グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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Veritas2章 【運命の欠落点】

Veritas2章13 【睨み合い】

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 ーー翌日。

クロム「連れて来たぞ」

「あら、意外に早かったわね」

 翌朝早朝から、クロムさん達御一行がグランメモリーズギルドへと足を運んできた。それも、自警団のみんなが若干ピリピリとした空気で、オマケにクロムさんの格好が礼装になっている。そしてーー

「持ってきたようね」

クロム「ああ。気が狂うかもしれんくらいの距離を歩いたがな。だが、言われた通りのものは持ってきた。……これで、姉さんは生き返るんだろうな」

「さぁ?」

ダギル「さぁっててめーー」

クロム「よせ」

 掴みかかろうとしたダギルをクロムさんが手で制す。

クロム「出来るかどうかはお前にも分からない。そういう話だったのは覚えているさ」

「……」

 クロムさんはそのままギルドの席に腰をかけ、隣の席に女の子の体、そして更に奥の方にセレナさんの遺体を置いた。

フウロ「白陽の着物か。珍しいな」

クロム「なんでも大昔の邪龍は現白陽に位置する国の人間だったらしい。まあ、出自はどうでもいいが」

グリード「んで、そんなァ邪龍を連れて来て何しようってんだァ?また復活の儀式かァ?」

クロム「知らん。俺は持って来いと言われただけだ」

ヴァル「……」

アルテミス「なんか、怖いね、セリカ」

セリカ「う、うん……」

 みんなが各々にあーだこーだと喋る中、私も同様にあの少女に対して色々と思っていた。

 見た目……は普通の女の子。どこからどう見ても10歳程度にしか見えないただの女の子。それ以上でもそれ以下でもなく、魔力の強さもあまり感じないし、何か凄まじいオーラを感じるわけでもない。まあ、完全に邪龍の力が抜けてるってことなんでしょうけど、にしては何も無さすぎる気がする……。本当に古の邪龍なのかしら?

(ふぁ~ぁ~。むにゃむにゃ……)

 あ、やっと起きた。

「遅いわよ、ネイ。もうみんな集まってるわ」

(ふぁ……。あぇ。昼過ぎくらいにやるとか言いませんでした?)

「あんたはそれで良くても、他、特にクロムさんが許すわけないでしょ」

 亡き姉を思う気持ちを考えれば、今の彼は一分一秒だって無駄にしたくないはず。その気持ちは私にも痛いほど分かるからこうして早起きしてあげたっていうのだけれど、多分無駄だったわね。

(まぁ、いいか。じゃぁ、ちょっと変わってください)

「はいはい。さっさと終わらせなさい」

 意識が切り替わる。私は心の世界へ、そしてネイは表の世界へと出る。この感覚、何回やってもあまり慣れないわね。感覚的にはテレポートに近いのだけれど、どうも意識が引きずり込まれるこの独特の感覚に慣れない。まあ、そんなのどうでもいいことだとは思うけれども。

「さて、では皆さんお揃いのようですし始めますか」

 そうネイが場違いな程に元気な声を出し、白陽の女の子へ触れた。その瞬間ーー

「……あれ」

 気付けば、いつの間にか意識が表の方に出ている。さっきまでネイに切り替わっていたはずなのに、これまた唐突に変わった。

クロム「……ヒカリ……だな?」

「……え、ええ。でも、ついさっき一瞬だけネイに変わったはず……よ」

フウロ「ああ。確かに姿が一瞬だけ変わっていたのは見た。だが、またすぐにお前に戻った」

グリード「あァ?何が起きてんだァ?誰か俺にも分かるよう説明してくれェ」

 説明……。自分自身にも説明してあげたいくらいだけど、ちょっと今の行動は流石に意味不明すぎて分からない。一体何をする気だったのかしら?……ってか、ネイ。ネイは?

「……ふぁぁ……。久し振りの目覚めじゃのう。かの忌々しい聖龍の子孫もおるようじゃが」

「……!」

 ーー場の空気が凍る。ただ1人の少女が発しただけの声。ただそれだけだというのに、背中を鋭く撫でられるような、肺を押し潰されるような、そのなんとも言えない冷たさと圧が同時に襲いかかってくる。

「なんじゃ?主ら。さっきまでの喧しさはどこへやった?」

クロム「……邪龍……なのか」

 みんなが口を閉ざす中、クロムさんだけがその重たい口を開いて少女に問いかけた。

「如何にも。妾がかつての邪龍フェノン。然して、このギルドの2代目ギルドマスターである」

ヴァハト「2代目じゃと!?」

 少女フェノンが口にした内容に、今度はヴァハトさんが驚きの声を上げ、スタスタとフェノンのもとに近づいた。

ヴァハト「む……」

 下から見上げるようにしてヴァハトはフェノンの顔をまじまじと見つめる。やがて、静かなため息をついた後に小さな声でこう言った。

ヴァハト「……間違いない。確かに2代目じゃ」

グリード「おィ、マジかよ爺さん」

フウロ「2代目ギルドマスター……か。この女の子が」

「如何にも。まあ、名前はちと違うがな」

ヴェルド「龍人がギルドマスターってどうなってんだよ……」

「800年前までは事情が違ったからのう。あの頃はまだ龍人差別も亜人差別も無かったからのう。まあ、その差別を作るきっかけになったのは妾なんじゃが」

「「「 …… 」」」

 これ、彼女としては軽いボケのつもりで言ったんでしょうけど、笑うべきところなのかどうなのかが微妙すぎて変な空気感が漂う。

「さて。……ふっ。冗談はこのくらいにしときましょうか」

「……」

クロム「やはり……か」

 さっきまで彼女が発していた冷たく重たい圧が無くなり、ふっと軽い空気に変わる。それと同時に、少女がゆっくりと立ち上がり、よろよろと歩き出してすぐに倒れる。

ヴァル「おっと……」

 すぐ近くにいたヴァルが半ば条件反射で彼女の体を受け止め、少女はそれを支えにしてまた立とうとしてすぐに崩れる。

「思った以上に筋力が衰えてますね。これでは力を使うことが出来るかどうか、ちょっと怪しいかもしれません」

「……大丈夫なの?ネイ」

ヴァル「ネイ?」

ネイ「ええネイです。あなた方がよく知る……は無理がありますけど、あの口悪いネイです」

 それ自分で言うんだ。

ネイ「ヒカリちゃんと体を共有してても不便ですし、こうして分かれようとは思ったんですけど。……800年も力を吸われ続けた体じゃ軽く動くだけでも辛いですね……。悪いですけど、セレナさんの蘇生はまた万全の状態に戻ってから、でいいですか」

 そう言うと、ネイは確認するようにクロムさんへと目線を向けた。

クロム「……そのまま逃げる、なんてことはないだろうな」

ネイ「信用ないですね」

クロム「当たり前だ。俺にはお前の姿はただの邪龍にしか見えん。そんな奴、普通なら信じん。それでも少しは信用しようと思ったのは、ヒカリが間に挟まったからだ」

ネイ「……邪龍だから、ですか。まあ、それはそうですね」

 ーーネイが薄らと涙を滲ませている。

「あ、ま、まあ、今日はこのくらいにしときましょう?クロムさんも朝早くから来てるって話だし、ちょっと休憩がてらにーー」

クロム「泣けば許されるとでも」

「「 …… 」」

 ネイの涙に気付いていたのは、私だけじゃなかった。クロムさんも同様に、あの子の涙に気付いてはいた。気付いた上で、今の発言。

 ーー無意識に拳が小さくなっていく。今すぐにでもぶっ飛ばしたい。そんな思いが、ぐるぐると渦巻いて、大きくなっていく。でも、手を出すことは出来ない。辛いのは、悲しいのは、クロムさんも同じだから……。

クロム「邪龍フェノン。その伝承は俺達聖王の家系によく伝わっている。生い立ちだけは不明だったが、フェノンが邪龍に至るまでの成り立ち、邪龍になってからの行い、その全てが伝わっている。お前がこのギルドのマスターであったことも、俺は知っている」

ネイ「……」

クロム「かつての友を失い、恋人も失い、この世界が憎くなったのは分かる。だが、それで許されるほどこの世界はお前に情を抱いてはくれない」

「ちょっとクロムさん!」

 慌ててクロムさんの名前を叫んだが、クロムさんはお構い無しとばかりに言葉を続けた。それは、誰が止めるでもなく、ただひたすらに冷たい言葉が浴びせ続けられ、気付いた時には、ヴァルが振りかざした拳によってこの場が収められることになった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「……はぁ。まあ、今回は喧嘩両成敗ってことにしてお互いに無かったことにしてあげる……ように働きかけてあげるけど」

ヴァル「喧嘩じゃねぇよ。暴力だ」

「余計に質が悪いわよ。……はぁ。あんなのでも、もう正式な聖王になってるのよ。あんた、最悪不敬罪で殺されちゃうかもしれないってのによくあんなことが出来たわね」

ヴァル「知らねぇよ。体が勝手に動いただけだ」

 その勝手に動いた結果であまり困らせないでほしいのだけれどね。全く、昔から何も変わんないんだから。

ヴァル「で、ネイ。動けそうか?」

ネイ「……おっとっと」

「ダメそうね」

 こっちはこっちで、動き方を完全に忘れちゃったみたいに変な歩き方とバランスの悪さを両立してしまっている。

 ーーギルドの救護室。何も無い真っ白な空間で、ひとまずネイをみんなから離れさせようとはしてみたけど、これ意味あるのかしら?まあ、お互いに頭を冷えさせるためにはこうした方が良いのだけれど。

ネイ「魔法で強化しても限界があります。その限界でこれとなると、しばらくは空中浮遊で移動した方が良さそうです」

「便利なものね」

 私もそうやって移動しようかしら?

ヴァル「……で、一応あいつを殴っちまったからってわけでもねぇんだけど、セレナさんを復活させるってことは出来るのか?」

 ーーと、ここで珍しくヴァルが反省した態度を見せるかのようにそう問いかけてきた。

ネイ「出来る……には出来るんですけど、見ての通り体が動かないので……」

ヴァル「いや、そうじゃねぇ。体が動かないってのはあんま関係ねぇだろ?」

ネイ「……」

「……どういうこと……かしら?」

 これまた珍しくヴァルが発した意味深な発言。体が動かないことが関係ない。……あ。

ヴァル「間違ってたら悪ぃんだけど、俺はお前からとんでもねぇくらいの魔力を感じる。それと、マナの量もわけわかんねぇくらいに多い。それなら、今すぐにでも出来るはずだろ?何でやらねぇんだ?」

 ……確かに、彼の言う通り、魔法が十分すぎるほどに使えるのなら、蘇生くらい簡単に出来るはず。それこそ、ベッドに横たわったままでもネイの力を考えれば出来ちゃうはず。それなのに……

「どうなの?ネイ」

ネイ「……確かに蘇らせようと思えばすぐにでも、完璧な状態で復活させられます。しかし、それをやれば、恐らくヴェリアがやって来る」

「あ……」

 そう言えば、すっかり忘れてしまってたけど、そんな奴らもいたわね。

ネイ「……実は、さっき大部屋の方で倒れかけた時に、こっそりと蘇生はもう行っていたんです」

「「 ……は? 」」

 しれっとバツが悪そうにしながらとんでもないこと言ったわね。

ネイ「ただ、記憶は無くなっているでしょうし、言語の方も覚束無いかと思います」

ヴァル「……それも、ヴェリアとかいうあの黒い煙が来ないための対策なのか?」

ネイ「ええ。本来の史実に基づけば、セレナさんは聖龍の墓場で自殺を図った後、近くの村で保護される形になります。そして、記憶を失い、言語の力も失った状態でラストに発見されるところまでが本来の流れなのですが、今の状態じゃそこまでの再現は難しいのでなるべく近い形にしておきました」

「……」

 分からないわね。歴史を変えるために未来から存在だけ持って来たって言うのに、なるべく史実に近づけようだなんて、なんというか、あまりネイらしくない気がする。

「ぅ……っ……ぁ゛……」

 静かな空気を切るように、部屋に小さな呻き声が響く。

「レイジ……だったかしら」

 こっちとは反対側にあるベッド。そこに横たわる赤髪の女性。邪龍教を裏から操っていたらしい人物であり、史実に基づけば憤怒の魔女だったはず。

ヴァル「そういや、これもどうにかしなきゃなってクロム達が言ってた気がするな」

「そうね。一応助けはしたけども、敵は敵なわけだし」

 ……まあ、彼女に関してはクロムさんに一任しておけばいいか。王様になったんだから、王様らしく人を処罰する仕事も経験させなきゃね。

ネイ「あの。彼女、レイジのことは私に、いえ、妾に任せてはくれんか?」

ヴァル「あ?」

ネイ「彼奴とは旧来の仲でのう。話をすれば分かり合えるかもしれん。いや、今度こそ分かり合ってみせる。誰かが幸せになる陰にある不幸を、妾は見捨てておきたくはない」

ヴァル「……どうすんだ?ヒカリ」

「……まあ、クロムさんには私から話をしておくわ」

ネイ「……頼むぞ」
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