グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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最終章 【創界の物語】

最終章33 【僕が語った物語】

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 世の中、本当何が起こるか分かったもんじゃない。

 真っ直ぐに、一直線に決められたレールの上を走ってくれたらどれだけ楽だろうと思う。同じ道を辿ってくれたら僕がこんなにも苦労せずに済むからね。だけど、世の中そう甘くはないらしい。

 まあ、レールを乱してるのは僕にも原因があるんだけどね。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「はぁ……全く、心配をかけさせないでくれ」

 頭から足までをびしょ濡れにさせ、1人の少女を胸に抱きしめて海から砂浜へと上がる。

 気付けば月がとても綺麗な夜で、そのせいか僕の体は普段以上の再生力を持ってして回復していった。お陰で、海を泳いだばかりだというのに息は切れていない。

ゼラ「どちらかと言えば、心配をかけさせに来るのはヨミさんの方だと思いますけどね」

「その言葉、そっくりそのまま君にお返ししようか」

ゼラ「おお、怖い怖い」

 全く、契約精霊だというのに主を敬う態度が微塵も感じられないね。いや、セリカの精霊が彼女に従順すぎるだけか。

 ひとまず、ここで話をするのもなんだと思い、胸に抱えた少女をそのままゆっくりと抱っこの形にして島の中心を目指して歩き出す。目的地はもちろん、ゼラの墓場。特に理由があるわけではないが、心做しかあの場所が1番落ち着くんだ。きっと、娘も同じだろう。

 ーーそう、"娘"も同じだ。

「ゼラ、1つ言っておくが、君は僕の望みを叶える必要はない。僕の契約精霊ではあるが、君は鎖に繋がれた飼い犬ではないんだ」

ゼラ「ええ、そんなこと最初から知ってますよ。私がその子を助けたのは、私の意思です」

「……」

ゼラ「それとヨミさん。ボクっ娘キャラに変わるのはいいですけど、その見た目でボクっ娘を演じるのは違和感しかないです。大人しくのじゃ妾キャラを演じててください」

「結局演じることに変わりないじゃないか……はぁ……」

 深々と溜息をつき、目的の墓場にて腰を落ち着ける。大樹を取り囲むようにして3人、僕とゼラの間にアイリが挟まるようにして座る。

 もし、僕かゼラかのどちらかが男であれば、きっとこの光景はただの家族に見えたのだろう。ーーいや、10歳くらいの見た目をした少女が2人だ。どちらかと言えば、僕は2児の母に見えるといった方がいいか。まあ、どちらでもいい。

「ちょっとだけ長い独り言を言うから黙って無視してくれないか」

ゼラ「ほんのちょっとの茶々は入れさせてもらいますよ」

「……3万回。僕がツクヨミになってこの世界を繰り返した回数。それまでがどうだったかは分からないが、僕はこの繰り返される世界で初めてツクヨミとなった。世界が繰り返されていることを知り、その現状を打破するべくラナとして過去の自分に憑依してきた。ある時は完全に体を乗っ取り、ある時は契約龍としてひっそりとし、ある時は僕の記憶を分け与えて2人目のヨミを作ろうとした」

ゼラ「それが、ネイさんとラナの二分化ですね」

「繰り返す度に違う歴史を見せるこの世界。ほんのちょっと進む未来を変えればタイムリープから抜け出せると甘く踏んでいた僕は、気付けば3万回も繰り返す羽目になってしまっていた。そして、何度も繰り返して行くうちに歴史が最初の頃とはかなり違うものになり、もう何が起きるのかがよく分からなくて何度も周を無駄にしてきた」

 過去と同じことを繰り返しても結果が変わってしまうこの世界。同じことをしてるのだから物理学と同じように、規則正しい歴史を辿ってくれたらどれだけ楽だろうかと思った。でもーー

「歴史は単純じゃない。そして、運命もまた、単純じゃない。僕は前回の周で、次の周に全てをかけるために僕がネイとして歴史を見てきた。光楼宗ヒカリとの戦いで、僕はゼラとの絆を確認し、月下の花畑を心の世界に咲かせた。これならば、次に賭けなくとも突破できると思った。ーーだが、現実は違った。ゼウスを追い返し、光楼宗も全滅させ、最後の敵も倒した。だが、最後に立ちはだかった運命の番人により、僕達はあえなく敗北し、世界は最初の地点にリセットされた」

 あの敵が何だったのかは分からない。だが、あれはきっと未来へ進むことを許さない番人だったことに間違いはない。きっと、僕がツクヨミに目覚める前の世界線でも、何回か彼女に到達した僕はいただろう。その度に圧倒的な力差で負け、記憶と世界をリセットさせられる。

 僕は既のところで過去に戻り、今を生きるネイに憑依してリセットに巻き込まれずに済んだ。

「今度こそ、本当の本当に最後にするために、僕はこの世界に様々な細工を仕掛けた。ゼラ、君には言っておかないといけないことがあるんだがーー」

ゼラ「知ってますよ。"瘴気"ですよね」

「ああ。この島に僕は瘴気を放った。本来なら、自然に発生したはずの瘴気事件だが、ここ数回の周ではなぜかそれが発生せず、光楼宗との戦いにおいてゼラを思い出せなかったネイがそのまま死んでいったのを僕は見た。ツクヨミに目覚め切れず、僕にはなれなかったネイ達だ。そして、その原因を作ったのは……」

 僕はチラリとアイリの方を見る。彼女は上手く演技をしていたようだが、もうすっかり涙も枯れ、心も落ち着いているのを僕は知っている。

アイリ「ーーはい。ヒカリに頼まれ、私はこの島で発生するはずだった瘴気事件の原因を取り除いた。原因は1000年前のこの世界に存在した海賊ギルド『影』の魔導士を殺すことで事件を未然に防いだ。でも、なぜか瘴気事件は起きてしまい、結果としてヒカリの頼みは達成されないままだった」

 だろうね。僕はこの数回でそのカラクリに気付いたのだから。一応前回の周では僕が中心になったからそんな事をせずに済んだが、今にして思えば矛盾を発生させる存在になっていたかもしれない。まあ、どうせ失敗した過去なんだし、わざわざ気にすることでもない。

 ヒカリには本当に踊らされた。光楼宗が現れ始めて以降、彼の策略によってこの世界の歴史は滅茶苦茶になった。それでも僕はこの周回を突破しようと彼と頭脳バトルのようなことをした。結果としては僕の勝ち。そう言っていいだろう。

アイリ「世界が繰り返されていることは私も彼も知っていた。ですが、前世の記憶を引き継ぐことは出来ず、彼の力によって過去に干渉することにより、お母様を殺すことしか出来なかった。でも出来なかった。お母様は記憶を引き継ぎ、今のお母様に干渉することによって私達の作戦を全て踏み潰してきた」

「君達の作戦を潰すのは容易いこと。何度繰り返してもやることは一切変わらなかったからね。君達がやろうとしていることを全て把握してしまえば、どこに駒を配置すればいいかがよく分かる。繰り返す世界を突破するより楽だったよ」

アイリ「……」

「それ以外にも、僕はネイに立ちはだかる壁を、本来なら無いはずの力と知恵を与えて楽に突破させた。どうせ力が目覚める時は目覚めるんだ。苦しい思いをさせず、そして仲間達も極力失わないように彼女を早くから強化してきた。その甲斐あってヒカリとの戦いでは明らかに過剰なほどの力を発揮し、君達光楼宗の本陣が来る前に全ての戦いに蹴りをつけた。そのせいで、君達は1年もの間なりを潜めなくてはならなくなった。まあ、そこは僕が予想だにしていなかったことを起こしてくれたけどね」

アイリ「……」

「君達が他の世界に喧嘩を売りに行くことは予想外だった。今までの周ではそんな事が1度だって起きなかったからね。あれがなければ後もう数年は平和な時間が続き、僕とネイでその間に他の世界の神を説得し、グラン大戦の再現を防げていたはずだ。まあ、そこは本当にどうなったかは未知数だが、少なくとも運命の番人を相手にする時が来るまでに十分すぎる戦力を整えられただろう」

アイリ「叶わぬ夢……ですが、お母様は完璧にレールを整えてしまった。邪魔をしたのは何も知らなかった私達。ーーいえ、私だけでしょう」

「ああそうだ。ヒカリ・ラグナロク。彼にも僕の計画は伝えておいたよ。彼の目的は『死ぬこと』。それさえ叶えば誰にだって協力するし、僕達を利用してくれる。ネイの最終調整として彼にはアポカリプスに憑依してもらい、僕は使えなかった2つの技を習得させた。全く、ゲームのやり込み要素をやり尽くしてるような気分だったが、そこまでしないと運命の番人を倒せる気がしなかったからね」

ゼラ「ヨミさんは本当に慎重派ですね」

「慎重すぎるくらいがいいんだよ。無駄に人の死を見るのは嫌だからね」

ゼラ「ですね。仲間が死ぬのは私も見ていて辛いですから」

 結局、ネイを最高の状態に仕上げたのはいいが、最後の最後で邪魔が入った。僕の計画に最後のズレが出た。

「……」

 そっとアイリの頭を撫でる。彼女は驚いたようにこちらの目を見上げ、こっちにそっと手を伸ばしてくる。

「……色々と言いたいことはあるが、君が僕の娘なのは間違いない。ーーとは言っても、僕の体はネイであるから君を産んだ体ではない。それに、ヨミの人格が強くなっているとは言えど、僕はネイなんだ。ヨミは前世であり、本来なら僕と関係のない存在。それでも、君は僕を母親として見てくれるのかい?」

アイリ「……お母様は、お母様です。例え、どんな壁があったとしても、お母様はお母様です。でなければ、死ぬしかない私の手を引っ張って助けてくれるはずがありません。ですからーー」

「うん、もうそれ以上は言わなくてもいい。僕は君の母親だ」

 そう言って、僕は娘を強く抱き締めた。母親の愛情を感じられずに育った、冷たく悲しいこの子の心を、これからは僕が温めてあげるんだ。

 ネイには任せられないし、任せたくはない。僕の体はネイだが、心は完全にヨミなんだ。あの人との間に出来た愛の形は、僕がちゃんと綺麗な形に作り上げるんだ。

ゼラ「ヨミさん。もういいですか?」

「ん……ああ、いいよ」

ゼラ「じゃあ、私は一足先にもう1人のヨミさんを助けに行きますね」

「ああ、お願いする。光楼宗が絡んでいる今、戦力は1人でも多い方がいいからね」

ゼラ「はい。では、向こうの宝石に移りますね」

 そう言ってゼラは僕のネックレスの中に戻った。しばらくして宝石の輝きが消え、このネックレスが力を失ったということを僕に教えてくれた。

 まあ、この戦いが終われば彼女は僕専属の精霊になる。寂しくはないさ。

アイリ「お母様……。これからは私を愛してくれますか?」

「ああ、愛してあげるよ。アイリ」

アイリ「……お母様」

「ああ、もう何も言わなくていいよ。しばらくこうしてあげるからさ」

 アイリの顔を胸に埋め、彼女の涙を拭いとる。疲れていたのか、彼女はスヤスヤと寝始めた。

 僕も少し疲れた。母子共々、こうして綺麗な月夜で一眠りするのも悪くはないだろう。

「ああ、でも……。寝る時間は……短めに……」

 ーー僕の意識は闇へと落ちていった。
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