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Veritas1章 【運命の少女】
Veritas1章8 【死にたかった理由】
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ミル「いいかい。世の中にはどんなものにでも共通する法則がある」
無人島での1ヶ月0円生活を終え、や~っと師匠と共に錬金術を学べる……はずだったのに……。
「フィア!」
アルテミス「ウィンド!」
ミル「それは、どんなものでも無から有は産まれないということだ。何も無いところに突然別のものは誕生しない。魔法も錬金術も共に同じだ」
「ぎゃぁっ!」
隙をついて師匠の顔に蹴りを入れようとしたのに、軽く本で弾かれてそのまま背負い投げ……。
あれ?錬金術の勉強って机の上でするんじゃないの?それか台所でやるもんじゃないの?
ーーとまあ、そんな具合に、なぜか私達は師匠相手に魔法も錬金術も有りで殴り合いをしている(ほぼ一方的な暴力)。こんなんで錬金術が分かるって言うのかな?いや、そんなわけねぇ……
「痛ったた……」
流石は赤道付近に位置するこの街。太陽のきらめきがジリジリと肌を焦がしてくる。暑い……
ミル「魔法は一見何も無いところから打ち出しているかのように見える。しかし、魔法もマナと呼ばれる大気の成分、或いは己の身体に貯蓄されたエネルギー源を使って発動する。だから、大規模な魔法は使用すると体に重く負担がのしかかる」
救急箱をサッと広げ、私が怪我をした部分を的確に治療していく師匠。怪我しなくてもいいようにもうちょっと手加減してくれませんかね?もう十分してるんでしょうけど。
先生と違って、欠伸は出ないが血は出る授業だ。ある意味、引きこもりの私には丁度いいのかもしれないけど……。いや、でも、こんな授業やってられるかっ!
ミル「魔法も錬金術も、極めれば万能の力になるわけじゃない。どれだけの才能があったとしても絶対に届かない領域がある。諦めなければならないことがある」
「……師匠?」
師匠はどこか悲しげな表情でそう言う。
ミル「特に、人体の錬成。いや、死人の蘇生とでも言おうか」
「「 ……? 」」
ミル「1度死んだ人間は何があっても蘇らない。さっきも言ったように、無から有は作り出せない。肉体を作ることは出来ても、消えてしまった魂は作ることが出来ない。これは、この世の絶対だ」
「……?」
悲しそうな瞳をしているが、その意味がまるで分からない。てか、人体錬成とかなんかめちゃくちゃ重たい話なんですけど……
ミル「すまない。少し難しい話をしたね」
「いえ……」
ミル「さて、そろそろお昼にしようか」
ーー私は忘れていない。
師匠に教わったこと。人体錬成がなぜ不可能なのか。でも……
この時の私は、あまりにも無知だったーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……今からでも帰っちゃダメかな」
アルテミス「今更過ぎない?もう目と鼻の先に師匠の家だよ!?」
そうなんだよなぁ。なぁなぁで来てしまったなぁ……クソっ!
「胃が痛い……」
アルテミス「食べ過ぎた?」
「そうじゃない。多分、ストレス……」
道中テミから聞いた話だが、どうやら私を探して師匠のところにも1度行っていたらしい。それ以上は特に何も言わなかったが、私には師匠と今出会うことで何が起きるのかを容易に想像出来る。
ズバリ、ビンタ3回だ……。"たった"3回?いえ、3回"も"です。死ぬ……。
師匠、なぜか私に当たりが強いからなぁ。テミに対しては特にこれといって何も無かったんだけど、なぜか私に対しては物凄く厳しかったんだよなぁ。テミの魔法詠唱は待つ癖に、私の詠唱は全然待ってくれないし、威力もなぜか私に対しての方が高いし、あとーー
「小言もうるさいし……」
「ほう、私は小言がうるさかったようだね」
「ひぃっ……!?」
背筋が凍てつくように凍る。この声、このオーラ……間違いない。
「し、師匠……」
ゆっくりと振り返り、愛想笑いを浮かべながら恐る恐ると師匠の顔を見るが、その瞬間、意味はあるけど理不尽なビンタが3回飛んできた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ミル「今日は私が元気な日で良かったね。あんたら」
アルテミス「あっはは……そ、そうですねー……」
「……」
出された紅茶と茶菓子を囲い、楽しく(形的には)お茶会をしている。ちなみに私の両頬は赤い手形がついている。痛い……
ミル「……余計なことは一切言わず、私が思ったことを全て話そうか」
「……はい」
ミル「今日はシグルドの奴もいない。手加減は……まあ、なるべく頑張る」
「え、それってどういうーー」
ミル「今からあの無人島に行くぞ。安心しろ、魔獣は殲滅してある」
「……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーーと、いうわけで、無人島……。
4年くらい前から何1つ変わらないこの大地。緑は豊かで、島の中央には大きなカランの木が見える。
ミル「アルテミス。もしかしたら巻き込まれるかもしれんが、その時は自力で回避しろ」
アルテミス「え、それどういうーー」
ミル「ラクシュミー!今から私が何をしようとしてるのか、分かっているな?」
……分かってはいる。わざわざテミまで連れて来たんだ。もう1回無人島で生活しろとかは言わないだろう。じゃあ、他に何をするのか。それは師匠の格好を見れば分かる。
普段は長いスカートを履いているはずなのに、今日は長ズボンに黒いグローブを身に着け、軽く戦闘準備をしている。あのグローブ、錬成陣が刻まれていて、不意に術を発動してくるから厄介なんだよなぁ。
ミル「たった4年。しかし、お前はこの3年で随分変わってしまったように見える。なら、まずは手合わせすることから始めなければな」
……4年ぶりの本気の殴り合いか。あの頃は一撃入れられたら勝ちとかいう生温い勝負だったなぁ。本当ーー
「何でこんなことになっちゃったんだろ……」
その言葉を皮切りに、師匠は無言で殴り込んできた。
ミル「ほう」
1発目は左手で受け止め、2発目が来る前にエンドラル・フィアで爆炎を起こす。あの時のように、ただやられっぱなしの私じゃない。強さだけなら、私は師匠を超えている……。
ミル「……」
煙の中から師匠が無言で拳を突き出し、またさっきと同じようにすると、今度は宙に飛び上がって足蹴りを噛ましてきた。
軽く攻撃を受け流し、無言のままで魔法を放つ。大地が揺るぎ、木々がガサガサと音を立てる。私の無言の反撃に、師匠は怯むことなく突っ込み、力技だけで森の中へと押し込んできた。
ミル「やっぱり、お前は強いなぁ。だが、師匠としてまだ弟子に負けてやるわけにはいかないんだよ」
木々を飛び回り、私を混乱させようとしてきているようだがそれは無駄だ。
「……師匠。私は耳がいいんです」
ミル「なるほどねぇ。だが、これならどうだい?」
師匠が飛び込んできた場所をジャストで押さえたが、その直後、ニヤリと笑った師匠が私の体を通して錬金術を発動させ、地面を大きく突き上げた。
ミル「お前がちゃんと錬金術を続けてくれてて良かったよ」
そのまま空中に飛び上がった私を軽く蹴飛ばす。空では手で守ることしか出来ず、そのまま勢いに任せて木々をへし折りながら私の体はカランの木の手前で止まる。
ーー直後、師匠の容赦ない一撃が胸に当たる。完全に意識外の攻撃だったため、防御も反撃も間に合わず、カランの木に凹みをつけるくらいの一撃が襲いかかる。
「がっ……!」
ミル「容赦はしないって言っただろ?」
そのまま第2の攻撃が右の頬に迫り、回避することもままならず、砂浜へと殴り飛ばされた。
「……」
太陽のきらめきがジリジリと殴られた頬を焼いてくる。どれだけ私が強くなろうとも、やっぱり師匠には勝てない……。勝てない……なぁ…………
「……っ……っ」
ミル「悔しいか?もう諦めるのか?」
「っ……師匠……ズルいですよ……」
左腕で両目を覆い、涙が見えないようにしてから仰向けの姿勢になる。隙間から覗き見える師匠の姿は、昔から何1つ変わらず、優しくも厳しい顔をしている……のかな。
ミル「……人体錬成をした人間というのは、基本的にこの世から消える。世の理に反しているのだからな」
「……」
ミル「それでも、極稀に生き残る奴がいる。まあ、人体錬成をする奴自体余っ程のバカだから数はかなり限られるがな」
「……」
ミル「人体錬成をすれば、たった一瞬の期待と引き換えに、多くのものを失う。それは、体の一部か、あるいは心か……。それとも、もっと他の何かか」
「……師匠、やっぱり、師匠も……」
ミル「ああ。そして、それはお前もだろ?ラクシュミー」
「……なんで、分かったんですか」
ミル「何となくだな。お前と戦ってて、お前の瞳が全然動いてないということが最初の一撃で分かったよ。だから森の中に引き込んでカマをかけてみた。そしたら案の定だ。ーーラクシュミー、お前ほとんど目が見えてないだろ?」
「……はい」
正確には見えているには見えている。ただ、ピントが殆ど合わず、動きの早いものに対してはそもそも存在してないかのように見えてしまう。昼間とかはまだマシな方だが、夜になって僅かな灯りを頼りに動こうとすると、たまに光が無いはずのところにも周囲の光の影響でそっちにもあるように見えてしまう。方向音痴だと兄ちゃんはよく言っていたが、その原因は目が悪いってのもある。
目が悪い。だからこそ、目以外の感覚として耳を鍛えた。音で全てを判断し、最悪目が見えなくなっても生きていけるくらいには耳が良くなった。
ミル「ただ目が悪くなる奴ってのは普通にいる。そして、代わりに耳とか触覚を鍛えようとする奴がいるのもまた事実だ。だがな、ラクシュミー。お前の目の悪さはこの4年でただ視力が落ちただけには見えなかった。いや、正しくは耳が良すぎたんだ、お前は。視力が下がるといってもいきなり見えなくなる奴なんてのは早々いない。どれだけ落ちるのが早くても、まあ、3年か4年くらいはかかるだろう。もちろん、普通に落ちていく場合だ」
「……私の耳は、たった1年2年で身につけたものではない……そう判断したんですね」
ミル「ああ。機能が落ちていく分には、ただ使わなくなれば早く落ちていく。ても、逆に鍛えようとすれば何倍もの時間がかかるはずだ。しかも、目が悪くなるから代わりに耳を鍛えようなんてバカなことを考える奴はまずいない。先に目を治すからな」
「……もう、いいです。師匠。私は人体錬成をした。その代償として目が殆ど見えなくなるくらいにまでなってしまった。完全に見えなくなったわけじゃないのは、ただ運が良かっただけです」
ミル「……私も、人体錬成でちょっとずつ色んなものが持ってかれたよ。心臓は普通の人間より小さく、痛覚と味覚が鈍い。あと、子供が作れない体にもされたな」
それだけで済んだのであれば、師匠は更に運が良い人だな。
「師匠……私、命がそう長くないんです……もう、すぐに死んでもおかしくないんです……」
ミル「……どういうことだい?」
「私の命は先が無いんです……。呪いが体を蝕んでいる……世界の全てを知った代償に、世界が世界であろうとする瞬間に私は死ぬ……。それは今かもしれない、もっと先かもしれない……。でも、5年、10年と先になる話じゃないんです……」
ミル「……そうかい」
師匠が優しく私を起き上がらせ、そのまま抱き締めてくる。
「目の前のものが見えない代わりに未来が見える……みんなが悲しむ未来が見える……私が何を望もうとも、世界を守るために私の命が使われる……怖い……怖いんです……」
ミル「……」
「いつ死んでしまうか分からない恐怖……。みんなと一緒にいたいのにいられない悲しみ……。好きな人を好きになることが出来ないもどかしさ……。それならいっそ、もう死んでしまいたかった……」
ーーその後、泣きじゃくる私を、師匠は優しく抱き締め続けてくれた。
無人島での1ヶ月0円生活を終え、や~っと師匠と共に錬金術を学べる……はずだったのに……。
「フィア!」
アルテミス「ウィンド!」
ミル「それは、どんなものでも無から有は産まれないということだ。何も無いところに突然別のものは誕生しない。魔法も錬金術も共に同じだ」
「ぎゃぁっ!」
隙をついて師匠の顔に蹴りを入れようとしたのに、軽く本で弾かれてそのまま背負い投げ……。
あれ?錬金術の勉強って机の上でするんじゃないの?それか台所でやるもんじゃないの?
ーーとまあ、そんな具合に、なぜか私達は師匠相手に魔法も錬金術も有りで殴り合いをしている(ほぼ一方的な暴力)。こんなんで錬金術が分かるって言うのかな?いや、そんなわけねぇ……
「痛ったた……」
流石は赤道付近に位置するこの街。太陽のきらめきがジリジリと肌を焦がしてくる。暑い……
ミル「魔法は一見何も無いところから打ち出しているかのように見える。しかし、魔法もマナと呼ばれる大気の成分、或いは己の身体に貯蓄されたエネルギー源を使って発動する。だから、大規模な魔法は使用すると体に重く負担がのしかかる」
救急箱をサッと広げ、私が怪我をした部分を的確に治療していく師匠。怪我しなくてもいいようにもうちょっと手加減してくれませんかね?もう十分してるんでしょうけど。
先生と違って、欠伸は出ないが血は出る授業だ。ある意味、引きこもりの私には丁度いいのかもしれないけど……。いや、でも、こんな授業やってられるかっ!
ミル「魔法も錬金術も、極めれば万能の力になるわけじゃない。どれだけの才能があったとしても絶対に届かない領域がある。諦めなければならないことがある」
「……師匠?」
師匠はどこか悲しげな表情でそう言う。
ミル「特に、人体の錬成。いや、死人の蘇生とでも言おうか」
「「 ……? 」」
ミル「1度死んだ人間は何があっても蘇らない。さっきも言ったように、無から有は作り出せない。肉体を作ることは出来ても、消えてしまった魂は作ることが出来ない。これは、この世の絶対だ」
「……?」
悲しそうな瞳をしているが、その意味がまるで分からない。てか、人体錬成とかなんかめちゃくちゃ重たい話なんですけど……
ミル「すまない。少し難しい話をしたね」
「いえ……」
ミル「さて、そろそろお昼にしようか」
ーー私は忘れていない。
師匠に教わったこと。人体錬成がなぜ不可能なのか。でも……
この時の私は、あまりにも無知だったーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……今からでも帰っちゃダメかな」
アルテミス「今更過ぎない?もう目と鼻の先に師匠の家だよ!?」
そうなんだよなぁ。なぁなぁで来てしまったなぁ……クソっ!
「胃が痛い……」
アルテミス「食べ過ぎた?」
「そうじゃない。多分、ストレス……」
道中テミから聞いた話だが、どうやら私を探して師匠のところにも1度行っていたらしい。それ以上は特に何も言わなかったが、私には師匠と今出会うことで何が起きるのかを容易に想像出来る。
ズバリ、ビンタ3回だ……。"たった"3回?いえ、3回"も"です。死ぬ……。
師匠、なぜか私に当たりが強いからなぁ。テミに対しては特にこれといって何も無かったんだけど、なぜか私に対しては物凄く厳しかったんだよなぁ。テミの魔法詠唱は待つ癖に、私の詠唱は全然待ってくれないし、威力もなぜか私に対しての方が高いし、あとーー
「小言もうるさいし……」
「ほう、私は小言がうるさかったようだね」
「ひぃっ……!?」
背筋が凍てつくように凍る。この声、このオーラ……間違いない。
「し、師匠……」
ゆっくりと振り返り、愛想笑いを浮かべながら恐る恐ると師匠の顔を見るが、その瞬間、意味はあるけど理不尽なビンタが3回飛んできた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ミル「今日は私が元気な日で良かったね。あんたら」
アルテミス「あっはは……そ、そうですねー……」
「……」
出された紅茶と茶菓子を囲い、楽しく(形的には)お茶会をしている。ちなみに私の両頬は赤い手形がついている。痛い……
ミル「……余計なことは一切言わず、私が思ったことを全て話そうか」
「……はい」
ミル「今日はシグルドの奴もいない。手加減は……まあ、なるべく頑張る」
「え、それってどういうーー」
ミル「今からあの無人島に行くぞ。安心しろ、魔獣は殲滅してある」
「……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーーと、いうわけで、無人島……。
4年くらい前から何1つ変わらないこの大地。緑は豊かで、島の中央には大きなカランの木が見える。
ミル「アルテミス。もしかしたら巻き込まれるかもしれんが、その時は自力で回避しろ」
アルテミス「え、それどういうーー」
ミル「ラクシュミー!今から私が何をしようとしてるのか、分かっているな?」
……分かってはいる。わざわざテミまで連れて来たんだ。もう1回無人島で生活しろとかは言わないだろう。じゃあ、他に何をするのか。それは師匠の格好を見れば分かる。
普段は長いスカートを履いているはずなのに、今日は長ズボンに黒いグローブを身に着け、軽く戦闘準備をしている。あのグローブ、錬成陣が刻まれていて、不意に術を発動してくるから厄介なんだよなぁ。
ミル「たった4年。しかし、お前はこの3年で随分変わってしまったように見える。なら、まずは手合わせすることから始めなければな」
……4年ぶりの本気の殴り合いか。あの頃は一撃入れられたら勝ちとかいう生温い勝負だったなぁ。本当ーー
「何でこんなことになっちゃったんだろ……」
その言葉を皮切りに、師匠は無言で殴り込んできた。
ミル「ほう」
1発目は左手で受け止め、2発目が来る前にエンドラル・フィアで爆炎を起こす。あの時のように、ただやられっぱなしの私じゃない。強さだけなら、私は師匠を超えている……。
ミル「……」
煙の中から師匠が無言で拳を突き出し、またさっきと同じようにすると、今度は宙に飛び上がって足蹴りを噛ましてきた。
軽く攻撃を受け流し、無言のままで魔法を放つ。大地が揺るぎ、木々がガサガサと音を立てる。私の無言の反撃に、師匠は怯むことなく突っ込み、力技だけで森の中へと押し込んできた。
ミル「やっぱり、お前は強いなぁ。だが、師匠としてまだ弟子に負けてやるわけにはいかないんだよ」
木々を飛び回り、私を混乱させようとしてきているようだがそれは無駄だ。
「……師匠。私は耳がいいんです」
ミル「なるほどねぇ。だが、これならどうだい?」
師匠が飛び込んできた場所をジャストで押さえたが、その直後、ニヤリと笑った師匠が私の体を通して錬金術を発動させ、地面を大きく突き上げた。
ミル「お前がちゃんと錬金術を続けてくれてて良かったよ」
そのまま空中に飛び上がった私を軽く蹴飛ばす。空では手で守ることしか出来ず、そのまま勢いに任せて木々をへし折りながら私の体はカランの木の手前で止まる。
ーー直後、師匠の容赦ない一撃が胸に当たる。完全に意識外の攻撃だったため、防御も反撃も間に合わず、カランの木に凹みをつけるくらいの一撃が襲いかかる。
「がっ……!」
ミル「容赦はしないって言っただろ?」
そのまま第2の攻撃が右の頬に迫り、回避することもままならず、砂浜へと殴り飛ばされた。
「……」
太陽のきらめきがジリジリと殴られた頬を焼いてくる。どれだけ私が強くなろうとも、やっぱり師匠には勝てない……。勝てない……なぁ…………
「……っ……っ」
ミル「悔しいか?もう諦めるのか?」
「っ……師匠……ズルいですよ……」
左腕で両目を覆い、涙が見えないようにしてから仰向けの姿勢になる。隙間から覗き見える師匠の姿は、昔から何1つ変わらず、優しくも厳しい顔をしている……のかな。
ミル「……人体錬成をした人間というのは、基本的にこの世から消える。世の理に反しているのだからな」
「……」
ミル「それでも、極稀に生き残る奴がいる。まあ、人体錬成をする奴自体余っ程のバカだから数はかなり限られるがな」
「……」
ミル「人体錬成をすれば、たった一瞬の期待と引き換えに、多くのものを失う。それは、体の一部か、あるいは心か……。それとも、もっと他の何かか」
「……師匠、やっぱり、師匠も……」
ミル「ああ。そして、それはお前もだろ?ラクシュミー」
「……なんで、分かったんですか」
ミル「何となくだな。お前と戦ってて、お前の瞳が全然動いてないということが最初の一撃で分かったよ。だから森の中に引き込んでカマをかけてみた。そしたら案の定だ。ーーラクシュミー、お前ほとんど目が見えてないだろ?」
「……はい」
正確には見えているには見えている。ただ、ピントが殆ど合わず、動きの早いものに対してはそもそも存在してないかのように見えてしまう。昼間とかはまだマシな方だが、夜になって僅かな灯りを頼りに動こうとすると、たまに光が無いはずのところにも周囲の光の影響でそっちにもあるように見えてしまう。方向音痴だと兄ちゃんはよく言っていたが、その原因は目が悪いってのもある。
目が悪い。だからこそ、目以外の感覚として耳を鍛えた。音で全てを判断し、最悪目が見えなくなっても生きていけるくらいには耳が良くなった。
ミル「ただ目が悪くなる奴ってのは普通にいる。そして、代わりに耳とか触覚を鍛えようとする奴がいるのもまた事実だ。だがな、ラクシュミー。お前の目の悪さはこの4年でただ視力が落ちただけには見えなかった。いや、正しくは耳が良すぎたんだ、お前は。視力が下がるといってもいきなり見えなくなる奴なんてのは早々いない。どれだけ落ちるのが早くても、まあ、3年か4年くらいはかかるだろう。もちろん、普通に落ちていく場合だ」
「……私の耳は、たった1年2年で身につけたものではない……そう判断したんですね」
ミル「ああ。機能が落ちていく分には、ただ使わなくなれば早く落ちていく。ても、逆に鍛えようとすれば何倍もの時間がかかるはずだ。しかも、目が悪くなるから代わりに耳を鍛えようなんてバカなことを考える奴はまずいない。先に目を治すからな」
「……もう、いいです。師匠。私は人体錬成をした。その代償として目が殆ど見えなくなるくらいにまでなってしまった。完全に見えなくなったわけじゃないのは、ただ運が良かっただけです」
ミル「……私も、人体錬成でちょっとずつ色んなものが持ってかれたよ。心臓は普通の人間より小さく、痛覚と味覚が鈍い。あと、子供が作れない体にもされたな」
それだけで済んだのであれば、師匠は更に運が良い人だな。
「師匠……私、命がそう長くないんです……もう、すぐに死んでもおかしくないんです……」
ミル「……どういうことだい?」
「私の命は先が無いんです……。呪いが体を蝕んでいる……世界の全てを知った代償に、世界が世界であろうとする瞬間に私は死ぬ……。それは今かもしれない、もっと先かもしれない……。でも、5年、10年と先になる話じゃないんです……」
ミル「……そうかい」
師匠が優しく私を起き上がらせ、そのまま抱き締めてくる。
「目の前のものが見えない代わりに未来が見える……みんなが悲しむ未来が見える……私が何を望もうとも、世界を守るために私の命が使われる……怖い……怖いんです……」
ミル「……」
「いつ死んでしまうか分からない恐怖……。みんなと一緒にいたいのにいられない悲しみ……。好きな人を好きになることが出来ないもどかしさ……。それならいっそ、もう死んでしまいたかった……」
ーーその後、泣きじゃくる私を、師匠は優しく抱き締め続けてくれた。
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