グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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Maledictio4章 【物語の罰】

Maledictio4章8 【突入:精霊界】

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 ーー翌日。

「よし、全員揃っ……てはないな」

 今日がいよいよ決戦。精霊界に突入する準備は万端なのだが、肝心のヒカリはまだ帰ってきてないようだ。

セリカ「この間の話的に、ヒカリんはいた方がいいんだよね?」

「……どうなんだろうな」

 あいつがこの世界の中心であることに間違いはないんだが、それ故にどうやっても死ぬ運命を辿るヒカリを、こうして戦いに巻き込むのは正しいことなのかと疑問に思う。

 どうやっても死ぬのであれば、何をしても無駄と考えるかもしれんが、出来るだけ死地から遠ざけるのも1つの手なんじゃないかと思う。……まあ、それで上手く行くならこれまでのどっかの周で達成してるだろ。

 つまるところ、ヒカリは極力目の届く位置に置いといた方がいいってわけで、今絶賛目の届かないところに行ってるわけだが。

「帰ってくるまで待つのもいいんだけど……」

サテラ「生憎そこまでの時間は無いと思いますよ」

 と、ここでサテラが俺の背中を突っつきながらそう言ってきた。

サテラ「ほら、こうしてる間にもヴェリアがあっちこっちで暴れてるかもしれませんし?ね」

「まあ、そうだな」

 それだけ言い残すと、サテラはドーナツ片手に部屋の隅の方まで歩いて行った。

 戦う前だってのに呑気な奴だなと思いはしたが、多分あいつにとってこの戦いはただの通過点でしかないのだろう。それ故の余裕か、もしくは見栄か、どちらにせよ気にかけてやらねぇとな。

セリカ「ヴァルって、サテラんとそんなに仲良かったっけ?」

「んー、まあ、この間一緒に色々回ってきたところだしな」

セリカ「ふーん」

 なんか意味深な笑みを向けられたが、まさかだけどバレてる?いや、んなわけないよな。

 さてとーー

「みんな、今だから最後の確認ってことになるんだが……。ーー覚悟は出来てるな」

ヴェルド「今更だろ。さっさと行って、フウロたちの仇取ってやろうぜ!」

ライオス「そうだな。仇討ち……そして、この腐った世界を正そう」

 見渡せば、各々がやる気に満ちた顔をしてくれている。本当、言葉で説明されても訳分かんねぇ事だってのに、よく付いてきてくれるよ。ったく……。

「ぶっ飛ばすぞ精霊王!俺たちの未来のために!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ーー精霊界虚無ノ惑星。

 その後、俺たちはエンマとゼラ、2人の反精霊王派の力を借り、ギルドの地下に精霊界への入口を作ってそこから突入を開始した。

 精霊界ってとこは、見渡す限り小さな星?が大量に続く宇宙のような場所で、そのせいか体にかかる重力も俺たちの世界に比べりゃかなり軽い。

 全体的にふわふわしているせいで少し動きにくいのだが、まあしばらくすれば慣れるだろう。

ヴェルド「精霊界って、聞いた感じじゃそこら中にウジャウジャ精霊がいるもんかって思ってたが、案外そうでもないんだな」

エンマ「ま、精霊も安く生まれる存在じゃねぇしな。それに、ここは俺たちの世界でも特に異質な虚無の空間。普通の精霊は足踏み入れねぇよ」

 じゃあなんでそんな場所に案内したんだって聞きたくなったタイミングで、丁度その理由が現れる。

ゼラ「さてさて、皆さん見えてきましたよ~!我らが精霊王とその下僕たちの姿が!」

 ゼラがそう叫んだのと同時に、目の前の視界が広がる。そこにはこの小さな星が並ぶ空間でも特に大きめのサイズを誇る星に、ゆったりとした姿勢で佇む1人の男がいる。そして、その男を取り囲むようにして灰色の煙が充満している。

「あれか。精霊王ってのは」

ゼラ「そうです。本当、見れば見るほど憎たらしい我らの王です!」

 憎たらしいかどうかは置いといて、確かに王って気迫を感じる異質さはある。

 精霊王はこちらの姿に気が付くと、周りの煙を手で払い、何も無いはずの場所を踏んで階段を下るようにして俺たちのところにまで降りてくる。

精霊王「生意気な人間風情だ。世界が再生する前に全て滅ぼしてやる」

 殺意マシマシな発言の後繰り出された黒色の光を前に、咄嗟の防御も虚しく、俺たちの意識は闇へと落ちた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「……っ」

 ここは……、まだ精霊界のようだな。

「ったく、先手必勝とはよく言ったが、どこに飛ばしやがったあの野郎……!」

 みんなと離れ離れになってしまった。まあそれくらいの状況にさせられるかもしれんことは想定してたが、やっぱ慣れねぇ土地で1人ってのは心細いな。せめて誰かと合流出来ればいいんだが。

「よう。1人だと不安、みてぇな顔してんな」

 誰かの声が聞こえた!と思って振り返った瞬間、そこにいたのは期待していた顔触れではなかった。それどころか、一目で敵だと分かる顔がそこにはいた。

「……」

「ドッペルゲンガーって知ってるか?」

「……自分と同じ顔した奴と会ったら死ぬって奴か」

「ご名答」

 そこにいた奴の顔。それは、毎朝鏡の前で向き合わせている面だった。

 確かに、ヴェリアの特性を考えれば誰かに化けて出てくる、なんてことは普通にあるだろう。事実、過去の記憶を遡ってみれば、エレノアに化けて襲ってきたなんて記憶もあるわけだし、こういうことだって予想していた。だがなーー

「流石に性格悪すぎだろ」

「他の奴らに化けて出てやっても良かったんだぜ?その方が騙し討ちしやすいだろ?」

 それもそうかと謎の納得をしつつ、俺はすぐさま地面を蹴飛ばして奴の顔面に強烈なパンチを喰らわす!だが、奴も俺と同じタイミングで地面を蹴っており、互いの拳が交差する形でお互いにダメージが入る。

「ちっ、威力もまんま再現かよ……!」

「だが、そっちにあるはずの痛みはこっちには無いんだぜ?」

 俺が痛みで怯んでいるというのに、奴は何食わぬ顔で再びパンチを放ってくる。

 咄嗟に避けてカウンターを仕込もうと思えば、ダメージ喰らうのはどうってことない顔で防ぎもせず次の攻撃を仕掛けてくる。

 同じ顔、同じ戦い方、だが向こうに痛みという概念が存在しない。それどころか、死んでも大丈夫だとでも思ってそうな思考。

「何もかも厄介すぎだろ……」

 再現された存在であることを自覚し、死に対しての恐怖がねぇこいつら。全く、見ていて気分が悪い。

「オラオラァ!防いでるばっかじゃ負けちまうぞ!本物!」

「っ……!」

 挑発に乗って攻撃などしようものなら、向こうは手薄になったところを確実に攻めてくる。だが、このまま防御してても埒が明かないのは事実。

「なら、遠距離からならどうだ!」

 奴から無理矢理距離を取り、極龍王の咆哮で攻めてみる。だが、その攻撃は同時に奴が放った極龍王の咆哮により相殺されてしまう。

「ちっ……!」

「威力は全く同じだ。打ち消し合うに決まってるだろ?」

「……だろうな」

 透かした顔しやがって……。ただ人のもん真似してるだけってのに、こうもオリジナルより上手く戦われちゃ腹が立って仕方ねぇな。

「じゃ、まだまだ行くぜ!」

 再び奴が地面を蹴りあげこちらに迫ってくる。

 受け止めればそれなりのダメージが、反撃に転じればそれ以上のダメージが。選択肢は2つ?いや、3つ目がある。

「お前とやり合う気はねぇよ!」

 奴の攻撃をかわし、俺は一直線にこの場から逃げ出した。

「は?」

 どうせヴェリアのことだ。倒したって復活してくるに決まってる。ならここは、無理に戦って消耗するより、先にみんなと合流しちまう方がいい。

「ちっ、待てゴルァ!」

 後ろから奴が追いかけてくる。俺が使う魔法を雑に放ってくるが、んなもん全部無視だ無視。どうしても当たるってもんだけは同じのをぶつけて相殺しておく。威力が同じだから確実に相殺できる点だけはやりやすくていいな。それ以外はむず痒い相手だが。

 そうこうして、道とは呼べない星を手当たり次第に渡り歩いていると、少し先の方で俺たちとは違う戦闘音が聞こえてくる。

ミカヤ「せい!らぁ!」

 聞こえてきたのはミカヤの声。一瞬無視しようかとも思ったが、今は味方であることを思い出し、ミカヤの偽物にキックを入れる形で乱入する(偽物の方が煙っぽいものを纏ってるので違いはハッキリとわかる)。

ミカヤ「おや、あなたは」

「今は味方、だろ?」

ミカヤ「……しっかりしてらっしゃることで。そしてそちらからやって来るのは……」

「待ァてゴルァ!!」

「見ての通り俺の偽物だ」

ミカヤ「なるほど。ヴェリアというのは随分と性格の悪いようで」

「全くだ」

 ミカヤは俺の背に自分の背を合わせ、俺の偽物に対して攻撃する。そして俺はミカヤの偽物に対して炎を吹く。

 流石の偽物でも、同じ技を再現出来ないとなれば一瞬の躊躇いを起こすようで、俺たちの攻撃は見事にヒットした。オマケに、こちらへのダメージは無しでな。

ミカヤ「ヴァルさん、1つ提案があるのですが」

「互いの偽物は互いでやろうってだけだろ?」

ミカヤ「察しが良い事で」

 互いに地を蹴り出し、それぞれの偽物に向けて攻撃を開始する。

「極龍王の鉄砕!」
ミカヤ「自由の牢獄」

 俺はミカヤの顔面に強烈なパンチを、ミカヤは俺の偽物の四肢を鎖で縛り付け、そのままブチッと引きちぎる。

 俺たちの偽物はフワッと煙になって姿を消し、その数秒後には何事も無かったかのように、再び煙が集まって俺たちの姿を作り出した。

「ちっ、やっぱこうなるか……」

ミカヤ「予想通りすぎですね」

 倒しても無限に復活するのは何となく読めてたことだが、1分も経たずに蘇るとは、こりゃ益々戦ってる場合じゃないな。

「仕方ねぇ」
ミカヤ「ここはもちろん」

「「 逃げる!! 」」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 何度繰り返し、何度間違え、何度挑み続けてきたのか。

 それは、並の精神で為せる業ではなく、神、否、神という存在すら超えた超常の存在。

「全く、何度目だ?」

「さあ?何度目でしょう?」

 幾度となく繰り返し、立ちはだかり、敗れ、それでも尚立ち上がり続けた。

 唯一記憶を保持し、全ての感情を抑え、ただひたすらに戦い続けた。その目的は、運命という枠から外れた"奇跡"を起こすため。

「奇跡を起こすために、お前は幾つを犠牲にしてきた?」

「……」

「答えられぬ、というわけではあるまいな。ーーいや、答える必要も無いと言ったところか」

「流石。よく分かってらっしゃることで」

 悪戯っぽく微笑む彼女の後ろには、幾つもの死体が転がる。それは、これまでに滅んできた世界の残穢。向かってくるそれを、彼女が何の躊躇いもなく打ち倒してきた証。

「さて、精霊王。私にこのような策を施しても意味がありませんよ」

 彼女はその場で、最後の1つに剣を突き刺す。

「私に未練は存在しない。躊躇うこともない。私は未来を創るために戦う。例え、世界から嫌われようと、例え、この魂が朽ち果てようと、私は私が愛した人たちのために戦う」

 死体であったヴェリアが全て煙となって消える。手元に引き戻そうとしても、その存在が完全に消えてしまったためか、戻ってくることはない。

「さあ、精霊王。私が相手ですよ?」

 先程までの人間の少女らしい笑みとは違い、今この場にいる彼女は、鬼のように、鬼気迫る顔をしていた。
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