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IIIStorys 【勝利の女神】
第12章17 【正義の在処】
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あれだけ太陽がギラギラと輝いてたってのに、ちょっと向こうの闇が深くなっただけでこれとは。
「ったく、復活早々面倒な敵が現れんじゃねぇよ。少しは休ませろ」
首から上が真っ黒に染まっちまった奴を見て、俺はため息混じりにそう言った。
こりゃ、世界自体は閉じてねぇが、闇で覆って効果を打ち消したってとこだな。いつも通り炎でそんな厄介なもんは燃やし尽くしてしまいたいとこだが、さっき試しに打った炎がすぐに消えちまったんだから無理そうだ。
まあ、あいつがこの世界の特性を最大限に発揮し、上から全部燃やし尽くせばどうにかなりそうだな。
「まあ何でもいいや。お前、俺が寝てる間に色々とやってくれたらしいじゃねぇか!」
ネロ「……」
影が背後から迫り、俺の横っ面に拳を1発叩き込んでくる。
「はっ!話をする気はねぇってか」
だが、俺はその拳を避けることもなく受け止め、迫って来た影をその拳を伝って燃やす。
「言っとくが、どんな方法であれ、俺に触れたら火傷じゃ済まねぇぞ」
今のは奴の分身だったが、それでも本体の影が色褪せたことから、ダメージは通っていると思われる。……通ってるよな?この辺たまに曖昧な奴がいるから不安になる。
「まあ何でもいいや。殴れば勝つ!分かりやすくて病み上がりには持ってこいだぜ!」
両手両足に炎を灯し、やや空いていた距離を一瞬にして詰める。そして、殴る蹴る以外の小細工は一切無しで影を攻撃する。影ってより、この感触は霧なんだよな。殴ってもイマイチこっちに手応えがねぇ。でも、炎は確実に奴を焼いている。よく分かんねぇ奴だな。
ネロ「……」
流石に10発も攻撃を喰らわせると、奴が分身を10体に増やして俺の周りを囲んできた。
「どれか1体が本物……いや、こりゃ全部本物だな」
全ての影に命の炎を感じた俺は、すぐさま周囲を咆哮で焼き尽くす。
ネロ「……」
「次はかくれんぼかよ」
奴が暗闇に紛れて姿を消す。ったく、何も口聞かねぇから何考えてんのか分かんねぇな。こちとら色々と聞きてぇことがあるっていうのに、この調子じゃ先に殺しちまうぞ。
鼻を利かせて周囲を嗅ぎ回る。すると、すぐ後ろの方に奴と同じ匂いがし、俺は予備動作無しで炎を湧き上がらせた。
ーーだが、炎は何も焼かなかった。俺がわざわざ気づいてないフリして攻撃したってのに、僅かなマナの流れを見てきやがったな。
「面白ぇ。最初っから本気で来いよ!」
両手の拳をかち合わせ、辺り一帯を焼き尽くさんとばかりの炎を拡げる。足の踏み場はどこにもない。あるのは炎だけ。下手したら俺以外の奴は全員焼け死んじまうかもしれねぇが、まあ周りには奴以外誰もいないのは確認したし、この状況を見てわざわざ突っ込んでくる奴はいないだろう。それこそ空でも飛べねぇ限りはな。
ーー影がまたしても複数に分かれて現れる。そして、それぞれの影が足元に拡がった炎を吸収し、その色を濃くしてゆく。
「マジか……」
たった数分で俺の炎を克服しやがった。なんて適応力の高さだ。
ネロ「……」
奴が吸収して取り込んだばかりの炎を俺に向けて吐き出してくる。魔法の形態としては咆哮に近いそれだが、生憎俺相手に炎は効かない。軽く手のひらで食ってやるだけだ。
だが、その力を持ったままみんなのとこに行かれると厄介だ。威力は大分劣ってるものの、それでも簡単に人を焼き殺せる炎だ。多分、奴はそれを分かっているだろう。考える頭が残ってんのかは知らんが。
ネロ「……」
ーーとか考えていたら、早速影の塊がみんなのところに向けて動き出した。
「させるかよ!極水龍王の咆哮!」
メラメラと燃え上がる影に向けて、思いっ切りの水魔法をぶつける。炎が涸れ、影から物凄い勢いで蒸気が出る。
「続いて極氷龍王の斬撃!」
拳に氷で出来た龍の爪を付け、それで影を引き裂くようにして攻撃する。
「オラァ!次は極光龍王の波動!」
影の脇腹辺りを押さえ、勢いよく魔法を押し出す。それによって、先程までは完全に影そのものだったのに、少しだけ人間らしい色が戻っている。
「見た目通り光属性が弱点ってとこか」
続けて光属性をまとって攻撃を仕掛けるが、次に奴は影の中を移動して俺の攻撃を全てかわしてきた。
かくれんぼの次は鬼ごっこですかと。普通に逃げ回るだけならなんてことねぇんだが、影の中を移動するせいで捕まえようがねぇ。
「影さえ燃やせたら楽なんだが、こうやって火ぃ付けても影が濃くなるだけだしな」
しばらくの間黙考に入る。俺が全力で隙を晒している今、奴にとって絶好のチャンスだと思ったんだが、意外にもちゃんと利口に立ち回られている。そうだよな。今俺に攻撃すりゃ返り討ち確定だもんな。無駄に賢くて腹が立つぜ。
まあ、向こうがそう来るならじっくりと考えさせてもらおうか……つっても、そもそも考えるのなんてめんどくせぇ。
「要は影を無くせばいいだけの話だ!精神世界!安らぎを求む夢の世界!」
奴と俺だけを取り囲むように世界を広げる。紫色の霧が立ち込め、不思議な感じがする明かりが差し込んでくる。だが、すぐさま奴の影が俺の世界を内側から覆い、光を無くしてしまう。
「なるほどな。ありゃ、お前の世界じゃなかったんだな」
まあ分かってはいたことだが、ネイの世界が負けたわけではないことを今この瞬間に確信した。
「なあ、知ってるか?お前」
ネロ「……」
影が人の形をして出てきた。
「まあ、話する気はねぇってのは十分分かってんだ。だから、ちょっくらハンデくれてやるよ」
ネロ「……」
「この世界な、いくらお前が影で閉じ込めたところで効力は無くならねぇんだよ。なんでか分かるか?」
ネロ「……」
「それはなーー」
世界が赤く燃え上がる。地上も空も、何もかもが赤く燃え上がる。世界を覆う影でさえ赤く燃え上がる。この場を不思議な感じで立ち込める霧さえも赤く燃え上がる。
「俺の世界は夢の世界!想像力次第でなんでも出来んだよ!」
世界から炎を貰い受け、俺は影に向かって懇親の一撃を喰らわせた。割とゆっくりに近づいた方だが、この世界じゃ奴は身動き1つとることが出来ない。
「俺の世界は入った奴全員に俺の夢を見させる!今お前が感じてんのは、俺の想像力で動けないと思い込まされてんだよ!オラァ!」
更にもう1発叩き込む。
ネロ「……」
「どんだけ必死に抗ったって無駄だ!この世界じゃどれだけ考え事をしようが俺以外の奴には形に出来ねぇからな!」
最後に回し蹴りを喰らわせ、影が全身を燃え上がらせてるのを見てから俺は世界を閉じた。
「ふぃー……やっぱ久し振りだと流石に疲れんな」
少しだけ体が震えている。病み上がりにしちゃ結構無茶した方だな。で、そんだけ殴ってもまだ死なねぇとはしぶとい奴だ。俺の炎を耐えるだなんて大概だぞ?
ネロ「……私は」
「おっ……」
やっと何が喋る気になったか。
ネロ「私は……神になりたかった」
「そりゃ大層な夢を掲げたもんだな」
まあ、目の前に本物いるからあながち不可能ではないんだけどな。
ネロ「私はこの世界が嫌いだ。大っ嫌いだ」
「……」
ネロ「全てが憎かった。この世界に住まう人々、この世界を象る自然、この世界を創り上げた歴史。そして、この世界の管理者である神。その全てが憎かった」
「……何でだ。一応聞いといてやるよ」
ネロ「私は生まれた時から殺し屋だった。可愛い妹を食わせるためだけに私は人を殺した。それが悪だとは思わなかった。私にとっての正義だった」
「……」
ネロ「私を育てた者達は私の力を恐れた。全てを影に包み込み、密かに人を殺す術を」
……割とありがちな話だな。世界を憎む気持ちも何となく察せる。
ネロ「だが、神は私を愛してくれていた。私に、私と妹を守るためだけの力を与えてくださった」
「……?」
ネロ「だが、その力と同時に私は目覚めてしまった。この世界は何と愚かなものなのだろうか、と。だから私は決心した。世界を破壊し、神を殺す。それだけが私の生きる意味となった」
「……無茶苦茶だな。なんで神様に力与えられてんのに感謝するどころか逆ギレみたいなこと起こしてんだよ」
ネロ「……最初こそ、私は世界を救うために戦ったさ。でも、それは間違いだったみたいだ」
「間違い?」
ネロ「知ってるのではないか?イオラという名前に。いや、知ってるんじゃない。聞き覚えがあるはずだ、お前には」
「……」
イオラ……聞いた事ねぇ……いや、ある。聞き覚えどころか、そいつと戦ったこともある。……いや、あれは戦いって言っていいのか分かんねぇけど、少なくとも接点はある。
「光楼宗のどっかの席に座ってた奴だな。まさか、そいつがお前の妹とか言うんじゃねぇだろうな」
ネロ「そのまさかさ」
「……」
そら、俺らを恨んだって仕方のねぇ話だ。俺だってネイが殺されでもしたらこの世界を燃やし尽くして破壊するくらいの覚悟と力がある。それに比べりゃ、今回奴がしでかしたことはまだ生温い方だ。
「だからって、テメェの筋が通ってるとは思わねぇよ」
拳に金色の炎を灯し、俺は奴へのトドメを刺そうと身構える。
ネロ「なぜだ?なぜ妹は殺され、そしてこの世界で復活を遂げなかった?」
「ああ?」
ネロ「この世界では、かつての不幸な戦いで死んだ者達が皆復活している。なのに、なぜ私の妹は、イオラは帰って来ない?なぜ?なぜだ?」
「んなもん……」
答えを言いかけて俺は言葉を喉の奥に詰まらせた。
あんな奴ら、復活する価値が無かったから。ただそれだけの理由。あいつらは絶対的な悪で、復活すればまた何かしでかすと思って歴史通りに死なせたままにしておいた。
ーーでも、それは正しかったのか?
違う。こんなの、ただのエゴだ。俺がダメだと思ったからしなかったっていう、完全に自分勝手な理由だ。正しさなんてどこにもない。完全に、俺が正義だと思ってたことが奴らにとっての悪だった。そして、今回の事件の発端は……俺にある。
ネロ「答えろ、神。お前はなぜイオラを蘇らせなかった?なぜだ?貴様の勝手なエゴか?イオラがお前らにとっての敵だったからか?だからと見捨てたのか?」
影が全身を覆ってくる。こんなもの、すぐにでも焼いて剥がせるってのに、何だかその行いは間違ってるように感じて体が動かない……。
ネロ「お前は自分勝手な正義を振りかざしただけだ。その正義の裏でどれだけの人間が悲しんでいるのかも知らずに、お前は自分勝手を突き通した!」
「っ……!」
ネロ「アメン。彼はグリモワの息子だった。たった1人の尊敬する父を貴様らが殺した!」
「……」
ネロ「ネフェル。彼女はジュピターの孫だ!愛していた自らの祖父をあの女が殺した!」
「……」
ネロ「タハルカ。彼の本名はマセイだ。彼にはたくさんの兄弟と父親がいた。父親は貴様らとの対立で殺され、兄弟も皆バラバラとなった!何人かは死んだ!お前らが殺した!」
「……」
ネロ「シェプス。彼女はミカヤの娘だ。彼女の母親は、貴様らと光楼宗との戦いの時、寄りにもよって近くにいられなかった時に死んだ!しかも、遺体すら確認することも出来ず、世界はリセットされた!」
「……」
ネロ「デン。彼はディランの息子だ。ディランもまた、貴様らと戦い、命を落とした。いや、結果として落としてしまった。彼はメモリの副作用で死んだ!貴様らとの戦いがきっかけで死んだ!」
「……」
ネロ「お前らが殺してきた奴らの肉親だ!お前らが、お前らが私達を作った!この戦いを引き起こした!」
……正直、ただのクソガキが逆ギレしてるだけのような内容だった。でも、だからってそれがどうしたと鼻で笑い飛ばせれない。
間違いなく俺達が殺してきてしまった連中なんだ。敵だからって今までその奪ってしまった命に目を向けようとはしなかった。その裏で悲しんでる奴らがいることさえ考えなかった。
俺が元通りに戻したこの世界は不完全だった。みんなが幸せになれる世界を望んだわけじゃないけども、少なくともどうしようもないくらいに俺は自分勝手だったみたいだ。
「殺したきゃ殺せよ」
ネロ「……ああ、そうしてやるさ!」
影が鋭く鋭利な刃物の形を象り、俺の首を目掛けて真っ直ぐに振り落としてくる。
「させません!」
ーーだが、その影は空から差し込んできた太陽の光によって消滅し、俺の首に当たることはなかった。
ネイ「例え、私達が奪ってしまった命なんだとしても、だからって私達の正義が無くなるわけじゃありません!ヴァル!」
俺の全身を拘束していた影さえも消滅し、赤髪のネイが軽く抱きしめてくる。
ネイ「そんなに私達を恨みたいのなら恨めばいい。戦えばいい。勝てばあなた達の行いが正義になる!」
ネロ「……」
ネイ「だけど、それは叶えさせない。なぜならーー」
世界に夜明けが訪れる。太陽の光が彼女の背を燃え上がる炎のように照らし出す。
ネイ「私は、勝利の女神ニケ。私達に"勝利"を与える者です!」
「ったく、復活早々面倒な敵が現れんじゃねぇよ。少しは休ませろ」
首から上が真っ黒に染まっちまった奴を見て、俺はため息混じりにそう言った。
こりゃ、世界自体は閉じてねぇが、闇で覆って効果を打ち消したってとこだな。いつも通り炎でそんな厄介なもんは燃やし尽くしてしまいたいとこだが、さっき試しに打った炎がすぐに消えちまったんだから無理そうだ。
まあ、あいつがこの世界の特性を最大限に発揮し、上から全部燃やし尽くせばどうにかなりそうだな。
「まあ何でもいいや。お前、俺が寝てる間に色々とやってくれたらしいじゃねぇか!」
ネロ「……」
影が背後から迫り、俺の横っ面に拳を1発叩き込んでくる。
「はっ!話をする気はねぇってか」
だが、俺はその拳を避けることもなく受け止め、迫って来た影をその拳を伝って燃やす。
「言っとくが、どんな方法であれ、俺に触れたら火傷じゃ済まねぇぞ」
今のは奴の分身だったが、それでも本体の影が色褪せたことから、ダメージは通っていると思われる。……通ってるよな?この辺たまに曖昧な奴がいるから不安になる。
「まあ何でもいいや。殴れば勝つ!分かりやすくて病み上がりには持ってこいだぜ!」
両手両足に炎を灯し、やや空いていた距離を一瞬にして詰める。そして、殴る蹴る以外の小細工は一切無しで影を攻撃する。影ってより、この感触は霧なんだよな。殴ってもイマイチこっちに手応えがねぇ。でも、炎は確実に奴を焼いている。よく分かんねぇ奴だな。
ネロ「……」
流石に10発も攻撃を喰らわせると、奴が分身を10体に増やして俺の周りを囲んできた。
「どれか1体が本物……いや、こりゃ全部本物だな」
全ての影に命の炎を感じた俺は、すぐさま周囲を咆哮で焼き尽くす。
ネロ「……」
「次はかくれんぼかよ」
奴が暗闇に紛れて姿を消す。ったく、何も口聞かねぇから何考えてんのか分かんねぇな。こちとら色々と聞きてぇことがあるっていうのに、この調子じゃ先に殺しちまうぞ。
鼻を利かせて周囲を嗅ぎ回る。すると、すぐ後ろの方に奴と同じ匂いがし、俺は予備動作無しで炎を湧き上がらせた。
ーーだが、炎は何も焼かなかった。俺がわざわざ気づいてないフリして攻撃したってのに、僅かなマナの流れを見てきやがったな。
「面白ぇ。最初っから本気で来いよ!」
両手の拳をかち合わせ、辺り一帯を焼き尽くさんとばかりの炎を拡げる。足の踏み場はどこにもない。あるのは炎だけ。下手したら俺以外の奴は全員焼け死んじまうかもしれねぇが、まあ周りには奴以外誰もいないのは確認したし、この状況を見てわざわざ突っ込んでくる奴はいないだろう。それこそ空でも飛べねぇ限りはな。
ーー影がまたしても複数に分かれて現れる。そして、それぞれの影が足元に拡がった炎を吸収し、その色を濃くしてゆく。
「マジか……」
たった数分で俺の炎を克服しやがった。なんて適応力の高さだ。
ネロ「……」
奴が吸収して取り込んだばかりの炎を俺に向けて吐き出してくる。魔法の形態としては咆哮に近いそれだが、生憎俺相手に炎は効かない。軽く手のひらで食ってやるだけだ。
だが、その力を持ったままみんなのとこに行かれると厄介だ。威力は大分劣ってるものの、それでも簡単に人を焼き殺せる炎だ。多分、奴はそれを分かっているだろう。考える頭が残ってんのかは知らんが。
ネロ「……」
ーーとか考えていたら、早速影の塊がみんなのところに向けて動き出した。
「させるかよ!極水龍王の咆哮!」
メラメラと燃え上がる影に向けて、思いっ切りの水魔法をぶつける。炎が涸れ、影から物凄い勢いで蒸気が出る。
「続いて極氷龍王の斬撃!」
拳に氷で出来た龍の爪を付け、それで影を引き裂くようにして攻撃する。
「オラァ!次は極光龍王の波動!」
影の脇腹辺りを押さえ、勢いよく魔法を押し出す。それによって、先程までは完全に影そのものだったのに、少しだけ人間らしい色が戻っている。
「見た目通り光属性が弱点ってとこか」
続けて光属性をまとって攻撃を仕掛けるが、次に奴は影の中を移動して俺の攻撃を全てかわしてきた。
かくれんぼの次は鬼ごっこですかと。普通に逃げ回るだけならなんてことねぇんだが、影の中を移動するせいで捕まえようがねぇ。
「影さえ燃やせたら楽なんだが、こうやって火ぃ付けても影が濃くなるだけだしな」
しばらくの間黙考に入る。俺が全力で隙を晒している今、奴にとって絶好のチャンスだと思ったんだが、意外にもちゃんと利口に立ち回られている。そうだよな。今俺に攻撃すりゃ返り討ち確定だもんな。無駄に賢くて腹が立つぜ。
まあ、向こうがそう来るならじっくりと考えさせてもらおうか……つっても、そもそも考えるのなんてめんどくせぇ。
「要は影を無くせばいいだけの話だ!精神世界!安らぎを求む夢の世界!」
奴と俺だけを取り囲むように世界を広げる。紫色の霧が立ち込め、不思議な感じがする明かりが差し込んでくる。だが、すぐさま奴の影が俺の世界を内側から覆い、光を無くしてしまう。
「なるほどな。ありゃ、お前の世界じゃなかったんだな」
まあ分かってはいたことだが、ネイの世界が負けたわけではないことを今この瞬間に確信した。
「なあ、知ってるか?お前」
ネロ「……」
影が人の形をして出てきた。
「まあ、話する気はねぇってのは十分分かってんだ。だから、ちょっくらハンデくれてやるよ」
ネロ「……」
「この世界な、いくらお前が影で閉じ込めたところで効力は無くならねぇんだよ。なんでか分かるか?」
ネロ「……」
「それはなーー」
世界が赤く燃え上がる。地上も空も、何もかもが赤く燃え上がる。世界を覆う影でさえ赤く燃え上がる。この場を不思議な感じで立ち込める霧さえも赤く燃え上がる。
「俺の世界は夢の世界!想像力次第でなんでも出来んだよ!」
世界から炎を貰い受け、俺は影に向かって懇親の一撃を喰らわせた。割とゆっくりに近づいた方だが、この世界じゃ奴は身動き1つとることが出来ない。
「俺の世界は入った奴全員に俺の夢を見させる!今お前が感じてんのは、俺の想像力で動けないと思い込まされてんだよ!オラァ!」
更にもう1発叩き込む。
ネロ「……」
「どんだけ必死に抗ったって無駄だ!この世界じゃどれだけ考え事をしようが俺以外の奴には形に出来ねぇからな!」
最後に回し蹴りを喰らわせ、影が全身を燃え上がらせてるのを見てから俺は世界を閉じた。
「ふぃー……やっぱ久し振りだと流石に疲れんな」
少しだけ体が震えている。病み上がりにしちゃ結構無茶した方だな。で、そんだけ殴ってもまだ死なねぇとはしぶとい奴だ。俺の炎を耐えるだなんて大概だぞ?
ネロ「……私は」
「おっ……」
やっと何が喋る気になったか。
ネロ「私は……神になりたかった」
「そりゃ大層な夢を掲げたもんだな」
まあ、目の前に本物いるからあながち不可能ではないんだけどな。
ネロ「私はこの世界が嫌いだ。大っ嫌いだ」
「……」
ネロ「全てが憎かった。この世界に住まう人々、この世界を象る自然、この世界を創り上げた歴史。そして、この世界の管理者である神。その全てが憎かった」
「……何でだ。一応聞いといてやるよ」
ネロ「私は生まれた時から殺し屋だった。可愛い妹を食わせるためだけに私は人を殺した。それが悪だとは思わなかった。私にとっての正義だった」
「……」
ネロ「私を育てた者達は私の力を恐れた。全てを影に包み込み、密かに人を殺す術を」
……割とありがちな話だな。世界を憎む気持ちも何となく察せる。
ネロ「だが、神は私を愛してくれていた。私に、私と妹を守るためだけの力を与えてくださった」
「……?」
ネロ「だが、その力と同時に私は目覚めてしまった。この世界は何と愚かなものなのだろうか、と。だから私は決心した。世界を破壊し、神を殺す。それだけが私の生きる意味となった」
「……無茶苦茶だな。なんで神様に力与えられてんのに感謝するどころか逆ギレみたいなこと起こしてんだよ」
ネロ「……最初こそ、私は世界を救うために戦ったさ。でも、それは間違いだったみたいだ」
「間違い?」
ネロ「知ってるのではないか?イオラという名前に。いや、知ってるんじゃない。聞き覚えがあるはずだ、お前には」
「……」
イオラ……聞いた事ねぇ……いや、ある。聞き覚えどころか、そいつと戦ったこともある。……いや、あれは戦いって言っていいのか分かんねぇけど、少なくとも接点はある。
「光楼宗のどっかの席に座ってた奴だな。まさか、そいつがお前の妹とか言うんじゃねぇだろうな」
ネロ「そのまさかさ」
「……」
そら、俺らを恨んだって仕方のねぇ話だ。俺だってネイが殺されでもしたらこの世界を燃やし尽くして破壊するくらいの覚悟と力がある。それに比べりゃ、今回奴がしでかしたことはまだ生温い方だ。
「だからって、テメェの筋が通ってるとは思わねぇよ」
拳に金色の炎を灯し、俺は奴へのトドメを刺そうと身構える。
ネロ「なぜだ?なぜ妹は殺され、そしてこの世界で復活を遂げなかった?」
「ああ?」
ネロ「この世界では、かつての不幸な戦いで死んだ者達が皆復活している。なのに、なぜ私の妹は、イオラは帰って来ない?なぜ?なぜだ?」
「んなもん……」
答えを言いかけて俺は言葉を喉の奥に詰まらせた。
あんな奴ら、復活する価値が無かったから。ただそれだけの理由。あいつらは絶対的な悪で、復活すればまた何かしでかすと思って歴史通りに死なせたままにしておいた。
ーーでも、それは正しかったのか?
違う。こんなの、ただのエゴだ。俺がダメだと思ったからしなかったっていう、完全に自分勝手な理由だ。正しさなんてどこにもない。完全に、俺が正義だと思ってたことが奴らにとっての悪だった。そして、今回の事件の発端は……俺にある。
ネロ「答えろ、神。お前はなぜイオラを蘇らせなかった?なぜだ?貴様の勝手なエゴか?イオラがお前らにとっての敵だったからか?だからと見捨てたのか?」
影が全身を覆ってくる。こんなもの、すぐにでも焼いて剥がせるってのに、何だかその行いは間違ってるように感じて体が動かない……。
ネロ「お前は自分勝手な正義を振りかざしただけだ。その正義の裏でどれだけの人間が悲しんでいるのかも知らずに、お前は自分勝手を突き通した!」
「っ……!」
ネロ「アメン。彼はグリモワの息子だった。たった1人の尊敬する父を貴様らが殺した!」
「……」
ネロ「ネフェル。彼女はジュピターの孫だ!愛していた自らの祖父をあの女が殺した!」
「……」
ネロ「タハルカ。彼の本名はマセイだ。彼にはたくさんの兄弟と父親がいた。父親は貴様らとの対立で殺され、兄弟も皆バラバラとなった!何人かは死んだ!お前らが殺した!」
「……」
ネロ「シェプス。彼女はミカヤの娘だ。彼女の母親は、貴様らと光楼宗との戦いの時、寄りにもよって近くにいられなかった時に死んだ!しかも、遺体すら確認することも出来ず、世界はリセットされた!」
「……」
ネロ「デン。彼はディランの息子だ。ディランもまた、貴様らと戦い、命を落とした。いや、結果として落としてしまった。彼はメモリの副作用で死んだ!貴様らとの戦いがきっかけで死んだ!」
「……」
ネロ「お前らが殺してきた奴らの肉親だ!お前らが、お前らが私達を作った!この戦いを引き起こした!」
……正直、ただのクソガキが逆ギレしてるだけのような内容だった。でも、だからってそれがどうしたと鼻で笑い飛ばせれない。
間違いなく俺達が殺してきてしまった連中なんだ。敵だからって今までその奪ってしまった命に目を向けようとはしなかった。その裏で悲しんでる奴らがいることさえ考えなかった。
俺が元通りに戻したこの世界は不完全だった。みんなが幸せになれる世界を望んだわけじゃないけども、少なくともどうしようもないくらいに俺は自分勝手だったみたいだ。
「殺したきゃ殺せよ」
ネロ「……ああ、そうしてやるさ!」
影が鋭く鋭利な刃物の形を象り、俺の首を目掛けて真っ直ぐに振り落としてくる。
「させません!」
ーーだが、その影は空から差し込んできた太陽の光によって消滅し、俺の首に当たることはなかった。
ネイ「例え、私達が奪ってしまった命なんだとしても、だからって私達の正義が無くなるわけじゃありません!ヴァル!」
俺の全身を拘束していた影さえも消滅し、赤髪のネイが軽く抱きしめてくる。
ネイ「そんなに私達を恨みたいのなら恨めばいい。戦えばいい。勝てばあなた達の行いが正義になる!」
ネロ「……」
ネイ「だけど、それは叶えさせない。なぜならーー」
世界に夜明けが訪れる。太陽の光が彼女の背を燃え上がる炎のように照らし出す。
ネイ「私は、勝利の女神ニケ。私達に"勝利"を与える者です!」
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加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
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