グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

文字の大きさ
313 / 434
最終章 【創界の物語】

最終章10 【俺の復讐】

しおりを挟む
「アイススピアレイン!」

 怒りに満ち、俺の心を表すかのように鋭く尖った氷が奴の脳天めがけて降り注ぐ。しかし、氷の雨は奴の手1つで粉々に砕け散る。かすり傷1つさえ付けることが適わねぇ。

 親父……どうしてこうなっちまったんだ。

「あんたは!いつからおかしくなったんだ!」

 氷の刃を振るい、親父に刃越しで問いを投げる。

ジン「おかしなことを聞くものですね、ヴェルド」

「何がだ!」

ジン「私はおかしくない。いえ、私は初めからこうだった!」

「んなわけねぇだろ!」

 魔法を使わず、俺は頭突きで親父に攻撃した。その攻撃は当たり、親父は額に手を当てて痛がった。

ジン「っ……あなた……何を」

「何もしてねぇよ!ただちょっと頭突きしてやっただけだ!」

ジン「頭突き……あなた、あなたあなた!あなた、なぜ魔導士になったのです?」

「あぁ?」

ジン「魔導士!即ちそれは魔法を操る狂人!魔法!それは世界のルールに従いし者!あなたあなたあなた!」

 急に何言い出すんだこいつ?

 ……つか、こいつ本当に親父なのか?

 激情に駆られちまったが、冷静に考えてこいつは親父との共通点が無さすぎる気がする。俺の記憶が曖昧だからハッキリとしたことは言えない。でも、こんな奴から俺みたいなのが生まれるか?

 確かめる方法は……1つだけあるな。

「お前、母さんの名前……知ってるか?」

ジン「おや?おやおや?急に何を言い出すのです?あなたは魔導士!私は傲慢!この場に関係のない議題なはずです!」

「無理矢理話を逸らそうとしてるな。何か、都合の悪いことでもあるのか?」

ジン「……」

 急に奴が黙り込んだ。

 母さんの名を聞いた。ただそれだけの事だ。しかし、奴には効果的面だったらしい。

「答えられねぇのか?」

ジン「……あなたの方こそ、自らの母親の名前は言えーー」

「そうやって俺に先に言い出させるつもりか?俺の名前を知ってたのは大したもんだが、んなもんギルドの名簿調べりゃいくらでも分かる。だが、氷人族の里には記録がほとんどついていない。もしかしたら、氷人族最強と謳われてた親父の名前くらいなら残ってるかもしれねぇけどな」

ジン「……」

 徐々に思い出される幼き日々の記憶。その中にあった親父の姿。

 ーー親父は、強くたくましかった。俺は、その背中を追いかけていた。親父みたいに強くなりたかった。親父が死んでからの俺は、その思いを糧に魔法を覚えていたはずだった。

 何で、何でこんな大事なことを忘れてしまったんだろうな。俺の記憶には、なんで蓋がかかっていたのだろうか。……分からない。分からないが、それを思い出した今、俺の拳はこの男に対して"復讐"という名の炎が再び燃え上がり出した。

ジン「炎……氷人族が?」

「いいこと教えてやるよ!親父の名を騙る狂人!」

 俺は怒りに燃える炎を男に浴びせ、勢いをつけてヴァルのように殴りつけた。

「魔法っていうのには気持ちが大事らしいんだってよ!俺の恩人がそう言ってた!お前らか信じてやまねぇ邪龍様がよ!」

ジン「なっ……!そうか、そうだったのですか……。憤怒がひたすらにあの小娘を狙っていた理由が今分かりましたよ。あなたのおかげで……彼女は死んでいなかった。そうなのでしょう」

「随分と遅い情報だな!仲間の憤怒とやらからは教えてもらわなかったのか!」

ジン「あの方は何かと口が堅い……行動を起こす時、あの方は必ず1人になる。何かあれば私と色慾を頼れと言ったのに……あぁ、なぜ死んでしまわれたのでしょうか」

 憤怒の正体は、間違いなくあの男だな。確信が持てた。まあ、持てたところで死んでいった奴の事なんか今は関係ねえけどな。

 だが、あの時俺の仲間を傷つけた奴の身内だってんなら、容赦はしねぇ!光楼宗、憤怒、傲慢。ヒカリ辺りに伝えたら褒めてくれそうな情報の山だな。どうせ俺より先に知ってるんだろうけど。

「親父の名を騙る不届き者が!死ね!」

 氷と炎を交わらせ、奴の周囲を取り巻くように囲いを作る。足元には大雪、周りには火が燃え移った木々。あの記憶の再現……

 俺にとっては最悪の記憶。だが、その記憶は今日からの俺を作る糧になる!

「奥義・雪炎の記憶!」

ジン「まさか、あなたがこの記憶を作り出すとは……!」

「テメェらが16年前にやった事だろ?俺にもちょっとやらせろよ!ただし、犠牲者はテメェら光楼宗とかいう訳分かんねぇ奴だけだ!」

ジン「何をこれしきの事で!」

 奴が俺の魔法を弾こうと抗っているのが分かる。この手に、僅かな魔法の乱れが伝わってくる。でも、奴は魔法の扱い方を心得ていない。気持ちが魔法に乗ってないんだ。

「豪炎の中で苦しみながら死ね。そして、同じ場所に行けるんだったら、あの世で里のみんなにべそかいて土下座してろ!奥義・絶炎の物語!」

 抗えない奴の周囲を、更なる炎で包み込む。そして、重ねるようにして氷の壁を作り、蒸し焼きの状態を完成させる。

ジン「なるほど、なるほどなるほど。ふははははっ!はーはっはっはっ!」

 苦しみを感じているはずなのに、奴は狂ったように笑い声を上げている。

「面白いものでも見つけたか!」

 呻き声すら上げぬ敵の様子を見て、俺の炎が更に燃え上がる。ーー今なら、ヴァルがネイのために頑張りすぎる気持ちもちょっとは分かるな。

 俺の場合、守りたいってもんは今のところねぇ。けど、守ることになるかもしれねぇ奴ならそこにいる。

「シアラ……もう少しだけ俺の戦いを見ていてくれ」

シアラ「……はい。ヴェルド様」

 ーーもしかしたら、俺の心の在り方を変えてくれたのは、こいつだったかもしれない。

ジン「どうやら、私の"この"体はここまでのようです。流石、とは言えない氷人族の体。生まれつき、炎に弱いとは……しかし、しかししかし、なぜ、あなたが炎を使える?なぜ、氷人族が炎を使える?」

「ああ?さっき言っただろ。"心"の在り方だって」

 俺は自分の胸に親指を指し、親父の名を騙る男にそう言う。ただ、炎で包まれてるから見えてるかどうかは分からねぇな。

ジン「また、お会いしましょう。次は、ジン・グレイディスではなく、また別の名で」

「……次に会ったら、仲間達と協力して、テメェの魂ごと消し炭にしてやる」

 今の俺には、きっとこいつを殺しきることができない。炎が弱点だというのが分かっている体だから、生け捕りにするなんてことも考えなくはないが、今までのこいつに似たような奴らのことを考えると、意味がないと思う。多分、自害して他に乗り移って終わり……そんなとこだろう。

「親父……今度、骨だけでも里に持って行ってやるよ」

 奴の声が聞こえなくなり、その体も無くなった手応えを感じた今、奴を包み込んでいた炎を解き放つ。

 ーーもう、そこには灰も残らぬほどの焼け跡しかなかった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「親父……」

 雪原の上に、辛うじて残っていた骨粉を拾い、ついさっきまでここに親父がいたんだな、と俺は涙をグッと堪えてそう感じる。

 光楼宗傲慢とか言った奴は、他人の体を使い、他人に成り済ますことで生を繋いでいっている。気味の悪い奴だ。次に会ったらタダじゃおかねぇ。絶対にぶっ殺してやる。

シアラ「ヴェルド様……その……」

 顔に若干の恐怖を抱えたシアラが、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 ーー珍しいな。普段はヴェルド様ヴェルド様って、俺は王様でもなけりゃ、お前は従者でもないってのに、変な具合に慕ってきやがって……。

「悪ぃ。ちょっと感情に正直になりすぎた」

シアラ「い、いえ、シアラは気にしておりません。……ですが、その……」

 シアラは俺が握る骨粉の方に目を向けてきた。

「……あぁ、これか。……シアラ、また今度、好きな時でいいから付き合えるか?」

シアラ「は、はい!ヴェルド様の頼みならば!」

 良かった。いつも通りのシアラだ。

 うぜぇうぜぇとは思うが、何だかんだでシアラにはウザイと思わせるくらいに元気でいてくれた方がいい。んで、その元気を作るのが俺だっていうのなら、まあ、少しくらいはこいつに向き合ってやってもいいのかもな。

 ーーなんて、本人を目の前にして言えるわけないが。

「うしっ、変なことに巻き込まれちまったが、さっさとギルドに帰ろうぜ。そろそろ馬車も来てんだろ」

シアラ「あ、その事なんですが……」

「? どうかしたか?」

シアラ「つい先程、来たには来たのですが、ヴェルド様とあの人の戦いのせいで、逃げるように逃げていきました」

「逃げるように逃げるって何だよ。つか、それだったら馬車は?」

シアラ「多分、3時間くらいしたら来るんじゃないですか?」

 3時間……!

 嘘だろおい。そんなに待つんだったら、さっさと次の街に行って別の馬車使った方が早ぇじゃねぇかよ……。あー、クソ!あの親父の姿を使ってた狂人が!絶対に許さねぇ。絶対にだ!

 ……

 ……

 ……こうして、俺の戦いには火蓋が切って落とされた。今後どうなるかは、俺の活躍次第……といったところか?

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴァハト「ふーむ……」

「どうかされました?マスター」

ヴァハト「うーむ。いやな、最近ギルドの収益が落ちているような気がしてのう……」

「当たり前ですよ、マスター。なんせ、皆さん長期の仕事やら修行やらでまともに稼ぎの出る仕事はしてないんですから」

 その原因作ったのマスターなんですけどね。口に出しては言いませんけど。

ヴァハト「はて……そういえば、もうそろそろグランアランドラルフの時期じゃったか」

「丁度今日閉会式です」

ヴァハト「おー、開会……ん?閉会式?開会式ではなくて?」

「はい」

ヴァハト「あれぇ?てっきり、あと1週間はあると思ったんじゃがのう」

「1週間では皆さん帰って来ませんよ」

ヴァハト「まあ、それもそうか。大会なんぞ、いっぺん天下取ってしまえば目標が無くなったも同然!気にすることではないな!ハーッハッハッ!」

 とか言いながら、1週間くらい前には凄く楽しみにしている素振りを見せましたけどね。まあ、おじいちゃんだから忘れてても仕方ないか。

「ーー平和ですね。喧しいのがいないと」

ヴァハト「……ああ、そうじゃな。どうせどっかの国で暴れてはおるんじゃろうが、それならそれでいい。儂はあいつらガキ共が元気にしてくれてりゃ、それでいい。ところでミラちゃん」

「はい、何でしょう?」

ヴァハト「さっきから握り拳を震わせておるようじゃが、何かあったのか?」

 ……おっと、危ない危ない。

 思わず本音を漏らしちゃうところだった。テヘッ( ´•ᴗ•ก)

「ん?地震……かしら?」

 突然カウンターの上に置いてあったコップがカタカタと揺れだした。その揺れは、やがてガタガタとした大きなものになり、何かにしがみついてないと立っていられなくなった。

「きゃっ……!」

ヴァハト「み、ミラちゃん……!」

 カウンターや、食器棚に置いてあった物が次々と落ちて粉々に砕けていく。

 この揺れの強さじゃギルドが崩れちゃう。

「マスター!」

 車椅子に座ったままのマスターを、どうにかしてこちらにまで引き寄せる。ただ、ここはカウンターの手前側。物が落ちてきたら怪我をするのは必至。

 魔法……は、私、防御魔法なんて使えないし、変身は有効そうなのがいない。こんな事なら、戦闘関係なしにもっと習得しておくべきだったかも。

 ーーそうやって、私はいつも大事な時に判断を遅らせてしまう。

 天から神が振り落としてきたんじゃないかと思う光の槍が降ってきて、私の意識は深い闇へと落ちていった。

 ……

 ……

 ……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい

緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。 ――自分は民を理解しているつもりだった。 だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。 その痛烈な自覚から、物語は動き始める。 革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。 彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。 そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。

処理中です...