グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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Veritas1章 【運命の少女】

Veritas1章4 【策略】

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「っ……!」

 真っ白な天井。家具らしき物は何も置かれておらず、空の様子を眺めることしか出来ない窓があるだけの質素な部屋。

 ……私、なんでこんなところに……。

「ラクっ!」

 ーーと、ぼやけた視界に頭を悩ませていると、緑色の髪をした少女が急に飛びついてきた。人の気配なんて一切感じなかったのに、一体どこから?

「……テミ」

 どこから現れたのかは大した問題じゃない。私に抱きついてきた人物は、紛れもなくアルテミス本人だった。彼女には転移の力は無い。なのに、なぜこの世界にいる?いや、私が向こうの世界に帰っただけなのか?

 ……分からない。何が起きた?なんでこんな所で寝てた?

「ようやく起きたか」

「……ラナ?」

 不意に聞こえた声に、私は少しだけ心当たりがあった。

ラナ「正解だ。……全く、死んでしまったんじゃないかと思ったよ」

「……何が……あったの?」

ラナ「簡単に説明しよう。君は解放軍と戦うと決めた日、正確にはその翌日だが、君はメモリ使用者を次々に殺していった。途中、キルディスに心臓を貫かれてしまったが、そこは僕の力で何とか生還……だったら良かったんだがねぇ」

 妙に引っかかる言い方だ。私が死にかけた状況に何があるのだろうか?

ラナ「あれは、何と呼べば良いのだろうか。まあ、いいや。君は溜まりに溜まったストレスから大熱を出した。それに被さるようにして、謎の生物が僕達の周りを取り巻いた。生物と言っていいのかどうかは分からないが、僕の力ですら振り払うことが出来ない奴らだった」

「生物?」

ラナ「と言っていいかどうかは分からない。なんせ、煙のような見た目をしていたからねぇ。あんなの、過去数万と過ごしてきた僕でも見たことはないよ。まあいい。そいつらの妨害によって、一時この街は大変な状況になっていた。倒れた君を助けることが出来ず、軽く1週間は過ぎたかな?」

「え、1週間も寝てたの……」

ラナ「いいや。1ヶ月だ。多分、その生物に何かをされたのだろう。君は仮死状態と言って良いぐらいには衰弱していた。そこから、僕とエフィであーだこーだと頑張り、今この瞬間、君が目覚めたことによって生存は証明された。あ、ついでに言っておくが、そこにいる緑の子はアルテミス。解放軍の船に乗り込んでこの世界にやって来たらしいよ。歴史通りだねぇ」

「…………」

ラナ「まあ、歴史通りとは言っても、本来彼女とはここで出会うはずのものじゃない。それは、もちろん分かっているはずだろ?」

「……ええ、そうね。本来、こんな未来は辿らなかったはず」

ラナ「そうさ、こんな未来は辿らない。だから運命の矯正力が働く。恐らく、この1ヶ月は君が本来ならばこのギルドにいなかった時期を無理矢理作り出したのだろう。あ、そうそう。外の状況を説明すると、今、クロム、シヴァとヴァル君達は合流し、シヴァを先頭にしてラースがいるアジトを潰しに行こうとしてるよ」

 そっか、お兄ちゃん……ってーー

「なんで止めてないの!」

 私はテミがいることを気にせず、ラナに飛びついた。その拍子に倒れたテミは、すやすやと寝息を立てていた。通りでラナが難しい話をするはずだ。いや、今はそんなことはどうでもいい。

「兄ちゃん達をアジトに連れて行ったらーー」

ラナ「分かっているさ。君の兄は死ぬ。そして、助けに行った君が連れ拐われる」

「だったら……なんで……」

ラナ「運命の矯正力。そう言っておこう。恐らく、僕が彼らを止めたところで何かしらの力が働いて結局はこうなる。なら、運命の流れに身を任せる。そういう結論に至った」

「……あんた、未来を変える気はあるの?ないの?」

ラナ「あるさ。あんな絶望に満ちた未来、2度とゴメンだね。でも、ここで流れを変えるのは僕じゃない。ーー君だ」

 途端にラナの目が鋭く光り、凍てつくような視線で見つめてきた。

ラナ「未来を変えるのは僕の仕事じゃない。僕はあくまで君達の決断を誘導するだけだ。最終的にどうするかを決めるのは、君だ。責任を押し付けないでくれ」

「……」

 確かにそうかもしれない。ラナは一応未来人。そして私は未来の出来事を知ってはいるものの、この時代を生きる人間。どちらが決断を下すべきかは明らかだ。でもーー

「……いや、あんたの言う通りだわ」

ラナ「ほう」

「あんたが未来を変えたところで、それは1度やったこと。そして失敗した。だから、未来を変えさせる人物を変えたいって算段よね」

ラナ「そこまでではないが、まあ大体正解と言ったところかな」

「……」

 決めるのは私。私しか決められない。でも、どうしたらいい?私が助けに行けば元の歴史通りになる。かといって、ここで待機していてもラース相手に今のヴァル達が勝てるわけない。

 どっちを選んでも詰み。第3の選択……は流石に時間が足らなさすぎる。せめて、ヴァル達が出る前に目を覚ませたら良かったのに……これも、運命ってやつなのかしら。

「ラナ、私、助けに行くわ」

ラナ「歴史通りを選ぶということかい?」

「……ええ、そうなるわね。でも、運命の流れを変えられるのは、私だけじゃないのよ」

ラナ「……」

 テミを代わりにベッドで寝かせ、私は部屋を飛び出した。

「せめて、兄ちゃんだけでも……!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 大通りを抜け、戦いの音が響き渡る方に向けて走り続けている。異世界人騒ぎのせいですっかりと活気のあった街は静まり返り、みんなが魔法を詠唱する声がよく聞こえる。

 確かに、残る敵はラースとミラーとビズの3人。兄ちゃんとクロムさんを味方に加えれば、そりゃ圧倒的な優勢を保ったまま勝てると思うだろう。

「……バカ!」

 敵はあのラース。周り2人はどうにかなるかもしれないが、あいつだけは正面からやり合える相手じゃない。今更こんな事を言っても仕方ないけれど、『キング』なんてメモリを作り出さなきゃ良かった。本当に今更だけど。

 薄暗い路地を抜け、いよいよみんながいる場所へと合流した。その時ーー

「……は」

 目の前に広がるのは正に地獄といったもの。ヴァル以外の全員が倒れ、兄ちゃんに至っては心臓を撃ち抜かれている。出血量が1人だけ半端じゃない。

「兄ちゃん!」

 すぐさま兄の元に駆け寄る。治癒術を施すけれど、助かる気がしない……。

ラース「遅かったな、裏切り者」

 ラースがキングのメモリで姿を変えている。ただでさえ厳つい剣の魔人だったのに、大きさと剣の数を更に増やしている。

 成長型メモリの強みだ。これでも進化の途中だってんだからやってらんない。

ヴァル「クソがァ!炎龍の咆哮!」

ラース「無駄だ」

 ヴァルの炎も、爪で弾くくらいの感覚で打ち消されている。

 なんで……なんで、こんな事に……。

シヴァ「ラ……ク……か……?」

 兄ちゃんが、微かに指を震わせながら私の膝をつついてきた。

「兄ちゃん……」

シヴァ「わ……るい。守れ……なかっ……た……」

 それだけ言って、兄は死んだかのように眠ってしまった。……いや、本当に死んでしまった。

 運命の流れは変わらない。それどころか、もっと酷くなっている。私が変に捻じ曲げたから?それが原因なの?

 分かんない……分かんないよ!もう、何もかも……!

ラース「ミラー、ビズ。ヒカリを捕らえよ」

ミラー「はっ!」
ビズ「了解」

 2人が歴史通りに事を運ぼうと私の元にやってくる。せめてでもと抗おうとするが、すぐに黒い煙がやって来て私の身動きを封じる。

 これが、運命の矯正力。ラナですら存在を知らなかった何か。恐らく、私が生み出してしまった運命の抗体。名は、『ヴェリア』。

ヴァル「待て!ラース!」

ラース「貴様は他よりも根性のある奴だな。どうだ?我が部下として働いてみる気はないか?」

ヴァル「誰がんなことするかよ!」

 立ち去ろうとするラース相手にヴァルだけが抗っている。私は、ヴェリアがいなくなったにも関わらず、大人しくミラーに縄で両手を結ばれている。きっと、ここで抗ったところでまたあいつらが来るだけなんだ。

 その事実が、私から反逆の意志を奪った。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「……控えめに言って、無様。そう言うしかないよねぇ」

ヴァル「うるせぇ……」

 結局運命通りってことか。運命を変えられる人物はヒカリだけではない。その言葉、少しだけ期待していたんだが、どうやら当ては外れたらしい。

 僕は1人だけ比較的軽傷なヴァルを見つめ、そっと溜息を吐く。

 クロム、シヴァ、フウロ、セリカ、ライオス、グリード、ヴェルド、シアラ。錚々たる面子が出かけた割には得られたものは何1つとして無い。それどころか、2つも大切なものが奪われてしまった。帰ってさえくれば僕の治癒術でどうにでもなったが、流石に死人はどうにもならない。

 月下美人の力で時間を戻してもいいのだが、恐らく、あの黒い煙共に邪魔をされるだけだろう。死人は正しく死んでおけ、そういうことかな。

クロム「作戦が浅はか過ぎた。すまん」

ヴァル「お前のせいじゃねぇよ。悪ぃのは、調子に乗ってた俺達だ」

 まあ、本来歴史通りに進めばこの戦いでここまでの傷を負うことは無かったんだがね。

 さて、次の策はどうしようか。ヒカリを死なせるわけにはいかないが、あの煙がある限り、彼女は死んでしまうだろう。そして、歴史通りネイが生まれ、デルシアとの旅を得てからヴァル達に合流する。それでもいいのかもしれないが、それでは前回と同じだ。流れを変えるのなら、もっと早くから変えなければ……。

アラン「クロム様。ビズと名乗る人物からこちらが」

 ギルドの戸を開け、クロムの配下であるアランが入ってくる。手にはご丁寧に封をされた紙切れがある。きっと、中身は歴史通りだろうね。

クロム「聖龍の墓場にて待つ。ラグナロク帝国帝王グリモワ」

アラン「……侵略者達が、帝国と繋がっているということでしょうか?」

クロム「可能性はある。異世界から来たとは言っていたが、奴らの資金力と連れてくるにしては多すぎる人数。ずっと疑問だったんだ。この街とイーリアス西部。その両方を攻める方法などあるのか、と」

ヴァル「んじゃ、その聖龍の墓場とやらに行って皇帝もラースの野郎もぶっ飛ばせばいいんだろ?簡単な話じゃねぇか」

ラナ「元気なのは君とクロム。後はその部下達だけなのを忘れたのかい?あ、一応このギルドにもまだ戦える戦力はあったか。まあ、それでも敵が待ち構えているところに行くにしては、なんとも心許ない面子だ」

ヴァル「……ちっ」

 歴史がどんどん悪い方向に進んでいっている。運命の流れを守るというのならば、あの煙は次に僕達を手助けするだろう。もちろん、ヒカリが投身自殺を測った後で。

 一応、僕が手出しをしなくても歴史は勝手に元に戻るか。……だが、なんだか癪だねぇ。運命の流れに全てを翻弄されるだなんて。

「……いや、この面子で十分か」

ヴァル「……?お前、さっきと言ってることが違うぞ」

「僕が出る。それならば十分だ」

「「「 ……! 」」」

 そうさ。何も難しい話ではない。

 あの煙は街一帯を覆い尽くせるほどに数があるが、必ず限りはある。僕がとことん運命に抗う手を打てば、奴らも修正をしようと必死になるはずだ。その隙に、ヒカリが選択を変えてくれればいいだけの話だ。

「……作戦は決まった。今から使えるだけの戦力を使って行こう」

クロム「どこにだ」

「言われなきゃ分からないのかい?聖龍の墓場だよ。どうせ、ここに来るまでに使った馬車は何台かあるのだろう?ならば、善は急げだ」

クロム「……分かった。お前に賭けてみよう」
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