負け犬の俺と、アンドロイドの紫ノくん【改稿】

鷹の森

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第六章

第三話

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「俺たち、就職するでしょ? 紫ノくんは、どうしたいの? 会社員するの?」
「うん。会社員すると思う」
「俺、出版社に入社しようか迷ってるんだよね」
「出版社?」
 紫ノくんが首を傾げる。俺は頷いた。
「迷宮の扉、あったでしょ」
「あったね」
「ああいう、児童文庫を扱ってる会社に入りたいんだ」
「良いんじゃない?」
「応援してくれる?」
 紫ノくんは当たり前だと笑ってくれた。この夢は、まだ両親にだって話していない。ちゃんと真面目に学校に通って、単位を取って、そして卒業したら、出版社に入りたい。それが俺の夢だった。
「この家、手狭だから、就職と一緒に引っ越ししないとね」
「そうだね。貯金あるから、そこから出そ」
「貯金?」
「そう、俺一年生の時だけめちゃくちゃバリバリバイトしてたの。それで、時間もないから散財することもなくて、六十万くらい、貯金あるよ」
 紫ノくんはびっくりしたような顔をする。六十万、大人にとったら大した金額じゃないのかもしれないけど、これは俺の努力の結晶だ。だから、ずっと大切にしておいた。
「僕も貯金あるから、引っ越し代は二人で折半ね」
「うん。そうしよ」
「どんな部屋にしようかな……」
「日当たりのいいところがいいな」
「洗濯物がよく乾くところがいいよね」
「あと、一階は嫌」
「確かに。後エレベーター付きがいいな」
 俺たちはスマホを出すと、物件探しのサイトを見ては、あれやこれやと意見を出す。
 まだ先の話だけど、こうして、“二人の未来”の話ができるのが幸せだった。
「え、でも、俺が出版社に就職したら、紫ノくんと同棲、できないんじゃない?」
 俺が気づくと、紫ノくんは考えるような顔になった。
「日生くんの会社の近くの会社に就職するよ」
「え、そんな適当な理由で大丈夫なの。とんでもない会社だったらどうするの」
「株でもして稼ぐよ」
 他の人間が言うと現実逃避にしか聞こえないが、紫ノくんが言うと本当に聞こえるんだから、不思議なものだ。
「そう言えば紫ノくんのお父さんとお母さんってなんの仕事だっけ」
「医者」
「医者か……」
 まず最初に食いっぱぐれがなさそうだなと思ってしまうのは、庶民のサガだろう。
「医者には、最初からなる気無かったの?」
「まともに帰ってこれない親なんか見て、医者になろうとは思わないでしょ」
「あー……。紫ノくん、結構放置されてたもんね」
「産まなきゃ良かったのにね」
「紫ノくん」
 俺が怒ったような声を出すと、紫ノくんは首を横に振った。
「ごめん、別に親を恨んでるとか、そう言うんじゃない。でもちゃんと愛情を注げないなら、もっと考えて子供は産むべきだって思っただけだよ」
「紫ノくんが生まれてきてくれたから、俺がいるんだよ」
「うん、大好きだよ、日生くん」
「俺も大好き、生まれてきてくれてありがとう、紫ノくん」
 そして俺は、そう言えば、と思い出した。
「紫ノくんそろそろ誕生日だよね?」
「うん」
「何がいい? プレゼント、奮発するよ」
「……」
 俺は期待に目を輝かせた。紫ノくんは物欲がないタイプの男だ。本が欲しいとでも言うのだろうか。何冊だって買ってあげよう。
「紫ノくんが欲しい」
「……え?」
「紫ノくんが欲しい。考えておいて」
「あ、……はい」
 俺は、どう噛み砕けばいいかわからなかった。
 俺が欲しい。つまり、俺を……。
 俺は真っ赤になって、逃げるように紫ノくんの首元にかじりついた。
「えっと、それは、前向きに検討させていただきます」
「はい。よろしくお願いします」
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