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《Parallelstory》IIIStorys 【偽りの夢物語】
第12章8 【まとまらない話し合い】
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「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
本当、何もかも上手く行かねぇな。
暗く沈んだギルド『グランメモリーズ』。かつては「静か」なんて言葉が絶対に似合わねぇほどにやかましかったはずだったが、今は正にその言葉が似合うような状態になっている。なぜか。その理由は明白だ。
「……全員、思い出したってことなんだな」
「「「 …… 」」」
その質問に、この場にいる全員が首を縦に振る。全員、そう、前の世界で生き残っていた俺の知り合いだ。
セリカ、エフィ、ミラ、シアラ、アルテミス、クロム、ゼイラ、ミューエ……そして、ネイ。今この場にはいないが、エレノアもいる。
セリカ「まるで……」
と、また暗くなりだしたところでセリカが口を開いた。
セリカ「まるで、催眠術にでもかかってたみたい……。本当に、この世界が本物なんだって、何も疑えなかった。ううん。疑うところなんて無かった……」
ゼイラ「私もです。あの王城にいることに何の違和感も抱かなかった。それどころか、私が犯した罪から逃げてることさえ忘れていました」
エフィ「私も、これが当たり前だと思ってました。当たり前の日常に、何の疑問も覚えず、ヴァルさんが問いかけてくれなかったらまだ気づいていなかったかもしれません」
ーーとまぁ、そんな具合に、ここにいる全員がアルトの夢から覚めた。そして、なぜかは知らんがこのギルドだけは向こうの世界と同じものに変わった。
エフィとミラは例外だが、その他面子は全員ネイの言葉によって目が覚めている。果たして、あいつになんの力があるのかは知らんが、とりあえず疑問を抱かせることが大事なんだろう。
クロム「……それでだ。俺達は全員、元の世界……。あの、絶望の世界を思い出したわけだ。だが、お前達の話を聞いた上での疑問がある」
「なんだ?」
クロム「俺にはどうも、こちらの世界が良いように感じる。もちろん、前を見て歩けというのは何も間違ってないし、否定する気もない。だが、この世界だって前を見て歩くために必要なものなんじゃないのか?」
「そりゃぁ……」
俺もそうは思う。例え偽りなんだとしても、何も変わらないと言うのであればこちらの世界で良いと思う。でも、それを絶対に許さない奴がいて、俺はそいつの為に戦うと決めた。
ネイ「……」
ネイと一瞬目を合わせてから俺は話を始める。
「確かに、俺もこの世界で良いとは思った。だけど、この世界の創造主と話をすればするほど、俺はこの世界に対して疑心が増してくんだ。俺達の本当の肉体がある現実側がどうなるのか。そして、完全にこの世界に呑まれた俺達がどうなっちまうのか」
ミューエ「怪しすぎて信頼出来ないという事ね」
「ああ。そういうことだ。それに、みんなが催眠術みたいって言ったように、あいつの言葉には人を惑わすような何かがあるんじゃないかと思う」
ミラ「惑わす力ねぇ……」
アルテミス「心に干渉する力ってことかな?」
「まあ、ここはあいつの心の世界なんだし、そんくらいのことは平気でやって来る気はする」
クロム「なるほどな」
全員、ひとまずは納得してくれたか……。
クロム「それで、話を続けさせてもらうが……」
間髪入れず、クロムが口を開く。
クロム「結局のところ、俺達はそのアルトという奴と戦わなければならんのか?」
「まあ、お互いに譲れねぇもんのために争うんだ。あいつだって、その時になりゃ拳を振るう覚悟くらい出来てんだろ」
クロム「それもそうか……」
ゼイラ「……しかし、本当に戦わなければならないのですか?」
「……どういう意味だ?」
ゼイラ「私は民を守れず、邪龍討伐のために協力してくださったギルドの皆様を無惨にも死なせてしまいました」
「ああ、知ってる」
ゼイラ「この世界が嘘なんだっていうのはよく分かります。しかし、この世界では皆さんが生きています。生きていて欲しかった人達が生きているんです」
……そりゃ、俺だって考えたさ。
ゼイラ「アルトという人物の言葉には疑心が増すものなのかもしれません。でも、悪事を働こうとする人が、わざわざ自分の世界を使ってまでこんな世界を作ると思いますか?」
「「「 …… 」」」
ゼイラ「私はアルトという人物と話をしてみたいです。その上で、私はこの世界を認めたい。そう思います」
……そのアルトと話した俺がこうなんだが、流石は一国の女王。そうはいかないらしいな。
ネイ「ゼイラ王女。その件で1つだけアドバイスをしてあげますよ」
ゼイラ「ツクヨミ様……?」
ネイ「この世界は1人の男が作り出した精神世界に過ぎません。だから、その男にもしものことがあった時、この世界は崩れ、現実の私達も巻き添えを喰らいます」
ゼイラ「……現実の……私達が……」
ネイ「それに、こんな間違った方法で運命を矯正しようものなら、運命の矯正点が修正をしにやって来る。その時、私達が、あの男がどうなるかは未知数。少なくとも、いい方向に転ぶことはありません」
なるほどな。運命の流れは絶対ってことか……。
シアラ「……それでも」
ネイ「ヴェルドと一緒にいられるならこっちの世界が良い、ですか?」
シアラ「……はい」
まあ、シアラは当然そう思うだろう。元の世界のシアラは、ヴェルドを目の前で失ったショックから廃人も同然になっていたわけだ。好きな奴と一緒にいられて、普通の生活が出来るってんなら、わざわざこの世界の創造主と争う必要も無い。
……俺も、もしネイがヴェルドみてぇな感じで存在してるってのが分かれば、例え誰がなんと言おうとアルトの邪魔は誰にもさせない自信がある。だから、シアラがこの場でなんと言おうと、俺は否定しない。似たような境遇だからな。
ネイ「……バカですね」
ーーしかし、ネイはそんなシアラの気持ちを踏みにじるように、そう嘲笑った。
ネイ「死んだ人間にいつまで縋り付く気なんですか。あなたがどれだけ願おうとも、死んだ人間は帰ってこない。死体を抱き締めて涙を流されたって迷惑なんですよ……あ、最後のは聞かなかったことにしてください」
「……」
死体を抱き締めて……か。
シアラ「それでも……」
ネイ「繰り返し言いますが、この世界は危険です。あの男の夢に囚われてしまえばどんな事が起こるか分からない」
シアラ「でも!シアラは幸せになりたいんです!」
口出しを許さない態度のネイに対し、シアラが珍しく声を荒らげてネイの横槍を防ぐ。
シアラ「ネイさんはヴァルさんと一緒にいられるからそれで結構なんでしょう!?でも、シアラにはヴェルド様しかいなくて、そのヴェルド様が目の前で死んでしまったんです……!好きの一言も言ってくれない人が、先に死んでしまったんです……!シアラには諦められないんです!」
ボロボロと涙を零しながらシアラは心から叫ぶ。
シアラ「ヴェルド様のいない世界なんて何の価値もありません……。だから死にたかった……!でも、死ぬ勇気がシアラにはありませんでした……!」
ネイ「……なら、今この場で私が殺してあげましょうか?」
シアラの叫びに対し、ネイが冷たくそう言い放ち、鞘から剣を抜く。
「おい、ネイ!」
たまらず立ち上がり、ネイから剣を奪い取って壁に突き刺さるように投げた。
ネイ「なんですか。私は彼女の望みを叶えようとしてあげただけですよ」
「シアラは本気で死にてぇなんか思っちゃいねぇよ。こいつは、例えあの大バカ野郎が死んだとしてもどうにか生きる目的を探そうとする強い奴なんだ。今、たまたまその生きる目的が見つかったからそれを望んでるだけだ。お前はもう少し人の気持ちを考えろ」
シアラ「ヴァルさん……」
ネイ「……」
「お前がこの世界を認めたくねぇ気持ちは分かる。でも、この世界に救われた奴がいて、そいつらがどう思ってるのかも考えろ。じゃなきゃ、またアルトに負けて終わりだ」
ネイ「……」
ネイは何も言わず、拗ねたガキのように背中を向けて地下の方に降りて行った。
セリカ「……あー、ヴァル?大丈夫?」
「ん?あぁ、俺なら何ともねぇよ。みんなも外見で気付いてると思うけど、今のあいつは何かが違うんだ。だから、シアラも許してやってくれ」
シアラ「あ、はい。シアラも、ワガママを言いすぎました」
それ以上は何も言わず、シアラはそっとその場に腰を落ち着けた。
ミューエ「壊すにしろ、認めるにしろ、期限は1週間。そうだったわよね」
「ああ。1週間後にまたアルトのところに行く。その時、どうなってるかは俺達次第だが、確かにもう一度あいつと話をしたいというのもある……」
セリカ「なんか、難しそうだね……」
「多分、今行っても門前払いされるような気がすんだよな。ちゃんと1週間待てって感じで。だから、こっちからは今は何も出来ねぇと思う」
クロム「まあ、1週間で各々が考えをまとめればいいということだろう。今そいつのところに行けば、確実に俺達はそいつの言葉に振り回されるかもしれんからな」
「ああ、そうだな」
ーーそれから、特に話すことも無く、みんなはそれぞれの在るべきところへと帰って行った。クロムはイーリアスに、ゼイラは王都に、といった具合だ。
俺は、拗ねて地下の方に行ってしまったネイのところに行く。一応、俺はアルトと戦うって決めたのに、立場がブレブレだからな。しっかりとした態度を見せてやらねぇと不安だろ。
《コンコン》
「ネイ、ここだろー?」
いつもの救護室の扉をノックし、返事を待ってみるが、待てど暮らせど何も返ってこない。
「ここじゃねぇのか?」
ガチャりとノブを回し、部屋に入る。すると、目に入ってくるのは眠ったままのエレノアだけ。ここじゃなかったか……
「……そういや、こいつはこいつでこの世界に何を求めてるんだろうな」
エレノアが眠るベッドの横に椅子を置き、ネイみたいによく眠るエレノアの顔を確認する。余程泣き疲れてしまったのか、まだ涙腺がハッキリと残り、隈も酷い。
あれは、エレノアの視点から見た殺人現場みたいなもんだったか。ギルドに入る以前のエレノアのことは何も知らない。そもそも、俺が入るより前からいた子だ。あんまり仕事を一緒にするような仲でもなかったし、1年くらいギルドを開けていた期間とかもあったしで、こいつの過去を聞くような機会は無かった。
「気になりますか。彼女の過去」
「っ……!?」
不意に背後からあいつの声が聞こえ、椅子から崩れ落ちながらも後ろを振り返った。
「お、お前……!」
ネイ「焦りすぎですよ。何をそんなに慌てるんですか」
「いや、別に慌てたわけじゃねぇよ……!」
少し驚いただけだ。
ネイ「で、彼女の過去、気になりますか?」
俺の片腕を掴んで引っ張り上げながら、ネイがそう聞いてきた。
「……まあ、本人の口から聞くのは厳しそうだから、軽く説明頼む」
ネイ「簡潔に言います。彼女、エレノアは本名コスモ・カラドビア。かつてこの世に存在した色慾の魔女です」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
本当、何もかも上手く行かねぇな。
暗く沈んだギルド『グランメモリーズ』。かつては「静か」なんて言葉が絶対に似合わねぇほどにやかましかったはずだったが、今は正にその言葉が似合うような状態になっている。なぜか。その理由は明白だ。
「……全員、思い出したってことなんだな」
「「「 …… 」」」
その質問に、この場にいる全員が首を縦に振る。全員、そう、前の世界で生き残っていた俺の知り合いだ。
セリカ、エフィ、ミラ、シアラ、アルテミス、クロム、ゼイラ、ミューエ……そして、ネイ。今この場にはいないが、エレノアもいる。
セリカ「まるで……」
と、また暗くなりだしたところでセリカが口を開いた。
セリカ「まるで、催眠術にでもかかってたみたい……。本当に、この世界が本物なんだって、何も疑えなかった。ううん。疑うところなんて無かった……」
ゼイラ「私もです。あの王城にいることに何の違和感も抱かなかった。それどころか、私が犯した罪から逃げてることさえ忘れていました」
エフィ「私も、これが当たり前だと思ってました。当たり前の日常に、何の疑問も覚えず、ヴァルさんが問いかけてくれなかったらまだ気づいていなかったかもしれません」
ーーとまぁ、そんな具合に、ここにいる全員がアルトの夢から覚めた。そして、なぜかは知らんがこのギルドだけは向こうの世界と同じものに変わった。
エフィとミラは例外だが、その他面子は全員ネイの言葉によって目が覚めている。果たして、あいつになんの力があるのかは知らんが、とりあえず疑問を抱かせることが大事なんだろう。
クロム「……それでだ。俺達は全員、元の世界……。あの、絶望の世界を思い出したわけだ。だが、お前達の話を聞いた上での疑問がある」
「なんだ?」
クロム「俺にはどうも、こちらの世界が良いように感じる。もちろん、前を見て歩けというのは何も間違ってないし、否定する気もない。だが、この世界だって前を見て歩くために必要なものなんじゃないのか?」
「そりゃぁ……」
俺もそうは思う。例え偽りなんだとしても、何も変わらないと言うのであればこちらの世界で良いと思う。でも、それを絶対に許さない奴がいて、俺はそいつの為に戦うと決めた。
ネイ「……」
ネイと一瞬目を合わせてから俺は話を始める。
「確かに、俺もこの世界で良いとは思った。だけど、この世界の創造主と話をすればするほど、俺はこの世界に対して疑心が増してくんだ。俺達の本当の肉体がある現実側がどうなるのか。そして、完全にこの世界に呑まれた俺達がどうなっちまうのか」
ミューエ「怪しすぎて信頼出来ないという事ね」
「ああ。そういうことだ。それに、みんなが催眠術みたいって言ったように、あいつの言葉には人を惑わすような何かがあるんじゃないかと思う」
ミラ「惑わす力ねぇ……」
アルテミス「心に干渉する力ってことかな?」
「まあ、ここはあいつの心の世界なんだし、そんくらいのことは平気でやって来る気はする」
クロム「なるほどな」
全員、ひとまずは納得してくれたか……。
クロム「それで、話を続けさせてもらうが……」
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クロム「結局のところ、俺達はそのアルトという奴と戦わなければならんのか?」
「まあ、お互いに譲れねぇもんのために争うんだ。あいつだって、その時になりゃ拳を振るう覚悟くらい出来てんだろ」
クロム「それもそうか……」
ゼイラ「……しかし、本当に戦わなければならないのですか?」
「……どういう意味だ?」
ゼイラ「私は民を守れず、邪龍討伐のために協力してくださったギルドの皆様を無惨にも死なせてしまいました」
「ああ、知ってる」
ゼイラ「この世界が嘘なんだっていうのはよく分かります。しかし、この世界では皆さんが生きています。生きていて欲しかった人達が生きているんです」
……そりゃ、俺だって考えたさ。
ゼイラ「アルトという人物の言葉には疑心が増すものなのかもしれません。でも、悪事を働こうとする人が、わざわざ自分の世界を使ってまでこんな世界を作ると思いますか?」
「「「 …… 」」」
ゼイラ「私はアルトという人物と話をしてみたいです。その上で、私はこの世界を認めたい。そう思います」
……そのアルトと話した俺がこうなんだが、流石は一国の女王。そうはいかないらしいな。
ネイ「ゼイラ王女。その件で1つだけアドバイスをしてあげますよ」
ゼイラ「ツクヨミ様……?」
ネイ「この世界は1人の男が作り出した精神世界に過ぎません。だから、その男にもしものことがあった時、この世界は崩れ、現実の私達も巻き添えを喰らいます」
ゼイラ「……現実の……私達が……」
ネイ「それに、こんな間違った方法で運命を矯正しようものなら、運命の矯正点が修正をしにやって来る。その時、私達が、あの男がどうなるかは未知数。少なくとも、いい方向に転ぶことはありません」
なるほどな。運命の流れは絶対ってことか……。
シアラ「……それでも」
ネイ「ヴェルドと一緒にいられるならこっちの世界が良い、ですか?」
シアラ「……はい」
まあ、シアラは当然そう思うだろう。元の世界のシアラは、ヴェルドを目の前で失ったショックから廃人も同然になっていたわけだ。好きな奴と一緒にいられて、普通の生活が出来るってんなら、わざわざこの世界の創造主と争う必要も無い。
……俺も、もしネイがヴェルドみてぇな感じで存在してるってのが分かれば、例え誰がなんと言おうとアルトの邪魔は誰にもさせない自信がある。だから、シアラがこの場でなんと言おうと、俺は否定しない。似たような境遇だからな。
ネイ「……バカですね」
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ネイ「死んだ人間にいつまで縋り付く気なんですか。あなたがどれだけ願おうとも、死んだ人間は帰ってこない。死体を抱き締めて涙を流されたって迷惑なんですよ……あ、最後のは聞かなかったことにしてください」
「……」
死体を抱き締めて……か。
シアラ「それでも……」
ネイ「繰り返し言いますが、この世界は危険です。あの男の夢に囚われてしまえばどんな事が起こるか分からない」
シアラ「でも!シアラは幸せになりたいんです!」
口出しを許さない態度のネイに対し、シアラが珍しく声を荒らげてネイの横槍を防ぐ。
シアラ「ネイさんはヴァルさんと一緒にいられるからそれで結構なんでしょう!?でも、シアラにはヴェルド様しかいなくて、そのヴェルド様が目の前で死んでしまったんです……!好きの一言も言ってくれない人が、先に死んでしまったんです……!シアラには諦められないんです!」
ボロボロと涙を零しながらシアラは心から叫ぶ。
シアラ「ヴェルド様のいない世界なんて何の価値もありません……。だから死にたかった……!でも、死ぬ勇気がシアラにはありませんでした……!」
ネイ「……なら、今この場で私が殺してあげましょうか?」
シアラの叫びに対し、ネイが冷たくそう言い放ち、鞘から剣を抜く。
「おい、ネイ!」
たまらず立ち上がり、ネイから剣を奪い取って壁に突き刺さるように投げた。
ネイ「なんですか。私は彼女の望みを叶えようとしてあげただけですよ」
「シアラは本気で死にてぇなんか思っちゃいねぇよ。こいつは、例えあの大バカ野郎が死んだとしてもどうにか生きる目的を探そうとする強い奴なんだ。今、たまたまその生きる目的が見つかったからそれを望んでるだけだ。お前はもう少し人の気持ちを考えろ」
シアラ「ヴァルさん……」
ネイ「……」
「お前がこの世界を認めたくねぇ気持ちは分かる。でも、この世界に救われた奴がいて、そいつらがどう思ってるのかも考えろ。じゃなきゃ、またアルトに負けて終わりだ」
ネイ「……」
ネイは何も言わず、拗ねたガキのように背中を向けて地下の方に降りて行った。
セリカ「……あー、ヴァル?大丈夫?」
「ん?あぁ、俺なら何ともねぇよ。みんなも外見で気付いてると思うけど、今のあいつは何かが違うんだ。だから、シアラも許してやってくれ」
シアラ「あ、はい。シアラも、ワガママを言いすぎました」
それ以上は何も言わず、シアラはそっとその場に腰を落ち着けた。
ミューエ「壊すにしろ、認めるにしろ、期限は1週間。そうだったわよね」
「ああ。1週間後にまたアルトのところに行く。その時、どうなってるかは俺達次第だが、確かにもう一度あいつと話をしたいというのもある……」
セリカ「なんか、難しそうだね……」
「多分、今行っても門前払いされるような気がすんだよな。ちゃんと1週間待てって感じで。だから、こっちからは今は何も出来ねぇと思う」
クロム「まあ、1週間で各々が考えをまとめればいいということだろう。今そいつのところに行けば、確実に俺達はそいつの言葉に振り回されるかもしれんからな」
「ああ、そうだな」
ーーそれから、特に話すことも無く、みんなはそれぞれの在るべきところへと帰って行った。クロムはイーリアスに、ゼイラは王都に、といった具合だ。
俺は、拗ねて地下の方に行ってしまったネイのところに行く。一応、俺はアルトと戦うって決めたのに、立場がブレブレだからな。しっかりとした態度を見せてやらねぇと不安だろ。
《コンコン》
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「ここじゃねぇのか?」
ガチャりとノブを回し、部屋に入る。すると、目に入ってくるのは眠ったままのエレノアだけ。ここじゃなかったか……
「……そういや、こいつはこいつでこの世界に何を求めてるんだろうな」
エレノアが眠るベッドの横に椅子を置き、ネイみたいによく眠るエレノアの顔を確認する。余程泣き疲れてしまったのか、まだ涙腺がハッキリと残り、隈も酷い。
あれは、エレノアの視点から見た殺人現場みたいなもんだったか。ギルドに入る以前のエレノアのことは何も知らない。そもそも、俺が入るより前からいた子だ。あんまり仕事を一緒にするような仲でもなかったし、1年くらいギルドを開けていた期間とかもあったしで、こいつの過去を聞くような機会は無かった。
「気になりますか。彼女の過去」
「っ……!?」
不意に背後からあいつの声が聞こえ、椅子から崩れ落ちながらも後ろを振り返った。
「お、お前……!」
ネイ「焦りすぎですよ。何をそんなに慌てるんですか」
「いや、別に慌てたわけじゃねぇよ……!」
少し驚いただけだ。
ネイ「で、彼女の過去、気になりますか?」
俺の片腕を掴んで引っ張り上げながら、ネイがそう聞いてきた。
「……まあ、本人の口から聞くのは厳しそうだから、軽く説明頼む」
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