グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

文字の大きさ
321 / 434
最終章 【創界の物語】

最終章18 【ミイ】

しおりを挟む
ネイ「……ヴァル。私はあなたを苦しめたくありません」

「……それは、どういう意味だ」

 ゆっくりと俺はネイと目を合わせる。アメジストのような美しい紫色の瞳が、厳しそうな目で俺の方を見つめてくる。

 俺を苦しめたくない。そう言ったネイは、ゆっくりと本棚を左右に分けて俺の方へと近づいてくる。

ネイ「ヴァル。もしかしたら、これはとても辛い現実になるかもしれません。それでも、あなたは本当のことを聞きたいと望みますか?」

「どうせ、時間が経てば分かる話なんだろ。なら、早めに知っといて問題はないはずだ」

 ーー多分、俺が不老不死かそれに近い体になっているとかいう話だ。長い間を生きるってのにイマイチ実感は湧かないが、それでも今この場で辛いと感じる話ではないと思う。

 俺はそう思ってネイの次なる言葉を待っていた。しかし、ネイはいつまで経っても口を開かない。

「……ネイ。どうしたんだ?急に黙って」

 俺は在り来りな問いをネイに投げかける。ネイは変わらず黙ったまま。ただ、そのネイに変わって俺に問いに答えてくれる子がいた。

ユミ「ヴァル。こいつの口から聞くのは厳しいと思うぜ」

「ーーそれは、どういう事なんだ?」

ユミ「……ネイ。お前が言わねぇなら俺の口から言うぜ」

 ユミのその言葉に、ネイは軽く俯く感じで首を振る。

ユミ「ヴァル。覚悟して聞け」

「……」

 今更覚悟することなんかほとんど無いが、俺はドッシリと腕組みをして構える。こうしている方が、何を言われても動揺せずに話を聞ける気がしたからだ。

ユミ「ヴァル、お前の体はただの人間じゃねぇ。むしろ、生まれた時からお前は人間じゃなかった。お前の母親が誰だったか、それをお前は知ってるよな」

「ああ。ヴァルキリー。それが母さんの名前で、母さんは夢と死の国の創界神グランウォーカーだった」

 掘り返されるあの世界での出来事。最後に交した母との会話。記憶が一時的に無くなっていた間も、心のどこかに刻まれていた言葉だ。

ユミ「ああそうだ。お前はそいつの息子だ。だからってわけじゃねぇが、お前もその力を受け継いでいる。あの時、お前がお前の手で母親を殺した時からな」

「……」

ユミ「知らず知らずのうちに神様になってたわけだが、お前には1つ聞かなきゃならねぇことがある」

「俺に……?」

 途端にユミが睨みつけるような目付きで俺を見てくる。それも、かなりの敵意を込めて。

ユミ「ヴァル。テメェは、俺達の味方か?それとも敵か?」

 一瞬、その言葉の意味が分からなかった。でも、ユミの目を見て、俺はその言葉の重さを悟った。

「……俺は、俺がどんな奴であろうが、ネイの味方でいるつもりだ」

 もっといい言い方があるんじゃねぇかとは思うが、俺は俺が思ったままの気持ちを素直に口にする。

ユミ「……ヴァルには言っとくが、ぶっちゃけ、今回の戦いは敵側に着いた方が生き残れる可能性は高いぞ」

「お前、俺に仲間でいてほしいのか?ほしくないのか?」

ユミ「仲間であってほしい。でも、神様同士の戦いに巻き込まれるんだ。死んでも知らねぇぞ」

「それ言ったら、お前らの方に着いても変わらねぇだろ。だからネイ。そんな不安そうな顔をするな。俺が隣で守ってやるから」

ネイ「……絶対、ですよ」

 不安そうな顔を残すネイの顔を抱き寄せ、俺は優しく頭を撫でてやる。すると、ネイは安心したかのように目を閉じ、そのまま眠りこけてしまった。

 ちょっと安心させてやるだけのつもりだったんだけどな。まあ、この様子だとロクに休んでいないだろうし、このままにしといてやろう。

ユミ「相変わらずだな。それ、ネイ以外の女にはするなよ。こいつ意外と嫉妬心ヤベぇから」

「知ってる」

ユミ「まあ、後のことは任せとけ。お前を元の時間に送る作業は俺がしてやる」

「頼んだ」

 ユミがネイと同じようにして本棚を操り、本を並べて扉のようなものを形成する。これが未来に帰るためのものだな。

 ーーにしても、怒涛の1日だった気がする。ヒカリを連れてここに来て、そこで忘れていたものを思い出してから過去に渡る。そして、神様との戦いに向けての準備と明らかになった俺の正体。

 バッカじゃねぇのって言ってやりてぇところだが、これが現実なんだって認めちまってる自分がいる。

「やるしかねぇんだな。神様相手に……」

ユミ「お前も神の端くれだ。まぁ、頑張れよ」

 扉が完成し、周りのマナを吸い込むかのような勢いの渦が出来上がる。やけに神々しく輝いていて、まるで俺の門出を祝福してるみたいだった。門出関係ねぇけどな。

「ーーんじゃ、また先の未来でな」

ユミ「ああ。神様全員ぶっ飛ばしてやろうぜ」

 俺は扉に入り、吸い込まれるような次元の中で未来のことを考えていた。

 あいつと長い間暮らしてたから分かる話だったが、普通の人間にとってはサッパリな話だった。自分が段々と頭のおかしな奴になっている事を嘆きはするが不思議と嫌だとは思わねぇな。なんでかって言うと、やっぱりネイのことを理解してやれてるって思えるからだろう。

 ーーまあ、ただ思うんだけじゃなく、ちゃんと理解しなきゃならねぇんだけどな。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「ーーはぁ。結局、本当に言いてぇ事は言えなかったな」

 ヴァルを未来に送り出してから数分。行儀が悪いとは分かっているが、本を適当に積み上げたものの上に座って、優雅にネイの寝顔を見つめている。

 だーから少しは休めって言ったんだがな。なのに、こいつったらどこまでも頑張りやがって……。怠惰の魔女って何だっけ?

「……ネイ。正直に言うと俺も怖い。敵無しだと思ってたお前ですら恐れる相手だ。俺が恐れを抱かねぇわけがない」

 ヴァルのように、そっと優しくネイの頭を撫でてみる。あいつが何で度々こんな事をしてるのかずっと疑問だったが、何となくその気持ちが分かったような気がする。

 こんなにも無防備に赤子のように眠るこいつに触れていると、不思議と守ってやらなきゃなって気持ちが強くなる。それは、同時に自身の不安を拭いとってくれるものとなる。不安で拳が震えてちゃ、まともに戦えねぇからな。守るもんがあるってのはいいことだ。

 ーー1000年。俺の魂が出来てから過ぎ去った時間。こんな真っ黒に染まった魂、すぐに消えちまうと思ってたのに、何だかんだでここまで来ちまったよ。

「この体を貰った時から、俺はただ世界を見るためだけに生きていた。誰かを守りたいとか、生きがいを見つけたいとか、そんなこと微塵も思っちゃいなかった。ーーなのに、今じゃこうして世界を守るために動いてる。不思議なもんだな。最初は、お前の裏の心として現れたってのに……」

 思い出される懐かしい記憶。中々にグレてて、オマケにヒカリ程じゃねぇがツンデレ気質……。自分でツンデレって言うの恥ずかしいな、おい。

 まあ、あれだ。体は女なのに、心はかなり男に近い俺だからこそ、ヴァルみたいに守ってやりたいって気持ちが強くなる。だからーー

「ーーネイ。俺、お前の中に帰るよ」

 ーー触れていた頭の部分に、俺の魂を注ぎ込む。俺の体にある黒いマナがネイの体に流れ込んで行く。

 お前に隠れてコソコソと身につけた魔法。たった1回しか使えないし、使わない魔法。これでお前の中に俺が戻れたら……あー、この体どうなるんだろうな?ユミの魂はとっくに死んじまってるし、この体が生きてるのだって、俺の魂ありきでの話だ。

 ーーまあ、その辺はネイに任せるか。

ネイ「ユ……ミ……」

 おっと、起こしちまったか。んじゃ、少しくらい挨拶していくか。

「ネイ、後は任せたぜ。ミイより」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 どこか、悲しい夢を見ていた気がするーー

 黒い何かが悲しそうに泣いていた。

 いつもいつも強がって、守ってやるなんて口にして、結局助けを欲しがっていたのはあなた自身だった。なのに、あなたは意固地になって助けを求めず、最後の最後には悲しそうに死んで行く。

「……」

 真っ白な空間に本棚が立ち並んだ空間。見慣れた景色だというのに、どことなく寂しい気がする。それは、私の心の問題なのか、それともいつも目に写っていた人がいないからなのか、理由は分からない。ただ1つ、私に分かることがあればあるとすればーー

「ユミ……?」

 体に重くのしかかるようにしてユミが倒れている。すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てて、よくこんな格好で私にあれこれ言えたもんだと思う。

 顔を上げると、本がグチャグチャにばらまかれていた。また本を椅子にしてましたね、この人。何度注意すれば分かるのやら……まあ、私が注意を聞かない人だから言えないんですけど。

「……あれ?ユミって、こんなに小さかったっけ?」

 寝ぼけてるからかもしれないが、どことなくユミの体が縮んだように見える。一応鬼の体だし、私と違って成長に問題がなかったから、優に170は超えてたはずなんだけど、何となく小さくなったように見える。

 試しに首から腰までの長さを、手を当て感覚で測ってみる。やっぱり、少しだけ小さい。誤差って言うにしては結構な差が着いている。

「どういう……」

 不意に、右側から垂れた髪の毛が黒色に染っていることに目が行った。

「な……にが……」

 黒色の髪を手で触り、その色が自分のものであることを確認する。

 どこをどう見ても真っ黒な髪色。なぜ、今になって私の髪色が変わったのか。ーー理解したくないけど、答えがもう出ている。

「ユミ……いや、ミイ……」

 目を閉じ、両手を胸の前に当てて心の奥を見る。月下の花畑に、黒色の薔薇が一輪咲いている。周りの白くて美しい花々とは違い、その花だけは黒く、自らの存在を主張している。寂しさを紛らわせるためのものじゃない。「俺のことを忘れるな」「俺はここにいる」「俺はお前だ。そして、お前も俺だ」。そう励ますような言葉を言ってくれてるような気がする。

「そう……ですか……。覚悟を決めちゃいましたか……」

 少し寂しいような気がするけど、これが戦いに勝つためにミイが出した結論なんだと分かると、その寂しさも勇気へと変わって行く。

 ーーもう1本。花飾りでも着けようかな。とびっきりの黒い薔薇で。

「……っ」

 ーーふと、ユミの体から小さな呻き声が聞こえた気がした。

「ーーまさか」

 ……

 ……

 ……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい

緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。 ――自分は民を理解しているつもりだった。 だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。 その痛烈な自覚から、物語は動き始める。 革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。 彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。 そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。

処理中です...