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《Parallelstory》IIIStorys 【偽りの夢物語】
第12章3 【傲慢な世界】
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ーー4階。
「ここはここで随分と広ぇな」
1階の受付室も中々に広かったが、ここはその倍以上はあるんじゃないかと思うくらいに広い。ただ、その広さの割には殺風景な景色が広がる。
受付みたいに長椅子が置いてあるわけじゃねぇし、相も変わらず人もいない。観葉植物とかもないし、あの螺旋階段があるわけでもない。何もないわけなんだが、ただ1つ、見上げた先に大きな黒縁の何かがあった。
「これって確か、テレビとかいうやつだっけか?」
ネイ「そうですね。遠隔地の様子を映したり、予め撮影編集したものを流したりすることが出来る娯楽ですね」
エレノア「便利なものってより、本当にただの娯楽ですね」
まあ、その存在については一旦置いといてーー
「……怪しい……よな?」
エレノア「怪しいですね」
ネイ「……」
ネイが翼を広げ、頭上にあるテレビに近付く。始めは軽く叩き、裏側に回って色々といじって、そして少しして四角い棒のようなものを発見した。
「なんじゃそりゃ?」
ネイ「これを動かすスイッチみたいなものですよ」
「ふーん」
ネイはその棒をテレビの方に向け、赤いボタンを1回押す。すると、テレビに光が付き、雑音が混じりながらも何かを映し出す。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「いやぁ…………いやぁ……!!」
暗がりの中、眼前に広がる血の池。
「殺した……殺した……!!」
両手にべっとりと付く赤い血。私が殺し、その返り血で真っ赤に染まってしまった。綺麗な白い服も、美人だって言われるこの顔も、全部……全部、赤く染まった。
「あ……あぁ……」
なんで……
「いやぁ……!」
どうして……
「いやぁ!!」
いやだ……いやだいやだ……!
「たす……けて……!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
エレノア「え……」
短くも、恐ろしい映像が流れた後、エレノアが力を失ったかのようにその場に腰を落とす。
「今の……なんなんだ?」
何を見せられたのかが分からない。てっきり、この世界についての何かが得られるかもしれないと思っていたのに、流れてきたのはあまりにも惨い誰かの視点だった。
誰だ?って思いたかったところだが、あの視点が誰のものなのかは今のエレノアの行動で何となく察しちまった。
エレノア「いや……いやっ!」
「おい、大丈夫か?エレノア」
座り込み、頭を押さえるエレノアに寄り添う。だが、どうも今の彼女には周りが見えていないらしい。ネイ程ではないが、軽く精神を壊したんじゃないかと思う。
「ネイ」
ネイ「待っててください」
ネイが駆け寄り、彼女の額に手を当てて原因を探っている。
ネイ「……ダメです。何も見えません」
「見えない……」
ネイ「はい。記憶を見ようにも、あまりにも強すぎる蓋で他人には見えないようになっています。でも、蓋が開きかけて、そこから僅かに覗ける景色が彼女を苦しめているのかと」
相変わらず何を言ってんのかサッパリだが、要は精神を壊した状態に近いということで合ってるっぽい。だとしてーー
「今の映像は何だったんだ?」
ネイ「状況から察するに、エレノアにとってのトラウマだと思います」
「だろうな」
それが一番しっくり来る理由だからな。まあ、だからといって何なのかまでは分からんが。
「立チ去レ……」
そうこうしてるうちに、何やら人型の黒い塊みたいなもんがやって来る。その数、実に100は超えているだろうか?いつの間にか周りを囲まれちまった。
「立チ去レ……」
「立チ去レ……」
「立チ去レ……」
「立チ去レ……」
「去ってほしいなら、道くらい空けてくれねぇかな」
とりあえず1歩も動けないでいるエレノアを抱え、どこに逃げようかとネイと背中を合わせて中央に追い詰められていく。
「どうするよ、ネイ。炎で燃やしちまうか?」
ネイ「それが出来たら楽なんですけどね。見た感じ、存在する次元が違うんで魔法は効きませんよ。まあ、向こうからの普通の攻撃も効かないとは思いますが」
あの色の無い影を使ってきた男と似た感じか。ただ、そうなると、今のネイの言い方的に普通の攻撃はしてこねぇんだなと予想する。
「立チ去レ……」
「待て」
突如として聞こえてきた声を合図に、黒い塊達は水のようにドロっと溶けてどこかへと消えてしまった。
「誰だ?」
声の主を求め、辺りを見渡す。しかし、どこにもその声の主はいない。
「ここさ。上の方だよ、ヴァルくん」
「上?」
上を見上げ、また1周ぐらいグルっと回った後、俺は奴がどこにいるのかをようやく理解した。
奴は上の方にあるガラス張りの一角から俺達を見下ろし、そしてゆっくりと空中散歩をしながら俺達のところに降りてくる。
「……!お前……!いや、嘘だろ……」
降りてきた男の顔に俺は見覚えがあった。付き合いは誰よりも短いと思うが、それでも俺の背中を押し、俺の記憶にしっかりと書き込まれている人物。
「アルト……」
アルト「覚えてもらえて光栄だよ、ヴァルくん。それに、ネイくん」
白衣を身につけ、相も変わらず紳士的な笑みを浮かべるアルトはあの時から何も変わっていなかった。そう、こんな場所にいるってことさえ除けば、敵だとは思えないくらいに。
ネイが俺の後ろに回り、思いっきり敵意をアルトに向ける。俺はエレノアを抱えつつも、狼狽えた目でアルトを見る。
アルト「……そうか、エレノアくんは思い出してしまったか」
「お前……」
アルト「ヴァルくん。彼女は僕が面倒を見よう。君達のところにいるよりも早く治るよ」
俺の言葉には耳を貸さず、アルトは流れるような動作でエレノアを抱え、またあの一角に戻って行った。
ネイ「ヴァル、何してるんですか!」
「あ……!」
しまった……!つい流されるように渡しちまった。いや、でも、まだアルトが敵だと決まったわけじゃ……。
アルト「ヴァルくん、ネイくん。君達はこの世界が何なのか。この世界はどのようにして生まれたのか。それを知りたくてここに来たんじゃないのかな?」
「あ……あぁ……」
気をしっかりと持て!俺!相手は知らない相手でもなければ脅威になるような奴でもない。ただの人間のはずだ。何をビビってやがる……!
アルト「先に答えから行こう。この世界を創り出したのは僕だ。僕が、この理想郷を創り出した」
「……なんでだ」
アルト「簡単な話だ。僕はこんな不幸な結末の世界を望まない。この世界は誰にとっても救いのある世界になってもらわないと困る。今はかつての世界で生き残った者達にとっての幸せを創っている。ゆくゆくは、全ての人にとって、何もかもが幸せな理想郷を創るつもりだ」
アルトが言ったことは、正に俺が実現したかった、いや、出来ることならそんな世界にしたかったという願望に沿ったものだった。
ネイ「戯言ですか……」
しかし、ネイは冷たくアルトの理想を嘲笑った。
アルト「……そうかもしれないね。神である君にとって、僕の理想は現実味の無さすぎる妄想かと思うかもしれない。でも、僕は本気でその理想を叶えるよ。現に、君達はその一端を見たはずだ」
一端……もしかしてーー
「シアラのことか?」
アルト「それも一例だね。彼女にとって、愛するべき者と共にいられることは何よりの幸せだった。だから僕はその願いを叶えた。小さいことかもしれないが、僕には人の願いを叶える力がある」
「……」
俺はチラとネイの方を見た。冷たい目でアルトを見据える彼女は、見た目こそ元の姿とは違うが、俺にとって"ネイが生きている"という願いを体現したものなのかもしれない。
この世界が終わればネイは消えてしまうのか?
ふと、そんな疑問が脳裏を過る。アルトに聞いてみようかとも思ったが、答えによっては俺もエレノアのようになっちまうかもしれないと思い、聞くことを躊躇った。
ネイ「それで、そんな他人の願いを叶えるような理想郷を創って、あなたは何をしたいんですか?」
アルト「何をしたいのか。その答えは言ったはずだ。僕はこの世界を救いのある世界にする。でも、僕の邪魔をするような相手がいるというのなら、僕は容赦なくこの世界から排除しようと思うよ」
ネイ「……」
アルトが創り出したこの世界はある意味正しい。みんなが幸せになれる世界なんていらないわけがない。でも、この世界が存在するとして、じゃあ俺達がいたあの絶望の世界はどうなっているのだろうか?
「アルト、1つ聞いていいか」
アルト「いいよ。1つと言わず、知りたいことには何でも答えてあげよう」
「……俺達が元いたあの世界。理想とは呼べないあの世界は、今、どうなってんだ?」
アルト「……あの世界はまだ、現実にある」
「現実?」
アルト「そう。この世界は夢の世界。みんなはあの世界で寝ている。そして、僕の世界にお呼ばれしたのさ」
それって……
「俺の、世界……」
アルト「そうかもしれないね。君が主である夢の世界。その世界を、言い方は気持ちよくないかもしれないが、利用させてもらった。僕の世界に統合し、この世界を作り出した。つまり、君と僕の世界は今、繋がっているというわけかな?」
「……ネイ、そんなことって、出来るのか?」
ネイ「出来ませんよ。普通は」
ってことは、やっぱ普通じゃねぇんだな、こいつ。
アルト「現実に君達の肉体はある。僕の肉体もね。でも、この世界が現実になれば、あの世界が夢だったことになる。この世界が正しかったことになるのさ。いずれは」
「……恐ろしい創り方だな」
アルト「そうだね。言い換えれば、このまま放っとけば現実の君達は死ぬことになるってことだからね。でも、この世界は向こうの世界と原理は何1つ変わらない。殺そうと思って殺せば死ぬし、逆に新たな生命を育むことも出来る。ご飯を食べて美味しいとも感じられるし、幸せそうに眠ることだって出来る。この世界が現実になったところで、君達が恐れるようなことは何も起きないんだよ」
「……」
アルト「だから、僕に全てを任せてくれないか?君達が望む、最高の世界を創り上げてみせるよ」
……この世界が何なのか。今日、ここに来たのはそれを調べるためで、その目的は果たされた。そして、俺はアルトの創る世界に共感している。現実の俺達が死ぬのだとしても、意識はこちらに残り、そしてこちらで肉体を得るのなら、何も怖いことは無い。むしろ、メリットの方が大きい。だから、俺はこの場を黙って立ち去ろうとした。でも、付いてきてくれるはずの子が付いてこない。
「……おい、ネイ」
ネイ「……戯言。どこまで行っても、理想は理想。叶えられるはずもないものをなぜ追いかけるんですか?あなたがこうしたところで、みんながみんな、幸せになれるわけじゃないって言うのに」
アルト「それは違うね。僕はみんなを幸せにする。例外なんて創らない。僕はみんなを幸せにするんだ」
ネイ「傲慢……。そして実に怠惰。人間から立ち上がる力を奪おうとするなんて、怠惰な世界を創り出すだけですよ」
アルト「……僕の世界に共感出来ないのならそれでいい。でも、君の相方はこの世界を理解してくれている」
ネイ「……ヴァル?」
ネイが怒ったような目付きで俺を見てくる。
「……お前がどう思ってるのかは知らねぇけど、俺はアルトの言ってることは間違ってないと思う」
ネイ「……ヴァルまで。……いや、それが正しいのかもしれません。でも、私はこの世界を認めない!」
ネイはアルトの方を向き、強い声でそう言った。
アルト「……君はまだこの世界を知らなさすぎるだけだ。この世界に住む人間をもっとよく観察してほしい。そして、言葉を交わしてほしい。それでも尚、この世界が認められないと言うのなら、その時、僕を倒しに来るといい。出来るかどうかは知らないけどね」
そう言うと、アルトは奥の方へと消えていった。
ネイ「……ヴァル」
「なんだ?」
《パンっっっ!!》
いきなり頬を引っぱたかれた。
「……な、何すんだよ!」
ネイ「いえ、何となくそんなことをしたかったので」
特に涙を浮かべたとかそういうこともなく、ネイはサッと来た道を戻り始めていた。
ネイ「……少しだけ、この世界を観察してあげます」
「ここはここで随分と広ぇな」
1階の受付室も中々に広かったが、ここはその倍以上はあるんじゃないかと思うくらいに広い。ただ、その広さの割には殺風景な景色が広がる。
受付みたいに長椅子が置いてあるわけじゃねぇし、相も変わらず人もいない。観葉植物とかもないし、あの螺旋階段があるわけでもない。何もないわけなんだが、ただ1つ、見上げた先に大きな黒縁の何かがあった。
「これって確か、テレビとかいうやつだっけか?」
ネイ「そうですね。遠隔地の様子を映したり、予め撮影編集したものを流したりすることが出来る娯楽ですね」
エレノア「便利なものってより、本当にただの娯楽ですね」
まあ、その存在については一旦置いといてーー
「……怪しい……よな?」
エレノア「怪しいですね」
ネイ「……」
ネイが翼を広げ、頭上にあるテレビに近付く。始めは軽く叩き、裏側に回って色々といじって、そして少しして四角い棒のようなものを発見した。
「なんじゃそりゃ?」
ネイ「これを動かすスイッチみたいなものですよ」
「ふーん」
ネイはその棒をテレビの方に向け、赤いボタンを1回押す。すると、テレビに光が付き、雑音が混じりながらも何かを映し出す。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「いやぁ…………いやぁ……!!」
暗がりの中、眼前に広がる血の池。
「殺した……殺した……!!」
両手にべっとりと付く赤い血。私が殺し、その返り血で真っ赤に染まってしまった。綺麗な白い服も、美人だって言われるこの顔も、全部……全部、赤く染まった。
「あ……あぁ……」
なんで……
「いやぁ……!」
どうして……
「いやぁ!!」
いやだ……いやだいやだ……!
「たす……けて……!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
エレノア「え……」
短くも、恐ろしい映像が流れた後、エレノアが力を失ったかのようにその場に腰を落とす。
「今の……なんなんだ?」
何を見せられたのかが分からない。てっきり、この世界についての何かが得られるかもしれないと思っていたのに、流れてきたのはあまりにも惨い誰かの視点だった。
誰だ?って思いたかったところだが、あの視点が誰のものなのかは今のエレノアの行動で何となく察しちまった。
エレノア「いや……いやっ!」
「おい、大丈夫か?エレノア」
座り込み、頭を押さえるエレノアに寄り添う。だが、どうも今の彼女には周りが見えていないらしい。ネイ程ではないが、軽く精神を壊したんじゃないかと思う。
「ネイ」
ネイ「待っててください」
ネイが駆け寄り、彼女の額に手を当てて原因を探っている。
ネイ「……ダメです。何も見えません」
「見えない……」
ネイ「はい。記憶を見ようにも、あまりにも強すぎる蓋で他人には見えないようになっています。でも、蓋が開きかけて、そこから僅かに覗ける景色が彼女を苦しめているのかと」
相変わらず何を言ってんのかサッパリだが、要は精神を壊した状態に近いということで合ってるっぽい。だとしてーー
「今の映像は何だったんだ?」
ネイ「状況から察するに、エレノアにとってのトラウマだと思います」
「だろうな」
それが一番しっくり来る理由だからな。まあ、だからといって何なのかまでは分からんが。
「立チ去レ……」
そうこうしてるうちに、何やら人型の黒い塊みたいなもんがやって来る。その数、実に100は超えているだろうか?いつの間にか周りを囲まれちまった。
「立チ去レ……」
「立チ去レ……」
「立チ去レ……」
「立チ去レ……」
「去ってほしいなら、道くらい空けてくれねぇかな」
とりあえず1歩も動けないでいるエレノアを抱え、どこに逃げようかとネイと背中を合わせて中央に追い詰められていく。
「どうするよ、ネイ。炎で燃やしちまうか?」
ネイ「それが出来たら楽なんですけどね。見た感じ、存在する次元が違うんで魔法は効きませんよ。まあ、向こうからの普通の攻撃も効かないとは思いますが」
あの色の無い影を使ってきた男と似た感じか。ただ、そうなると、今のネイの言い方的に普通の攻撃はしてこねぇんだなと予想する。
「立チ去レ……」
「待て」
突如として聞こえてきた声を合図に、黒い塊達は水のようにドロっと溶けてどこかへと消えてしまった。
「誰だ?」
声の主を求め、辺りを見渡す。しかし、どこにもその声の主はいない。
「ここさ。上の方だよ、ヴァルくん」
「上?」
上を見上げ、また1周ぐらいグルっと回った後、俺は奴がどこにいるのかをようやく理解した。
奴は上の方にあるガラス張りの一角から俺達を見下ろし、そしてゆっくりと空中散歩をしながら俺達のところに降りてくる。
「……!お前……!いや、嘘だろ……」
降りてきた男の顔に俺は見覚えがあった。付き合いは誰よりも短いと思うが、それでも俺の背中を押し、俺の記憶にしっかりと書き込まれている人物。
「アルト……」
アルト「覚えてもらえて光栄だよ、ヴァルくん。それに、ネイくん」
白衣を身につけ、相も変わらず紳士的な笑みを浮かべるアルトはあの時から何も変わっていなかった。そう、こんな場所にいるってことさえ除けば、敵だとは思えないくらいに。
ネイが俺の後ろに回り、思いっきり敵意をアルトに向ける。俺はエレノアを抱えつつも、狼狽えた目でアルトを見る。
アルト「……そうか、エレノアくんは思い出してしまったか」
「お前……」
アルト「ヴァルくん。彼女は僕が面倒を見よう。君達のところにいるよりも早く治るよ」
俺の言葉には耳を貸さず、アルトは流れるような動作でエレノアを抱え、またあの一角に戻って行った。
ネイ「ヴァル、何してるんですか!」
「あ……!」
しまった……!つい流されるように渡しちまった。いや、でも、まだアルトが敵だと決まったわけじゃ……。
アルト「ヴァルくん、ネイくん。君達はこの世界が何なのか。この世界はどのようにして生まれたのか。それを知りたくてここに来たんじゃないのかな?」
「あ……あぁ……」
気をしっかりと持て!俺!相手は知らない相手でもなければ脅威になるような奴でもない。ただの人間のはずだ。何をビビってやがる……!
アルト「先に答えから行こう。この世界を創り出したのは僕だ。僕が、この理想郷を創り出した」
「……なんでだ」
アルト「簡単な話だ。僕はこんな不幸な結末の世界を望まない。この世界は誰にとっても救いのある世界になってもらわないと困る。今はかつての世界で生き残った者達にとっての幸せを創っている。ゆくゆくは、全ての人にとって、何もかもが幸せな理想郷を創るつもりだ」
アルトが言ったことは、正に俺が実現したかった、いや、出来ることならそんな世界にしたかったという願望に沿ったものだった。
ネイ「戯言ですか……」
しかし、ネイは冷たくアルトの理想を嘲笑った。
アルト「……そうかもしれないね。神である君にとって、僕の理想は現実味の無さすぎる妄想かと思うかもしれない。でも、僕は本気でその理想を叶えるよ。現に、君達はその一端を見たはずだ」
一端……もしかしてーー
「シアラのことか?」
アルト「それも一例だね。彼女にとって、愛するべき者と共にいられることは何よりの幸せだった。だから僕はその願いを叶えた。小さいことかもしれないが、僕には人の願いを叶える力がある」
「……」
俺はチラとネイの方を見た。冷たい目でアルトを見据える彼女は、見た目こそ元の姿とは違うが、俺にとって"ネイが生きている"という願いを体現したものなのかもしれない。
この世界が終わればネイは消えてしまうのか?
ふと、そんな疑問が脳裏を過る。アルトに聞いてみようかとも思ったが、答えによっては俺もエレノアのようになっちまうかもしれないと思い、聞くことを躊躇った。
ネイ「それで、そんな他人の願いを叶えるような理想郷を創って、あなたは何をしたいんですか?」
アルト「何をしたいのか。その答えは言ったはずだ。僕はこの世界を救いのある世界にする。でも、僕の邪魔をするような相手がいるというのなら、僕は容赦なくこの世界から排除しようと思うよ」
ネイ「……」
アルトが創り出したこの世界はある意味正しい。みんなが幸せになれる世界なんていらないわけがない。でも、この世界が存在するとして、じゃあ俺達がいたあの絶望の世界はどうなっているのだろうか?
「アルト、1つ聞いていいか」
アルト「いいよ。1つと言わず、知りたいことには何でも答えてあげよう」
「……俺達が元いたあの世界。理想とは呼べないあの世界は、今、どうなってんだ?」
アルト「……あの世界はまだ、現実にある」
「現実?」
アルト「そう。この世界は夢の世界。みんなはあの世界で寝ている。そして、僕の世界にお呼ばれしたのさ」
それって……
「俺の、世界……」
アルト「そうかもしれないね。君が主である夢の世界。その世界を、言い方は気持ちよくないかもしれないが、利用させてもらった。僕の世界に統合し、この世界を作り出した。つまり、君と僕の世界は今、繋がっているというわけかな?」
「……ネイ、そんなことって、出来るのか?」
ネイ「出来ませんよ。普通は」
ってことは、やっぱ普通じゃねぇんだな、こいつ。
アルト「現実に君達の肉体はある。僕の肉体もね。でも、この世界が現実になれば、あの世界が夢だったことになる。この世界が正しかったことになるのさ。いずれは」
「……恐ろしい創り方だな」
アルト「そうだね。言い換えれば、このまま放っとけば現実の君達は死ぬことになるってことだからね。でも、この世界は向こうの世界と原理は何1つ変わらない。殺そうと思って殺せば死ぬし、逆に新たな生命を育むことも出来る。ご飯を食べて美味しいとも感じられるし、幸せそうに眠ることだって出来る。この世界が現実になったところで、君達が恐れるようなことは何も起きないんだよ」
「……」
アルト「だから、僕に全てを任せてくれないか?君達が望む、最高の世界を創り上げてみせるよ」
……この世界が何なのか。今日、ここに来たのはそれを調べるためで、その目的は果たされた。そして、俺はアルトの創る世界に共感している。現実の俺達が死ぬのだとしても、意識はこちらに残り、そしてこちらで肉体を得るのなら、何も怖いことは無い。むしろ、メリットの方が大きい。だから、俺はこの場を黙って立ち去ろうとした。でも、付いてきてくれるはずの子が付いてこない。
「……おい、ネイ」
ネイ「……戯言。どこまで行っても、理想は理想。叶えられるはずもないものをなぜ追いかけるんですか?あなたがこうしたところで、みんながみんな、幸せになれるわけじゃないって言うのに」
アルト「それは違うね。僕はみんなを幸せにする。例外なんて創らない。僕はみんなを幸せにするんだ」
ネイ「傲慢……。そして実に怠惰。人間から立ち上がる力を奪おうとするなんて、怠惰な世界を創り出すだけですよ」
アルト「……僕の世界に共感出来ないのならそれでいい。でも、君の相方はこの世界を理解してくれている」
ネイ「……ヴァル?」
ネイが怒ったような目付きで俺を見てくる。
「……お前がどう思ってるのかは知らねぇけど、俺はアルトの言ってることは間違ってないと思う」
ネイ「……ヴァルまで。……いや、それが正しいのかもしれません。でも、私はこの世界を認めない!」
ネイはアルトの方を向き、強い声でそう言った。
アルト「……君はまだこの世界を知らなさすぎるだけだ。この世界に住む人間をもっとよく観察してほしい。そして、言葉を交わしてほしい。それでも尚、この世界が認められないと言うのなら、その時、僕を倒しに来るといい。出来るかどうかは知らないけどね」
そう言うと、アルトは奥の方へと消えていった。
ネイ「……ヴァル」
「なんだ?」
《パンっっっ!!》
いきなり頬を引っぱたかれた。
「……な、何すんだよ!」
ネイ「いえ、何となくそんなことをしたかったので」
特に涙を浮かべたとかそういうこともなく、ネイはサッと来た道を戻り始めていた。
ネイ「……少しだけ、この世界を観察してあげます」
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