魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第8章 地下迷宮探索編

地下迷宮探索⑥ 門番

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第2階層の攻略は順調に進んでいた。
第2階層は第1階層とは違い、全体が開けた感じの構造のため、一列になって進むのではなく、ぞろぞろと一群となって進んでいる感じだった。

最初の谷はジョンの働きにより、全員が無事に渡ることができた。ジョンが壁に沿って等間隔で鉄の棒を埋め込み、通路を作成したのだ。

2つ目の難所は、行く手を阻むようにそびえたつ崖だったが、これもジョンの魔法具によって、階段を作ることで難なく全員が登ることができた。

「ジョン、大活躍ね」
「あぁ、ジョンのお陰でだいぶ遅れを取り戻したな」
パーティーメンバーのリリアナとクリスティーンがジョンに賛辞を贈る。
「ははは、ありがとう。この前の演習では活躍できなかったからね。今回は良いところ見せようと思ってね。でもまぁ、すごいのは僕じゃなくて、この魔法具を作ったルーシィだと思うけどね」
「まぁそれは確かにすごいけど、でも、どんなに優れた魔法具でも使いこなせなければ意味がないわ。わずか数日で新しい魔法具を完璧に使いこなしているジョンもすごいわよ」
リリアナにそう言われ、少し照れたように笑うジョンだった。

「みなさん、そろそろ第3階層への階段が見えてくるはずです。第3階層に下るとそこが大きな広間になっているので、今日はそこで休みましょう」

リサがそう言うと、皆が了解の意を示し、口々に夜ご飯のことや寝具のことなどについて話し合う。


ルーシッド達が第3階層へと続く階段の前に到着すると、やはりと言っていいのか、階段は閉ざされていた。階段を覆うように床が形成されていたのだ。

「これは…封印の魔法陣ですかね?」

そして、床にはこの地下迷宮の入り口の扉と同じような魔法陣マジックサークルが描かれていた。

「入り口のものと酷似していますし、これはメチカさんが仕掛けたものでしょうか?」
「うぅーん、どうかしら…詳しいことは先生たちにも教えてくれなかったし…」
リサが首をかしげる。

「ねぇ……あれ、何かしら?」
ロイエがそう言って階段の奥を指差す。
「確かに何かあるわね?」
階段の奥には少しスペースがあり、そこには少しいびつな柱のよなものが見える。
「ルビィ、明かりを強くして照らしてみてくれない?」
「いいわよ」
シアンにそう言われて、ルビアは明かりに魔力を足して強くする。

「大きい…何かしら?ルビィ、明かりを上にお願い」

ルビアがうなずいて明かりを天井までゆっくりと持ち上げていく。

「これは……石像……?」

階段の奥にあったのは身長の3倍はあるかという巨大な石像だった。石像といっても造形がしっかりしたものではなく、基本的な体のパーツが備わっただけの、不格好ないわゆるゴーレムのような石像だった。


「リサ先生、これは前からあったものですか?」
「いえ…私は見たことがないわ」
「じゃあ、これもメチカさんが作ったもの?」
「どうかしら…今回のために仕掛けをいくつか用意したと言っていたし、そうなのかも知れないけど…」
シアンがリサに尋ねると、リサは首を傾げる。

「とりあえず動く気配はなさそうね?」
「何かきっかけがあれば作動するのかも知れないわね…そして、きっかけとして一番怪しいのは……」
全員が第3階層へ通じる階段を閉ざしている魔法陣マジックサークルを見る。

「簡単には通してくれなそうね…」
「でも、メチカさん、怪我をするような仕掛けは用意してないっていってなかった?」
「これも侵入者が仕掛けた罠という可能性も?」
「でも、こんな手の込んだ仕掛けするかしら…」
皆が口々に意見を述べるが結論は出ない。

「まぁ考えていても仕方ないわ…Nothing ventured, nothing gained.(虎穴に入らずんば虎子を得ず)
どの道この魔法陣マジックサークルを発動させるしかなさそうね」
シアンはため息をついてそう言う。
それに皆が同意する。

「でも、この魔法陣マジックサークル、何かちょっと入り口のと違うね?何だろ…何か模様が繋がってないような…」

「ねぇ…ルーシィ…あれって……」
「うん、間違いないね」
フェリカにそう言われて、ルーシッドはうなずいた。

ルーシッド達は、その魔法陣マジックサークルに見覚えがあった。
そう、その魔法陣マジックサークルは、リスヴェル・ブクレシュティが自身の地下研究室の扉の鍵として用いていたものと非常に酷似していた。

「じゃあ、例の侵入者って…脱獄したっていうリスヴェル博士?」
ルビアが小声でルーシッドに尋ねる。
「間違いないだろうね。まぁ第1階層の時から怪しいと思ってたけど。とりあえず、あの鍵は私が開けるよ」
ルーシッドはそう言うと、リサの方に歩いて行った。

「先生、この鍵は私が開けます。皆は念のため後ろに下がってください。物理防御魔法が張れる人は協力してお願いします」


防御魔法には主に、『物理防御』と『対抗防御』の2種類がある。

『物理防御』は主に物理的な攻撃から身を守るための壁などを形成する魔法で、ほとんどの物理防御魔法は『土属性魔法』である。『氷の魔法』や『鉄の魔法』でも同様の効果を発揮できるが、氷の魔法は『水と闇の合成魔法』のため、単体で発動できる人はそう多くはない。
『鉄の魔法』も『土と火の合成魔法』ある。しかしオレンジ系統の魔力自体は比較的多い。魔法によって生み出せる物質の中で現在最も強度が高いものの1つ、鉄の魔法を防御魔法として使う人が少ないのは、鉄の魔法が高位魔法であり、魔力消費が激しく、防御壁を作ることに向いていないからだ。鉄の魔法はもっぱら盾などの防具として用いられる。

発動が速く、食材のマナ消費も少なくてすむ『砂の魔法』を用いた防御壁は、その形状を維持するために魔力を消費し続けなければらならい。一方で、『石の魔法』は造形してしまえば形状を維持する必要はない。しかし、その分食材のマナ消費は多い。
イニシャルコストを取るかランニングコストを取るか、一長一短である。魔力生成速度ジェネレイトスピードが速い人は『石の魔法』の方が良いだろう。魔力生成速度ジェネレイトスピードはそこまで高くないが最大魔力量マキシマムマナが高い人は『砂の魔法』の方が良いと思われる。

一方で『対抗防御』とは、その属性魔法にのみ効果がある防御魔法のことである。有名どころで言えば、火の魔法を水の魔法で相殺するなどである。これは、相手の属性がわかっている場合、例えば純色の魔法使いを相手にする場合などはかなり有効だが、混色の場合は相手が何の魔法を出してくるかを詠唱から瞬時に判断しなければならないためかなり難しいと言える。


リサはルーシッドに「大丈夫か?」とは聞かなかった。ルーシッドは強い。かつて『希代の天才魔法使い』と謳われた自分ですら、恐らく全く太刀打ちできないほどに。先生として情けないとも思ったが、ルーシッドに任せて皆に後ろに下がるように指示を出す。
ロイエ・ネイプルスを初めとする防御魔法が得意な生徒を中心に防御魔法を展開してルーシッドに合図を送る。

その合図を受けて静かにうなずくルーシッド。
「エアリー、術式展開の準備しておいてね」
「はい、いつでもOKです」

ルーシッドは魔法陣マジックサークルに手を合わせ、以前と同じように同心円を回してその模様をパズルのように合わせていく。今回のは前回のよりもパーツが少ない。作る時間がなかったのか、それとも解かせることを前提で作っているのか。どちらにしろこれは、自分に対してのメッセージのように思えた。この前の鍵を解いたのは自分だと、リスヴェルに直接言ったわけでないが、頭の良いリスヴェルなら勘づいているのだろう。

一度解いたお前ならすぐに解けるだろう?
この先で待っているぞ

そう言われているような気がした。

ルーシッドがいとも簡単に魔法陣マジックサークルを完成させると、中心の魔法石から魔力が流れる。
普通ならこれで扉が開くのだが扉は開かなかった。

ゴゴゴゴ…

と石と石がこすれるような音がして、後ろにたたずんでいた石像が動き出す。

「まぁ、やっぱりそうなるよね。むしろあれが鍵なのかな。あれを壊さないと扉が開かないとか?」

ルーシッドは冷静に、誰に言うともなくそうつぶやく。

「みんな!しっかり防御壁から体を出さないようにしててね!破片飛び散ったりしたら危険だからね!」

ルーシッドがそう叫ぶ。

「わぁ…あれを1人でぶっ壊す気なんだ」
「ルーシィなら普通にやりかねないわね」
フェリカとルビアが乾いた笑いをしてそう言った。
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