グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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IIIStorys 【勝利の女神】

第12章5 【反転した世界】

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デルシア「えっと……本当に大丈夫なんですよね?」

「多分絶対に大丈夫かもしれないです!」

デルシア「それどっちですか!?」

 過去に裏世界に通じていた創真の名も無い崖(一応白陽と黒月の戦争後からは血戦の地という、誰が考えたのかも分からない中二病みたいな名前が非公式に付けられてるらしい)に来ていた。

 崖際で不安いっぱいの顔を向けてくるデルシアに対し、私は両手を彼女に向けて精神世界を開くべく、解錠の術をデルシアに放つ。後ろの方では王族達がデルシア以上に不安な顔で見守り、私自身も上手く行くかどうか分からないために不安な顔になる。

 私の力が全盛期ほどあれば余裕だったと思う。でも、こんな状態じゃどこまで出来るかが分からない。最悪、世界を開くだけ開いて壊してしまうことになるかもしれない。そうならないように精一杯の努力はするけど、結果だけは見えない。

「でも、彼なら無茶してでもどうにかする!だから、私も!」

 デルシアの精神世界を無理矢理展開させる。辺りの景色が変わり、あの裏世界で見た城の屋上へと場所が変わる。背後に輝く美しい夕陽。デルシアの世界には、この場所が強い想いとして刻まれていたらしい。

シンゲン「この場所は……」

ミューエ「あっちの世界ね。でも、なんで?」

「なんでって言われましても……」

 私はデルシアの方を見て答えを求める。

デルシア「えっと……、ネイさんが自分の想いを強めてとか言ってたので、大事なものとかを色々思い浮かべてたら……」

ベルディア「それでこの世界になっちゃったわけね。本当、可愛い子なんだから」

デルシア「は、はい……。……?」

アルフレア「それで。運良くデルシアの精神世界とやらを開けたのはいいが、これでどうするんだ?」

「多分、この世界でならデルシアさんの力が最大限に発揮出来るはずです。だから、創世の剣を使ってーー」

デルシア「もしかして、それであの世界というか、本物のこの世界が生まれる未来を作るってことですか?」

「そういうことです」

 実際ここから上手くいく保証なんて無いけど、何となくデルシアなら出来る気がする。

デルシア「じゃあ、この世界を使ってもう一度現世にお父さんの世界を作りたいと思います」

 デルシアが創世の剣を手に持ち、夕陽に剣先を向けてから詠唱を始める。

デルシア「創世の未来・再顕の世界」

 ……

 ……

 ……

ベルディア「何か変わったのかしら?」

 特に世界に変化は起きず、皆がポカンとしている。

ミューエ「外の世界への干渉でしょう?なら、この世界では結果が分からないんじゃないかしら」

デルシア「どうなんですか?ネイさん」

ネイ「この世界で結果が見えないというのは間違いありません。とりあえず戻ってみて、あの崖に変化があるかどうかを見ないことには」

 という事で、今度はデルシア自らの力で世界を閉じ、またあの崖近くに場所が変わる。その瞬間ーー

「どうやら、余計なものがたくさん付いて回ってるようですねぇ」

「しゃあねぇよ。じゃなきゃあんたのところに泣きつきに行かねぇわ」

 また、あの白装束の集団と、片方は見覚えのある男2人が私達の前に立っていた。

ミューエ「あなた達、まだ諦めてなかったのね」

アメン「諦めるわけねぇだろ。賞金首だぜ?そいつは」

「それもありますが、研究対象としても実に興味深い素材。あ、私タハルカと言います。以後生きておられたらお見知り置きを」

 敵が一斉に攻めてくる。私の周りにいるシンゲンさん達を無視して、真っ先に私だけを狙ってくる。

アルフレア「貴様らの目的がなんだか知らんが、彼女は客人だ。故に守る義務がある。そうだろ?白陽という国は」

 ーーだが、綺麗に掻い潜ってきた敵をアルフレアが剣を地面に突き刺すだけで燃やしてしまう。しかし、それでもまだ何人か生き残りがいる。

シンゲン「ああその通りだな!そっちの方こそ守れって言われたら自分の命を賭けて全力で命を遂行するっていう熱い忠義の奴らで溢れてるらしいな!」

 今度はシンゲンが放った雷で白装束の集団は軒並み崩れ落ちた。

アルフレア「シンゲン。それは城の中だけでの話だな」

シンゲン「そうか。お宅の国が良く出来てるもんで混ざっちまったよ」

 2人の国王が放った強大な剣技により、囲まれていた状況から一転、今度はこちらが敵を取り囲むような形になる。

 一見すればこちらが有利だけれど、あのタハルカという男がこんな状況でも平然と笑っていられるのが不気味で、変な汗が流れ出る。

タハルカ「ふむ。やはり二大強国の王が相手ともなればこんなものですか」

ミューエ「余裕そうね」

アメン「余裕だろ。元々捨て駒前提で連れて来た雑魚なんだしよ。んま、今ので大体分かったからちょっとばかし本気でやるぜ!」

 剣を抜いて構えようとした瞬間、正面に強い風が発生して、直後、拳が視界いっぱいに映った。

「え……」

 何の反応も出来ず、その拳を顔面に喰らってしまい、体に若干の浮遊感が働く。そして、地面に当たる感触が無いまま、私の体に高いところから落下していくような変な重力が働く。

 慌てて手を伸ばしても、この左手は悲しく空を掴むだけ。翼を広げようにも包帯でしっかりと固定してるのと傷の痛みとで上手く動かせない。

「こんな……場所で死ぬなんて……」

 まだ名前すら思い出せてないのに、死んでしまうのか。

「いや……だ……」

 涙が空へと飛び立つ。目下に訪れた『死』という事象に対して体があからさまな恐怖を表す。喉の奥が震え、手足がちくちくと痺れた時のように痛い。そして、視界は自然と暗くなる。

 ……

 ……

 ……

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「っ……!」

 左手を空に突き出した状態で私は目が覚めた。……目が……覚めた。

「……生きて……る……?」

 体を起こすと、ズキっとした痛みが頭に走る。手を触れてみると、そこには新たに巻かれた包帯があり、また怪我をしたんだな、と呑気なことを考えていた。

「どこ……だろ……」

 どこか、質素な趣がある木造の部屋。ベッドは私が寝てるこの台1つだけで、他は枯れた観葉植物の植木鉢とやけに汚いキッチンがあるだけだった。

 ベッドから降り、辺りを散策しようとしてみると、今度は左足にズキっとした痛みが走る。

「骨折……」

 見れば左足は棒のようなもので固定されており、巻かれた包帯(包帯とは別物のような気もするが)もかなり分厚く巻かれている。

 自分の目から見ても惨めな姿になったものだ。まさか、ここまで私の治癒能力が落ちてるとは思いもしなかった。

「……まあ、あのネロに何かされた可能性も否定は出来ないんですけど」

 とりあえず壁に立てかけられてあった剣を手に、杖代わりにして歩き出す。この部屋は2階の存在しない一戸建てのようで、家主はとこにもいなかった。なら、ここで大人しく待っているべきなんだろうけどそんな悠長にしてられる時間はない。

 外に出ると、静かな夜の景色に鮮やかに燃え上がる松明が街路を照らしていた。

「街……?」

 それも、なんだか見覚えのある景色だ。

「違う……。ここ、シグルア?」

 街の雰囲気はちょっと違う気がするけれど、この建物の並び方はあの街とそっくりだった。普段方向音痴だからそんなに詳しく覚えてるわけじゃないけれど、雰囲気としては何となくで分かる。

「似てるだけ?それとも……」

「あー!」

 1歩を踏み出そうとした瞬間に背後から女の子の声が響いてきた。

「ダメだってまだ歩いちゃーもうー!」

 崩れそうになった私を背後から支え、軽々と私を抱えたその人物の顔に、私は見覚えがあった。いや、あったなんてもんじゃない。だって、その顔はーー

「セリ……カ……?」

 灰色の髪になって、容姿も凄く大人びていたが、その顔だけは私が知るものと全くもって同じだった。

セリカ?「ん?どうして私の名前知ってるの?名乗ったっけ?ってか、初めましてだよね?」

「え、いや……その……」

 私のことを知らない……いや、知らなくて当たり前だ。だって、顔だけは同じでもそれ以外が全くもって違うのだから。ただのそっくりさん……にしては、名前も同じって、そんな偶然あるか?

 そもそも、ここはどこなの。ここに運ばれてくる直前までの記憶が全然思い出せない。私、何をしてたんだっけ……

セリカ「えっと、大丈夫?いや、見た目の方じゃなくて精神的な意味で」

「……」

セリカ「え、きゅ、急に黙らないでよー!何かめっちゃ言いたそうな顔してるじゃん。超気になるんだけど」

 ……うーん、セリカはセリカでも、やっぱり違うな。私が知ってるセリカはこんなチャラチャラとしてないし、もっと貴族らしい礼儀の正しさ(最低限)はあったしなぁ。

「あの、ここどこですか」

 もっと他に聞きたいことはあったけども、今は話しても状況が良くなるとは思わなかったので、私はそのことだけを聞いた。

セリカ「えっとねー、ここはアルグシっていう名前の街。リグラク王国の首都にあたる街でーって、その顔だとなーんも知らなそうだね」

 なんだろう。今物凄く腹が立ってる。特に理由があるように思えないんだけど、今結構イラッと来た気がする。

セリカ「まあとりあえず今は大人しくしてて。丁度ミラさんから貰ってきたちゃんとしたお薬あるから」

 再びベッドの上に横になり、私はせっせと傷の手当をするセリカを見て少し不思議に思った。

 さっきミラさんとか言ってたし、アルグシって名前もシグルアをそのまま反転させただけの名前だ。なら、この世界はもしかしたらと思うところがある。

 ーーそう、この世界は裏世界。私が訪れたことのある場所はあの王城だけだったが、別の言い方をすれば訪れたことがあるのはその場所だけだ。他の場所には一切足を踏み入れたことは無い。

 なら、ここにいるセリカはそういう事なのだろうか?この世界は、文字通り何もかもを裏にした世界だと言うのだろうか?……いや、裏って言っても反転とはまた違うな。ここにいるセリカはサバサバとしてるけど、向こうのセリカは落ち着きがないお姫様って感じだし(なんかブーメラン刺さった気がするけどいいや)、これが逆になってるかって言われたらそうじゃないと自信を持って言える。

 表の世界と何もかもが似てるってだけの世界。そう考えるのが自然かな。まあ、ここら辺の問題はどうでもいいし、確証が欲しいのであればミューエはこっちの世界出身って話を1回聞いたことがあるし(あれ、これ作中に書いたっけ)、それだけで裏世界に住民がいることに説明はつく。

セリカ「よいしょっと。はい、これで出血は多少治まると思うよー」

「……」

 今塗ったのは何かの薬品?すぐにでも調べたいのだけれど、生憎世界の書庫ワールドアーカイブまで使えなくなってることに気が付く。

 そういえばアメン達と対峙した時に剣を抜くのも心做しか重く感じた気がするし、本格的に力が奪われてる気がする。時間経過で改編されたこの世界に適応するってこと?ーーいやいや有り得ない。だって、私はヨミとして歴史に組み込まれるはずなんだから力は残ってないと矛盾が発生する。

 ってことは、やっぱりあの男か。

セリカ「ねぇねぇ!あなた!」

「は、はい!」

 考え事に水を刺すように、大きな声が耳元で鳴り響く。

セリカ「ねぇあなたここらじゃ見かけない顔だけど、どっから来たのー?」

「ど、どこから……」

 答えにくい質問だ。表の世界……いや、この場合だとこっちから見ての裏世界になる場所から来たとでも言うか?信じてもらえるわけが無いし、言ったら言ったで変な奴だと思われるに違いない。

「えっと……」

 でもなんだか誤魔化しが効かなさそうな気がする。あっちのセリカなら適当な嘘で撒けるけれど、その逆になってるかもしれないって考えると適当は効かないと考える。

「信じてもらえないかもしれないんですけど……」

 思考時間だけ加速させ、散々悩んだ挙句、私は全てを正直に答えることにした。
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