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Veritas2章 【運命の欠落点】
Veritas2章8 【思い出話】
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「……」
なんだろう。これがたかが1貴族のお家ねぇ……。いや、その、城?なんで城?
クロム「久しぶりに来たが、相変わらず見た目だけは立派だな」
「これ、たかが1貴族の家なの……」
クロム「いや、ここがおかしいだけだ。俺も仕事柄色んなとこに足を運ぶが、ここまで豪勢なものは見たことないな。あるとすれば、もう隣国グランアークの王城くらいしか思い浮かばんな」
王城ねぇ……。そういや、クロムさん達のあのお城も一応王城なんだっけ。まあ、ちゃんと城らしく大きいものだったけど、にしてもこのフェルドリーグ家は半端じゃないわね。
クロム「さて、何の連絡も無しにやって来てしまったが、まあいるだろう」
そう言うと、クロムさんは玄関口の兵士に軽く挨拶をしてスタスタと入っていった。
あんな態度からは全くもって見えないけど、流石は王子様ってとこかしら。
「失礼、客人」
ーーと、続いて中に入ろうとしたところ、なぜか私の方は止められてしまった。
クロム「ああ、すまん。連れだ」
「いえ、それは分かっております。ですが、クロム様以外のお方にはしっかりと目を光らせておけとエルダ様から申し付けられておりますので」
「お嬢様が拐われてんでしょ。なら仕方ないわよ」
コートを脱いで何も無いことを証明した後、数分くらいあーだこーだとやり取りしてからお屋敷の中へと足を踏み入れた。ちなみに銃は異空間に隠しておいた。流石にあれが見つかったら面倒なことになるから。
クロム「すまんな。突然押しかけて」
「いえいえ、お嬢様のためです。必要とあらば」
執事のような人の案内を受け、私達は執務室へと通された。
「旦那様はただ今外出されておりますが、クロム様がやって来た時には好きにさせろと申されております」
クロム「いないのか」
「はい」
クロム「じゃあ、好きにさせてもらうか」
執事の人は扉前でスっと立ち、私達は執務室の中に入った。そして、早速部屋が酷く荒れてることに驚いた。
「……相当きてるみたいね」
クロム「1週間程だったか。まあ、気持ちは分からんでもないな」
とりあえずそれっぽいものを探すために散らかったものの片付けから始めてみた。
はぁ、向こうの世界じゃそこそこ高い紙がこうも乱雑に置かれてるなんて、流石ねぇ。紙なんて本に使ってるものくらいしか見たことないわよ。逆に本にしか使わないってのもおかしな話だけども。
「……」
クロム「見つからんな」
「こんだけ散らかってちゃ見つかるものも見つからないわよ。ってか、クロムさんも手伝ってよ!」
クロム「俺が探しても適当に捨ててるかもしれんぞ」
「なんで他人のものまで捨てるのよ!」
クロム「いや、冗談だ。だが、俺もアランも何かしらの術にかかってるんだろう?なら、ここで俺が探して見つけたところで、適当にどこかに捨ててるかもしれんぞ」
「……」
なんでこういうところで頭の回転が良いのかしら。いや、その通りなんだけども。
結局便利屋みたいな働きしてるわ……私。
乱雑に散った紙をまとめ、中身が関連してるものは順番に留めてその辺の棚に置き、で、本とか小物とか何とかを色々と片付けて……
「家政婦かよ!」
クロム「どうした?」
「いや、なんでもないわ……」
これ、そこにいる執事さんがやる仕事じゃないの?いや、そもそもこれくらいの家ならメイドさんくらい何人かいるでしょ!なんで私が赤の他人の家の片付けしてんのよ!
「あ、見つけた」
そんなことしてたら、ふと目に止まった1枚の紙に、脅迫文書みたいなものが書かれていることに気付いた。
クロム「拝啓フェルドリーグ殿。お宅の大事な大事なお嬢様は俺様達が頂いた。返してほしけりゃ下に書く約束の時間に桜雷の旧採石場跡地に来な」
「丁寧なのか貶してるのかよく分からない文章なのよねぇ……」
クロム「で、約束の時間というのは?」
「30日の午後7時」
クロム「今日だな」
「へぇー、今日なん……だ?」
……ここで、私の脳内で色々と疑問だったことが一気に結びついた。
ただ今空は夕暮れ模様で、フェルドリーグの家主は今この場にいなくて、で、1週間経って急にアランがこの誘拐事件の話を持ってきた。
「当日ならもう魔法が切れても問題無い。むしろそこに割いてた人員も集めてるってとこかしら。何にせよ、急いでこの桜雷の旧採石場跡地ってとこに行くわよ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーーそして現場。
クロム「……静か……だな」
「今何時よ」
クロム「多分6時前だな」
「少し早く来すぎたわね」
慌てて現場に駆け付けたはいいけど、現場はまだ閑散としていて、私達を除けば誰1人としていない。
あと1時間もすれば敵側の将と、もしかすればエルダとかいうフェルドリーグの頭が来るのかしら。まあどっちにせよ、接触させるのは危険ね。
「なんで私ここまで深く介入してんだろ……」
クロム「何か言ったか」
「カレー代にしちゃ高く付いたわねって話」
クロム「そうか。これからは給料出てやるからしっかりやってくれ」
「なんで入る流れになってんのよ」
クロム「ん?違うのか?」
「違うわよ。今回限りって言ったでしょうが……!」
クロム「俺としては未来永劫俺の自警団で働いてほしいがな」
「丁重にお断りするわ」
くだらないやり取りをしていたら、ガサガサと土を踏む足音が聞こえてきた。
クロム「来たか……」
赤色の隊服に身を包んだ者達が数名、そして先頭を歩く厳つい格好をした無精髭の男が1人。多分、あいつがリーダーか。
クロム「ラスト……。まさか、帝国の将が直々にか……」
「帝国?」
クロム「ラグナロク帝国。隣国で俺達イーリアスとは長い間険悪な仲だ。戦争こそ起きてはないが、国境付近じゃいつもいつも俺達を挑発して来る奴らだな」
「先に手を出してもらった方が戦争の体裁をとるには便利ってことね……」
クロム「その通りだな。死ねばいいのに」
今サラッと爽やか王子様の雰囲気をぶち壊すような発言したな……。
ラスト「らーらー!ちょいと早く来すぎたかなー!」
ラストが担いでいた大きな皮袋を乱雑に投げ転がし、その皮袋をビリビリと破く。すると、中から縄でぐるぐる巻きにされた白髪の女の子が現れる。
「ねぇ、もしかしてあの子が?」
クロム「ああ。多分フェルドリーグの令嬢、リーシア嬢だな。にしても、こんなところに将が派遣されるとは、余程向こうも本気と見えるな」
「そんなに強いの?あの将軍」
クロム「本人の実力もさることながら、あいつが持っている神器・雷剣サリアが強力だ。まだ実際に手合わせをしたことがないからどこまで本当なのかは分からんが、ある話ではどこかの国の軍隊を一瞬にして壊滅させたらしい」
「言い方的に大部隊を潰した感じかしら」
クロム「多分な。とにかく言えることは、あまり奴に戦わせたくないということだ」
「ふーん」
まあ、今なら向こうもこっちに気付いてないっぽいしーー事前に私達に認識阻害の魔法をかけておいたーー私が得意な隠密作戦でやれば簡単に終わりそうね。
クロム「で、どうする?」
「どうするも何も、あの女の子を助けて帰り道にいるエルダも一緒に連れて帰れば一瞬で解決でしょう?」
クロム「出来るのか?」
「不意打ちは得意技よ。事実、あんた達3人をあの場で抑えたじゃない」
クロム「……分かった。任せる」
壁から離れ、認識阻害を続けたままラストの背後に回る。チンピラみたいな顔と態度をしてるくせにこれでも帝国の将。本当、帝国ってイメージ通り実力主義なのかしらね。
まあそんなことはどうでもいい。今回の場合は今まで以上にすごく簡単なミッションだ。要はここにいる全員に気づかれることなくあの白髪の女の子を助け出せばいいわけだし。で、かるーく全員の素質チェックをかけてみたけど、まあ誰1人として魔法を使えるような人間はいないわね。このラストも武器が強力なだけで本人に魔法への耐性は一切無い。なんだ、本当に楽勝じゃん。
「眠れ」
指で弾くようにラストの後頭部を叩き、睡眠作用のある魔法をかける。すると、ドミノ崩しのように連鎖的に反応が起こり、この場にいる帝国兵全員が倒れた。
「本当に油断しきってるわね、こいつら」
クロム「こんなことをされたんじゃ、帝国の面子丸潰れだろうな」
乱雑に帝国兵達を1箇所に固め、私は同時に眠らせてしまったリーシアの容態を確認する。
「外傷はあるけども、中身に問題は無いわね。胸を張って無事って言えるわよ」
クロム「そうか」
「ええ。傷なら私の治癒術で一瞬だし」
クロム「じゃあ、運び出すか」
やってること完全に山賊よねって思いつつも、私達は現場を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その後、リーシア嬢は無事にフェルドリーグ家のあのお城みたいな家に帰ることができ、今回の出来事は大事にならずに済んだ。
本当、あの日あいつが現れなければ大変なことになっていたな。敵の術にかかって大惨事1歩手前にされるとは、我ながらなんとも情けない話だが無事に解決したのならそれでいいだろう。
アラン「クロム様、フェルドリーグ家から便りが届いております」
「1週間前のか」
アラン「いえ、つい先程届いたものです」
「そうか」
普段なら後で読もうとその辺に置いておくところだが、この一件以来、とりあえず届いたらすぐに目を通しておこうと肝に銘じている。でないと、また同じようなことをするかもしれんからな。帝国のチンピラがその辺で悪さする程度ならまだ平和だが、戦争となれば話は別だ。絶対にそんなことは起こさないし起こさせない。だからこそ、俺達自警団が帝国とのいざこざを迅速に解決する。まあ、今回は訳ありだが全然迅速ではなかったな。
「アラン、明日またフェルドリーグの城、いや、屋敷に行くぞ」
アラン「はい」
手紙の封をそっと閉じ、日課である見回りに向かうため剣を携える。
「そういえば、あいつの名前を聞くの忘れてたな」
アラン「先日のお客人ですか?」
「ああ。何だかんだでいつの間にか消えていたからな。まあ、あれ以上引き留めるのは無理だと思ってたから別に惜しいとは思わないが」
アラン「……不思議なお方でしたね」
「ああ。あんな頭がキレて魔法も軒並み以上の実力を持つ奴、是非ともウチで雇いたいところだ」
もしかしたら、またあの花畑あたりで行き倒れてるかもしれんな。……いや、流石にないか。見た目の幼さ以上に中身はしっかりとしてる子だ。流石にそんなことは2度起きまい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
クロム「……」
「ご馳走様」
そう言って私は立ち上がりかけ、すぐにまた椅子に座り直した。
「……」
クロム「……」
「ねぇ、クロムさん。取り入ってご相談があるんだけどいいかしら」
クロム「……カレー代を払ってくれるのならな」
「まあ、払ってあげるのだけれど、私一応無一文なのよ」
クロム「ほう?」
「で、そのなんだけどね……」
クロム「……」
「やっぱり、ここでしばらくの間雇ってくれないかしら?」
クロム「……」
私は自らのプライドを二つ折りにし、この憎たらしい王子様に向けて頭を下げた。
くそぅ……何よ兄ちゃん……。しばらくそっちの世界で過ごせって。なんで私が1人で元の世界の本部まで帰れないの知っておきながら置いて行くのよ……。いや、勝手に迷子になってた私が悪いんだけど。お陰様でまたここに戻ってこなきゃいけなくなったじゃない。
クロム「まあ、そのなんだ。お前も苦労してそうだな」
「本当よ。こんな予定じゃなかったのに……」
クロム「まあいい。しっかり働いてくれるんだったら好きにしていいぞ」
ーーこうして、私は突如として元の世界(正しくは解放軍本部)に帰れなくなり、渋々この男達の下でお世話になることになった。
クロム「ところでお前、名前なんて言うんだ?」
「……?あら、言ってなかったかしら」
クロム「最初に聞いてから何も答えが返ってきてないぞ」
「そうだったかしら?まあいいわ。私の名前はヒカリ。ヒカリ・スターフィリアよ」
クロム「スターフィリア……。聞かん名前だな」
そりゃ異世界人だからねぇ……。
クロム「まあいいか。よろしく頼む、ヒカリ」
「ええ。しばらくお世話になるわ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
クロム「お前、実は俺達との生活楽しかったんじゃないか?」
「ええ、そう錯覚してた時期は最初だけよ!」
本当、この鈍感男は何に対しても鈍いわね。
「あのね、確かに最初は良かったわ。でもあなた達、私の実力が分かってから色々とこき使ってきたじゃない!なんで国の行政にまで手を出さなきゃいけないのかしら!」
ネイ(まあまあ、落ち着いてくださいヒカリちゃん)
「これが落ち着いてられるかっての!あー!もー!思い出しただけでムカついてきたー!」
クロム「その割には結構長いこと俺達のところにいたよな」
「兄ちゃんが来るまで行く当て無かったんだから仕方ないじゃない……!」
クロム「……」
「……ああ、気にしなくていいわよ。兄ちゃんどうせ龍になってその辺にいるし」
ジーク(呼んだか?)
こいつらも未来の記憶持ちってのを知った時には驚いたわ。いや、なんとなくそんな気はしてたけど。
クロム「……それで、姉さんを助け出す策はーー」
「だからあんたが不安そうな顔すんなって言ってんの。そりゃ、兵もいなきゃ時間も無いけれど、ここにいるのは今世紀最大の天才。いくらでもどうにかしてあげるわ」
クロム「……お前ほどの自信の高さを見習ってみたいもんだな」
「あんた程じゃないわよ」
ネイ(いえ、自信の高さならヒカリちゃんの方が上だと思います)
……そうかしら?
なんだろう。これがたかが1貴族のお家ねぇ……。いや、その、城?なんで城?
クロム「久しぶりに来たが、相変わらず見た目だけは立派だな」
「これ、たかが1貴族の家なの……」
クロム「いや、ここがおかしいだけだ。俺も仕事柄色んなとこに足を運ぶが、ここまで豪勢なものは見たことないな。あるとすれば、もう隣国グランアークの王城くらいしか思い浮かばんな」
王城ねぇ……。そういや、クロムさん達のあのお城も一応王城なんだっけ。まあ、ちゃんと城らしく大きいものだったけど、にしてもこのフェルドリーグ家は半端じゃないわね。
クロム「さて、何の連絡も無しにやって来てしまったが、まあいるだろう」
そう言うと、クロムさんは玄関口の兵士に軽く挨拶をしてスタスタと入っていった。
あんな態度からは全くもって見えないけど、流石は王子様ってとこかしら。
「失礼、客人」
ーーと、続いて中に入ろうとしたところ、なぜか私の方は止められてしまった。
クロム「ああ、すまん。連れだ」
「いえ、それは分かっております。ですが、クロム様以外のお方にはしっかりと目を光らせておけとエルダ様から申し付けられておりますので」
「お嬢様が拐われてんでしょ。なら仕方ないわよ」
コートを脱いで何も無いことを証明した後、数分くらいあーだこーだとやり取りしてからお屋敷の中へと足を踏み入れた。ちなみに銃は異空間に隠しておいた。流石にあれが見つかったら面倒なことになるから。
クロム「すまんな。突然押しかけて」
「いえいえ、お嬢様のためです。必要とあらば」
執事のような人の案内を受け、私達は執務室へと通された。
「旦那様はただ今外出されておりますが、クロム様がやって来た時には好きにさせろと申されております」
クロム「いないのか」
「はい」
クロム「じゃあ、好きにさせてもらうか」
執事の人は扉前でスっと立ち、私達は執務室の中に入った。そして、早速部屋が酷く荒れてることに驚いた。
「……相当きてるみたいね」
クロム「1週間程だったか。まあ、気持ちは分からんでもないな」
とりあえずそれっぽいものを探すために散らかったものの片付けから始めてみた。
はぁ、向こうの世界じゃそこそこ高い紙がこうも乱雑に置かれてるなんて、流石ねぇ。紙なんて本に使ってるものくらいしか見たことないわよ。逆に本にしか使わないってのもおかしな話だけども。
「……」
クロム「見つからんな」
「こんだけ散らかってちゃ見つかるものも見つからないわよ。ってか、クロムさんも手伝ってよ!」
クロム「俺が探しても適当に捨ててるかもしれんぞ」
「なんで他人のものまで捨てるのよ!」
クロム「いや、冗談だ。だが、俺もアランも何かしらの術にかかってるんだろう?なら、ここで俺が探して見つけたところで、適当にどこかに捨ててるかもしれんぞ」
「……」
なんでこういうところで頭の回転が良いのかしら。いや、その通りなんだけども。
結局便利屋みたいな働きしてるわ……私。
乱雑に散った紙をまとめ、中身が関連してるものは順番に留めてその辺の棚に置き、で、本とか小物とか何とかを色々と片付けて……
「家政婦かよ!」
クロム「どうした?」
「いや、なんでもないわ……」
これ、そこにいる執事さんがやる仕事じゃないの?いや、そもそもこれくらいの家ならメイドさんくらい何人かいるでしょ!なんで私が赤の他人の家の片付けしてんのよ!
「あ、見つけた」
そんなことしてたら、ふと目に止まった1枚の紙に、脅迫文書みたいなものが書かれていることに気付いた。
クロム「拝啓フェルドリーグ殿。お宅の大事な大事なお嬢様は俺様達が頂いた。返してほしけりゃ下に書く約束の時間に桜雷の旧採石場跡地に来な」
「丁寧なのか貶してるのかよく分からない文章なのよねぇ……」
クロム「で、約束の時間というのは?」
「30日の午後7時」
クロム「今日だな」
「へぇー、今日なん……だ?」
……ここで、私の脳内で色々と疑問だったことが一気に結びついた。
ただ今空は夕暮れ模様で、フェルドリーグの家主は今この場にいなくて、で、1週間経って急にアランがこの誘拐事件の話を持ってきた。
「当日ならもう魔法が切れても問題無い。むしろそこに割いてた人員も集めてるってとこかしら。何にせよ、急いでこの桜雷の旧採石場跡地ってとこに行くわよ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーーそして現場。
クロム「……静か……だな」
「今何時よ」
クロム「多分6時前だな」
「少し早く来すぎたわね」
慌てて現場に駆け付けたはいいけど、現場はまだ閑散としていて、私達を除けば誰1人としていない。
あと1時間もすれば敵側の将と、もしかすればエルダとかいうフェルドリーグの頭が来るのかしら。まあどっちにせよ、接触させるのは危険ね。
「なんで私ここまで深く介入してんだろ……」
クロム「何か言ったか」
「カレー代にしちゃ高く付いたわねって話」
クロム「そうか。これからは給料出てやるからしっかりやってくれ」
「なんで入る流れになってんのよ」
クロム「ん?違うのか?」
「違うわよ。今回限りって言ったでしょうが……!」
クロム「俺としては未来永劫俺の自警団で働いてほしいがな」
「丁重にお断りするわ」
くだらないやり取りをしていたら、ガサガサと土を踏む足音が聞こえてきた。
クロム「来たか……」
赤色の隊服に身を包んだ者達が数名、そして先頭を歩く厳つい格好をした無精髭の男が1人。多分、あいつがリーダーか。
クロム「ラスト……。まさか、帝国の将が直々にか……」
「帝国?」
クロム「ラグナロク帝国。隣国で俺達イーリアスとは長い間険悪な仲だ。戦争こそ起きてはないが、国境付近じゃいつもいつも俺達を挑発して来る奴らだな」
「先に手を出してもらった方が戦争の体裁をとるには便利ってことね……」
クロム「その通りだな。死ねばいいのに」
今サラッと爽やか王子様の雰囲気をぶち壊すような発言したな……。
ラスト「らーらー!ちょいと早く来すぎたかなー!」
ラストが担いでいた大きな皮袋を乱雑に投げ転がし、その皮袋をビリビリと破く。すると、中から縄でぐるぐる巻きにされた白髪の女の子が現れる。
「ねぇ、もしかしてあの子が?」
クロム「ああ。多分フェルドリーグの令嬢、リーシア嬢だな。にしても、こんなところに将が派遣されるとは、余程向こうも本気と見えるな」
「そんなに強いの?あの将軍」
クロム「本人の実力もさることながら、あいつが持っている神器・雷剣サリアが強力だ。まだ実際に手合わせをしたことがないからどこまで本当なのかは分からんが、ある話ではどこかの国の軍隊を一瞬にして壊滅させたらしい」
「言い方的に大部隊を潰した感じかしら」
クロム「多分な。とにかく言えることは、あまり奴に戦わせたくないということだ」
「ふーん」
まあ、今なら向こうもこっちに気付いてないっぽいしーー事前に私達に認識阻害の魔法をかけておいたーー私が得意な隠密作戦でやれば簡単に終わりそうね。
クロム「で、どうする?」
「どうするも何も、あの女の子を助けて帰り道にいるエルダも一緒に連れて帰れば一瞬で解決でしょう?」
クロム「出来るのか?」
「不意打ちは得意技よ。事実、あんた達3人をあの場で抑えたじゃない」
クロム「……分かった。任せる」
壁から離れ、認識阻害を続けたままラストの背後に回る。チンピラみたいな顔と態度をしてるくせにこれでも帝国の将。本当、帝国ってイメージ通り実力主義なのかしらね。
まあそんなことはどうでもいい。今回の場合は今まで以上にすごく簡単なミッションだ。要はここにいる全員に気づかれることなくあの白髪の女の子を助け出せばいいわけだし。で、かるーく全員の素質チェックをかけてみたけど、まあ誰1人として魔法を使えるような人間はいないわね。このラストも武器が強力なだけで本人に魔法への耐性は一切無い。なんだ、本当に楽勝じゃん。
「眠れ」
指で弾くようにラストの後頭部を叩き、睡眠作用のある魔法をかける。すると、ドミノ崩しのように連鎖的に反応が起こり、この場にいる帝国兵全員が倒れた。
「本当に油断しきってるわね、こいつら」
クロム「こんなことをされたんじゃ、帝国の面子丸潰れだろうな」
乱雑に帝国兵達を1箇所に固め、私は同時に眠らせてしまったリーシアの容態を確認する。
「外傷はあるけども、中身に問題は無いわね。胸を張って無事って言えるわよ」
クロム「そうか」
「ええ。傷なら私の治癒術で一瞬だし」
クロム「じゃあ、運び出すか」
やってること完全に山賊よねって思いつつも、私達は現場を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その後、リーシア嬢は無事にフェルドリーグ家のあのお城みたいな家に帰ることができ、今回の出来事は大事にならずに済んだ。
本当、あの日あいつが現れなければ大変なことになっていたな。敵の術にかかって大惨事1歩手前にされるとは、我ながらなんとも情けない話だが無事に解決したのならそれでいいだろう。
アラン「クロム様、フェルドリーグ家から便りが届いております」
「1週間前のか」
アラン「いえ、つい先程届いたものです」
「そうか」
普段なら後で読もうとその辺に置いておくところだが、この一件以来、とりあえず届いたらすぐに目を通しておこうと肝に銘じている。でないと、また同じようなことをするかもしれんからな。帝国のチンピラがその辺で悪さする程度ならまだ平和だが、戦争となれば話は別だ。絶対にそんなことは起こさないし起こさせない。だからこそ、俺達自警団が帝国とのいざこざを迅速に解決する。まあ、今回は訳ありだが全然迅速ではなかったな。
「アラン、明日またフェルドリーグの城、いや、屋敷に行くぞ」
アラン「はい」
手紙の封をそっと閉じ、日課である見回りに向かうため剣を携える。
「そういえば、あいつの名前を聞くの忘れてたな」
アラン「先日のお客人ですか?」
「ああ。何だかんだでいつの間にか消えていたからな。まあ、あれ以上引き留めるのは無理だと思ってたから別に惜しいとは思わないが」
アラン「……不思議なお方でしたね」
「ああ。あんな頭がキレて魔法も軒並み以上の実力を持つ奴、是非ともウチで雇いたいところだ」
もしかしたら、またあの花畑あたりで行き倒れてるかもしれんな。……いや、流石にないか。見た目の幼さ以上に中身はしっかりとしてる子だ。流石にそんなことは2度起きまい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
クロム「……」
「ご馳走様」
そう言って私は立ち上がりかけ、すぐにまた椅子に座り直した。
「……」
クロム「……」
「ねぇ、クロムさん。取り入ってご相談があるんだけどいいかしら」
クロム「……カレー代を払ってくれるのならな」
「まあ、払ってあげるのだけれど、私一応無一文なのよ」
クロム「ほう?」
「で、そのなんだけどね……」
クロム「……」
「やっぱり、ここでしばらくの間雇ってくれないかしら?」
クロム「……」
私は自らのプライドを二つ折りにし、この憎たらしい王子様に向けて頭を下げた。
くそぅ……何よ兄ちゃん……。しばらくそっちの世界で過ごせって。なんで私が1人で元の世界の本部まで帰れないの知っておきながら置いて行くのよ……。いや、勝手に迷子になってた私が悪いんだけど。お陰様でまたここに戻ってこなきゃいけなくなったじゃない。
クロム「まあ、そのなんだ。お前も苦労してそうだな」
「本当よ。こんな予定じゃなかったのに……」
クロム「まあいい。しっかり働いてくれるんだったら好きにしていいぞ」
ーーこうして、私は突如として元の世界(正しくは解放軍本部)に帰れなくなり、渋々この男達の下でお世話になることになった。
クロム「ところでお前、名前なんて言うんだ?」
「……?あら、言ってなかったかしら」
クロム「最初に聞いてから何も答えが返ってきてないぞ」
「そうだったかしら?まあいいわ。私の名前はヒカリ。ヒカリ・スターフィリアよ」
クロム「スターフィリア……。聞かん名前だな」
そりゃ異世界人だからねぇ……。
クロム「まあいいか。よろしく頼む、ヒカリ」
「ええ。しばらくお世話になるわ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
クロム「お前、実は俺達との生活楽しかったんじゃないか?」
「ええ、そう錯覚してた時期は最初だけよ!」
本当、この鈍感男は何に対しても鈍いわね。
「あのね、確かに最初は良かったわ。でもあなた達、私の実力が分かってから色々とこき使ってきたじゃない!なんで国の行政にまで手を出さなきゃいけないのかしら!」
ネイ(まあまあ、落ち着いてくださいヒカリちゃん)
「これが落ち着いてられるかっての!あー!もー!思い出しただけでムカついてきたー!」
クロム「その割には結構長いこと俺達のところにいたよな」
「兄ちゃんが来るまで行く当て無かったんだから仕方ないじゃない……!」
クロム「……」
「……ああ、気にしなくていいわよ。兄ちゃんどうせ龍になってその辺にいるし」
ジーク(呼んだか?)
こいつらも未来の記憶持ちってのを知った時には驚いたわ。いや、なんとなくそんな気はしてたけど。
クロム「……それで、姉さんを助け出す策はーー」
「だからあんたが不安そうな顔すんなって言ってんの。そりゃ、兵もいなきゃ時間も無いけれど、ここにいるのは今世紀最大の天才。いくらでもどうにかしてあげるわ」
クロム「……お前ほどの自信の高さを見習ってみたいもんだな」
「あんた程じゃないわよ」
ネイ(いえ、自信の高さならヒカリちゃんの方が上だと思います)
……そうかしら?
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処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
緑緑緑
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王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
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