くの血。どこを襲うべきか、私達は真剣に議論を重ねました。そこで、最終的に選ばれた場所のうちの1つが、氷人族の里だったわけです。なぜ、そこを選んだのか。それはーー」
……もう我慢ならねぇ。こいつの話を聞いているだけで腹の中の虫がうずうずして仕方ねぇ!
今すぐにでも殺してやりてぇ。例え、それが実の父親だったとしても、ここまで聞いた内容を考えりゃ、俺自ら手を下してやっても仕方ねぇ奴だ。オマケに、この後、もっと酷いことを言ってきそうな気がする。いや、奴は絶対に言ってくる。内容まで分かる。
「それは……」
ジン「それは、私が氷人族の里をよく知っていたこと。そして、氷魔法しか使わぬ氷人族は、情報さえあれば相手にすることが容易かったことです」
「テメェ!」
氷の刃を二刀作り、親父の心臓目掛けて一直線に両腕を振る。
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ジン「ええ、ええ、ええ!そうですとも!私はあなた達を裏切った。里の仲間達を裏切り、愛する家族すら裏切った!しかし、私にはそうまでしてでも手に入れたかったものがある!」
どうせくだらないことを言うに決まっている!だから、俺は防がれる度に壊れる氷の造形物を次々に作り、確実に奴の命を狙う。
俺は、あの日から復讐に駆られて生きてきた。里が襲われた日に、唯一頭からこびり付いて離れなかった龍人の女。それが、そいつが、俺達の里を壊滅させたんだと、俺はずっとそう思い続けてきた。そう思ってたからこそ、龍人の姿をチラとでも見ると、噴火直前の火山のように、感情が抑えきれないでいた!
でも!それは違った……。あの日、頭にこびり付いた龍人の姿は、俺を命を張って助けてくれた子だったんだ。それを、夢の国とかいう俺達の記憶には残ってねぇ騒動が起きた後で思い出した。
……思い出しちまったんだ。俺が、出会ったあの日に殴りかかっちまった女の子は……俺の恩人だったってことに……。
「クソっ!」
流石に埒が明かないと思い、俺は一旦この男と距離をとる。男は、あれだけ攻撃を受けたにも関わらす、何の反撃にも出てこない。それどころか、不気味なまでに笑っている。
ジン「おっと、これは失敬。まさか、あなたがこれほどまでに復讐に駆られているとは思ってもみなかったものでね。さて、ヴェルド。1つ、私から質問をしましょう」
「あぁ?」
ジン「あなた、あなたの恩人に手を出したことはありませんか?それも、現邪龍のあの御方に」
「手を出したも何も、俺はずっと勘違いで龍人を嫌い続けてきた!そのせいで、被害に遭った子はいるかもしれねぇ。だが、その勘違いも今日で終いだ。お前が俺の復讐だってんなら、今この場で殺してやる!」
ジン「ほう……そうですか。そうですか。あなたは、私と憤怒が固執した邪龍様に、手を出したというのですか」
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氷の刃を両手に構え、足元をツルツルと滑る氷の床へ変える。
「後悔すんのはテメェのほうだ!」
ジン「威勢がいいのは昔から、ということてすか」
「ああ゛っ!」
ジン「ふんっ!」
氷の刃が激しい音を立てて砕け落ちた。だが、そんなのは分かりきっていたこと。敵の攻撃を諸に喰らう前に、俺は得意の体術を活かして空を一回転し、新たに氷の刃を作り出す。
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