グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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IIIStorys 【勝利の女神】

第12章4 【裏世界への道】

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「きゃぁっ!」

 体が思ったように動かない。怪我の反動がキツくて力が入らない。

アメン「弱体化してるって話は本当みてぇだな。ま、だから手は抜かねぇけどな!」

 大剣を両手に持ち、奴が豪快かつ細剣並の速さで剣を振るう。私はそれをたった1本の剣で防ぐが、2本もの大剣が相手となれば力差で押し負ける。

 丘の上をゴロンゴロンと転げ落ち、包帯が解けて血が吹き出る。これでも体は必死に再生してる方なんだけど、以前ほどの再生力が無い。このまま戦ってちゃ数分と持たずに死んじゃう……。

「なんで……なんで、私を狙うの……」

アメン「ああん?んなもん、てめぇを殺せって依頼が来てんだからそれ以上の理由なんざねぇよ!バカ!」

 依頼……多分、あのネロという男の仕業だ。

 体が自動で再生しないのならと、私は自分自身に治癒魔法をかける。どれだけ強力なものであっても、私の体にかかる効果は初期魔法程度の威力にしかならないが、これでも多少はマシになる。

 治癒術が効く。それは、私の体から邪龍の力が弱まっているという証拠。一体どうしてとは言わない。最後の戦いで力を使いすぎた。その反動が今になって来てるんだろう。

「はぁ……はぁ……」

 剣を構え直し、視線を真っ直ぐに相手へと向ける。

「五龍王……は無理だ。身体が負荷に耐え切れない」

 ならば、今の私が取れる選択は1つ。

「ここは逃げる!」

 剣を鞘に仕舞い、私は敵に背を向けて一目散に駆け出した。目指す場所は創真城。あの場所になら私の助けになってくれる人がいるはず。他のみんなみたいに忘れてなきゃいいのだけれど、仮に忘れてたとしてもあの優しい女王様なら何とかしてくれる。

アメン「あ?逃げんのかテメェ!剣士としてのプライドとかねぇのか!」

 剣士としてのプライドなんて元より持ってなどいない。私は勝つためだけの戦いしかしない。無駄なことはしたくない。

 奴が大剣を地面に当て、地響きを起こして私の進路を塞ごうとしてくるが、軽く翼を広げて浮遊し、街の方へと入り込んだ。

アメン「待てゴルァ!」

 一旦奴の視界から外れるように路地へと入り込み、そこから己の勘を信じて街の中を駆け巡る。ただでさえ間違った道を選びやすい私なのだから、そんな私を追いかけてたら奴も道に迷う……と思う。

 奴も街に入って来たが、乱暴なことをしなくなった。その気になれば街を破壊して私を追いかけることが出来るのに、それをして来ない。ネロもそうだが、ピンポイントで私だけを狙って攻撃するのがお好きな集団らしい。なら、私は更に人通りに紛れ込んで姿を眩ますだけ。目立つ格好をしてる私だけど、最悪奴に見つからずに王城に逃げ込めたら勝ちなので今は変装とかしてる時間はない。

アメン「クソっ!どこに行きやがったあの尼!」

 奴は建物の上に飛び上がり、高いところから私を探す作戦に変えたようだ。なら、こっちは路地に隠れて上からじゃ見えにくい場所を移動するだけだ。なんなら建物の中に逃げる択もあるし、こっちの方が有利。

 全く、こういう時に限ってヒカリちゃんの考え方が役に立つものです。もっと重要な局面でこの頭の良さを生かせると良いんですけど、自らの命に関わることじゃない限りは覚醒出来ませんね。

 ーーそれからしばらくの間、私は包帯を巻き直す意味も兼ねて路地裏で休憩を挟んだ。相変わらず奴は上の方からこちらを探してるようだが、上手く見つけられてないっぽい。なんなら明後日の方向に探しに行ってるから、このまま諦めてくれると嬉しいんですけどね。

「……よし、奴はいない」

アメン「って思わせるのが俺の作戦だって考えねぇのか?神様」

「え……」

 路地を抜け出したタイミングで、真正面に奴が降って来た。

アメン「神様の考えることなんざ丸分かりなんだよ。どうせ王城目指してんだろうから適当に離れてったら姿見せるだろうってな」

「っ……」

 慌てて後ろの方へと逃げ出したが、今度は白い服に身を包んだ集団がいて逃げ道が無くなっていた。

アメン「あ、そうそう言い忘れてたが、俺はボスと違ってちゃんと部下を使うタイプだ。こんな下っ端でも今の神様捕まえるだけだったら役に立つだろうからな」

 なら、上の方にーー

アメン「で、次は上に逃げようって考えんだろ?そこもお見通しってわけだ」

「あ……」

 建物の上にも所狭しと白装束の集団が構えていた。

アメン「出来れば殺さずに連れて来いって言われてんだが、それと同時に無理そうなら殺せって言われてんだよ」

「……」

 剣を抜いて構えるが、圧倒的に不利な状況下で出来る選択肢が無いということは自分が1番よく分かっている。でも、だからといってみすみすこの場で死んでやるつもりはない。

 どうする……。どうすればこの場を切り抜けられる。ヒカリちゃんなら、ヒカリちゃんならどう考える……。

「……」

 散々考えた挙句に、私は剣をその場に落とした。

アメン「へぇー。大人しくしてくれるってのか。まあ、それが1番楽だからありがてぇんだけどな」

「いえ違いますよ」

アメン「ああ?」

「聞こえてきませんか?あなたの首を今にも刈り取らんとせる音が」

アメン「脅しのつもりならやめとけよ、神様。生憎、俺はそんな冗談に付き合ってられるほどーー」

「いいえ、しっかりと鳴らしました。あなたの首を刈り取るための、私達の声を」

 ギザギザとした刃が突如としてアメンの後ろから現れ、その首に羽交い締めのようにして突き立てられる。

「運が悪かったわねぇ。私の可愛い可愛いデルシアは耳が良すぎるのよ」

「そういうことよ。大人しく死になさい。この外道共」

 周りにいた白装束の集団が次々に倒れる。そして、私の後ろから現れた2人の女がアメンにそれぞれの武器を突き付けてこう言い放った。

「助けに来ました」
「助けに来たわ」
「助けに来てあげたわ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ……

 ……

 ……

「……痛っ……!」

 若干意識が朦朧としていたところに、傷口に染みるような痛みが走る。

アマテラス「動いちゃダメよ。じゃないと骨折っちゃうかもしれないから」

サツキ「母様、流石にそこまでは……」

アマテラス「もちろんしないわよ。全く、いつまで経っても冗談の通じない子ね」

サツキ「はぁ……」

 ……そうか。あの後出血が酷くて1回倒れたんだっけ。

 段々とはっきりしてきた意識で辺りを見渡すと、どこかよく分からない和風の木造部屋に、正面にアマテラスさんとサツキさんがいる状況。しかも、アマテラスさんが私の治療か。

 何の気なしに近くにあったゴミ箱を見てみると、そこには赤く染った何かが大量に積まれてた。……あれ、全部私の血?

アマテラス「うーん……血が止まる感じがしないわねぇ。どうなってるのかしら?」

 やがて諦めたかのように包帯をきつく巻いて無理矢理止血させてきた。

「……あの、デルシアさん達は」

サツキ「姉さん達ならまだ兄さん達と会議中だと思いますが」

 私の質問にサツキが怪訝な表情で答えてくる。

「……私の顔に何か付いてます?」

サツキ「い、いえ、そういうわけではなく……ただ、何となくというかーー」

アマテラス「あなたをどこかで見たことがある。でしょ?サツキ」

サツキ「は、はい。その通りです」

アマテラス「私も不思議な感覚なのよ。あなたとの関わりなんて無いはずなのに、どこかで出会った覚えがある。それも、私達にとってかなり重要な人だったような。そんな記憶がね」

「……」

 やっぱり、忘れちゃってるのか。私のことも、彼のことも全部。それでも違和感を持ってくれてるのは、きっと、彼が関係しないところでの時間軸が存在してるからなのだろう。

 いや、だとしたら、なぜ私のことも忘れてる……って考えようとしたけど、そういえばセリカ達も私のことを忘れてたし、この世界から存在を消されてるのは彼だけではなかったと思い返した。

アマテラス「で、聞きたいのだけれど」

「……は、はい」

 急に顔を覗き込み、母親のように優しい表情を見せてくるアマテラスさんに、思わずビクッとなって後ろに倒れてしまった。

アマテラス「あらあらごめんなさい。少し驚かせちゃったかしらね」

「い、いえ……大丈夫です」

 すぐに起き上がり、また椅子に座り直してアマテラスさんに目線を合わせた。

 どことなく、お母さんに似てる。そんなどうでもいい印象が今私の中を駆け巡った。

アマテラス「あなた、デルシアとはどんな関係なのかしら?」

「どんな関係?」

アマテラス「そう。あなたとデルシアの関係性。あの子、大事な大事な会議中に急に飛び出してね、慌ててみんなで後を追いかけて行ったらそこにはあなたがいた。デルシアは今その事でたっぷり怒られてるでしょうけど、そうまでしてあなたを助けに行った理由が気になるの。それも、何の前触れも無しだからね」

 って、言われてもなぁ……。

「デルシアさんが勝手にそうしたとしか……」

 今の私に答えられるのはこれくらいかな。もしかしたらヒカリちゃんみたいに急に全てを思い出したって可能性も考えられるけど、触れてすらいない相手が果たしてそんなことを起こせるのだろうか?

アマテラス「……ねぇ、あなた。どこか、行きたいところがあるんじゃない?」

「え……」

アマテラス「そう。例えば、私達としてはもう二度と行きたくない場所、とかね」

 なんだろう。この、心の奥底を見透かされてるようなこの感覚は……。

《コンコン》

 どう答えようか悩んでいたところに、良いタイミングでドアをノックする音が響いてきた。

デルシア「ネイさんお久しぶりで……酷い格好ですね」

「出会って早々失礼な物言いをしますね、女王様」

 ドアを開けて入って来たのは、あの時真っ先に助けに来てくれた人物であるデルシア。それも、私の名前をはっきりと言うもんだから忘れられてはないと見た。

ミューエ「仕方ないわよ。この子はこういう子だから」

デルシア「それどういう意味ですか!?」

ミューエ「そのままの意味よ。ーーで、ネイ。随分と惨めな格好だけれども、どうしたのかしら。私達が駆け付けた時にいた変な男には逃げられちゃったけど」

「……実は」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

シンゲン「なるほどな。ふざけた話もこの世には多く存在するということか」

アルフレア「だが、俺達の中にも僅かな違和感はある。否定することは出来んな」

 いつの間にか大所帯となってしまい(白陽、黒月、創真の主要人物の皆さん大集合)、所変わって宴会にでも使うんじゃないかと思うくらいに広い居間で話をしている。

ベルディア「彼って言ってたわよね。そんな名前も知らないような人のことをーー」

「知らないわけじゃない!」

 自分でも驚くくらいに大声を上げ、私は血の滲んだ左手で机を叩いていた。

「あ、すみません。つい……」

ベルディア「いいえ、私の方こそ悪かったわね。言葉の選び方を間違えたわ。ーーで、話を続けるのだけれど、その彼を取り戻したいってことは分かるのだけれども、それがどうしてあの裏世界に行くことに繋がるのかしら」

「それは……」

 ただ、アルトがそこに行けばと言ったからだ。でも、確かによくよく考えてみればそんな理由であの世界に行くというのは些か無防備過ぎないかとも考える。

アルフレア「言い難いことならば構わん。だが、1つだけ悪い知らせがあるぞ」

「……?」

アルフレア「あの世界に行くための扉。崖から飛び降りるというあまりにも突拍子の無い方法ではあったが、その崖から飛び降りても今は何も無い」

「……!?」

アルフレア「皆には黙っていたが、実は奇兵隊の者達に調査をさせていたんだ。だが、結果としてはあの崖はただの崖。それ以外のことは何も見つからんかった」

シンゲン「……全ては夢の跡……ということか」

ミューエ「上手い例えをするわね」

 裏世界に行く術が無い……。折角見えた希望の光だったのに、そんな……。

ミューエ「……だけれど、1つ手段はあるわ」

「え……」

ミューエ「あの世界はリエンドが作り出した夢の世界。ならば、その世界に干渉する術あればもう一度世界に飛び込めるかもしれない。私達には無理でも、あなたになら出来るかもしれないんじゃない?ネイ」

「……」

 言うだけなら簡単だけれども、そんなあるかどうかも分からない世界に干渉するだなんて、今の私には到底無理。せめて、彼が持つ夢の世界くらいに想像力で何でも出来るような世界が構築出来れば話は別だけども……。

「……」

 何の意味もなくデルシアを見て、過去に思い当たる節があることに気付く。

「いや、可能かもしれません」
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