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最終章 【創界の物語】
最終章10 【俺の復讐】
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「アイススピアレイン!」
怒りに満ち、俺の心を表すかのように鋭く尖った氷が奴の脳天めがけて降り注ぐ。しかし、氷の雨は奴の手1つで粉々に砕け散る。かすり傷1つさえ付けることが適わねぇ。
親父……どうしてこうなっちまったんだ。
「あんたは!いつからおかしくなったんだ!」
氷の刃を振るい、親父に刃越しで問いを投げる。
ジン「おかしなことを聞くものですね、ヴェルド」
「何がだ!」
ジン「私はおかしくない。いえ、私は初めからこうだった!」
「んなわけねぇだろ!」
魔法を使わず、俺は頭突きで親父に攻撃した。その攻撃は当たり、親父は額に手を当てて痛がった。
ジン「っ……あなた……何を」
「何もしてねぇよ!ただちょっと頭突きしてやっただけだ!」
ジン「頭突き……あなた、あなたあなた!あなた、なぜ魔導士になったのです?」
「あぁ?」
ジン「魔導士!即ちそれは魔法を操る狂人!魔法!それは世界のルールに従いし者!あなたあなたあなた!」
急に何言い出すんだこいつ?
……つか、こいつ本当に親父なのか?
激情に駆られちまったが、冷静に考えてこいつは親父との共通点が無さすぎる気がする。俺の記憶が曖昧だからハッキリとしたことは言えない。でも、こんな奴から俺みたいなのが生まれるか?
確かめる方法は……1つだけあるな。
「お前、母さんの名前……知ってるか?」
ジン「おや?おやおや?急に何を言い出すのです?あなたは魔導士!私は傲慢!この場に関係のない議題なはずです!」
「無理矢理話を逸らそうとしてるな。何か、都合の悪いことでもあるのか?」
ジン「……」
急に奴が黙り込んだ。
母さんの名を聞いた。ただそれだけの事だ。しかし、奴には効果的面だったらしい。
「答えられねぇのか?」
ジン「……あなたの方こそ、自らの母親の名前は言えーー」
「そうやって俺に先に言い出させるつもりか?俺の名前を知ってたのは大したもんだが、んなもんギルドの名簿調べりゃいくらでも分かる。だが、氷人族の里には記録がほとんどついていない。もしかしたら、氷人族最強と謳われてた親父の名前くらいなら残ってるかもしれねぇけどな」
ジン「……」
徐々に思い出される幼き日々の記憶。その中にあった親父の姿。
ーー親父は、強くたくましかった。俺は、その背中を追いかけていた。親父みたいに強くなりたかった。親父が死んでからの俺は、その思いを糧に魔法を覚えていたはずだった。
何で、何でこんな大事なことを忘れてしまったんだろうな。俺の記憶には、なんで蓋がかかっていたのだろうか。……分からない。分からないが、それを思い出した今、俺の拳はこの男に対して"復讐"という名の炎が再び燃え上がり出した。
ジン「炎……氷人族が?」
「いいこと教えてやるよ!親父の名を騙る狂人!」
俺は怒りに燃える炎を男に浴びせ、勢いをつけてヴァルのように殴りつけた。
「魔法っていうのには気持ちが大事らしいんだってよ!俺の恩人がそう言ってた!お前らか信じてやまねぇ邪龍様がよ!」
ジン「なっ……!そうか、そうだったのですか……。憤怒がひたすらにあの小娘を狙っていた理由が今分かりましたよ。あなたのおかげで……彼女は死んでいなかった。そうなのでしょう」
「随分と遅い情報だな!仲間の憤怒とやらからは教えてもらわなかったのか!」
ジン「あの方は何かと口が堅い……行動を起こす時、あの方は必ず1人になる。何かあれば私と色慾を頼れと言ったのに……あぁ、なぜ死んでしまわれたのでしょうか」
憤怒の正体は、間違いなくあの男だな。確信が持てた。まあ、持てたところで死んでいった奴の事なんか今は関係ねえけどな。
だが、あの時俺の仲間を傷つけた奴の身内だってんなら、容赦はしねぇ!光楼宗、憤怒、傲慢。ヒカリ辺りに伝えたら褒めてくれそうな情報の山だな。どうせ俺より先に知ってるんだろうけど。
「親父の名を騙る不届き者が!死ね!」
氷と炎を交わらせ、奴の周囲を取り巻くように囲いを作る。足元には大雪、周りには火が燃え移った木々。あの記憶の再現……
俺にとっては最悪の記憶。だが、その記憶は今日からの俺を作る糧になる!
「奥義・雪炎の記憶!」
ジン「まさか、あなたがこの記憶を作り出すとは……!」
「テメェらが16年前にやった事だろ?俺にもちょっとやらせろよ!ただし、犠牲者はテメェら光楼宗とかいう訳分かんねぇ奴だけだ!」
ジン「何をこれしきの事で!」
奴が俺の魔法を弾こうと抗っているのが分かる。この手に、僅かな魔法の乱れが伝わってくる。でも、奴は魔法の扱い方を心得ていない。気持ちが魔法に乗ってないんだ。
「豪炎の中で苦しみながら死ね。そして、同じ場所に行けるんだったら、あの世で里のみんなにべそかいて土下座してろ!奥義・絶炎の物語!」
抗えない奴の周囲を、更なる炎で包み込む。そして、重ねるようにして氷の壁を作り、蒸し焼きの状態を完成させる。
ジン「なるほど、なるほどなるほど。ふははははっ!はーはっはっはっ!」
苦しみを感じているはずなのに、奴は狂ったように笑い声を上げている。
「面白いものでも見つけたか!」
呻き声すら上げぬ敵の様子を見て、俺の炎が更に燃え上がる。ーー今なら、ヴァルがネイのために頑張りすぎる気持ちもちょっとは分かるな。
俺の場合、守りたいってもんは今のところねぇ。けど、守ることになるかもしれねぇ奴ならそこにいる。
「シアラ……もう少しだけ俺の戦いを見ていてくれ」
シアラ「……はい。ヴェルド様」
ーーもしかしたら、俺の心の在り方を変えてくれたのは、こいつだったかもしれない。
ジン「どうやら、私の"この"体はここまでのようです。流石、とは言えない氷人族の体。生まれつき、炎に弱いとは……しかし、しかししかし、なぜ、あなたが炎を使える?なぜ、氷人族が炎を使える?」
「ああ?さっき言っただろ。"心"の在り方だって」
俺は自分の胸に親指を指し、親父の名を騙る男にそう言う。ただ、炎で包まれてるから見えてるかどうかは分からねぇな。
ジン「また、お会いしましょう。次は、ジン・グレイディスではなく、また別の名で」
「……次に会ったら、仲間達と協力して、テメェの魂ごと消し炭にしてやる」
今の俺には、きっとこいつを殺しきることができない。炎が弱点だというのが分かっている体だから、生け捕りにするなんてことも考えなくはないが、今までのこいつに似たような奴らのことを考えると、意味がないと思う。多分、自害して他に乗り移って終わり……そんなとこだろう。
「親父……今度、骨だけでも里に持って行ってやるよ」
奴の声が聞こえなくなり、その体も無くなった手応えを感じた今、奴を包み込んでいた炎を解き放つ。
ーーもう、そこには灰も残らぬほどの焼け跡しかなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「親父……」
雪原の上に、辛うじて残っていた骨粉を拾い、ついさっきまでここに親父がいたんだな、と俺は涙をグッと堪えてそう感じる。
光楼宗傲慢とか言った奴は、他人の体を使い、他人に成り済ますことで生を繋いでいっている。気味の悪い奴だ。次に会ったらタダじゃおかねぇ。絶対にぶっ殺してやる。
シアラ「ヴェルド様……その……」
顔に若干の恐怖を抱えたシアラが、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
ーー珍しいな。普段はヴェルド様ヴェルド様って、俺は王様でもなけりゃ、お前は従者でもないってのに、変な具合に慕ってきやがって……。
「悪ぃ。ちょっと感情に正直になりすぎた」
シアラ「い、いえ、シアラは気にしておりません。……ですが、その……」
シアラは俺が握る骨粉の方に目を向けてきた。
「……あぁ、これか。……シアラ、また今度、好きな時でいいから付き合えるか?」
シアラ「は、はい!ヴェルド様の頼みならば!」
良かった。いつも通りのシアラだ。
うぜぇうぜぇとは思うが、何だかんだでシアラにはウザイと思わせるくらいに元気でいてくれた方がいい。んで、その元気を作るのが俺だっていうのなら、まあ、少しくらいはこいつに向き合ってやってもいいのかもな。
ーーなんて、本人を目の前にして言えるわけないが。
「うしっ、変なことに巻き込まれちまったが、さっさとギルドに帰ろうぜ。そろそろ馬車も来てんだろ」
シアラ「あ、その事なんですが……」
「? どうかしたか?」
シアラ「つい先程、来たには来たのですが、ヴェルド様とあの人の戦いのせいで、逃げるように逃げていきました」
「逃げるように逃げるって何だよ。つか、それだったら馬車は?」
シアラ「多分、3時間くらいしたら来るんじゃないですか?」
3時間……!
嘘だろおい。そんなに待つんだったら、さっさと次の街に行って別の馬車使った方が早ぇじゃねぇかよ……。あー、クソ!あの親父の姿を使ってた狂人が!絶対に許さねぇ。絶対にだ!
……
……
……こうして、俺の戦いには火蓋が切って落とされた。今後どうなるかは、俺の活躍次第……といったところか?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァハト「ふーむ……」
「どうかされました?マスター」
ヴァハト「うーむ。いやな、最近ギルドの収益が落ちているような気がしてのう……」
「当たり前ですよ、マスター。なんせ、皆さん長期の仕事やら修行やらでまともに稼ぎの出る仕事はしてないんですから」
その原因作ったのマスターなんですけどね。口に出しては言いませんけど。
ヴァハト「はて……そういえば、もうそろそろグランアランドラルフの時期じゃったか」
「丁度今日閉会式です」
ヴァハト「おー、開会……ん?閉会式?開会式ではなくて?」
「はい」
ヴァハト「あれぇ?てっきり、あと1週間はあると思ったんじゃがのう」
「1週間では皆さん帰って来ませんよ」
ヴァハト「まあ、それもそうか。大会なんぞ、いっぺん天下取ってしまえば目標が無くなったも同然!気にすることではないな!ハーッハッハッ!」
とか言いながら、1週間くらい前には凄く楽しみにしている素振りを見せましたけどね。まあ、おじいちゃんだから忘れてても仕方ないか。
「ーー平和ですね。喧しいのがいないと」
ヴァハト「……ああ、そうじゃな。どうせどっかの国で暴れてはおるんじゃろうが、それならそれでいい。儂はあいつらガキ共が元気にしてくれてりゃ、それでいい。ところでミラちゃん」
「はい、何でしょう?」
ヴァハト「さっきから握り拳を震わせておるようじゃが、何かあったのか?」
……おっと、危ない危ない。
思わず本音を漏らしちゃうところだった。テヘッ( ´•ᴗ•ก)
「ん?地震……かしら?」
突然カウンターの上に置いてあったコップがカタカタと揺れだした。その揺れは、やがてガタガタとした大きなものになり、何かにしがみついてないと立っていられなくなった。
「きゃっ……!」
ヴァハト「み、ミラちゃん……!」
カウンターや、食器棚に置いてあった物が次々と落ちて粉々に砕けていく。
この揺れの強さじゃギルドが崩れちゃう。
「マスター!」
車椅子に座ったままのマスターを、どうにかしてこちらにまで引き寄せる。ただ、ここはカウンターの手前側。物が落ちてきたら怪我をするのは必至。
魔法……は、私、防御魔法なんて使えないし、変身は有効そうなのがいない。こんな事なら、戦闘関係なしにもっと習得しておくべきだったかも。
ーーそうやって、私はいつも大事な時に判断を遅らせてしまう。
天から神が振り落としてきたんじゃないかと思う光の槍が降ってきて、私の意識は深い闇へと落ちていった。
……
……
……
怒りに満ち、俺の心を表すかのように鋭く尖った氷が奴の脳天めがけて降り注ぐ。しかし、氷の雨は奴の手1つで粉々に砕け散る。かすり傷1つさえ付けることが適わねぇ。
親父……どうしてこうなっちまったんだ。
「あんたは!いつからおかしくなったんだ!」
氷の刃を振るい、親父に刃越しで問いを投げる。
ジン「おかしなことを聞くものですね、ヴェルド」
「何がだ!」
ジン「私はおかしくない。いえ、私は初めからこうだった!」
「んなわけねぇだろ!」
魔法を使わず、俺は頭突きで親父に攻撃した。その攻撃は当たり、親父は額に手を当てて痛がった。
ジン「っ……あなた……何を」
「何もしてねぇよ!ただちょっと頭突きしてやっただけだ!」
ジン「頭突き……あなた、あなたあなた!あなた、なぜ魔導士になったのです?」
「あぁ?」
ジン「魔導士!即ちそれは魔法を操る狂人!魔法!それは世界のルールに従いし者!あなたあなたあなた!」
急に何言い出すんだこいつ?
……つか、こいつ本当に親父なのか?
激情に駆られちまったが、冷静に考えてこいつは親父との共通点が無さすぎる気がする。俺の記憶が曖昧だからハッキリとしたことは言えない。でも、こんな奴から俺みたいなのが生まれるか?
確かめる方法は……1つだけあるな。
「お前、母さんの名前……知ってるか?」
ジン「おや?おやおや?急に何を言い出すのです?あなたは魔導士!私は傲慢!この場に関係のない議題なはずです!」
「無理矢理話を逸らそうとしてるな。何か、都合の悪いことでもあるのか?」
ジン「……」
急に奴が黙り込んだ。
母さんの名を聞いた。ただそれだけの事だ。しかし、奴には効果的面だったらしい。
「答えられねぇのか?」
ジン「……あなたの方こそ、自らの母親の名前は言えーー」
「そうやって俺に先に言い出させるつもりか?俺の名前を知ってたのは大したもんだが、んなもんギルドの名簿調べりゃいくらでも分かる。だが、氷人族の里には記録がほとんどついていない。もしかしたら、氷人族最強と謳われてた親父の名前くらいなら残ってるかもしれねぇけどな」
ジン「……」
徐々に思い出される幼き日々の記憶。その中にあった親父の姿。
ーー親父は、強くたくましかった。俺は、その背中を追いかけていた。親父みたいに強くなりたかった。親父が死んでからの俺は、その思いを糧に魔法を覚えていたはずだった。
何で、何でこんな大事なことを忘れてしまったんだろうな。俺の記憶には、なんで蓋がかかっていたのだろうか。……分からない。分からないが、それを思い出した今、俺の拳はこの男に対して"復讐"という名の炎が再び燃え上がり出した。
ジン「炎……氷人族が?」
「いいこと教えてやるよ!親父の名を騙る狂人!」
俺は怒りに燃える炎を男に浴びせ、勢いをつけてヴァルのように殴りつけた。
「魔法っていうのには気持ちが大事らしいんだってよ!俺の恩人がそう言ってた!お前らか信じてやまねぇ邪龍様がよ!」
ジン「なっ……!そうか、そうだったのですか……。憤怒がひたすらにあの小娘を狙っていた理由が今分かりましたよ。あなたのおかげで……彼女は死んでいなかった。そうなのでしょう」
「随分と遅い情報だな!仲間の憤怒とやらからは教えてもらわなかったのか!」
ジン「あの方は何かと口が堅い……行動を起こす時、あの方は必ず1人になる。何かあれば私と色慾を頼れと言ったのに……あぁ、なぜ死んでしまわれたのでしょうか」
憤怒の正体は、間違いなくあの男だな。確信が持てた。まあ、持てたところで死んでいった奴の事なんか今は関係ねえけどな。
だが、あの時俺の仲間を傷つけた奴の身内だってんなら、容赦はしねぇ!光楼宗、憤怒、傲慢。ヒカリ辺りに伝えたら褒めてくれそうな情報の山だな。どうせ俺より先に知ってるんだろうけど。
「親父の名を騙る不届き者が!死ね!」
氷と炎を交わらせ、奴の周囲を取り巻くように囲いを作る。足元には大雪、周りには火が燃え移った木々。あの記憶の再現……
俺にとっては最悪の記憶。だが、その記憶は今日からの俺を作る糧になる!
「奥義・雪炎の記憶!」
ジン「まさか、あなたがこの記憶を作り出すとは……!」
「テメェらが16年前にやった事だろ?俺にもちょっとやらせろよ!ただし、犠牲者はテメェら光楼宗とかいう訳分かんねぇ奴だけだ!」
ジン「何をこれしきの事で!」
奴が俺の魔法を弾こうと抗っているのが分かる。この手に、僅かな魔法の乱れが伝わってくる。でも、奴は魔法の扱い方を心得ていない。気持ちが魔法に乗ってないんだ。
「豪炎の中で苦しみながら死ね。そして、同じ場所に行けるんだったら、あの世で里のみんなにべそかいて土下座してろ!奥義・絶炎の物語!」
抗えない奴の周囲を、更なる炎で包み込む。そして、重ねるようにして氷の壁を作り、蒸し焼きの状態を完成させる。
ジン「なるほど、なるほどなるほど。ふははははっ!はーはっはっはっ!」
苦しみを感じているはずなのに、奴は狂ったように笑い声を上げている。
「面白いものでも見つけたか!」
呻き声すら上げぬ敵の様子を見て、俺の炎が更に燃え上がる。ーー今なら、ヴァルがネイのために頑張りすぎる気持ちもちょっとは分かるな。
俺の場合、守りたいってもんは今のところねぇ。けど、守ることになるかもしれねぇ奴ならそこにいる。
「シアラ……もう少しだけ俺の戦いを見ていてくれ」
シアラ「……はい。ヴェルド様」
ーーもしかしたら、俺の心の在り方を変えてくれたのは、こいつだったかもしれない。
ジン「どうやら、私の"この"体はここまでのようです。流石、とは言えない氷人族の体。生まれつき、炎に弱いとは……しかし、しかししかし、なぜ、あなたが炎を使える?なぜ、氷人族が炎を使える?」
「ああ?さっき言っただろ。"心"の在り方だって」
俺は自分の胸に親指を指し、親父の名を騙る男にそう言う。ただ、炎で包まれてるから見えてるかどうかは分からねぇな。
ジン「また、お会いしましょう。次は、ジン・グレイディスではなく、また別の名で」
「……次に会ったら、仲間達と協力して、テメェの魂ごと消し炭にしてやる」
今の俺には、きっとこいつを殺しきることができない。炎が弱点だというのが分かっている体だから、生け捕りにするなんてことも考えなくはないが、今までのこいつに似たような奴らのことを考えると、意味がないと思う。多分、自害して他に乗り移って終わり……そんなとこだろう。
「親父……今度、骨だけでも里に持って行ってやるよ」
奴の声が聞こえなくなり、その体も無くなった手応えを感じた今、奴を包み込んでいた炎を解き放つ。
ーーもう、そこには灰も残らぬほどの焼け跡しかなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「親父……」
雪原の上に、辛うじて残っていた骨粉を拾い、ついさっきまでここに親父がいたんだな、と俺は涙をグッと堪えてそう感じる。
光楼宗傲慢とか言った奴は、他人の体を使い、他人に成り済ますことで生を繋いでいっている。気味の悪い奴だ。次に会ったらタダじゃおかねぇ。絶対にぶっ殺してやる。
シアラ「ヴェルド様……その……」
顔に若干の恐怖を抱えたシアラが、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
ーー珍しいな。普段はヴェルド様ヴェルド様って、俺は王様でもなけりゃ、お前は従者でもないってのに、変な具合に慕ってきやがって……。
「悪ぃ。ちょっと感情に正直になりすぎた」
シアラ「い、いえ、シアラは気にしておりません。……ですが、その……」
シアラは俺が握る骨粉の方に目を向けてきた。
「……あぁ、これか。……シアラ、また今度、好きな時でいいから付き合えるか?」
シアラ「は、はい!ヴェルド様の頼みならば!」
良かった。いつも通りのシアラだ。
うぜぇうぜぇとは思うが、何だかんだでシアラにはウザイと思わせるくらいに元気でいてくれた方がいい。んで、その元気を作るのが俺だっていうのなら、まあ、少しくらいはこいつに向き合ってやってもいいのかもな。
ーーなんて、本人を目の前にして言えるわけないが。
「うしっ、変なことに巻き込まれちまったが、さっさとギルドに帰ろうぜ。そろそろ馬車も来てんだろ」
シアラ「あ、その事なんですが……」
「? どうかしたか?」
シアラ「つい先程、来たには来たのですが、ヴェルド様とあの人の戦いのせいで、逃げるように逃げていきました」
「逃げるように逃げるって何だよ。つか、それだったら馬車は?」
シアラ「多分、3時間くらいしたら来るんじゃないですか?」
3時間……!
嘘だろおい。そんなに待つんだったら、さっさと次の街に行って別の馬車使った方が早ぇじゃねぇかよ……。あー、クソ!あの親父の姿を使ってた狂人が!絶対に許さねぇ。絶対にだ!
……
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……こうして、俺の戦いには火蓋が切って落とされた。今後どうなるかは、俺の活躍次第……といったところか?
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「どうかされました?マスター」
ヴァハト「うーむ。いやな、最近ギルドの収益が落ちているような気がしてのう……」
「当たり前ですよ、マスター。なんせ、皆さん長期の仕事やら修行やらでまともに稼ぎの出る仕事はしてないんですから」
その原因作ったのマスターなんですけどね。口に出しては言いませんけど。
ヴァハト「はて……そういえば、もうそろそろグランアランドラルフの時期じゃったか」
「丁度今日閉会式です」
ヴァハト「おー、開会……ん?閉会式?開会式ではなくて?」
「はい」
ヴァハト「あれぇ?てっきり、あと1週間はあると思ったんじゃがのう」
「1週間では皆さん帰って来ませんよ」
ヴァハト「まあ、それもそうか。大会なんぞ、いっぺん天下取ってしまえば目標が無くなったも同然!気にすることではないな!ハーッハッハッ!」
とか言いながら、1週間くらい前には凄く楽しみにしている素振りを見せましたけどね。まあ、おじいちゃんだから忘れてても仕方ないか。
「ーー平和ですね。喧しいのがいないと」
ヴァハト「……ああ、そうじゃな。どうせどっかの国で暴れてはおるんじゃろうが、それならそれでいい。儂はあいつらガキ共が元気にしてくれてりゃ、それでいい。ところでミラちゃん」
「はい、何でしょう?」
ヴァハト「さっきから握り拳を震わせておるようじゃが、何かあったのか?」
……おっと、危ない危ない。
思わず本音を漏らしちゃうところだった。テヘッ( ´•ᴗ•ก)
「ん?地震……かしら?」
突然カウンターの上に置いてあったコップがカタカタと揺れだした。その揺れは、やがてガタガタとした大きなものになり、何かにしがみついてないと立っていられなくなった。
「きゃっ……!」
ヴァハト「み、ミラちゃん……!」
カウンターや、食器棚に置いてあった物が次々と落ちて粉々に砕けていく。
この揺れの強さじゃギルドが崩れちゃう。
「マスター!」
車椅子に座ったままのマスターを、どうにかしてこちらにまで引き寄せる。ただ、ここはカウンターの手前側。物が落ちてきたら怪我をするのは必至。
魔法……は、私、防御魔法なんて使えないし、変身は有効そうなのがいない。こんな事なら、戦闘関係なしにもっと習得しておくべきだったかも。
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