グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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Veritas3章 【運命の分岐点】

Veritas3章3 【心が焦る】

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ネイ「……」

 ネイの目が変わった。纏う雰囲気が変わった。

 静かに、けれどもしっかりとした重みのある圧。そしてそれが真っ先に向いた先はーー

ネイ「……」

「っ……!」

 ギロリとこちらに顔を向け、嫌な予感を感じた私はすぐさまBurstOrbisを取り出して応戦する。しかし、ネイが振りかざした剣には凄まじい力が込められていて、数発受けただけでこちらの剣が壊れてしまった。

「嘘っ……!」

ネイ「……」

「っ……!」

 咄嗟に魔法で守りを固めようとしたものの、それよりも早く剣が振られる。そしてろくに守ることの出来なかった私は、その一撃を受けて一気に会場の壁へと吹き飛ばされる。

 危なかった。あと少しでも飛び退くのが遅れていたら確実に両腕が無くなっていた。まあそれでも掠っただけでこの力……。私だから良かったものの、ついさっきまでネイにボコボコにされてた彼らがターゲットにされてしまったら……。

「っヴァル!」

ヴァル「ちょっと待ってろ!」

 私が感じた嫌な予感を、彼もすぐさま察知しリアム達の前に落下した。それを見たネイがまたギロリと顔をそちらに向け、すぐさま剣を振り回してヴァルに迫る。

ヴァル「だァっ……!……くっ……捕まえたぞ……ゴルァ!」

 攻撃を諸に受けたものの、ヴァルは何とか踏ん張って剣を腹に抱えていた。しかし、赤黒い血がぽたぽたと地面に垂れていて、あっという間に少し広めの血溜まりを作り出す。

 ーー彼のことはとても心配。けど、命懸けで作ってくれたチャンス!

「とーまーりーなーさーい!!」

 魔法陣を生成し、愛銃と共にネイの背中を狙う。強い一撃を与えて意識を奪うだけでいい。なんなら、邪龍の血で不老不死になってるんだから、殺すつもりでいい。手加減なんていらない。してちゃこっちが殺される。それに、暴走してる時のネイはあまり賢くない。目に映る者全てを破壊し尽くすだけだから、魔法とかも使ってこない。

 ーーはずだった。

「っ……!?」

 ネイの背中に突如として現れた無数の扉。そこから飛び出る数々の神器。

ネイ「……」

ヴァル「だっ……!」

 剣を手放し、強力な蹴りを喰らわせる。血を吹き出しながら転がっていくヴァルと、その場に落ちた剣を素早く拾って追撃を仕掛けるネイ。まずい、このままじゃヴァルが……!

ヴェルド「させねぇ!」

 吹き飛んだヴァルの前に氷壁が現れる。しかし、それもすぐに壊されてしまったが、何とかヴェルドがヴァルを拾ってこちら側にまで運んできてくれた。

ヴェルド「治療は出来んだよな?」

「ええ。ありがとね」

ヴェルド「死なれちゃ張り合う相手がいなくなんだよ」

「そう」

 腹に出来た大きな傷をすぐに治すが、出血量が多くてちょっと危ない。……私の体にも、一応邪龍の血は流れてる。それを彼に流せばその血ですぐに回復するかもしれない。でも、邪龍の血なんて得体の知れないものを流して、何か悪いことが起こる可能性だってある。……ここは、彼の運の良さに賭けてみましょうか。

「ヴェルド、切れ味のいい氷作ってくれる?」

ヴェルド「あ?何に使うんだ」

「いいから早く!」

ヴェルド「……分かったよ。ほれ」

 ヴェルドが作ってくれた氷で手首を斬り、そこから流れる血をヴァルの傷口に落とした。

「……そういえばフウロ達は?」

ヴェルド「さっさとコールドミラーの野郎共を引き上げさせてあの龍人と戦ってるよ。まあ、あんまり長くは続きそうにねぇが」

 彼のことで頭がいっぱいになっていたが、ヴェルドの言った通りフウロ達がいつの間にかネイの相手をしていた。……苦戦は必死のようだけど。

「流石にこの騒ぎで降りてきたのはフウロとグリード。あとあんたくらいか」

ヴェルド「あんな得体の知れねぇ奴の相手なんか普通はしたくねぇだろ」

「それもそうね」

ヴァル「っ……」

「あ、ヴァル!大丈夫!?」

ヴァル「っ……ちょい腹が痛む……でもまだやれる」

 そう言って彼は無理矢理立ち上がろうとしたけど、すぐによろけて倒れてしまった。やっぱり、私程度の血じゃ大した再生力にはならないか。

ヴェルド「おいおい無理すんなバカ。お前、あのバケもんの攻撃諸に喰らってんだからな?」

ヴァル「わーってるって。……でも俺じゃなきゃ止められねぇだろ……あいつは!」

 短い付き合いだけど、人一倍勘は良いようだから気付いてるのね。

 ーーそう。ネイを止められる可能性があるのはヴァルくらい。事実、最初に暴走した時も彼の一撃で何とか暴走を止めることが出来た。ただの強い一撃ってだけじゃなく、ヴァルとネイの間にある繋がりみたいなものがネイの目を覚ます一因になっているんだと思う。

「……でも、今回の暴走は前に起きたやつとは違う気がする」

ヴァル「あ?」

「前の時は飢えた獣って感じだったけど、今回は違うの」

ヴェルド「何がどう違うんだよ」

「なんて言うか、賢いのよ」

「「 ……? 」」

「ちゃんと魔法は使うし、私達の動きはよく見てるし、あえてヴァルに捕まったフリして私が来るのを待った。ただの偶然なんかじゃない。ちゃんと考えて戦ってるのよ。だからーー」

フウロ「っ……!!」

 そんなことを話していたら、横を物凄い勢いでフウロが飛んで行った。

グリード「グっ……ぬぉぉぉぉぉ!!」

 そして、慌ててネイの方を見ればグリードが首を絞められ、空に掲げられている。更に、剣がグリードの首に当てられようとしていてーー

ヴェルド「まずい!話し込んでる場合じゃねぇ!」

 慌ててヴェルドが駆けつけに行くものの、まるでそれを待っていたとばかりにネイが振り向いて剣を振るう。ついさっきの話をちゃんと意識していたのか、それともただの偶然かは知らないけれど、ヴェルドは何とかスレスレのところで攻撃を喰らうことはなかった。ただ、それでも風圧で壁の方へ吹き飛ばされちゃったけど。

「まずいわね……。バカな状態ならまだしも、こうも無駄に頭が働くんじゃ対処のしようがないじゃない」

ヴァル「俺がやる。俺があいつを止める!」

「だから無茶しないの!今の状態で言っても簡単に返り討ちに遭うだけよ!バカ!大人しく私の治療を受けてなさい!」

ヴァル「うるせぇ!行くったら行く!」

「あ、ちょっとヴァル!」

 そのままヴァルは私の介抱を振りほどいて突っ込んで行った。あのバカ!

ネイ「……」

 ヴァルの動きが遅い。やっぱり傷がまだ響いてる。それなのに正面からやろうだなんてーー

「大バカだぞ、坊主」

 ーーネイとヴァルの間の空間が捻れる。そこから、あいつが、エンマが飛び出してネイの攻撃を防いだ。

ヴァル「お前……!」

エンマ「まあ少しは仲良くしようや。どうせ目的は一緒だろ?ったく、無駄に誤魔化しだけはうめぇんだからよぉ」

 エンマの乱入によって、少しは戦況が変わった。……かのように見えた。違う。戦況は確かに変わりはした。だが、それは良い方向にってわけじゃなく、むしろ悪い方向に変わってしまった。

「おやおや、どうやら大変な時にやって来てしまったようですね」

「……先……生」

ヒカリ「お久しぶりですね。ラクシュミーさん。いえ、ヒカリさんとお呼びしましょうか」

 先生……。何で先生がここに。いや、この大会の裏で暗躍してるのは知ってたけど、でもなんでよりにもよってこんな時に。

ヒカリ「まあ、彼女の言ってた通りになってしまいましたか。これは大変な状況ですね~」

「先生。何しに来たの?邪魔?助っ人?」

ヒカリ「どちらかと言えば前者になってしまいますかね」

「……」

ヒカリ「まあ、邪魔と言っても全部彼女の指示です。恨み言は全部彼女にお願いしますよ。それでは、私はこの辺りで」

 何をしに来たんだと言いたくなるくらい、先生は特に何かするでもなくこの場を立ち去った。ただ、先生が立ち去った直後に空に大きな雲がかかる。そして、あっという間に陽の光を消してしまって、夜と言ってもいいくらいに辺りは暗くなってしまった。

 それから、少しくらいして遠くから龍の咆哮が響き渡る。まさか……。

「……エンマ!この場は任せたわよ!」

エンマ「言われるまでもねぇよ!」

 嫌な予感を感じて、私は会場の外周、なるべくこの街全体が見えるところに立つ。そうすれば、王都の西端に、奴が、アポカリプスが迫って来ているのが見えた。

「嘘でしょ。もう無茶苦茶じゃない……」

 この悲劇的な状況を前にして、思わず腰を落としてしまう。でもそんなことしてる場合じゃないとすぐに立ち上がるけれども、あんなのどうすればと思考が行き詰まる。

 何かが違う暴走を始めたネイ。そして意味深な発言と共に消えた先生と急に現れたアポカリプス。ここまではほとんど史実通りに進んでいたっていうのに、こんな変なタイミングで全く違う未来が来ている。それも、良い方じゃなくて遥かに悪い方。

「……こんなことしてる場合じゃない!」

 アポカリプスが来ているのなら、なるべく大勢で相手をしなくてはならない。ネイの力が当てに出来ない以上、ここにいる多くの魔導士で奴を……倒せる……のだろうか。

 分からない。史実じゃ、ただの龍相手にすら苦戦してたっていうのに、いきなりラスボス級の敵を相手にするだなんて……。

「でも、迷ってる時間も無いし……」

 とりあえず、ゼイラ王女のところへ行こう。彼女が声明を出せば、この大会のために集まった多くの魔導士を動員出来る。それに加え、特に使い道があるわけじゃないけども王国騎士団だって使える。避難誘導くらいなら彼らに任せた方がいい。

 アポカリプスの相手を編成したら、次はネイ。どうにかして暴走をやめてもらわないといけないんだけど……。ああもう!考えるのがめんどくさい!全員グーで殴って解決してくれないかしら。

「王女様!」

 迷いながらも私は王女様がいる特等の観覧席に突撃した。あまりに突然の事だったので、すぐに臣下のシドウがこちらに剣を向けてきたが、サッとすぐにそれを王女様が制してくれた。

ゼイラ「あなたは先程まであの場にいた魔導士ですね。教えてください。今何が起きているのかを」

 察しのいい人は好きね。面倒な話を一々しなくて済むもの。

「時間がありません。今すぐギルドの魔導士を含めた討伐隊の結成、そして民を王都から避難させる。その2つをすぐに!」

ゼイラ「聞きましたかシドウ。今すぐ隊の結成と避難誘導を!」

シドウ「は、はい!」

 シドウは若干狼狽えつつも、すぐに部屋を出ていった。

ゼイラ「状況の把握は後でします。今は魔導士の皆さんにも声をかけなくてはならないのですよね?」

「ええ。下手したら世界が終わる危機よ。話が早くて助かるわ」

 王女様はこの席に備え付けられた拡声器を通し、声を張り上げる。

ゼイラ「魔導士の皆様、並びに観覧に来てくださっている方々!緊急事態です!今すぐ王都からの避難、そして魔導士の皆様はすぐにでも戦闘態勢に入れるよう準備を!緊急事態です!今すぐに準備を!」

 手早くそれだけを叫ぶと、すぐに王女様はこちらに振り返って、状況を教えてくれと頼んできた。

「アポカリプスっていう世界を滅ぼす龍が現れたわ」

ゼイラ「アポカリプス?」

 ……そっか。先生今回は何も話してないわけね。

「かつて世界の半分を焼いた龍よ。歴史書にはどこにも載ってないっていう都市伝説みたいな龍。それがもうすぐそこまで来てるの。奴が本格的に戦い出したらみんな死ぬわよ」

ゼイラ「そう……ですか。いえ、今はあなたを信じましょう。……それと、先程からあの場で暴れているあなたのお仲間は……」

「あれは私達の問題だから私達で解決するわ。王女様はアポカリプス討伐の方に集中して」

ゼイラ「そうですか。分かりました」

「それじゃあ頼んだわよ」

ゼイラ「あ、あなたのお名前を!」

「ヒカリ・スターフィリア。死なないようにね」
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