グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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最終章 【創界の物語】

最終章12 【繰り返す世界】

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 赤く、自分の中で何かが渦巻いているーー

 ーー黒く、自分の心が怒鳴り上げている。

 そして、誰かが俺の口元で何かを呟いている。

『あんたのこと、好きだったわ』とーー

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「ーール、ねーーヴァーー」

 隣から、誰かが俺を呼ぶ声がするーー

 誰だ?いや、誰かなんて隣を向けばすぐに分かる。でも、なぜか俺の首は何かに固定されたかのように動かないでいる。なぜだ?

『まずは、小さなことから思い出してくださいーー』

 今度は、脳に直接語りかけてきたような声が聞こえた。外部から響いてくる声じゃない。本当に、直に俺の脳に語りかけてきたのだ。何だか、自分ではよく分からないが懐かしい感覚だ。

 この声を合図に、俺の意識がハッキリと目覚めた。目の前に飛び込んでくるのは、どこかの市場。そして、隣から俺の名を呼んできた奴はーー

「ヒカリ……?」

 この名を呼ぶことに、なぜか俺は悲しみを覚える。

 ーー分からない。何も分からない。何が起きたのか、何で俺は全てを忘れてしまったかのような感覚に陥ってるのか。何か、何かとても大切なことを忘れてしまった気がするんだ……。

ヒカリ「あのー、どうかしました?頭でも強く打っちゃいました?事実打ってるんですけど」

「あ?どういうこと?」

ヒカリ「いや、だってボーッとしてたのか知りませんけど、ヴァルさん物凄い勢いで街灯柱にぶつかって、頭の上にひよ子飛ばせてましたよ?」

 そんなにか……え、記憶にねぇんだけど。マジで強く打ったショックで忘れちまった?そうなのか?

「……そういや、ヒカリ」

ヒカリ「はい、何ですか?治療なら一応してあげましたよ?」

「……お前、そんな喋り方だったっけ?」

ヒカリ「ーー何言ってるんですか?私は元からこんな喋り方ですよ?」

 一瞬だけ、ヒカリの顔に曇がかかった。だけど、それはすぐに消え、さっきまでのようなニコニコとした表情に戻る。

 気のせい……なのか?俺の記憶には、ヒカリがこんな丁寧な喋り方をしてた記憶なんてない。それだけは確かなはずなんだ。

 何がおかしい?何で俺は疑問を抱いている?俺は、何を忘れたと言うんだ。

 さっきから同じ疑問がずっと頭の中でグルグルと回っている。喉の奥に小骨が刺さったみたいに、妙な違和感を覚える。だけど、その違和感の正体が分からない。ヒカリの喋り方が違う気がしたが、それは俺の気のせいなのだ。ヒカリは元からこんなのだ。誰にでも優しくて、自分のことは後回しにして、バカやってる俺達のことをいつもフォローしてくれて……

「あれ……」

 ヒカリ……?

 何でだ。何がおかしいんだ。俺の記憶は正しい……はず?

ヒカリ「あのー、もしかして、本当に強く打ちすぎて記憶飛んじゃいました?」

「……そうだ。ヒカリ、俺らここで何してたっけ?」

ヒカリ「何してたか、なんて聞かれたら、明日のために買い出しをしていたくらいしか答えられませんけど」

「明日?」

ヒカリ「ほら、最近魔獣が頻出している地域に討伐に出掛けるって。私、これが初めての大仕事なんですよ?守ってくださいよね……って言ったところで、勝手にズカズカ突き進んでいってくれるんでしょうけど」

 そう言いながら、ヒカリはコートの内ポケットの中から依頼書を見せてきた。

 魔獣討伐……この言葉にも、妙な引っ掛かりを感じる。初めて聞く言葉ではないし、この出来事も初めてっていうわけじゃない気がするんだ。

ヒカリ「あ、安心してください。極力乗り物を使わなくていいようなルートで行きますから」

「乗り物?」

ヒカリ「セリカさんから聞きましたよ。ヴァルさんは乗り物が大の苦手だって」

 ……俺、乗り物はそんなに弱くなかったはずなんだが。

 ここに来て、また新しい疑問が増える。ヒカリの言ってることとどうにも食い違う内容。話せば話すほど違和感は増していくばかり。

ヒカリ「うーん?やっぱり、強く打ちすぎたんですかね。もうちょっと治療してあげます」

 そう言って、ヒカリは背伸びをして俺のおでこに何かをしてきた。

 これは治癒魔法か。それも、かなり高レベルのやつだ……

 ……

 ……

 こいつ、魔法使えたっけ?

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 その日の夜、俺は自室で1人、記憶の整理をしていた。

 どうにも、俺はこの時代の人間じゃない気がする。そんな気がしてな。

「つっても、覚えてることって言えば……」

 俺の出自、名前、生年月日、ギルドに入るまでの出来事。仲間達の名前、新しい仲間セリカのこと。そして、ヒカリがうちのギルドにやってきた経緯くらいだ。そこまでしか思い出せない。

 ーーこれだけ思い出せてれば十分。むしろ、ここまでしか知らなくて当然。だって、ヒカリがうちに来てから1週間も過ぎていない。それなら、ここまでしか知らなくて当然なのだ。未来のことなんて知ることは出来ないしな。でも、何故か引っかかるんだ。断片的にだが、俺はこの先起こることを知っている。知っている気がする。

「みんなで魔獣の群生地に行って、そこで円形の瘴気団を見つけて……で、確かヒカリがグランメモリを見つける……」

 何度も言うが、なぜかは分からない。ただ未来予知的な力が俺にあるなら疑問には思わないが、過去の記憶を漁ってみる限り、俺がそんな力を有していた過去はない。つまり、今見えているこの記憶は、俺が経験してきたことなのだ。

 じゃあ、未来を経験するとはどういったことなのだろうか?なんで、俺は知った気になっているのだろうか?どこか、もう少し先の未来を思い出せれば、行かなきゃいけないはずの場所も見えてくると思う。

「つっても、やっぱ未来なんて早々見えねぇよなぁ……なぁんで、こんなに引っかかんだろ」

 きっと、この引っ掛かりを取ることが出来ない限り、俺は前に進めない。そんな気がする……

 ……気がする。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ーー翌日。

 俺は、ぼんやりと知っている記憶の通り、馬車に揺られて魔獣討伐へと向かった。荷台の中にはヴェルド、セリカ、エフィ、そしてヒカリと、ここ最近のいつもの面子だ。

 ここ最近か……。

 自分で言っといてあれだが、今の俺は自分の発言1つ1つに違和感を覚えている。なんというか、勝手に口から言葉が出て、それを一々赤ペン先生してるような感覚なんだ。自分の言葉は正しいはずなのだが、正しくないように見える。複雑だな。

「おりゃ!」
ヴェルド「とう!」

 頭の中はこんがらがったままだが、体はなぜかしなければならないことをスっと出来る。魔獣の次の行動とか、ヴェルドと合わせなきゃいけないの動きが自然と分かって体を動かしている。

エフィ「怖かったよね?大丈夫。もう大丈夫だから」

 エフィが魔獣を説得して魔獣化を解く。

 ーーこの光景も見たことがある。

「……」

 セリカとヒカリは後方にいて、俺達はヒカリが書いた地図に載ってある通りの場所で魔獣の討伐。多分だが、違和感を感じていない俺はこの事に何も感じなかったと思う。だが、今の俺には分かる。

 ーーなぜ、ヒカリは魔獣の居場所を知っているのだろうか。

 ヒカリがこっちに来てから1週間。街の外に出るような大仕事はこれが初めてなはずだし、こんな深い森で魔獣の居場所を全て把握するなんて無理だ。

 ……微かに見える記憶。多分、夜が明けた後の事だ。突然街に爆発音が鳴り響き、よく分からん奴が敵として現れる。そいつは、グランメモリを使って体を化け物にし、俺達と対峙する。

「見えたのは、ここまでか……」

 まだ足りない。この先の未来に、もっと大変なことが起きるはずなんだ。

セリカ「ヴァルー!お昼にするよー!」

 いつの間にか、セリカ達が大きめのシートを敷いて、お昼の準備をしていた。ミラさんお手製の弁当の香りが、俺の鼻を刺激してくる。

「……今行くー!」

 違和感は気になる。でも、こうやって普通に過ごしていたらちょっとずつ違和感が拭えてきたんだ。このまま、答え合わせをするようにして見えた未来の通りに行動しよう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ーーそしてまた夜。

「あの後、思い出せたのは異世界からの侵略者……ってところか」

 敵の名前と顔くらいしか思い出せてないから、具体的にそいつらが何をするのかは分からない。だが、時計塔を爆破する連中の仲間なのだから、きっとろくでもない連中なのだろう。

 ーーそういや、今日やらなきゃいけないことを、何か忘れてる気がする……。

「……あ!セリカ!」

 思い出した思い出した。確か、物騒な物言いだが、セリカがこの後通り魔に襲われるはず。それを俺が助けに行かねぇと、無様に殺られる……!

「こうしちゃいられねぇ!」

 俺は家を飛び出し、記憶にある通りの場所を目指す。すると、もうそこには例の通り魔とセリカがいて、通り魔がセリカに向けて刀を振り上げているところだった。

「セリカ、危ない!」

 考えるよりも行動するのが先。刀を止めることはなんかできない気がするので、俺はセリカの体を突き飛ばした。

セリカ「痛た……て、ヴァル!?」

 セリカが大袈裟に驚き、尻もちを着いたままの姿勢で俺を見上げる。

「大丈夫か?セリカ」

 記憶を再現しようと意識しなくとも、勝手に体が動く。

 セリカに手を差し伸べ、掴んだセリカの手を引っ張りあげる。ここまでは記憶通りだな。

セリカ「なんとか大丈夫……そんなことよりもなんで、ここにヴァルが?」

 あー、どう言おうか。まさか、未来予知したから来たなんて言えねぇしな……あ、そういやレラとセリカが昼間に通り魔がどうのこうのって話してたな。

「レラの話を聞いた時になんか……嫌な予感がしたんだよ。それで悪ぃとは思いつつもセリカを付けさせてもらったんだ。そしたら、まさか本物が来るとは……」

 握り拳を作り、それっぽさを演じる。セリカのことだし、そこまで深くは考えないだろう。ってか、客観的に見て俺ヒーローなんだから疑われないよな?

「てめぇ何のつもりだ?」

 記憶の蓋がまた1つ開いた。こいつは、この先の未来で敵となり俺達の前に現れる存在。いや、もうこの時点で敵なのだが、そういう意味じゃなくて、もっとこう、大きな敵として登場する奴だ。

「見てわからないか?私は通り魔だよ。最近噂になっている」

 男ーー名前なんだっけ?思い出せねぇなーーは両の腕を広げ言う。

「随分と野蛮な方法で記憶を取るんだな」

 敵にも何かを悟られたらヤバいので、俺は精一杯の演技で睨みをきかせながらいう。

「あぁ、これかい?これはとある人に作ってもらった刀でねぇ、これで斬りつけるとあら不思議。なんと、斬った相手の戦士としての記憶を奪ってくれるんだよ」

 そう言うと男は高らかな声で笑った。

「戦士としての記憶だと?そんなものをなぜ欲しがる?」

「君には分からないだろうが、そのうち分かるさ。今日は失敗だったよ、それじゃまたね」

 そう言うと男は暗闇の中に消えていった。

「あ、待ちやがれ!」

 ここで葬り去った方が良いんじゃねぇか?と思い、俺は男の後を追いかけるが、もう、どこにも居なかった。

「クソ。あ、そうだ」

 俺はセリカの方に駆け寄って
「大丈夫だったか?セリカ」
 と言った。

「大丈夫って言いたいところだけど......」

 セリカの両目から、涙がぽつりぽつりと流れ落ちた。

 ーー分かってるよ。怖かったんだろうな。この時のセリカは色んな不安に押し潰されそうになってたからな……なんで、こんな事が分かりきってるように思えんだろう。

「怖かったのか?」

 とりあえずセリカにそう問う。

「怖かった。凄く怖かった。殺されるかと思った」

 セリカは抑えることができず、大声で泣き始めた。

「大丈夫だ。俺が守ってやる」

 俺はセリカを自分の胸の中に入れ、抱き締めた。

「うん......」

 セリカはしばらくの間、俺の胸の中で泣き続けた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「なんというか、行動しようとすると、少し先の未来が見えるようになってんな……」

 セリカを無事に送り届け、俺は再び我が家で1人考え事をする。

 さっきまでの出来事は、全て俺が知っていて、過去に経験したはずのことだ。もう、昨日や昼間のように、己がこの時代の存在であるとは思えなくなった。だって、何度も言うが未来が見えるからな。それも、自分が経験してきたことのように。

 これから先も、きっと俺が行動する度に未来が見えて、辻褄を合わせようとしてくるのだろう。しかし、それでは俺は何も進歩しない気がする。何より、俺にとって大事な子といつまでも会えない気がする。誰なのかは知らんが。

「まあ、そんなこんなで、俺から行動を変えんのは無理だよな……あくまで、俺からだが」

 このまま記憶通りの行動をしたって意味が無い。よくあるタイムリープものでは過去を変えてはならんみたいな設定があるが、それがなんぼのもんじゃい。未来知ってるんだったら、その原因くらい探らせろ。ってなわけで、もう布石は打っておいたぜ。後は、あいつが素直に応じてくれるかどうか次第だが。

《コンコン》

 静寂に包まれた俺の部屋に、誰かが扉をノックした音が響く。

「来たな」

 俺は唾を飲んでから扉を開ける。これから話をする奴に、もしかしたら殺されるかもしれないからな。でも、きっと大丈夫なはずだ。あいつは優しい。優しすぎるくらいに……

ヒカリ「夜分遅くに失礼します」

 ーーちゃんと伝えてくれて助かるぜ、セリカ。

ヒカリ「一体、今晩は何の用事だと言うのでしょうか?」
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