30 / 30
第六章
第三話
しおりを挟む
「俺たち、就職するでしょ? 紫ノくんは、どうしたいの? 会社員するの?」
「うん。会社員すると思う」
「俺、出版社に入社しようか迷ってるんだよね」
「出版社?」
紫ノくんが首を傾げる。俺は頷いた。
「迷宮の扉、あったでしょ」
「あったね」
「ああいう、児童文庫を扱ってる会社に入りたいんだ」
「良いんじゃない?」
「応援してくれる?」
紫ノくんは当たり前だと笑ってくれた。この夢は、まだ両親にだって話していない。ちゃんと真面目に学校に通って、単位を取って、そして卒業したら、出版社に入りたい。それが俺の夢だった。
「この家、手狭だから、就職と一緒に引っ越ししないとね」
「そうだね。貯金あるから、そこから出そ」
「貯金?」
「そう、俺一年生の時だけめちゃくちゃバリバリバイトしてたの。それで、時間もないから散財することもなくて、六十万くらい、貯金あるよ」
紫ノくんはびっくりしたような顔をする。六十万、大人にとったら大した金額じゃないのかもしれないけど、これは俺の努力の結晶だ。だから、ずっと大切にしておいた。
「僕も貯金あるから、引っ越し代は二人で折半ね」
「うん。そうしよ」
「どんな部屋にしようかな……」
「日当たりのいいところがいいな」
「洗濯物がよく乾くところがいいよね」
「あと、一階は嫌」
「確かに。後エレベーター付きがいいな」
俺たちはスマホを出すと、物件探しのサイトを見ては、あれやこれやと意見を出す。
まだ先の話だけど、こうして、“二人の未来”の話ができるのが幸せだった。
「え、でも、俺が出版社に就職したら、紫ノくんと同棲、できないんじゃない?」
俺が気づくと、紫ノくんは考えるような顔になった。
「日生くんの会社の近くの会社に就職するよ」
「え、そんな適当な理由で大丈夫なの。とんでもない会社だったらどうするの」
「株でもして稼ぐよ」
他の人間が言うと現実逃避にしか聞こえないが、紫ノくんが言うと本当に聞こえるんだから、不思議なものだ。
「そう言えば紫ノくんのお父さんとお母さんってなんの仕事だっけ」
「医者」
「医者か……」
まず最初に食いっぱぐれがなさそうだなと思ってしまうのは、庶民のサガだろう。
「医者には、最初からなる気無かったの?」
「まともに帰ってこれない親なんか見て、医者になろうとは思わないでしょ」
「あー……。紫ノくん、結構放置されてたもんね」
「産まなきゃ良かったのにね」
「紫ノくん」
俺が怒ったような声を出すと、紫ノくんは首を横に振った。
「ごめん、別に親を恨んでるとか、そう言うんじゃない。でもちゃんと愛情を注げないなら、もっと考えて子供は産むべきだって思っただけだよ」
「紫ノくんが生まれてきてくれたから、俺がいるんだよ」
「うん、大好きだよ、日生くん」
「俺も大好き、生まれてきてくれてありがとう、紫ノくん」
そして俺は、そう言えば、と思い出した。
「紫ノくんそろそろ誕生日だよね?」
「うん」
「何がいい? プレゼント、奮発するよ」
「……」
俺は期待に目を輝かせた。紫ノくんは物欲がないタイプの男だ。本が欲しいとでも言うのだろうか。何冊だって買ってあげよう。
「紫ノくんが欲しい」
「……え?」
「紫ノくんが欲しい。考えておいて」
「あ、……はい」
俺は、どう噛み砕けばいいかわからなかった。
俺が欲しい。つまり、俺を……。
俺は真っ赤になって、逃げるように紫ノくんの首元にかじりついた。
「えっと、それは、前向きに検討させていただきます」
「はい。よろしくお願いします」
「うん。会社員すると思う」
「俺、出版社に入社しようか迷ってるんだよね」
「出版社?」
紫ノくんが首を傾げる。俺は頷いた。
「迷宮の扉、あったでしょ」
「あったね」
「ああいう、児童文庫を扱ってる会社に入りたいんだ」
「良いんじゃない?」
「応援してくれる?」
紫ノくんは当たり前だと笑ってくれた。この夢は、まだ両親にだって話していない。ちゃんと真面目に学校に通って、単位を取って、そして卒業したら、出版社に入りたい。それが俺の夢だった。
「この家、手狭だから、就職と一緒に引っ越ししないとね」
「そうだね。貯金あるから、そこから出そ」
「貯金?」
「そう、俺一年生の時だけめちゃくちゃバリバリバイトしてたの。それで、時間もないから散財することもなくて、六十万くらい、貯金あるよ」
紫ノくんはびっくりしたような顔をする。六十万、大人にとったら大した金額じゃないのかもしれないけど、これは俺の努力の結晶だ。だから、ずっと大切にしておいた。
「僕も貯金あるから、引っ越し代は二人で折半ね」
「うん。そうしよ」
「どんな部屋にしようかな……」
「日当たりのいいところがいいな」
「洗濯物がよく乾くところがいいよね」
「あと、一階は嫌」
「確かに。後エレベーター付きがいいな」
俺たちはスマホを出すと、物件探しのサイトを見ては、あれやこれやと意見を出す。
まだ先の話だけど、こうして、“二人の未来”の話ができるのが幸せだった。
「え、でも、俺が出版社に就職したら、紫ノくんと同棲、できないんじゃない?」
俺が気づくと、紫ノくんは考えるような顔になった。
「日生くんの会社の近くの会社に就職するよ」
「え、そんな適当な理由で大丈夫なの。とんでもない会社だったらどうするの」
「株でもして稼ぐよ」
他の人間が言うと現実逃避にしか聞こえないが、紫ノくんが言うと本当に聞こえるんだから、不思議なものだ。
「そう言えば紫ノくんのお父さんとお母さんってなんの仕事だっけ」
「医者」
「医者か……」
まず最初に食いっぱぐれがなさそうだなと思ってしまうのは、庶民のサガだろう。
「医者には、最初からなる気無かったの?」
「まともに帰ってこれない親なんか見て、医者になろうとは思わないでしょ」
「あー……。紫ノくん、結構放置されてたもんね」
「産まなきゃ良かったのにね」
「紫ノくん」
俺が怒ったような声を出すと、紫ノくんは首を横に振った。
「ごめん、別に親を恨んでるとか、そう言うんじゃない。でもちゃんと愛情を注げないなら、もっと考えて子供は産むべきだって思っただけだよ」
「紫ノくんが生まれてきてくれたから、俺がいるんだよ」
「うん、大好きだよ、日生くん」
「俺も大好き、生まれてきてくれてありがとう、紫ノくん」
そして俺は、そう言えば、と思い出した。
「紫ノくんそろそろ誕生日だよね?」
「うん」
「何がいい? プレゼント、奮発するよ」
「……」
俺は期待に目を輝かせた。紫ノくんは物欲がないタイプの男だ。本が欲しいとでも言うのだろうか。何冊だって買ってあげよう。
「紫ノくんが欲しい」
「……え?」
「紫ノくんが欲しい。考えておいて」
「あ、……はい」
俺は、どう噛み砕けばいいかわからなかった。
俺が欲しい。つまり、俺を……。
俺は真っ赤になって、逃げるように紫ノくんの首元にかじりついた。
「えっと、それは、前向きに検討させていただきます」
「はい。よろしくお願いします」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
サークル合宿に飛び入り参加した犬系年下イケメン(実は高校生)になぜか執着されてる話【※更新お休み中/再開未定】
日向汐
BL
「来ちゃった」
「いやお前誰だよ」
一途な犬系イケメン高校生(+やたらイケメンなサークルメンバー)×無愛想平凡大学生のピュアなラブストーリー♡(に、なる予定)
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
♡やお気に入り登録、しおり挟んで追ってくださるのも、全部全部ありがとうございます…!すごく励みになります!! ( ߹ᯅ߹ )✨
おかげさまで、なんとか合宿編は終わりそうです。
次の目標は、教育実習・文化祭編までたどり着くこと…、、
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
総愛され書くのは初めてですが、全員キスまではする…予定です。
皆さんがどのキャラを気に入ってくださるか、ワクワクしながら書いてます😊
(教えてもらえたらテンション上がります)
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
⚠︎書きながら展開を考えていくので、途中で何度も加筆修正が入ると思います。
タイトルも仮ですし、不定期更新です。
下書きみたいなお話ですみません💦
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる