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最終章 【創界の物語】
最終章23 【暴食と嫉妬】
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「あら?どうかされましたか?」
黒い髪をスラッと流し、ネイみたいな和服に身を包んだ鬼の少女がいる。
ーーユミ……なのかな?
少し迷う。見た目というか、顔はユミそのものなんだけど、着てるものが違うし、口調も違う。付け加えて言うならば、普段は携えているはずの刀も携えていない。私の中のイメージと全然違うのだ。
ネイ「……説明した方がいいですか?」
「「「 しろ 」」」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ネイ「うぅ……その……なんかすみません……」
怒涛の質問攻めから1時間弱。泣き出しそうになっていたところを、ユミの登場で救われたはずだったのに結局彼女は泣き出してしまった。ーー男性陣も女性陣ももう少し手加減しようよ……。まあ、あの状況だと、聞くしかないって感じはしたけど(私も何個か聞いちゃったし)。
ヴァル「お前ら本当容赦ねぇな。少しは流れで察しろよ」
「「「 お前にだけは言われたくねぇ! 」」」
ーーとまぁ、そんな具合にみんなよりヴァルの方が持ってる知識量が多いのと、普段空気を読まないくせに、こういう時だけは読めというヴァルの発言が来るこの状況に若干苛立ちを覚える。
一応経緯としては、このユミは私達が知っているあのユミではない。……という言い方をすると語弊が生まれるかもしれないから、あのユミのことはミイと呼ぼう。で、そのミイはもういないらしい。なんか、ネイの中に戻った?みたいなことを言われたけど……うーん、どういうこと?戻ったって何?写し鏡の神殿に行く前の状態になったってことかな?そういう事にしとくか。そして、今私達の目の前にいるのはユミ。そう、ミイを助けるために死んだはずのユミだ。
ーー原理?そんなもの、ネイりんが理解出来てないんだから私達が出来るわけないでしょ。
ユミ「皆さん酷いですね。ヨミさんもヨミさんですよ。神様なんだったらただの人間相手にはもっと強く出ないと」
ネイ「……それ、ただの人間が私に言います?」
ユミ「そういうところです」
ネイ「……」
ユミも何だか強くなったなぁ。最後に会ったのって、確か3年くらい前の黒月でじゃなかったっけ?しかも、そこからずっと眠ってたようなものでしょ?
ーー本当に、何があったらそんなに変わってしまうのやら。もしや、ミイの人格が若干残ってるのでは?
ユミ「とりあえず、皆さん納得出来たようなら一旦この場から離れませんか?」
フウロ「なぜだ?」
ユミ「だって、聞こえているはずーー」
ネイ「ラナスフィア!」
白い花弁が私達を包み込む。その直後、眩い光が発生し、視界が一瞬にして真っ白に染まった。ーーそして、光が落ち着きを取り戻した時、再び視界に映り込んできた景色は……
「…………ぇ」
ギルドが粉々に崩れ落ち、地下の部屋が剥き出しになっていた。火の手は上がっていないが、まだ少し、爆発音が断続的に響いてくる。
ネイ「う゛っ……!」
花弁が崩れ落ちる。そして、ネイりんの辛そうな呻き声が聞こえる。
「っ!ネイりん!」
たまたま近くにいたのが私だったので、慌てて駆け寄る。開かれた背中に大きな傷が出来ており、なぜか白い花弁を散らしていた。ーーでも、私はそれを気にせず治癒魔法をかける。
エフィ「あ、私も手伝います!」
エフィが駆け寄ってきて、私のよりも効果の高そうな治癒術がかけられる。
ネイ「ダメ……私には……治癒魔法が……」
そういえばそうだった。ネイりんは邪龍がうんたらかんたらで治癒魔法が効かないんだった。
ーーでも、このままじゃ苦しいだけだ。どうにかしないと……
ユミ「任せてください!」
ユミがネイりんの背中を氷漬けにする。そのすぐ後氷が砕け散り、傷跡はすっかりと消え去っていた。
ネイ「ーーまさか、こんな早くに来るだなんて……」
ネイりんは片膝を着きながら立ち上がる。私もそれにつられて立ち上がり、崩れ落ちたギルドを見渡す。ーーなんか、2年くらい前辺りに似たようなものを見た気がするけど、それの再現だったりしない?
「あ……」
煙がようやく引いて、崩れたギルドの中心に金髪の男が立っていた。それに、近くにはーー
「「 お姉ちゃん!? 」」
ネイりんとヒカリんが同時にそう発した。
イデアル「ごめん!連れて来ちゃった!」
白髪の少女、イデアルが後ろに飛び上がるようにしてこちら側に来る。服はボロボロで、顔や腕などの素肌にはところどころに擦り傷が出来ている。
「おうおうおうおう!どこに逃げやがるかと思ったらァ、まァさかお仲間が大量にいやがる場所か!しかもしかも、あいつらが拠点にしてやがる世界じゃねぇか!」
金髪でヴァルみたいに筋肉質な男が、耳を殴り付けてくるような声量で叫んでいる。
ーーなんで今のタイミングでイデアルさんと謎の男が?
ユミ「光楼宗の一員です!皆さん集中砲火で倒してください!」
と、ユミがそう叫び、私達は本能の赴くままに魔法を使った。考える時間なんてない。ただ一言、『光楼宗』という言葉に反応しただけだ。
「ーーちっ、ここにもうぜぇ奴らがたくさんいやがんなァ!」
男が地面を叩き割り、その衝撃がこちらに伝わってくる。私達の攻撃は一切効いていないというのに対し、私達はこの衝撃波1つで簡単に吹き飛ばされてしまう。
イデアル「みんな!突然で悪いけど、あいつお父さんの命懸けの自滅魔法でもかすり傷1つ着くかどうかっていうくらいの化け物なの!だからーー」
ネイ「私の出番ですよね!強欲の杯!」
ネイりんが1歩前に踏み出して翼を広げる。すると、ここら一帯に白い月下美人の花畑が拡がる。
ネイ「手加減はしません!エクスカリバー!」
竜巻を伴う斬撃が男を包み込む。血飛沫が巻き上げられ、これなら流石に死ぬんじゃない?と私は思う。でも、その期待を裏切るようにして、男は無傷なままでそこに立っていた。流石に服は全部飛び散ったけどね。
「クソっ、どいつもこいつも俺様をコケにしやがって……。許さねぇぞゴルァ!」
一瞬、男に電気のようなものが通ったように見えた後、まるで雷の中でも通ったんじゃないかと思う速度でネイりんの背後に男が回った。
「やっと見つけたぞォ!」
ネイ「っ……!」
男が振り回してきた拳を、ネイりんは剣を咄嗟に正面に回すことによって直撃を免れる。しかし、衝撃は凄まじく、ネイりんは簡単に吹き飛ばされてしまった。しかも、その時の衝撃がこちらにまで伝わってくるので、両足を踏ん張らせるだけで精一杯だ。
「ハッハー!ざまぁねぇな神様のくせによォ!」
ヴァル「そら女の子の神様なんて弱々しいもんに決まってんだろ!死ねゴルァ!」
今度はヴァルが炎を伝って男の背後に回り込む。そして、みんなの攻撃ではうんともすんともしなかった男をぶっ飛ばした。
ネイ「いつまでも弱々しい力だと思わないでください!」
ぶっ飛ばされた男の背後に、吹き飛ばされたはずのネイりんが現れる。
「ぢっ!ゴルァ!」
男は咄嗟に体を回転させ、そのまま突き出した拳でネイりんの鼻面あたりを狙う。
ネイ「当たりません、と!」
ーー今、ネイりんの体が2つの影に分離したように見えた。白い影と黒い影。ほんの一瞬分かれただけだったけど、その一瞬で男の攻撃を避けた。そして、その直後にネイりんは竜巻を伴う斬撃を与え、その場から飛び去る。
「凄い……」
何が何だかよく分からないけど、とても私達が出られるような幕じゃなかった。
イデアル「ごめん……。私があんな奴を連れて来ちゃって」
イデアルが左足を引き摺りながらこちらに近づいてくる。近くで見れば見るほどに酷い傷だ。私は無意識に手を伸ばし、せめて顔の傷跡だけでも、と治癒魔法をかける。
イデアル「あ、ごめん……」
「いいよ、謝らなくて。ーーそれはそうと、お父さんの命懸けの自滅魔法って?」
イデアル「えーっと……。うん、お父さん、死んじゃったの」
……
……
……ぇ。
「お父さんが……死んだ?」
聞いちゃいけないことを聞いてる自覚はある。でも、思わずそう口にせずにはいられなかった。
イデアル「あいつ、何をやっても無傷。その癖攻撃力は異常なまでに高いし、あのお父さんですらかすり傷を1つ付けるだけで精一杯だった。ーーお父さん、最後に私に星の力を預けて死んじゃった……。まだ、私の花嫁姿どころか彼氏の1人でも見せてないのにね」
無理矢理作ったような笑みをこちらに向けてくる。その心情は、きっと穏やかではないだろう。本当ならあの男をボコボコにしてやりたいと願ってるはず。ーーでも、それは叶わない。あいつは、私達が手を出せるようなものじゃないからだ。
ーーそう考えると、まだ話を出来るお父さんがいるってのは幸せなことなのかな?あれから2年くらい経ったけど、お父さん元気にしてるかな?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「っ……!」
なんて衝撃……。ちゃんと防いでいるはずなのに、骨がメキメキと音を立てるくらいに強い衝撃が襲ってくる。昨日のアレの後だから、体の疲労が完全に取れていない。そんな中、こんなキッつい相手に集中的に狙われないといけないとか、控えめに言って鬱になる。
「シロップ!」
自力での飛行は困難に近い。龍王の姿になったシロップに飛び乗り、そこから魔法を放って牽制する。ーーまあ、牽制したところでかすり傷の1つすら入らない相手なんだから意味ないけども。
「チョロチョロっチョロチョロうぜぇんだよ!逃げんなゴルァ!」
そう言われましても、命狙われてたら誰だって逃げるでしょ。
ヴァル「ちょっとはこっち見たらどうだ!」
ヴァルの狂軍があの男を包囲する。だけど、男はお構い無しに突っ切ってくる。
あれ、私でも火傷するくらいの熱さなのに……
「逃げんなゴルァ!」
ヴァル「無視すんなオラァ!」
髪色が一緒だったら、間違えてヴァルの方に攻撃してしまいそうだ。この2人結構どころじゃなく似てる。本当に似てる。まあ、怒り狂ってるか冷静でいるかの違いで有利不利は変わるけど。
「シロップ、一旦飛び上がって」
シロップ「アイサー!」
あの男の真上に飛び上がる。男もそれを見て追いかけて来る。本当、ビックリするほど単純な生き物で助かるわ。
ある程度の高さに来たところで私はシロップから飛び降り、無名の剣とエクスカリバーを構えて急降下する。夜月の剣は地上に突き刺したままここに来ちゃったので手元に無い。その代わりとして終焉の刃をこっそりと背中に構えさせておく。本当は神様を斬るためのものだけど、人間相手にも普通の剣としてやれるでしょう。
「お父さんの仇なんだってね、あなた」
男が突き出してきた拳を、2つの分身にわ分かれて回避する。そして、そのまま2つの影で男の背中を斬る。その直後に終焉の刃が胸元を貫く。
ここまでやれば死ぬでしょって思ったのに、胸元に小さな傷跡を残した程度で男はピンピンとしていた。
「シロップ!」
落下していく体をシロップが優しく抱え込む。そのまますぐにヴァルの方へと避難する。
ヴァル「どうする?ネイ。あの野郎、俺とキャラ丸被りだから早く殺したいんだけど、死なねぇってなんなんだよ」
「不死の力……にしては、再生している素振りが見えないんですよね。まるで、喰らった攻撃を無かったことにしてるような……」
ーーいや、そんな芸当ができるのは私だけだ。時間を操るという行為は私にしか許されていない。だから、他に何かしらの力がある。もしくは、誰かが力を与えている。そう考えるべきか。
一応、相手を殺せないという点さえ除けば私達が圧倒的に有利。だから、このまま押し倒して弱点を見つけることが出来れば……
ユミ「ヨミさん!後ろ!」
ユミの声が聞こえ、ハッと後ろを振り返りながら剣を出す。
「おや?上手く周り込めたと思ったんですがねぇ」
不気味な笑みを浮かべた男がいる。ユミの言葉が聞こえなければ存在に気づくことが出来なかった。私が気づけないなんて有り得ない。耳で聞こえなかったのだから、こいつは転移か何かで現れたことになる。でも、それならば私がマナを感知するし、やっぱり私が気づけないということは無いはず。
ーーまたおかしな敵か……。
ヴァル「テメェ、あの時の!」
「おや、お久しぶり……程でもないですね」
ヴァル「とりあえず死ねゴルァ!」
ヴァルが拳を突き出し、無理矢理私とこの男を引き剥がす。
「知ってるんですか?ヴァル」
ヴァル「知ってるも何も、こいつ俺とセリカがギルドに帰ろうとしてたら襲ってきた変な奴だよ!確か名前は……悪ぃ、死んだショックで忘れてる」
「それ多分、死んだの関係ないです」
興味ないから右から左へと聞き流してるだけだと思う。
「おや、折角名乗って差し上げたというのにもうお忘れですか。では、もう一度名乗らせていただきましょう。私の名はジーダ。光楼宗嫉妬の席に座る者です」
魔女達の冠名を名乗るとは、こいつら死にたいのかしら?
ジーダ「いつまで苦戦しているのですか。ライザ」
ライザ「うるせぇ!その女に手ェ出すな!」
ライザと呼ばれた男が再び私に猛追してくる。雷を帯びた拳が私に届く寸前、ヴァルの炎の拳が包み込んだ。
ライザ「だから邪魔なんだよ!テメェ!」
ヴァル「邪魔だって言いてぇのはこっちもだよ!オラァ!」
拳を捻りながら突き飛ばした。意外に器用なことも出来るんですね。
ジーダ「ライザ。私達の目的を忘れないでください」
ライザ「ちっ、テメェに言われなくとも分かってらァ!」
地面に叩きつけられたライザがこちらに向けて指をさしている。
ライザ「いいかよく聞け!」
「聞きません!」
ライザ「いいから黙って聞けゴルァ!」
おぉ、ただ叫んでるだけだというのに凄まじい圧。まるで台風の日に海岸にまでやって来たみたい。
ライザ「俺の名前はライザ。光楼宗、暴食の席に座る男だ!んでもって、テメェを殺す!」
雷が熱を吹き出しながら近づいてくる。咄嗟の防御は最早意味が無い。ならばーー
「ラナスフィア!」
全身を月下の花弁で包み込む。ライザの攻撃が当たった衝撃を確認した直後に花弁を解放し、そのままライザの体を包み込んだ。
絶対防御の魔法は何を持ってしても私の意思以外で散らせることは叶わない。まあ、こちらからの攻撃も効かないわけだけど、今は一旦大人しくさせておけばそれでいい。
ジーダ「相も変わらずおっかない方です。だからこそーー」
ジーダが不気味な笑みを浮かべる。そして、禍々しいオーラを放つ。
ジーダ「殺しがいがあるってものですよ。フフフ……」
黒い髪をスラッと流し、ネイみたいな和服に身を包んだ鬼の少女がいる。
ーーユミ……なのかな?
少し迷う。見た目というか、顔はユミそのものなんだけど、着てるものが違うし、口調も違う。付け加えて言うならば、普段は携えているはずの刀も携えていない。私の中のイメージと全然違うのだ。
ネイ「……説明した方がいいですか?」
「「「 しろ 」」」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ネイ「うぅ……その……なんかすみません……」
怒涛の質問攻めから1時間弱。泣き出しそうになっていたところを、ユミの登場で救われたはずだったのに結局彼女は泣き出してしまった。ーー男性陣も女性陣ももう少し手加減しようよ……。まあ、あの状況だと、聞くしかないって感じはしたけど(私も何個か聞いちゃったし)。
ヴァル「お前ら本当容赦ねぇな。少しは流れで察しろよ」
「「「 お前にだけは言われたくねぇ! 」」」
ーーとまぁ、そんな具合にみんなよりヴァルの方が持ってる知識量が多いのと、普段空気を読まないくせに、こういう時だけは読めというヴァルの発言が来るこの状況に若干苛立ちを覚える。
一応経緯としては、このユミは私達が知っているあのユミではない。……という言い方をすると語弊が生まれるかもしれないから、あのユミのことはミイと呼ぼう。で、そのミイはもういないらしい。なんか、ネイの中に戻った?みたいなことを言われたけど……うーん、どういうこと?戻ったって何?写し鏡の神殿に行く前の状態になったってことかな?そういう事にしとくか。そして、今私達の目の前にいるのはユミ。そう、ミイを助けるために死んだはずのユミだ。
ーー原理?そんなもの、ネイりんが理解出来てないんだから私達が出来るわけないでしょ。
ユミ「皆さん酷いですね。ヨミさんもヨミさんですよ。神様なんだったらただの人間相手にはもっと強く出ないと」
ネイ「……それ、ただの人間が私に言います?」
ユミ「そういうところです」
ネイ「……」
ユミも何だか強くなったなぁ。最後に会ったのって、確か3年くらい前の黒月でじゃなかったっけ?しかも、そこからずっと眠ってたようなものでしょ?
ーー本当に、何があったらそんなに変わってしまうのやら。もしや、ミイの人格が若干残ってるのでは?
ユミ「とりあえず、皆さん納得出来たようなら一旦この場から離れませんか?」
フウロ「なぜだ?」
ユミ「だって、聞こえているはずーー」
ネイ「ラナスフィア!」
白い花弁が私達を包み込む。その直後、眩い光が発生し、視界が一瞬にして真っ白に染まった。ーーそして、光が落ち着きを取り戻した時、再び視界に映り込んできた景色は……
「…………ぇ」
ギルドが粉々に崩れ落ち、地下の部屋が剥き出しになっていた。火の手は上がっていないが、まだ少し、爆発音が断続的に響いてくる。
ネイ「う゛っ……!」
花弁が崩れ落ちる。そして、ネイりんの辛そうな呻き声が聞こえる。
「っ!ネイりん!」
たまたま近くにいたのが私だったので、慌てて駆け寄る。開かれた背中に大きな傷が出来ており、なぜか白い花弁を散らしていた。ーーでも、私はそれを気にせず治癒魔法をかける。
エフィ「あ、私も手伝います!」
エフィが駆け寄ってきて、私のよりも効果の高そうな治癒術がかけられる。
ネイ「ダメ……私には……治癒魔法が……」
そういえばそうだった。ネイりんは邪龍がうんたらかんたらで治癒魔法が効かないんだった。
ーーでも、このままじゃ苦しいだけだ。どうにかしないと……
ユミ「任せてください!」
ユミがネイりんの背中を氷漬けにする。そのすぐ後氷が砕け散り、傷跡はすっかりと消え去っていた。
ネイ「ーーまさか、こんな早くに来るだなんて……」
ネイりんは片膝を着きながら立ち上がる。私もそれにつられて立ち上がり、崩れ落ちたギルドを見渡す。ーーなんか、2年くらい前辺りに似たようなものを見た気がするけど、それの再現だったりしない?
「あ……」
煙がようやく引いて、崩れたギルドの中心に金髪の男が立っていた。それに、近くにはーー
「「 お姉ちゃん!? 」」
ネイりんとヒカリんが同時にそう発した。
イデアル「ごめん!連れて来ちゃった!」
白髪の少女、イデアルが後ろに飛び上がるようにしてこちら側に来る。服はボロボロで、顔や腕などの素肌にはところどころに擦り傷が出来ている。
「おうおうおうおう!どこに逃げやがるかと思ったらァ、まァさかお仲間が大量にいやがる場所か!しかもしかも、あいつらが拠点にしてやがる世界じゃねぇか!」
金髪でヴァルみたいに筋肉質な男が、耳を殴り付けてくるような声量で叫んでいる。
ーーなんで今のタイミングでイデアルさんと謎の男が?
ユミ「光楼宗の一員です!皆さん集中砲火で倒してください!」
と、ユミがそう叫び、私達は本能の赴くままに魔法を使った。考える時間なんてない。ただ一言、『光楼宗』という言葉に反応しただけだ。
「ーーちっ、ここにもうぜぇ奴らがたくさんいやがんなァ!」
男が地面を叩き割り、その衝撃がこちらに伝わってくる。私達の攻撃は一切効いていないというのに対し、私達はこの衝撃波1つで簡単に吹き飛ばされてしまう。
イデアル「みんな!突然で悪いけど、あいつお父さんの命懸けの自滅魔法でもかすり傷1つ着くかどうかっていうくらいの化け物なの!だからーー」
ネイ「私の出番ですよね!強欲の杯!」
ネイりんが1歩前に踏み出して翼を広げる。すると、ここら一帯に白い月下美人の花畑が拡がる。
ネイ「手加減はしません!エクスカリバー!」
竜巻を伴う斬撃が男を包み込む。血飛沫が巻き上げられ、これなら流石に死ぬんじゃない?と私は思う。でも、その期待を裏切るようにして、男は無傷なままでそこに立っていた。流石に服は全部飛び散ったけどね。
「クソっ、どいつもこいつも俺様をコケにしやがって……。許さねぇぞゴルァ!」
一瞬、男に電気のようなものが通ったように見えた後、まるで雷の中でも通ったんじゃないかと思う速度でネイりんの背後に男が回った。
「やっと見つけたぞォ!」
ネイ「っ……!」
男が振り回してきた拳を、ネイりんは剣を咄嗟に正面に回すことによって直撃を免れる。しかし、衝撃は凄まじく、ネイりんは簡単に吹き飛ばされてしまった。しかも、その時の衝撃がこちらにまで伝わってくるので、両足を踏ん張らせるだけで精一杯だ。
「ハッハー!ざまぁねぇな神様のくせによォ!」
ヴァル「そら女の子の神様なんて弱々しいもんに決まってんだろ!死ねゴルァ!」
今度はヴァルが炎を伝って男の背後に回り込む。そして、みんなの攻撃ではうんともすんともしなかった男をぶっ飛ばした。
ネイ「いつまでも弱々しい力だと思わないでください!」
ぶっ飛ばされた男の背後に、吹き飛ばされたはずのネイりんが現れる。
「ぢっ!ゴルァ!」
男は咄嗟に体を回転させ、そのまま突き出した拳でネイりんの鼻面あたりを狙う。
ネイ「当たりません、と!」
ーー今、ネイりんの体が2つの影に分離したように見えた。白い影と黒い影。ほんの一瞬分かれただけだったけど、その一瞬で男の攻撃を避けた。そして、その直後にネイりんは竜巻を伴う斬撃を与え、その場から飛び去る。
「凄い……」
何が何だかよく分からないけど、とても私達が出られるような幕じゃなかった。
イデアル「ごめん……。私があんな奴を連れて来ちゃって」
イデアルが左足を引き摺りながらこちらに近づいてくる。近くで見れば見るほどに酷い傷だ。私は無意識に手を伸ばし、せめて顔の傷跡だけでも、と治癒魔法をかける。
イデアル「あ、ごめん……」
「いいよ、謝らなくて。ーーそれはそうと、お父さんの命懸けの自滅魔法って?」
イデアル「えーっと……。うん、お父さん、死んじゃったの」
……
……
……ぇ。
「お父さんが……死んだ?」
聞いちゃいけないことを聞いてる自覚はある。でも、思わずそう口にせずにはいられなかった。
イデアル「あいつ、何をやっても無傷。その癖攻撃力は異常なまでに高いし、あのお父さんですらかすり傷を1つ付けるだけで精一杯だった。ーーお父さん、最後に私に星の力を預けて死んじゃった……。まだ、私の花嫁姿どころか彼氏の1人でも見せてないのにね」
無理矢理作ったような笑みをこちらに向けてくる。その心情は、きっと穏やかではないだろう。本当ならあの男をボコボコにしてやりたいと願ってるはず。ーーでも、それは叶わない。あいつは、私達が手を出せるようなものじゃないからだ。
ーーそう考えると、まだ話を出来るお父さんがいるってのは幸せなことなのかな?あれから2年くらい経ったけど、お父さん元気にしてるかな?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「っ……!」
なんて衝撃……。ちゃんと防いでいるはずなのに、骨がメキメキと音を立てるくらいに強い衝撃が襲ってくる。昨日のアレの後だから、体の疲労が完全に取れていない。そんな中、こんなキッつい相手に集中的に狙われないといけないとか、控えめに言って鬱になる。
「シロップ!」
自力での飛行は困難に近い。龍王の姿になったシロップに飛び乗り、そこから魔法を放って牽制する。ーーまあ、牽制したところでかすり傷の1つすら入らない相手なんだから意味ないけども。
「チョロチョロっチョロチョロうぜぇんだよ!逃げんなゴルァ!」
そう言われましても、命狙われてたら誰だって逃げるでしょ。
ヴァル「ちょっとはこっち見たらどうだ!」
ヴァルの狂軍があの男を包囲する。だけど、男はお構い無しに突っ切ってくる。
あれ、私でも火傷するくらいの熱さなのに……
「逃げんなゴルァ!」
ヴァル「無視すんなオラァ!」
髪色が一緒だったら、間違えてヴァルの方に攻撃してしまいそうだ。この2人結構どころじゃなく似てる。本当に似てる。まあ、怒り狂ってるか冷静でいるかの違いで有利不利は変わるけど。
「シロップ、一旦飛び上がって」
シロップ「アイサー!」
あの男の真上に飛び上がる。男もそれを見て追いかけて来る。本当、ビックリするほど単純な生き物で助かるわ。
ある程度の高さに来たところで私はシロップから飛び降り、無名の剣とエクスカリバーを構えて急降下する。夜月の剣は地上に突き刺したままここに来ちゃったので手元に無い。その代わりとして終焉の刃をこっそりと背中に構えさせておく。本当は神様を斬るためのものだけど、人間相手にも普通の剣としてやれるでしょう。
「お父さんの仇なんだってね、あなた」
男が突き出してきた拳を、2つの分身にわ分かれて回避する。そして、そのまま2つの影で男の背中を斬る。その直後に終焉の刃が胸元を貫く。
ここまでやれば死ぬでしょって思ったのに、胸元に小さな傷跡を残した程度で男はピンピンとしていた。
「シロップ!」
落下していく体をシロップが優しく抱え込む。そのまますぐにヴァルの方へと避難する。
ヴァル「どうする?ネイ。あの野郎、俺とキャラ丸被りだから早く殺したいんだけど、死なねぇってなんなんだよ」
「不死の力……にしては、再生している素振りが見えないんですよね。まるで、喰らった攻撃を無かったことにしてるような……」
ーーいや、そんな芸当ができるのは私だけだ。時間を操るという行為は私にしか許されていない。だから、他に何かしらの力がある。もしくは、誰かが力を与えている。そう考えるべきか。
一応、相手を殺せないという点さえ除けば私達が圧倒的に有利。だから、このまま押し倒して弱点を見つけることが出来れば……
ユミ「ヨミさん!後ろ!」
ユミの声が聞こえ、ハッと後ろを振り返りながら剣を出す。
「おや?上手く周り込めたと思ったんですがねぇ」
不気味な笑みを浮かべた男がいる。ユミの言葉が聞こえなければ存在に気づくことが出来なかった。私が気づけないなんて有り得ない。耳で聞こえなかったのだから、こいつは転移か何かで現れたことになる。でも、それならば私がマナを感知するし、やっぱり私が気づけないということは無いはず。
ーーまたおかしな敵か……。
ヴァル「テメェ、あの時の!」
「おや、お久しぶり……程でもないですね」
ヴァル「とりあえず死ねゴルァ!」
ヴァルが拳を突き出し、無理矢理私とこの男を引き剥がす。
「知ってるんですか?ヴァル」
ヴァル「知ってるも何も、こいつ俺とセリカがギルドに帰ろうとしてたら襲ってきた変な奴だよ!確か名前は……悪ぃ、死んだショックで忘れてる」
「それ多分、死んだの関係ないです」
興味ないから右から左へと聞き流してるだけだと思う。
「おや、折角名乗って差し上げたというのにもうお忘れですか。では、もう一度名乗らせていただきましょう。私の名はジーダ。光楼宗嫉妬の席に座る者です」
魔女達の冠名を名乗るとは、こいつら死にたいのかしら?
ジーダ「いつまで苦戦しているのですか。ライザ」
ライザ「うるせぇ!その女に手ェ出すな!」
ライザと呼ばれた男が再び私に猛追してくる。雷を帯びた拳が私に届く寸前、ヴァルの炎の拳が包み込んだ。
ライザ「だから邪魔なんだよ!テメェ!」
ヴァル「邪魔だって言いてぇのはこっちもだよ!オラァ!」
拳を捻りながら突き飛ばした。意外に器用なことも出来るんですね。
ジーダ「ライザ。私達の目的を忘れないでください」
ライザ「ちっ、テメェに言われなくとも分かってらァ!」
地面に叩きつけられたライザがこちらに向けて指をさしている。
ライザ「いいかよく聞け!」
「聞きません!」
ライザ「いいから黙って聞けゴルァ!」
おぉ、ただ叫んでるだけだというのに凄まじい圧。まるで台風の日に海岸にまでやって来たみたい。
ライザ「俺の名前はライザ。光楼宗、暴食の席に座る男だ!んでもって、テメェを殺す!」
雷が熱を吹き出しながら近づいてくる。咄嗟の防御は最早意味が無い。ならばーー
「ラナスフィア!」
全身を月下の花弁で包み込む。ライザの攻撃が当たった衝撃を確認した直後に花弁を解放し、そのままライザの体を包み込んだ。
絶対防御の魔法は何を持ってしても私の意思以外で散らせることは叶わない。まあ、こちらからの攻撃も効かないわけだけど、今は一旦大人しくさせておけばそれでいい。
ジーダ「相も変わらずおっかない方です。だからこそーー」
ジーダが不気味な笑みを浮かべる。そして、禍々しいオーラを放つ。
ジーダ「殺しがいがあるってものですよ。フフフ……」
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「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
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