355 / 434
《Parallelstory》IIIStorys 【偽りの夢物語】
第12章7 【枯れた花】
しおりを挟む
エレノア「お願いです。お願いですから……!諦めてください……!」
泣きながら剣を振るエレノア。隈が酷く、まともに眠れていないことがよく分かる。そんな不安定な剣、意図も簡単に返せるはずなのだが……
「っ……!」
生憎、花々の力をまともに借りられず、魔法による補正も出来ない私では、そんな弱々しい剣にすら負けてしまう。
剣と剣がぶつかり合い、カチンと金属音を鳴らす度、私の腕が軋む。明らかにパワー負けしている。
「……本当、よくこんなものでここに乗り込んだものですよ」
私は強かった。強かったが、もうそれは過去の話なのだろう。
アヌに敗北し、ヴァルを助けるためにこの身を投げ出し、そして無惨にも死んでしまった。ヴァルが死んだら世界を破壊するとか言ってたくせに、自分の方が先に死んだのだ。残されたヴァルはどう思ったのだろうか?
怒った?
泣いた?
嘆いた?
悲しんだ?
苦しんだ?
それとも何も思わなかった?
「ごめんなさい。私、ヴァルのことも自分のことも全然分かってなかったようです」
分かった気になっていて、みんなと馴染めたと思っていて、でも、結局は全て夢物語で……
本当、勘違いも甚だしいところだ。私は、私は何をしていたのだろうか?何のために生きていたのだろうか?何のために戦ったのだろうか?何のために死んだのだろうか?何のために、今、ここで抗っているのだろうか……。
そう。私にだって分かってる。こっちの世界の方が幸せだって。素直に認めてしまえばいいって。でも、それじゃぁ、私はどこに在る?
私という存在はどこに在る?
私はなんのために生きる?
私は幸せになれる?
アルト「分かっているんだろう。君だって、この世界の方がずっと幸せだってことくらい。それに、彼のことを思うのなら、君はこの世界を認めるべきだ」
考えに水を刺すように、偉そうに上から覗き込んでくるアルトがそう言う。
「……ふざけないでください。私はこの世界を認めません。認めるわけにはいかないんです」
アルト「なぜだい?君はこの世界の神様でもないのに」
「……」
エレノア「そうです……。お願いですから、これ以上戦わないでください……。私達のために……」
私達のために……か。
誰のためなんだろう。
なんでなんだろう。
分かんない。
本当、何も分かんねぇや。
「っ……」
頭がズキっと痛む。それも、不自由になった右目の方が特に痛い。
何も映してくれない右目が何かを訴えている。その訴えている何かは分からない。でも、私自身、理解していることがある。気付いていることがある。それが何なのかは分からないけど、でも、そのことのせいでこの世界を認められないでいる。
ヒカリちゃん……。あなたは今、苦しんでいますか?
「……いや、今"あっち"を気にしてもダメか」
痛みが治まったところで、私は剣を握り直す。そして、鞘からもう1本、愛剣の無名の剣を取り出す。
「そろそろ名前をつけなきゃないけないんですけどね。中々良いものが浮かび上がりませんよ」
両手に剣を持つと流石に重たい。重たすぎて引き摺るように持ってなきゃならない。
エレノア「……そんな、弱々しい力で何が出来るって言うんですか……」
「弱々しい……まあ、そうですよね。私は弱い。力も心も、共に弱くなってしまった」
エレノア「だったら、なんでこの世界を認めてくれないんですか……!認めてくれたら、あなたさえ認めてくれたら……!」
「何度も言いますけど、それは無理な話ですよ」
私は剣を引き摺りながらもエレノアに近づく。
エレノア「お願いですから……、これ以上、私と戦わないでください……!」
「……そうですね。戦いたくないですね」
辛いのは嫌です。苦しいのも嫌です。泣くのも嫌です。
叫ぶのも嫌です。死ぬのも嫌です。あの人に会えなくなるのも嫌です。
嫌なことばっかりしかない世界が嫌です。でも、自分達が積み上げてきたものが全て無くなるのも嫌です。
「嫌なことばっかりありますけど、元々それが私なんです」
エレノア「……」
「分かってます。この世界が無くなったらどうなるのか。この先の未来がどうなるのか。きっと、悲しいことばかりでしょう」
エレノア「だったら……なんで……!」
やっとの思いでエレノアの真正面に立つ。
「……それでも……生きていかなきゃいけないからです」
彼女の心に触れ、その世界を縛るものを解放する。
エレノア「うっ……!!」
大粒の涙を零し、彼女がその場に跪く。そして、大きな叫び声を上げてゆっくりと眠ってしまった。
「……お姉ちゃんと同じように苦しんでください。でないと、いつまで経っても前に進めませんから」
エレノアが持つ、7色の剣を拾い上げ、代わりに夜月の剣を地面に突き刺す。
アルト「……あまり、感心しないよ。僕は」
彼が珍しく怒りを顕にしている。
「残念ですけど、私にはまだこの力があるみたいです」
アルト「人の記憶をこじ開ける力か」
「言い方が悪いですね。思い出させる力と言ってください」
アルト「どっちだっていいさ」
アルトが立っていた場所のガラスが消え、階段が出来上がる。それをゆっくりと降り、彼が私に近付いてくる。
アルト「僕は暴力が嫌いなんだ」
「ええ。私もです」
アルト「でも、最終的に人に言うことを聞かせる方法は暴力だ。野蛮だけど、僕はそれに頼るしか無くなったようだ」
「お相手しますよ」
エレノアの剣に力を注ぐ。僅かな量しかない花弁を集め、僅かにしか発動出来ない怠惰と強欲の力も集める。
「怠惰と強欲をSevenColorsに統合。新たなる権限として、ここにLostColorsを生成」
私の持ちうる限りの能力を女神の権限に集約させ、新たに生み出された権限で奴と、アルトと戦う……!
アルト「……世界の理だ。僕の世界で魔法、権限の使用を禁止する」
「……力を示せ。死花の剣!」
色を失い、枯れた花弁がアルトを包み込む。そして、彼の体から生気を奪い取る。だが、彼は手を少し横になぞるだけで、枯れた花弁を消してしまった。
アルト「まさか、僕の世界で好き放題を働ける人間がいるとはね。君は邪魔だ。本当は自分から認めてほしかったけど、それも無理なら強制的に世界に馴染ませるしかない」
今度は彼の方から数字の羅列が送られ、私の周囲を取り囲む。しかし、私はその影響を全く受けない。
なぜならーー私は、もう失われているから。
アルト「……」
「無駄ですよ。私にもあなたのそれは効かない。彼と違って、私は意思で反逆してるんじゃありません。私が、この世界に馴染めないようになってるだけです」
アルト「……」
「そろそろ不毛な争いもやめましょう。どちらかが死ななければならない戦いで、あなたは私を殺せない。でも、私にはあなたを殺せる覚悟がある」
アルト「……僕は悲しいよ」
「ええ。勝手に悲しんでてください」
アルト「……本当に、悲しくて仕方ない」
私は剣を振り上げた。彼の首を切り落とし、世界を元に戻すために……!
「さようなら。あの時、相談に乗ってくれて少しは嬉しかったんですよ」
アルト「……」
「極龍王の彷徨ッ!!」
剣を振り落とそうとした瞬間、私とアルトの間を灼熱の炎が通り抜けていった。
「今のは……!」
私が気付くよりも早く、炎がアルトの顔を蹴り上げ、私と彼との距離を無理矢理引き離した。
「……ヴァル」
ヴァル「お前、やっぱ何も見えてねぇな。俺もだけどよ」
……迎えに来てくれた。迎えに……来てくれた……。
ヴァル「お前、あのままだったあいつの策に引っかかって死んでたぞ」
「え……」
ヴァル「あいつ、なんか毒針みてぇなの持ってやがった。殺すはちょっと言いすぎたかもしねぇけど、確実にお前がお前じゃなくなるところだった」
そう言うと、ヴァルはアルトの方を強く睨む。
ヴァル「どっちが悪いとか、何の因果があるのか知らねぇけど、少なくともネイに手ぇ出そうとしたお前の言うことを俺は聞けなくなった!」
アルト「……」
ヴァル「悪ぃけど、お前の絵空事。例えどんだけ良いもんだとしても一気に信じられなくなった」
アルト「きっと、君は後悔するよ」
ヴァル「もうデケェ後悔してんだ。今更それ以上のもんがあるかよ」
アルト「…………それでも、僕としてはまだ考えてほしい」
やがて、諦めたように首を振り、彼が階段を上りながらそう言う。
アルト「考えて考えて、それでも僕の世界を望まないと言うのなら、改めてここにやって来るといい」
彼はこちらを振り向きもせず、階段を上りきって姿を消した。
アルト「期限は1週間だ。それ以上は待てない。その時、君達が認めないというのであれば、僕も本気で君達を倒す。この、僕が思い描いた世界を叶えるために」
最後には、アナウンスのような機械音声でそう言われた。
「……っ……!」
体から力が抜け、情けなく血を吐く。やっぱり、この体にはあまり無理をさせられないようだ。
ヴァル「……悪ぃなネイ」
ヴァルにお姫様抱っこで持ち上げられ、彼の情けない顔でそう言われた。
ヴァル「俺、信じるべきものがなんなのか全然分かんなくなってた。この世界を拒否したら、お前が消えちまうんじゃねぇかって、すげぇ怖かった。だから、この世界を認めたかった」
「……私の方こそ、自分勝手な理由で、ヴァルの気持ちを何も考えられてませんでした」
ヴァル「そりゃお互い様だろ」
「……」
ヴァル「さっき、あんなことをあいつに言っちまったけど、俺はまだ迷ってる。この世界の是非を」
「……理由……は、私ですか」
ヴァル「ああ。お前が元の世界にもいてくれるのか、それともやっぱり夢だから消えちまうのか。お前、本当はどうなるのか分かってるんじゃねぇのか」
「……」
確かに、彼の言う通り私がどういうプロセスで蘇ったのかは検討がついている。でも、それを話していいのかは分からない。私だって怖いのだ。
「……私は消えませんよ。それだけは確かです」
言葉を考え、どこまで伝えていいのかを自分の中で整理し、私は一言だけ伝えた。
ヴァル「本当か?」
「はい。それだけは確かです。でも、どうやって蘇ったのかまでは言えません」
ヴァル「……分かった。今はそうしとく」
不安なことは山程あるけど、今はこれでいいだろうと私は思う。少なくとも、彼を泣かせずに済むのであれば……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……本当、隠し事しかしねぇ奴だ。
この世界を認めないために戦うとは決めたが、場合によっちゃ俺はすぐに手のひらを返す準備が出来ている。情けないほどに一貫性が無いが、今回ばかりはそれで許してほしい。
電池切れで眠り始めたネイを抱え、近くに倒れていたエレノアをどうにかこうにか背中に巻き付けて運んでいると、若干どころじゃないくらいにネイの方が軽いということが分かる。
身長はほぼ同じ。むしろ、胸の大きさとか龍の羽とか尻尾でネイの方が重たいはずなんだが、なぜか軽い。まるで、中身のねぇ死体を運んでるみたいだ。
「死体……」
そうだ。この重さ、向こうの世界でずっと抱えていたネイの死体と同じ重さなんだ。……ってことは……。
「消えないとは言ってたが、死ぬ可能性はあるってことかよ……クソっ……!」
気づかなけりゃ覚悟が揺らめぐことも無かったのにな、クソっ!
「セリカー、アルテミスー、今戻ったぞー」
研究所の扉を押し開け、待ってくれてるはずの2人に声をかける。そして、顔を一旦ネイから離して正面を見ると、2人が頭を押さえて倒れ込んでいた。
「……は」
どういう……ことだ……?
泣きながら剣を振るエレノア。隈が酷く、まともに眠れていないことがよく分かる。そんな不安定な剣、意図も簡単に返せるはずなのだが……
「っ……!」
生憎、花々の力をまともに借りられず、魔法による補正も出来ない私では、そんな弱々しい剣にすら負けてしまう。
剣と剣がぶつかり合い、カチンと金属音を鳴らす度、私の腕が軋む。明らかにパワー負けしている。
「……本当、よくこんなものでここに乗り込んだものですよ」
私は強かった。強かったが、もうそれは過去の話なのだろう。
アヌに敗北し、ヴァルを助けるためにこの身を投げ出し、そして無惨にも死んでしまった。ヴァルが死んだら世界を破壊するとか言ってたくせに、自分の方が先に死んだのだ。残されたヴァルはどう思ったのだろうか?
怒った?
泣いた?
嘆いた?
悲しんだ?
苦しんだ?
それとも何も思わなかった?
「ごめんなさい。私、ヴァルのことも自分のことも全然分かってなかったようです」
分かった気になっていて、みんなと馴染めたと思っていて、でも、結局は全て夢物語で……
本当、勘違いも甚だしいところだ。私は、私は何をしていたのだろうか?何のために生きていたのだろうか?何のために戦ったのだろうか?何のために死んだのだろうか?何のために、今、ここで抗っているのだろうか……。
そう。私にだって分かってる。こっちの世界の方が幸せだって。素直に認めてしまえばいいって。でも、それじゃぁ、私はどこに在る?
私という存在はどこに在る?
私はなんのために生きる?
私は幸せになれる?
アルト「分かっているんだろう。君だって、この世界の方がずっと幸せだってことくらい。それに、彼のことを思うのなら、君はこの世界を認めるべきだ」
考えに水を刺すように、偉そうに上から覗き込んでくるアルトがそう言う。
「……ふざけないでください。私はこの世界を認めません。認めるわけにはいかないんです」
アルト「なぜだい?君はこの世界の神様でもないのに」
「……」
エレノア「そうです……。お願いですから、これ以上戦わないでください……。私達のために……」
私達のために……か。
誰のためなんだろう。
なんでなんだろう。
分かんない。
本当、何も分かんねぇや。
「っ……」
頭がズキっと痛む。それも、不自由になった右目の方が特に痛い。
何も映してくれない右目が何かを訴えている。その訴えている何かは分からない。でも、私自身、理解していることがある。気付いていることがある。それが何なのかは分からないけど、でも、そのことのせいでこの世界を認められないでいる。
ヒカリちゃん……。あなたは今、苦しんでいますか?
「……いや、今"あっち"を気にしてもダメか」
痛みが治まったところで、私は剣を握り直す。そして、鞘からもう1本、愛剣の無名の剣を取り出す。
「そろそろ名前をつけなきゃないけないんですけどね。中々良いものが浮かび上がりませんよ」
両手に剣を持つと流石に重たい。重たすぎて引き摺るように持ってなきゃならない。
エレノア「……そんな、弱々しい力で何が出来るって言うんですか……」
「弱々しい……まあ、そうですよね。私は弱い。力も心も、共に弱くなってしまった」
エレノア「だったら、なんでこの世界を認めてくれないんですか……!認めてくれたら、あなたさえ認めてくれたら……!」
「何度も言いますけど、それは無理な話ですよ」
私は剣を引き摺りながらもエレノアに近づく。
エレノア「お願いですから……、これ以上、私と戦わないでください……!」
「……そうですね。戦いたくないですね」
辛いのは嫌です。苦しいのも嫌です。泣くのも嫌です。
叫ぶのも嫌です。死ぬのも嫌です。あの人に会えなくなるのも嫌です。
嫌なことばっかりしかない世界が嫌です。でも、自分達が積み上げてきたものが全て無くなるのも嫌です。
「嫌なことばっかりありますけど、元々それが私なんです」
エレノア「……」
「分かってます。この世界が無くなったらどうなるのか。この先の未来がどうなるのか。きっと、悲しいことばかりでしょう」
エレノア「だったら……なんで……!」
やっとの思いでエレノアの真正面に立つ。
「……それでも……生きていかなきゃいけないからです」
彼女の心に触れ、その世界を縛るものを解放する。
エレノア「うっ……!!」
大粒の涙を零し、彼女がその場に跪く。そして、大きな叫び声を上げてゆっくりと眠ってしまった。
「……お姉ちゃんと同じように苦しんでください。でないと、いつまで経っても前に進めませんから」
エレノアが持つ、7色の剣を拾い上げ、代わりに夜月の剣を地面に突き刺す。
アルト「……あまり、感心しないよ。僕は」
彼が珍しく怒りを顕にしている。
「残念ですけど、私にはまだこの力があるみたいです」
アルト「人の記憶をこじ開ける力か」
「言い方が悪いですね。思い出させる力と言ってください」
アルト「どっちだっていいさ」
アルトが立っていた場所のガラスが消え、階段が出来上がる。それをゆっくりと降り、彼が私に近付いてくる。
アルト「僕は暴力が嫌いなんだ」
「ええ。私もです」
アルト「でも、最終的に人に言うことを聞かせる方法は暴力だ。野蛮だけど、僕はそれに頼るしか無くなったようだ」
「お相手しますよ」
エレノアの剣に力を注ぐ。僅かな量しかない花弁を集め、僅かにしか発動出来ない怠惰と強欲の力も集める。
「怠惰と強欲をSevenColorsに統合。新たなる権限として、ここにLostColorsを生成」
私の持ちうる限りの能力を女神の権限に集約させ、新たに生み出された権限で奴と、アルトと戦う……!
アルト「……世界の理だ。僕の世界で魔法、権限の使用を禁止する」
「……力を示せ。死花の剣!」
色を失い、枯れた花弁がアルトを包み込む。そして、彼の体から生気を奪い取る。だが、彼は手を少し横になぞるだけで、枯れた花弁を消してしまった。
アルト「まさか、僕の世界で好き放題を働ける人間がいるとはね。君は邪魔だ。本当は自分から認めてほしかったけど、それも無理なら強制的に世界に馴染ませるしかない」
今度は彼の方から数字の羅列が送られ、私の周囲を取り囲む。しかし、私はその影響を全く受けない。
なぜならーー私は、もう失われているから。
アルト「……」
「無駄ですよ。私にもあなたのそれは効かない。彼と違って、私は意思で反逆してるんじゃありません。私が、この世界に馴染めないようになってるだけです」
アルト「……」
「そろそろ不毛な争いもやめましょう。どちらかが死ななければならない戦いで、あなたは私を殺せない。でも、私にはあなたを殺せる覚悟がある」
アルト「……僕は悲しいよ」
「ええ。勝手に悲しんでてください」
アルト「……本当に、悲しくて仕方ない」
私は剣を振り上げた。彼の首を切り落とし、世界を元に戻すために……!
「さようなら。あの時、相談に乗ってくれて少しは嬉しかったんですよ」
アルト「……」
「極龍王の彷徨ッ!!」
剣を振り落とそうとした瞬間、私とアルトの間を灼熱の炎が通り抜けていった。
「今のは……!」
私が気付くよりも早く、炎がアルトの顔を蹴り上げ、私と彼との距離を無理矢理引き離した。
「……ヴァル」
ヴァル「お前、やっぱ何も見えてねぇな。俺もだけどよ」
……迎えに来てくれた。迎えに……来てくれた……。
ヴァル「お前、あのままだったあいつの策に引っかかって死んでたぞ」
「え……」
ヴァル「あいつ、なんか毒針みてぇなの持ってやがった。殺すはちょっと言いすぎたかもしねぇけど、確実にお前がお前じゃなくなるところだった」
そう言うと、ヴァルはアルトの方を強く睨む。
ヴァル「どっちが悪いとか、何の因果があるのか知らねぇけど、少なくともネイに手ぇ出そうとしたお前の言うことを俺は聞けなくなった!」
アルト「……」
ヴァル「悪ぃけど、お前の絵空事。例えどんだけ良いもんだとしても一気に信じられなくなった」
アルト「きっと、君は後悔するよ」
ヴァル「もうデケェ後悔してんだ。今更それ以上のもんがあるかよ」
アルト「…………それでも、僕としてはまだ考えてほしい」
やがて、諦めたように首を振り、彼が階段を上りながらそう言う。
アルト「考えて考えて、それでも僕の世界を望まないと言うのなら、改めてここにやって来るといい」
彼はこちらを振り向きもせず、階段を上りきって姿を消した。
アルト「期限は1週間だ。それ以上は待てない。その時、君達が認めないというのであれば、僕も本気で君達を倒す。この、僕が思い描いた世界を叶えるために」
最後には、アナウンスのような機械音声でそう言われた。
「……っ……!」
体から力が抜け、情けなく血を吐く。やっぱり、この体にはあまり無理をさせられないようだ。
ヴァル「……悪ぃなネイ」
ヴァルにお姫様抱っこで持ち上げられ、彼の情けない顔でそう言われた。
ヴァル「俺、信じるべきものがなんなのか全然分かんなくなってた。この世界を拒否したら、お前が消えちまうんじゃねぇかって、すげぇ怖かった。だから、この世界を認めたかった」
「……私の方こそ、自分勝手な理由で、ヴァルの気持ちを何も考えられてませんでした」
ヴァル「そりゃお互い様だろ」
「……」
ヴァル「さっき、あんなことをあいつに言っちまったけど、俺はまだ迷ってる。この世界の是非を」
「……理由……は、私ですか」
ヴァル「ああ。お前が元の世界にもいてくれるのか、それともやっぱり夢だから消えちまうのか。お前、本当はどうなるのか分かってるんじゃねぇのか」
「……」
確かに、彼の言う通り私がどういうプロセスで蘇ったのかは検討がついている。でも、それを話していいのかは分からない。私だって怖いのだ。
「……私は消えませんよ。それだけは確かです」
言葉を考え、どこまで伝えていいのかを自分の中で整理し、私は一言だけ伝えた。
ヴァル「本当か?」
「はい。それだけは確かです。でも、どうやって蘇ったのかまでは言えません」
ヴァル「……分かった。今はそうしとく」
不安なことは山程あるけど、今はこれでいいだろうと私は思う。少なくとも、彼を泣かせずに済むのであれば……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……本当、隠し事しかしねぇ奴だ。
この世界を認めないために戦うとは決めたが、場合によっちゃ俺はすぐに手のひらを返す準備が出来ている。情けないほどに一貫性が無いが、今回ばかりはそれで許してほしい。
電池切れで眠り始めたネイを抱え、近くに倒れていたエレノアをどうにかこうにか背中に巻き付けて運んでいると、若干どころじゃないくらいにネイの方が軽いということが分かる。
身長はほぼ同じ。むしろ、胸の大きさとか龍の羽とか尻尾でネイの方が重たいはずなんだが、なぜか軽い。まるで、中身のねぇ死体を運んでるみたいだ。
「死体……」
そうだ。この重さ、向こうの世界でずっと抱えていたネイの死体と同じ重さなんだ。……ってことは……。
「消えないとは言ってたが、死ぬ可能性はあるってことかよ……クソっ……!」
気づかなけりゃ覚悟が揺らめぐことも無かったのにな、クソっ!
「セリカー、アルテミスー、今戻ったぞー」
研究所の扉を押し開け、待ってくれてるはずの2人に声をかける。そして、顔を一旦ネイから離して正面を見ると、2人が頭を押さえて倒れ込んでいた。
「……は」
どういう……ことだ……?
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる