グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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Veritas2章 【運命の欠落点】

Veritas2章10 【優しき聖王】

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ヴァル「……分かったよ」

 罵声、怒声、恨みつらみ、何を言われようとも、と覚悟していたが、返ってきた答えはただその一言のみ。その一言だけで、ヴァルは勢いよく立ち上がってギルドを後にした。

「おい待て、どこへーー」

ヴァル「決まってんだろ。帝国ぶっ潰しに行く!」

「……」

 誰も奴を止めることはなく、みな黙ったまま奴の背中を見ていた。

ヴァハト「……好きにせい。もう死のうが捕まろうが儂は気にせん!行きたい奴は行ってこい……」

 ーーそして、このギルドのマスターさえも弱々しい言葉でそう言ってしまった。

「待て。帝国はこの国とも、イーリアスとも違う!何があるか分からんのだぞ!」

ヴェルド「だから何だってんだよ」

「……は」

フウロ「何があるか分からん……か」

グリード「こちとら、年柄年中何があるか分かんねぇとこばっか行ってからなァ」

ライオス「今更何をって話だ」

「……」

 ……何でだ。なぜ、誰も俺を責めようとしない……?なぜ、当たり前のように自らを危険に晒すようなことを……、俺は、俺は……。

アラン「クロム様……」

「……なぜ、誰も俺を責めんのだろうな、アラン」

アラン「……強いて言うのであれば、責めたところで意味が無いと分かっているからでしょう」

「……」

 ……バカはどっちなんだろうな。

「……アラン。あいつらに伝言を頼む」

アラン「……」

「全員出動だ。1人も遅れるな!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

セレナ「あの、1つ言っていいですか?」

「多分、聞きたくないけど言っていいわよ」

セレナ「ここ、来るの何回目ですかね?」

「知らないわよ!」

 …………

「くそっ、迷子になった……」

ネイ(あ、認めた)

 汚い牢獄から抜け出し、かれこれ数時間程度。悲しいことに城内で迷子になってしまった。

セレナ「やはり、大人しく助けを待った方が良かったのでは?」

「そんな悠長なことしてられるわけないでしょ。本来殺されるはずだったあんたがなんで生かされてるのか。その意味が分からないの?」

セレナ「うーん、分かりませんねー」

 この人、本当にイーリアスの聖王なのかしら……。

「あのね、ラグナロクっていう国は邪龍を復活させるための儀式をしてるとこなのよ。その儀式の材料として聖王の血、邪龍の器、その2つが必要なの」

セレナ「ほう、儀式ですか。邪龍復活だなんて、世界の平和が乱れそうですね」

「……まあいいわ。で、今ここに聖王の血と邪龍の器が揃っちゃってんのよ。これ、どういう意味か分かる?」

セレナ「え、邪龍の器なんてどこにあるんですか!?」

「こ、こ、よ!」

セレナ「あ、……え?」

 ……あ、しまった。話しすぎちゃったかもしんない。

セレナ「……邪龍……なんですか……」

「今はまだってとこかしら。でも、器に成りうる素質はあるのよ」

セレナ「……そうですか」

「……まあとにかく、私の方は殺されないでしょうけど、あんたは本当にいつ殺してもいい。今生かされてるのは見せしめにするためだけにしかならない。もし、何か事を起こそうとすればすぐに殺されちゃうのよ」

セレナ「なら、尚更今は大人しくしといた方が良かったのでは?」

「それで絶対に殺されない保証なんてないでしょ……」

セレナ「ふむ。クロム達の助けを待ってる暇はないということですか」

「そういうことよ、はぁ……」

 相変わらず、この王様に状況を説明するのは骨が折れるわね。何でこう、もっとしっかりした感じになってくれないのかしら。

ネイ(でも、私が知る限りだと結構しっかりしてるんですけどね)

「それ、ちゃんと公の場に立つ時だけね。それ以外はあんたと同じ自堕落の塊よ……」

ネイ(自堕落とは失礼ですね。怠惰と呼んでください)

「意味変わんないでしょそれ」

 ……まあいいか。とりあえず、迷ったなら迷ったで、どうにかこの城を抜け出す方法考えないと……。

「いたぞ!」

「……!」

 ーーと、思いっきり油断していたところに赤装束の帝国兵達が駆けつけて来ていた。

セレナ「あら、帝国兵さんのご登場ですね」

「ラッキー。奴らが出てきたとこに行けば出口があるわ!」

ネイ(兵舎に繋がってそうな気はしますけどね)

「バカね。帝国兵が湧いてくるとこは教団本部なのよ!で、その教団はすぐ外に繋がってるの!」

ネイ(なるほど)

 あー、めんどくさかったけど過去、帝国の内政調査してた甲斐あって良かった。

「突破するわよ!」

セレナ「正面からですか!?」

「それ以外に道はないわ!」

 銃を構え、迫り来る敵を全員撃ち抜く。急所を外すメリットなんてないから、そのまま撃ち殺し。セレナさんが残酷そうな目でこちらを見てきていたが、今は生き残ること優先!優しさなんて見せてちゃ足元すくわれる!

 ーー本当、クロムさんみたいに時には残酷ってなれる人の方が戦場にも王にも向いてるのだけどね。この王様に、王という立場は重すぎるわ。

「セレナさん。この戦い終わったら王様やめた方がいいわよ」

セレナ「それはまた突然な話ですね。ちなみに根拠は?」

「あんた、優しすぎるわ。敵は敵って切り捨てないと心が持たないわよ」

セレナ「……それは、分かっているつもりです。私は優しすぎると、何度もたくさんの人から言われました」

「そ、なら今更私が言うまでもなかったわね」

セレナ「……優しすぎる。それが私には理解出来ないのです。どうして、優しくあってはならないのでしょうか?平和を求めるには、優しさが必要不可欠です。私から優しさを奪うなどーー」

「辛いでしょ」

セレナ「……」

「世の中、優しい人ほど辛くなってるのよ。誰に対しても情けをかけてるようじゃ、本当に心が辛くって仕方ないわよ。あれは敵だ。自分とは相容れないって割り切らなきゃ、無駄に疲れるだけよ」

セレナ「……」

 迫り来る帝国兵を1人残らず撃ち殺し、ようやく教団本部にまで近付いてきた。厄介な教祖が出て来なかったのは不幸中の幸いね。

セレナ「優しいと思われることは、良くないことなのでしょうか?」

 本部がもう目と鼻の先といった所で、セレナさんがそう問いかけてくる。

「別に、そう思われることは悪くないと思うわよ。ただ、その優しさを見せる相手くらいはちゃんと考えなさいって話」

セレナ「……優しいですね。ヒカリさん」

「別に。ただ心配だっただけよ」

セレナ「……ふふ」

 ーーやっとの思いで城内を抜け、教団本部へと足を踏み入れる。すると、まずすぐに鼻を突いてくるような異臭がした。

セレナ「んっ……なんですか、この臭いは……」

「……血なまぐさいわね」

 見れば、そこら中に教徒達の死体が転がっており、辺り一帯を血の海に染め上げていた。

 儀式はもう始まってる……って思うにしては、些か不気味ね。教徒から生命エネルギーを集めるにしても、こんな無惨に殺したんじゃエネルギーがバラバラになる。それにーー

「帝国皇帝のグリモワも死んでる……」

セレナ「……儀式とは違う。何者かの襲撃……ということでしょうか」

「分かんないわ。今の帝国に敵はいっぱいいるだろうけど、いきなりここをつついてこれるような奴だなんて……」

 いるはずがない。少なくとも、この時間、この世界の情勢じゃまず有り得ない。なら、一体誰が……?

ネイ(ヒカリちゃん。そこ、すぐそこにまだ生きてる人がいます)

「……あ、ラスト!?」

 見れば、すぐ足元にサリアを担いだラストが野垂れ死んでいた。……いや、死んではないか。ただ気絶してるだけ。でも傷が酷い。すぐに治癒しなきゃ。

ラスト「がっ……おい、嬢ちゃん。何やっ……てる……」

「治療」

ラスト「そりゃ、見りゃ分かるって話だ……っで、何してやがる……俺ぁ、敵だぞ……?」

「こんな状況、何があったか教えてくれる人がいなきゃダメでしょ。それに、あんたは心の底から帝国に服従してない。ついでに仲間に出来たらって思っただけよ」

ラスト「……バカみてぇ……だな。んま、助けてくれるってなら……なんでもいいか……」

 とりあえず外傷は全部治し、中身の方も出来る限りの治癒を施した。まだ苦しい状態は続くでしょうけど、あとは本人の生命力で復帰出来るはず。

ラスト「助けてくれた例に……教えてやらぁ……。俺らをこんなにした奴ってのはな……ありゃ、人間の皮被ったバケモンだ……」

 それだけ言うと、ラストは安心したかのように眠ってしまった。……一瞬死んだんじゃないかと思ったけど、脈はちゃんとあるから平気ね。全く……。

「セレナさん。彼を頼めるかしら?こんなんでも、色々背負ってるもんがある奴だから」

セレナ「あ、はい」

 流石は優しき聖王。敵だと言うのになんの躊躇いもなく私の願い通りに彼を介抱してくれた。

ネイ(……ヒカリちゃん。ちょっと変わってもらえますか?)

「暴走しないって保証は?」

ネイ(今回ばかりは暴走した方がいいかもしれないです……)

「……」

 静かに意識を切り替える。ネイの声、少しだけど震えていた。この状況を知っているってことかしら。まあいいわ。

「……出てきてください。狙いは私ですよね」

 剣を抜き、切っ先を教団の入口に向ける。すると、そこに風がふっと巻き起こり、黒い粒子が集まってくる。

「これはこれは、流石は元神様、といったところか」

「……っ!」

 粒子が集まり、人間の形を生成する。その姿を見て、私の中の何かが暴れ出そうとする。

「レイ……ジ……」

「ほう。レイジっていうのか、この体」

 朱色の髪をサッと撫でながら、そこにいるレイジの皮を被った奴がそう言う。体は間違いなくレイジ本人のものだが、中身が違う。それだけはこの会話だけで分かった。

「……返しなさい。その体を、レイジ本人に……っ!」

レイジ「無理だな。この体は居心地がいい。素晴らしい魔力に、魔女の権限。やっと見つけた理想の体だ。失うには惜しいな」

「中身、精霊ですか」

 それなら話は早いと空の龍石を嵌めこんだ剣を投げつけてみた。波の精霊なら龍石でも封印が出来る。そう見込んでのことだったが……。

レイジ「その行いには意味がない。私を倒すのなら、この体ごと破壊しないとな」

 ーーだが、龍石は反応せず、剣は指先1つで簡単に受け止められてしまった。

ラヴェリア(見たところ、邪精霊のようですね。龍石での封印はもちろん、その他どんな手段を使っても契約は結べません)

「エンマと同じってことですか」

 杯の中から適当に剣を2本取り出す。

「ラヴェリア、相手お願いできますか」

ラヴェリア(お任せを)

 ラヴェリアに体を預け、私も意識の内側へと戻る。

ヒカリ「邪精霊ってどういうことかしら?」

 内側に戻った途端に、すぐヒカリちゃんがそう質問してくる。

「精霊界の中でも異端な存在ですよ。ヴェリアとは違って、自らの意思でこちらの世界に干渉できる存在。私もある意味似たような存在ですけど、私の場合は別に契約者がいるので例外です」

ヒカリ「契約者?」

「そこはまた今度話します。で、相手が邪精霊となると、少しだけ話が変わってきます」

ヒカリ「……?どういうことかしら?」

「邪精霊は基本的に倒す手段がないんですよ。エンマみたいに、ヒカリちゃんが専用の特攻武器でも作ってくれたら話は別ですけど、それでも倒せるかどうかってのは賭けに近いんです」

ヒカリ「……また、歴史と違うことになってきたってわけね」

「はい。それで、あれを倒すことは不可能です。無理矢理ひっぺ返して精霊界に送り返すくらいしかないんですけど……」

ヒカリ「……何か、難しい事情でもあるのかしら」

「やるなら、一旦私達の体に移すくらいしか方法がありません。それで、上手く追い返せればいいんですけど、失敗したら……」

ヒカリ「失敗……ね。それなら気にしなくてもいいわ」

「……」

ヒカリ「私とあんたが失敗することなんて、有り得ないでしょ?」

「……そうですね。無駄に心配して損しました」

ヒカリ「じゃ、そういうことならさっさとやって来なさい。大丈夫、私だって負けてやるつもりはないから」

「……ラヴェリア。変わります」
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