グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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《Parallelstory》IIIStorys 【偽りの夢物語】

第12章4 【この世界の人々】

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「なあ、観察するってったって、何からすんだよ」

 1人勝手に帰り始めたネイの後を追い掛け、俺はそう尋ねた。

ネイ「簡単な話です。この世界にいる人間を見る。そうした後にヴァルに答えを出してもらおうかと」

「なんで俺なんだよ……。俺はあいつの理想に共感してる立場だぞ?」

ネイ「だからです」

「……?」

 何言ってるかサッパリ分かんねぇ……。

ネイ「ヴァルは本当にこんな世界で良いと思ってるんですか?」

「もう言ってるけど、俺はこれでいいと思ってるよ」

ネイ「……こんな、嘘偽りだらけの現実が、ですか?」

「ああそうだよ。俺はこんな世界になることを望んだんだ。願いが叶って嬉しくない人間なんていねぇだろ?」

ネイ「……」

 ネイは暫し考えるような仕草を取り、色の無い右目をこっちに向けてからまた話し始めた。

ネイ「例え、元の世界が絶望に満ちていたのだとしても、それが世界が示した答えです。その答えを拒否するなんて、神を相手に戦争を始めるようなものですよ」

「じゃあ、なんだ。この世界を認めるためには力ずくでお前に言うこと聞かせるしかないって言うのか?」

ネイ「そうまでは言ってませんよ。ただ、この夢物語げんじつを簡単に認めるなって話をしてるんです。ヴァル達が積み上げてきたものが全て無駄にされてるんですよ?」

「それでも、俺はみんなが幸せでいられるってなら過去を無かったことにしてや……いや、何でもねぇ」

 過去についてのやり取りはこいつを不機嫌にさせるだけだからと、俺は口を閉じた。

 そうか、こいつがこの世界を気に食わない理由は、そこにあるって言うのか。

ネイ「……とりあえず、ヴァルはすぐに答えを決めないでください。もっとよくこの世界を見てからこの世界を蹴ってください」

「それ、もう答え決められてんのと一緒だろ」

 まあ、こいつが何で不機嫌になるのかの理由は分かったし、少しくらいは付き合ってやるか……。俺も、この世界の人間がどう生きてんのか気になるしな。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「で、まずは誰の生活から観察するんだ?」

ネイ「そうですね……。あ、丁度いいのが目の前にいますよ」

 目の前……。なるほど、シアラとヴェルドか。

ネイ「シアラさーん」

 ネイは躊躇うことなくシアラ達に近付き、明らかに作り笑いと思えるそれを浮かべて話を始めた。こいつ、こんなことするような奴だっけ?

シアラ「どうしたんですか?ネイさん、ヴァルさん」

ネイ「いえ、たまたま見つけたものですから」

シアラ「なるほどなるほど。私達、これからデートなんで、しばらく邪魔しないでくださいねー」

ヴェルド「おい、あんまりデカい声で言うな!恥ずかしいだろ」

シアラ「いいじゃないですかぁー。私達、公認のラブラブカップルなんですから」

 ……どうしよう。別に、おかしくも何ともない景色に見えちまってる。どうせこいつらハッピーエンドで終われたらファイナルファンタジーするような奴らだったし、何も変じゃねぇ……。いや、偽りの現実が生み出してる変な要素なんだろうけど。

シアラ「では、シアラ達行ってきます!」

ネイ「あー、はい。その前に、1つだけ聞いときたいことがあるんですけど……」

 流石のネイも、これが嘘なのか現実なのかで少し迷っている。

シアラ「はい?なんでしょう」

ネイ「シアラさん。この世界で本当に良いと思ってるんですか?」

シアラ「え……?それって、どういーーっ!」

 急にシアラが頭を押さえ、その場に踞るようにしてしゃがんだ。

ヴェルド「お、おい!大丈夫かシアラ!」

 ヴェルドが支えるようにシアラに寄り、シアラは冷や汗を垂らしてその後もしばらく蹲っていたが、やがて何事も無かったかのようにスっと立ち上がった。

シアラ「えっと……、ヴェルド様。なんだか体調が良くないので今日のデートはお休みということに……」

ヴェルド「あ、ああ。お大事にな」

 シアラはそう告げた後、また頭を押さえるような仕草を取りながら帰って行った。ヴェルドも、「何だったんだ?」と呟いてからこの場を離れていった。

「……何したんだ?お前」

ネイ「何もしてませんよ。ただ、彼女が違和感に気付きかけただけです」

「違和感?」

ネイ「だって、シアラは元の世界で生き残っていた人間。もし、その記憶が開けばこの世界に違和感を抱いてもおかしくありません。ヴァルのように」

「ああ、なるほど」

 それで頭に痛みでも走ったわけか。俺も、多分知らねぇうちにそんな感じになってたのかな?

ネイ「さあ、次に行きますよ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

クロム「何かと思えば、今日は今日とでどうした?お前ら。結婚式の日程でも決まったか?」

「そんなんじゃねぇよ。つか、結婚式はやってねぇ設定なんだな」

クロム「ん?」

「いや、こっちの話だ」

 続いてやって来たのはイーリアスの王城。ここにいるのは、もちろんこのバカ聖王だ。

「まあ、たまたま近くを寄ったから少し話でもしていくかって思っただけだよ」

クロム「少し話をするには随分と偉そうな部屋に通したけどな」

「それお前がやったんだからな。自警団の訓練場でも良かったんだぞ?」

クロム「俺もそれくらいでいいとは思ったが、生憎今日は机に面を付き合わさなきゃならん仕事が山積みでな」

「それお前が片付けないからだな」

クロム「それで、仕事をしながらで悪いが話したいことがあるならそれで頼む」

 そう言いつつ、クロムはアランから次々に書類をもらい、さっと目を通しただけで2つに分けて置いていく。多分、重要かそうでないかくらいの違いなんだろうけど、届いたタイミングで片付けとけよ、と俺は思う。

「見た感じ、いつもとは何も変わりねぇな」

ネイ「それがこの世界ですからね。変わらない世界を望む。それが生き残った人達の理想ですから」

 まあ、それならそうとで良いんだけどな。

「クロム、お客様が来てらっしゃるの?」

 と、ここでこいつにとっての理想と思える人物が現れた。

クロム「姉さん、悪いが今手がいっぱいいっぱいだ。お茶なら後にしてくれ」

セレナ「あらそう?じゃあ、後で自警団の皆さんも呼んで少し休憩しましょうね」

 そう言って、セレナ聖王は僅か数秒で部屋を後にする。

「……正常なセレナ聖王か……」

クロム「一時はどうなるかと思ったけどな。傷が完治してくれて嬉しい限りだよ。まあ、もう聖王の座には就かせたくないが」

「苦しむからか?」

クロム「そうだ。まあ、今は平和な世だから姉さんに任せた方がいいのかもしれんが、いつ何が起こるかも分からんし、姉さんにはもう負担をかけたくない」

「……」

 確か、セレナ聖王も戦いが終わったタイミンクでは生きていたが、1ヶ月としないうちに脳の怪我が悪化して治せる人間もおらず、そのまま死んじまったっていう話だったな。

 これがクロムにとっての理想か。姉を元の状態に戻し、死んでいった仲間達も復活して、そして平和な国であり続ける。

 おかしな部分ってほどではないが、これも紛れもなく夢が創り出した偽りげんじつか……。

「……悪ぃ。来といてなんだが、お茶もらう前に帰るよ。まだ仕事の途中なんでな」

クロム「ん、そうか。気を付けてな」

「ああ。お前も、働きすぎて倒れんなよ」

クロム「気を付けるさ」

 アランに帰りの案内をされ、俺はそのまま部屋を出ようとしたが、その直前でネイが立ち止まった。

ネイ「と、最後に1つ聞きたいことがあるんでした」

クロム「どうかしたか?」

ネイ「いえ、大したことじゃないんですけどーー」

 あれを聞く気か……。

ネイ「クロムさん。この世界で本当に良いと思ってるんですか?」

クロム「ん?どういう意味だ?それは」

ネイ「いえ。よく考えておいてください」

クロム「そうーーっ!」

 ネイが部屋を出たタイミングで、クロムにも頭痛が起きたようだ。だが、俺達はそれを気に留めることもなく城を後にした。

「あいつも、何かしらの違和感を感じたってことか」

ネイ「そうですね。ただ、彼の場合は理想を信じすぎてしまう節があるので、どこまで効力があるかってところですけど」

クロム「まあ、普通に気付くだろ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ゼイラ「お久しぶりです♩ヨミ様」

「はい、お久しぶりです」

 日暮れも近い時間帯だが、本日最後に訪れた場所はここ、グランアーク王都にある王城。あの絶望の世界では俺が座っていた場所である玉座の間だ。

ゼイラ「それで、もうこんな時間ですけど、今日は何の御用ですか?ヨミ様」

 玉座に座っているってとこを見る感じ、今のゼイラ王女は女王になった立場なのか。まあ、ネイからはそう聞かされていたし、俺としてもいずれはこの人が国の王になるんだろうなぁって頭の片隅程度に思ってたから特に違和感は無い。というか、これまで2人の奴と接してきたけど、別にこれといった違和感はあまり感じないんだよなぁ。まあ、この世界が嘘の世界であるっていう認識さえ忘れてしまえばだけど。

「いえ、ただ近くを通ったので、折角ですし挨拶くらいしていこうかと。ほら、去年はうちのギルドが大会に参加出来なくて顔見せもしてないので」

ゼイラ「あー、確かに去年、グランメモリーズの皆様は参加されていませんでしたね。今年は期待していますよー♩」

 ネイと話すゼイラ王女改め女王の姿は、2年程前と何1つとして変わらない。普通に国を背負いながらも、あまりその責務を気負わない、クロムとは良い意味で似ている王だ。

 でも、確か元の世界じゃアポカリプス戦での市民を大勢巻き込んだ敗北の責務を問われて、逃亡を続けている身だった。そんな話を小耳に挟む程度で俺は特に気にしたことは無かった。今にして思えば、まさか俺達が狂人相手に戦ってる裏でそんなことになってたとはって思う。ーー助けられたら良かったな。

ネイ「じゃあ、特に話したい話ってのも無いんで、この辺で失礼させていただきます」

 そう言って、ネイはあの事を聞きもせずに立ち去ろうとしたので、俺は肩に手を置いてネイを静止する。

「おい、聞かなくていいのか?」

ネイ「たまにはヴァルから聞いてください」

「たまにはって……」

 まだ3人目だろうが……。まあ、いいか。

「ちょっとゼイラ王女……女王、1つ聞きてぇことがあるんだがいいか?」

ゼイラ「ヴァルさんが?はい。何でもいいですけど」

「んじゃぁ……」

 まあ、俺としては聞くことにちょっと躊躇いがあるんだけどな。

「ゼイラ。この世界で良いと思ってんのか?」

ゼイラ「はい?どういう意味でしょうか……?」

 ……

 ……

 ……

 少し待ってみたが、クロム達のようにゼイラ女王に頭痛が起きる兆候は無い。なぜだ?

ネイ「……ゼイラ女王。代わりに私から。ーーこの世界で良いと思ってるんですか?」

ゼイラ「ヨミ様も……っ!!」

 ネイが聞いた瞬間にゼイラ女王にあの頭痛が起きた。

 俺が聞いたんじゃ起きない。でも、ネイが聞けばこの現象が起きる。俺と今のネイとで何が違うんだ?

ネイ「……ヴァル、用は終わったんで帰りましょう」

「……あ、ああ」
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