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第0章 【グラン・ゼロ・ストーリー】
第0章21 章末 【1000年後のあなたへ】
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私は死ぬ。
どう足掻いたって死んでしまう。
……そんな事実。素直に受け入れられるかって話です。でも、その事実を聞いた日から丸々一月が経ち、私はその言葉の意味を体で理解していくことになるのです。
日に日に衰えていく私の怪力。
徐々に鈍くなっていく私の思考。
そして、すっかり痩せ細り、今では人形と呼ばれてもいいくらいに小さくなった体。もちろん、本物の人形みたいに、軽く腕で抱きしめられるほどの大きさにはなっていません。でも、私がこの病に耐えれば耐えるほど、それに近い大きさにはなっていくのでしょう。
私の体を蝕む病。それは、『幼少病』と呼ばれるものでした。リアやミリオがナトレにされていたものとは違います。というか、あれはナトレが誤魔化しで言っていただけで、実際には幼少病なんてものではありません。でも、私がかかっている病気は、本当の幼少病なのです。
症状は、10を過ぎた頃から体が成長しないことで判明するらしいです。本当に早くに発見することが出来れば、この世界に存在する医療で治すことは出来るらしいのですが、不幸なことに私は14になるまでひとりぼっちだったため、そんな事に気づくことはありませんでした。仮に気づけていたとしても、あんな島ではまともな医療を受けられません。
……強欲に、貪欲に、欲しいものを欲しいがままに手に入れてきた人生ですが、これはそれのツケが回ってきたということなのでしょうか?分かりませんね。神様はいつだって意地悪ですから。
ヨミ「ゼラぁ!ゼラぁぁぁぁ゛ぁぁぁぁ!」
私が眠るベッド脇で、ヨミさんの激しい泣き声が聞こえてきます。
「泣か......ないで......。この......ギルドは......ヨミ......さん......に......」
ヨミ「ゼラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
結局、自分の命に限界が近づいていると知りながらも、ヨミさんには限界まで隠し続けてしまいました。余計な心配はかけたくない、私のために、ほんの少し動いただけで息切れする体に全力を尽くさないで欲しい。
ヨミ「妾が、妾がもっと早くに気付いておれば......あ゛ぁぁぁぁ」
ヨミさんのせいじゃない。私に、肝心なところで運がなかっただけてす。
ヨミさんのせいじゃない。ヨミさんのせいじゃない。そう伝えたいのに、私の口は針で縫い付けられたように開くことが出来ないでいます。せめて、サヨナラの一言くらいヨミさんに伝えておきたいのに……。そんな事すら許してくれない、ということですか。神様は意地悪です。
「ゼラ......ゼラぁ......ゼラぁぁぁ!」
あれ……おかしいですね。まだ、考える余力は残っているのに、視界が炭で塗りつぶされたように何も見えません。それに、ヨミさんの泣き声も徐々に小さくなって聞こえてきます。
……あぁ。考えるまでもありませんね。
これが……死というやつですか。
島で貧しくも幸せな生活を送っていた幼少期。
瘴気で私たちの生活が壊され、何故か1人生き残ってしまった思春期。
トレジャーハンターを名乗る、海賊のラウス、モルガン、シャウトによって連れ出された初めての外の世界。そこで、夢に描いていたような冒険をした私の物語。
ギルドを創り、マスターとしてメンバーの不始末に追われながらも割と自由に世界中を冒険していたもう1つの物語。
悔いが無いかと聞かれれば、悔いしかない人生ですが、これはこれで良い物語を描けたものです。私の中の短編小説。そうですね……タイトルをつけるとしたら、『グラン・アドベントリー』とでも名付けましょうか。意味?そんなもの、適当に決まってるじゃないですか。
ゆっくり、ゆっくりと消えゆく意識ーー
ゆっくり、ゆっくりと消えゆく物語ーー
ゆっくり、ゆっくりと引き継がれる物語ーー
……
……
……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「世界はいつだって不条理で、理不尽で、悲しみに満ちている」
……
「世の中は残酷で、神の助けなどあるわけがない」
……
「でも、そんな世界でも、希望があるとすれば?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ゼラが死んでから200年が過ぎた。
「嫌……嫌っ……嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
親友を失い、今しがた、うっかり愛してしまった人も失った。
親友は仕方ない。……仕方ない。あれは、妾の力が足りなかったせいじゃ。じゃが、あの人の場合はどうじゃ?
"戦死"
そんなもの……、そんなもの、認められるわけ無かろうが!
「うっ……ぐ……」
抑えられない。抑えようとしていた感情が、津波のように大きく勢いをつけて溢れ出してくる。
憎い。この世界が憎い。
親友を奪い、愛した人すらをも奪うこの世界が、人間が憎い。
妾が、この世界を破壊しよう。こんな世界、元から存在していなければ、妾はこんなに悲しむことは無かった。
「ぐ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
抑えられぬ負の感情が爆発し、妾の体を妾ではない何者かに変えてゆく。それは、黒く禍々しい龍の形をしており、ただの勘でもこの力は恐ろしいと思えた。
己の感情に身を任せ、この世界を破壊してゆく。
誰も止められないーー
誰にも止めることは出来ないーー
この世界を破壊するまで、いや、妾の心が全てを忘れてしまえるまで、この破壊衝動は収まらない。
妾の名は、『フェノン・ステライルグ』。
かつて、天才と呼ばれ、周りから期待ばかりを押し付けられた者。愛する家族を失い、人体錬成の過程で死ぬことの出来ない不死身の体を与えられた。
こんな体、要らなかった。誰が欲しいと望んだ?こんなもの、あるだけ不幸になるばかりではないか。
……
……
……己の感情に振り回されてからどれくらいの時が過ぎただろう?ふと光が差し込んでくるのが見えた。
妾は、気づけば人間の姿に戻されており、同じ背丈の人間達に押さえられていた。
「お前、名前はなんだ」
聞いたこともない声が、妾の耳を鋭く貫く。
「……フェノン。フェノン・ステライルグじゃ」
視界が開けた時、妾の視界は真っ赤に染っていた。当たり前じゃ、血の涙を目一杯に流していたのじゃから。
「こんな小娘1人が、世界の半分近くを破壊してしまうとはな」
「……」
どうやら、妾の暴走は世界半分で終わってしまったようじゃ。
「……お主、名は」
「……そうだな。名前を聞いたのであれば、名乗り返さなければな。俺の名前はシン・ウェル・イーリアス。素性は……興味無いか」
「シン……ふっ……ははは……ははははは……。お主は英雄じゃ、シン」
シン「だろうな。たかがお前を人の姿に戻しただけで、何もしてない人間共は俺を王に仕立てあげようとしている。面倒事を押し付けるつもりだとは知っているが、まあ王という立場も悪くはないと思ってな」
「……そうか。……シン、お主には聖王の冠を授けよう。邪龍を倒した聖なる王。良い呼び名じゃろ」
シン「かもしれんが、邪龍に名付けられるのもな」
……久しぶりじゃ。
久しぶりに、人間とこんなに言葉を交わしておる。
……もっと早くに、この男と出会えたら、妾は暴走をしなかったかもしれない。いや、あの人を失った瞬間に暴走してしまったのじゃから、多分関係はしないか。
シン「それで、名前を授けてくれたついでに教えて貰えると助かるんだが、お前を殺すためにはどうしたらいい?」
「殺す……か。滑稽じゃな。妾を殺すことは何人足りとも出来はせん。精々、妾のマナを吸い続けて、無力化させることくらいしか方法は無いな。丁度いい場所を教えてやろう。アグリアの極東部分に、異常なまでに周囲の生命力を吸い尽くす洞窟がある。どうするかは、お主らに任せよう……」
シン「……」
……
……
……
妾の物語は、こんな形で幕を閉じた。
親友の言葉を信じ、親友が創ったギルドを200年に渡って守り続けてきた。同じ時を過ごした友が死ぬ瞬間を何度も見た。
きっと、妾は疲れてしまったのじゃろうな。しばらく、いや、このままずっと、ボーッとでいいから静かにしていたい……
……
……
……
……
……
……
……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……ーい、おー……」
耳元で、誰かが私の眠りを妨げる音を出す。
「……あれ?」
ユミ「やーっと起きたか。お前なぁ、本棚崩して押し潰される可能性くらい考慮しとけよ。助けるの大変だったんだぞ?」
「……ユミ?」
ユミ「あぁ?つか、なんでお前泣いてんだ?」
「泣く?」
自分の頬に手を当ててみる。
本当だ。私は……泣いている。
ユミ「つか、その本なんだ?」
「本?」
これまた、自分では意識していないところで、私は1冊の本を大事に抱きしめていた。
題名は、『グラン・アドベントリー』。何の本なのかは分からない。でも、何か、とても大切なものだった気がする。
ユミ「いつまでも寝そべってねぇで、さっさと作業再開すんぞ」
「……うん」
私は、抱きしめていた本を開くことなく棚に戻し、散らかしてしまった本の片付けをする。
……なんで泣いていたんだろ。
疑問に思いながらも、私は胸にあるネックレスをギュッと握りしめた。意味があるわけじゃない。ただ、こうしてると何となく安心できた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
強欲に、貪欲に、私は欲しいものを手に入れたいと望み続けました。
そんな私が描いた冒険譚、どうだったでしょうか?
題名は、『グラン・ゼロ・ストーリー』なんて呼び方をしましたが、本当の名前は『グラン・アドベントリー』だったのです。まあ、だから何だって話ですけどね。
アドベントリーというのは、冒険の英訳アドベンチャーと、物語の英訳ストーリーを組み合わせて作った言葉です。要するに、『冒険譚』という意味が正しいです。なぁんて、当時の私は無意識にそういう名前を付けたんですよね。何か、光るものがあったんですかね。
物語は、悲しい結末を迎えることになってしまいました。でも、それはバッドエンドと呼んでいいものなのでしょうか?
私は、この物語をバッドエンドとは呼びたくありません。ついでに言うと、エンディングまで行ったとも言いたくありませんね。この物語はここで終わりというわけではない。むしろ、ここからが本当の始まりなのです。
私が創り、ヨミさんが守り、未来永劫に存在し続ける我がグランメモリーズ。創界の記憶人という意味で付けられたこの名前。その物語が、本当の結末を迎えるまで、私は死ねと言われても死ねませんね。
ええ、そうです。ヨミさんには悪いですし、現代を生きてるネイさんにも申し訳ない話ですけど、私は生きています。まだ、もうしばらくはネイさんに会いに行くことは出来ませんが、私は陰ながら『グランストリア』を見ていたのですよ。これから、本当の戦いが始まるというところまで。
さてさて、ネタバレはこれくらいにして、少しだけグランストリアを覗いてみましょうか。ネイさんの誕生日会から、1年と少しが過ぎた日の話ですよ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ネイりんが大事な仕事に出かけてから早1年。私達のギルドは相も変わらずどんちゃん騒ぎを……してない。理由?そんなもの、マスターが言い出した事のせいで、みんながみんな、長期の仕事やら修行やらに出かけているからだ。そのせいか、うちやって来る仕事は、どれもこれも長期間かかりそうなものばかりになってしまった。依頼主からしてみれば、今まで頼み辛かった仕事を頼めて丁度いい機会が出来たんだろうけど、私からすれば喧しくないグランメモリーズは少し寂しい気がする。
まあ、そんなこんなで私は暇を持て余し、その暇潰しも兼ねてグランアランドラルフの現地観戦に来ていた。もちろん、一昨年優勝した私達のギルドは今年は棄権ーーあ、去年は王都復興のために大会は中止したらしいーー。更に、グランメモリーズが出ないからという理由で一昨年の決勝進出ギルドがこぞって棄権をしてしまう羽目に。お陰様で、折角の復興記念大会が過去一盛り上がらないという結末に。見てて面白くなかったのよね。なんというか、迫力がないって言うか。
「……そんなこんなで、もう表彰式か~」
1週間、早かったなぁ。いや、この1年が早かった気がする。
「お父さんに会えるかもって思ったけど、結局見つけられなかったな……」
まあ、見つけたところで何をするのかと聞かれれば、多分答えることは出来ない。ただ、なんとなくお父さんの今を見ておきたかっただけと仮に答えておく。
「今年の優勝は……!クロノアベリーだァァァァァァ!」
実況席のヅラはよくこんな大会で一昨年通りのテンションを保てるものだ。これが仕事マンというやつなのか……私も、少しは見習った方がいいかも。
……一昨年とは違った表彰式。ちゃんと、クロノアベリーの決勝メンバーがこのスタジアムに並び、ゼイラ王女から直々に表彰状とトロフィーを貰っている。龍の騒ぎさえなければ、きっと私達もあんな感じで表彰されてたんだろうなぁ。本当、私達って運がない。
「へぇ、アイツらが今年の優勝者か。弱そうな見た目してんなァ」
「……?」
今、隣から懐かしい声が聞こえた気がする。そう思って隣を見ると、そこには黒色のローブに身を包んだ男の人が立っていて、あの場に飛び込むつもりなのか、今にも高く飛び上がろうとするかのように姿勢を屈めていた。
「え、ちょ、あなた何するつもり!?」
「殴り込みだァァァ!」
次の瞬間、黒ローブの男は足から炎を吹き出し、拳に炎をまとわりつかせ、クロノアベリーのリーダーに思いっきり鉄拳を喰らわせた。
黒ローブに身を包んでいた男。その男の突然の襲撃に、この場にいた誰もが動揺を隠しきれないでいた。でも、私は違った。
懐かしいこの暑さに、懐かしい喧しさ。
彼が帰ってきたのだ。ーー"炎の挑戦者"として。
どう足掻いたって死んでしまう。
……そんな事実。素直に受け入れられるかって話です。でも、その事実を聞いた日から丸々一月が経ち、私はその言葉の意味を体で理解していくことになるのです。
日に日に衰えていく私の怪力。
徐々に鈍くなっていく私の思考。
そして、すっかり痩せ細り、今では人形と呼ばれてもいいくらいに小さくなった体。もちろん、本物の人形みたいに、軽く腕で抱きしめられるほどの大きさにはなっていません。でも、私がこの病に耐えれば耐えるほど、それに近い大きさにはなっていくのでしょう。
私の体を蝕む病。それは、『幼少病』と呼ばれるものでした。リアやミリオがナトレにされていたものとは違います。というか、あれはナトレが誤魔化しで言っていただけで、実際には幼少病なんてものではありません。でも、私がかかっている病気は、本当の幼少病なのです。
症状は、10を過ぎた頃から体が成長しないことで判明するらしいです。本当に早くに発見することが出来れば、この世界に存在する医療で治すことは出来るらしいのですが、不幸なことに私は14になるまでひとりぼっちだったため、そんな事に気づくことはありませんでした。仮に気づけていたとしても、あんな島ではまともな医療を受けられません。
……強欲に、貪欲に、欲しいものを欲しいがままに手に入れてきた人生ですが、これはそれのツケが回ってきたということなのでしょうか?分かりませんね。神様はいつだって意地悪ですから。
ヨミ「ゼラぁ!ゼラぁぁぁぁ゛ぁぁぁぁ!」
私が眠るベッド脇で、ヨミさんの激しい泣き声が聞こえてきます。
「泣か......ないで......。この......ギルドは......ヨミ......さん......に......」
ヨミ「ゼラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
結局、自分の命に限界が近づいていると知りながらも、ヨミさんには限界まで隠し続けてしまいました。余計な心配はかけたくない、私のために、ほんの少し動いただけで息切れする体に全力を尽くさないで欲しい。
ヨミ「妾が、妾がもっと早くに気付いておれば......あ゛ぁぁぁぁ」
ヨミさんのせいじゃない。私に、肝心なところで運がなかっただけてす。
ヨミさんのせいじゃない。ヨミさんのせいじゃない。そう伝えたいのに、私の口は針で縫い付けられたように開くことが出来ないでいます。せめて、サヨナラの一言くらいヨミさんに伝えておきたいのに……。そんな事すら許してくれない、ということですか。神様は意地悪です。
「ゼラ......ゼラぁ......ゼラぁぁぁ!」
あれ……おかしいですね。まだ、考える余力は残っているのに、視界が炭で塗りつぶされたように何も見えません。それに、ヨミさんの泣き声も徐々に小さくなって聞こえてきます。
……あぁ。考えるまでもありませんね。
これが……死というやつですか。
島で貧しくも幸せな生活を送っていた幼少期。
瘴気で私たちの生活が壊され、何故か1人生き残ってしまった思春期。
トレジャーハンターを名乗る、海賊のラウス、モルガン、シャウトによって連れ出された初めての外の世界。そこで、夢に描いていたような冒険をした私の物語。
ギルドを創り、マスターとしてメンバーの不始末に追われながらも割と自由に世界中を冒険していたもう1つの物語。
悔いが無いかと聞かれれば、悔いしかない人生ですが、これはこれで良い物語を描けたものです。私の中の短編小説。そうですね……タイトルをつけるとしたら、『グラン・アドベントリー』とでも名付けましょうか。意味?そんなもの、適当に決まってるじゃないですか。
ゆっくり、ゆっくりと消えゆく意識ーー
ゆっくり、ゆっくりと消えゆく物語ーー
ゆっくり、ゆっくりと引き継がれる物語ーー
……
……
……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「世界はいつだって不条理で、理不尽で、悲しみに満ちている」
……
「世の中は残酷で、神の助けなどあるわけがない」
……
「でも、そんな世界でも、希望があるとすれば?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ゼラが死んでから200年が過ぎた。
「嫌……嫌っ……嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
親友を失い、今しがた、うっかり愛してしまった人も失った。
親友は仕方ない。……仕方ない。あれは、妾の力が足りなかったせいじゃ。じゃが、あの人の場合はどうじゃ?
"戦死"
そんなもの……、そんなもの、認められるわけ無かろうが!
「うっ……ぐ……」
抑えられない。抑えようとしていた感情が、津波のように大きく勢いをつけて溢れ出してくる。
憎い。この世界が憎い。
親友を奪い、愛した人すらをも奪うこの世界が、人間が憎い。
妾が、この世界を破壊しよう。こんな世界、元から存在していなければ、妾はこんなに悲しむことは無かった。
「ぐ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
抑えられぬ負の感情が爆発し、妾の体を妾ではない何者かに変えてゆく。それは、黒く禍々しい龍の形をしており、ただの勘でもこの力は恐ろしいと思えた。
己の感情に身を任せ、この世界を破壊してゆく。
誰も止められないーー
誰にも止めることは出来ないーー
この世界を破壊するまで、いや、妾の心が全てを忘れてしまえるまで、この破壊衝動は収まらない。
妾の名は、『フェノン・ステライルグ』。
かつて、天才と呼ばれ、周りから期待ばかりを押し付けられた者。愛する家族を失い、人体錬成の過程で死ぬことの出来ない不死身の体を与えられた。
こんな体、要らなかった。誰が欲しいと望んだ?こんなもの、あるだけ不幸になるばかりではないか。
……
……
……己の感情に振り回されてからどれくらいの時が過ぎただろう?ふと光が差し込んでくるのが見えた。
妾は、気づけば人間の姿に戻されており、同じ背丈の人間達に押さえられていた。
「お前、名前はなんだ」
聞いたこともない声が、妾の耳を鋭く貫く。
「……フェノン。フェノン・ステライルグじゃ」
視界が開けた時、妾の視界は真っ赤に染っていた。当たり前じゃ、血の涙を目一杯に流していたのじゃから。
「こんな小娘1人が、世界の半分近くを破壊してしまうとはな」
「……」
どうやら、妾の暴走は世界半分で終わってしまったようじゃ。
「……お主、名は」
「……そうだな。名前を聞いたのであれば、名乗り返さなければな。俺の名前はシン・ウェル・イーリアス。素性は……興味無いか」
「シン……ふっ……ははは……ははははは……。お主は英雄じゃ、シン」
シン「だろうな。たかがお前を人の姿に戻しただけで、何もしてない人間共は俺を王に仕立てあげようとしている。面倒事を押し付けるつもりだとは知っているが、まあ王という立場も悪くはないと思ってな」
「……そうか。……シン、お主には聖王の冠を授けよう。邪龍を倒した聖なる王。良い呼び名じゃろ」
シン「かもしれんが、邪龍に名付けられるのもな」
……久しぶりじゃ。
久しぶりに、人間とこんなに言葉を交わしておる。
……もっと早くに、この男と出会えたら、妾は暴走をしなかったかもしれない。いや、あの人を失った瞬間に暴走してしまったのじゃから、多分関係はしないか。
シン「それで、名前を授けてくれたついでに教えて貰えると助かるんだが、お前を殺すためにはどうしたらいい?」
「殺す……か。滑稽じゃな。妾を殺すことは何人足りとも出来はせん。精々、妾のマナを吸い続けて、無力化させることくらいしか方法は無いな。丁度いい場所を教えてやろう。アグリアの極東部分に、異常なまでに周囲の生命力を吸い尽くす洞窟がある。どうするかは、お主らに任せよう……」
シン「……」
……
……
……
妾の物語は、こんな形で幕を閉じた。
親友の言葉を信じ、親友が創ったギルドを200年に渡って守り続けてきた。同じ時を過ごした友が死ぬ瞬間を何度も見た。
きっと、妾は疲れてしまったのじゃろうな。しばらく、いや、このままずっと、ボーッとでいいから静かにしていたい……
……
……
……
……
……
……
……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……ーい、おー……」
耳元で、誰かが私の眠りを妨げる音を出す。
「……あれ?」
ユミ「やーっと起きたか。お前なぁ、本棚崩して押し潰される可能性くらい考慮しとけよ。助けるの大変だったんだぞ?」
「……ユミ?」
ユミ「あぁ?つか、なんでお前泣いてんだ?」
「泣く?」
自分の頬に手を当ててみる。
本当だ。私は……泣いている。
ユミ「つか、その本なんだ?」
「本?」
これまた、自分では意識していないところで、私は1冊の本を大事に抱きしめていた。
題名は、『グラン・アドベントリー』。何の本なのかは分からない。でも、何か、とても大切なものだった気がする。
ユミ「いつまでも寝そべってねぇで、さっさと作業再開すんぞ」
「……うん」
私は、抱きしめていた本を開くことなく棚に戻し、散らかしてしまった本の片付けをする。
……なんで泣いていたんだろ。
疑問に思いながらも、私は胸にあるネックレスをギュッと握りしめた。意味があるわけじゃない。ただ、こうしてると何となく安心できた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
強欲に、貪欲に、私は欲しいものを手に入れたいと望み続けました。
そんな私が描いた冒険譚、どうだったでしょうか?
題名は、『グラン・ゼロ・ストーリー』なんて呼び方をしましたが、本当の名前は『グラン・アドベントリー』だったのです。まあ、だから何だって話ですけどね。
アドベントリーというのは、冒険の英訳アドベンチャーと、物語の英訳ストーリーを組み合わせて作った言葉です。要するに、『冒険譚』という意味が正しいです。なぁんて、当時の私は無意識にそういう名前を付けたんですよね。何か、光るものがあったんですかね。
物語は、悲しい結末を迎えることになってしまいました。でも、それはバッドエンドと呼んでいいものなのでしょうか?
私は、この物語をバッドエンドとは呼びたくありません。ついでに言うと、エンディングまで行ったとも言いたくありませんね。この物語はここで終わりというわけではない。むしろ、ここからが本当の始まりなのです。
私が創り、ヨミさんが守り、未来永劫に存在し続ける我がグランメモリーズ。創界の記憶人という意味で付けられたこの名前。その物語が、本当の結末を迎えるまで、私は死ねと言われても死ねませんね。
ええ、そうです。ヨミさんには悪いですし、現代を生きてるネイさんにも申し訳ない話ですけど、私は生きています。まだ、もうしばらくはネイさんに会いに行くことは出来ませんが、私は陰ながら『グランストリア』を見ていたのですよ。これから、本当の戦いが始まるというところまで。
さてさて、ネタバレはこれくらいにして、少しだけグランストリアを覗いてみましょうか。ネイさんの誕生日会から、1年と少しが過ぎた日の話ですよ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ネイりんが大事な仕事に出かけてから早1年。私達のギルドは相も変わらずどんちゃん騒ぎを……してない。理由?そんなもの、マスターが言い出した事のせいで、みんながみんな、長期の仕事やら修行やらに出かけているからだ。そのせいか、うちやって来る仕事は、どれもこれも長期間かかりそうなものばかりになってしまった。依頼主からしてみれば、今まで頼み辛かった仕事を頼めて丁度いい機会が出来たんだろうけど、私からすれば喧しくないグランメモリーズは少し寂しい気がする。
まあ、そんなこんなで私は暇を持て余し、その暇潰しも兼ねてグランアランドラルフの現地観戦に来ていた。もちろん、一昨年優勝した私達のギルドは今年は棄権ーーあ、去年は王都復興のために大会は中止したらしいーー。更に、グランメモリーズが出ないからという理由で一昨年の決勝進出ギルドがこぞって棄権をしてしまう羽目に。お陰様で、折角の復興記念大会が過去一盛り上がらないという結末に。見てて面白くなかったのよね。なんというか、迫力がないって言うか。
「……そんなこんなで、もう表彰式か~」
1週間、早かったなぁ。いや、この1年が早かった気がする。
「お父さんに会えるかもって思ったけど、結局見つけられなかったな……」
まあ、見つけたところで何をするのかと聞かれれば、多分答えることは出来ない。ただ、なんとなくお父さんの今を見ておきたかっただけと仮に答えておく。
「今年の優勝は……!クロノアベリーだァァァァァァ!」
実況席のヅラはよくこんな大会で一昨年通りのテンションを保てるものだ。これが仕事マンというやつなのか……私も、少しは見習った方がいいかも。
……一昨年とは違った表彰式。ちゃんと、クロノアベリーの決勝メンバーがこのスタジアムに並び、ゼイラ王女から直々に表彰状とトロフィーを貰っている。龍の騒ぎさえなければ、きっと私達もあんな感じで表彰されてたんだろうなぁ。本当、私達って運がない。
「へぇ、アイツらが今年の優勝者か。弱そうな見た目してんなァ」
「……?」
今、隣から懐かしい声が聞こえた気がする。そう思って隣を見ると、そこには黒色のローブに身を包んだ男の人が立っていて、あの場に飛び込むつもりなのか、今にも高く飛び上がろうとするかのように姿勢を屈めていた。
「え、ちょ、あなた何するつもり!?」
「殴り込みだァァァ!」
次の瞬間、黒ローブの男は足から炎を吹き出し、拳に炎をまとわりつかせ、クロノアベリーのリーダーに思いっきり鉄拳を喰らわせた。
黒ローブに身を包んでいた男。その男の突然の襲撃に、この場にいた誰もが動揺を隠しきれないでいた。でも、私は違った。
懐かしいこの暑さに、懐かしい喧しさ。
彼が帰ってきたのだ。ーー"炎の挑戦者"として。
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相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
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