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Veritas2章 【運命の欠落点】
Veritas2章1 【龍の記憶】
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ーー5か月後。
蒸し暑かった夏を終え、季節は順当に冬へと近づいて行っている。そんな日に、今日もせっせこと無駄に値の張るアパート(ヴァルと同じ)から10分の道のりを歩き、私は今日もグランメモリーズのギルドハウスへと出社する。……出勤のほうがいいか。
ヴァル「お前が食ってねえんだとしたら誰が食ったってんだよ!」
ヴェルド「だから知らねえよ!」
ヴァル「お前以外ありえねえんだよ!」
ヴェルド「だから知らねえって!」
……またやってる。
あーあ、好きな人には常にとは言わないけど、もっとカッコよくしていてほしい。プリンの1つや2つ、どうせ給料の1里も使わないんだからどうだっていいでしょ。あ、まだプリンと確定したわけじゃないか。まあ、理由は似たようなもんだろうし、いいでしょ。
セリカ「おはよー、ヒカリ~ん」
眠そうに大欠伸をしながらセリカがやってきた。
「おはよ、セリカ。寝癖酷いよ」
セリカ「そう思うなら直して」
そう言い、セリカは櫛を渡してきた。
最初の1回で上手くやりすぎっちゃったのが駄目だったんだろうなあ、と軽く後悔しながらも、セリカを椅子に座らせ、丁寧に解きほぐしていく。私自身、普段はポニーで適当に結っているが、髪の長さは世界一くらいにはあるので、セットアップする作業には慣れていたらしい。まあ、そんなこんなでいつの間にかセリカの朝の支度の一部を私がする羽目になっている。……なんで?
「はい、セット完了」
セリカ「ありがと、ヒカリん」
そのままセリカは依頼掲示板の前に行き、なんか適当に仕事を選び始めた。
ヴァル「じゃあ本当に誰が食ったってんだよ!」
フウロ「私だ」
「「 は? 」」
フウロ「私が誤って食べた。すまん、同じものを探してたら思った以上に時間がかかった」
ヴァル「お、おう……」
珍しく謝るフウロに対し、2人は困惑しつつも喧嘩を終わらせた。
ここまでが朝の出来事。解放軍にいた頃が静かすぎたのか、それともここが喧しいだけなのか。どっちかは分かんないけど、とりあえず飽きはしないかな。
ーーそういや、結局解放軍がしたかったことって何だったんだろ。
5か月間、ラースはずっと精神を崩壊したままだが、いくら何でも回復が遅すぎるような気がする。一度、私が見に行くべきなんだろうけど、何をするかが分からない男だ。不用意に接触はしたくない。……とは言っても、そのうちしなきゃいけないんだろうけど。
(なあ、お嬢、そろそろ俺の存在を認める気になったか?もうそろそろ2か月だぞ)
……そうそう、最近増えた悩み事が1つある。いや、”4つ”かな?
(焦ルナ炎雷龍。我ガ主ハマダ慣レヌダケダ)
(まあ、主には早く慣れて頂きたいと思うが)
(いえいえ、焦りは禁物ですよ。私達に記憶はあれど、お嬢様には記憶がないのですから)
(その前に俺らの聞いてた話と違ぇだろ)
(確かに、主はもっと龍皇女として相応しい見た目をしておりました)
(歴史ガ変ワッテイル。ソウイウコトダロウ)
(そうでございますね)
最近、なんだか幻聴が喧しい。ストレスは溜まってないどころか、いっそ清々しいくらいまでに晴れ晴れとしているのに、最近日を増すごとにうるさくなっていってる。最初は1人の声から始まったのに、今じゃ気づけば4人にまで増えている。心なしか、心もなんか狭くなっているような気がする……。
まあ、反応しないようには気を付けてるんだけど、ちょっとでも意識を欠いたらつい反応してしまいそうになる。本当、なんなんだろう、これ。
アルテミス「なんかラク、最近元気無くない?ってか、心の色がなんかごちゃごちゃしてるんだけど」
しれっと隣に座ってきたテミがそう言う。
「……」
そういや、テミは人の心の色が見えるとかいう特殊体質だったな……ってーー
「ごちゃごちゃしてる……?」
アルテミス「うん。黒っぽい赤に、透き通った青、黄金に近い黄色にこれまた黒っぽい紫。で、元々の色であるピンク。感情の起伏で色が少し変わるってのはよくあるけど、流石にこんなに混ざってる人は見たことないよ」
……やっぱ、幻聴じゃないのか。まあ、知ってたけど。
いや、だとしたらこれマジで何?いや、なんとなくで察してはいるけども、マジで何?こいつらあれでしょ?ネイの契約龍でしょ?なんで私の中にいるわけ?私普通に生きててネイが現れる世界線は完全に消したんだけど。それともあれ?ネイがいなくなったら自動的に私がやらなきゃいけないの?何それめんどくさっ!
後でラナに確認してみるか……。
アルテミス「何でもいいけど、話すならなるべく早めに話してよね?消える前に」
「いやもう消えないから」
テミはこれで用事はおしまいとばかりに掲示板の方へととことこ歩いていった。働かない私と違ってよく働くわね、あの子。一応あの形で14のはずなんだけどね。
「へー、ここがグランメモリーズのギルドねぇ……」
少しの静寂も待たず、また新たな人物が扉を開けて入ってくる。特に珍しいことでもなく、私はレラに渡されたコーヒーを口に注いでいたのだが、なんとなくあの声に違和感を感じた。
ミラ「あら、お客さん?それとも依頼人さん?」
「ああ、依頼人ってことになるかねぇ」
……いや、この声に聞き覚えはない。どこにでもいる普通のダミ声だ……。ダミ声?
「ここって、魔導士をご指名で依頼出来んのか?」
ミラ「え、ええ一応出来るけども、誰をご指名ですか?」
コーヒーカップを傾けたまま、ゆっくりと後ろを振り返る。そうして見たものに、私は心臓が止まるほどに気が動転し、コーヒーカップをそのまま落としてしまった。
「ヒカリ・スターフィリア……あー、間違えた。ヒカリ・イグドラシルだ。そいつに頼みてぇことがある」
ミラ「ヒカリちゃんね、分かったわ」
そのままミラさんがこちらに駆け寄ってくるが、私は暫し、固まったまま動けなかった。
あの声、あの態度、そして何より、その体から溢れ出る悪魔のオーラ……。間違いない、まだ未来の話だと思っていた奴がここに来た……。
ミラ「ヒカリちゃん?おーい、ヒカリちゃーん」
ハッとなり、私はすぐさま炎の弾を男に向けて放った。当たった瞬間にギルドを崩壊させるくらいに強いものを撃ってしまったが、この時の私は一々そんな事を気にしていられなかった。
「はっ、随分な歓迎じゃねぇか。まあ、そりゃそうなんだよなぁ」
男は私の魔法を軽く指でつまみ、そのまま消してしまった。
「っ……なぜ、お前がここに……!」
ミラ「ちょ、ちょっとヒカリちゃん!?」
ミラさんの静止を振り解き、椅子と天井を蹴ってあいつの真正面に迫る。ただ、迫ったはいいものの、ただの魔法が意味を成さないことを私は知っている。別の方法で攻めなければと思ったが、そんな事は攻める前に考えるべきで、今考えるべきことではなかった。
判断が遅れた私の腕を掴み、男は軽々と振り回す。そして、カウンターの奥に向かって投げられ、調理器具を散漫とさせながら私は地面に横たわった。
ヴァル「っ!てめぇ何しやがる!」
「何しやがる……か。まあ、先に攻めてきたのはあちらと言えど、ちとやり過ぎちまったかもなぁ」
ヴァル「あぁ?」
ヴァルが詰め寄っていってるのが分かったが、すぐに地面に倒れる音がした。
セリカ「ヴァル!」
「お前は少し面倒だ。ちょっと寝てろ」
地面を踏みしめる音が近づいてくる。奴が少し息を吹いただけでカウンターが崩壊する。そして、何も障害物が無くなり、奴の顔が覗けるようになる。
「っ……エン……マ」
エンマ「へぇ、知ってんのか。まあ、だろうな。ヴェリアを反応させちまうくらいだし」
「何しに……来た……」
エンマ「まあ、そう睨むなよ。一応初めましてだろうが。あ、お前さんにとっても、俺にとっても、その1番最初の初めましては互いに違ぇみたいだけどな」
……そうか。未来のことを知らなくても、過去にネイが色々とやってたから面識はあるって話なのか。だけど、エンマが本来現れる話は私の生存で消えたはず。なのに……なんで……?
エンマ「お前をご指名でいっちょ依頼があんだ。聞いてくれよ」
「っ……」
エンマ「俺と戦って死ね。依頼内容はそれだけだ。結構簡単だろ?まあ、戦うって部分は別になんだっていいけどな、お前さんが死んでさえくれれば」
ヴェリアに意思がある版、と考えればいいのだろうか。こいつも、実は運命を正す存在だということなのだろうか。
……死にたく……ない……。
折角拾った命なんだ。そんな簡単に死にたくない!でも、この状況でどうすれば……。ワールドメモリーズは、取り出してる間に邪魔される。絶対にあれを使うことは許してくれないし、そもそもワールドメモリーズも対ラース用に作ったからエンマ相手にどこまで通用するかが分からない。
…………いや、あれなら。
「黙ってないで……少しは助けてよ……」
(……認める気になったのか?)
……ちゃんと会話が出来る相手で良かった。
エンマ「んじゃ、戦う気がねぇならそのまま死ね」
エンマが闇で型どった刃を振り下ろしてくる。その瞬間に、私は本来存在しないはずの奴らと意識を入れ替える。
エンマ「……あ?」
「「 残念だが、お嬢はまだ死にたくねぇってよ! 」」
体が火照り出す。全身を炎で包み込まれたかのように熱くなり、自分の中の声の1つが表に出てくる。意識を入れ替えるつもりでいたのだけれど、なぜか私も表にいる状態になっている。まあ、なんだっていいか。
「「 オラァ!! 」」
エンマ「っっっ……!?」
炎と雷を帯びた拳でエンマの腹を思いっきり突き飛ばす。体は私のもののはずなのに、凄い力だ。流石は、炎雷龍王といったところか。
「「 フウロ、ちょっと剣借りるわよ! 」」
フウロの剣を鞘ごと引き抜き、そのまま鞘を投げ捨てて剣を振り回す。
「「 輝きの、流星剣!! 」」
星の力をまとわらせ、エンマの手前で少し構えてから思いっきり横一文字に切り込む。だがーー
「「 避けられた…… 」」
エンマ「お前がそういうように、俺もまだ死ぬわけにはいかないんでなぁ。まあ、今のはちょっと効いたぜ」
エンマが空から不気味な笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。腹に大きな一撃を喰らわせたはずだが、特に効いてる感じはしないな。……やっぱり、倒すならワールドメモリーズを再調整しないと。
エンマ「今回は不意打ち仕掛けたつもりが返り討ちを喰らっちまったが、次はそうはいかねえ。……ヒカリ、お前さんは生きてちゃならねえ。じゃあな」
不穏なことを言い残し、エンマは異界への扉を開いて消え去った。
……
……
……
「死にたく……ない」
(安心しろ、俺達が死なせねえよ)
うるさかった声が、たった数分で頼りがいのあるものへと変わっている。なんだかんだでいい奴らだな。ネイが信頼してた理由が分かった。
ーーそのネイがいなきゃダメなんだな。憂鬱になる。
「とりあえず、みんな大丈夫?」
グリード「おめえよォ、昨日に敵作ったまんま今日迎えんなやァ」
「正確には、作ったのは未来だけどね。まあいい、今回の事態について、僕から話をしようか」
なんとも間のいいところでいい人が現れてくれるものだ。
ラナ「君の心を折るかもしれないけどね」
蒸し暑かった夏を終え、季節は順当に冬へと近づいて行っている。そんな日に、今日もせっせこと無駄に値の張るアパート(ヴァルと同じ)から10分の道のりを歩き、私は今日もグランメモリーズのギルドハウスへと出社する。……出勤のほうがいいか。
ヴァル「お前が食ってねえんだとしたら誰が食ったってんだよ!」
ヴェルド「だから知らねえよ!」
ヴァル「お前以外ありえねえんだよ!」
ヴェルド「だから知らねえって!」
……またやってる。
あーあ、好きな人には常にとは言わないけど、もっとカッコよくしていてほしい。プリンの1つや2つ、どうせ給料の1里も使わないんだからどうだっていいでしょ。あ、まだプリンと確定したわけじゃないか。まあ、理由は似たようなもんだろうし、いいでしょ。
セリカ「おはよー、ヒカリ~ん」
眠そうに大欠伸をしながらセリカがやってきた。
「おはよ、セリカ。寝癖酷いよ」
セリカ「そう思うなら直して」
そう言い、セリカは櫛を渡してきた。
最初の1回で上手くやりすぎっちゃったのが駄目だったんだろうなあ、と軽く後悔しながらも、セリカを椅子に座らせ、丁寧に解きほぐしていく。私自身、普段はポニーで適当に結っているが、髪の長さは世界一くらいにはあるので、セットアップする作業には慣れていたらしい。まあ、そんなこんなでいつの間にかセリカの朝の支度の一部を私がする羽目になっている。……なんで?
「はい、セット完了」
セリカ「ありがと、ヒカリん」
そのままセリカは依頼掲示板の前に行き、なんか適当に仕事を選び始めた。
ヴァル「じゃあ本当に誰が食ったってんだよ!」
フウロ「私だ」
「「 は? 」」
フウロ「私が誤って食べた。すまん、同じものを探してたら思った以上に時間がかかった」
ヴァル「お、おう……」
珍しく謝るフウロに対し、2人は困惑しつつも喧嘩を終わらせた。
ここまでが朝の出来事。解放軍にいた頃が静かすぎたのか、それともここが喧しいだけなのか。どっちかは分かんないけど、とりあえず飽きはしないかな。
ーーそういや、結局解放軍がしたかったことって何だったんだろ。
5か月間、ラースはずっと精神を崩壊したままだが、いくら何でも回復が遅すぎるような気がする。一度、私が見に行くべきなんだろうけど、何をするかが分からない男だ。不用意に接触はしたくない。……とは言っても、そのうちしなきゃいけないんだろうけど。
(なあ、お嬢、そろそろ俺の存在を認める気になったか?もうそろそろ2か月だぞ)
……そうそう、最近増えた悩み事が1つある。いや、”4つ”かな?
(焦ルナ炎雷龍。我ガ主ハマダ慣レヌダケダ)
(まあ、主には早く慣れて頂きたいと思うが)
(いえいえ、焦りは禁物ですよ。私達に記憶はあれど、お嬢様には記憶がないのですから)
(その前に俺らの聞いてた話と違ぇだろ)
(確かに、主はもっと龍皇女として相応しい見た目をしておりました)
(歴史ガ変ワッテイル。ソウイウコトダロウ)
(そうでございますね)
最近、なんだか幻聴が喧しい。ストレスは溜まってないどころか、いっそ清々しいくらいまでに晴れ晴れとしているのに、最近日を増すごとにうるさくなっていってる。最初は1人の声から始まったのに、今じゃ気づけば4人にまで増えている。心なしか、心もなんか狭くなっているような気がする……。
まあ、反応しないようには気を付けてるんだけど、ちょっとでも意識を欠いたらつい反応してしまいそうになる。本当、なんなんだろう、これ。
アルテミス「なんかラク、最近元気無くない?ってか、心の色がなんかごちゃごちゃしてるんだけど」
しれっと隣に座ってきたテミがそう言う。
「……」
そういや、テミは人の心の色が見えるとかいう特殊体質だったな……ってーー
「ごちゃごちゃしてる……?」
アルテミス「うん。黒っぽい赤に、透き通った青、黄金に近い黄色にこれまた黒っぽい紫。で、元々の色であるピンク。感情の起伏で色が少し変わるってのはよくあるけど、流石にこんなに混ざってる人は見たことないよ」
……やっぱ、幻聴じゃないのか。まあ、知ってたけど。
いや、だとしたらこれマジで何?いや、なんとなくで察してはいるけども、マジで何?こいつらあれでしょ?ネイの契約龍でしょ?なんで私の中にいるわけ?私普通に生きててネイが現れる世界線は完全に消したんだけど。それともあれ?ネイがいなくなったら自動的に私がやらなきゃいけないの?何それめんどくさっ!
後でラナに確認してみるか……。
アルテミス「何でもいいけど、話すならなるべく早めに話してよね?消える前に」
「いやもう消えないから」
テミはこれで用事はおしまいとばかりに掲示板の方へととことこ歩いていった。働かない私と違ってよく働くわね、あの子。一応あの形で14のはずなんだけどね。
「へー、ここがグランメモリーズのギルドねぇ……」
少しの静寂も待たず、また新たな人物が扉を開けて入ってくる。特に珍しいことでもなく、私はレラに渡されたコーヒーを口に注いでいたのだが、なんとなくあの声に違和感を感じた。
ミラ「あら、お客さん?それとも依頼人さん?」
「ああ、依頼人ってことになるかねぇ」
……いや、この声に聞き覚えはない。どこにでもいる普通のダミ声だ……。ダミ声?
「ここって、魔導士をご指名で依頼出来んのか?」
ミラ「え、ええ一応出来るけども、誰をご指名ですか?」
コーヒーカップを傾けたまま、ゆっくりと後ろを振り返る。そうして見たものに、私は心臓が止まるほどに気が動転し、コーヒーカップをそのまま落としてしまった。
「ヒカリ・スターフィリア……あー、間違えた。ヒカリ・イグドラシルだ。そいつに頼みてぇことがある」
ミラ「ヒカリちゃんね、分かったわ」
そのままミラさんがこちらに駆け寄ってくるが、私は暫し、固まったまま動けなかった。
あの声、あの態度、そして何より、その体から溢れ出る悪魔のオーラ……。間違いない、まだ未来の話だと思っていた奴がここに来た……。
ミラ「ヒカリちゃん?おーい、ヒカリちゃーん」
ハッとなり、私はすぐさま炎の弾を男に向けて放った。当たった瞬間にギルドを崩壊させるくらいに強いものを撃ってしまったが、この時の私は一々そんな事を気にしていられなかった。
「はっ、随分な歓迎じゃねぇか。まあ、そりゃそうなんだよなぁ」
男は私の魔法を軽く指でつまみ、そのまま消してしまった。
「っ……なぜ、お前がここに……!」
ミラ「ちょ、ちょっとヒカリちゃん!?」
ミラさんの静止を振り解き、椅子と天井を蹴ってあいつの真正面に迫る。ただ、迫ったはいいものの、ただの魔法が意味を成さないことを私は知っている。別の方法で攻めなければと思ったが、そんな事は攻める前に考えるべきで、今考えるべきことではなかった。
判断が遅れた私の腕を掴み、男は軽々と振り回す。そして、カウンターの奥に向かって投げられ、調理器具を散漫とさせながら私は地面に横たわった。
ヴァル「っ!てめぇ何しやがる!」
「何しやがる……か。まあ、先に攻めてきたのはあちらと言えど、ちとやり過ぎちまったかもなぁ」
ヴァル「あぁ?」
ヴァルが詰め寄っていってるのが分かったが、すぐに地面に倒れる音がした。
セリカ「ヴァル!」
「お前は少し面倒だ。ちょっと寝てろ」
地面を踏みしめる音が近づいてくる。奴が少し息を吹いただけでカウンターが崩壊する。そして、何も障害物が無くなり、奴の顔が覗けるようになる。
「っ……エン……マ」
エンマ「へぇ、知ってんのか。まあ、だろうな。ヴェリアを反応させちまうくらいだし」
「何しに……来た……」
エンマ「まあ、そう睨むなよ。一応初めましてだろうが。あ、お前さんにとっても、俺にとっても、その1番最初の初めましては互いに違ぇみたいだけどな」
……そうか。未来のことを知らなくても、過去にネイが色々とやってたから面識はあるって話なのか。だけど、エンマが本来現れる話は私の生存で消えたはず。なのに……なんで……?
エンマ「お前をご指名でいっちょ依頼があんだ。聞いてくれよ」
「っ……」
エンマ「俺と戦って死ね。依頼内容はそれだけだ。結構簡単だろ?まあ、戦うって部分は別になんだっていいけどな、お前さんが死んでさえくれれば」
ヴェリアに意思がある版、と考えればいいのだろうか。こいつも、実は運命を正す存在だということなのだろうか。
……死にたく……ない……。
折角拾った命なんだ。そんな簡単に死にたくない!でも、この状況でどうすれば……。ワールドメモリーズは、取り出してる間に邪魔される。絶対にあれを使うことは許してくれないし、そもそもワールドメモリーズも対ラース用に作ったからエンマ相手にどこまで通用するかが分からない。
…………いや、あれなら。
「黙ってないで……少しは助けてよ……」
(……認める気になったのか?)
……ちゃんと会話が出来る相手で良かった。
エンマ「んじゃ、戦う気がねぇならそのまま死ね」
エンマが闇で型どった刃を振り下ろしてくる。その瞬間に、私は本来存在しないはずの奴らと意識を入れ替える。
エンマ「……あ?」
「「 残念だが、お嬢はまだ死にたくねぇってよ! 」」
体が火照り出す。全身を炎で包み込まれたかのように熱くなり、自分の中の声の1つが表に出てくる。意識を入れ替えるつもりでいたのだけれど、なぜか私も表にいる状態になっている。まあ、なんだっていいか。
「「 オラァ!! 」」
エンマ「っっっ……!?」
炎と雷を帯びた拳でエンマの腹を思いっきり突き飛ばす。体は私のもののはずなのに、凄い力だ。流石は、炎雷龍王といったところか。
「「 フウロ、ちょっと剣借りるわよ! 」」
フウロの剣を鞘ごと引き抜き、そのまま鞘を投げ捨てて剣を振り回す。
「「 輝きの、流星剣!! 」」
星の力をまとわらせ、エンマの手前で少し構えてから思いっきり横一文字に切り込む。だがーー
「「 避けられた…… 」」
エンマ「お前がそういうように、俺もまだ死ぬわけにはいかないんでなぁ。まあ、今のはちょっと効いたぜ」
エンマが空から不気味な笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。腹に大きな一撃を喰らわせたはずだが、特に効いてる感じはしないな。……やっぱり、倒すならワールドメモリーズを再調整しないと。
エンマ「今回は不意打ち仕掛けたつもりが返り討ちを喰らっちまったが、次はそうはいかねえ。……ヒカリ、お前さんは生きてちゃならねえ。じゃあな」
不穏なことを言い残し、エンマは異界への扉を開いて消え去った。
……
……
……
「死にたく……ない」
(安心しろ、俺達が死なせねえよ)
うるさかった声が、たった数分で頼りがいのあるものへと変わっている。なんだかんだでいい奴らだな。ネイが信頼してた理由が分かった。
ーーそのネイがいなきゃダメなんだな。憂鬱になる。
「とりあえず、みんな大丈夫?」
グリード「おめえよォ、昨日に敵作ったまんま今日迎えんなやァ」
「正確には、作ったのは未来だけどね。まあいい、今回の事態について、僕から話をしようか」
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