グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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Veritas1章 【運命の少女】

Veritas1章9 【思い×想い】

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ミル「……もう、大丈夫か?」

「……はい」

 たった数分しか泣いていないのに、ずいぶんと時が流れてしまったような気がする。

 ーー師匠、やっぱり優しいなぁ。

ミル「本当ならもう少しビンタしていやりたいところだが、もう十分だろう」

「……はい」

ミル「命が限られてるねぇ……まあ、私も原因は同じ、理由は違うでいつ死ぬか分からない体をしているよ。でも、怖いとは思わないね」

「……なんで……ですか」

ミル「毎日とは言わないが、命の長さを自覚してから1日1日が楽しいんだよ。シグルドと普通に生活をして、時たま旅行にでも行って、んで、お前達のような可愛い弟子が出来た。私はあまり欲が深くないんだ。ほんのちょっとの幸せを大きな幸せに感じられる。だから毎日が楽しい。ーーもちろん、こんな日が明日も来るとは思っていない。でも、朝起きて、今日も生きていることを知って、そしてまた悔いが残らないように1日を過ごす。まあ、お前達が弟子として来た時は、明日も生きていられるといいなって願いながら毎晩寝てたよ」

「……」

ミル「だからな、ラクシュミー。お前もいつ来るか分からない死に怯えながら生きるのをやめろ。朝起きることが出来たら、すぐにその日をどう楽しむかを考えろ。そうすれば、自然と死に対しての恐怖はなくなるずさ」

「……はい」

ミル「私は、正直に言えばお前達……いや、ラクシュミー。お前だけでもずっと家で我が子として迎えたかった」

「……え」

ミル「似てたんだ。死んじまった私の子に。そして、お前の顔が、私が目を離しちまったらすぐに死んじまいそうな顔をしてたんだ。もう、あの子みたいに勝手に死ぬ子を育てたくなかった。だからな、お前にはちょっとキツく当たってしまったかもしれない……。ごめんな、ラクシュミー」

「……いえ、別にそんな……」

ミル「私は、お前の母親になりたかったのかもしれないな……」


 ーー今度は師匠が泣き出し、私は困惑しながらも師匠を優しく抱き締めてあげた。

「……お母さん」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴァル「クソっ……!こいつ、前より強くなってやがるっ……!」

ヴェルド「最後っ屁にしちゃ、やべぇな……」

ラース「貴様らは邪魔だ。我の前から姿を消せ」

 全てを破滅させる光がヴァル達を襲う。成長型メモリの限界を超え、キングのメモリは持ち主の体を苦しめながらも想定外の強さを発揮している。

 もし、あの時あの場所でラースを倒せていたのなら、こんな予想外の事態には発展しなかっただろう。それこそ、ヴァルが奥義を解放しても倒せなくなっていただろう。でもーー

「ちょっとだけ残念」

 異界の扉を潜り、ヴァル達の前に足を踏み出す。光という光を全てメモリに吸収させ、一瞬だけ完全な真っ暗闇の空間を作り出した。

ラース「……ほう、逃げ出したのかと思ったぞ」

 剣の数を3、4倍にまで増やし、更に鋭くなった瞳から注がれる圧を、軽く手で弾き飛ばす。

セリカ「ヒカリん……」

フウロ「帰ってきたんだな」

 後ろのみんなに軽く首を縦に振って微笑む。そして、正面に向き直りメモリを取り出す。

「ワールドメモリーズ……起動!」

ラース「……見たことのないメモリだ」

「あんたと同じ、成長型メモリよ!」

 胸元にメモリを突き挿す。すると、メモリに着いていた8つのキーホルダーが輝き出し、全身を包み込んで数字の羅列へと切り替わる。

 髪の毛の一部が太いチューブのようなものになって四肢に繋がる。

「……ただ、唯一違う点があるとすればーー」

 8つのキーホルダーは魔弾として背の方に浮いている。これらを使うことで、私は即座にメモリを最大出力で発動させることが出来る。

 世界の全てを束ねた記憶。ワールドメモリーズ。

「あんたと違って、相手に合わせて成長する点ね。しかも、限界は無いわ」

 挨拶代わりにとフレイムの記憶を引き出し、ラースの全身を炎で包み込む。金色に輝いていた剣達は一瞬で輝きを失う。そして、斬れ味の良さも同時に失ってしまう。

 相当限界が来ているようね、キング。

ラース「ぐっ……!」

 今の1発でラースが右膝を着いた。

 その隙を逃さず、氷と風の合わせ技で更なる追撃を仕掛ける。その瞬間ーー

「……来たか、ヴェリア」

 黒い煙がラースの巨体を包み込み、私からの攻撃を全て弾いた。

 今更運命を正しに来たところで、私はもうワールドメモリーズを作ってしまったわけだし、死の運命すら乗り越えてしまったわけだし、もう止めても意味はないと思うのだけれどねぇ……。

 試しに全属性の合わせ技で攻撃してみるが、少し壁が薄くなったかな、と感じさせるくらいで、他は特に何も変わりない。変わらなさすぎるほどに。

「ラナ!」

ラナ(呼ばれなくてもいる)

 思念波で私だけに聞こえるよう、ラナが応答する。場所はまさかの書庫。なにをしているのかしら?

ラナ(奴にはどう足掻いても君の一撃で倒すことは不可能だ。運命がそれを許してはくれまい)

「でしょうね」

ラナ(倒す方法はただ1つ。ヴァル君の一撃でなら、恐らく倒せると思うよ。じゃあ、後は頑張りたまえ)

 チラと後ろを振り返り、そのまま体も勢いよく回してヴァルの元に駆け寄る。そして手を握りーー

「あんたの一撃じゃないと倒せない。協力して」

ヴァル「お前のそれじゃダメなのか?」

 私の言葉に対し、彼はそう問いかけてきた。

「見ての通り、あの黒い煙がある限り私じゃ倒せない。多分、他のみんなでもそう。ーーでも、あんただけは違う」

クロム「俺でもダメなのか」

 少し残念そうにこの人は言うが、なんかやれなくもなさそうな気がするのは何なのだろうか?まあいいや。

ヴァル「まあ、理屈は分かんねえけど、やりゃいいんだろ?」

 少し疑問気味だった顔が一転、すぐにやる気に満ち溢れた顔へと変わる。

「あんたのそういうところ、好きよ。ーー昔から」

ヴァル「なんか言ったか?」

「いいえ、なんでも。さあ、さっさと決めるわよ!」

 ヴァルを先頭にし、私は後ろからワールドメモリーズによる視野情報の共有、数あるパターンのうち最適なものを自動で選び、魔法威力上昇、マナの送還を同時に行う。普段だったら絶対にできない技だけど、流石は書庫と繋がってるだけあっていとも簡単にやってのけてくれる。何よ、最大2兆通りの読みをしてくれるって。天才かしら?

「まあ、作ったのは天才だからね」

 そして、迎えるエンディングは最っ高のものにしなきゃね。

「いくわよ、ヴァル!」

ヴァル「おう!」

「「 ワールドストライク!! 」」

 炎の龍に、機械チックなエフェクトがまとわりついて、ラースの胸元目掛けてヴァルの拳が飛んで行く。その瞬間、ヴェリア達が一斉に立ち去り、ラースは突然のことに防ぐことも叶わず、そのまま私とヴァルの全力を諸に喰らった。

ラース「バカな……っ!」

ヴァル「どうやら俺達の勝ちらしいな!」

「「 ワールドディバイド!! 」」

 ラースの体内で動作するメモリを分解し、その体から引き抜いて壊した。

ラース「有り……得……ぬ……」

「……」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 これで、良かったのかしら。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 変えたかった運命は変わらなかった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 でも、少しだけなら抗うことが出来た。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 欲張り過ぎは、ダメってことよね。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「……っ痛てっ……!」

 目覚めた瞬間に強烈な頭痛が襲ってくる。

「やっとお目覚めか……」

 目覚めてすぐ、ぼやけた視界に青髪の青年が映り込んでくる。

「……起きて1番に見る顔がクロムさんとか、悪夢以外の何物でもないわ。どうせならヴァルが良かった」

クロム「それは悪かったな」

「……何日くらい寝てたのかしら」

クロム「ざっと1週間。それくらいだな」

 なるほど。オーバーヒートにしては中々に短い日数で回復出来たものね。

クロム「一応、あの後どうなったか聞いておけ」

「右から左へと流しとくわ」

クロム「……あの後、ラースはこちらで捕らえ、今は自警団の本部で尋問中だ。と言っても、お前と同様メモリの反動なのかは知らんがろくな事を喋らん。まあ、なんでこっちの世界に来たのかとか、色々聞きたいことはお前に聞けばいいだろう」

「黙秘を貫きまーす」

クロム「好きにしろ。ーーで、まあ、机を囲んでやった話なんか退屈以外の何物でもないだろうから、大事なことだけを伝える」

「……」

クロム「お前の待遇。そこをどうするかが1番の難題だった」

「……でしょうね。格好だけを見ればあんたらの味方でも、使ってた物が物。隠し通せるとは思ってないわ」

クロム「ああ。お前が元々向こうの奴らってのは、なんとなくで察してる奴が多い。迷惑なことに騎士連中も含めてな」

「結構見られてたからね。こんなことなら、メモリは使わない方が良かったかしら?」

クロム「そこは微妙なところだな。まあいい。ヒカリ、いや、ラクシュミー・エーテル。お前もラースと同様、この騒ぎを起こした戦犯として裁かねばならない。例え、そこにどんな事情があろうと、表立った話としてお前には何かしらの罰を与えねばならん。でなければ、知ってる奴らが黙らないからな」

「……表立っては……ね」

クロム「よく聞いてるな」

「耳がいいのが特徴なんでね。で、どうせこの1週間で私の許可無しに色々決めたんでしょ?」

クロム「ああ。ラクシュミー・エーテルことヒカリ・スターフィリアは戦犯として死刑になり、もう刑は執行された。安心しろ、その体はちゃんと生きている」

 まあ、頭の回らない連中にしちゃ、上手くまとめたってところかしら。

「じゃあこれからは好きに名乗って生きていけばいいのかしら」

クロム「一応そういう事になるな」

「話は以上?」

クロム「ああ」

 それだけ聞き、私は脱いでいたブーツとロングコートを着て、救護室の扉に手をかけたタイミングで1度振り返った。

「あ、そうそう期待してたら悪いから言っておくんだけど」

クロム「……?」

「私、好きな人がいるの。じゃあねぇ」

 それだけ言って部屋を出た。

「好きに名乗れねぇ……」

 ネイとでも名乗ってやろうかしら?いや、それだとなんかモヤっとした感じがする。なんだろう、その名前だけは名乗らない方がいいような気がする。まあ、名乗る気は無いけれど。

「……ヒカリ・イグドラシル。名前は変わってないけど、家名だけでも変えてたら十分でしょ」

「それほとんど意味無くねぇか?」

「……ヴァル」

 独り言のように呟いた内容に対し、茶々を入れるようにして言葉を吐いてきたのは、赤髪の少年。私の初恋の人。その人だった。

「……いいの、私はこれで。あんた達も『ヒカリ』って名前に馴染んでるんだからこれでいいでしょ」

ヴァル「俺にはよく分かんねぇけど、クロムとかフウロ辺りにあーだこーだ言われるんじゃねぇか?」

 前に踏み出した私の横を歩くようにしてヴァルは並び、そう言う。

「いいのいいの。私はヒカリ。これだけは譲らないから」

ヴァル「そうか。ま、いい名前なんじゃねぇのか?」

「……そう?」

ヴァル「ああ。ラクシュミーよりも呼びやすいし、俺はいいと思うぜ」

「何それ。バッカみたい」


 ーーでも、好きな人に褒められたのは……まあ、その、少しだけ嬉しいかな。
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