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Veritas2章 【運命の欠落点】
Veritas2章7 【腑抜けた主従】
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アラン「ーーと、いうわけでありまして……」
クロム「なるほど。報告ありがとうな」
アラン「当然のことです。それで……、そちらの女性は如何程に……」
クロム「ん?あぁ……」
当たり前のように映し出される主君と従者のやり取り、何の変哲もないただの報告会(報告内容は中々に穏やかじゃなかったけど)、そして私はーー
「いいからさっさとこの縄解きなさいよー!」
話は数分前に遡るが、あの甲冑姿のアランとかいうやつに両手を縄で縛り上げられ、ついでに部屋の太い柱へと巻き付けられて拘束されてしまっている。どう見ても罪人ね、これ。
アラン「あの、クロム様。やはりこの御方にはそれ相応の罰を与えるべきなのでは?」
クロム「よせ、アラン。そんなことしたら末代まで呪われそうだ」
「その場合あんたらが末代よ!」
体をなるべく前の方へと押し出して私は強めにそう言う。しかし、この男達は颯爽とした雰囲気で話を自分達で続ける。
アラン「では、牢の方に?」
クロム「それもやめとけ。穴を掘られて脱出されるのがオチだ」
アラン「では拷問ですか?」
クロム「何か聞き出したいことでもあるのか」
アラン「いえ、そういうわけではありません」
クロム「だそうだ。良かったな、1国の王子に物騒なものを近付けといたのに無罪らしいぞ」
「例え有罪になってようがあんたらを殺せば無罪放免よ!いいからこの縄解きなさい!」
クロム「ふむ。じゃあ、取り引きでもするか」
「取り引き?」
ははーん。さては、縄を解く代わりに仲間になれって言うんでしょ。そんな分かりきった挑発に乗るかっての。
クロム「とりあえずそうだな。まずは目先の問題の解決が先だ。お前の頭を貸してくれ」
「……はい?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
クロム「つまりだ、恐らくラグナロクの軍か山賊か農民かに捕まった貴族の令嬢を助け出したいというわけでな」
「うん。そこは聞いたのよ」
クロム「なら何が分からないというんだ?」
「……いや、そのね、あんた達。もうこの際だから呼び捨てで言うけど、クロム……さん」
奥の方にいるアランが物凄い形相で睨んできたので、慌ててさん付けに変更する。
「あのね、私一般人。何処の馬の骨かも分からない行き倒れなの」
クロム「ああ知っている。それが今回のことに何か関係があるのか?」
「……」
この男、何も分かってないわね。何だか従者のアランが大変そう……って考えたけどこっちもこっちで脳筋みたいにカッチカチな頭した奴だった……。
「……いや、考えないの?私がそのラグナロク帝国の手先だって可能性は」
クロム「本当に手先ならここでその可能性は言わんだろう」
「……」
バカだ。こいつ本当にバカだ。いくらなんでも警戒心が無さすぎる。
何なの?この王子様。雰囲気爽やかで程よい肉付きのイケメンなのに、何このちょっと残念な感じを醸し出す残念イケメン!いや、私の目にはそこまでカッコよく見えないわけなんだけど、本当にただ1つ言いたいことがあってーー
「クロムさん。よく仲間から抜けてるとか言われない?」
クロム「メイにはよく言われるな」
「……」
チラとアランの方を見る。すると、キリッと真面目な表情ながらも「私が誠心誠意お仕えしているお陰です(ドヤっ!」みたいな心の声がダダ漏れで聞こえてきた。この自警団、トップ2人がこんなんで大丈夫なのかしら……。
「……まあ、なんでもいいや」
とりあえず、なんかそのよく分からない貴族の令嬢とやらを助け出せれば晴れて私も解放みたいな雰囲気だし、パパっと終わらせちゃいましょうか。
……ただ、地図があまりにもあやふやな感じに仕上がっていて、どこが何なのかがイマイチ分からない。地図の東側にイーリアスはあるっぽいけど、この西側にある大国何かしら?え、何の区切りもないけど、まさかこんだけの大きさで1つの国!?ってかなんで世界地図!?
「クロムさん。これ見て何か思い付くの……」
クロム「いや、ただの雰囲気だ」
「雰囲気……」
そりゃ参謀を欲しがるわけ……こんなしょうもない理由で私みたいな天才を欲してほしくないわ……。
「この役立たず!」
地図を思いっきり破り捨て、どことなく清々しい気持ちになった後に「あ、やっべ」って思ってしまった。
アラン「……えっと、客人。それはこの城にある唯一の地図というわけなのですが……」
ええ、私もそれは数分くらい前に聞いてたわよ。
こういう風に感情に任せて行動するのはやめなきゃなんだけど、ついつい感情的に動いちゃう癖がある。兄ちゃん早く助けに来ないかしら?
「……よし、現場に行くわよ!」
クロム「誤魔化したな」
「何のことかしら」
クロム「……まあいい。どうせ俺も役に立たないもんだと思ってたところだ。で、現場なんだが、どこなのか分からん」
「……」
私の勘違いかしらね。てっきりみんな現場分かってる前提で話をしてるもんだと思ってた。
「アラン。貴族の令嬢が拐われたのはいつ頃の話なのかしら」
アラン「1週間程前です」
「拐われた場所は?」
アラン「不明です。フェルドリーグ家からの緊急の連絡でしたので」
「ちなみにその連絡が来たのはいつかしら」
アラン「1週間程前です」
「もうお前ら自警団やめちまえ!」
なんだこのガバガバな集団!?なんでそんな大事みたいな情報入ってきてんのに1週間もぐーたらしてんだよ!その間何してたんだ!私を見つけた時だってただ散歩しに来たみたいな雰囲気だったでしょ!?
クロム「そういや、1週間くらい前に似たような話を聞いてたな」
さてはそんなに重要な案件じゃないのでは?じゃないとこの人達がこんなに呑気でいられる理由がそれ以外にないでしょ。
アラン「それで、如何なさいましょうか」
如何も何も貴族から緊急の連絡が来てるんだったらその時点で対応しなさいよ……。
クロム「場所は分からないままか……。俺達じゃどうすることも出来ないな」
この場合身代金とかあーだこーだ要求してくるから場所くらいすぐに分かるでしょ……。いや待て、もしやその辺の情報も入ってきてるのにすっぽかしてるんじゃ……
「ねぇ、クロムさん。ここに来る案件って、どこかにまとめて保管してたりしないかしら?」
クロム「ん?要は書類仕事というわけか……」
アラン「でしたら、書庫の方に全てまとめてあります」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
で、その書庫に来てみたのはいいんだけど……。
「ゲホッゲホッ!……えーっと、ここに色々と積もらせてるんだっけ?」
アラン「はい。日常的な自警団の活動報告書から、他国感とのやり取りをまとめたもの、後は経理やら何やらを色々とまとめたものが全てここにあります」
ある意味では便利なのかもしれないのだけれど、それただ片付けるの面倒なだけってかーー
「この部屋の惨状をなんて言うか知ってる?」
アラン「いえ」
「ゴミ箱って言うのよ。この部屋はもうそれなのよ」
とりあえずパタパタと書類の上に覆い被さった埃をはらいながらそれっぽいものを探してみる。1週間程度なら適当に投げ捨ててたとしても上の方、それも手前側にあるはず。なら、数分としないうちに見つかるでしょ。
ーーと思って探し続け、早2時間。
「全然見つかんない……」
アラン「おかしいですね……。確かにここに投げ捨……置いていたはずなのですが……」
おいこいつ、今投げ捨てたって言いかけたぞ。そりゃ、よく分からんところにハマって見つからなくなっててもおかしくないわ。
にしても、この私が紙切れ1枚見つけられないだなんて、そんなことあるのかしら?自慢するわけじゃないけども、昔からこういう書類の山を漁って目当てのものを探す作業だけは一丁前にこなしてきたから造作もないはずなんだけど……
「ねぇ、本当にここに置いといたの?」
アラン「間違いない……はずです」
……どうにも歯切れが悪そうねぇ。
重要に見える案件を1週間も放置しといて、多分催促みたいなのが来たからアランはクロムさんのところに報告しに行ったんでしょうけど、それでも2人ともあっけらかんとした態度をとる。そして書類を探しに来てみれば何も見つからない。
……向こうの世界だったら限りなく低いからって考えなかったんだけど、こっちの世界はマナが溢れる魔法世界。向こうに比べてなんの知識もない一般人ですら魔法が使える世界だって言うなら……
「もしかしたら、心理に作用する魔法……」
アラン「何ですか?」
「……もしかしたら、の話なんだけど、クロムさんもアランも何かしらの術をかけられてるんじゃないかと思うの」
アラン「術……ですか」
「そう。例えば、特定のものだけを指して物忘れを酷くさせるとか、そんなくだらないレベルのもの」
アラン「……仮にそのような術を使える者がいて、なぜこのような方法で私達を邪魔するというのですか?」
「そりゃ、答えなんて1つくらいしかないでしょ」
イーリアスの貴族令嬢を拐い、その情報をイーリアス直属の自警団に伝わることを妨害……いえ、伝えさせるには伝えさせてるのだけれど、そこから先を無かったことにしている。そんな地味なことをする奴らの目的なんて容易に察せる。
「イーリアスで内乱を起こす気じゃないかしら」
アラン「内乱……」
穏やかではない響きに、アランが身を固める。
「そのフェルドリーグ家がどれだけの規模を持ってるのか分かんないけど、国に助けを求めてくるなんてそれなりにデカいとこなはずでしょう?」
アラン「ええ。フェルドリーグ家はイーリアス全土を見ても、横に並ぶものは無いと言われる程の高貴なお家です」
トップクラスなのは少し予想外……いやでも、より現実味が増してきたと見るべきか。
「もしもよ。このままクロムさん達がフェルドリーグ嬢を助けずに見て見ぬふりをして、そのまま殺されちゃったらどうなるかしら」
アラン「……クロム様も交えてお話を続けましょう」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
クロム「なるほどな。……これは少々、いや、とんでもなく厄介なことになったな」
アラン「ええ。お客人が気付かなければ危ういところでした」
「本当ね」
まあ、気付いただけでそこから先のことは一切分からないままなんだけど。
クロム「……やはり、ラグナロクか?」
アラン「それが1番高いかと。帝国には強力な術を使う者達がいると聞きます。お客人が唱えた説も、かの者達なら有り得なくはない話です」
地味な魔法、なんて思ってたけど、冷静に考えてみれば心理に作用する魔法なんて私クラスにでもならない限りは使えない高度なもの。まあ流石にほぼ全部の魔法が使えるなんて化け物はいないと願いたいから、精々その辺に長けた呪術師みたいな魔導士ってとこかしらね。もしかしたらそのまま呪術師かもしれないけど。
クロム「それで。犯人の目星はついているのか」
「……」
クロム「……おーい」
「……あれ、もしかして私に聞いてる?」
クロム「この状況ならお前以外に誰がいる」
「てっきりそこの従順な従者の方かと」
アラン「クロム様はお客人の方を見て問いかけをされておりました」
「ああそう」
随分とよく出来た主従関係とでも思っておくわ。
……いや、犯人の目星って言われてそのことをずっと考えてはいるけど、全然分からない。分からないってか、私こっちの世界のことなんて知らないんだし、分かるわけないってんだけど……
「……」
異世界人だからとか下手な言い訳も出来ないし、まあ、ここは知らないって言っときゃいいか。
「……分からないわ。私、あんたらの国同士のゴタゴタに巻き込まれるような人間じゃないから」
クロム「だろうな。俺も犯人が分かれば苦労しないと思ってる。でだ、せめてフェルドリーグ嬢が囚われている場所の目星くらいはつかないか?」
「あのね。敵が誰なのかも分からない。そのフェルドリーグ嬢の顔も名前も、果てはその家のことも分からない。私、何時間か前にも言ったけどただの一般人なわけ。判断材料が無いっていうのにどうすれば分かるって言うのかしら」
……さーて、これでもうこいつらとの関わりも終わりかな。ちょっと協力しちゃったけど、まあカレー代とでも思えば安いもんよ。
クロム「……つまり、判断材料があればいいということだな」
「…………はい?」
クロム「なるほど。報告ありがとうな」
アラン「当然のことです。それで……、そちらの女性は如何程に……」
クロム「ん?あぁ……」
当たり前のように映し出される主君と従者のやり取り、何の変哲もないただの報告会(報告内容は中々に穏やかじゃなかったけど)、そして私はーー
「いいからさっさとこの縄解きなさいよー!」
話は数分前に遡るが、あの甲冑姿のアランとかいうやつに両手を縄で縛り上げられ、ついでに部屋の太い柱へと巻き付けられて拘束されてしまっている。どう見ても罪人ね、これ。
アラン「あの、クロム様。やはりこの御方にはそれ相応の罰を与えるべきなのでは?」
クロム「よせ、アラン。そんなことしたら末代まで呪われそうだ」
「その場合あんたらが末代よ!」
体をなるべく前の方へと押し出して私は強めにそう言う。しかし、この男達は颯爽とした雰囲気で話を自分達で続ける。
アラン「では、牢の方に?」
クロム「それもやめとけ。穴を掘られて脱出されるのがオチだ」
アラン「では拷問ですか?」
クロム「何か聞き出したいことでもあるのか」
アラン「いえ、そういうわけではありません」
クロム「だそうだ。良かったな、1国の王子に物騒なものを近付けといたのに無罪らしいぞ」
「例え有罪になってようがあんたらを殺せば無罪放免よ!いいからこの縄解きなさい!」
クロム「ふむ。じゃあ、取り引きでもするか」
「取り引き?」
ははーん。さては、縄を解く代わりに仲間になれって言うんでしょ。そんな分かりきった挑発に乗るかっての。
クロム「とりあえずそうだな。まずは目先の問題の解決が先だ。お前の頭を貸してくれ」
「……はい?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
クロム「つまりだ、恐らくラグナロクの軍か山賊か農民かに捕まった貴族の令嬢を助け出したいというわけでな」
「うん。そこは聞いたのよ」
クロム「なら何が分からないというんだ?」
「……いや、そのね、あんた達。もうこの際だから呼び捨てで言うけど、クロム……さん」
奥の方にいるアランが物凄い形相で睨んできたので、慌ててさん付けに変更する。
「あのね、私一般人。何処の馬の骨かも分からない行き倒れなの」
クロム「ああ知っている。それが今回のことに何か関係があるのか?」
「……」
この男、何も分かってないわね。何だか従者のアランが大変そう……って考えたけどこっちもこっちで脳筋みたいにカッチカチな頭した奴だった……。
「……いや、考えないの?私がそのラグナロク帝国の手先だって可能性は」
クロム「本当に手先ならここでその可能性は言わんだろう」
「……」
バカだ。こいつ本当にバカだ。いくらなんでも警戒心が無さすぎる。
何なの?この王子様。雰囲気爽やかで程よい肉付きのイケメンなのに、何このちょっと残念な感じを醸し出す残念イケメン!いや、私の目にはそこまでカッコよく見えないわけなんだけど、本当にただ1つ言いたいことがあってーー
「クロムさん。よく仲間から抜けてるとか言われない?」
クロム「メイにはよく言われるな」
「……」
チラとアランの方を見る。すると、キリッと真面目な表情ながらも「私が誠心誠意お仕えしているお陰です(ドヤっ!」みたいな心の声がダダ漏れで聞こえてきた。この自警団、トップ2人がこんなんで大丈夫なのかしら……。
「……まあ、なんでもいいや」
とりあえず、なんかそのよく分からない貴族の令嬢とやらを助け出せれば晴れて私も解放みたいな雰囲気だし、パパっと終わらせちゃいましょうか。
……ただ、地図があまりにもあやふやな感じに仕上がっていて、どこが何なのかがイマイチ分からない。地図の東側にイーリアスはあるっぽいけど、この西側にある大国何かしら?え、何の区切りもないけど、まさかこんだけの大きさで1つの国!?ってかなんで世界地図!?
「クロムさん。これ見て何か思い付くの……」
クロム「いや、ただの雰囲気だ」
「雰囲気……」
そりゃ参謀を欲しがるわけ……こんなしょうもない理由で私みたいな天才を欲してほしくないわ……。
「この役立たず!」
地図を思いっきり破り捨て、どことなく清々しい気持ちになった後に「あ、やっべ」って思ってしまった。
アラン「……えっと、客人。それはこの城にある唯一の地図というわけなのですが……」
ええ、私もそれは数分くらい前に聞いてたわよ。
こういう風に感情に任せて行動するのはやめなきゃなんだけど、ついつい感情的に動いちゃう癖がある。兄ちゃん早く助けに来ないかしら?
「……よし、現場に行くわよ!」
クロム「誤魔化したな」
「何のことかしら」
クロム「……まあいい。どうせ俺も役に立たないもんだと思ってたところだ。で、現場なんだが、どこなのか分からん」
「……」
私の勘違いかしらね。てっきりみんな現場分かってる前提で話をしてるもんだと思ってた。
「アラン。貴族の令嬢が拐われたのはいつ頃の話なのかしら」
アラン「1週間程前です」
「拐われた場所は?」
アラン「不明です。フェルドリーグ家からの緊急の連絡でしたので」
「ちなみにその連絡が来たのはいつかしら」
アラン「1週間程前です」
「もうお前ら自警団やめちまえ!」
なんだこのガバガバな集団!?なんでそんな大事みたいな情報入ってきてんのに1週間もぐーたらしてんだよ!その間何してたんだ!私を見つけた時だってただ散歩しに来たみたいな雰囲気だったでしょ!?
クロム「そういや、1週間くらい前に似たような話を聞いてたな」
さてはそんなに重要な案件じゃないのでは?じゃないとこの人達がこんなに呑気でいられる理由がそれ以外にないでしょ。
アラン「それで、如何なさいましょうか」
如何も何も貴族から緊急の連絡が来てるんだったらその時点で対応しなさいよ……。
クロム「場所は分からないままか……。俺達じゃどうすることも出来ないな」
この場合身代金とかあーだこーだ要求してくるから場所くらいすぐに分かるでしょ……。いや待て、もしやその辺の情報も入ってきてるのにすっぽかしてるんじゃ……
「ねぇ、クロムさん。ここに来る案件って、どこかにまとめて保管してたりしないかしら?」
クロム「ん?要は書類仕事というわけか……」
アラン「でしたら、書庫の方に全てまとめてあります」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
で、その書庫に来てみたのはいいんだけど……。
「ゲホッゲホッ!……えーっと、ここに色々と積もらせてるんだっけ?」
アラン「はい。日常的な自警団の活動報告書から、他国感とのやり取りをまとめたもの、後は経理やら何やらを色々とまとめたものが全てここにあります」
ある意味では便利なのかもしれないのだけれど、それただ片付けるの面倒なだけってかーー
「この部屋の惨状をなんて言うか知ってる?」
アラン「いえ」
「ゴミ箱って言うのよ。この部屋はもうそれなのよ」
とりあえずパタパタと書類の上に覆い被さった埃をはらいながらそれっぽいものを探してみる。1週間程度なら適当に投げ捨ててたとしても上の方、それも手前側にあるはず。なら、数分としないうちに見つかるでしょ。
ーーと思って探し続け、早2時間。
「全然見つかんない……」
アラン「おかしいですね……。確かにここに投げ捨……置いていたはずなのですが……」
おいこいつ、今投げ捨てたって言いかけたぞ。そりゃ、よく分からんところにハマって見つからなくなっててもおかしくないわ。
にしても、この私が紙切れ1枚見つけられないだなんて、そんなことあるのかしら?自慢するわけじゃないけども、昔からこういう書類の山を漁って目当てのものを探す作業だけは一丁前にこなしてきたから造作もないはずなんだけど……
「ねぇ、本当にここに置いといたの?」
アラン「間違いない……はずです」
……どうにも歯切れが悪そうねぇ。
重要に見える案件を1週間も放置しといて、多分催促みたいなのが来たからアランはクロムさんのところに報告しに行ったんでしょうけど、それでも2人ともあっけらかんとした態度をとる。そして書類を探しに来てみれば何も見つからない。
……向こうの世界だったら限りなく低いからって考えなかったんだけど、こっちの世界はマナが溢れる魔法世界。向こうに比べてなんの知識もない一般人ですら魔法が使える世界だって言うなら……
「もしかしたら、心理に作用する魔法……」
アラン「何ですか?」
「……もしかしたら、の話なんだけど、クロムさんもアランも何かしらの術をかけられてるんじゃないかと思うの」
アラン「術……ですか」
「そう。例えば、特定のものだけを指して物忘れを酷くさせるとか、そんなくだらないレベルのもの」
アラン「……仮にそのような術を使える者がいて、なぜこのような方法で私達を邪魔するというのですか?」
「そりゃ、答えなんて1つくらいしかないでしょ」
イーリアスの貴族令嬢を拐い、その情報をイーリアス直属の自警団に伝わることを妨害……いえ、伝えさせるには伝えさせてるのだけれど、そこから先を無かったことにしている。そんな地味なことをする奴らの目的なんて容易に察せる。
「イーリアスで内乱を起こす気じゃないかしら」
アラン「内乱……」
穏やかではない響きに、アランが身を固める。
「そのフェルドリーグ家がどれだけの規模を持ってるのか分かんないけど、国に助けを求めてくるなんてそれなりにデカいとこなはずでしょう?」
アラン「ええ。フェルドリーグ家はイーリアス全土を見ても、横に並ぶものは無いと言われる程の高貴なお家です」
トップクラスなのは少し予想外……いやでも、より現実味が増してきたと見るべきか。
「もしもよ。このままクロムさん達がフェルドリーグ嬢を助けずに見て見ぬふりをして、そのまま殺されちゃったらどうなるかしら」
アラン「……クロム様も交えてお話を続けましょう」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
クロム「なるほどな。……これは少々、いや、とんでもなく厄介なことになったな」
アラン「ええ。お客人が気付かなければ危ういところでした」
「本当ね」
まあ、気付いただけでそこから先のことは一切分からないままなんだけど。
クロム「……やはり、ラグナロクか?」
アラン「それが1番高いかと。帝国には強力な術を使う者達がいると聞きます。お客人が唱えた説も、かの者達なら有り得なくはない話です」
地味な魔法、なんて思ってたけど、冷静に考えてみれば心理に作用する魔法なんて私クラスにでもならない限りは使えない高度なもの。まあ流石にほぼ全部の魔法が使えるなんて化け物はいないと願いたいから、精々その辺に長けた呪術師みたいな魔導士ってとこかしらね。もしかしたらそのまま呪術師かもしれないけど。
クロム「それで。犯人の目星はついているのか」
「……」
クロム「……おーい」
「……あれ、もしかして私に聞いてる?」
クロム「この状況ならお前以外に誰がいる」
「てっきりそこの従順な従者の方かと」
アラン「クロム様はお客人の方を見て問いかけをされておりました」
「ああそう」
随分とよく出来た主従関係とでも思っておくわ。
……いや、犯人の目星って言われてそのことをずっと考えてはいるけど、全然分からない。分からないってか、私こっちの世界のことなんて知らないんだし、分かるわけないってんだけど……
「……」
異世界人だからとか下手な言い訳も出来ないし、まあ、ここは知らないって言っときゃいいか。
「……分からないわ。私、あんたらの国同士のゴタゴタに巻き込まれるような人間じゃないから」
クロム「だろうな。俺も犯人が分かれば苦労しないと思ってる。でだ、せめてフェルドリーグ嬢が囚われている場所の目星くらいはつかないか?」
「あのね。敵が誰なのかも分からない。そのフェルドリーグ嬢の顔も名前も、果てはその家のことも分からない。私、何時間か前にも言ったけどただの一般人なわけ。判断材料が無いっていうのにどうすれば分かるって言うのかしら」
……さーて、これでもうこいつらとの関わりも終わりかな。ちょっと協力しちゃったけど、まあカレー代とでも思えば安いもんよ。
クロム「……つまり、判断材料があればいいということだな」
「…………はい?」
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