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IIIStorys 【勝利の女神】
第12章11 【勝利の炎】
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彼のことを本気で好きになったのは、いつ頃の話だっただろうか。
最初に出会った時はただのやかましい人とだけしか思ってなかった。炎を扱う魔導士で、暑いのが嫌いな私は少しだけ彼のことが苦手だった。でも、その人柄を知っていくうちに段々と彼の魅力に惹かれていった。そして、私の正体が邪龍だって分かって、みんなから蔑まれた時、彼だけは私の味方になってくれた。彼だけが逃げ出した私を助けに来てくれた。
その後、何の因果かによって生き返ってしまった私を、彼が1番最初に見つけ出してくれた。ヨミの辛い記憶を背負ったまま生き返り、誰も信じられなくなった私に対して、彼は来る日も来る日も顔を見に来てくれた。
でも、私はそんな彼の優しさが怖くて、何度も彼を拒絶した。それでも、彼は例え自分が傷付いたとしても私のところに来てくれた。そして、私の話を真摯に聞いてくれて、私を連れ出してくれた。
思えば、この時から本格的に彼に恋をしていた。初めは自分の中にある気持ちがよく分からなくて、ただ恩義を感じているからなんだって自分に言い聞かせていた。過去の後悔から人を好きになっちゃダメって、無理矢理自分を納得させていた。でも、日に日に彼のことが好きになっていき、ぼーっとしてれば必ず彼がいる方ばかりを見ていた。だから、どんな時でも隣にいようとした。
優しい彼が大好きで、彼の優しさに浸っていたかった。どんな時でも優しい彼に、私が心の底から恋をするのにそう時間はかからなかった。
でも、私の気持ちは上手く表に出せなくて、好きだって言ったとしてもそれは誤魔化しながら言う言葉だから彼には全然届いていなかった。それどころか、可愛い妹みたいな感じで見られてるような気がして、一時はこんな男のどこを好きになったんだろうと思うことさえあった。でも、やっぱり私の目が向くのは彼の方で、彼と離れていた一月はとても寂しかった。
そう、寂しかった。心の中にぽっかりと穴が空いてしまったような感覚になっていた。それでも暴れ出すことがなかったのは、きっと彼がいなくなったわけではなかったからだろう。彼はちゃんとどこかにいるって確証があるから私は大人しくしていられた。でも今は、そうじゃない。本当なら、とっくの昔に暴れ出したってなんの不思議もなかった。むしろ、自分でもよく耐えれた方だと思う。
心は壊れてないのに、どこかに穴が空いてしまったかのような虚しさがずっとある。寂しくて今すぐにでも誰かに泣きつきたいのに、その泣きつける相手はどこにもいない。だから、涙は私の頬を伝うだけで、誰も拭ってくれやしない。
寂しい……
寂しいよ……
誰か、誰か助けてよ……。誰でもいい……いや、誰でもいいわけじゃない。出来れば彼がいい。彼に助けて欲しい。
「あなたのことがずっと好きだった……」
もう好きになった時がいつだったかなんてどうでもいい……!私は、最初に出会ったその日からずっと好きだった……!ある意味、一目惚れだった……!
「あなたに助けられた……それだけで十分だった……!」
何度も何度も助けられた。どんな時だって、いつも1番に助けに来てくれたのは彼だった。彼がずっと隣にいてくれた……!
「あなたさえいてくれたら、もう何もいらない……!何もいらないの……!」
お金も地位も名誉もそんなくだらないものは何もいらない。それどころか魔法すらいらない。この命と、健康な体と、彼がいてくれたら後は何もいらない。生きてく上で必要なもの以外は何もいらない。
そう思える相手だった。むしろ、私がこの一生をかけてでも尽くしてあげたい相手だった。見返りなんていらないから、私は、彼の隣にいたかった……。
「お願いだから帰ってきて……」
あなたに会いたいの。あなたに会いたい人達がたくさんいるの……。
「あなたのことが好きだから……」
好きだ。好きだ……。
『それ以上言わなくても良い。全部分かってるからさ。大丈夫だ。お前は。俺達が守ってやる。お前が心の底から笑ってられるその日まで......』
『仕方ねえだろ。"仲間"なんだから。俺達は、その仲間を誰一人として見捨てやしねえ。お前も、その"仲間"の一人なんだ。見捨てるわけにはいかねえ』
『答えならいつか必ず出す。その時、どんな答えになっていようが俺が出した結論として受け取れ。俺からは以上だ』
『......2人で生き残って、また、いつも通りの日々を遅れる日が来たら......ネイ。結婚しよう』
『......ネイ。絶対に、俺がお前を取り戻してやる』
『お前のことが好きだ』
『心が見えるとか言っておきながら、全然見えてねてぇよな、お前って。好きになった子を怖いと思うわけねぇだろ』
『お前が望むなら、俺がずっと守ってやる。どうしたいかなんて聞かなくても分かる』
『記憶なんざ関係ねぇ。俺がお前のことを好きで、お前も俺のことが好きで、それがずっと続けばいいだけの話だったんだ。何が神様相手だ、んなもんぶっ飛ばせばいいだけの話だろ』
彼の言葉が心地良いくらいに耳に響いてくる。実際は誰も何も言ってない、空虚な場所に私はいるっていうのに、なぜだか声が聞こえてくる。そして、その声が聞こえてくる度に涙がそっと零れ落ちる。
「……好きです。大好きです。あなたのことが大好きです。…………ヴァル」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……見込み違いか」
何度も繰り返す世界で唯一の可能性を見た。でも、所詮可能性は可能性。確率が高かろうが低かろうが当たらなければ全て0になる。
「……ダメか」
自らで空けた大穴の中で、彼女が息絶えた。0に振り切ってしまったってことか。
「せめてもの情けだ。お前の仲間の所へ送ってやろう」
彼女の遺体を回収するため、大穴の中に飛び込もうとした瞬間ーー
「っ……!?」
瞬間、眼前が赤く染まる。そして、肌を焼き焦がすほどの熱波が伝わってくる。
「炎……」
炎が次々に吹き上がる。火山の噴火の如く、凄まじい勢いを持った炎が天高くに吹き上がる。そして、霧に覆われていた世界が一転、眩い日の陽射しに照らされた太陽の花畑へと姿を変える。
大地が割れ、私がいる場所をピンポイントで狙うように炎が吹き上がる。それを軽くかわすが、直後に襲いかかってくる熱波のせいで動きが一瞬だけ遅れる。
「……目覚めたか」
一段と太く、神々しく燃え上がる炎の中から彼女が姿を現す。
燃え上がる翼は不死鳥の如く朱く輝き、猩々緋色に染まる服は、女神としての凛々しさを表す。そして、紅く燃え上がる槍は、見る者全てを惹き付ける謎の魅力がある。
あの姿は、正しく私が見たかったものそれだ。私が見たかった可能性の1つ。この世界に存在する3つの権限のうちの1つ。
「勝利の……女神……」
破壊と創造。2人の女神が世界を象るというのならば、最後に残された権限はその2つの調整役。そして、2つの権限を飲み込むほどの力を与えられたその力は、世界の理すらも変えてしまう可能性がある。
彼女が槍を天高くに掲げた。その直後、太陽の輝きが一段と強くなって赤々と燃え上がる流星が降り注いできた。
「逃げ道を完全に塞ぐ気か。まあ、それくらいの事は簡単にやってもらわなければ困る」
降り注ぐ流星は全て剣で斬り落とす。しかし、斬り落として尚、流星の破壊力は凄まじく、爆風が遅れて襲いかかってくる。
死にかけになっていたはずの体に、どこにこんな力があるのだろうか。例え権限を発動出来たのだとしても、それで体が持つはずがない。それほどまでに私は彼女を痛めつけた。少々やり過ぎかと思うくらいにはやった。しかし、彼女はそれでも挫けてなどいない。
予想外。いや、ある意味では予想の範囲内。だが、まさかこれ程までの力とは……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
全身が滾る。炎が心地よく全身を駆け巡る。
体温が上昇している。傷口が全部炎で焼かれて綺麗に治る。
神経が研ぎ澄まされる。狙いを定めた相手がどこにいようと、花達がその場所を教えてくれる。
貫かれた左目を開き、奴の居場所に焦点を合わせる。視界が今まで以上に鮮明になる。瞳の色が猩々緋色に染まる。
左手に握った槍を軽く振るうだけで大量の流星が降り注がれる。だけど、奴はそれを剣で斬り落としたが、それでも降り注いでくる物量に押し負け、激しく吹っ飛んだ。
「この力なら……」
一体どうしてしまったのかは自分でも分からない。彼の、ヴァルの名前を叫んだ瞬間に全身から炎が吹き出てきた。
最初は全身が熱くて熱くて仕方なかったけど、でも段々とその炎が私の力になってるような気がした。その予感は気の所為じゃなくて、実際に私はこうして蘇ることが出来た。また、開くことが出来なかった私の心の世界を開くことも出来た。
形は前までのと大分違うけど、でもこれはこれでいいと思う。地上に降り立ち、私は自分の腰丈くらいにある花々を撫でる。見たところ、向日葵のようだが、どことなく赤色に近い感じの花だった。
「あなたを思い続けます。それが、この花の花言葉だ」
「っ!」
私の疑問に答えるようにして、再び私の真正面に立ちはだかった女がそう言う。
「……さて、続きをしようか」
再び瞬きをした瞬間に詰められ、左目に剣の切っ先が映る。しかし、今度はそこから先の攻撃が行われず、咄嗟の反撃に出た私の槍が奴の腕を斬り落とした。
「なっ……!」
奴は一瞬驚きこそしたものの、すぐに腕を繋ぎ合わせてまた私に攻撃を仕掛けてきた。
「……えりゃ」
さっきまであんなに早かった動きが今は止まって見えた。だから、私はまず奴の剣を弾いた後に一回転し、そのまま右手から火の玉を放つ。
火の玉は奴の腹に当たった後、核爆発並みの威力で爆発する。軽く放っただけでもこれだけの威力。どうやら、この世界では火属性が爆発的に強化されてるみたいだ。なぜそう判断したのかと言うと、他の属性の魔法が放てず、妥協案でさっきの火の玉を作り出したからだ。
「火以外は使えない。でも、火の魔法なら、いや、日の魔法なら全てを焼き尽くせる」
まるでヴァルの魔法みたいだった。ヴァルの魔法も、気に入らないものは全て焼き尽くすほどに熱く、そして暖かな優しさを持った魔法だった。
「……必ず連れて帰る」
ヴァルの顔も名前も思い出せた。あの笑顔、あのカッコイイ横顔を瞼の裏側に写した後、私は本格的に奴に向けての攻撃を開始した。
世界の形が変わったとしても、花畑がベースであることに変わりはない。なら、戦い方も似たようなものができるはずと考え、まず私は向日葵の花弁を巻き上げた。そして、左手に握った槍を中心に花弁を集めた後、奴に向けて竜巻のような形を形成させて攻撃を放つ。
「っ……!」
奴は剣で弾くことに精一杯のようで、竜巻と同時に襲いかかる私の姿には気付けなかった。
竜巻に乗っかかった勢いを使って奴の腹に切っ先を突き刺す。そして、突き刺した場所を中心にしてまた日の光が輝き出す。並の人間ならば触れただけで焦がされるほどの日を奴は精一杯耐えたようだが、それもほんの一瞬に過ぎなかった。日は私の想いと同じように大きくなり、奴を呑み込んで爆発する。それでもまだ死なない予感がした私は爆発を花弁で覆い、奴を球状の檻の中に封印する。
「……」
しかし、奴は剣技だけでその檻を打ち破り、また私の真正面に立った。
「まさか、ここまでとはな」
「教えて。あなたは何なの?なんで私を狙うの?」
「その答えは、私を倒してから聞け!」
また一瞬にして詰め寄られ、今度はその動きを捉えることが出来ずに槍の柄の部分で受け止める。この目は全てを鮮明に見通すことが出来るが、最初から動きについて行ってないと上手く発動しないらしい。相手をしっかりと凝視してなければダメなようだ。
「なら、私はあなたを倒します!ここであなたを倒して、私はヴァルのところに行く!」
相手の剣を上に突き上げ、そのまま槍を空で握り直してから横に振る。鮮やかな鮮血が飛び散り、それは一瞬にして蒸発する。
奴の動きが乱れたこの隙を逃さず、槍を用いた武術を10発ほど叩き込んでから槍を投げて奴を地面に突き刺す。
「もう忘れない。ヴァル、あなたのことは忘れません!」
太陽が一段と強く輝く。その陽射しを全身に浴び、花弁をこの両手に集める。
「神話奥義・天照す神話の炎!」
激しく輝く花弁で左手を覆い、地面を強く蹴りあげて奴に詰め寄る。そして、ヴァルが扱う魔法の中でも最高威力の炎を奴に叩き込む!
「……なるほど、これは強い想いだ」
爆ぜる。
世界が爆ぜる。私の中の想いが炎となり、この世界の存在感を更に強めてゆく。
「問おう。貴様の名は」
あの日、私はヴァルと出会った。そして、恋をした。
「私の名前はニケ!勝利の女神、ニケだぁぁぁぁぁ!!!!」
世界が白く輝き、そして音も視界も全てを奪い取って、全てを燃やし尽くしたーー
最初に出会った時はただのやかましい人とだけしか思ってなかった。炎を扱う魔導士で、暑いのが嫌いな私は少しだけ彼のことが苦手だった。でも、その人柄を知っていくうちに段々と彼の魅力に惹かれていった。そして、私の正体が邪龍だって分かって、みんなから蔑まれた時、彼だけは私の味方になってくれた。彼だけが逃げ出した私を助けに来てくれた。
その後、何の因果かによって生き返ってしまった私を、彼が1番最初に見つけ出してくれた。ヨミの辛い記憶を背負ったまま生き返り、誰も信じられなくなった私に対して、彼は来る日も来る日も顔を見に来てくれた。
でも、私はそんな彼の優しさが怖くて、何度も彼を拒絶した。それでも、彼は例え自分が傷付いたとしても私のところに来てくれた。そして、私の話を真摯に聞いてくれて、私を連れ出してくれた。
思えば、この時から本格的に彼に恋をしていた。初めは自分の中にある気持ちがよく分からなくて、ただ恩義を感じているからなんだって自分に言い聞かせていた。過去の後悔から人を好きになっちゃダメって、無理矢理自分を納得させていた。でも、日に日に彼のことが好きになっていき、ぼーっとしてれば必ず彼がいる方ばかりを見ていた。だから、どんな時でも隣にいようとした。
優しい彼が大好きで、彼の優しさに浸っていたかった。どんな時でも優しい彼に、私が心の底から恋をするのにそう時間はかからなかった。
でも、私の気持ちは上手く表に出せなくて、好きだって言ったとしてもそれは誤魔化しながら言う言葉だから彼には全然届いていなかった。それどころか、可愛い妹みたいな感じで見られてるような気がして、一時はこんな男のどこを好きになったんだろうと思うことさえあった。でも、やっぱり私の目が向くのは彼の方で、彼と離れていた一月はとても寂しかった。
そう、寂しかった。心の中にぽっかりと穴が空いてしまったような感覚になっていた。それでも暴れ出すことがなかったのは、きっと彼がいなくなったわけではなかったからだろう。彼はちゃんとどこかにいるって確証があるから私は大人しくしていられた。でも今は、そうじゃない。本当なら、とっくの昔に暴れ出したってなんの不思議もなかった。むしろ、自分でもよく耐えれた方だと思う。
心は壊れてないのに、どこかに穴が空いてしまったかのような虚しさがずっとある。寂しくて今すぐにでも誰かに泣きつきたいのに、その泣きつける相手はどこにもいない。だから、涙は私の頬を伝うだけで、誰も拭ってくれやしない。
寂しい……
寂しいよ……
誰か、誰か助けてよ……。誰でもいい……いや、誰でもいいわけじゃない。出来れば彼がいい。彼に助けて欲しい。
「あなたのことがずっと好きだった……」
もう好きになった時がいつだったかなんてどうでもいい……!私は、最初に出会ったその日からずっと好きだった……!ある意味、一目惚れだった……!
「あなたに助けられた……それだけで十分だった……!」
何度も何度も助けられた。どんな時だって、いつも1番に助けに来てくれたのは彼だった。彼がずっと隣にいてくれた……!
「あなたさえいてくれたら、もう何もいらない……!何もいらないの……!」
お金も地位も名誉もそんなくだらないものは何もいらない。それどころか魔法すらいらない。この命と、健康な体と、彼がいてくれたら後は何もいらない。生きてく上で必要なもの以外は何もいらない。
そう思える相手だった。むしろ、私がこの一生をかけてでも尽くしてあげたい相手だった。見返りなんていらないから、私は、彼の隣にいたかった……。
「お願いだから帰ってきて……」
あなたに会いたいの。あなたに会いたい人達がたくさんいるの……。
「あなたのことが好きだから……」
好きだ。好きだ……。
『それ以上言わなくても良い。全部分かってるからさ。大丈夫だ。お前は。俺達が守ってやる。お前が心の底から笑ってられるその日まで......』
『仕方ねえだろ。"仲間"なんだから。俺達は、その仲間を誰一人として見捨てやしねえ。お前も、その"仲間"の一人なんだ。見捨てるわけにはいかねえ』
『答えならいつか必ず出す。その時、どんな答えになっていようが俺が出した結論として受け取れ。俺からは以上だ』
『......2人で生き残って、また、いつも通りの日々を遅れる日が来たら......ネイ。結婚しよう』
『......ネイ。絶対に、俺がお前を取り戻してやる』
『お前のことが好きだ』
『心が見えるとか言っておきながら、全然見えてねてぇよな、お前って。好きになった子を怖いと思うわけねぇだろ』
『お前が望むなら、俺がずっと守ってやる。どうしたいかなんて聞かなくても分かる』
『記憶なんざ関係ねぇ。俺がお前のことを好きで、お前も俺のことが好きで、それがずっと続けばいいだけの話だったんだ。何が神様相手だ、んなもんぶっ飛ばせばいいだけの話だろ』
彼の言葉が心地良いくらいに耳に響いてくる。実際は誰も何も言ってない、空虚な場所に私はいるっていうのに、なぜだか声が聞こえてくる。そして、その声が聞こえてくる度に涙がそっと零れ落ちる。
「……好きです。大好きです。あなたのことが大好きです。…………ヴァル」
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「……見込み違いか」
何度も繰り返す世界で唯一の可能性を見た。でも、所詮可能性は可能性。確率が高かろうが低かろうが当たらなければ全て0になる。
「……ダメか」
自らで空けた大穴の中で、彼女が息絶えた。0に振り切ってしまったってことか。
「せめてもの情けだ。お前の仲間の所へ送ってやろう」
彼女の遺体を回収するため、大穴の中に飛び込もうとした瞬間ーー
「っ……!?」
瞬間、眼前が赤く染まる。そして、肌を焼き焦がすほどの熱波が伝わってくる。
「炎……」
炎が次々に吹き上がる。火山の噴火の如く、凄まじい勢いを持った炎が天高くに吹き上がる。そして、霧に覆われていた世界が一転、眩い日の陽射しに照らされた太陽の花畑へと姿を変える。
大地が割れ、私がいる場所をピンポイントで狙うように炎が吹き上がる。それを軽くかわすが、直後に襲いかかってくる熱波のせいで動きが一瞬だけ遅れる。
「……目覚めたか」
一段と太く、神々しく燃え上がる炎の中から彼女が姿を現す。
燃え上がる翼は不死鳥の如く朱く輝き、猩々緋色に染まる服は、女神としての凛々しさを表す。そして、紅く燃え上がる槍は、見る者全てを惹き付ける謎の魅力がある。
あの姿は、正しく私が見たかったものそれだ。私が見たかった可能性の1つ。この世界に存在する3つの権限のうちの1つ。
「勝利の……女神……」
破壊と創造。2人の女神が世界を象るというのならば、最後に残された権限はその2つの調整役。そして、2つの権限を飲み込むほどの力を与えられたその力は、世界の理すらも変えてしまう可能性がある。
彼女が槍を天高くに掲げた。その直後、太陽の輝きが一段と強くなって赤々と燃え上がる流星が降り注いできた。
「逃げ道を完全に塞ぐ気か。まあ、それくらいの事は簡単にやってもらわなければ困る」
降り注ぐ流星は全て剣で斬り落とす。しかし、斬り落として尚、流星の破壊力は凄まじく、爆風が遅れて襲いかかってくる。
死にかけになっていたはずの体に、どこにこんな力があるのだろうか。例え権限を発動出来たのだとしても、それで体が持つはずがない。それほどまでに私は彼女を痛めつけた。少々やり過ぎかと思うくらいにはやった。しかし、彼女はそれでも挫けてなどいない。
予想外。いや、ある意味では予想の範囲内。だが、まさかこれ程までの力とは……。
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全身が滾る。炎が心地よく全身を駆け巡る。
体温が上昇している。傷口が全部炎で焼かれて綺麗に治る。
神経が研ぎ澄まされる。狙いを定めた相手がどこにいようと、花達がその場所を教えてくれる。
貫かれた左目を開き、奴の居場所に焦点を合わせる。視界が今まで以上に鮮明になる。瞳の色が猩々緋色に染まる。
左手に握った槍を軽く振るうだけで大量の流星が降り注がれる。だけど、奴はそれを剣で斬り落としたが、それでも降り注いでくる物量に押し負け、激しく吹っ飛んだ。
「この力なら……」
一体どうしてしまったのかは自分でも分からない。彼の、ヴァルの名前を叫んだ瞬間に全身から炎が吹き出てきた。
最初は全身が熱くて熱くて仕方なかったけど、でも段々とその炎が私の力になってるような気がした。その予感は気の所為じゃなくて、実際に私はこうして蘇ることが出来た。また、開くことが出来なかった私の心の世界を開くことも出来た。
形は前までのと大分違うけど、でもこれはこれでいいと思う。地上に降り立ち、私は自分の腰丈くらいにある花々を撫でる。見たところ、向日葵のようだが、どことなく赤色に近い感じの花だった。
「あなたを思い続けます。それが、この花の花言葉だ」
「っ!」
私の疑問に答えるようにして、再び私の真正面に立ちはだかった女がそう言う。
「……さて、続きをしようか」
再び瞬きをした瞬間に詰められ、左目に剣の切っ先が映る。しかし、今度はそこから先の攻撃が行われず、咄嗟の反撃に出た私の槍が奴の腕を斬り落とした。
「なっ……!」
奴は一瞬驚きこそしたものの、すぐに腕を繋ぎ合わせてまた私に攻撃を仕掛けてきた。
「……えりゃ」
さっきまであんなに早かった動きが今は止まって見えた。だから、私はまず奴の剣を弾いた後に一回転し、そのまま右手から火の玉を放つ。
火の玉は奴の腹に当たった後、核爆発並みの威力で爆発する。軽く放っただけでもこれだけの威力。どうやら、この世界では火属性が爆発的に強化されてるみたいだ。なぜそう判断したのかと言うと、他の属性の魔法が放てず、妥協案でさっきの火の玉を作り出したからだ。
「火以外は使えない。でも、火の魔法なら、いや、日の魔法なら全てを焼き尽くせる」
まるでヴァルの魔法みたいだった。ヴァルの魔法も、気に入らないものは全て焼き尽くすほどに熱く、そして暖かな優しさを持った魔法だった。
「……必ず連れて帰る」
ヴァルの顔も名前も思い出せた。あの笑顔、あのカッコイイ横顔を瞼の裏側に写した後、私は本格的に奴に向けての攻撃を開始した。
世界の形が変わったとしても、花畑がベースであることに変わりはない。なら、戦い方も似たようなものができるはずと考え、まず私は向日葵の花弁を巻き上げた。そして、左手に握った槍を中心に花弁を集めた後、奴に向けて竜巻のような形を形成させて攻撃を放つ。
「っ……!」
奴は剣で弾くことに精一杯のようで、竜巻と同時に襲いかかる私の姿には気付けなかった。
竜巻に乗っかかった勢いを使って奴の腹に切っ先を突き刺す。そして、突き刺した場所を中心にしてまた日の光が輝き出す。並の人間ならば触れただけで焦がされるほどの日を奴は精一杯耐えたようだが、それもほんの一瞬に過ぎなかった。日は私の想いと同じように大きくなり、奴を呑み込んで爆発する。それでもまだ死なない予感がした私は爆発を花弁で覆い、奴を球状の檻の中に封印する。
「……」
しかし、奴は剣技だけでその檻を打ち破り、また私の真正面に立った。
「まさか、ここまでとはな」
「教えて。あなたは何なの?なんで私を狙うの?」
「その答えは、私を倒してから聞け!」
また一瞬にして詰め寄られ、今度はその動きを捉えることが出来ずに槍の柄の部分で受け止める。この目は全てを鮮明に見通すことが出来るが、最初から動きについて行ってないと上手く発動しないらしい。相手をしっかりと凝視してなければダメなようだ。
「なら、私はあなたを倒します!ここであなたを倒して、私はヴァルのところに行く!」
相手の剣を上に突き上げ、そのまま槍を空で握り直してから横に振る。鮮やかな鮮血が飛び散り、それは一瞬にして蒸発する。
奴の動きが乱れたこの隙を逃さず、槍を用いた武術を10発ほど叩き込んでから槍を投げて奴を地面に突き刺す。
「もう忘れない。ヴァル、あなたのことは忘れません!」
太陽が一段と強く輝く。その陽射しを全身に浴び、花弁をこの両手に集める。
「神話奥義・天照す神話の炎!」
激しく輝く花弁で左手を覆い、地面を強く蹴りあげて奴に詰め寄る。そして、ヴァルが扱う魔法の中でも最高威力の炎を奴に叩き込む!
「……なるほど、これは強い想いだ」
爆ぜる。
世界が爆ぜる。私の中の想いが炎となり、この世界の存在感を更に強めてゆく。
「問おう。貴様の名は」
あの日、私はヴァルと出会った。そして、恋をした。
「私の名前はニケ!勝利の女神、ニケだぁぁぁぁぁ!!!!」
世界が白く輝き、そして音も視界も全てを奪い取って、全てを燃やし尽くしたーー
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