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《Parallelstory》IIIStorys 【偽りの夢物語】
第12章20 終章 【正夢の現実】
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目が覚めた時、そこにあるのは焦燥感ただそれのみだった。
「…………」
日数的にはほんの数日。だけれども、やけに長い時間をあの世界で過ごしたような気がする。
「あの世界は夢だったが、でも、ちゃんと現実だったわけか」
俺がそう感じた理由は、腕の中に抱き締めていたはずの死体がなくなり、代わりに黒薔薇の刀があったからだ。これが、あの世界で起きたことは紛れもなく現実だったと俺に教えてくれる。
「でもよ……やっぱ辛いんだよ……」
この腕にはもう二度と帰ってこない。帰ってこれないあいつのことを思い、俺はまた涙を流す。最後に交したあいつとの約束。俺に幸せになれなんて言ったけども、それは無理そうだな。
だって、どうやって幸せになりゃいいのか分かんねぇんだから。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーー1ヶ月後。
あれからどうしたらいいのかを色々と考えた。現実世界に帰ってきた他の奴らと色々話し、俺なりの方針を固めた。
クロムは無き姉の願いを継いで、孤児院をシアラと一緒に創設したらしい。意外な組み合わせだったが、それなりに上手くやってるらしいのでシアラの心の傷もそのうち癒えんだろうな。
ミラとエフィはシグルアの街でギルドを再建したらしい。2人ともそれくらいしかやることがないとか言っていたが、そんなもん、あのギルドが好きじゃねぇと出来ねぇよな。俺もそのギルドの再建に何かしらしたかったが、王様っていう要らねぇ肩書きがあるせいで手を出せなかった。まあ、この混乱する世界で自警団的な存在を果たしてるって聞いてるし、特に問題は無いだろう。
そしてミューエに関しては、歌姫として世界を放浪しているらしい。自分で才能が無いとか言っていたが、彼女の歌声を聞いているとなんだか元気になってくるって言う人が多いとのことから、彼女は自分が出来ることをやっている。デルシアに似て他人思いの良い奴になったってとこか。
ゼイラ王女に関しては、とりあえず俺の秘書をやってもらってる。彼女が色々と立ち向かったとしても、世間からの風当たりは強い。これから彼女が自分の罪を償っていくためにも、まず死ぬわけにはいかないし、俺としても死なせたくはないから近くに置いて守ってるって状況だ。うーん、立場逆転みたいな感じだけど、色々と終わった後には玉座をそのまま明け渡す算段でいる。
後は、セリカとアルテミスか……。あいつらは王都で色々とやっているらしいが、あんまり俺のところに話は入ってこない。多分、大きなことをやってるわけじゃないから話が来ないだけで、実際はこの荒廃した世界のために色々とやってくれてると思う。ってか、その辺についてはこれから本人達に聞く予定だしな。
セリカ「そっか……。じゃあ、ヴァルしばらくこの街から離れるんだね」
「まあ、そうなるな。あいつとの約束ってわけじゃねぇけど、俺は俺が出来ることを見つけたいんだよ」
セリカ「そっか……」
あー、ちょっと、話は逸れるが、俺はこれからちょっとした放浪の度に出かける気でいる。みんなが色々やってんのに、俺が何もやらねぇってのはどうかと思うからな。別に王様だからとかそういうのが理由じゃねぇ。ただ、今は何かをしておきたい気分なんだ。
セリカ「ヴァルだから大丈夫だと思うけど、1人で出るって結構怖くない?」
「何で?」
セリカ「だって、こんな世界じゃあちこちに盗賊がいるって聞くし、テミがそれとなくで治安維持してるけど、それでも1人じゃ限られてるし……」
「ああ……まあ、そこは優秀な護衛雇ったから大丈夫だよ」
セリカ「護衛?」
「多分、そろそろ来るはずだが……あ、来た来た」
街の大通りから、白色の騎士服に身を包んだ女騎士が現れる。金髪ショートのその髪は戦士の勇ましさを象徴しており、腰に携えてある七色の剣は彼女の決意を表している。
エレノア「遅れてすみません。ヴァルさん」
「そんな待ってねぇよ。むしろ丁度いいくらいの時間だ」
セリカ「エレノアが護衛……。確かに優秀な護衛だね」
「だろ?」
エレノアもあの世界で色々乗り越え、今じゃすっかり自分に自信が持てるようになった。ちゃんと魔女だったって記憶は残ってるし、あっちの世界の記憶も他のメンバー同様覚えている。その上で、彼女は誰かを守ることを生き甲斐とし、その1人目として俺を選んでくれたわけだ。
エレノアほどに強い奴が護衛でいてくれるのなら、下手したら俺は何もしなくてもよくなるかもしれないな。まあ、そうなればなればで、俺は世界を見ることに集中出来るわけだし、最高の相棒だな。
「まあ、そんなこんなで多分大丈夫だから心配すんな。1年経ったらまた帰ってくるから」
セリカ「1年も空けるつもりなの……」
エレノア「多分、あのネイさんを崇拝するゼイラさんがいるから大丈夫だと思いますよ」
セリカ「まさかの影武者作戦!?」
「まあ、なんかあったらお前が助けになってやれよ。同じ精霊魔導士だろ?」
セリカ「う、うん。そりゃそう……なの?」
「とりあえずしばらく留守を任せたって話だ。んじゃ、そろそろ行くか、エレノア」
エレノア「はい。くれぐれも無茶をしないよう気を付けてくださいね。セリカさん」
セリカ「わ、分かった。……うん。行ってらっしゃい」
「ああ、行ってきます!」
セリカと軽くハイタッチして、俺達はようやく旅に出た。いや、出ようとしたって言ったところかな。
歩いて早々、すれ違った人から漂う甘い香り。何気なくいい匂いだなと思って、俺はハッと気付いた。
エレノア「どうかしました?」
「……今、すれ違った奴……」
エレノア「はい?」
この匂い……間違いねぇ。月下美人の花だ!
慌てて後ろを振り向く。しかしそこは大通りということもあり、例えこんな世界だとしても人通りはそれなりにあるので、さっきすれ違った奴を見つけることは出来なかった。だがーー
「悪ぃ、エレノア。もう少しだけ待っててくれ!」
エレノア「は、はい!」
人混みを掻き分け、さっきすれ違った奴を探して俺は走った。まだ匂いは残ってる。あの甘くて優しい香りがまだ残ってるんだ!
「そんな……いや、まさか……!」
ただの偶然かもしれない。それでも、その正体を知りたかった。例え勘違いだったとしても、僅かな可能性に賭けてみたかった!
だってーー
「好きな奴を……そう簡単に諦められねぇだろ!」
大通りを過ぎ去り、匂いを頼りに路地を曲がった。どこに向かってんのかが分からねぇ。でも、必死に後を追いかけ続けた。
クソっ。こっちが全力で走ってるってのに、なんで追いつけねぇんだよ!つか、この街ちょっと複雑すぎだろ!
「なんて文句言ってる場合じゃねぇんだよ」
やがて、桜並木に囲まれた幅の広い通路に辿り着く。そして、そこに匂いの正体を見つけた。見つけちまった……。
「ネイ!」
足首にまでかかる髪の長さ、葡萄染色のしなやかな髪、そしておおきな翼と尻尾。間違いねぇ。この後ろ姿は、ネイ……そのものだ。
「お前……なんで……いや、そんなのどうでもいい!」
1歩ずつ近寄り、俺はそいつの手を取ってこっちに振り向かせる。するとーー
「ネイ……それが、私の名前ですか?」
「……は」
そいつはそう言ってきた。
「思い出せないんです……。自分が何者なのか。なんでここにいるのか。分からないんです。何もかも、分からないんです……」
「ネイ……」
「……でも、少しだけ思い出せたことがあります」
そう言うと、ネイの方から俺の手を握ってきた。
ネイ「あなたが、私にとって大切な人だったということ。なぜだか、そんな気がするんです」
「……」
ネイ「あなたが誰なのかは分からない。でも、私にとって大切な人だったということに変わりはないと思うんです。……間違ってますか?」
「……違わねぇよ。お前の言う通りだよ……」
やべぇ。また涙が……
「俺にとっても、お前は大切な人だったんだよ!」
どうしても堪えきれず、ネイを抱き締めて思いっきり泣いた。
「生きてて……良かった……!」
ネイ「……私、何も分からないんですよ」
「それでもいい!お前が、お前が生きててくれてたんなら、それでいいんだ!」
ネイ「……なら、私も……」
ネイがそっと俺を離し、手を差し伸べてくる。
ネイ「私もあなたに再会できて良かった。また、あなたと出会えて良かった」
「……ああ、俺もだよ」
ネイ「だからまた……私と、今の私と思い出を作ってください。私に、色を与えてください」
「ああ、いくらでも与えてやる。また、俺達の物語を描こう」
だからーー
「また、お前をーー」
ネイ「待って」
俺の口に人差し指を立てられ、ネイが悪戯っぽく微笑む。
ネイ「ーーまた、好きにならせてください。あなたのことを、また好きにならせてください」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、ネイはそう言った。
ネイ「そして、思い出させてください。私のことを。あなたのことを」
「……」
もしかしたらまだ、俺は夢の中にいるのかもしれない。目が覚めてしまえば、こいつはいなくなってしまうのかもしれない。でも、俺には分かるんだ。
これは紛れもない現実だ。俺はちゃんと目を覚ましてるんだ。夢じゃねぇ。夢じゃねぇんだ。だからーー
「約束する。俺が必ずお前に思い出させてやる。俺がお前のことをどれだけ好きだったのか。そしてまた創ろう。俺達の物語を」
ネイの手を握る。その瞬間に、ふわっと風が舞い、桜の花弁が吹き抜けてゆく。
「だから、ネイ。また俺と……俺の隣にいてくれ」
ネイ「……はい。また、あなたの隣にいさせてください」
桜の花開く春。俺は長い夢から醒め、今日また現実を歩み始めた。色々と覚悟を固め、俺は俺の人生を見つけることにした。でも、その必要はなかったのかもしれない。
……母さん。俺、好きな子が出来たよ。同じ奴だけど、また好きになれたよ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
桜の木陰から2人を見守り、私は扉を開いた。
「良かったですね。ーー■■■」
扉の中から精霊界にアクセスする。魂の半分を代償に私は精霊として蘇った。そして、ヴァルから力を貰い、過去に渡る準備は整った。
「……やっぱり、お別れは寂しいですよ」
でも、思いっきり泣いたんだ。それに、ヴァルは幸せになった。だから、この世界に後悔はない。
「……私は何度でも愛しに行きます。例え何度繰り返すことになっても、私はあなたを愛する。それが私ーー」
ネイ・スターフィリアという人間だから。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「っ……!っ……!」
真っ赤に染まる景色。全身血まみれで、嫌なくらいにベトベトする。
「嫌っ……!嫌っ……!」
なんで……どうして……
「助けてよ……助けてよ……!ヴァル!」
左手に握ったナイフを首筋に当てる。もう、こんな世界生きていたくない。こんな私、生きてていいはずない。
死にたい……けど、怖い。でも、死にたい……。
なんで……なんで私だけが……。なんで私だけがこんな辛い思いをしなくちゃならないの……。
「っ……っ……」
ふと、横目にヴァイオリンが映り込んだ。
私がこの世界で見つけた居場所はそれだけだった。でも、やっぱりそんなもの幻想だった。
もう、なんでもいいや。
首筋に当てたナイフをそのまま勢いよく突き刺し、私はこの血塗られた人生に幕を下ろした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
如何だったでしょうか。
グランストリアは3つのエンディングを、用意しており、これはその内の1つであるBADEND後を描きました。まあしかし、私がBADのまま許すはずがないんでHappyにしましたが、それでも不穏な終わり方でしたね。これからは別で連載してたVeritas編をこっちに統合してやります。まあ、その前にアルファポリス版のエンディングである勝利の女神編も終わらせないといけないんですけどね。
「…………」
日数的にはほんの数日。だけれども、やけに長い時間をあの世界で過ごしたような気がする。
「あの世界は夢だったが、でも、ちゃんと現実だったわけか」
俺がそう感じた理由は、腕の中に抱き締めていたはずの死体がなくなり、代わりに黒薔薇の刀があったからだ。これが、あの世界で起きたことは紛れもなく現実だったと俺に教えてくれる。
「でもよ……やっぱ辛いんだよ……」
この腕にはもう二度と帰ってこない。帰ってこれないあいつのことを思い、俺はまた涙を流す。最後に交したあいつとの約束。俺に幸せになれなんて言ったけども、それは無理そうだな。
だって、どうやって幸せになりゃいいのか分かんねぇんだから。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーー1ヶ月後。
あれからどうしたらいいのかを色々と考えた。現実世界に帰ってきた他の奴らと色々話し、俺なりの方針を固めた。
クロムは無き姉の願いを継いで、孤児院をシアラと一緒に創設したらしい。意外な組み合わせだったが、それなりに上手くやってるらしいのでシアラの心の傷もそのうち癒えんだろうな。
ミラとエフィはシグルアの街でギルドを再建したらしい。2人ともそれくらいしかやることがないとか言っていたが、そんなもん、あのギルドが好きじゃねぇと出来ねぇよな。俺もそのギルドの再建に何かしらしたかったが、王様っていう要らねぇ肩書きがあるせいで手を出せなかった。まあ、この混乱する世界で自警団的な存在を果たしてるって聞いてるし、特に問題は無いだろう。
そしてミューエに関しては、歌姫として世界を放浪しているらしい。自分で才能が無いとか言っていたが、彼女の歌声を聞いているとなんだか元気になってくるって言う人が多いとのことから、彼女は自分が出来ることをやっている。デルシアに似て他人思いの良い奴になったってとこか。
ゼイラ王女に関しては、とりあえず俺の秘書をやってもらってる。彼女が色々と立ち向かったとしても、世間からの風当たりは強い。これから彼女が自分の罪を償っていくためにも、まず死ぬわけにはいかないし、俺としても死なせたくはないから近くに置いて守ってるって状況だ。うーん、立場逆転みたいな感じだけど、色々と終わった後には玉座をそのまま明け渡す算段でいる。
後は、セリカとアルテミスか……。あいつらは王都で色々とやっているらしいが、あんまり俺のところに話は入ってこない。多分、大きなことをやってるわけじゃないから話が来ないだけで、実際はこの荒廃した世界のために色々とやってくれてると思う。ってか、その辺についてはこれから本人達に聞く予定だしな。
セリカ「そっか……。じゃあ、ヴァルしばらくこの街から離れるんだね」
「まあ、そうなるな。あいつとの約束ってわけじゃねぇけど、俺は俺が出来ることを見つけたいんだよ」
セリカ「そっか……」
あー、ちょっと、話は逸れるが、俺はこれからちょっとした放浪の度に出かける気でいる。みんなが色々やってんのに、俺が何もやらねぇってのはどうかと思うからな。別に王様だからとかそういうのが理由じゃねぇ。ただ、今は何かをしておきたい気分なんだ。
セリカ「ヴァルだから大丈夫だと思うけど、1人で出るって結構怖くない?」
「何で?」
セリカ「だって、こんな世界じゃあちこちに盗賊がいるって聞くし、テミがそれとなくで治安維持してるけど、それでも1人じゃ限られてるし……」
「ああ……まあ、そこは優秀な護衛雇ったから大丈夫だよ」
セリカ「護衛?」
「多分、そろそろ来るはずだが……あ、来た来た」
街の大通りから、白色の騎士服に身を包んだ女騎士が現れる。金髪ショートのその髪は戦士の勇ましさを象徴しており、腰に携えてある七色の剣は彼女の決意を表している。
エレノア「遅れてすみません。ヴァルさん」
「そんな待ってねぇよ。むしろ丁度いいくらいの時間だ」
セリカ「エレノアが護衛……。確かに優秀な護衛だね」
「だろ?」
エレノアもあの世界で色々乗り越え、今じゃすっかり自分に自信が持てるようになった。ちゃんと魔女だったって記憶は残ってるし、あっちの世界の記憶も他のメンバー同様覚えている。その上で、彼女は誰かを守ることを生き甲斐とし、その1人目として俺を選んでくれたわけだ。
エレノアほどに強い奴が護衛でいてくれるのなら、下手したら俺は何もしなくてもよくなるかもしれないな。まあ、そうなればなればで、俺は世界を見ることに集中出来るわけだし、最高の相棒だな。
「まあ、そんなこんなで多分大丈夫だから心配すんな。1年経ったらまた帰ってくるから」
セリカ「1年も空けるつもりなの……」
エレノア「多分、あのネイさんを崇拝するゼイラさんがいるから大丈夫だと思いますよ」
セリカ「まさかの影武者作戦!?」
「まあ、なんかあったらお前が助けになってやれよ。同じ精霊魔導士だろ?」
セリカ「う、うん。そりゃそう……なの?」
「とりあえずしばらく留守を任せたって話だ。んじゃ、そろそろ行くか、エレノア」
エレノア「はい。くれぐれも無茶をしないよう気を付けてくださいね。セリカさん」
セリカ「わ、分かった。……うん。行ってらっしゃい」
「ああ、行ってきます!」
セリカと軽くハイタッチして、俺達はようやく旅に出た。いや、出ようとしたって言ったところかな。
歩いて早々、すれ違った人から漂う甘い香り。何気なくいい匂いだなと思って、俺はハッと気付いた。
エレノア「どうかしました?」
「……今、すれ違った奴……」
エレノア「はい?」
この匂い……間違いねぇ。月下美人の花だ!
慌てて後ろを振り向く。しかしそこは大通りということもあり、例えこんな世界だとしても人通りはそれなりにあるので、さっきすれ違った奴を見つけることは出来なかった。だがーー
「悪ぃ、エレノア。もう少しだけ待っててくれ!」
エレノア「は、はい!」
人混みを掻き分け、さっきすれ違った奴を探して俺は走った。まだ匂いは残ってる。あの甘くて優しい香りがまだ残ってるんだ!
「そんな……いや、まさか……!」
ただの偶然かもしれない。それでも、その正体を知りたかった。例え勘違いだったとしても、僅かな可能性に賭けてみたかった!
だってーー
「好きな奴を……そう簡単に諦められねぇだろ!」
大通りを過ぎ去り、匂いを頼りに路地を曲がった。どこに向かってんのかが分からねぇ。でも、必死に後を追いかけ続けた。
クソっ。こっちが全力で走ってるってのに、なんで追いつけねぇんだよ!つか、この街ちょっと複雑すぎだろ!
「なんて文句言ってる場合じゃねぇんだよ」
やがて、桜並木に囲まれた幅の広い通路に辿り着く。そして、そこに匂いの正体を見つけた。見つけちまった……。
「ネイ!」
足首にまでかかる髪の長さ、葡萄染色のしなやかな髪、そしておおきな翼と尻尾。間違いねぇ。この後ろ姿は、ネイ……そのものだ。
「お前……なんで……いや、そんなのどうでもいい!」
1歩ずつ近寄り、俺はそいつの手を取ってこっちに振り向かせる。するとーー
「ネイ……それが、私の名前ですか?」
「……は」
そいつはそう言ってきた。
「思い出せないんです……。自分が何者なのか。なんでここにいるのか。分からないんです。何もかも、分からないんです……」
「ネイ……」
「……でも、少しだけ思い出せたことがあります」
そう言うと、ネイの方から俺の手を握ってきた。
ネイ「あなたが、私にとって大切な人だったということ。なぜだか、そんな気がするんです」
「……」
ネイ「あなたが誰なのかは分からない。でも、私にとって大切な人だったということに変わりはないと思うんです。……間違ってますか?」
「……違わねぇよ。お前の言う通りだよ……」
やべぇ。また涙が……
「俺にとっても、お前は大切な人だったんだよ!」
どうしても堪えきれず、ネイを抱き締めて思いっきり泣いた。
「生きてて……良かった……!」
ネイ「……私、何も分からないんですよ」
「それでもいい!お前が、お前が生きててくれてたんなら、それでいいんだ!」
ネイ「……なら、私も……」
ネイがそっと俺を離し、手を差し伸べてくる。
ネイ「私もあなたに再会できて良かった。また、あなたと出会えて良かった」
「……ああ、俺もだよ」
ネイ「だからまた……私と、今の私と思い出を作ってください。私に、色を与えてください」
「ああ、いくらでも与えてやる。また、俺達の物語を描こう」
だからーー
「また、お前をーー」
ネイ「待って」
俺の口に人差し指を立てられ、ネイが悪戯っぽく微笑む。
ネイ「ーーまた、好きにならせてください。あなたのことを、また好きにならせてください」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、ネイはそう言った。
ネイ「そして、思い出させてください。私のことを。あなたのことを」
「……」
もしかしたらまだ、俺は夢の中にいるのかもしれない。目が覚めてしまえば、こいつはいなくなってしまうのかもしれない。でも、俺には分かるんだ。
これは紛れもない現実だ。俺はちゃんと目を覚ましてるんだ。夢じゃねぇ。夢じゃねぇんだ。だからーー
「約束する。俺が必ずお前に思い出させてやる。俺がお前のことをどれだけ好きだったのか。そしてまた創ろう。俺達の物語を」
ネイの手を握る。その瞬間に、ふわっと風が舞い、桜の花弁が吹き抜けてゆく。
「だから、ネイ。また俺と……俺の隣にいてくれ」
ネイ「……はい。また、あなたの隣にいさせてください」
桜の花開く春。俺は長い夢から醒め、今日また現実を歩み始めた。色々と覚悟を固め、俺は俺の人生を見つけることにした。でも、その必要はなかったのかもしれない。
……母さん。俺、好きな子が出来たよ。同じ奴だけど、また好きになれたよ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
桜の木陰から2人を見守り、私は扉を開いた。
「良かったですね。ーー■■■」
扉の中から精霊界にアクセスする。魂の半分を代償に私は精霊として蘇った。そして、ヴァルから力を貰い、過去に渡る準備は整った。
「……やっぱり、お別れは寂しいですよ」
でも、思いっきり泣いたんだ。それに、ヴァルは幸せになった。だから、この世界に後悔はない。
「……私は何度でも愛しに行きます。例え何度繰り返すことになっても、私はあなたを愛する。それが私ーー」
ネイ・スターフィリアという人間だから。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「っ……!っ……!」
真っ赤に染まる景色。全身血まみれで、嫌なくらいにベトベトする。
「嫌っ……!嫌っ……!」
なんで……どうして……
「助けてよ……助けてよ……!ヴァル!」
左手に握ったナイフを首筋に当てる。もう、こんな世界生きていたくない。こんな私、生きてていいはずない。
死にたい……けど、怖い。でも、死にたい……。
なんで……なんで私だけが……。なんで私だけがこんな辛い思いをしなくちゃならないの……。
「っ……っ……」
ふと、横目にヴァイオリンが映り込んだ。
私がこの世界で見つけた居場所はそれだけだった。でも、やっぱりそんなもの幻想だった。
もう、なんでもいいや。
首筋に当てたナイフをそのまま勢いよく突き刺し、私はこの血塗られた人生に幕を下ろした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
如何だったでしょうか。
グランストリアは3つのエンディングを、用意しており、これはその内の1つであるBADEND後を描きました。まあしかし、私がBADのまま許すはずがないんでHappyにしましたが、それでも不穏な終わり方でしたね。これからは別で連載してたVeritas編をこっちに統合してやります。まあ、その前にアルファポリス版のエンディングである勝利の女神編も終わらせないといけないんですけどね。
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