魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第7章 魔法学院の授業風景編

授業⑥ チーム演習④ ルーシッドの魔法講座

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多くのチームが、登る方法について頭を悩ませる中、ルーシッド達のチームも話し合っていた。


「さて、どうやって登ろっか?ルビィは大丈夫だよね?」
キリエが尋ねる。
「1人でなら炎の翼ですぐだし、みんなで行くなら土の魔法で階段か坂道を作るけど?土の魔法はそこまで得意じゃないけど、このくらいなら多分大丈夫だと思うわ」

ルビアは緋色の魔力で、赤みの方がかなり強い。よって黄の魔力を単体で必要とする土の魔法はそこまで得意としていないのだ。しかし、今回の場合のように高位の妖精を使役する必要があるわけではなく、単純な魔力量が問題となるような場合に関しては、ルビアは圧倒的な魔力量を持っているゆえにそこまで問題にならないのだ。

「リカはどう?」
「うん、1人だったらマリーの力を借りれば空飛べるし大丈夫。ね?マリー?」
『あぁ、造作もないわ』
「私は1人じゃ無理かなー。飛行魔法は試したことないんだよね。じゃあ、ルビィ土の魔法で階段を作ってくれるかな?」
「わかったわ。んー、でもあの高さまで階段登るのちょっと億劫じゃない?ちょっとみんなこっちに集まって。試してみたいことがあるから」

ルビアに言われて、ルーシッド達は柱の横辺りに集まる。そこで、ルビアは土の魔法を唱えた。

"oPen the fiAry GATE.
(開け、妖精界の門)

GREAT sPi-riT oF the earTH, TERRA.
(地の大妖精、テラよ)

pLEAse L-END Me UR POW-ER."
(我に汝の力を貸し与えたまえ)


ルビアはすっかりルーシッドに教えられた魔法詠唱の短縮法をマスターしていた。元々詠唱技術やセンスはずば抜けたものがあるルビアは、少しの練習ですぐ使えるようになったのだった。

ルーシッド達の足元の地面がせり上がり、ルーシッド達を上に乗せたままエレベーターのようにどんどんと土の柱が形成されていく。そして、演習用の柱の横にちょうど同じ高さの土の柱がもう1本出来上がった。

「さ、着いたわ」
「はやっ、さすがルビィ!得意じゃなくてこれ?」
「しかも使役したのも高位の妖精のテラだしね」


「はい、キリエさんのチームもクリアですね~」


「おつかれさま~。さすがにルビィはすごいね~」
先にクリアしていたヘンリエッタのチームがルーシッドたちを出迎え、オリヴィアがねぎらう。
「ありがと。ヘンリエッタさんもすごかったですよ」
ルビアが答える。
「私のことはヘティーって呼んでちょうだい。それに敬語もやめてよね。年上だと誤解されちゃうわ」
「え?うそ、ヘティーって同い年だったの?年上かと思ってた~」
オリヴィアが白々しく言う。
「あなたねぇ…私が年上ならあなたも同い年なんだから、あなたも年上ってことよ?」
「えー、私はほら、どう見ても同い年じゃない?ねぇ?……あれー?」
みんなが微妙な顔で見ていたので、苦笑いをするオリヴィアだった。


「他のチームは大丈夫かなぁ?」
フェリカが他のチームが話し合っている様子を見て不安げにそう言った。
「うーん…ルビィみたく魔力が強いわけでもないし、ヘティーみたいに特殊な力があるわけでもないから、結構難しい課題かもね」
キリエはそう答えた。
「そっかぁ…ルーシィはどう思う?」
「BランクとかCランクだと、最大魔力量マキシマムマナが少ないから普通にやったら無理だと思う」
「やっぱりそっかぁ…」
「でも、工夫すれば全然いけるよ」
「え?本当に?」
「うん、別に難しい話じゃないよ。例えば、さっきルビィがやった魔法は、『土の生成と造形を同時に行う魔法』で、階位的には『中位魔法』だよ。だから魔法自体はCランクの魔法使いでも十分使うことができる魔法だよ。ルビィと同じようにみんなができないのは、階位の問題じゃなくて、単純に土を生成する量と、その生成した土を造形し続ける量が多くて、最大魔力量マキシマムマナでまかないきれないからだよ。だから、ちょっと工夫すれば、結果としてはルビィと同じような効果を出すことはできるよ」
「え、どうやって…」

「ルーシッドさん、そのやり方…私たちにも教えてもらえませんか?」

話に誰かが割って入ってきたので、ルーシッド達が振り向いた。
そこにいたのはシアン達のチームだった。

「すいません、ルーシッドさんがさっき土の魔法について話しているのを小耳に挟んだもので…」
「私が土の魔法使えるけど、魔力が足りなくて上までは届かないのよ~…」
ロイエがシアンに続けて話す。
「他のチームの魔法の力を借りることは禁止だけど、他のチームに相談することは禁止じゃないでしょ…だからルーシッドさんの力を借りれればと…」
「ルーシィでいいよ?」
「私のこともルビィでいいわよ」
「じゃあ、あたしのこともアンでいいわ。それで、ルーシィ。教えてくれない?どうすれば私たちにもあの柱を登れる?」
最大魔力量マキシマムマナってのは、『一度に連続して、あるいは同時に使用することができる魔力の量』だっていうのはOK?」
「えぇ、まぁ何となくは…」
「お、出ました!ルーシィ先生の魔法講座!」
フェリカがそう茶化すと、ルーシッドは恥ずかしそうに咳ばらいをして話を続ける。

ちなみにこの内容は学校の授業としては『魔法数学』で教えられるもので、普通の生徒はまだ教わっていない。魔法数学とは、魔法に使用する魔力量の算出などをする分野で、実際の魔法だけでなく、魔法具を作成する際に使用する魔力量計算などにも使用するため、ルーシッドがかなり得意とする分野でもあった。受験生たちに課されるペーパーテストで基本的な計算問題が出題されているのはそのためである。計算は日常生活で必要なだけでなく、魔法にとっても重要な要素なのである。

「魔法に必要な魔力の総量は、妖精に与えるためのお菓子に使用する食材分と、魔法を行使する際の触媒として使用する魔力量の合計によって決まるよね」
「へぇ、そうだったんだ」
ライム・グリエッタが反応する。
「うん、そのうちみんなも勉強して、テスト範囲にもなるけどね」
「うげぇ…」
ライムとフェリカが同じような反応をする。
「例えばロイエさん」
「ロイでいいわ」
「あ、うん。ロイは防御魔法『土の壁』は使うよね?」
「そうね。防御魔法では最もよく使うかしら」
「土の壁ってのは階位的には低位魔法~中位魔法に位置する魔法で、そこにある土を使って造形して壁を作る場合には低位魔法、土を生成して壁を作る場合には中位魔法になるよね」
「低位、中位ってのはあんまり考えたことないけど…」
「『階位』ってのは基本的に、妖精にあげるお菓子に必要な魔力量で決まるんだよ。土の造形魔法だと600マナだから低位魔法、生成造形魔法だと1800マナだから中位魔法だよ」
「え、ルーシィって全ての魔法に必要な魔力量覚えてるの?」
「んー、まぁだいたいは頭に入ってるよ」
「すごっ…」
「ロイはBランクだったよね?最大魔力量はどのくらい?」
「8500よ」
「色は山吹色だったね、ってことは比率は赤1:黄4かな?」
「えぇ、その通りよ…色の比率も覚えているの?」
「まぁ、だいたいは。だとすると、黄色の純粋な最大魔力量は5分の4で6800マナってことになるね」
「え、そうなの?」
「うん、混色の場合は別々に魔力を生成する場合は純度比率によって作れる量が減っちゃうから。それが混色だと、それぞれの魔法の行使力が減る原因だよ」
「知らなかったわ…」
「で、最大魔力量が6800マナってことは、土の生成造形魔法を発動すると、お菓子用の食材として1800マナ消費されるから、残りは5000マナだね。
この5000マナが土を生成する触媒と、土を造形して操作するためのエネルギーとして使われることになる。
例えば、あの柱と同じくらいの柱をもう1本作るってなると、土を生成する触媒だけで多分1万ちょっとくらいは必要になるね。それプラス、その土を円柱型に造形して、その形を維持するために魔力が必要だから…ルビィの最大魔力量くらいあれば1人でいけるけど、普通ならちょっと1人では無理だね」
「やっぱり無理なのね…」
「でも、さっきルーシィは工夫すればいけると言ってたよね?」
「うん、最大魔力量マキシマムマナは、一度に連続して使用できる魔力の量だよ。じゃあ、最大魔力量マキシマムマナが足りない場合にはどうすればいいと思う?」
「え~…あきらめるしかないんじゃ?」
「……そうか、わかったわ!ありがとう、ルーシィ!ロイ、ちょっと試してみたいの、みんなも一緒に来て!」
そう言うと、シアンは走り出した。
「え、ちょっと待って、アン!」
「頑張ってね~」
その背中を見送りながらルーシッドは手を振った。
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