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第一章
第一話
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繋がる手を、引き裂きたい。
でもそんな資格、俺にはないから。
負け犬は、遠吠えすることさえ出来なかった。
大学二年生になった。
新入生を勧誘するサークルのチラシ配り、運動部の誘い文句に騒がしかった正門も、今となれば静かなもので、吹く風が徐々に熱を孕んでいく。若葉が揺れる、初夏のこと。
俺は満員電車を降りて、駅のホームを歩いていた。
大きな駅だ、降車する人間も多ければ、乗り込む人間の数も多い。
人の波に乗って改札口に向かえば、目の前の男のICカードを落ちる。
俺は反射的に拾ってしまった。
「どうぞ」
そう言って手渡せば、男は俺の方を見て、ICカードを手に取ると、俺の腕を掴む。
「一緒に来て」
「は?」
承諾も拒否も選べぬまま、俺は慌てて定期券で改札を抜けると、駅の壁際連れて行かれた。
「ちょっと待って、マジで何?」
俺と同じくらい、それか年上だろうか。俺の腕を突然取って、こんなとこにまで連れてくるくらいには可笑しい人だが、でも、多分悪い人ではないのだろうなと思った。
俺の腕を取る手が、優しい。だから、俺は逃げなかった。
男は立ち止まる。
そして俺の方を振り返った。
俺は思わず、呆然としてしまう。
男は黒髪に、柳眉。涼しげな目元の、イケメンというより美男子、という表現が正しいだろう。
掴まれた手に、思わず熱を覚える。
ダメだ、もう恋はしないと決めた。揺らぐ心を何とか諌める。
「日生くん」
「……え?」
「日生くんでしょ、僕、染崎紫ノ」
「……えっ、紫ノくん!?」
一瞬フリーズした脳みそ。思い出すと、俺は飛び上がりそうになった。いや、実際少し飛び上がった。
染崎紫ノくん。俺の小学校時代の親友だった男だ。
俺は小学生を卒業してからは関東ではなく、地方で育ったから、連絡先もわからないまま、疎遠になっていった。でもまだ、年賀状は届く。いつかまた会いたいなと思いながら、年賀状を返していた。
そして、気づけば大学生になって、俺は地方から関東に戻って、進学したのだ。
また連絡したら、再会できるだろうか。そんな事を思いながら、俺は日々を過ごしていた。
それにしても、とんでもない偶然だ。
俺は手首を握る手を取って、握手する。
「久しぶり、紫ノくん! 俺だよ、日生だよ! わかる?」
「わかるから声、かけたんだよ。一緒の電車乗っててもなかなか気づいてくれないから」
「え、そうなの?」
「うん、もう十回以上おんなじ車両、乗ってるよ」
「ええ!?」
俺は心底驚いていた。だって、十回も同じ車両に乗っているということは、ちらりと顔が見える機会があって、紫ノくんは気づいたという事だろう。
つまり、薄情者は俺だったという話である。
俺は眉を下げて謝る。そして握手している手を離そうとしたら、今度は紫ノくんが手を握ってくる。俺は内心ドキッとしたけど、何も言わなかった。
「どこの大学、通ってるの」
「明城」
「僕も」
「マジかよ、なんで俺気づかなかったんだろう。学部は?」
「経済」
「あー、俺文学だわ」
それにしてもこんな美男子いるなら噂にもなりそうなのに、どうして紫ノくんの話は聞かなかったのだろう。でも俺も噂を好むタイプではないし、そもそもサークルにも部活にも所属していないから、情報源がない。つまり、気づかなくて当然だ。大学には一千人単位で人がいる。
「会計学専攻」
「俺、哲学専攻」
「いいね。楽しそう」
紫ノくんの頬が小さく綻ぶ。そうだ、思い出した。紫ノくんはその出来すぎた容姿を持ちながら、感情表現が希薄で、幼い頃学校の生徒、主に男子に「アンドロイド」なんて表現をされていた。
でもそんな資格、俺にはないから。
負け犬は、遠吠えすることさえ出来なかった。
大学二年生になった。
新入生を勧誘するサークルのチラシ配り、運動部の誘い文句に騒がしかった正門も、今となれば静かなもので、吹く風が徐々に熱を孕んでいく。若葉が揺れる、初夏のこと。
俺は満員電車を降りて、駅のホームを歩いていた。
大きな駅だ、降車する人間も多ければ、乗り込む人間の数も多い。
人の波に乗って改札口に向かえば、目の前の男のICカードを落ちる。
俺は反射的に拾ってしまった。
「どうぞ」
そう言って手渡せば、男は俺の方を見て、ICカードを手に取ると、俺の腕を掴む。
「一緒に来て」
「は?」
承諾も拒否も選べぬまま、俺は慌てて定期券で改札を抜けると、駅の壁際連れて行かれた。
「ちょっと待って、マジで何?」
俺と同じくらい、それか年上だろうか。俺の腕を突然取って、こんなとこにまで連れてくるくらいには可笑しい人だが、でも、多分悪い人ではないのだろうなと思った。
俺の腕を取る手が、優しい。だから、俺は逃げなかった。
男は立ち止まる。
そして俺の方を振り返った。
俺は思わず、呆然としてしまう。
男は黒髪に、柳眉。涼しげな目元の、イケメンというより美男子、という表現が正しいだろう。
掴まれた手に、思わず熱を覚える。
ダメだ、もう恋はしないと決めた。揺らぐ心を何とか諌める。
「日生くん」
「……え?」
「日生くんでしょ、僕、染崎紫ノ」
「……えっ、紫ノくん!?」
一瞬フリーズした脳みそ。思い出すと、俺は飛び上がりそうになった。いや、実際少し飛び上がった。
染崎紫ノくん。俺の小学校時代の親友だった男だ。
俺は小学生を卒業してからは関東ではなく、地方で育ったから、連絡先もわからないまま、疎遠になっていった。でもまだ、年賀状は届く。いつかまた会いたいなと思いながら、年賀状を返していた。
そして、気づけば大学生になって、俺は地方から関東に戻って、進学したのだ。
また連絡したら、再会できるだろうか。そんな事を思いながら、俺は日々を過ごしていた。
それにしても、とんでもない偶然だ。
俺は手首を握る手を取って、握手する。
「久しぶり、紫ノくん! 俺だよ、日生だよ! わかる?」
「わかるから声、かけたんだよ。一緒の電車乗っててもなかなか気づいてくれないから」
「え、そうなの?」
「うん、もう十回以上おんなじ車両、乗ってるよ」
「ええ!?」
俺は心底驚いていた。だって、十回も同じ車両に乗っているということは、ちらりと顔が見える機会があって、紫ノくんは気づいたという事だろう。
つまり、薄情者は俺だったという話である。
俺は眉を下げて謝る。そして握手している手を離そうとしたら、今度は紫ノくんが手を握ってくる。俺は内心ドキッとしたけど、何も言わなかった。
「どこの大学、通ってるの」
「明城」
「僕も」
「マジかよ、なんで俺気づかなかったんだろう。学部は?」
「経済」
「あー、俺文学だわ」
それにしてもこんな美男子いるなら噂にもなりそうなのに、どうして紫ノくんの話は聞かなかったのだろう。でも俺も噂を好むタイプではないし、そもそもサークルにも部活にも所属していないから、情報源がない。つまり、気づかなくて当然だ。大学には一千人単位で人がいる。
「会計学専攻」
「俺、哲学専攻」
「いいね。楽しそう」
紫ノくんの頬が小さく綻ぶ。そうだ、思い出した。紫ノくんはその出来すぎた容姿を持ちながら、感情表現が希薄で、幼い頃学校の生徒、主に男子に「アンドロイド」なんて表現をされていた。
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