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Veritas2章 【運命の欠落点】
Veritas2章14 章末 【憤怒と怠惰の魔女】
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ーー翌朝。
クロム「どういうことだ!お前ら!」
早朝出勤直後から鳴り響くクロムさんの怒声。まだ眠たい脳にガンガンと殴り付けられるみたいに声が響いてくる。
「はぁ」
小さくため息をつき、少し距離を取って私はセリカが座っているところの横に腰を落ち着けた。
「今日は今日とで何があったのかしら?あのバカ王子」
セリカ「もう王様って話してたけどね……。えっとね、フウロが発見したって言うか気付いたって言うんだけど、なんかネイとレイジ?の2人が同時に消えたって言うらしくて」
「あーはいはい」
なるほど。そりゃ怒鳴るのも無理はないか。
セリカ「ネイだけならまだ良かったかもしれないんだけど、流石にあの敵の親玉みたいだったレイジが消えるのはまずかったらしくて……」
「そこまで言わなくても分かるわよ。そりゃ、管理不足うんたらかんたらを問い詰めたくなる気持ちも分からなくはないわ……。はぁ」
……あ、そういやレイジのことをクロムさんに話すの忘れてた。あー、これ多分私のせいになるのかな?そうなのかな?
「……仕方ない。なだめてくるわ」
そう言って、私はクロムさんのところに向かう。相変わらず誰に叫んでいるのかも分からない怒声(向いている相手は一応ヴァハトさんみたいだけど)、少しばかりうるさすぎるんで、耳を塞ぎながら前に立つ。
「はい、そこまで!」
クロム「っ……ヒカリ……」
軽くビンタでもする素振りを見せたら、すぐに大人しくなった。
「あんたが何でキレてるのか分かったから、とりあえず落ち着け」
クロム「っこれが落ち着いてられるか!レイジがいなくなったんだぞ!?オマケにあの邪龍も一緒に消えたという話だ。これを怒らずして何に怒ればいい?」
「あー、はいはい。それは分かったから。それに関しては私が悪かったから!とりあえず落ち着け!このバカ王子!」
本当、体だけ大きくなったガキってのは、その分質が悪くなるから嫌なのよ。これで現聖王って言うんだから笑っちゃうわ。
クロム「……レイジが姿を消した」
ようやく落ち着きを取り戻したのか、クロムさんはどっしりとその場に腰を落ち着けてから話し出した。
「だからそれは分かってるって」
クロム「それだけじゃない。邪龍も姿を消した」
「だーかーらー」
クロム「姉さんは一応息を吹き返していた」
「……」
クロム「だが、記憶は無く、言葉も覚束無い様子だった。……俺が高望みしすぎただけなのかもしれないが、あれで蘇生したとお前らは言い張るのか?」
……見事な話題のすり替え。まあでも、イライラの原因はそれもあるでしょうし、色々と説明してあげなきゃ確実に関係性が悪くなる。
「はぁ。何から説明してあげたらいいのやら。……とりあえず、セレナさんの状態についてはあれがベスト。あれ以上に回復した状態での蘇生は出来ない」
クロム「……何か、不都合でもあるのか」
「見たことあるでしょ?突然どこからともなく現れてくる灰色の煙達」
クロム「……お前が連れ去られた時に現れたあれか」
「そう。あれは歴史とは違うことをしようとすると現れる存在で……って、今そんなこと話しても分からないか」
クロム「いや、そうでもない。要は、史実から逸れたことをしようとした時に修正しようとしてくるのだろう?」
「……!」
嘘……。私とネイ以外であれの存在を説明出来る人がいる……?
クロム「聖王になった時にエクセリアから色々と聞いた。言ってることの9割は理解出来んかったが、この世界がどうもおかしいということだけは何となく分かった」
「……そう」
……なんでエクセリアがこの事に気付いているのかしら?
ジーク(もしかしたら、俺達と同じで龍王クラスの奴だったら覚えてるのかもな)
……そういうもんかしら?いやでも、現に私の龍王4体は全員前回の記憶を持ってるっぽかったし、もしかしたら師匠の龍もそうなのかしら?……いやでも、前に師匠と会った時はそんな素振り一切見せなかったし、そうでもないのかしら?いやでも、師匠の龍がそこまで大したことないって可能性もあるわけだし……。
「考えるだけ無駄か」
クロム「どうかしたか?」
「いいえ何でも。ただエクセリアがそれ知ってるのが意外だっただけよ」
クロム「そうか。俺からすればお前がそれを知っていることも意外だがな」
「私は特別なのよ。で、話が逸れちゃったけどセレナさんの蘇生については……」
クロム「ああ、もういい。話してるうちに落ち着いてきた。すまんな、自制の効かない聖王で」
……散々怒りを露わにしてた割には、そんなあっさりと自分で解決しちゃうのか。まあそれならそれで何も困らないんだけど。
「じゃあ、ネイとレイジのこともどうでもいいかしら」
クロム「いや、それに関しては説明を求める。今ので何かあるんだろうとは思えるようになったが、だからといって状況を理解したわけではない」
「まあそうね。と言っても、詳しいことは2人が帰って来てからになるけど、目的だけ話すわ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
レイジ「……こんなところに呼び出して何のつもりだってんのさ」
「呼び出したって言うか、一緒にお出かけしようかってだけの話じゃがのう。嫌なら着いて来なければ良かったではないか」
レイジ「あんたが無理矢理連れて来たんでしょ!」
「そうじゃったかのう?」
ーーシグルアの街、桜の木が聳え立つ高台に、私とレイジ。2人の魔女がいた。
ここは、春先になるとゼラが必ずギルドのみんなで花見をするために使っていた場所。目立つ場所にある割にはあまり人がやって来ないため、バカ騒ぎをしても特に誰からも文句を言われなかった思い出がある。
レイジ「……で、何だって言うのさ」
露骨に不満げな態度をとりながらも、一応は話を聞く姿勢だけは見せてくれている。前の周と違って、暴走にまでは至っていないから感情が落ち着いているのだろう。
「……まず、お主の企みは全て失敗に終わった。邪龍を操るのかそれとも自らがそれになるのかはどっちでも良いが、邪龍の力は妾が再継承した。これでもう邪龍になれる人間はおらん」
レイジ「今この場であんたを殺して奪い取るってのも出来るんだよ?」
「ほう?ならばやってみせるがーー」
鞘から剣を抜き、レイジの鼻面に突きつけようとしたが、思った以上に剣が重くてその場に落としてしまった。
レイジ「はぁ……。ろくに剣も握れなくなった奴に、私が遅れをとるとでも?」
「……じゃが、殺しても死なぬ相手をすることに変わりはない。やれるか?」
レイジ「別に、殺すことが必須だなんて誰も言ってない。魔女にいつの間にか与えられている感情石。それが埋め込まれてるところに手を突っ込めば、いくら再生力が高くても関係ない。怪我させること自体は可能なんだからね」
「……」
いつどこで知ったのかは知りませんけど、魔女の構造をよく理解していらっしゃるようで。……めんど。
「……じゃあ、本気で今やり合うか?」
レイジ「いや、やめておくよ。今更邪龍の力を手に入れたところで、もう何をしたかったのかが分からなくなってるからね」
「……この世界が憎かったんじゃないのか?」
レイジ「それは私よりあんたの方だろ?まあ、私もこの世界が憎かったさ。老いで死ぬことのないこの身を得て、人の死をたくさん見てきた。好きになった奴には裏切られ、他の女を殺せば魔女だなんだって恐れられる。まあ、それはそれで別に良かったんだけどさ。やっぱり人間って生き物はどんな姿になっても生きる意味ってもんを求めちまうよ」
「……」
レイジ「そうさね。私は幸せになりたかったのかもしれない。人並みの幸せって奴が欲しかったのかもしれない」
「……レイジの場合は、ただ単に男運が無いだけのように見えるがのう」
レイジ「よし、やっぱり邪龍の力を貰うことにしようかそうしようか」
「おお」
軽く挑発してやっただけで分かりやすいくらいにキレおったな。流石は憤怒の魔女。沸点が低いのは相変わらずか。
「やめておけ。妾と主が本気で戦えばこの街が焦土と化す。ゼラが好きになったこの街を妾の手で焼け野原にはしたくないぞ」
レイジ「あっそう。……ゼラ。ゼラ、ねぇ……」
「……」
レイジ「思えば、あの子が死んだ時から何かが崩壊しかけてたんだろうね」
「……そうかもしれんな」
魔女になれば基本死ぬことはない。それこそ、殺されでもせん限りはという不思議な体。しかし、ゼラはそんな魔女達の中で1番最初に死んだ。理由は病気。ウイルスか、それとも別の何か。まあ、病も言い方を変えてるだけで何かに殺されたということじゃ。
ゼラが死んだ後、まず最初にリナが死んだ。死因は何者かによる殺害。一体どういう経緯で殺されたのかは未だに判別がついていない。ユナの占いでも、私の過去視でもその死の真相を垣間見ることは出来なかった。
次に死んだのはガーラ。こちらの死因は毒殺。何とも奇妙な話であったことを覚えている。暴食を冠する彼女が毒殺だ。笑わせるなとどれだけ嘘であることを願ったことか。だが、その死に方に嘘偽りはなかった。
レイジ「ゼラが死に、リナが死に、そしてガーラが死んだ。ゼラは少し違うが、全員誰かしらに殺された。いや、ゼラも今にして思えば誰かから殺されたんじゃないかと疑っちまうよ。……他全員の死に方を見ればね」
「……そうじゃの」
レイジ「丁度ガーラが死んだ後くらいにあんたは邪龍になったから知らないだろうけどさ、コスモとユナも死んだよ。唯一この800年を生き残れたのは私だけさ」
そう言うと、レイジは少しだけ悲しそうな表情を浮かべ、桜の木にもたれかかるようにして座り込んだ。
レイジ「ずっと1人だったよ。みんな、勝手にいなくなりやがるんだから」
「……一応謝った方がええか?」
レイジ「あんたに謝られるような日が来るとは、いよいよこの世界も終焉かね」
「それ、お主にだけは絶対に言われとうないな」
レイジ「まあ何でもいいさ。なぜか800年前に封印されたはずのあんたが今こうしてここにいる。私もとうとう地獄かって覚悟はしたけども、どうやらここは現実みたいだね」
「今更何を言っておるのやら」
レイジ「ちょっとした確認さ。……なあヨミ。あんたは、まだこの世界を生きるつもりなのかい」
立ち上がったレイジが珍しく真剣な眼差しでこの街を見下ろしながらそう問いかけてくる。
「まだ、とは?」
レイジ「この800年。世界は何も変わらなかったよ。みんなが願ったような平和でのどかな世界にはならなかった。むしろ、私が怒るのも疲れるくらいには悲しいことばっかりで、くだらない人間共を見せ続けられた」
「……」
確かに、この世界は何も変わらない。変わろうとしていない。そのせいで悲しむ人が大勢いる。レイジは、魔女唯一の生き残りとしてこの世界を自分なりに見守っていたのだろう。ただ、そんな神様にも似たようなことをすれば何が起きるのかを私は知っている。いや、知ってるどころか実際に経験した。
「世界を見続けても感じるのは孤独だけです。どれだけ優れた人間であろうと、1人というもの寂しくて、思ってるよりもずっと辛いものです」
レイジ「……あんたも、同じなのかい」
「ええ。私も、長い長い時間を1人で過ごしてきた。世界が変わらないのならそれでいい。壊れてしまうのならまた作り直せばいい。そんな、諦めにも似た感情でいた頃、私はゼラと出会った。初めて、世界を失いたくないと思えた。……レイジ、あなたはすっかり忘れてしまったかもしれない。愛することを、愛されることを」
レイジ「……」
「私はこの世界が好きです。大好きです。それと同じくらい、みんなのことが好きです。大好きです。そしてレイジ。あなたのことも、好きです。大好きです」
レイジ「……女のあんたに言われても嬉しかないねぇ」
「ふふ。別に恋愛感情で言ったわけじゃありませんよ」
レイジ「知ってるさ、それくらい。……そうだねぇ。私ももう少し頑張ってみるのもありかもしれないね」
「……」
この時間で出会ったレイジは、初めこそ苦悶の顔を浮かべ、辛そうでいた。でも、今のレイジはどことなく清々しい感じがして、悩みが無くなったとばかりに珍しく笑みを浮かべていた。
「レイジ。良ければ私達のギルドに入りませんか?」
ここぞとばかりに私はレイジへスカウトを仕掛ける。多分、ゼラもヴァルも、あのギルドの人なら絶対に同じことをすると思う。
レイジ「何でってまた小一時間問い詰めてやりたいけど、今更聞くともないさね」
「なら……」
レイジ「言っとくけど、私は怒らせたら面倒だよ」
「……」
今のは、イエスと受け取っていいってことですね。
「言っておきますけど、ゼラ曰く1番怒らせたら面倒なのは私らしいですよ」
レイジ「だろうね。世界を半壊させるんだろ?たまったもんじゃないよ」
「まあ、レイジと違って、滅多なことがなければ怒りませんけどね」
レイジ「それは心外だね。私も、この800年で少しは感情を抑えられるようになったんだよ」
「さて、どうでしょうか」
ーーこうして、また昔の友人と共に笑い合えるのはいいもんだ。欲を言えばまた魔女だけの茶会を開きたい。そう思えるくらいには、レイジとの再開、そして説得の成功は喜ばしいものだった。……また、この時間が無駄にならなければとさえ考えなければ、それはもう幸せな時間だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
良かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
世界はまだ続いてるみたい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私も問題なく干渉できる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
また、
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
この世界が不幸になる前に、
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
"破壊"しないと。
クロム「どういうことだ!お前ら!」
早朝出勤直後から鳴り響くクロムさんの怒声。まだ眠たい脳にガンガンと殴り付けられるみたいに声が響いてくる。
「はぁ」
小さくため息をつき、少し距離を取って私はセリカが座っているところの横に腰を落ち着けた。
「今日は今日とで何があったのかしら?あのバカ王子」
セリカ「もう王様って話してたけどね……。えっとね、フウロが発見したって言うか気付いたって言うんだけど、なんかネイとレイジ?の2人が同時に消えたって言うらしくて」
「あーはいはい」
なるほど。そりゃ怒鳴るのも無理はないか。
セリカ「ネイだけならまだ良かったかもしれないんだけど、流石にあの敵の親玉みたいだったレイジが消えるのはまずかったらしくて……」
「そこまで言わなくても分かるわよ。そりゃ、管理不足うんたらかんたらを問い詰めたくなる気持ちも分からなくはないわ……。はぁ」
……あ、そういやレイジのことをクロムさんに話すの忘れてた。あー、これ多分私のせいになるのかな?そうなのかな?
「……仕方ない。なだめてくるわ」
そう言って、私はクロムさんのところに向かう。相変わらず誰に叫んでいるのかも分からない怒声(向いている相手は一応ヴァハトさんみたいだけど)、少しばかりうるさすぎるんで、耳を塞ぎながら前に立つ。
「はい、そこまで!」
クロム「っ……ヒカリ……」
軽くビンタでもする素振りを見せたら、すぐに大人しくなった。
「あんたが何でキレてるのか分かったから、とりあえず落ち着け」
クロム「っこれが落ち着いてられるか!レイジがいなくなったんだぞ!?オマケにあの邪龍も一緒に消えたという話だ。これを怒らずして何に怒ればいい?」
「あー、はいはい。それは分かったから。それに関しては私が悪かったから!とりあえず落ち着け!このバカ王子!」
本当、体だけ大きくなったガキってのは、その分質が悪くなるから嫌なのよ。これで現聖王って言うんだから笑っちゃうわ。
クロム「……レイジが姿を消した」
ようやく落ち着きを取り戻したのか、クロムさんはどっしりとその場に腰を落ち着けてから話し出した。
「だからそれは分かってるって」
クロム「それだけじゃない。邪龍も姿を消した」
「だーかーらー」
クロム「姉さんは一応息を吹き返していた」
「……」
クロム「だが、記憶は無く、言葉も覚束無い様子だった。……俺が高望みしすぎただけなのかもしれないが、あれで蘇生したとお前らは言い張るのか?」
……見事な話題のすり替え。まあでも、イライラの原因はそれもあるでしょうし、色々と説明してあげなきゃ確実に関係性が悪くなる。
「はぁ。何から説明してあげたらいいのやら。……とりあえず、セレナさんの状態についてはあれがベスト。あれ以上に回復した状態での蘇生は出来ない」
クロム「……何か、不都合でもあるのか」
「見たことあるでしょ?突然どこからともなく現れてくる灰色の煙達」
クロム「……お前が連れ去られた時に現れたあれか」
「そう。あれは歴史とは違うことをしようとすると現れる存在で……って、今そんなこと話しても分からないか」
クロム「いや、そうでもない。要は、史実から逸れたことをしようとした時に修正しようとしてくるのだろう?」
「……!」
嘘……。私とネイ以外であれの存在を説明出来る人がいる……?
クロム「聖王になった時にエクセリアから色々と聞いた。言ってることの9割は理解出来んかったが、この世界がどうもおかしいということだけは何となく分かった」
「……そう」
……なんでエクセリアがこの事に気付いているのかしら?
ジーク(もしかしたら、俺達と同じで龍王クラスの奴だったら覚えてるのかもな)
……そういうもんかしら?いやでも、現に私の龍王4体は全員前回の記憶を持ってるっぽかったし、もしかしたら師匠の龍もそうなのかしら?……いやでも、前に師匠と会った時はそんな素振り一切見せなかったし、そうでもないのかしら?いやでも、師匠の龍がそこまで大したことないって可能性もあるわけだし……。
「考えるだけ無駄か」
クロム「どうかしたか?」
「いいえ何でも。ただエクセリアがそれ知ってるのが意外だっただけよ」
クロム「そうか。俺からすればお前がそれを知っていることも意外だがな」
「私は特別なのよ。で、話が逸れちゃったけどセレナさんの蘇生については……」
クロム「ああ、もういい。話してるうちに落ち着いてきた。すまんな、自制の効かない聖王で」
……散々怒りを露わにしてた割には、そんなあっさりと自分で解決しちゃうのか。まあそれならそれで何も困らないんだけど。
「じゃあ、ネイとレイジのこともどうでもいいかしら」
クロム「いや、それに関しては説明を求める。今ので何かあるんだろうとは思えるようになったが、だからといって状況を理解したわけではない」
「まあそうね。と言っても、詳しいことは2人が帰って来てからになるけど、目的だけ話すわ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
レイジ「……こんなところに呼び出して何のつもりだってんのさ」
「呼び出したって言うか、一緒にお出かけしようかってだけの話じゃがのう。嫌なら着いて来なければ良かったではないか」
レイジ「あんたが無理矢理連れて来たんでしょ!」
「そうじゃったかのう?」
ーーシグルアの街、桜の木が聳え立つ高台に、私とレイジ。2人の魔女がいた。
ここは、春先になるとゼラが必ずギルドのみんなで花見をするために使っていた場所。目立つ場所にある割にはあまり人がやって来ないため、バカ騒ぎをしても特に誰からも文句を言われなかった思い出がある。
レイジ「……で、何だって言うのさ」
露骨に不満げな態度をとりながらも、一応は話を聞く姿勢だけは見せてくれている。前の周と違って、暴走にまでは至っていないから感情が落ち着いているのだろう。
「……まず、お主の企みは全て失敗に終わった。邪龍を操るのかそれとも自らがそれになるのかはどっちでも良いが、邪龍の力は妾が再継承した。これでもう邪龍になれる人間はおらん」
レイジ「今この場であんたを殺して奪い取るってのも出来るんだよ?」
「ほう?ならばやってみせるがーー」
鞘から剣を抜き、レイジの鼻面に突きつけようとしたが、思った以上に剣が重くてその場に落としてしまった。
レイジ「はぁ……。ろくに剣も握れなくなった奴に、私が遅れをとるとでも?」
「……じゃが、殺しても死なぬ相手をすることに変わりはない。やれるか?」
レイジ「別に、殺すことが必須だなんて誰も言ってない。魔女にいつの間にか与えられている感情石。それが埋め込まれてるところに手を突っ込めば、いくら再生力が高くても関係ない。怪我させること自体は可能なんだからね」
「……」
いつどこで知ったのかは知りませんけど、魔女の構造をよく理解していらっしゃるようで。……めんど。
「……じゃあ、本気で今やり合うか?」
レイジ「いや、やめておくよ。今更邪龍の力を手に入れたところで、もう何をしたかったのかが分からなくなってるからね」
「……この世界が憎かったんじゃないのか?」
レイジ「それは私よりあんたの方だろ?まあ、私もこの世界が憎かったさ。老いで死ぬことのないこの身を得て、人の死をたくさん見てきた。好きになった奴には裏切られ、他の女を殺せば魔女だなんだって恐れられる。まあ、それはそれで別に良かったんだけどさ。やっぱり人間って生き物はどんな姿になっても生きる意味ってもんを求めちまうよ」
「……」
レイジ「そうさね。私は幸せになりたかったのかもしれない。人並みの幸せって奴が欲しかったのかもしれない」
「……レイジの場合は、ただ単に男運が無いだけのように見えるがのう」
レイジ「よし、やっぱり邪龍の力を貰うことにしようかそうしようか」
「おお」
軽く挑発してやっただけで分かりやすいくらいにキレおったな。流石は憤怒の魔女。沸点が低いのは相変わらずか。
「やめておけ。妾と主が本気で戦えばこの街が焦土と化す。ゼラが好きになったこの街を妾の手で焼け野原にはしたくないぞ」
レイジ「あっそう。……ゼラ。ゼラ、ねぇ……」
「……」
レイジ「思えば、あの子が死んだ時から何かが崩壊しかけてたんだろうね」
「……そうかもしれんな」
魔女になれば基本死ぬことはない。それこそ、殺されでもせん限りはという不思議な体。しかし、ゼラはそんな魔女達の中で1番最初に死んだ。理由は病気。ウイルスか、それとも別の何か。まあ、病も言い方を変えてるだけで何かに殺されたということじゃ。
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レイジ「ゼラが死に、リナが死に、そしてガーラが死んだ。ゼラは少し違うが、全員誰かしらに殺された。いや、ゼラも今にして思えば誰かから殺されたんじゃないかと疑っちまうよ。……他全員の死に方を見ればね」
「……そうじゃの」
レイジ「丁度ガーラが死んだ後くらいにあんたは邪龍になったから知らないだろうけどさ、コスモとユナも死んだよ。唯一この800年を生き残れたのは私だけさ」
そう言うと、レイジは少しだけ悲しそうな表情を浮かべ、桜の木にもたれかかるようにして座り込んだ。
レイジ「ずっと1人だったよ。みんな、勝手にいなくなりやがるんだから」
「……一応謝った方がええか?」
レイジ「あんたに謝られるような日が来るとは、いよいよこの世界も終焉かね」
「それ、お主にだけは絶対に言われとうないな」
レイジ「まあ何でもいいさ。なぜか800年前に封印されたはずのあんたが今こうしてここにいる。私もとうとう地獄かって覚悟はしたけども、どうやらここは現実みたいだね」
「今更何を言っておるのやら」
レイジ「ちょっとした確認さ。……なあヨミ。あんたは、まだこの世界を生きるつもりなのかい」
立ち上がったレイジが珍しく真剣な眼差しでこの街を見下ろしながらそう問いかけてくる。
「まだ、とは?」
レイジ「この800年。世界は何も変わらなかったよ。みんなが願ったような平和でのどかな世界にはならなかった。むしろ、私が怒るのも疲れるくらいには悲しいことばっかりで、くだらない人間共を見せ続けられた」
「……」
確かに、この世界は何も変わらない。変わろうとしていない。そのせいで悲しむ人が大勢いる。レイジは、魔女唯一の生き残りとしてこの世界を自分なりに見守っていたのだろう。ただ、そんな神様にも似たようなことをすれば何が起きるのかを私は知っている。いや、知ってるどころか実際に経験した。
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レイジ「……あんたも、同じなのかい」
「ええ。私も、長い長い時間を1人で過ごしてきた。世界が変わらないのならそれでいい。壊れてしまうのならまた作り直せばいい。そんな、諦めにも似た感情でいた頃、私はゼラと出会った。初めて、世界を失いたくないと思えた。……レイジ、あなたはすっかり忘れてしまったかもしれない。愛することを、愛されることを」
レイジ「……」
「私はこの世界が好きです。大好きです。それと同じくらい、みんなのことが好きです。大好きです。そしてレイジ。あなたのことも、好きです。大好きです」
レイジ「……女のあんたに言われても嬉しかないねぇ」
「ふふ。別に恋愛感情で言ったわけじゃありませんよ」
レイジ「知ってるさ、それくらい。……そうだねぇ。私ももう少し頑張ってみるのもありかもしれないね」
「……」
この時間で出会ったレイジは、初めこそ苦悶の顔を浮かべ、辛そうでいた。でも、今のレイジはどことなく清々しい感じがして、悩みが無くなったとばかりに珍しく笑みを浮かべていた。
「レイジ。良ければ私達のギルドに入りませんか?」
ここぞとばかりに私はレイジへスカウトを仕掛ける。多分、ゼラもヴァルも、あのギルドの人なら絶対に同じことをすると思う。
レイジ「何でってまた小一時間問い詰めてやりたいけど、今更聞くともないさね」
「なら……」
レイジ「言っとくけど、私は怒らせたら面倒だよ」
「……」
今のは、イエスと受け取っていいってことですね。
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「まあ、レイジと違って、滅多なことがなければ怒りませんけどね」
レイジ「それは心外だね。私も、この800年で少しは感情を抑えられるようになったんだよ」
「さて、どうでしょうか」
ーーこうして、また昔の友人と共に笑い合えるのはいいもんだ。欲を言えばまた魔女だけの茶会を開きたい。そう思えるくらいには、レイジとの再開、そして説得の成功は喜ばしいものだった。……また、この時間が無駄にならなければとさえ考えなければ、それはもう幸せな時間だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
良かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
世界はまだ続いてるみたい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私も問題なく干渉できる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
また、
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
この世界が不幸になる前に、
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
"破壊"しないと。
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本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
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