変態が紳士~憧れの堅物団長から「罵ってくれ」と迫られています〜

水瀬かずか

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独白2

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 そう、あの事はよく覚えている。若い魔術騎士団の青年たちが、こんなくだらないことにかり出されたと、馬鹿にしたように笑っていたのだ。これからの生活をどう立て直せば良いかと泣いている者達がいる前で。
 倉庫が壊れて、田畑が荒れ果て、今年の収入は見込めない。来年の生活は今年の収入があってこそだ。この被害を取り戻すのに数年が掛かる、それまでの生活が厳しくなるのは必至だ。そんな、彼らの前で。

 あの時私たちは、確かに、このくらいですんでよかったという安堵と感謝の気持ちで討伐から帰ってきた彼らを迎えた。
 なのに、感謝と歓迎を込めて集まった私たちの前で、魔術騎士団の青年達は談笑していたのだ。
 この程度の被害ですんだのなら、これほどの戦力は必要ないだとか、半分の戦力でも、町も外れの家が巻き込まれる程度ですんだだろうし、人的被害もほぼ抑えられる、市街地までは被害が至らない程度で済むし効率もいいのではないか、などと笑いながら話していた。被害を少なく済ませることよりも、自分たちの効率を優先した内容だった。

 感謝はしている。だからといって目の前で被害を軽んじられるのはあまりにも酷だ。お前達がもっと苦しんだところで問題ないと、お前たちの価値はないと言われたも同然なのだ。
 私はそれが許せずに抗議をした。
 町の外れならば飛竜の被害に遭ってもいいというのが魔術騎士団の考えなのかと。

 事実、そうなのだろうということはわかっていた。王都に住む人たちからすると、他人事なのだ。
「この程度で済んでよかった」それは被害を受けた私たちも含め、共通認識だ。だからといって「あともうちょっと被害が大きくても問題なかった」と聞こえよがしに言われるのは、全くの別問題だ。
 人は自分と無関係な出来事と向き合ったとき、思ったより被害が少ないと「たった◯人の被害ですんだのか、運がよかった」と、安易に言う。
 遠く離れた地域のことなど、ほとんどの人間にとってそういう物だ。そう感じる心を責めるのは酷という物だ。未知のことは想像がつかない。未知でなくても遠い出来事にまで心割いていては生きてゆけない。
 だが、あくまでそれは「遠くの出来事であれば」だ。
 私は声を張り上げた。

「その傷ついた者達の目の前でそれを言うのは、本当に正義なのですか。今年の収益が見込めなくなって、これからの生活に歯を食いしばって生きなければならない人たちの前で、それを聞こえよがしに言うのが栄えある魔術騎士団の考えなのですか」

 そう、私は問うた。
 私の言葉を暴言として罪に問うのなら罪に問えばいい。罰を与えるというのならば与えればいい。そんな正義などくそ食らえだ。私の怒りを罪に問うようならば、この魔術騎士団の正当性は偽物なのだ。こんな人間達を、絶対に尊敬なんかしない。

 ……と、十一歳の私は、栄えある魔術騎士団に食ってかかったのだ。いや、食ってかかるような性格ではなかったので、抑えきれない怒りを抱えながら、朗々と声をはり上げて問いかけた。
 魔術騎士団の和気藹々とした雰囲気が一瞬で消えた。
 殴られても殺されても、絶対に引くもんかと思って、彼らを睨め付けた。
 倉庫を壊されたおばさんが私を止めようとしたけれど、それを抑えて言い放ったのだ。
 それが、あの日の出来事である。

 事のあらましを一言で言うと、子供の正義感は真っ直ぐで怖いね、という話である。
 現実問題として、私のやったあれは無謀というものだ。もちろん無謀とわかっていてやっていた。罪に問われることも想定していた。でも、考えは全く足りていなかった。
 子供だった私は目先のことしか見えていなかった。自分のした訴えを自分だけの問題としか捉えていなかった。

 もしあれで不興を買って、今後の領地での討伐に影響があればどうなっていたのか。魔術騎士団ともなれば、多少のことは私情で融通を利かせられる。それだけの力がある。
 いざというとき「あの町では不愉快なことがあったから、後回しで良い」そういうことが起こりうるということだ。
 私の放った言葉は、私だけの問題ではすまない可能性があった。

 あの状況だ。魔術騎士団が勢揃いし、それを歓迎する町の者達の前であんなことを言えば、騎士団を侮辱したと取られたとしてもおかしくはなかった。私一人の問題ではすまない可能性があったのだ。
 君の言うとおりだと受け止めてくれる者がどれだけいるだろう。子供の戯れ言と笑って無視する相手ですら運がいい。しかしそうでない身勝手で愚かな大人は、嫌になるほど多くいる。人は簡単に私情で動く。上の人間の小さな怒り一つで、ちょっとした采配を遅らせるだけで、領地に大きな損害を与えられる。それを鼻で笑って行う者が存在する。今の私は、それをよく知っている。
 あの時、私は自分一人の正義感で、多くの領民を危険にさらしたのだ。

 思い出すのも辛すぎる黒歴史なのだ。
 実際のところあの日の出来事は、利発なお嬢さんだと笑って許された。当時の団長は団員達の軽率な言葉をわびてくれ、これから団内でも意識を徹底していくとまで約束してくれた。それは最高の結果になったと言っていい。
 けれど、アレは運がよかっただけだ。今の団長もだけれど、先代の団長も恐らく義に厚い人だった。大局を見ているが、人の心も重んじてくれる方だったのだと思う。けれど、それはそれ。
 本当に、食ってかかった相手が誠実な人であっただけなのだ。
 無鉄砲で、無知で、正義感振りかざしていて「死んででも」なんて、命を軽々しく考える、いかにも子供らしい、忘れてしまいたいほどの黒歴史である。



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