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IIIStorys 【勝利の女神】
第12章18 【勝利を叫べ】
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私は神になりたかった。
自分の思い通りに世界を創造出来る神で在りたかった。
世界がリセットされたという事実を、私は遥か前から知っていた。そして、かつての世界で私の友であった者達を集めた。
やがては1つの大きな集団となり、気付けばかつての邪龍教にも迫る勢いで組織が拡大して行った。
私の計画は完璧だったはずだ。
例えイレギュラーが起きたとしてもすぐに修正が可能だったはずだ。
何が間違っていた?
私が間違っていたのか?
これは私の怠慢が導いた結果か?
違う。違う、違う!
こんなもの、イレギュラーでも何でもなかった。むしろ、予想すら出来た展開だった。
だがーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ニケ「勝利の、咆哮!」
世界には勝利の女神が君臨した。
戦況は一瞬にして押し返されてしまった。
そうだ。確かに私は彼女が復活してくることを見越していた。そのための対策として彼女にとっての大切な人を皆殺しにするつもりだった。
それは上手く行ったか?
否、何も上手く行かなかった。
私の力を持ってしても図太く生き残る連中。
なぜか私が与えたわけでもないのに前世界の記憶を思い出した連中。
そして、勝利の女神とかいう私が理解出来ないほどに理不尽な権限を持って復活してきた女神。
最初から、そう、私の計画は既に最初の時点で狂っていた。否、負けが決まっていたのだ。
ヴァル「勝利の雄叫び!!」
ヴェルド「ったく、お前なんかに力を分けられるなんて二度とゴメンだぜ」
フウロ「まあそう言うな。今日くらい、あいつに主役をやらせればいいさ」
グリード「後で心配させやがってこのやろォ!の精神でタコ殴りだけどなァ!」
ヴァル「お前ら、俺一応病み上がりだからな!?」
薄明かりの中、一際輝く炎達が私の命を狙って攻撃をしてくる。
あれほど痛め付けたのに、まだ戦えるらしい。これも、勝利の女神とやらの力か。
デルシア「皆さん!今が好機です!彼らに続いて私達も行きましょう!」
シンゲン「おう!」
アルフレア「任せろ!」
ミューエ「ええ!」
全く、私の体もボロボロだというのに、なぜこいつらはここまで徹底的に私を殺そうとするのだろうか。
ーーいや、そんな答え、私が1番よく知っていたな。我ながらおかしなことを考えてしまったみたいだ。
クロム「全員かかれ!!」
目の前で僅かに輝いていた光が消える。最後の希望であった光が消える。音も消える。風も消える。痛みも消える。何もかもが消える。
それでも何とか抗おうと心から有り余る限りの闇を放出する。でも、それは一瞬にして太陽の光にやられ、浄化させられてしまう。
私は何をしているのだろうな。
無駄に抗うだなんて、美しくないじゃないか。
「それ……でも……!」
例え、美しくなくとも、それでいいじゃないか。
美しくないから諦めるだなんて、それこそ私の信条に反する。私は諦めが悪いんだ。そして、何より仲間思いなんだ。
無惨に散っていった仲間達に、このまま負けを認めた上で死んだら合わせる顔がない。いや、もうとっくにそんなものは無いのかもしれない。だけれど、せめて妹に誇れるよう、仲間達に誇れるよう、そして自分自身に誇りを持てるよう、精一杯抗ってやろうではないか。
「我が心が折れぬ限り、私は諦めん……!」
影で刀を作り、僅かばかりに目の前で光る光を頼りに、私は女神へと剣先を向ける。
「これで、終わりにしよう。女神……」
ニケ「……」
「私の負けだ。貴様のその力、私の想定を遥かに超えていた。私の負けだ」
ニケ「じゃあ、なぜまだ抗うんですか」
「なぜなのだろうな」
その答えは未だに分からない。仲間だの自分のためだの色々と考えていたが、結局どれもそれらしい答えとは思えない。何かが足りないから、その足りないものを知りたくて、埋めたくて、ただ抗ってるだけに過ぎないのかもしれない。
「……答えが欲しいのだ」
ニケ「答え?」
「そう、答えだ。私が何故ここまでの事を起こしたのか。私にとって家族とはそれほど大事だったのか。そして何より、ーー私が生きる理由を知りたかった」
ニケ「……」
「さあ、最後だ。結末は見えてるかもしれない。だが、私は最後までこの命を貴様を殺すことのためだけに使おう」
刀を構え、光に向けて私は走り出した。
あの命、あの輝き、あの心。
その全てを斬り裂くように、私は刀を振るう。
ニケ「……」
ヴァル「一思いにやれよ、ネイ」
ニケ「……はい」
痛覚を失ったこの体が、なぜか優しい暖かさを感じている。
ニケ「ディア・ヴィクトリー」
私の刀が女神に届くより前に、女神の剣が私の心の臓を貫いた。
「……ああ、そうか」
彼女の剣にまとわりついていたのは、英雄の炎。その炎が答えを見せてくれた。
(お兄ちゃん。もう頑張らなくていいんだよ)
……そうか。そう、なのかもな。
(もう十分頑張ったからさ、もう休もうよ)
……私は、どうやら大馬鹿者だったらしいな。
(……本当、バカね。この大バカ者。自分の心に正直になれないバカヤロウ)
正直じゃない……か。そうかもな。俺は大嘘つき者だ。皆に嘘をつき、自分にも嘘をつき、私は無理をしていた。
なんだ、単純なことだったではないか。
「私は、羨ましかったんだよ……」
光の先にいる女神を見て、私はそう言葉を零した。
そうだ。私は羨ましくて仕方なかったんだ。
私と同じように、酷い環境で育ったというのに、彼女のところにはいつも炎が灯っていた。
そして、彼女には私が欲しいと思ったもの全てが与えられていた。世界から愛されていた。家族から愛されていた。愛が、そこにあった。
本当、私は口だけは達者みたいだな。
(本当ね。お兄ちゃん嘘をつくのは上手いし、人を騙すのも上手い。でも、それで自分も騙しちゃったらダメだよ)
お前は逆に、正直でいいな。
自分が在りたいと思える自分になれる。そんなお前も羨ましかった。いや、お前だけじゃない。この世界に生きる人間全てが羨ましかった。あの女神だけじゃなかった。
神になりたかった。そんな出任せのように口から出た言葉だったが、あながち嘘じゃなかったな。
神にでもなれば皆から信仰という名の愛を受けられる。自分の思うように世界を動かせる。もう、こんな理不尽な世界に無理して生きる理由も無くなる。でも、そんな存在になったって、きっと私は悲しいままなんだろうな。
(……お兄ちゃん。帰ろう、私達の場所へ)
「……ああ、そうだな。帰ろう。俺達がいる場所に」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
影が消えた。
「終わった……」
ようやく、この長い悪夢から目が覚めた。
「……おわぁっと……!」
体から急に力が抜けて、私はその場に倒れそうになった。だけど、優しく後ろから抱き留めてくれる人がいて、痛みを感じることは無かった。
ヴァル「お疲れ」
「……」
ちゃんと、彼がいる。
私の視界に、ちゃんと彼が映っている。
「っ……ヴァル、ヴァル……!」
そのことが嬉しくて、嬉しくて……私は涙を流す。
ヴァル「ったく泣くなよ。俺達勝ったんだぞ?喜べよ」
「分かってる。分かってる……けど!」
それでも涙は止まらない。ううん、止められない。だって、悲しくて泣いてるわけじゃないんだから。
ヴァル「ったく、仕方ねぇ奴だな」
ヒカリ「仕方ないのはどっちよ、バカ」
ヴァル「痛っ!何すんだ急に!」
ヒカリ「何すんだはこっちのセリフよ。あんた、後で謝罪祭りなの覚悟してる?」
ヴァル「……あぁ?」
ヴァルが後ろを見るのと同時に、私も顔を上げてヴァルが見た方を見上げる。すると、そこには嬉しさもありつつ、同時に何かよからぬことを考えてそうな面を並べた面々がいた。
ヴァル「まあ、そのなんだ。今は逃げるぞネイ!」
「え、あ、はい!」
ヴァルの素晴らしい跳躍力で、私達は一目散にこの場から逃げ出した。
ヒカリ「あ、こら!待ちなさい!」
その後ろを弾丸がすり抜け、そしてそれに続くようにしてみんなからの罵言と共に多種多様の魔法が飛んでくる。だけど、それらは全て当たる前に私の炎で燃やし尽くしてしまう。弱っ!
ヴァル「あーあ、俺謝罪とか性に合わねぇからやりたくないんだけど」
「奇遇ですね。私も謝るのは嫌いです」
ヴァル「だろ?俺ら英雄じゃん?世界救った英雄なわけだろ?なんですぐに謝らなきゃいけねぇんだよ。むしろ感謝祭してほしいくらいだわ」
「……」
思わずクスッと笑い、私は後ろの方で炎を炊いて空に文字を書いた。
ヴァル「何やってんだ?」
「ちょっとしたイタズラを」
空に文字を書き終わると同時に、みんなからの攻撃がピタリと止んだ。そして、しばらくしてからさっき以上の攻撃魔法が飛んでくるようになった。
ヴァル「お前何やったんだよ!?」
「さーて。ヴァル、しっかり逃げてくださいね!」
ヴァル「お前マジで何書いたの!?」
多分、ヴァルは空高くにいるから読めないんだろうな。まあ、読めたとしても特に意味の無い言葉だから何とも思わないだろう。
「ヴァル、大好きです」
ヴァル「……ああ、俺もだ。ネイ」
「ふふっ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ちっ、あれだけ暴れた後なのに、どんだけ力有り余ってるのよ」
空に数発弾丸を打ち、そして私は諦めた。いくらなんでも早すぎだし、どれだけ出力上げてもあの子が全部焼き払っちゃうしで対抗出来ない。
セリカ「なんか、無性に腹が立つけど、思えばあの2人が帰って来なかったら私達死んでたんだよね」
アルテミス「嫌になるね」
フウロ「全くだ。数時間ほど説教してやりたい気分なのだがな。風神剣!」
フウロが飛ばした風の斬撃も、燃やされるどころか軽くかわされて当たらなかった。
ミラ「あらあら、相変わらず元気がいいわね」
ライオス「全くだ。元気がありすぎて困りものだな」
ヴェルド「困ったなんてもんじゃねぇよ!なんだあの化け物夫婦!」
ヴェルドが放った氷の矢は、そのままヴェルドの方へと押し返されてしまい、治されたばかりの体に派手な傷がついてしまった。
シアラ「あー!ヴェルド様ぁぁぁぁ!!」
ネメシス「あいつらも早くくっ付いちまえばいいのにな」
フェイ「親父は早く再婚相手見つけられるといいな」
ネメシス「うるせぇ!父ちゃんだって頑張ってんだぞ!」
レラ「ま、まあまあ」
……本当に、終わったのね。
最初はどうなることかと思ったけど、でも何だかんだでどうにかしちゃうのがあの子、『ネイ』という人物。その子が起こした奇跡で、私達は戦いに勝利した。
本当、名前の通り勝利をもたらす女神だわ。その権限、もしかしたら事象すら操作してしまうくらいには卑怯なのかもね。
「まあ何でもいいか」
勝ったんだし、力云々なんてもうどうでもいい。
ーーそう、もうどうでもいい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「終わっちゃったねぇ……」
ゼグラニル「なんだ?終わってほしくなかったのか?」
「いや、そういうわけじゃない。むしろ、早く終わってくれってずっと思ってたからねぇ……。まあ、ただ、終わってしまえばこんな呆気ないものかぁって、ちょっと感傷に浸ってるだけだよ」
ゼグラニル「……そうだな。本当、終わっちまったら呆気ねぇもんなんだよなぁ」
ようやく前に進み出した世界を見て、僕達は変に遠い目をしてしまう。
何回も何回も繰り返して、そしてようやく進み出した世界。僕が望み、そしてこの時間を生きるネイ達が必死に生き抜いて作り上げた新たな時間。
「僕達の役目はここで終わりかな」
ゼグラニル「後は、この世界を生きる俺達にってことだろ?」
「ああそうだ。もう僕達がいる必要は無い。むしろこれ以上いたら世界にバグが起きてしまうかもしれない。なら、僕達はもうこの世界以外で自由に生きていこう」
ゼグラニル「……寂しくねぇのか?」
「寂しいよ。でも、これで良かったんだ。元々僕はこの世界にいるはずのない人間。何の別れも無しに消えるつもりでいたさ。それに、もう突破さえしてくれれば急速に興味が薄れてしまってね。もう何でもいいんだよ」
ゼグラニル「……そうか。お疲れさんってとこだな」
「ああ。かなり疲れたから、是非とも今日は君に甘えたいところだ。だから、君には嫌というほど僕の興味心に付き合ってもらうよ」
ゼグラニル「はいはい。俺の寿命が尽きるまでな」
「ああ」
自分の思い通りに世界を創造出来る神で在りたかった。
世界がリセットされたという事実を、私は遥か前から知っていた。そして、かつての世界で私の友であった者達を集めた。
やがては1つの大きな集団となり、気付けばかつての邪龍教にも迫る勢いで組織が拡大して行った。
私の計画は完璧だったはずだ。
例えイレギュラーが起きたとしてもすぐに修正が可能だったはずだ。
何が間違っていた?
私が間違っていたのか?
これは私の怠慢が導いた結果か?
違う。違う、違う!
こんなもの、イレギュラーでも何でもなかった。むしろ、予想すら出来た展開だった。
だがーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ニケ「勝利の、咆哮!」
世界には勝利の女神が君臨した。
戦況は一瞬にして押し返されてしまった。
そうだ。確かに私は彼女が復活してくることを見越していた。そのための対策として彼女にとっての大切な人を皆殺しにするつもりだった。
それは上手く行ったか?
否、何も上手く行かなかった。
私の力を持ってしても図太く生き残る連中。
なぜか私が与えたわけでもないのに前世界の記憶を思い出した連中。
そして、勝利の女神とかいう私が理解出来ないほどに理不尽な権限を持って復活してきた女神。
最初から、そう、私の計画は既に最初の時点で狂っていた。否、負けが決まっていたのだ。
ヴァル「勝利の雄叫び!!」
ヴェルド「ったく、お前なんかに力を分けられるなんて二度とゴメンだぜ」
フウロ「まあそう言うな。今日くらい、あいつに主役をやらせればいいさ」
グリード「後で心配させやがってこのやろォ!の精神でタコ殴りだけどなァ!」
ヴァル「お前ら、俺一応病み上がりだからな!?」
薄明かりの中、一際輝く炎達が私の命を狙って攻撃をしてくる。
あれほど痛め付けたのに、まだ戦えるらしい。これも、勝利の女神とやらの力か。
デルシア「皆さん!今が好機です!彼らに続いて私達も行きましょう!」
シンゲン「おう!」
アルフレア「任せろ!」
ミューエ「ええ!」
全く、私の体もボロボロだというのに、なぜこいつらはここまで徹底的に私を殺そうとするのだろうか。
ーーいや、そんな答え、私が1番よく知っていたな。我ながらおかしなことを考えてしまったみたいだ。
クロム「全員かかれ!!」
目の前で僅かに輝いていた光が消える。最後の希望であった光が消える。音も消える。風も消える。痛みも消える。何もかもが消える。
それでも何とか抗おうと心から有り余る限りの闇を放出する。でも、それは一瞬にして太陽の光にやられ、浄化させられてしまう。
私は何をしているのだろうな。
無駄に抗うだなんて、美しくないじゃないか。
「それ……でも……!」
例え、美しくなくとも、それでいいじゃないか。
美しくないから諦めるだなんて、それこそ私の信条に反する。私は諦めが悪いんだ。そして、何より仲間思いなんだ。
無惨に散っていった仲間達に、このまま負けを認めた上で死んだら合わせる顔がない。いや、もうとっくにそんなものは無いのかもしれない。だけれど、せめて妹に誇れるよう、仲間達に誇れるよう、そして自分自身に誇りを持てるよう、精一杯抗ってやろうではないか。
「我が心が折れぬ限り、私は諦めん……!」
影で刀を作り、僅かばかりに目の前で光る光を頼りに、私は女神へと剣先を向ける。
「これで、終わりにしよう。女神……」
ニケ「……」
「私の負けだ。貴様のその力、私の想定を遥かに超えていた。私の負けだ」
ニケ「じゃあ、なぜまだ抗うんですか」
「なぜなのだろうな」
その答えは未だに分からない。仲間だの自分のためだの色々と考えていたが、結局どれもそれらしい答えとは思えない。何かが足りないから、その足りないものを知りたくて、埋めたくて、ただ抗ってるだけに過ぎないのかもしれない。
「……答えが欲しいのだ」
ニケ「答え?」
「そう、答えだ。私が何故ここまでの事を起こしたのか。私にとって家族とはそれほど大事だったのか。そして何より、ーー私が生きる理由を知りたかった」
ニケ「……」
「さあ、最後だ。結末は見えてるかもしれない。だが、私は最後までこの命を貴様を殺すことのためだけに使おう」
刀を構え、光に向けて私は走り出した。
あの命、あの輝き、あの心。
その全てを斬り裂くように、私は刀を振るう。
ニケ「……」
ヴァル「一思いにやれよ、ネイ」
ニケ「……はい」
痛覚を失ったこの体が、なぜか優しい暖かさを感じている。
ニケ「ディア・ヴィクトリー」
私の刀が女神に届くより前に、女神の剣が私の心の臓を貫いた。
「……ああ、そうか」
彼女の剣にまとわりついていたのは、英雄の炎。その炎が答えを見せてくれた。
(お兄ちゃん。もう頑張らなくていいんだよ)
……そうか。そう、なのかもな。
(もう十分頑張ったからさ、もう休もうよ)
……私は、どうやら大馬鹿者だったらしいな。
(……本当、バカね。この大バカ者。自分の心に正直になれないバカヤロウ)
正直じゃない……か。そうかもな。俺は大嘘つき者だ。皆に嘘をつき、自分にも嘘をつき、私は無理をしていた。
なんだ、単純なことだったではないか。
「私は、羨ましかったんだよ……」
光の先にいる女神を見て、私はそう言葉を零した。
そうだ。私は羨ましくて仕方なかったんだ。
私と同じように、酷い環境で育ったというのに、彼女のところにはいつも炎が灯っていた。
そして、彼女には私が欲しいと思ったもの全てが与えられていた。世界から愛されていた。家族から愛されていた。愛が、そこにあった。
本当、私は口だけは達者みたいだな。
(本当ね。お兄ちゃん嘘をつくのは上手いし、人を騙すのも上手い。でも、それで自分も騙しちゃったらダメだよ)
お前は逆に、正直でいいな。
自分が在りたいと思える自分になれる。そんなお前も羨ましかった。いや、お前だけじゃない。この世界に生きる人間全てが羨ましかった。あの女神だけじゃなかった。
神になりたかった。そんな出任せのように口から出た言葉だったが、あながち嘘じゃなかったな。
神にでもなれば皆から信仰という名の愛を受けられる。自分の思うように世界を動かせる。もう、こんな理不尽な世界に無理して生きる理由も無くなる。でも、そんな存在になったって、きっと私は悲しいままなんだろうな。
(……お兄ちゃん。帰ろう、私達の場所へ)
「……ああ、そうだな。帰ろう。俺達がいる場所に」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
影が消えた。
「終わった……」
ようやく、この長い悪夢から目が覚めた。
「……おわぁっと……!」
体から急に力が抜けて、私はその場に倒れそうになった。だけど、優しく後ろから抱き留めてくれる人がいて、痛みを感じることは無かった。
ヴァル「お疲れ」
「……」
ちゃんと、彼がいる。
私の視界に、ちゃんと彼が映っている。
「っ……ヴァル、ヴァル……!」
そのことが嬉しくて、嬉しくて……私は涙を流す。
ヴァル「ったく泣くなよ。俺達勝ったんだぞ?喜べよ」
「分かってる。分かってる……けど!」
それでも涙は止まらない。ううん、止められない。だって、悲しくて泣いてるわけじゃないんだから。
ヴァル「ったく、仕方ねぇ奴だな」
ヒカリ「仕方ないのはどっちよ、バカ」
ヴァル「痛っ!何すんだ急に!」
ヒカリ「何すんだはこっちのセリフよ。あんた、後で謝罪祭りなの覚悟してる?」
ヴァル「……あぁ?」
ヴァルが後ろを見るのと同時に、私も顔を上げてヴァルが見た方を見上げる。すると、そこには嬉しさもありつつ、同時に何かよからぬことを考えてそうな面を並べた面々がいた。
ヴァル「まあ、そのなんだ。今は逃げるぞネイ!」
「え、あ、はい!」
ヴァルの素晴らしい跳躍力で、私達は一目散にこの場から逃げ出した。
ヒカリ「あ、こら!待ちなさい!」
その後ろを弾丸がすり抜け、そしてそれに続くようにしてみんなからの罵言と共に多種多様の魔法が飛んでくる。だけど、それらは全て当たる前に私の炎で燃やし尽くしてしまう。弱っ!
ヴァル「あーあ、俺謝罪とか性に合わねぇからやりたくないんだけど」
「奇遇ですね。私も謝るのは嫌いです」
ヴァル「だろ?俺ら英雄じゃん?世界救った英雄なわけだろ?なんですぐに謝らなきゃいけねぇんだよ。むしろ感謝祭してほしいくらいだわ」
「……」
思わずクスッと笑い、私は後ろの方で炎を炊いて空に文字を書いた。
ヴァル「何やってんだ?」
「ちょっとしたイタズラを」
空に文字を書き終わると同時に、みんなからの攻撃がピタリと止んだ。そして、しばらくしてからさっき以上の攻撃魔法が飛んでくるようになった。
ヴァル「お前何やったんだよ!?」
「さーて。ヴァル、しっかり逃げてくださいね!」
ヴァル「お前マジで何書いたの!?」
多分、ヴァルは空高くにいるから読めないんだろうな。まあ、読めたとしても特に意味の無い言葉だから何とも思わないだろう。
「ヴァル、大好きです」
ヴァル「……ああ、俺もだ。ネイ」
「ふふっ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ちっ、あれだけ暴れた後なのに、どんだけ力有り余ってるのよ」
空に数発弾丸を打ち、そして私は諦めた。いくらなんでも早すぎだし、どれだけ出力上げてもあの子が全部焼き払っちゃうしで対抗出来ない。
セリカ「なんか、無性に腹が立つけど、思えばあの2人が帰って来なかったら私達死んでたんだよね」
アルテミス「嫌になるね」
フウロ「全くだ。数時間ほど説教してやりたい気分なのだがな。風神剣!」
フウロが飛ばした風の斬撃も、燃やされるどころか軽くかわされて当たらなかった。
ミラ「あらあら、相変わらず元気がいいわね」
ライオス「全くだ。元気がありすぎて困りものだな」
ヴェルド「困ったなんてもんじゃねぇよ!なんだあの化け物夫婦!」
ヴェルドが放った氷の矢は、そのままヴェルドの方へと押し返されてしまい、治されたばかりの体に派手な傷がついてしまった。
シアラ「あー!ヴェルド様ぁぁぁぁ!!」
ネメシス「あいつらも早くくっ付いちまえばいいのにな」
フェイ「親父は早く再婚相手見つけられるといいな」
ネメシス「うるせぇ!父ちゃんだって頑張ってんだぞ!」
レラ「ま、まあまあ」
……本当に、終わったのね。
最初はどうなることかと思ったけど、でも何だかんだでどうにかしちゃうのがあの子、『ネイ』という人物。その子が起こした奇跡で、私達は戦いに勝利した。
本当、名前の通り勝利をもたらす女神だわ。その権限、もしかしたら事象すら操作してしまうくらいには卑怯なのかもね。
「まあ何でもいいか」
勝ったんだし、力云々なんてもうどうでもいい。
ーーそう、もうどうでもいい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「終わっちゃったねぇ……」
ゼグラニル「なんだ?終わってほしくなかったのか?」
「いや、そういうわけじゃない。むしろ、早く終わってくれってずっと思ってたからねぇ……。まあ、ただ、終わってしまえばこんな呆気ないものかぁって、ちょっと感傷に浸ってるだけだよ」
ゼグラニル「……そうだな。本当、終わっちまったら呆気ねぇもんなんだよなぁ」
ようやく前に進み出した世界を見て、僕達は変に遠い目をしてしまう。
何回も何回も繰り返して、そしてようやく進み出した世界。僕が望み、そしてこの時間を生きるネイ達が必死に生き抜いて作り上げた新たな時間。
「僕達の役目はここで終わりかな」
ゼグラニル「後は、この世界を生きる俺達にってことだろ?」
「ああそうだ。もう僕達がいる必要は無い。むしろこれ以上いたら世界にバグが起きてしまうかもしれない。なら、僕達はもうこの世界以外で自由に生きていこう」
ゼグラニル「……寂しくねぇのか?」
「寂しいよ。でも、これで良かったんだ。元々僕はこの世界にいるはずのない人間。何の別れも無しに消えるつもりでいたさ。それに、もう突破さえしてくれれば急速に興味が薄れてしまってね。もう何でもいいんだよ」
ゼグラニル「……そうか。お疲れさんってとこだな」
「ああ。かなり疲れたから、是非とも今日は君に甘えたいところだ。だから、君には嫌というほど僕の興味心に付き合ってもらうよ」
ゼグラニル「はいはい。俺の寿命が尽きるまでな」
「ああ」
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