ヒーローマイナスH=

遠海 流

文字の大きさ
63 / 146

隣の席の不良少女

しおりを挟む
 転校してからというもの、1人でいる時間が限りなくゼロになった。常にななみの周りには人が集まり、あれやこれやと質問攻めにしてくる。授業と授業の間の10分休みくらい息をつかせてほしいのだが、クラスメイトがそれを許さなかった。
 女子生徒が話しかけてくるのは、単なる興味からなのでまだいい。問題は男子生徒のほうだ。ななみとなんとかして親密になろうと、過剰なアピールをしてくるものだから堪らない。ご自慢の一発ギャグで笑いを取ろうとして空気を凍らせたり、自然なふうを装ってボディタッチをしてきたりと、常に衛星のようにななみの周りをくるくると回っていた。
 あまりに鬱陶しく感じた時は、体調不良のふりをしてやり過ごすことにしていた。それでもななみを気遣うという体で話しかけてくるので、もう防ぎようがない。どうにか1人になる方法はないだろうか。
 「次移動教室だよ。ななみちゃん、一緒に行こ」と、1人の女子生徒が腕を掴んできた。移動とはいっても、一つ上の階に行くだけだ。時間にして1分もかからないのだから、1人で行けばいいのに。
 しかしそんな心の声はおくびにも出さず、笑顔で腕を組んでやった。
 移動先の教室には、まだほとんど人がいなかった。授業開始まで残り3分だというのに、みんな悠長なものだ。ななみは自分の席に腰を下ろして、教科書を机に広げた。通常の教室で行われる授業とは座席の配置が異なっており、ななみの席は廊下側の一番後ろだった。全体を俯瞰できるこの位置は、生徒からも人気が高い。そのぶん教壇からも見えやすく、サボっていればすぐにばれてしまうリスクも高い席だ。もちろんななみは授業を真面目に受けるタイプの生徒なので、教師から怒られたことなど一度もない。
 ふと隣を見ると、すでに着席している生徒が1人。前かがみになって、何かを読んでいた。予習をしているのだろうかと思ったが、どうやら読んでいるのは教科書ではなかった。教壇側から見えないように教科書を壁にしているが、その内側には漫画がセットされていた。教科書よりも一回り以上小さいサイズなので、うまく隠れている。
 学校への漫画の持ち込みは禁じられているのに、随分と大胆なことをするものだ。まだ話したこともない女子生徒だったが、ななみは素行不良の少女に興味を抱いた。
 話しかけてみようかと顔を覗き込み、ななみはビクッとした。漫画のコマを追うその目つきはあまりに鋭く、気安く声をかけられる雰囲気ではなかった。
 結局読書の邪魔をすることが出来ず、授業開始1分前になった。ようやく生徒たちがぞろぞろと入ってきて、教室は満席になる。チャイムが鳴り、教師が黒板にチョークを走らせ始めてもなお、隣の席の生徒は難しい顔で漫画を読んでいた。
 一体なにが彼女をそこまで熱中させるのだろう。
 ななみの意識は完全に削がれ、その日の授業はまったく頭に入らなかった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

処理中です...