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Veritas2章 【運命の欠落点】
Veritas2章9 【Re:セレナ救出戦】
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ーー聖龍の墓場。
「ここに来るのも随分と久しぶりね……」
クロム「あの時ヴァルが飛び込んできてくれて、本当に良かったな。でなけりゃ今頃お前はここにいないわけだ」
「そうね……」
本来なら落とすはずだった命を、運命に抗った私達の力で別の道へと歩み始めたあの日。その時の現場を、今度は救ってもらうんじゃなく、救うために来ることになるとは……。
「本当、何が起こるか分かんないもんね……」
クロム「……それで、自警団にも寄らずいきなり戦場にまで来てしまったわけだが、どうするつもりだ?」
クロムさんの言うように、今この場には私と彼、そしてアランの3人しかいないし、アランには逃げ出す時のための退路を確保してもらってるから、戦力部隊は実質私達2人だけ。一応曲がりなりにも戦争だっていうのに相当舐めたことをしようとしてるってのは分かっているつもり。でも、これくらいしか誰も死なせずに済む方法は思いつかなかった。
「作戦はシンプルに行くわ。行けるとこまで攻めて、セレナさんが殺されそうになったら私が時間を止める。そしてセレナさんを回収したら急いで撤退」
クロム「上手く行くか?」
「そこはクロムさんの働き次第ってとこかしら?精一杯敵を惹き付けてもらって、なるべく私が苦労せずにセレナさんに近付けるようになれば完璧よ」
クロム「……まあ、今はそうするしかないか」
2人でだだっ広い戦場の方へと目を向ける。奥の方には点々とした帝国兵の数々が見える。総数はざっと見て2000ってとこかしら。イーリアスが相手だからって、向こうも相当舐めてきてるわね。
「ネイ、出番よ」
ネイ(結局私ですか!?)
「当たり前でしょ?私、空間は越えられても時間までは越えられないわよ」
ネイ(ええ……。てっきりヒカリちゃん1人でどうにかするもんだと思ってましたよ……)
「そもそも本来の歴史じゃあんたが活躍するはずのとこでしょ。なるべくヴェリアに邪魔されないためにも、史実通りに行けるとこはそうした方がいいに決まってるわ」
ネイ(……分かりましたよ)
「じゃ、交代ね」
心の世界の中でバトンタッチをし、私は内側の方へと戻る。あとはネイが暴走しそうになった時、すぐに表に出られるようスタンバっておけば大丈夫かしら。
「さて、じゃあ行きますか。精々足引っ張らないように気を付けてくださいね」
クロム「ああ。……ん、あ、え、お前誰だ!?」
クロムさんがこちらを見て凄く驚いていたのを尻目に、私は翼を広げて飛び上がった。
「わざわざ時間なんて止めなくとも、空から行けば1発ですよ」
優雅に空を飛び回り、遥か上空からセレナさんの居場所目掛けて急降下を図る。だが、その直前に灰色の煙が眼前に広がり、それ以上の降下を許してはくれなかった。
「やはり、史実は守りに来ますか……ヴェリア」
煙はすぐさま私達の周りを囲ってしまい、ここからは動かさんぞという強い意志を感じ取れた。
「ふむ」
剣で軽く一振りしてみるが、斬った場所は斬られた瞬間から再度煙達が集まるようになっており、これではどうやっても脱出は困難だな、と悟る私。でも、これしきで足止めが出来ると思われているのなら、舐めてるにも程があるってもん。
「……とはいえ、無駄にアップデートはさせたくありませんし……どうしましょう」
ヒカリ(何よ。さっさとそんな奴ら蹴散らしてしまえばいいじゃない)
「まあそうなんですけど、それやると次に同じ状況になった時が怖いんですよねぇ」
ヒカリ(対策されるからかしら?そんなの気にしてるなんてらしくないわね。どうせその気になれば無限にも等しいパターンを編み出せるだろうってのに)
「まあ、それもそうなんですけど……」
そこまでの力を出せるようになるのは、もう最終章も近くなったあたり。こんな序盤から飛ばしてたんじゃこの体が持たなくなる。……でも、ヒカリちゃんのことだからあんまり自分の体は大事にしないだろうなぁ。どうせ寿命が少し伸びた程度にしか思ってないんでしょうし、私がいくら頑張ったって無駄なんですかね?
「……まあいいか。ここは史実通りに行きましょう。ジーク、アマツ、シズ、ラヴェリア」
ジーク(よーし!出番だな!)
アマツ(時ハ満チタ)
シズ(我が主のために!)
ラヴェリア(お嬢様のために参ります!)
史実通りに、みんなの心を1つにし、同時に憑依を行おうとした。その時ーー
「っ……!」
突然、激しい耳鳴りが起きたかと思った次の瞬間には酷い頭痛が発生した。
まるで、脳の奥に何かが伝わったかのように、体が勝手に動き始める。
喉が渇く、腹が減る、心が痛む。
「ぅっ……!あっ……」
ヒカリ(ちょ、ちょっとネイ!?)
飢える。飢えている。私の魂が足りないものを得ようとするために勝手に暴走を始める。
「ヒカリ……ちゃん……!こう……たい……!」
ヒカリ(分かったわ!)
すぐさまヒカリちゃんの方から強制的に交代を試みる。無事、内側の方に落ち着くことは出来たが、まだ飢えが収まらない。
今はまだ、自我が保てているだけいい。でも、このままじゃ……
ラヴェリア「お嬢様!」
精神世界で1人、暴走を抑えようと蹲っていたところにラヴェリアが駆け付けてくる。
ラヴェリア「失礼します!」
ラヴェリアに思いっきり鳩尾を殴られ、そのまま意識を失った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「っ……そっ……!」
翼を失い、遥か上空から花火の不発弾のように情けなく地面へと落下する。
落下した私を、それ以上ヴェリアが邪魔してくることはなかった。ただその代わり、敵軍のど真ん中に墜落してしまったため、当然のことながら帝国軍が私の周りを囲ってくる。
「そりゃ……そうか……」
イーリアスの自警団にいた頃、仕事とはいえちょっと派手に帝国軍をぶっ飛ばしてきた記憶がある。しかも、どうせこの世界に長居するつもりはないからって、顔を隠すことなんてしてなかった。覚えられてて当然か。
まさか、こんな序盤から策が潰れるとは思わなかったわ。そりゃ、暴走するタイミングは本人にも読めないとは言ってたけども、だからって戦う前からいきなり暴走する必要性なんてないじゃない。
「さて、どうしましょう……」
とりあえず銃を構えてみるが、四方八方を敵に囲まれた状況でどうすればいいのかが分からない。魔法でぶっ飛ばそうにもなんだか全身が気怠い上に痺れもあって上手く扱える気がしない。
そういえば、リーシア救出の時にも、あの子が暴走したせいでしばらく体が言うことを聞かなかったかしら……。まあ、すぐに治るんでしょうけど、それも半日は必要な話だし……。
ーーなぁんて、くだらない言い訳するだなんてらしくないわね。
「とにかく後ろに下がるしかないわね!」
動き辛い左腕を上げ、フレイムのメモリを挿してから乱射する。それだけで帝国兵の何人かは吹き飛ばされていったが、それも最初の数十人程度。すぐに私の弾丸は今1番会いたくなかった奴の手によって止められることになる。
「ようようよう!こりゃまた珍しいガキが戦場に紛れ込んでるじゃねぇか!」
「ラスト……」
見た目は完全にチンピラ、けど実力は今のクロムさんとどっこいどっこいの帝国将が、愛剣のサリアをぶん回しながらやって来た。
ラスト「へぇ、覚えてくれてんのか。イーリアスの厄介軍師さんっと」
「……っ!」
素早く足を回され、バランスを崩した私はその場に跪く。そしてすぐにラストが私の髪の毛を掴んで地面に叩きつけてくる。
ラスト「何があったか知らねぇが、今日は随分と弱っちいなぁ、おめェ。本当、やりがいがねぇったらありゃしねぇが、ま、大人しく捕まってくれや」
「誰……がっ……!」
勢いよく立ち上がり、ラストに向けて銃口を突きつける。だが、直後に視界が眩み、すぐさま地面に腰を落ち着ける形となる。
ラスト「……限界、ってとこだな」
「っ……」
息が詰まる。何度も何度も酸素を取り入れようと、呼吸が荒くなる。けど、どれだけ吸っても息が苦しくって仕方ない。
ただの体調不良……にしては、何かがおかしい。ネイが暴走したってのが原因だとしても、前はこんなに苦しくはならなかった。今は、起きてるのに悪夢を見てるような、そんな変な感じで、やっぱり苦しいことに変わりはない。
ラスト「とりあえず寝てろ。あんま乱暴したくねぇんだ」
動けない私に対し、ラストは剣の柄の部分を私の首筋に当て、スタンガンのような感じで電流を流してきた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
いかんな。雨脚が強まってきた。このままでは、ずぶ濡れの状態であいつらのところに行かねばならなくなってしまうな。
「……いや、それもいいかもな」
俺は本気だったという体を示すには、それくらいが丁度いいのかもしれん。
「バカだな……俺は。大馬鹿者だ……」
天を仰げば頬にかかる小さな雫。ポツポツと弱く降り出したかと思えば、すぐに想像通りの土砂降りになる。
……本当、どの面を提げてあいつらのところに行けばいいのやら。自分で自分のことが恥ずかしくってたまらんな。出来れば、このままひっそりと消えてしまいたいくらいだ。だがーー
「……それでも、逃げだけは許すことが出来ん……!」
例え、どれだけ恥ずかしくとも、情けなくとも、逃げることだけは出来ない。逃げれば、俺の行い全てが罪に変わる。そして、仲間達への裏切りともなる。
「……」
色んな思いから重く感じる扉を押し開け、俺はゆっくりと建物の中へと足を踏み入れる。
皆の視線を一身に浴び、俺は足を強く踏み込んで中へと進んでゆく。目指すはマグマのように真っ赤な髪をした少年の下。
「……」
「……」
少年の足元で、俺は膝をつき、頭を地面に叩きつけ、絞り出すように声を上げた。
「力を……っ、貸してくれっ……!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁ……」
薄暗い檻の中、酷い悪臭、醜い叫び声。
あーあ、最初っから変なこと言わずにみんなをまとめ上げてたら、こんなことにならなかったのかなぁ。
「なんて、今更すぎるのよね……」
歴史の流れとは違うことをしたのは私自身。ヴァルに助けてもらった日から、出来る限り歴史とは違うことをしようって思ってたんだけど、早速バチが当たっちゃったみたい。やっぱり、歴史は変えちゃいけないってことなのかな?……いや、だとしたらそもそも私が存在してる時点でダメなんだろうけど、そこはほら、ヴェリアとかエンマが邪魔してくるわけだし、やっぱり、ペナルティってことか……。
(……)
「あんたも黙ってないで話し相手くらいにはなってよ。暇なんだからさ」
(すみません……)
「……」
ネイはネイで、すっかり憔悴しちゃってるみたい。本当、神様だってのにバカらしいったらありゃしないのだけれど、まあ、気持ちは分からないわけじゃない。でもねぇ、だからっていつまでも落ち込まれてちゃ困るのよ。
「……史実通りに進めるってんなら、いつまでもこんなところにいるわけにはいかないでしょ?ネイ」
(それは……その通り……なんです……けど……)
妙に歯切れが悪いわね……。
(……ヒカリちゃん。怒ってないんですか?)
「怒ったって仕方ないでしょ。あれは誰も予想出来ないんだから」
(……)
「あーもう、うだうだしないでよ!この状況、あんたがまともに動かないとどうにもならないの!悔しいけど、今はあんたの方が何倍も強いんだし!」
(……分かりました。何とか頑張ってみます)
「それでいいのよ」
メンタルは強い方かと思ってたけど、意外と折れやすい子なのよね。1回死んだんじゃなかったのかしら。まあいいわ。
「で、お隣さんは逃げ出そうって気は起こさないのかしら」
私は牢の壁にもたれかかり、壁越しにそう尋ねてみた。
「逃げ出せば、それを代償に多くの民が傷つくことでしょう。何、心配ありません。優秀な弟が、国も私も、あなたも助け出そうと、今頃躍起になっていると思いますから」
「そうかしらね」
「そういうものです。あの子は私以上に優しく、欲深い人間ですから」
欲深い……か。
「そういうあなたは、何か願いとかないのかしらね。セレナさん」
セレナ「願い……ですか。あるとするのならば、この世界がいつまでも平和であることです」
「そりゃ、まあ、大層ご立派な願いですこと」
セレナ「そうですかね?ごくごく自然な願いだとは思いますが」
「その自然な願いを叶えるために、どれだけの人間が血を流すって言うのよ」
セレナ「それは……」
「平和なんて絵空事でしかない。人間ってのは、争いを好む生き物なのよ。どれだけ願ったって全てが平和になるわけじゃない。精々、自分とその周りを平和に出来たら儲けもんって話よ」
セレナ「……そうかもしれませんね。私達はちっぽけな生き物。みんながみんな仲良くすることは難しいのかもしれません。でも、それでも、みんなが仲良くなってくれたらって、例え理想でも思ったっていいじゃないですか。それに、そういう人が1人でも多くなれば、やがて争いは無くなると思いますよ」
「……そんなもんかしらね」
この聖王は夢ばかり語っている。その姿に無性に腹が立つ。世の中、少なくとも、私が知っている限りじゃ平和な場所なんてどこにもなかった。常に戦火が上がる場所で、子供達の泣き声を聞きながら、その泣き声を物理的に消す道具ばかりを作ってきていた。
争いを消すだなんて、そんなこと、全ての世界の人々が本気で平和を願う以外有り得ない。誰か1人でも野心を抱く者がいれば、そこからまた戦火が上がる。たった1人の力で大きな争いになる。……のうのうと生きてきた女王様には分かんないか、これ。
「……平和のためなら、自らの命だって捨てられる。あなたはそう言いたいのかしら」
何を伝えれば現実を思い知らせるか。そう考え、私はそう問いかけた。
セレナ「私1人の命で世界が平和になるというのなら、私は喜んでこの命を捧げます。しかし、世界はそれほど単純ではありません。あなたが思うように、平和というのは絵空事なのです。私1人が願ったところでどうにもならない。しかし、たった1人の力で争いが起こるというのであれば、たった1人の力で平和になるという考えもできるんじゃありませんか?」
「……」
セレナ「……どう聞いても夢物語。そう思ってもらったって構いません。しかし、私は願います。この世界の平和を」
「……」
本当、くだらないわね。……私。
「ここに来るのも随分と久しぶりね……」
クロム「あの時ヴァルが飛び込んできてくれて、本当に良かったな。でなけりゃ今頃お前はここにいないわけだ」
「そうね……」
本来なら落とすはずだった命を、運命に抗った私達の力で別の道へと歩み始めたあの日。その時の現場を、今度は救ってもらうんじゃなく、救うために来ることになるとは……。
「本当、何が起こるか分かんないもんね……」
クロム「……それで、自警団にも寄らずいきなり戦場にまで来てしまったわけだが、どうするつもりだ?」
クロムさんの言うように、今この場には私と彼、そしてアランの3人しかいないし、アランには逃げ出す時のための退路を確保してもらってるから、戦力部隊は実質私達2人だけ。一応曲がりなりにも戦争だっていうのに相当舐めたことをしようとしてるってのは分かっているつもり。でも、これくらいしか誰も死なせずに済む方法は思いつかなかった。
「作戦はシンプルに行くわ。行けるとこまで攻めて、セレナさんが殺されそうになったら私が時間を止める。そしてセレナさんを回収したら急いで撤退」
クロム「上手く行くか?」
「そこはクロムさんの働き次第ってとこかしら?精一杯敵を惹き付けてもらって、なるべく私が苦労せずにセレナさんに近付けるようになれば完璧よ」
クロム「……まあ、今はそうするしかないか」
2人でだだっ広い戦場の方へと目を向ける。奥の方には点々とした帝国兵の数々が見える。総数はざっと見て2000ってとこかしら。イーリアスが相手だからって、向こうも相当舐めてきてるわね。
「ネイ、出番よ」
ネイ(結局私ですか!?)
「当たり前でしょ?私、空間は越えられても時間までは越えられないわよ」
ネイ(ええ……。てっきりヒカリちゃん1人でどうにかするもんだと思ってましたよ……)
「そもそも本来の歴史じゃあんたが活躍するはずのとこでしょ。なるべくヴェリアに邪魔されないためにも、史実通りに行けるとこはそうした方がいいに決まってるわ」
ネイ(……分かりましたよ)
「じゃ、交代ね」
心の世界の中でバトンタッチをし、私は内側の方へと戻る。あとはネイが暴走しそうになった時、すぐに表に出られるようスタンバっておけば大丈夫かしら。
「さて、じゃあ行きますか。精々足引っ張らないように気を付けてくださいね」
クロム「ああ。……ん、あ、え、お前誰だ!?」
クロムさんがこちらを見て凄く驚いていたのを尻目に、私は翼を広げて飛び上がった。
「わざわざ時間なんて止めなくとも、空から行けば1発ですよ」
優雅に空を飛び回り、遥か上空からセレナさんの居場所目掛けて急降下を図る。だが、その直前に灰色の煙が眼前に広がり、それ以上の降下を許してはくれなかった。
「やはり、史実は守りに来ますか……ヴェリア」
煙はすぐさま私達の周りを囲ってしまい、ここからは動かさんぞという強い意志を感じ取れた。
「ふむ」
剣で軽く一振りしてみるが、斬った場所は斬られた瞬間から再度煙達が集まるようになっており、これではどうやっても脱出は困難だな、と悟る私。でも、これしきで足止めが出来ると思われているのなら、舐めてるにも程があるってもん。
「……とはいえ、無駄にアップデートはさせたくありませんし……どうしましょう」
ヒカリ(何よ。さっさとそんな奴ら蹴散らしてしまえばいいじゃない)
「まあそうなんですけど、それやると次に同じ状況になった時が怖いんですよねぇ」
ヒカリ(対策されるからかしら?そんなの気にしてるなんてらしくないわね。どうせその気になれば無限にも等しいパターンを編み出せるだろうってのに)
「まあ、それもそうなんですけど……」
そこまでの力を出せるようになるのは、もう最終章も近くなったあたり。こんな序盤から飛ばしてたんじゃこの体が持たなくなる。……でも、ヒカリちゃんのことだからあんまり自分の体は大事にしないだろうなぁ。どうせ寿命が少し伸びた程度にしか思ってないんでしょうし、私がいくら頑張ったって無駄なんですかね?
「……まあいいか。ここは史実通りに行きましょう。ジーク、アマツ、シズ、ラヴェリア」
ジーク(よーし!出番だな!)
アマツ(時ハ満チタ)
シズ(我が主のために!)
ラヴェリア(お嬢様のために参ります!)
史実通りに、みんなの心を1つにし、同時に憑依を行おうとした。その時ーー
「っ……!」
突然、激しい耳鳴りが起きたかと思った次の瞬間には酷い頭痛が発生した。
まるで、脳の奥に何かが伝わったかのように、体が勝手に動き始める。
喉が渇く、腹が減る、心が痛む。
「ぅっ……!あっ……」
ヒカリ(ちょ、ちょっとネイ!?)
飢える。飢えている。私の魂が足りないものを得ようとするために勝手に暴走を始める。
「ヒカリ……ちゃん……!こう……たい……!」
ヒカリ(分かったわ!)
すぐさまヒカリちゃんの方から強制的に交代を試みる。無事、内側の方に落ち着くことは出来たが、まだ飢えが収まらない。
今はまだ、自我が保てているだけいい。でも、このままじゃ……
ラヴェリア「お嬢様!」
精神世界で1人、暴走を抑えようと蹲っていたところにラヴェリアが駆け付けてくる。
ラヴェリア「失礼します!」
ラヴェリアに思いっきり鳩尾を殴られ、そのまま意識を失った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「っ……そっ……!」
翼を失い、遥か上空から花火の不発弾のように情けなく地面へと落下する。
落下した私を、それ以上ヴェリアが邪魔してくることはなかった。ただその代わり、敵軍のど真ん中に墜落してしまったため、当然のことながら帝国軍が私の周りを囲ってくる。
「そりゃ……そうか……」
イーリアスの自警団にいた頃、仕事とはいえちょっと派手に帝国軍をぶっ飛ばしてきた記憶がある。しかも、どうせこの世界に長居するつもりはないからって、顔を隠すことなんてしてなかった。覚えられてて当然か。
まさか、こんな序盤から策が潰れるとは思わなかったわ。そりゃ、暴走するタイミングは本人にも読めないとは言ってたけども、だからって戦う前からいきなり暴走する必要性なんてないじゃない。
「さて、どうしましょう……」
とりあえず銃を構えてみるが、四方八方を敵に囲まれた状況でどうすればいいのかが分からない。魔法でぶっ飛ばそうにもなんだか全身が気怠い上に痺れもあって上手く扱える気がしない。
そういえば、リーシア救出の時にも、あの子が暴走したせいでしばらく体が言うことを聞かなかったかしら……。まあ、すぐに治るんでしょうけど、それも半日は必要な話だし……。
ーーなぁんて、くだらない言い訳するだなんてらしくないわね。
「とにかく後ろに下がるしかないわね!」
動き辛い左腕を上げ、フレイムのメモリを挿してから乱射する。それだけで帝国兵の何人かは吹き飛ばされていったが、それも最初の数十人程度。すぐに私の弾丸は今1番会いたくなかった奴の手によって止められることになる。
「ようようよう!こりゃまた珍しいガキが戦場に紛れ込んでるじゃねぇか!」
「ラスト……」
見た目は完全にチンピラ、けど実力は今のクロムさんとどっこいどっこいの帝国将が、愛剣のサリアをぶん回しながらやって来た。
ラスト「へぇ、覚えてくれてんのか。イーリアスの厄介軍師さんっと」
「……っ!」
素早く足を回され、バランスを崩した私はその場に跪く。そしてすぐにラストが私の髪の毛を掴んで地面に叩きつけてくる。
ラスト「何があったか知らねぇが、今日は随分と弱っちいなぁ、おめェ。本当、やりがいがねぇったらありゃしねぇが、ま、大人しく捕まってくれや」
「誰……がっ……!」
勢いよく立ち上がり、ラストに向けて銃口を突きつける。だが、直後に視界が眩み、すぐさま地面に腰を落ち着ける形となる。
ラスト「……限界、ってとこだな」
「っ……」
息が詰まる。何度も何度も酸素を取り入れようと、呼吸が荒くなる。けど、どれだけ吸っても息が苦しくって仕方ない。
ただの体調不良……にしては、何かがおかしい。ネイが暴走したってのが原因だとしても、前はこんなに苦しくはならなかった。今は、起きてるのに悪夢を見てるような、そんな変な感じで、やっぱり苦しいことに変わりはない。
ラスト「とりあえず寝てろ。あんま乱暴したくねぇんだ」
動けない私に対し、ラストは剣の柄の部分を私の首筋に当て、スタンガンのような感じで電流を流してきた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
いかんな。雨脚が強まってきた。このままでは、ずぶ濡れの状態であいつらのところに行かねばならなくなってしまうな。
「……いや、それもいいかもな」
俺は本気だったという体を示すには、それくらいが丁度いいのかもしれん。
「バカだな……俺は。大馬鹿者だ……」
天を仰げば頬にかかる小さな雫。ポツポツと弱く降り出したかと思えば、すぐに想像通りの土砂降りになる。
……本当、どの面を提げてあいつらのところに行けばいいのやら。自分で自分のことが恥ずかしくってたまらんな。出来れば、このままひっそりと消えてしまいたいくらいだ。だがーー
「……それでも、逃げだけは許すことが出来ん……!」
例え、どれだけ恥ずかしくとも、情けなくとも、逃げることだけは出来ない。逃げれば、俺の行い全てが罪に変わる。そして、仲間達への裏切りともなる。
「……」
色んな思いから重く感じる扉を押し開け、俺はゆっくりと建物の中へと足を踏み入れる。
皆の視線を一身に浴び、俺は足を強く踏み込んで中へと進んでゆく。目指すはマグマのように真っ赤な髪をした少年の下。
「……」
「……」
少年の足元で、俺は膝をつき、頭を地面に叩きつけ、絞り出すように声を上げた。
「力を……っ、貸してくれっ……!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁ……」
薄暗い檻の中、酷い悪臭、醜い叫び声。
あーあ、最初っから変なこと言わずにみんなをまとめ上げてたら、こんなことにならなかったのかなぁ。
「なんて、今更すぎるのよね……」
歴史の流れとは違うことをしたのは私自身。ヴァルに助けてもらった日から、出来る限り歴史とは違うことをしようって思ってたんだけど、早速バチが当たっちゃったみたい。やっぱり、歴史は変えちゃいけないってことなのかな?……いや、だとしたらそもそも私が存在してる時点でダメなんだろうけど、そこはほら、ヴェリアとかエンマが邪魔してくるわけだし、やっぱり、ペナルティってことか……。
(……)
「あんたも黙ってないで話し相手くらいにはなってよ。暇なんだからさ」
(すみません……)
「……」
ネイはネイで、すっかり憔悴しちゃってるみたい。本当、神様だってのにバカらしいったらありゃしないのだけれど、まあ、気持ちは分からないわけじゃない。でもねぇ、だからっていつまでも落ち込まれてちゃ困るのよ。
「……史実通りに進めるってんなら、いつまでもこんなところにいるわけにはいかないでしょ?ネイ」
(それは……その通り……なんです……けど……)
妙に歯切れが悪いわね……。
(……ヒカリちゃん。怒ってないんですか?)
「怒ったって仕方ないでしょ。あれは誰も予想出来ないんだから」
(……)
「あーもう、うだうだしないでよ!この状況、あんたがまともに動かないとどうにもならないの!悔しいけど、今はあんたの方が何倍も強いんだし!」
(……分かりました。何とか頑張ってみます)
「それでいいのよ」
メンタルは強い方かと思ってたけど、意外と折れやすい子なのよね。1回死んだんじゃなかったのかしら。まあいいわ。
「で、お隣さんは逃げ出そうって気は起こさないのかしら」
私は牢の壁にもたれかかり、壁越しにそう尋ねてみた。
「逃げ出せば、それを代償に多くの民が傷つくことでしょう。何、心配ありません。優秀な弟が、国も私も、あなたも助け出そうと、今頃躍起になっていると思いますから」
「そうかしらね」
「そういうものです。あの子は私以上に優しく、欲深い人間ですから」
欲深い……か。
「そういうあなたは、何か願いとかないのかしらね。セレナさん」
セレナ「願い……ですか。あるとするのならば、この世界がいつまでも平和であることです」
「そりゃ、まあ、大層ご立派な願いですこと」
セレナ「そうですかね?ごくごく自然な願いだとは思いますが」
「その自然な願いを叶えるために、どれだけの人間が血を流すって言うのよ」
セレナ「それは……」
「平和なんて絵空事でしかない。人間ってのは、争いを好む生き物なのよ。どれだけ願ったって全てが平和になるわけじゃない。精々、自分とその周りを平和に出来たら儲けもんって話よ」
セレナ「……そうかもしれませんね。私達はちっぽけな生き物。みんながみんな仲良くすることは難しいのかもしれません。でも、それでも、みんなが仲良くなってくれたらって、例え理想でも思ったっていいじゃないですか。それに、そういう人が1人でも多くなれば、やがて争いは無くなると思いますよ」
「……そんなもんかしらね」
この聖王は夢ばかり語っている。その姿に無性に腹が立つ。世の中、少なくとも、私が知っている限りじゃ平和な場所なんてどこにもなかった。常に戦火が上がる場所で、子供達の泣き声を聞きながら、その泣き声を物理的に消す道具ばかりを作ってきていた。
争いを消すだなんて、そんなこと、全ての世界の人々が本気で平和を願う以外有り得ない。誰か1人でも野心を抱く者がいれば、そこからまた戦火が上がる。たった1人の力で大きな争いになる。……のうのうと生きてきた女王様には分かんないか、これ。
「……平和のためなら、自らの命だって捨てられる。あなたはそう言いたいのかしら」
何を伝えれば現実を思い知らせるか。そう考え、私はそう問いかけた。
セレナ「私1人の命で世界が平和になるというのなら、私は喜んでこの命を捧げます。しかし、世界はそれほど単純ではありません。あなたが思うように、平和というのは絵空事なのです。私1人が願ったところでどうにもならない。しかし、たった1人の力で争いが起こるというのであれば、たった1人の力で平和になるという考えもできるんじゃありませんか?」
「……」
セレナ「……どう聞いても夢物語。そう思ってもらったって構いません。しかし、私は願います。この世界の平和を」
「……」
本当、くだらないわね。……私。
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処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
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皆さん勘違いしてません?
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