グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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《Parallelstory》IIIStorys 【偽りの夢物語】

第12章9 【色慾の魔女】

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 色慾の魔女、コスモ・カラドビア。

 年齢は不明、出自も不明、分かっていることは強欲の魔女、ゼラ・スターフィリアが誕生した後に生まれた5番目の魔女であるということのみ。それ以外は一切分からず、また、彼女も自身の過去についてはあまり話さないし心にも思ってくれないため、私でも覗き見ることが出来ない。

 色慾の権限により、自身の見た目を自由に変更出来る。また、他人の目を盗むことができ、1度彼女に魅入ってしまったものは、そのまま呼吸さえも忘れて死んでしまうこともあるとかないとか。

「魔女……昔いた、7人のヤベェ奴ってことか……」

ネイ「そうですね。ヤベェ奴らです。私達が何かしようとすれば、必ず王国が動き出すような存在でしたからね」

 それはそれでお祭りみたいな感じで俺はいいな。まあ、1000年前の騎士団の連中にとっては傍迷惑以外の何者でもなかっただろうが。

「んで、エレノアがその魔女、コスモっていう奴なのか?」

ネイ「嘘だって言ったらどうします?」

「俺は何を信じれば良くなるんだよ」

 こいつは隠し事が多いが、嘘はつかない。でも、そんな奴が急に平気な顔して嘘を言うようになったら俺が困る。本当、この世界じゃこいつくらいしか信じられねぇってのに、それが無くなっちまったら俺はどうすりゃいいんだ?

ネイ「冗談ですよ。私が言うことに嘘偽りはありません。彼女はコスモ・カラドビアで間違いないです」

「そうか」

 まあ、それもそうか。今のはちょっとしたイタズラ心だったんだろうな。まあ、それはそれとして。

「なんで1000年前の魔女がここにいるんだ?魔女って確か、ゼラとお前以外はみんな死んでるはずだろ?」

ネイ「史実ではそうなってますが、レイジがそうであったように、魔女の権限を手にしたものは基本的に長寿です。顔と名前を変えてこっそり生きていたって何の不思議もないんですよ」

「そうなのか」

 こりゃ初耳だったが、確かに本物のレイジと一戦交えたんだから、魔女っていう存在が長生きだと言われても何ら不思議はねぇ。現に、目の前に魔女がいるんだしな。2人も。

ネイ「ただ、コスモが生きているとなれば少し不思議な点があるんです」

「不思議な点?」

ネイ「ヴァルは知らないでしょうけど、私がヒカリちゃんと一緒に星界に行った時の話です」

「ああ……」

 そういやそんなこともあったな。あの時ゃ、確か俺らはダークソウルと絶賛小規模な戦争中だったか。

ネイ「星界では、私達のお父さん。中身は別物なんですけど、ウルガを異空間から連れ出すために、3つの鍵を壊す必要がありました」

 ウルガ……ああ、あの目元が長い前髪で隠れてるあの龍人か。

ネイ「3つの鍵は、それぞれ星界軍総隊長ミルキーウェイ、私のお母さんであるユニバー・スターフィリア、そしてコスモ・カラドビアの3人が持っていました」

「……なんか、聞いた限りじゃ闇が深そうな面子だな」

 敵側になる奴らの総隊長に、母親に、魔女。ウルガって奴は、そうでもしなきゃ封印出来なかったんだろうな。

「……待てよ、そのウルガって奴と俺は言葉を交わしたこともあるし、一方的だけど拳も交わした。中身こそ、お前が戦った化け物じゃなくて、ちゃんとした方の奴だったんだろうけど……」

ネイ「流石に気付きますか」

 そら、簡単すぎる問題だったからな。

 ウルガを出すためには3つの鍵が必要。で、随分と前の話になるが、こいつから星界での事のあらましは大体聞いている。その鍵を持った奴ら全員を殺して、初めてウルガが解放されると。でも、そうなると……

「コスモは死んでるはず……。そういうことか」

ネイ「……」

 ネイが黙って頷き、俺は改めてエレノアの方を見た。

 死んでなきゃいけないはずの人間が生きている。そら、摩訶不思議な話だわな。

ネイ「一応、コスモの死因はずっと不明でした。私も、特に知りたいとか思わなかったので調べたことがありませんけど、これは少し調べた方がいいかもしれないです」

「かもな。もしかしたら、アルトがこいつと知り合いみたいな雰囲気してた理由も分かるかもしんねぇし」

 となれば、ここはこいつが持ってる書庫の出番か。

ネイ「ヴァル。期待されてるところ悪いんですけど、世界の書庫ワールドアーカイブは使えませんよ」

「おう、1年ぶり2回目だなって、これまたなんで急に……」

ネイ「……」

 さらっと聞き流そうかと思いはしたが、なんだかネイの表情が深刻そうに見えたので、冗談じゃねぇんだなって察した。

「……え、真面目に?」

ネイ「使えません」

「……」

 とことん弱体化されてるみてぇだ。まさか、本棚まで入れなくなってるとはな……。え、じゃあ、エレノアのことは自力で調べるしかないと?

「……そうだ。メモリがありゃあの森から入れるんじゃねぇのか?」

ネイ「それは試してみたんですけど……いえ、これは口で話すより見てもらった方が早いかもです」

「……?」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「……な、なんじゃこりゃぁ!?」

 久し振りの本棚を訪れ、俺はまず第一声としてそう叫んだ。

「え、ここ本当にあの真っ白な本棚?なんかの間違いじゃねぇの?」

ネイ「間違いなく世界の書庫そのものです」

「え……」

 眼前に広がるは青っぽい触手が木の根みたいに本棚全体に張り巡らされ、白かったはずの空間も不自然に点々と区切られた白黒の空間へと切り替わっている。なんだろうな、これ。まるでタイルを雑に貼ったらこうなりましたみたいな空間だな。

ネイ「この書庫全体に不自然なバグが起きているんです。景色が変わってるのはそのせいです。そして、その原因は……」

「この、触手みてぇなのか」

ネイ「はい」

 一応、触手の隙間から本を取り出して読むことは可能だったが、その本も何を書いてあるのかがサッパリ分かんねぇものだった。いや、字が分かんねぇんじゃなくて、分かる字ばっかなんだけど並べ替えられたみてぇに読みにくいものになってる(あと記号多すぎ)。

「こりゃ、確かに使い物にならねぇな……ん?じゃあ、お前の見た目がおかしいのって……」

ネイ「いえ、それは関係ありません」

「あ、そうか」

 すごいキッパリとした口調で言われたが、これだけは間違いないってことなんだろうな。

 まあ、それはそれとして、この空間どうすりゃいいんだろうな?

「試しに燃やしてみてもいい?」

ネイ「出来るものなら」

「極龍王の咆哮!」

 本棚も巻き込む勢いで触手に向けて炎をぶつけてみたが、焦げ跡1つすら残らぬ残念な結果になった。

「マジかよ……」

 こっちの世界でも前世界並に強くなってるはずだってのに、それを嘲笑うかのような結果だな。なんだこりゃ?

ネイ「多分、魔法が当たる直前にプログラムでデリートされてるんだと思います」

「ぷろぐらむ?」

ネイ「ヒカリちゃんがよくやってたあれです」

 あの機械から放たれる魔法の類か。

「なら、これもどっかに大元があるんじゃねぇのか?」

ネイ「それも考えて、恐らくそれがありそうな場所も分かってるんです」

「……なんか嫌な予感がすんな」

 そこまで分かってて、尚こいつが取り戻せない理由……詳しくまでは分かんねぇけど、なんとなくで察せられる。

「もしかして、めんどくせぇ迷宮になってて道が分からねぇとか言うんじゃねぇだろうな」

ネイ「結構具体的に当ててきますね」

「当たってんのかよ……!」

 俺、わざと外すように言ったってのに、マジでその通りなのかよ……。

「えーっと、じゃあ、その迷宮攻略出来たらどうにかなる?」

ネイ「分かりませんけど、アルトと戦うためには最低限やっとかないといけないものです。この空間を奪われたままだと、例え私達が勝ってもアルトが世界の主になりかねないので」

「なるほどな」

 俺は頭にぶら下がってくる蔦を掻き分け、少しだけ奥に行った。ちょっと気になるものがあってな。

「これ、トーキョーでヒカリがいじってたやつと一緒だな」

 四方を本棚に囲まれた場所で、大事そうに飾られたパソコンが置いてあった。

ネイ「あれ、前回来た時は無かったはずなんですけど……」

「場所が悪かったか、見逃してたか、探してなかったかのどれかだろ。とりあえず、これ操作してどうにか出来る部分ってのはねぇのか?」

ネイ「……ちょっと待っててください」

 ネイがパソコンをカタカタと打ち始め、何かをする……ように見えたが、これは多分、何もしてねぇ。指の動きはヒカリのアレと違ってめちゃくちゃ遅いし、うーんうーんと何回も唸ってるしで、本当に真反対な性格と趣味してんな、と改めて思ったのである。

「……もういい。諦めていいよ、ネイ」

ネイ「……すみません」

 すんと肩を落とし、ネイがパソコンの前から離れた。冷たい態度を取ってくるはずの今のこいつにしては、やけに素直に諦めたなと心の中だけで思っておく。

 代わりに、俺が何となくで分かりそうなものは無いかと探してみる。別に、こっからこの触手を消せなくたっていい。何か、この書庫の地図的なもんでも見つかればいいと思ったけど、よくよく考えたらこんなクソ広ぇ書庫に地図なんて意味あるのか?と少しだけ疑問に思ったところでそれに出くわした。

「……マジか、地図見つかった」

 本当にたまたまだと思うが、俺はこの書庫、具体的に言えば上の方に繋がる迷宮の地図を発見した。ーー発見したのはいいんだが……。

「これ、地図って呼んでいいのか?」

ネイ「……?」

 俺がふと浮かべた疑問に、ネイが横からパソコンを覗いてその意味を確認する。

ネイ「データ無し。唯一分かることは10階登った先に最終部があるということだけ……ですか」

「上に繋がる道が分かんねぇし、そもそも上に行くための場所すら分かんねぇ。ここ、一応聞いとくんだけど魔物とか出ねぇよな?」

 例え道が分からなくとも、手探りで探していくことは出来る。だが、もし万が一にもそんな邪魔してくるようなもの達がいるのであれば、命がいくつあっても足りなくなる。

ネイ「現れるわけないんですけど、現状のこの空間を見るに……」

 ーーそう。今現在の世界の書庫ワールドアーカイブでの状況が大事なんだ。恐らくアルトが介入していると思われるこの空間。それなりの番犬を用意している可能性だって否定出来ない。

「……一旦出直した方が良くねぇか?」

ネイ「そうですね……」
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