グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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最終章 【創界の物語】

最終章32 【再臨:強欲の魔女】

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ユナ「……不思議な未来が出た」

「不思議な未来?」

 赤く輝く宝石を見つめるユナの顔が怪訝なものへと変わる。まるで、自分が何を見ているのか分からないといった具合に疑問符を浮かべている。

 占いで、私が死ぬという事プラスで不思議な結果が出たというものだから、私は未来ヨミさんの言葉通りにネックレスを渡した。でも、ユナはその先までを知っていなかった。いや、知ることが出来なかった。

「どういう事でしょうか?」

 ユナに任せればどうにかなるはずだったのに、どうにもならない。ヨミさんはここまで読めていたのでしょうか?

「ーーユナさん。一応聞いておくんですけど、どんな未来が見えたんですか?」

ユナ「ーー不思議な、不思議な未来。あなたが1000年先の未来で戦っている。死ぬはずのあなたが、1000年先の未来にいる」

「1000年……先ですか」

 正直実感が湧かない。

 私は近々死んでしまうはずなのに、なぜか1000年も先の未来で戦っている。死ぬのに生きてる?頭がこんがらがってきますね。

「ちなみに、戦っているというのは?」

ユナ「よく分からない。変な女の子と、ヨミに似た誰かが戦ってるところに、あなたはヨミ似の方に着いて戦っている」

「ヨミさんに……」

ユナ「そう。少し今のヨミに比べて肉付きが良すぎるけど、多分ヨミで間違いないと思う」

「そうですか……」

 つまり、私が死んでもヨミさんは普通に元気でやってるというわけですか。なんだか少しだけ安心します。まあ、自身の死が近づいているのだから穏やかな気分ではないのですけど。

ユナ「それとゼラ。最後に1つだけ提案があるんだけど聞く?」

「はい、なんでしょう」

ユナ「ゼラ。精霊になる気はある?」

「精霊?」

 またしても突拍子のない話ですね。精霊?そういや、ヨミさんが1体だけ最強の精霊を持ってるとかうんとかの話をしてましたっけ?1度も見せてもらったことありませんけど。

 精霊になる……ですか。そうなれば死なずに済むんですかね。そして、1000年先の未来でヨミさんと一緒に戦うことも可能なんですかね。

 ーー悪い話ではないですね。

「……その話、乗るって言ったらどうなります?」

ユナ「正直、私も精霊になるっていうのがどういう事なのかは分からない。でも、私が持つ未来予知でならあなたを精霊へと変える方法も分かる」

「じゃあお願いします。私を精霊にしてください」

ユナ「ーー分かった。実行はあなたが死ぬ日。その日、私はあなたの意識を刈り取って精霊にする」

「あ、死ぬまで苦しい思いをするのは確定なんですか」

ユナ「人生楽には行けないからね。しばらくは苦しい思いをするよ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「世界はいつだって不条理で、理不尽で、悲しみに満ちている。世の中は残酷で、神の助けなどあるわけがない。でも、そんな世界でも、希望があるとすれば?」

 ーー不思議な声。お母様のじゃない。

 私とお母様以外の誰かがこの島にやって来ている。一体誰なのでしょうか?

「そういえば、お母様が不思議な名を叫んでいましたね。確かーー」

「強欲の魔女ゼラ。それが私の名前ですよ、悲嘆の魔女、アイリさん」

「……!?」

 咄嗟に後ろを振り向く。すると、視界を埋め尽くすほどの攻撃魔法が一斉に私に襲いかかってきていた。

 炎に水、風に雷。その他諸々、ありとあらゆる属性の魔法が容赦なく私を殺しにかかってくる。お母様の殺意のない刃と違い、こちらは本気で私を殺すつもりの刃を突きつけてきている。

 背筋が凍りつくほどの恐怖。初めて私への本気の殺意を持った相手に殺されかけた。

ゼラ「悲しそうに涙を流しますね。まあ、そりゃそうですよ。人間誰しも死が近づいていることを実感して穏やかな心境でいられる人はいませんから。いたらただのバカです」

 またしても魔法が飛んでくる。今度は、私の周囲を覆い尽くすほどの魔法陣を貼り、そこから太く流れる滝の如く魔法が飛んでくる。

 せめて相手の顔を見なければならない。何に殺されてるのかが分からないまま死にたくない。

 魔法の猛追を必死でかわし、とにかく逃げれる場所へと避難する。だけどーー

ゼラ「どこに逃げたって無駄です。強欲の視界からは逃れられませんよ」

 岩陰に隠れても、木々を利用して飛び回っても、どこまでもどこまでもしつこく追いかけ回してくる。肌が焦げ、息が苦しくなり、そして物理的な寒気を感じる。

 ただの属性魔法。でも、その圧倒的な物量により、私の防御が追いつかない。そのせいで、恐怖がただただ増してゆく。

ゼラ「怖いですか?怖いですよね。なんせ、あなたが相手にしているのは容赦というものを忘れてしまった魔女なのですから」

「っ……!」

 気づけばお母様の姿も見えなくなった。この混乱に乗じて逃げたのだろう。

 ーーまあいい。あのお母様を倒しても意味がないことは元から分かりきっている。本当に倒すべきなのは大陸の方にいるあいつ。ならば、ここで変な敵と戦って時間を無駄にかけてしまうのはやめるべきだ。

「ーー仕方ありません。ここは一旦退散と」

ゼラ「おや?私のテリトリーから逃げれると思っていたのですか?」

 砂浜から逃げようとした。でも、海に出ようとする度に浜辺に戻され、私が外に出るという事象をリセットしてくる。

ゼラ「まあ、私のテリトリーとは言いましたが、それをやってるのは私じゃないんですよね」

 ーーまさか!

フェノン「僕が尻尾を巻いて逃げるとでも思ったのかい?残念だが、僕は諦めが悪すぎるんでね」

 お母様と、私と同じくらいの背丈をした金髪の少女が砂浜に同時に足を踏み入れてきた。

「強欲の……魔女」

ゼラ「はい。どうも強欲の魔女ゼラです。そして、精霊界で2番目に強い精霊でもあります」

フェノン「それと、怠惰の魔女フェノンだ。僕は君を殺せないが、僕の契約精霊ならば話は変わるよ。アイリ」

 全く、お母様はいつもいつもそうです。どれだけ追い詰めても、いつも必ず私達が予想だにしていない切り札を繰り出して突破していく。

 私達は常に全力で当たっているというのに、お母様はそれを嘲笑うかのように冷たい瞳を向けてくる。

「ヒカリさん。あなたがお母様に負けた理由が分かりましたよ。ーーお母様はズルすぎます」

 顔にかかった汚れを拭い取り、2人の魔女を交互に見る。お母様の方はボロボロだが、あれでも後方支援に回られたらかなり厄介である。そして金髪の魔女ゼラ。彼女はお母様と違って一切の容赦がない。

 油断すれば殺られる。いや、油断しなくとも一瞬の隙を見せれば殺される。

 状況はかなり不利だけどやるしかない。

「私の名前はアイリ・ステライルグ。光楼宗、悲嘆の席に座る者!」

 両の手を組み合わせ、マナを中心に集める。彼女らの物量に勝つためには、こちらも同じく物量で攻めるしかない。

 召喚するのは太古の時代にこの世界を治めていた龍王達。彼らを召喚すればーー

ゼラ「あ、言っておきますけど、この世界にある全ての物は私の物です。なので、あなたが今集めようとしているマナも、全て私の物ですよ」

「え……」

 集めていたはずのマナが全て消えてしまった……

ゼラ「あなたの欲より私の欲の方が強かった。それだけの話です。では、サヨウナラ!」

 前方に大量の魔法陣。そこから繰り出される全属性の魔法。

「あ……」

 気付いた時には私の体は中を飛んでおり、綺麗な空が憎たらしいほどに目に映っていた。

「死……ぬ?」

 激しい音と共に体が海の中に落ち、そのままゆっくり、ゆっくりと沈んで行く。

「こんな……最後だなんて……」

 抗う気力がなく、私は流されるままに沈んで行った。この、深く暗い海の中で、私は1人で死んでゆく。

 なんで……なんで……

 お母様を殺せばこの世界が正しい未来に進んでくれると信じていた。信じて、光楼宗という組織を作り、お母様を殺すためだけに様々な策を練った。そのどれもが通用せず、組織は常に統率感の無さが目立つところで、皆が己の目的のためだけに動く猿だった。

 私は悲しかった。お母様はあんなにも楽しそうに生きているというのに、私はお母様を殺すためだけに己の人生を捧げている悲しい生き物だった。

 いや、お母様を殺せば世界は正しい未来を進むなんてものはただの言い訳だった。私はただーー

「お母様が羨ましくて、そして妬ましかった……」

 世界からの嫌われ者だったはずなのに、私と違って楽しそうに生きるお母様。私の存在なんか知ることもせず、悠々自適に暮らすお母様が憎かった。だから、私はお母様を殺したかった。自分だけ幸せそうにしているお母様を許せなかった。お母様が幸せだというのに、私は幸せでないことが許せなかった。

 悲しい……哀しい……。私は、私はーー

「あなたに……愛して欲しかった……」

 私が持つ唯一の欲望。お母様に愛して欲しかった。お母様と普通の家族という関係でいたかった。

 お母様の愛情に飢えていて、言い訳という名の化粧をして自分を誤魔化し、お母様への怒りを原動力にして動き、そして世界で一番不幸なのは私なんだぞ、と他人の不幸を見下して利用し、潰してきた。

 それが光楼宗であり、私という存在だった。

 自分でも分かってる。自分がどれだけの罪を重ねてきたのかを。こんな私が"悲しむ"権利を持っていないことを。

「お母様……お母様……!」

 涙が深海に溶け、私の叫びは音の届かぬ深海には響き渡らない。それでも、私は右腕を突き出し、必死に叫ぶ。

「お母……様……!」

 伸ばした腕は軽く冷たい水を切るだけーーだった。

「……!」

 突如として私の腕が何かに掴まれる。小さく僅かな温かみを感じる手が、私の小さな腕を掴んでくる。

 慌ててもう片方の手を突き出し、掴んできたその手を掴む。そうすると、勢いよく上へと持ち上げられ、柔らかい何かが私の顔を包み込んできた。

「お母……様…………」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 全く、ヨミさんは本当に優しい人ですね。

 誰彼構わず情をかけ、殺した方がずっと楽な相手ですらその命を刈り取ることに躊躇いを見せる。極力その躊躇いを見せないように一瞬で斬っていますが、私は知っているんですよ。

 ヨミさんが、人を殺す際に時間を止めているということに。

「なぁんて、知ったげに言ってますが、私でも人の命を取る時にはちょっとくらい躊躇いますよ。まあ、人殺しをしたことは今までないんですけど」

 アクセイを相手にした時だって、トドメはヨミさんが刺してしまいましたし、彼はその数百年後にダークソウルとかいう別のギルドを作って生き延びていましたけどね。

「それにしたって、ヨミさんは決断が早すぎるんですよ。時間を無闇矢鱈と止めてしまえば体力が一瞬にして無くなってしまう。だから、時を止めたとしても迷う時間は一瞬だけ。それなのにヨミさんは絶対に迷わない。迷ったとしても無理矢理結論にまで持っていってしまう」

 正直、羨ましいですね。

 私はずっとヨミさんが羨ましかった。私に無いもの全てを持っていて、私はそんな彼女が欲しかった。

 今にして思えば、私の"強欲"がヨミさんを引き寄せてしまったのかもしれませんね。本当、運命っていうものは何を起こすのか分かったもんじゃありませんよ。

「だから、彼女の気持ちも私は痛いほどよく分かったんですよ。殺意を見せはしましたけど、殺すつもりなんて最初からありませんでした」

 彼女は今、母親の胸の中で泣きじゃくっている頃でしょう。本来落とすはずだった命を拾った。ーー歴史がまた変わった。
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