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Veritas3章 【運命の分岐点】
Veritas3章6 【勝利の女神がいた世界】
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「いっ……」
エフィ「すみません。ちょっと我慢してください」
「いやいいのよ。……慣れても嫌なもんは嫌ってだけ」
エフィ「ヒカリさんにも弱点ってあるんですね」
「これを弱点って言うのかしら。まあいいけども」
夜明けが訪れ、ようやく街が落ち着き出したところで、私は念願叶っての治療を受けていた。元々外傷が酷かったっていうのに、戦いの後処理をほぼ1人でやっちゃってたから休む暇もなかったのよね。まあ、薄くても邪龍の血はあるわけだし、そのおかげで長時間活動出来たんでしょうけど。
ーーいや、展開早過ぎない!?まだ6話目なんだけど!戦いの決着着くまでが秒すぎるでしょ!
エフィ「……ネイさん。大丈夫でしょうか?」
「……流石に、今回ばかりはいくらあの子でもダメかもね」
エフィ「体の方なら私が治してあげられるんですけど、心となるともう……」
「……」
エフィによる治療は終わり、私は仕事の続きをと救護テントから出た。そうすればすぐにやってくるのは金髪高品位な王女様。
ゼイラ「此度の戦い、ヒカリ様の指示が無ければ危うく大惨事になるところでした」
「もう十分なってると思うけどね」
街は元の面影がほとんどないってくらいに崩壊している。アポカリプスをすぐに止められず、しばらく暴れてしまう状況を許してしまったせいだ。まあ、一応建物の残骸が残ってるだけ時間は稼げた方かしら。
ゼイラ「街はいいです。また作り直せばいいだけですから。それよりも、私はこの惨事を誰も死なずに乗り越えられたというだけで嬉しいのです。人は死ねば作り直すことが出来ない。何よりも重んじるべきものですから。そして、そんな多くの人を救えたのは、ヒカリ様がすぐに状況の把握とご指示をくださったおかげです。ありがとうございました」
「やめてちょうだい。仮にも一国の王女様に頭を下げられるだなんて、そんな大層なことをした覚えはないわ」
……強いて言うなら、ただネイを止めたかっただけってくらいだし。
ゼイラ「しかし、そんな大きな働きをしたヒカリ様に何も無しというのは……」
「だからいいって。私のことを気にするよりもやるべきことがあるでしょ、王女様には」
ゼイラ「……私は、此度の戦いにおいてほとんど何も出来ずにいました。ヒカリ様が報せてくださらなければ、あのアポカリプスという厄災に気づくこともなかったでしょう。私は、私の不甲斐なさを許せないのです」
「でもしっかりと権力振りかざして動いてくれたじゃない。見ず知らずの私の声をちゃんと聞いて、それを他の魔導士達に伝えてって。やるべきことはちゃんとやってるんだからそんなにくよくよしない!はい!この話終わり!私やることあるから!」
無理矢理にでも話を切り上げないと、多分あの王女様は一生ネチネチしてくるだろうと思い、強引に話を切り上げた。
……まあ、やるべきことって言っても、あとのことはフウロ達に任せちゃったし別に何かすることってのも無いんだけどね。瓦礫撤去とかを進めようにも、こういうのは計画を立ててからやんないと余計に散らかるだけだし。……ここに来てテロリスト時代の経験が生きてくるわね。
「……少し、あの子の様子でも見に行こうかしら」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「お、いたいた。おーい、ネイー!」
瓦礫の山の上にちょこんと座るネイを見つけ、俺は名前を呼びながら近づくんだが、いつもみたいに嬉しそうにこちらを振り向く動作がない。寝てるのか?……ん?いつもみたいに?
「おーい、ネイ?」
ネイ「……」
「……どうしたよ。そんなボーッとして」
寝てるわけではなかったが、変わらず遠くを見つめて何を思ってるのかも分からない無感情な目をしているネイ。何か見えるのかと隣に座ってみたが、見えるのは崩壊した王都の街並みだけ。特に珍しいもんなんてない。
「どうしたよ。急にいなくなったと思ったらこんなところでボーッとしちまってさ」
ネイ「……」
「なあ?ネイ」
ネイ「……」
返事がない。ただの屍のようだ。
そういや、背中が弱点とかヒカリが言ってた気がするな。試しになぞってみるか。
ネイ「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
予想以上に大きなリアクションを取り、そのまま2転3転と転がって行ってしまって、やらかしたと盛大に焦る俺。案の定、助けに行ったら「いきなり何するんですか!それやめてくださいって言ったじゃないですか!」と猛抗議された。やめてくださいって、別にこれやるの初めてなんだけどな。……初めてなのか?
ネイ「……いるならいるって言ってくださいよ」
「いやさっきからずっと隣で呼び続けてたんだが」
改めてまた瓦礫の山の上に腰を落ち着け、今度はちゃんと会話が出来る状態になる。
「で、どうしたんだ?ずっとボーッとしてたけどよ。なんか見えんのか?こっから」
ネイ「……いえ。ただ、本当にただボーッとしてただけです」
にしては反応が無さすぎたけどな。
ネイ「私って、ヴァル達に未来人だって言ってるんですよね」
「いきなりどうしたよ。そんなのみんなの共通認識……ってのは怪しいけど、まあ俺は信じてるよ」
ネイ「そうですか」
また俯き気味に遠くを眺めだしてしまうネイ。なんかこいつがこんな調子だとこっちの調子も狂っちまうな。折角アポカリプスとかいうなんかヤベェ奴を余裕で捕らえたっていう伝説作ったのに、何がそんなに不満なのやら。
ネイ「私、ヴァルのことが好きです」
「ああ知ってるよ。何回も聞いた」
ネイ「未来では夫婦でした」
「それも熱弁された。実感湧かなかったし、みんなが有り得ねぇ有り得ねぇ言うから俺もそれだけは無ぇと思ってた」
ネイ「子供もいました」
「それは初耳だな!?」
子供!?未来人ってのは信じても結婚の話は全然信じられなかったのに、そっから更にワンステップ進んで子供だと!?
ネイ「……やっぱり、知らないですか」
「知らないっていうか、その事実は初めて聞いたんだが」
ネイ「そりゃそうですよ。私は昨日までの私とは違うんですから」
「……?」
はい?
ネイ「……ヴァル。未来って、私が話した通りの未来だけだと思ってますか」
「んん?何言ってんだ?」
ネイ「かつての私が話した世界。絶望に満ちた中にある一筋の希望。そんな世界とは真逆の未来。みんなが幸せに、ハッピーエンドで終わった世界があるって言ったら、信じますか?」
信じますかって、これまた突拍子も無い話だな、おい。
「まあ、今更ってところはあるけど。……気になるっちゃ気になる。ハッピーエンドで終わったってのが」
ネイ「……聞きますか。もう1つの未来のお話を」
「……暇だし聞かせてくれ」
ネイ「数々の思い出を積み重ね、世界を、自分達の居場所を守るために戦ってきた魔導士達。その多くはそれぞれの戦いに勝利を収めたものの、遂に訪れた世界の終焉によって皆消滅してしまいました。ですが、奇跡的にその消滅を免れた魔導士達がいて、最後の戦いに臨みました。負ければ自分達諸共世界は消える。そんな、1歩踏み間違えれば終わりのギリギリの戦いで、魔導士達は勝利を収めた。そして、その戦いの英雄となった1人の魔導士がいた。彼は、世界を元に戻す手段を手にしていた。しかし、その手段を使えば自分が消えてしまう。自分が愛した世界を守るために、自分が消えなければならない。そんな、普通の人なら迷いに迷う選択を、彼は迷うことなく選んだ。自身が消滅する代わりに世界を元に戻す方法を。そして生まれ変わった世界。誰も彼もが英雄のことを忘れ、幸せそうに暮らしていた世界で、唯一彼のことを覚えかけている少女がいた。しかし、その少女もすぐに忘れてしまう。忘れたくない。忘れさせてほしくない。そう泣き叫んでも徐々に記憶は消えてゆく。もう抗うことは出来なかった。それでも、彼女は抗った。たった1人の大切な人を取り戻すために、彼女は女神となって抗った。彼が与えてくれた勝利がこの世界だと言うのなら、彼女は彼女が出した勝利でこの世界を塗り替える。例え誰に咎められようとも彼女は諦めなかった。……ヴァル。あなたを取り戻すために。好きです。大好きです」
「……」
ネイ「聞いてます?」
「あ、いや、聞いてるっちゃ聞いてるんだが……」
そもそも前に聞いた未来の話すらまだ理解しきってねぇってのに、そこに新しく重ねがけされても余計混乱するってだけだ。しかもさらっと告白されたところでどう答えてやりゃいいんだか。
ネイ「まあ、そうですよね。いきなり未来がどうこう言ったところで理解してくれるのはヒカリちゃんくらいです」
「……」
ネイ「幸せでした。凄く、幸せな時間でした。もうこれといって大きな戦いはなくて、ただただ平和な日が続いていく。ずっと、ずっとそんな日が続いてくれるって、疑わなかった」
ふと横を向けば、ネイがまた涙を流しているのが見えた。
ネイ「やっと、やっと、掴んだ未来だったっていうのに……!なんで!なんで!」
大粒の涙を流し始めてしまったこいつに、どう言葉をかければいいのかが分からなくて、俺はただそっと優しく抱きしめてやるくらいしか出来なかった。
ネイ「もう嫌だぁぁぁぁぁ……!」
慰めてやることなんか今の俺には到底無理な話で、そんな自分がすげぇもどかしかった。
「未来の俺なら、もっと色々してやれんのかな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
物陰からひっそりと2人の様子を見つめる私。別に出て行っても良かったと思うんだけど、あの2人の関係を考えるとただの邪魔にしかならないと思ってしまった。
前までのあの子相手ならもっと強気に出られた気がする。でも、今のあの子相手じゃ無意識に遠慮してしまう。
「ラナも随分と鬼畜なことするもんよ」
ラナ「別に、わざとやったわけじゃないんだけどねぇ。それより、盗み見なんて行儀が悪いんじゃないか?」
メモリを渡すだけ渡してさっさと姿を消していたラナ。今更になってフッと幽霊みたいに現れた。
「あんたこそ行儀悪いんじゃない?ついでに態度も」
ラナ「お互い様さ」
「……」
元は同じ人間って言うけれど、まあ根っこの部分が同じなのは認めるけどもこんな性悪と同じだなんて思いたくないのよ。
ラナ「あれは、君が読んだ本にも、僕が書いた本にも載っていない別の未来から連れてきたネイだ」
「聞いた感じ、ハッピーエンド……最後の戦いを乗り越えた世界から連れて来たってことよね?」
ラナ「そうだ。アヌを倒し、その先にいたステラも突破した。以前までの彼女と比べれば、色々と知っているものが違うはずだよ」
「精神面はちょっと不安定になってるようだけどね」
ラナ「負けを知らないからだろう。大切な人を失っても取り戻してしまった。敗北することを知らなかった勝利の女神だ。そんな彼女が、唯一知ってしまった敗北。それが、彼女が存在していた世界の消滅だ」
「……消滅?」
ラナ「消えたんだよ、その未来は」
消えた……。聞くだけならもう何も無いって世界で何が起きたって言うのかしら。
ラナ「この世界が無限に繰り返し続けているのは君も知っているだろう?」
「……ええ。あの子も口癖みたいに言ってたわよ。この繰り返す世界を突破するって」
ラナ「そう。僕らはそのために何度も過去に舞い戻っては戦い続けてきたわけだが、そのループを突破したと思った世界ですら実は突破出来ていなかったというオチがついてしまったわけさ」
「……結局、何が原因だったの?」
ラナ「分からない。何がループの起点になるのかは分からず仕舞だった。調べる時間は全然無かったよ。彼女の記憶を持ち帰るだけで精一杯だったさ」
「……」
ラナ「彼女にとっては気の毒な話かもしれない。しかし、この世界のループを抜け出すためには彼女、ニケの力が必要だ。それが、僕、否、彼女が出した結論だ」
「……もう何でもいいわよ。でも、あんまり1人で無茶するんじゃないわよ」
ラナ「珍しい気遣いどうもだ。それじゃ、そろそろ僕らもお邪魔虫になることにしようか。あんなの見せられ続けてるとちょっと妬いちゃうからね」
エフィ「すみません。ちょっと我慢してください」
「いやいいのよ。……慣れても嫌なもんは嫌ってだけ」
エフィ「ヒカリさんにも弱点ってあるんですね」
「これを弱点って言うのかしら。まあいいけども」
夜明けが訪れ、ようやく街が落ち着き出したところで、私は念願叶っての治療を受けていた。元々外傷が酷かったっていうのに、戦いの後処理をほぼ1人でやっちゃってたから休む暇もなかったのよね。まあ、薄くても邪龍の血はあるわけだし、そのおかげで長時間活動出来たんでしょうけど。
ーーいや、展開早過ぎない!?まだ6話目なんだけど!戦いの決着着くまでが秒すぎるでしょ!
エフィ「……ネイさん。大丈夫でしょうか?」
「……流石に、今回ばかりはいくらあの子でもダメかもね」
エフィ「体の方なら私が治してあげられるんですけど、心となるともう……」
「……」
エフィによる治療は終わり、私は仕事の続きをと救護テントから出た。そうすればすぐにやってくるのは金髪高品位な王女様。
ゼイラ「此度の戦い、ヒカリ様の指示が無ければ危うく大惨事になるところでした」
「もう十分なってると思うけどね」
街は元の面影がほとんどないってくらいに崩壊している。アポカリプスをすぐに止められず、しばらく暴れてしまう状況を許してしまったせいだ。まあ、一応建物の残骸が残ってるだけ時間は稼げた方かしら。
ゼイラ「街はいいです。また作り直せばいいだけですから。それよりも、私はこの惨事を誰も死なずに乗り越えられたというだけで嬉しいのです。人は死ねば作り直すことが出来ない。何よりも重んじるべきものですから。そして、そんな多くの人を救えたのは、ヒカリ様がすぐに状況の把握とご指示をくださったおかげです。ありがとうございました」
「やめてちょうだい。仮にも一国の王女様に頭を下げられるだなんて、そんな大層なことをした覚えはないわ」
……強いて言うなら、ただネイを止めたかっただけってくらいだし。
ゼイラ「しかし、そんな大きな働きをしたヒカリ様に何も無しというのは……」
「だからいいって。私のことを気にするよりもやるべきことがあるでしょ、王女様には」
ゼイラ「……私は、此度の戦いにおいてほとんど何も出来ずにいました。ヒカリ様が報せてくださらなければ、あのアポカリプスという厄災に気づくこともなかったでしょう。私は、私の不甲斐なさを許せないのです」
「でもしっかりと権力振りかざして動いてくれたじゃない。見ず知らずの私の声をちゃんと聞いて、それを他の魔導士達に伝えてって。やるべきことはちゃんとやってるんだからそんなにくよくよしない!はい!この話終わり!私やることあるから!」
無理矢理にでも話を切り上げないと、多分あの王女様は一生ネチネチしてくるだろうと思い、強引に話を切り上げた。
……まあ、やるべきことって言っても、あとのことはフウロ達に任せちゃったし別に何かすることってのも無いんだけどね。瓦礫撤去とかを進めようにも、こういうのは計画を立ててからやんないと余計に散らかるだけだし。……ここに来てテロリスト時代の経験が生きてくるわね。
「……少し、あの子の様子でも見に行こうかしら」
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「お、いたいた。おーい、ネイー!」
瓦礫の山の上にちょこんと座るネイを見つけ、俺は名前を呼びながら近づくんだが、いつもみたいに嬉しそうにこちらを振り向く動作がない。寝てるのか?……ん?いつもみたいに?
「おーい、ネイ?」
ネイ「……」
「……どうしたよ。そんなボーッとして」
寝てるわけではなかったが、変わらず遠くを見つめて何を思ってるのかも分からない無感情な目をしているネイ。何か見えるのかと隣に座ってみたが、見えるのは崩壊した王都の街並みだけ。特に珍しいもんなんてない。
「どうしたよ。急にいなくなったと思ったらこんなところでボーッとしちまってさ」
ネイ「……」
「なあ?ネイ」
ネイ「……」
返事がない。ただの屍のようだ。
そういや、背中が弱点とかヒカリが言ってた気がするな。試しになぞってみるか。
ネイ「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
予想以上に大きなリアクションを取り、そのまま2転3転と転がって行ってしまって、やらかしたと盛大に焦る俺。案の定、助けに行ったら「いきなり何するんですか!それやめてくださいって言ったじゃないですか!」と猛抗議された。やめてくださいって、別にこれやるの初めてなんだけどな。……初めてなのか?
ネイ「……いるならいるって言ってくださいよ」
「いやさっきからずっと隣で呼び続けてたんだが」
改めてまた瓦礫の山の上に腰を落ち着け、今度はちゃんと会話が出来る状態になる。
「で、どうしたんだ?ずっとボーッとしてたけどよ。なんか見えんのか?こっから」
ネイ「……いえ。ただ、本当にただボーッとしてただけです」
にしては反応が無さすぎたけどな。
ネイ「私って、ヴァル達に未来人だって言ってるんですよね」
「いきなりどうしたよ。そんなのみんなの共通認識……ってのは怪しいけど、まあ俺は信じてるよ」
ネイ「そうですか」
また俯き気味に遠くを眺めだしてしまうネイ。なんかこいつがこんな調子だとこっちの調子も狂っちまうな。折角アポカリプスとかいうなんかヤベェ奴を余裕で捕らえたっていう伝説作ったのに、何がそんなに不満なのやら。
ネイ「私、ヴァルのことが好きです」
「ああ知ってるよ。何回も聞いた」
ネイ「未来では夫婦でした」
「それも熱弁された。実感湧かなかったし、みんなが有り得ねぇ有り得ねぇ言うから俺もそれだけは無ぇと思ってた」
ネイ「子供もいました」
「それは初耳だな!?」
子供!?未来人ってのは信じても結婚の話は全然信じられなかったのに、そっから更にワンステップ進んで子供だと!?
ネイ「……やっぱり、知らないですか」
「知らないっていうか、その事実は初めて聞いたんだが」
ネイ「そりゃそうですよ。私は昨日までの私とは違うんですから」
「……?」
はい?
ネイ「……ヴァル。未来って、私が話した通りの未来だけだと思ってますか」
「んん?何言ってんだ?」
ネイ「かつての私が話した世界。絶望に満ちた中にある一筋の希望。そんな世界とは真逆の未来。みんなが幸せに、ハッピーエンドで終わった世界があるって言ったら、信じますか?」
信じますかって、これまた突拍子も無い話だな、おい。
「まあ、今更ってところはあるけど。……気になるっちゃ気になる。ハッピーエンドで終わったってのが」
ネイ「……聞きますか。もう1つの未来のお話を」
「……暇だし聞かせてくれ」
ネイ「数々の思い出を積み重ね、世界を、自分達の居場所を守るために戦ってきた魔導士達。その多くはそれぞれの戦いに勝利を収めたものの、遂に訪れた世界の終焉によって皆消滅してしまいました。ですが、奇跡的にその消滅を免れた魔導士達がいて、最後の戦いに臨みました。負ければ自分達諸共世界は消える。そんな、1歩踏み間違えれば終わりのギリギリの戦いで、魔導士達は勝利を収めた。そして、その戦いの英雄となった1人の魔導士がいた。彼は、世界を元に戻す手段を手にしていた。しかし、その手段を使えば自分が消えてしまう。自分が愛した世界を守るために、自分が消えなければならない。そんな、普通の人なら迷いに迷う選択を、彼は迷うことなく選んだ。自身が消滅する代わりに世界を元に戻す方法を。そして生まれ変わった世界。誰も彼もが英雄のことを忘れ、幸せそうに暮らしていた世界で、唯一彼のことを覚えかけている少女がいた。しかし、その少女もすぐに忘れてしまう。忘れたくない。忘れさせてほしくない。そう泣き叫んでも徐々に記憶は消えてゆく。もう抗うことは出来なかった。それでも、彼女は抗った。たった1人の大切な人を取り戻すために、彼女は女神となって抗った。彼が与えてくれた勝利がこの世界だと言うのなら、彼女は彼女が出した勝利でこの世界を塗り替える。例え誰に咎められようとも彼女は諦めなかった。……ヴァル。あなたを取り戻すために。好きです。大好きです」
「……」
ネイ「聞いてます?」
「あ、いや、聞いてるっちゃ聞いてるんだが……」
そもそも前に聞いた未来の話すらまだ理解しきってねぇってのに、そこに新しく重ねがけされても余計混乱するってだけだ。しかもさらっと告白されたところでどう答えてやりゃいいんだか。
ネイ「まあ、そうですよね。いきなり未来がどうこう言ったところで理解してくれるのはヒカリちゃんくらいです」
「……」
ネイ「幸せでした。凄く、幸せな時間でした。もうこれといって大きな戦いはなくて、ただただ平和な日が続いていく。ずっと、ずっとそんな日が続いてくれるって、疑わなかった」
ふと横を向けば、ネイがまた涙を流しているのが見えた。
ネイ「やっと、やっと、掴んだ未来だったっていうのに……!なんで!なんで!」
大粒の涙を流し始めてしまったこいつに、どう言葉をかければいいのかが分からなくて、俺はただそっと優しく抱きしめてやるくらいしか出来なかった。
ネイ「もう嫌だぁぁぁぁぁ……!」
慰めてやることなんか今の俺には到底無理な話で、そんな自分がすげぇもどかしかった。
「未来の俺なら、もっと色々してやれんのかな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
物陰からひっそりと2人の様子を見つめる私。別に出て行っても良かったと思うんだけど、あの2人の関係を考えるとただの邪魔にしかならないと思ってしまった。
前までのあの子相手ならもっと強気に出られた気がする。でも、今のあの子相手じゃ無意識に遠慮してしまう。
「ラナも随分と鬼畜なことするもんよ」
ラナ「別に、わざとやったわけじゃないんだけどねぇ。それより、盗み見なんて行儀が悪いんじゃないか?」
メモリを渡すだけ渡してさっさと姿を消していたラナ。今更になってフッと幽霊みたいに現れた。
「あんたこそ行儀悪いんじゃない?ついでに態度も」
ラナ「お互い様さ」
「……」
元は同じ人間って言うけれど、まあ根っこの部分が同じなのは認めるけどもこんな性悪と同じだなんて思いたくないのよ。
ラナ「あれは、君が読んだ本にも、僕が書いた本にも載っていない別の未来から連れてきたネイだ」
「聞いた感じ、ハッピーエンド……最後の戦いを乗り越えた世界から連れて来たってことよね?」
ラナ「そうだ。アヌを倒し、その先にいたステラも突破した。以前までの彼女と比べれば、色々と知っているものが違うはずだよ」
「精神面はちょっと不安定になってるようだけどね」
ラナ「負けを知らないからだろう。大切な人を失っても取り戻してしまった。敗北することを知らなかった勝利の女神だ。そんな彼女が、唯一知ってしまった敗北。それが、彼女が存在していた世界の消滅だ」
「……消滅?」
ラナ「消えたんだよ、その未来は」
消えた……。聞くだけならもう何も無いって世界で何が起きたって言うのかしら。
ラナ「この世界が無限に繰り返し続けているのは君も知っているだろう?」
「……ええ。あの子も口癖みたいに言ってたわよ。この繰り返す世界を突破するって」
ラナ「そう。僕らはそのために何度も過去に舞い戻っては戦い続けてきたわけだが、そのループを突破したと思った世界ですら実は突破出来ていなかったというオチがついてしまったわけさ」
「……結局、何が原因だったの?」
ラナ「分からない。何がループの起点になるのかは分からず仕舞だった。調べる時間は全然無かったよ。彼女の記憶を持ち帰るだけで精一杯だったさ」
「……」
ラナ「彼女にとっては気の毒な話かもしれない。しかし、この世界のループを抜け出すためには彼女、ニケの力が必要だ。それが、僕、否、彼女が出した結論だ」
「……もう何でもいいわよ。でも、あんまり1人で無茶するんじゃないわよ」
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